2025/08/26 Tue 粘液が擦れて泡立つ音と、軋むベッドが奏でる音と。 背後から揺さぶられている操の背が、きらめく汗を滲ませながらしなやかにのたうっている。そこには甲洋がつけた赤い印が幾つも刻まれ、首筋にはうっすらと歯型まで浮き上がっていた。 「あっ、あぅ、ァッ、そこや、もうイヤ……っ、ぁ、だめぇ……ッ!」 赤く色づいた指先でシーツを掻き乱し、操は女の子のように嬌声をあげていた。 怒張する甲洋の陽物を深く咥え込んだ孔は、たっぷりと馴染ませたローションに濡れてぽってりとバラ色の膨らみを帯びている。 執拗に抽挿を繰り返しながら、甲洋は操の背に折り重なるようにしてその耳元に唇を寄せた。 「なにがダメ? 来主、またイクの?」 吐息のような囁きに、操の肌がまたいっそう赤みを増して粟立った。彼はひどく泣きながら、かろうじてコクコクと首を上下に振って見せる。 すでに何度も吐き出しているはずの濃桃の屹立が、揺さぶられる動きに合わせて瑞々しく跳ねていた。健気な膨らみを帯びた先端からは絶え間なく蜜が零れ落ちている。 「イッ、く! イクのッ! きもぢぃ、ァッ、きちゃう、あぁっ、やだぁ……ッ」 痙攣したようにひくつく熱い肉壺に締めつけられて、甲洋もまた全身に汗を滲ませながらもふっと笑った。 「これで何回目? 来主、分かる?」 しわくちゃになったシーツの谷間に、膨らんだコンドームが口を縛られて3つも転がっていた。それがすでに長い時間この行為が繰り返されていることを物語っている。 前立腺と、その少し先にある場所。操がひどく乱れてしまうポイントを雁首で擦り上げてやるだけで、彼は何度も潮を噴いては面白いほどあっけなく果てていた。今ではイキすぎて、もう境目が分からなくなっている。 そうと知りながら、わざと「ねぇ、何回目?」と再び耳元に問いかけてやった。 「わか、ないっ! もうわがんないぃ……ヒッ、や、やら、やめ、そこゴリゴリしないでっ、もうイヤッ、イグのやらっ、怖いのやらぁ……ッ!」 「ダメ。まだ終わらない」 操が嫌々と首を振る。嫌だ嫌だと繰り返し叫んで、ぽろぽろと涙を流している。それでも甲洋がやめないのは、自分の欲望を満たしたいがためだけではなかった。 幾度となく身体を重ねてきて、甲洋はいっそ哀れなほど泣き喚く操に興奮する自分をハッキリと自覚しているし、操もまた、こうしてひどく苛められることに悦びを覚えている。 表面上は素直に認めようとしないけれど、操が本当に気持ちがいいときの「イヤ」と、そうでないときの「イヤ」を、甲洋はすでに熟知していた。 甲洋はその細腰を両手で掴みあげると、肌同士がぶつかり合って音を立てるほど激しく腰を前後させた。弱い場所を強くノックしてやるたびに、操の屹立から壊れたポンプのように薄い体液が押しだされる。 「ひいぃっ! いっ、いっく、またイッ、ァッ、あ゛ぁ――……っ!!」 操の背がぐんと大きく反り返る。派手に身を震わせた割に、真っ赤な陰茎からはじわりと蜜が滲みだしているだけだった。 甲洋は絶頂の最中で身を震わせる操の二の腕をそれぞれ掴むと、馬の手綱を引くようにぐいと強く引き上げた。思い切り背を反らせ、胸を突き出す形を取らせると、そのままさらに抽挿を続行する。 「ッ、ぁ、ヒッ!? まっ、待って! イッってる! いまイッてるのっ、まっ……~~ッ!!」 「俺はまだイッてないよ、来主」 「ッ──!?」 極致の波から戻れずにいる操の身体を、休むことなく突き上げた。膝だけで体重を支えている身体は今にも崩れ落ちそうで、けれど掴み上げている二の腕を軸に反動をつけながら激しく揺さぶる。 「~~ッ、ひい゛ぃ゛ッ! あ゛ッ、ぁ──ッ!!」 操は喉を枯らしながら悲鳴を上げて、ガクガクと痙攣を繰り返していた。 反り返る艶めかしい背中を堪能しながら、正面からもこの光景を見ることができればいいのにと口惜しい気持ちになる。さんざん苛められて赤く腫れた乳首を、ぐんと突き出しながら揺さぶられる姿を、後ろからでは目に捉えることができない。いっそのことカメラでも設置してしまおうかと、快楽に浮かされながら本気で考えてしまう。 「おね、が、ッ、もう、っ、ズンズンしないでぇ……! もうやッ、おちんぽいらない、バカになっぢゃうぅ……ッ!!」 「ッ、来主……はっ、ぁ……っ」 いい加減、甲洋も限界が近かった。すでにゴムを3つも消費するほど出しているくせに、操とするセックスは──操しか知らないのだけれど──本当に頭がバカになってしまいそうなくらい気持ちがいい。愛しさに比例して快感が膨れ上がって、破裂してしまいそうなほど。 