2025/08/26 Tue 種の月喰(つきはみ) 中秋の月が輝く晩だった。 ほのかに湯気が立ち込める浴室で、腰にタオルを巻いた甲洋は風呂椅子に腰掛けていた。覇気のない表情で白い壁を見つめ、どこか現実逃避でもしているみたいにぼうっと過ごす。 「……」 やがて甲洋は思いだしたように、チラリと自分の身体の中心に視線を落とした。タオルの端を指先でつまんで、少し迷ってからぺろりとめくりあげてみる。 「うわぁ……」 引き気味の嘆声を漏らし、見つめる先には自分の分身ともいえる身体の一部があった。 なんというか、大人のソレだ。大きいし、毛が生えているし、剥けている。自分が知っている形とはかけ離れすぎていて、甲洋はこの姿で目を覚ましてからというもの、こいつをあまりしげしげと見られないでいる。 甲洋の中身はまだ小学生の子供だが、身体は25歳の青年だ。同級生に比べると発育はいい方だったが、今やゆうに180を超えている。サイズ感への戸惑いもさることながら、大人と子供では違いすぎるそのブツに、戸惑いを拭いきれないでいた。 別に大人の性器を見たことがないわけではない。島にいた頃には、よく友達と銭湯に行っていた。子供から老人まで幅広く利用者がいる中で、成熟した大人のイチモツを見て、まるでゾウさんみたいだなぁと思っていた。俺も大人になったら、あんなふうになるのかなぁと。 まだ毛も生えていない自分のモノと見比べて、信じられない気持ちになったりしたものだ。 それがまさかすべての成長過程をすっ飛ばして、目覚めたらゾウさんになっているとは思いもしなかった。可能な限り目を背けたくても、自分の身体の一部である以上はそうもいかない。風呂やトイレに行かないわけにもいかないし、いい加減この身体にも慣れていかないと──などと思っていると、 「甲洋ー! ちゃんと身体洗ったー?」 という、能天気な操の声が脱衣所の方から聞こえてきた。 「あっ、いえ、まだ……!」 ついついぼんやりと過ごしてしまって、まだなにもしていない。甲洋は肩をビクつかせながら声をあげたが、次の瞬間、 「まだ? じゃあおれが背中流してあげるー!」 と言って、すっぽんぽんの操がガラリと磨りガラスの戸を開けて中に入ってきた。 「うわっ!?」 甲洋は顔を真っ赤にしながら大慌てで背中を丸めた。同じ男同士とはいえ、甲洋は操に特別な感情を抱いている。まだまだ中身はピュアなお年頃の甲洋にとって、好きな人と二人っきりで裸のお付き合いなんて十年早い。(精神的に) けれど操はそんなのお構いなしで、こうしてしょっちゅうズケズケと風呂場に入ってくるのだった。 「ちゃあんとキレイにしてあげるからね!」 本人は片足が不自由な甲洋の世話を焼きたいようだが、この家には至るところに手摺がついているため、わざわざ介助は必要ない。しかし操は甲洋の面倒を見ることが、楽しくてしょうがないらしかった。 どんなに断っても決して引き下がってくれないことを学習済みの甲洋は、ただ黙って縮こまりながら彼の好きにさせておくことしかできない。 「ふんふーん」 操は甲洋の背後で膝立ちをして、上機嫌で鼻歌を口ずさみながらスポンジで背中を隅々まで磨いていく。丁寧に肩や首の後ろにまでスポンジを走らせ、泡まみれにしていった。 この時間はいつも異様に長く感じてしまう。甲洋は真っ赤な顔のまま、早く終わってくれと願うばかりだ。間違っても後ろを振り向かないよう、身を硬くしながら猫背でうつむく。 「こんなもんかな? ほら、 前も洗うからこっち向いて」 「えっ、ちょ、い、いいです! 前は自分で洗うんで!」 「もー、なに恥ずかしがってんの?」 「べ、別に、そんなんじゃ……」 「ならいいじゃん! ほらほら、遠慮しないでさ!」 操は甲洋の肩に手をつき、膝でにじにじと脇に回り込んできた。スポンジを持った手を胸や腹にゴシゴシと走らせ、やがて下肢の方にまで伸ばしてくる。 