だけど上り詰めてしまう前に、どうしても確かめておきたいことがあった。 「来主、さっきの、答え」 「ッ、? へ、ぁ……っ?」 「まだ、聞いてない」 操が無理な姿勢で首をひねる。真っ赤な顔は涙と唾液でぐちゃぐちゃになっていた。なにかを問いかけたところで、まともに答えられる状態ではない。けれどまだハッキリさせていないことがあって、いつもより執拗に苛め抜いてしまったのは、それが原因であったりもする。 「店、もう行かないって。ちゃんと言って。じゃなきゃずっと終わらない」 「いっ、今!? そんなっ、アッ、ひんっ、や、ああぁ……っ!」 「来主」 夕時に喫茶店で交わした話は、操が笑いだしたせいで結局ハッキリとしたオチはつかなかった。彼がちゃんと首を縦に振るまでは、納得ができない。 こんなときにいやらしいなと、自分でもそう思う。だけど操が慣れているなんて言うから。他の男に触られて、なんとも感じないなんて。 分かっている。彼はセックスを生業にしていた。数え切れないくらいたくさんの男と身体を重ねてきた。けれど今は違う。触れていいのも、許されているのも、この自分だけのはずだった。 「腰も、お尻も……他は? どこを触られた?」 「って、な……どこも、ほか、どこも……あぅ、アッ、ぁ゛……ッ!」 「嘘」 「か、肩! 肩、抱かれ、た!」 掴み上げた両腕と、自らが打ちつける腰の動きとで、いっそう激しく反動をつけながら弱みを擦って突き上げる。パン、パン、と肉同士がぶつかり合うたび、操の柔らかな尻たぶがぷるりと震えた。 「ぅあッ、ひ、ひぎッ、ぃ!」 「他の男なんかにさ……なんで許したりなんかするんだよ……っ」 「やぁ、あぅ、ッ、ぅあ゛……ッ、ごめ、なざ……っ、ごめ……ッ」 舌を噛みそうなほど揺さぶられながら、操が絶えず痙攣を繰り返す。彼は小さくイキ続けていて、幼子のような陰茎から断続的に潮を撒き散らしている。 うわ言のように「ごめんなさい」を繰り返す様が憐れで、けれど同時に異常なまでの興奮に目が眩む。酷いことをして追いつめているのだと、そう思うほどに甲洋の血が湧き躍り、いっそ恐ろしいほどの陶酔感がもたらされた。 「やめ、へ……っ、も、らめ、ぇ……」 「来主」 「か、った、から」 「聞こえない」 「わかっ、た、わかった、から! やめる、から……やめるからぁ……っ」 「もう誰にも触らせないって、約束できる?」 ガクガクと、操が頷く。 「……いい子だ」 口元に緩く笑みを浮かべ、動きを止めて二の腕を開放する。 骨が抜き取られたようになっている身体をしっかりと抱きしめながら、そのまま折り重なるように身体を倒していった。操はもう膝も立たなくなっていて、ぐったりとうつ伏せの状態でシーツに沈み込んでしまう。 楽な姿勢になったことで、彼は一瞬ホッと息をついた。 けれどベッドと甲洋によって完全にサンドされている状態で、この体位には逃げ場がない。操の中にある甲洋は、まだ達しておらず張り詰めたままだ。 「ま、待ってこうよ……まだ……?」 「もうすぐ終わるよ、あと一回、俺がイッたら」 「や……これ、イヤ……」 「無理させてごめん。来主は寝てるだけでいいよ」 「や、や……これ、深いぃ……っ」 操の背には甲洋の体重がすべてかかっている。その重みで中の肉茎がより深い場所まで挿入されていた。甲洋は両手を操の身体の両脇につき、腕をピンと伸ばすことで上半身だけを浮き上がらせる。それによって、さらに重心が甲洋を受け入れている場所に集中してしまう。 「ヒッ、ひあ、ぁっ、だめ、これダメ……っ! 寝バックやだぁ!」 操はシーツを掻きむしって逃れようとするが、すっかり腰が抜けているせいで脱出は叶わない。甲洋がじわじわと腰を上下に動かしはじめると、身体をビクビクと勢いよく跳ねさせた。 ピンと足が伸びているせいで、ただでさえキツい孔がさらにぎゅっと肉棒を締めつけてくる。熱く蕩けた内壁に擦れて、目眩がするほど気持ちがよかった。 「くる、す……いい、気持ちいい……っ」 「や、あぁッ、は……っ、甲洋ダメ! 怖いっ、きもちいのっ、そこ、そんなにしたらっ、ヒァ、ぁ、あ゛――ッ、あ──……っ!」 さっきのような激しいピストンはできないが、角度的にたやすく弱い場所を狙って穿つことができてしまう。どすん、どすん、と押し潰すように攻め立てると、操は口から唾液をだらだらと零しながら身も世もなく喘ぎを漏らした。 「ぁ゛うぅ、も、ひゃらぁ……っ、きちゃうの……深いのきぢゃう……っ、もうダメなのにっ、イギたくないのにっ、おっきいのぎぢゃうぅ……ッ!!」 「俺も……俺も、来主……っ」 陸に打ち上げられた魚のように、操が激しく震える。 甲洋もまた目の前に星が瞬くのを見つめ、腰をブルリと震わせながら4つ目のゴムの中に精を放った。そのまま操の上にぐったりと身を沈め、野獣のように荒々しい呼吸を繰り返す。 「ぁ……、ぁぅ……ぁ──、ァ、ぁ──……」 操は断続的に痙攣を繰り返しながら、未だにか細い声を上げ続けている。シーツに片頬を埋め、焦点の合っていない瞳を虚ろに彷徨わせていた。 ああ、本当に可愛い。可愛くて可愛くて、愛しくてどうしようもない。 「来主、好きだよ」 ぐったりした身体をきつく抱きしめ、甲洋は汗ばむ項に吸いついた。 多分きっと、本当にバカになってしまったのだと思う。自分でも怖いくらい、この子が好きだ。止めどなく溢れて、止まらない。 「ごめん、来主……」 空虚な瞳のまま戻ってこられないでいる操の名前を呼びながら、まだもう少しだけ、長い夜は続きそうだった。 * 「君、最近ちょっと調子に乗りすぎ」 昼過ぎになってようやく遅すぎる朝食をとっている最中、先にあらかた食べ終えた操がむぅっと眉間にシワを寄せながら、そんなことを言いだした。 さんざん泣きわめいたせいで、声が少し枯れている。 つけっぱなしのテレビでは、昼の情報番組が最新の流行ファッションを取り上げているが、洋服が好きなはずの彼は目もくれないで甲洋を睨みつけていた。 「なに? 急に」 少し遅れてトーストと目玉焼きを平らげた甲洋は、内心ギクリとしながらも目を瞬かせた。 「しらばっくれてさ。終わりって言ったのにぜんぜんやめてくれないし! 嘘つき!」 「あー……」 やっぱりそのことで怒っていたかと、思わず目を逸してしまう。 操が言う通り、あのあと行為は朝方まで続いて、ゴムは全部で5つも消費することになってしまった。操は昼近くになってようやく意識を取り戻したが、腰が立たずにシャワーを浴びるにも四苦八苦していた。 いつものことではあるけれど、一度スイッチが入ってしまうと際限なく求めてしまう自分に、なかなか歯止めをかけられない。 それもこれも操が可愛いからいけないのだ──なんて、心の中で責任を押しつけながらも、甲洋は素直に「ごめん」と謝罪した。 「ぜんぜん心がこもってない! 顔ニヤけてるじゃん! エッチ! 性欲オバケ!!」 「ごめんって。ほら、あーん」 キーキーと顔を赤くして怒る操の口元に、自分の皿に残っていた赤ウィンナーをフォークに刺して運んでやった。すると操は条件反射のように「あーん」と口を開け、ウィンナーをパクンと口内に収めてしまう。 「ん~、おいし~」 「それはよかった。もうひとつ食べる?」 「食べる! ……じゃないよ! おれ怒ってるんだけど!?」 甲洋は耐えきれず肩を震わせながら笑ってしまった。操は赤い頬をリスのように膨らませ、さらにヘソを曲げてしまう。 「甲洋、最近ぜんぜん可愛くない! 最初はずーっとペコペコして可愛かったのにさ!」 「ペコペコはしてないだろ……」 「してましたー!」 ふんっと鼻から大きな息を吐いて、操は腕を組むとそっぽを向いた。けれどすぐにまた甲洋を睨みつけ、驚くべきことを口にした。 「しばらくはエッチしない!」 「……え?」 「君がちゃんと反省するまで、しばらくエッチはしないから!」 「ごめん、ちょっとなに言ってるか分かんないんだけど」 「エ ッ チ は 禁 止 !!」 ガンッ、と、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。 エッチ禁止。つまり、セックス禁止。 「そ、おま……それは、お前、そっ……ど、どう、なん」 「動揺しすぎ」 「来主……あの、来主さん」 「今さらしおらしくなってもダメだね。おれがいいって言うまで、絶対に手出しして来ないでよ」 操はフォークを持った手を伸ばし、呆然とする甲洋の皿から最後の赤ウィンナーをブスリと刺すと口に放り込む。そして頬をもぐもぐと動かしながら、またプイッとそっぽを向いてしまった。 * (ちょっと言い過ぎだったかな……) 夜。 甲洋が仕事に出かけたあと、操はテレビの前で胡座をかきながら、ひたすら対戦型の格闘ゲームをプレイしていた。 視線は画面に釘付けだが、まったく集中できていない。NPCにトドメの必殺技を食らったところで、いったんコントローラーを投げだした。 「はぁー、ぜんぜんダメ」 さっきからずっと、しょんぼりとした出掛けの甲洋が頭から離れない。 「まさかあんなに落ち込んじゃうなんて……」 スケベだなぁとは思っていたが、あれほど消沈するとは思ってもみなかった。 