今まではどうにかギリギリ回避してきたが、今日の操はやけにしつこい。不自然に顔を背けながらも、甲洋は慌てて身をよじった。 「ちょっと、まっ……! そこは、自分でやるから!」 「あっ、こら! 動いちゃだめ!」 「あっ!」 操が腰に巻かれているタオルを引っ剥がそうとするので、甲洋は青ざめながら大きく身じろいだ。するとその拍子にガタンと傾いた風呂椅子から、石鹸で滑った尻がずり落ちてしまう。 「ぁ、ッ!?」 「うわぁっ!」 臀部に鈍い衝撃が走ったが、それ以上に甲洋の頭の中は一瞬にして真っ白になった。まるで折り重なるような態勢で、操ごと転倒してしまったのだ。 「……!?」 ぴったりと合わさる胸と胸。軽く立てた足の片方に操の股がすっぽりとはまり、太ももを尻で挟みこまれるような形になっている。泡まみれでぬるつく肌の感触に、甲洋は目を大きく見開いて硬直した。 「わー、なになに? ビックリしたぁ……」 床に手をついてどうにか顔を上げた操が、すっかり仰向けに倒れている甲洋を見下ろすと、さすがの彼も不自然な体勢でいることに気がついたのか、「ぁ」と小さな声をあげながら頬を赤らめた。 「ッ──~~!?」 心臓が爆発する。そう思った瞬間、甲洋は片足が麻痺っているとは思えない早業でそこから抜け出すと、石鹸まみれのまま湯船に飛び込んだ。 「うわぁ!?」 大きな水しぶきを食らいながら、操がコロンと床に転がる。 「な、なに!? 今なにが起こったの!?」 半身を起こした操が湯船で丸くなっている甲洋を見て、目を白黒させている。 しかし甲洋はそれどころではなかった。限界まで身体を縮め、立てた両膝をしっかりと抱きしめると、ゆでダコのようになっている顔を鼻の上まで湯船につけた。 「変な甲洋」 操がそう言って、ぷぅっと唇を尖らせながら首を傾げる。甲洋はなにも言えず、ただブクブクと泡を吐きだすだけだった。 * 風呂上がり、甲洋はめちゃくちゃにショックを受けて落ち込んでいた。 「ふー、お風呂に入るとスッキリして気持ちいいね。今夜もぐっすり眠れそう」 体育座りをして項垂れている甲洋の背後では、淡い空色の浴衣を着た操がポンポンと布団を整えている。 普段着は洋服の彼だが、家にいるときは楽だし慣れているからという理由で浴衣を着用することが多い。甲洋は少し前まできっちり上下揃ったパジャマ(青のチェック柄)を着せられていたが、最近は操の真似をして浴衣で過ごすことが増えていた。 病んだ片足でも時間をかけずにすんなり着られて、慣れると確かに楽だった。ちなみに今夜は枯れ葉のような深い緑の浴衣を着用している。 「甲洋? どうかしたの?」 黙り込んで背を向けている甲洋の顔を、四つん這いでにじり寄ってきた操が覗き込んでくる。ギクリとしながら目を逸らすと、彼はキョトンと小首を傾げた。 「なんか変だよ。ずっと赤くなってるし、もしかしてのぼせた?」 「だ、だいじょうぶ」 「ほんと? あれからしばらく出てこなかったじゃん」 「それは……」 あのあとのことは、思いだすだけで嫌になる。 甲洋は操が身体を洗い終えて浴室から出ていくまで──浴槽は甲洋のせいで泡まみれになっていたので浸かるのは諦めた──あのままの状態で湯船から出られないでいた。その間ずっと心臓はバクバクしていたし、頭はグルグルしていたし、なにより身体の中心がイライラというか、ムズムズというか、とにかくおかしな状態だった。 操が浴室から出ていくと、甲洋はおそるおそる自分のブツに目をやった。するとそこは見たことがない形状に変化していて、甲洋はその反応に大ショックを受けてしまったのだ。 泣きそうになりながら身体を丸めていたら、どうにか少しずつ落ち着きを取り戻してはきたものの、またすぐにでもおかしくなってしまいそうで怖かった。 合わさった胸に感じた小さな粒のような感触だとか、太ももに押しつけられたプニプニだとか、フニフニだとか。