あのあと、甲洋は見るからに元気を失くしていた。夕飯も食べずにフラフラと仕事に出かけてしまったし、外出時の必須アイテムであるぐるぐる眼鏡が、心なしかズレてしまっていたのは気のせいだろうか。 (だってほんとに可愛くないんだもん。最近の甲洋) 最初はいちいち遠慮して、なにかというと「ごめん」が口癖だった。セックスをした翌朝は必ず床に正座しながら、この世の終わりのような顔をして頭を下げていたものだ。 操はそんな甲洋を見るのが好きだった。まるで叱られた大型犬のようで、自分より年上で身体も大きいくせに、どうしてかそれが可愛くて。 なのに今では童貞だった頃の初々しさはどこへやら、随分ふてぶてしくなってしまった。しかも口うるさいと来たものだ。一人で暮らしていた頃は好き勝手にできていたことが、甲洋と暮らしはじめてからはままならないことが多くなっている。 セクハラを軽くスルーするだけで毎日おいしいケーキにありつけていたのに、バイトだって辞めることを了承させられてしまった。だけど──。 「好きなんだけどさ、そういうとこ……」 それが操の本音でもある。 甲洋のことを好きになったキッカケは、他人の顔なんか全く気にしたことのなかった自分が、初めて「カッコいい」と思ったからだ。 あの顔に優しく微笑まれながら見つめられると、なんだかお尻のあたりがモゾモゾとして、落ち着かない気分にさせられる。 鍵を失くして困っているところに声をかけてくれて、色々と親切にしてくれて。いいなと思っていた人が、自分のファンだったと知ったときは本当に嬉しかった。 だからついついあんな特大ファンサービスをして、彼の童貞を奪ってしまったわけだが。 だけど本当に惹かれてしまったのは、甲洋の隠された二面性だった。 AVの仕事をしていたころ、操は甘やかされることに慣れきっていた。 自分がNGを出せば絶対にその通りになっていたし、その場で台本が丸々書き換えられるなんてことも、平然と繰り返されていた。すべてが操中心に回っていて、叱られるとか、注意されるなんてことも決してない。 ペコペコと気を使ってくる周りの大人達に、まるで王様にでもなった気分で好き勝手に振る舞うことが許されていた。 だから初めて甲洋とセックスをしたあの夜。 主導権を奪われた操は最初こそ本当に腹がたったけれど、正直とても気持ちがよかったのだ。嫌だと言っても聞いてもらえない。ダメだと言っても奪われる。あんなセックスは初めてで、自分でも驚くほど癖になってしまった。 だから当然、昨日の夜だって気持ちがよすぎて本当に死んでしまうかと思った。 (すごかったな、昨日は特に……) 今でも感じすぎると怖くなる。それは変わらない。だけど今は理性が飛ぶくらい快楽に飲まれる瞬間を、どこかで切望している自分がいる。 だいぶ悔しい気もするけれど、普段の優しい彼からは想像もできない抱き潰すようなセックスが、たまらなく好きで仕方ない。 (あ、やば……思いだしちゃった……) 昨夜の行為を思いだし、操は顔を赤らめると身体を丸めて体育座りをした。 こうして夜に一人でいると、甲洋とのセックスを思いだしておかしな気分になってしまうことが、度々ある。自分で慰めるのはなんだか癪で、他に意識を向けたくてつい朝方までゲームをして遊んでしまうのだ。 「甲洋のせいなんだからぁ……」 立てた両膝に顔を埋めて、ここにはいない男をなじる。 あんなに泣かされるくらい沢山したのに、次の日にはもう欲しくなっているなんて。知らなかった。こんな疼きも、恋をすることも。甲洋はきっと知らないだろうが、操にとってこれは初めての恋だった。 小言を言われるのだって、束縛されるのだって、鬱陶しいと感じながらも本当は嫌じゃない。甲洋は心から心配してくれるし、歳上の男が見せる子供っぽい独占欲が心地よかった。 だからわざと反抗的な態度をとったり、不安にさせるようなことをしてしまう。操は天の邪鬼なのだ。 「どうせすぐに我慢できなくなるんだろうな、甲洋」 だってすごくスケベだし。きっとすぐに謝り倒してくるに違いない。大型犬みたいに項垂れて、可愛く「ごめん」と頭を下げてくる。 そうしたら、今度は自分が思いっきり苛めてやろう。初めてしたときのように、臆病なくせに獰猛な犬を、厳しく躾けて服従させるみたいに。 そのあとに待っているのは、きっと手痛い反撃だ。そうなることくらい分かっている。分かっているから、期待がいっそう膨らんでしまう。 (甲洋のスケベが、おれにも移っちゃったみたい!) 操は赤い頬でふふっと笑い、転がっているコントローラーに再び手を伸ばした。 ←戻る ・ 次へ→
背後から揺さぶられている操の背が、きらめく汗を滲ませながらしなやかにのたうっている。そこには甲洋がつけた赤い印が幾つも刻まれ、首筋にはうっすらと歯型まで浮き上がっていた。
「あっ、あぅ、ァッ、そこや、もうイヤ……っ、ぁ、だめぇ……ッ!」
赤く色づいた指先でシーツを掻き乱し、操は女の子のように嬌声をあげていた。
怒張する甲洋の陽物を深く咥え込んだ孔は、たっぷりと馴染ませたローションに濡れてぽってりとバラ色の膨らみを帯びている。
執拗に抽挿を繰り返しながら、甲洋は操の背に折り重なるようにしてその耳元に唇を寄せた。
「なにがダメ? 来主、またイクの?」
吐息のような囁きに、操の肌がまたいっそう赤みを増して粟立った。彼はひどく泣きながら、かろうじてコクコクと首を上下に振って見せる。
すでに何度も吐き出しているはずの濃桃の屹立が、揺さぶられる動きに合わせて瑞々しく跳ねていた。健気な膨らみを帯びた先端からは絶え間なく蜜が零れ落ちている。
「イッ、く! イクのッ! きもぢぃ、ァッ、きちゃう、あぁっ、やだぁ……ッ」
痙攣したようにひくつく熱い肉壺に締めつけられて、甲洋もまた全身に汗を滲ませながらもふっと笑った。
「これで何回目? 来主、分かる?」
しわくちゃになったシーツの谷間に、膨らんだコンドームが口を縛られて3つも転がっていた。それがすでに長い時間この行為が繰り返されていることを物語っている。
前立腺と、その少し先にある場所。操がひどく乱れてしまうポイントを雁首で擦り上げてやるだけで、彼は何度も潮を噴いては面白いほどあっけなく果てていた。今ではイキすぎて、もう境目が分からなくなっている。
そうと知りながら、わざと「ねぇ、何回目?」と再び耳元に問いかけてやった。
「わか、ないっ! もうわがんないぃ……ヒッ、や、やら、やめ、そこゴリゴリしないでっ、もうイヤッ、イグのやらっ、怖いのやらぁ……ッ!」
「ダメ。まだ終わらない」
操が嫌々と首を振る。嫌だ嫌だと繰り返し叫んで、ぽろぽろと涙を流している。それでも甲洋がやめないのは、自分の欲望を満たしたいがためだけではなかった。
幾度となく身体を重ねてきて、甲洋はいっそ哀れなほど泣き喚く操に興奮する自分をハッキリと自覚しているし、操もまた、こうしてひどく苛められることに悦びを覚えている。
表面上は素直に認めようとしないけれど、操が本当に気持ちがいいときの「イヤ」と、そうでないときの「イヤ」を、甲洋はすでに熟知していた。
甲洋はその細腰を両手で掴みあげると、肌同士がぶつかり合って音を立てるほど激しく腰を前後させた。弱い場所を強くノックしてやるたびに、操の屹立から壊れたポンプのように薄い体液が押しだされる。
「ひいぃっ! いっ、いっく、またイッ、ァッ、あ゛ぁ――……っ!!」
操の背がぐんと大きく反り返る。派手に身を震わせた割に、真っ赤な陰茎からはじわりと蜜が滲みだしているだけだった。
甲洋は絶頂の最中で身を震わせる操の二の腕をそれぞれ掴むと、馬の手綱を引くようにぐいと強く引き上げた。思い切り背を反らせ、胸を突き出す形を取らせると、そのままさらに抽挿を続行する。
「ッ、ぁ、ヒッ!? まっ、待って! イッってる! いまイッてるのっ、まっ……~~ッ!!」
「俺はまだイッてないよ、来主」
「ッ──!?」
極致の波から戻れずにいる操の身体を、休むことなく突き上げた。膝だけで体重を支えている身体は今にも崩れ落ちそうで、けれど掴み上げている二の腕を軸に反動をつけながら激しく揺さぶる。
「~~ッ、ひい゛ぃ゛ッ! あ゛ッ、ぁ──ッ!!」
操は喉を枯らしながら悲鳴を上げて、ガクガクと痙攣を繰り返していた。
反り返る艶めかしい背中を堪能しながら、正面からもこの光景を見ることができればいいのにと口惜しい気持ちになる。さんざん苛められて赤く腫れた乳首を、ぐんと突き出しながら揺さぶられる姿を、後ろからでは目に捉えることができない。いっそのことカメラでも設置してしまおうかと、快楽に浮かされながら本気で考えてしまう。
「おね、が、ッ、もう、っ、ズンズンしないでぇ……! もうやッ、おちんぽいらない、バカになっぢゃうぅ……ッ!!」
「ッ、来主……はっ、ぁ……っ」
いい加減、甲洋も限界が近かった。すでにゴムを3つも消費するほど出しているくせに、操とするセックスは──操しか知らないのだけれど──本当に頭がバカになってしまいそうなくらい気持ちがいい。愛しさに比例して快感が膨れ上がって、破裂してしまいそうなほど。
だけど上り詰めてしまう前に、どうしても確かめておきたいことがあった。