思いだすだけで、あそこがイライラしてきてしまう。 (どうしよう……) 多分、これはとても悪いことだ。以前、友達と海辺の釣り小屋で拾ったエロ本を見たときに覚えた、よくない感じと酷似している。みんな大はしゃぎで興奮していたが、甲洋は真っ赤な顔でそっぽを向きながら、所在なく砂を蹴っているだけだった。 興味がないわけではなかったけれど、そんな自分に罪悪感を覚えてしまったのだ。だから素直に輪の中に入っていくことができなかったし、大人にバレたらきっと叱られてしまうとも思っていたから。 そのときのことを思いだして、甲洋は絶対に操には知られたくないと思った。 「……あの」 「ん? なに?」 「今夜は、ひとりで寝たい……です」 「へ? なんで?」 「な、なんでも!」 理由なんか言えるわけがない。あなたの大事な場所に触れた感触が忘れられずに、あそこがイライラするなんて。知られたらきっと嫌われる。だってこれはとても悪いことだから。 すると操が思いっきり不満そうな顔をしながら、駄々をこねてきた。 「えー! そんなのやだ! 甲洋のこと抱っこしてなきゃ、おれ寝られないもん!」 「だ、抱っこは……その、今日は、ダメ……」 「なんでぇ? ちゃんと理由を言ってくれなきゃ分かんないよぉ!」 操が甲洋の腕を掴んで揺さぶってくる。甲洋は立てた両膝に顔を埋めると、蚊の鳴くような声で「お願いだから」と漏らした。 「今日は、ひとりにして……」 「甲洋?」 さすがの操も、甲洋のただならぬ様子に気がついたらしい。すっかり身体を丸め、耳から首筋にかけてを真っ赤に染めているのを見て、なにかピンときたようだった。 「ねぇ、ひょっとしてさ」 わずかに声を潜めた操が、甲洋に寄り添って耳元に唇を寄せてきた。 「あそこ、勃っちゃった?」 「!?」 ハッとしながらとっさに顔をあげた甲洋の、あんぐりと開いた口を見て、操が肩を震わせながらクスクスと笑った。 「だから様子が変だったんだ。ごめんね、気づいてあげられなくて」 「ちっ、ちが……っ」 慌てて否定したところでもう遅い。 「そこ、そういうふうになったのは初めて?」 操は甲洋の肩に手を置いたまま、首を傾げて問いかけてくる。彼は目を細めて微笑んでいるだけで、揶揄したり咎めるような素振りをいっさい見せない。不安で仕方がなかった甲洋は、その様子に安堵を覚えて少しだけ涙ぐんでしまった。 子供らしい仕草でこくんと頷くと、操は「そっか」と言ってぽんぽんと甲洋の頭に優しく触れた。 「……ごめんなさい」 それでも甲洋の中にある罪悪感は消えなくて、小さな声で謝罪する。すると操がゆるく首を振った。 「ごめんは禁止って言ったでしょ。君はなんにも悪くないよ」 「……本当?」 「うん、本当」 操は頬を染め、瞳をじわりと潤ませていた。ドキリと胸を突かれたような感覚を覚え、とっさに視線をうつむける。するとちょうどよく操の浴衣の合わせに目がとまり、ざっくりと開いた胸元を食い入るように見つめてしまった。 「おっぱい、気になる?」 「ッ、ぁ……、ご、ごめ……」 また謝りかけて口を噤んだ。操は笑いながら「いいよ」と言って、胸を大きくはだけさせた。風呂上がりの清潔な香りが、ほのかな熱と一緒にむわっと辺りに立ち込める。 「ほら」 「わっ……!?」 甲洋はキツく目を閉じ、思いっきり顔を背けた。別に見たってどうということはないはずなのに、とてもいけないことのような気がしてしまう。 「し、しまって……早く……」 胸をバクバクとさせながら声を絞り出すと、操は楽しそうに「なんで?」と笑った。 「甲洋、ちゃんと見て」 「で、でも」 「ねぇ、早く」 観念したようにおずおずと目を開けて、操の胸に目をやった。ぺったんこだ。だけどそれぞれの胸には、ピンクに色づいた乳首が膨らみを帯びながら主張している。 (か、かわいい……) 甲洋の目はすっかり釘付けになってしまった。 