「来主、さっきの、答え」
「ッ、? へ、ぁ……っ?」
「まだ、聞いてない」
操が無理な姿勢で首をひねる。真っ赤な顔は涙と唾液でぐちゃぐちゃになっていた。なにかを問いかけたところで、まともに答えられる状態ではない。けれどまだハッキリさせていないことがあって、いつもより執拗に苛め抜いてしまったのは、それが原因であったりもする。
「店、もう行かないって。ちゃんと言って。じゃなきゃずっと終わらない」
「いっ、今!? そんなっ、アッ、ひんっ、や、ああぁ……っ!」
「来主」
夕時に喫茶店で交わした話は、操が笑いだしたせいで結局ハッキリとしたオチはつかなかった。彼がちゃんと首を縦に振るまでは、納得ができない。
こんなときにいやらしいなと、自分でもそう思う。だけど操が慣れているなんて言うから。他の男に触られて、なんとも感じないなんて。
分かっている。彼はセックスを生業にしていた。数え切れないくらいたくさんの男と身体を重ねてきた。けれど今は違う。触れていいのも、許されているのも、この自分だけのはずだった。
「腰も、お尻も……他は? どこを触られた?」
「って、な……どこも、ほか、どこも……あぅ、アッ、ぁ゛……ッ!」
「嘘」
「か、肩! 肩、抱かれ、た!」
掴み上げた両腕と、自らが打ちつける腰の動きとで、いっそう激しく反動をつけながら弱みを擦って突き上げる。パン、パン、と肉同士がぶつかり合うたび、操の柔らかな尻たぶがぷるりと震えた。
「ぅあッ、ひ、ひぎッ、ぃ!」
「他の男なんかにさ……なんで許したりなんかするんだよ……っ」
「やぁ、あぅ、ッ、ぅあ゛……ッ、ごめ、なざ……っ、ごめ……ッ」
舌を噛みそうなほど揺さぶられながら、操が絶えず痙攣を繰り返す。彼は小さくイキ続けていて、幼子のような陰茎から断続的に潮を撒き散らしている。
うわ言のように「ごめんなさい」を繰り返す様が憐れで、けれど同時に異常なまでの興奮に目が眩む。酷いことをして追いつめているのだと、そう思うほどに甲洋の血が湧き躍り、いっそ恐ろしいほどの陶酔感がもたらされた。
「やめ、へ……っ、も、らめ、ぇ……」
「来主」
「か、った、から」
「聞こえない」
「わかっ、た、わかった、から! やめる、から……やめるからぁ……っ」
「もう誰にも触らせないって、約束できる?」
ガクガクと、操が頷く。
「……いい子だ」
口元に緩く笑みを浮かべ、動きを止めて二の腕を開放する。
骨が抜き取られたようになっている身体をしっかりと抱きしめながら、そのまま折り重なるように身体を倒していった。操はもう膝も立たなくなっていて、ぐったりとうつ伏せの状態でシーツに沈み込んでしまう。
楽な姿勢になったことで、彼は一瞬ホッと息をついた。
けれどベッドと甲洋によって完全にサンドされている状態で、この体位には逃げ場がない。操の中にある甲洋は、まだ達しておらず張り詰めたままだ。
「ま、待ってこうよ……まだ……?」
「もうすぐ終わるよ、あと一回、俺がイッたら」
「や……これ、イヤ……」
「無理させてごめん。来主は寝てるだけでいいよ」
「や、や……これ、深いぃ……っ」
操の背には甲洋の体重がすべてかかっている。その重みで中の肉茎がより深い場所まで挿入されていた。甲洋は両手を操の身体の両脇につき、腕をピンと伸ばすことで上半身だけを浮き上がらせる。それによって、さらに重心が甲洋を受け入れている場所に集中してしまう。
「ヒッ、ひあ、ぁっ、だめ、これダメ……っ! 寝バックやだぁ!」
操はシーツを掻きむしって逃れようとするが、すっかり腰が抜けているせいで脱出は叶わない。甲洋がじわじわと腰を上下に動かしはじめると、身体をビクビクと勢いよく跳ねさせた。
ピンと足が伸びているせいで、ただでさえキツい孔がさらにぎゅっと肉棒を締めつけてくる。熱く蕩けた内壁に擦れて、目眩がするほど気持ちがよかった。
「くる、す……いい、気持ちいい……っ」
「や、あぁッ、は……っ、甲洋ダメ! 怖いっ、きもちいのっ、そこ、そんなにしたらっ、ヒァ、ぁ、あ゛――ッ、あ──……っ!」
さっきのような激しいピストンはできないが、角度的にたやすく弱い場所を狙って穿つことができてしまう。どすん、どすん、と押し潰すように攻め立てると、操は口から唾液をだらだらと零しながら身も世もなく喘ぎを漏らした。
「ぁ゛うぅ、も、ひゃらぁ……っ、きちゃうの……深いのきぢゃう……っ、もうダメなのにっ、イギたくないのにっ、おっきいのぎぢゃうぅ……ッ!!」
「俺も……俺も、来主……っ」
陸に打ち上げられた魚のように、操が激しく震える。