「触っていいよ」 「ッ、え?」 「おれは君のものだもん。だからこのおっぱいも、君の好きにしていいんだよ」 ごくんと喉が鳴った。そんなことを言われて、拒む理由などあるはずがない。 甲洋は操と向き合い、緊張と期待に震える右手をそっと胸に伸ばしていった。指先が遠慮がちに尖った乳首に触れると、操がピクンと肩を揺らしながら「あっ」という甘ったるい声をあげた。 「ッ!」 初めて聞く声に驚いて硬直した甲洋に、操が切なそうな表情で「やめないで」と先を促す。けれど甲洋は軽く混乱していて、物欲しげに震えているようにも見える乳首と操の表情を、ただオロオロと交互に見比べた。 「で、でも、声が……」 いいのか悪いのか、甲洋には判別できない声色だった。ただ胸がザワザワするというか、あそこがムラムラするというか、とにかく落ち着かない気分になってしまう。操は戸惑う甲洋にはにかんだ笑みを浮かべて、「平気」と言った。 「気持ちいいと出ちゃうんだもん。変な声」 「き、気持ちいい? さっきの、気持ちよかったの……?」 「うん……だから、もっと触って」 そういうことならと頷いて、さらにツンツンと控えめにつついてみた。 「あっ、んんッ……! ぁ、あ……」 指の腹をくりくりと押しつけると、気持ちいいときの声が次から次へと漏れてくる。思考をぼうっと煙らせて、甲洋は両手でそれぞれの乳首を軽くつまんでみた。すると操はいっそう甲高い声をあげ、ピクピクと身を震わせる。 触れるほどに、そこは弾力を帯びて膨らんでいくようだった。ぎこちなかったはずの指先が、まるで心得たように勝手に動きだす。親指と人差し指で軽く扱いてみたり、絶妙な力加減できゅっと引っ張ってみたりした。 「あっ、やぁっ、ん……ッ!」 操は泣きだす寸前のような表情で首を振った。そして物欲しそうに濡れた瞳で甲洋を見た。 「ねぇ、そこ……舐めても、いいよ」 「ッ、!」 大きく息を呑んだ甲洋の肩に手をつきながら、操が膝立ちになってまたがってきた。見せつけるみたいに、腫れた乳首が目の前に突き出される。 「吸ったり舐めたり、いっぱい、して……」 両手で頬を包まれて、甲洋は我慢できずに片方の乳首をぱくんと食んだ。 「あんッ……!」 操の身体が大きく跳ねる。それを合図に、甲洋はタガが外れたようにそこを夢中で舐めまわした。薄い肉に両手をそれぞれ這わせると、寄せてあげるようにしながら揉みしだき、音を立てて吸い上げる。 「あはっ、んっ、アッ、ぁ……っ、おっぱいきもちい、ぁッ、こぉよ……っ」 操の両腕が甲洋の頭を掻き抱いた。頭皮に爪を立てられ、くしゃくしゃと髪を乱されるのが気持ちいい。背中にピリピリと小さな電気が流れていくみたいだった。 「すごい、ぁっ、じょうず……あんっ、ん……ッ」 褒められて、甲洋は嬉しくなった。そのまま「もっと」とねだられ、ますます熱心に吸ったり舐めたりを繰り返す。しっとりと滲みでる汗と甲洋の唾液で胸がベタベタになってしまうくらい、時間をかけて貪った。やがて操の腰に腕を回して引き寄せると、腫れぼったくなった乳首のひとつをキツく吸い上げ、歯を立てる。 「ヒッ、やぁっ、アッ、あぁ──……ッ!」 一段と高く上ずった声をあげ、操が軽く背を反らした。ビクビクッと身を大きく跳ねさせたかと思うと、糸が切れたように弛緩していく。太ももにペタリと尻を落ち着けながら倒れ込んできた身体を抱きとめ、甲洋は目を丸く見開いた。 あまりにも夢中になりすぎて、自分がどうしていたか分からなくなってしまう。ただ、ピクピクと震え続ける操の身体に、なにかが起きたらしいことだけは理解できた。 「ぁ、あの……だいじょうぶ……?」 「はぁ……はっ、ぁ……」 「み、操」 「ん……ぁ、こうよ……おれ、イッちゃったぁ」 泣きそうに蕩けた瞳で見上げられ、ぐっと言葉を詰まらせながらも、意味が分からず首を傾げる。 「だって久しぶりなんだもん……」 赤い頬でそう言って、操は浴衣の裾をめくりあげた。あっと声をあげる間もなく晒されたそこには、半勃ちで震える子供みたいな性器があって、白い内ももやその周辺がひどく濡れそぼっている。淡い水色の浴衣が、濡れた箇所だけ色味を濃くしているのを目の当たりにした甲洋は、ぽかんと口を開けたまま放心してしまった。 この人パンツ履いてなかったんだ、という驚きもさることながら……。 「おもらし、したの……?」 「ち、違うよぉ! バカぁ!」 操は顔を真っ赤にしながら甲洋の肩を軽くポカリと叩いた。 「で、でもこれ……?」 「おしっこじゃないもん!」 「?」 まだピンと来ていない甲洋に、操は珍しく困った顔をして見せた。うーんと唸りながら、やがておずおずと目を向けてくる。 「おちんちん、気持ちよくなるとおしっこじゃないのが出るの。えっと……あ、そうだ! 赤ちゃんの種!」 「精液のこと?」 「知ってんじゃん!」 「だ、だって図書室の本で読んだし……」 甲洋の学年ではまだ保健体育の授業は始まっていなかったが、図書室に置いてあった生物図鑑には、虫や動物の交尾についてが分かりやすく書かれていた。だから赤ちゃんができる仕組みくらいは知っている。 「でも、どうして胸を触っただけでそれが出てくるの?」 図鑑にそんな記述は一切なかった。だから不思議だ。子供らしい純粋な疑問を口にしただけなのに、操は顔いっぱいに赤みを広めながらまたひとつ、甲洋の肩をペチリと叩いた。 「君がこんなふうにしたんじゃん!」 「俺のせいなの!?」 「甲洋のバカぁ!」 「ご、ごめん!」 今度ばかりは「ごめん」を言っても、操はなにも言わなかった。ただ涙目でほっぺたを膨らませているだけだ。謝ったのは条件反射で、なにがいけないのかは分かっていない。 こういうとき、悪いのはだいたい記憶を失くす前の自分なのだ。もしかして俺は物凄くスケベな奴だったのかなと、恥ずかしい気持ちになりながらもなぜだか腑に落ちるものを感じてしまった。 (だって、可愛いし……) 甲洋はあえてそれ以上は視界に入れないようにしていた操の下肢に、チラリと視線を落とした。彼のそこはほとんど毛も生えていないし、形も小ぶりで桃色だ。それがぐしゃぐしゃに濡れて艶を放っている光景に、思わず喉を鳴らしてしまう。 (俺ってやっぱり、スケベなのかな) さっきからずっと身体の中心がムズムズして、ちょっと痛いくらいだった。操は悪くないと言ってくれたが、この状態を一体どう収めればいいのだろう。 困り果てて目を泳がせる甲洋に気づいて、操はやっと余裕を取り戻したようだった。ふふんと得意げに笑うと、猫のように四つん這いの体勢をとって甲洋の浴衣の裾を割る。 「あっ、ちょ!?」 「君だっておれのこと言えないじゃん。パンツ濡れてるよ」 「え!?」 甲洋のそこはグレーの下着をぐんぐんと押し上げながら、先端にあたる部分の色味を濃く変えていた。操がウエストのゴムを指に引っ掛けてちょっとズラすだけで、勃起した大人の性器が勢いよく飛び出してくる。 「うわぁっ!?」 甲洋は思わず両手で顔を覆った。さっき風呂場で見たときよりも、さらに元気になっているような気がする。指の隙間から結局は視界に入れて、すっかり言葉をなくしてしまう。 先端からはじわりと透明な液が滲み出ているし、下腹部がジンジンと痺れたようになっている。それを操に見られていると思うと、恥ずかしすぎて死にそうだった。 「ビクビクしてて苦しそう……ずっと我慢してたんだね」 「ぁ、ち、ちが……」 何に対しての否定なのか、自分でも分かっていなかった。力なく首を振った甲洋を見上げて、操が愛おしそうに微笑んだ。 「大丈夫。気持ちよくしてあげるから」 「な、なに、するの……?」 「いいこと」 そう言って、操は甲洋のモノに触れるとそっと優しく撫であげた。 「ッ、ぁ!」 