甲洋もまた目の前に星が瞬くのを見つめ、腰をブルリと震わせながら4つ目のゴムの中に精を放った。そのまま操の上にぐったりと身を沈め、野獣のように荒々しい呼吸を繰り返す。
「ぁ……、ぁぅ……ぁ──、ァ、ぁ──……」
操は断続的に痙攣を繰り返しながら、未だにか細い声を上げ続けている。シーツに片頬を埋め、焦点の合っていない瞳を虚ろに彷徨わせていた。
ああ、本当に可愛い。可愛くて可愛くて、愛しくてどうしようもない。
「来主、好きだよ」
ぐったりした身体をきつく抱きしめ、甲洋は汗ばむ項に吸いついた。
多分きっと、本当にバカになってしまったのだと思う。自分でも怖いくらい、この子が好きだ。止めどなく溢れて、止まらない。
「ごめん、来主……」
空虚な瞳のまま戻ってこられないでいる操の名前を呼びながら、まだもう少しだけ、長い夜は続きそうだった。
*
「君、最近ちょっと調子に乗りすぎ」
昼過ぎになってようやく遅すぎる朝食をとっている最中、先にあらかた食べ終えた操がむぅっと眉間にシワを寄せながら、そんなことを言いだした。
さんざん泣きわめいたせいで、声が少し枯れている。
つけっぱなしのテレビでは、昼の情報番組が最新の流行ファッションを取り上げているが、洋服が好きなはずの彼は目もくれないで甲洋を睨みつけていた。
「なに? 急に」
少し遅れてトーストと目玉焼きを平らげた甲洋は、内心ギクリとしながらも目を瞬かせた。
「しらばっくれてさ。終わりって言ったのにぜんぜんやめてくれないし! 嘘つき!」
「あー……」
やっぱりそのことで怒っていたかと、思わず目を逸してしまう。
操が言う通り、あのあと行為は朝方まで続いて、ゴムは全部で5つも消費することになってしまった。操は昼近くになってようやく意識を取り戻したが、腰が立たずにシャワーを浴びるにも四苦八苦していた。
いつものことではあるけれど、一度スイッチが入ってしまうと際限なく求めてしまう自分に、なかなか歯止めをかけられない。
それもこれも操が可愛いからいけないのだ──なんて、心の中で責任を押しつけながらも、甲洋は素直に「ごめん」と謝罪した。
「ぜんぜん心がこもってない! 顔ニヤけてるじゃん! エッチ! 性欲オバケ!!」
「ごめんって。ほら、あーん」
キーキーと顔を赤くして怒る操の口元に、自分の皿に残っていた赤ウィンナーをフォークに刺して運んでやった。すると操は条件反射のように「あーん」と口を開け、ウィンナーをパクンと口内に収めてしまう。
「ん~、おいし~」
「それはよかった。もうひとつ食べる?」
「食べる! ……じゃないよ! おれ怒ってるんだけど!?」
甲洋は耐えきれず肩を震わせながら笑ってしまった。操は赤い頬をリスのように膨らませ、さらにヘソを曲げてしまう。
「甲洋、最近ぜんぜん可愛くない! 最初はずーっとペコペコして可愛かったのにさ!」
「ペコペコはしてないだろ……」
「してましたー!」
ふんっと鼻から大きな息を吐いて、操は腕を組むとそっぽを向いた。けれどすぐにまた甲洋を睨みつけ、驚くべきことを口にした。
「しばらくはエッチしない!」
「……え?」
「君がちゃんと反省するまで、しばらくエッチはしないから!」
「ごめん、ちょっとなに言ってるか分かんないんだけど」
「エ ッ チ は 禁 止 !!」
ガンッ、と、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。
エッチ禁止。つまり、セックス禁止。
「そ、おま……それは、お前、そっ……ど、どう、なん」
「動揺しすぎ」
「来主……あの、来主さん」
「今さらしおらしくなってもダメだね。おれがいいって言うまで、絶対に手出しして来ないでよ」
操はフォークを持った手を伸ばし、呆然とする甲洋の皿から最後の赤ウィンナーをブスリと刺すと口に放り込む。そして頬をもぐもぐと動かしながら、またプイッとそっぽを向いてしまった。
*
(ちょっと言い過ぎだったかな……)
夜。
甲洋が仕事に出かけたあと、操はテレビの前で胡座をかきながら、ひたすら対戦型の格闘ゲームをプレイしていた。
視線は画面に釘付けだが、まったく集中できていない。NPCにトドメの必殺技を食らったところで、いったんコントローラーを投げだした。
「はぁー、ぜんぜんダメ」
さっきからずっと、しょんぼりとした出掛けの甲洋が頭から離れない。
「まさかあんなに落ち込んじゃうなんて……」
スケベだなぁとは思っていたが、あれほど消沈するとは思ってもみなかった。
あのあと、甲洋は見るからに元気を失くしていた。夕飯も食べずにフラフラと仕事に出かけてしまったし、外出時の必須アイテムであるぐるぐる眼鏡が、心なしかズレてしまっていたのは気のせいだろうか。
(だってほんとに可愛くないんだもん。最近の甲洋)
最初はいちいち遠慮して、なにかというと「ごめん」が口癖だった。セックスをした翌朝は必ず床に正座しながら、この世の終わりのような顔をして頭を下げていたものだ。
操はそんな甲洋を見るのが好きだった。まるで叱られた大型犬のようで、自分より年上で身体も大きいくせに、どうしてかそれが可愛くて。
なのに今では童貞だった頃の初々しさはどこへやら、随分ふてぶてしくなってしまった。しかも口うるさいと来たものだ。一人で暮らしていた頃は好き勝手にできていたことが、甲洋と暮らしはじめてからはままならないことが多くなっている。
セクハラを軽くスルーするだけで毎日おいしいケーキにありつけていたのに、バイトだって辞めることを了承させられてしまった。だけど──。
「好きなんだけどさ、そういうとこ……」
それが操の本音でもある。
甲洋のことを好きになったキッカケは、他人の顔なんか全く気にしたことのなかった自分が、初めて「カッコいい」と思ったからだ。
あの顔に優しく微笑まれながら見つめられると、なんだかお尻のあたりがモゾモゾとして、落ち着かない気分にさせられる。
鍵を失くして困っているところに声をかけてくれて、色々と親切にしてくれて。いいなと思っていた人が、自分のファンだったと知ったときは本当に嬉しかった。
だからついついあんな特大ファンサービスをして、彼の童貞を奪ってしまったわけだが。
だけど本当に惹かれてしまったのは、甲洋の隠された二面性だった。
AVの仕事をしていたころ、操は甘やかされることに慣れきっていた。
自分がNGを出せば絶対にその通りになっていたし、その場で台本が丸々書き換えられるなんてことも、平然と繰り返されていた。すべてが操中心に回っていて、叱られるとか、注意されるなんてことも決してない。
ペコペコと気を使ってくる周りの大人達に、まるで王様にでもなった気分で好き勝手に振る舞うことが許されていた。
だから初めて甲洋とセックスをしたあの夜。
主導権を奪われた操は最初こそ本当に腹がたったけれど、正直とても気持ちがよかったのだ。嫌だと言っても聞いてもらえない。ダメだと言っても奪われる。あんなセックスは初めてで、自分でも驚くほど癖になってしまった。
だから当然、昨日の夜だって気持ちがよすぎて本当に死んでしまうかと思った。
(すごかったな、昨日は特に……)
今でも感じすぎると怖くなる。それは変わらない。だけど今は理性が飛ぶくらい快楽に飲まれる瞬間を、どこかで切望している自分がいる。
だいぶ悔しい気もするけれど、普段の優しい彼からは想像もできない抱き潰すようなセックスが、たまらなく好きで仕方ない。
(あ、やば……思いだしちゃった……)
昨夜の行為を思いだし、操は顔を赤らめると身体を丸めて体育座りをした。
こうして夜に一人でいると、甲洋とのセックスを思いだしておかしな気分になってしまうことが、度々ある。自分で慰めるのはなんだか癪で、他に意識を向けたくてつい朝方までゲームをして遊んでしまうのだ。
「甲洋のせいなんだからぁ……」
立てた両膝に顔を埋めて、ここにはいない男をなじる。
あんなに泣かされるくらい沢山したのに、次の日にはもう欲しくなっているなんて。知らなかった。こんな疼きも、恋をすることも。甲洋はきっと知らないだろうが、操にとってこれは初めての恋だった。
小言を言われるのだって、束縛されるのだって、鬱陶しいと感じながらも本当は嫌じゃない。甲洋は心から心配してくれるし、歳上の男が見せる子供っぽい独占欲が心地よかった。
だからわざと反抗的な態度をとったり、不安にさせるようなことをしてしまう。操は天の邪鬼なのだ。
「どうせすぐに我慢できなくなるんだろうな、甲洋」
だってすごくスケベだし。きっとすぐに謝り倒してくるに違いない。大型犬みたいに項垂れて、可愛く「ごめん」と頭を下げてくる。
そうしたら、今度は自分が思いっきり苛めてやろう。初めてしたときのように、臆病なくせに獰猛な犬を、厳しく躾けて服従させるみたいに。
そのあとに待っているのは、きっと手痛い反撃だ。そうなることくらい分かっている。分かっているから、期待がいっそう膨らんでしまう。
(甲洋のスケベが、おれにも移っちゃったみたい!)
操は赤い頬でふふっと笑い、転がっているコントローラーに再び手を伸ばした。
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