おかしな声が出てしまい、甲洋は引き結んだ唇を両手で強く覆った。 操の白くて柔らかな手が、先端から滲む体液を擦り込むように性器を幾度か扱きあげる。下肢にわだかまっていた熱と痺れが一気に広がる感覚に、甲洋はビクンと身を震わせた。 「んんっ、う、うぅ……っ!」 堪らえきれずに、指の隙間からくぐもった悲鳴が漏れてしまう。操は何度も勃起した性器を優しく扱いて、甲洋の反応に目を細めた。 「可愛い。ねぇ、我慢しないで。気持ちいときの声、おれにも聞かせて?」 「ッ、……! っ! ……!」 いっそう口元を抑え込む手に力を込めながら、甲洋はぎゅっと目を閉じて首を左右に振った。 「もー、頑固だなぁ。じゃあこれは?」 操が頬にかかる髪を片方だけ耳にかけ、先端にキスをしたかと思うと口の中にすっぽりと収めてしまう。 「ッ──!? な、なに……ッ、なにして……っ!?」 信じられない光景に、ガツンと一撃を食らったような衝撃が脳に走った。とっさに両手で操の頭部を掴んではみたものの、柔らかく濡れた口内の熱や絡みつく舌の感覚に、引き剥がすどころではなくなってしまう。 「うぁ、ぁ……っ、そんな、みさ、お……っ」 「んっ、んむ……っ、ん、はっ」 いやらしい水音を立てながら、操は両手と口を使って性器を上下に刺激していった。キャンディでもしゃぶっているみたいに恍惚とした表情を浮かべ、頬を窄めながら吸いついてくる。 切迫した快感に身悶えながら、甲洋は操の髪をぎゅうと掴んだ。気持ちよすぎて、脳がドロドロに蕩けてしまいそうだった。 「ぃ、あ……っ、そんな、そんなにしたら……っ」 「んっ、ふ……いいお、らひへ」 「~~ッ!?」 しゃぶったまま操が喋ると、かすかに歯があたって強く舌を擦りつけられる形になった。彼は出してもいいと、多分そう言ったのだと思う。もうダメだと、甲洋は思った。異様な興奮と快感が身体中に満ちて、とても耐えられそうにない。 「で、出る、出るから! アッ、みさ、もう離し……うぅ、~~!!」 いよいよ頭を引き剥がそうとして、間に合わなかった。熱い波に全身を飲み込まれ、甲洋は身を引き攣らせながらイクという感覚を味わった。射精の鋭い快感に大きく脈打つ性器を、操がしっかりと咥えこんで受け止めている。 「──ッ、ぁ、うっく……、はぁ……っ」 腹の底からじわりと温かいものが広がっていく。呆けたような表情で、甲洋はがっくりと項垂れながら長い息を吐きだした。 (射精って、こんなに気持ちいいんだ……) 頭の中まで痺れているみたいだった。身体がふわふわとして、意識がぼうっとしたままなかなか戻ってこられない。 「んっ……」 操がごくんと喉を鳴らして、大きく息をつきながら身を起こした。口の端にはどろりとした白いものが付着している。彼はそれを手の甲で拭き取ると、下唇に舌を走らせながら満足そうに微笑んだ。 「甲洋の味、久しぶり」 「っ? ぁ、え……?」 「飲んじゃった。ごちそうさま!」 「の、飲んだの……ッ!?」 平然と頷く操に唖然としながら、甲洋の中にはどこかしみじみと感じ入るものがあった。薄々気づいてはいたけれど、やっぱり自分たちは日頃からこういうことをしていたんだな、と。 今さら驚くようなことではないのかもしれない。だけど手を繋いだり、キスするだけで精一杯の甲洋にとっては、まるで嘘みたいな話に思える。 (だって俺は、そんなことぜんぜん覚えてないし……) あの夏祭りの夜に一皮むけたつもりでいたけれど、甲洋はまだどこかで過去の自身に対する嫉妬を拭い去れないでいた。だからちょっと面白くない。慣れている操のことも、過去には平気でこんなことをしていた自分のことも。どうしようもないことだとは思うけど。 「どしたの?」 密かに拗ねる甲洋の顔を覗き込み、操が大きな瞳をパチクリとさせた。なんでもないと横に振った首に、細い両腕が巻きついてくる。音を立てて唇同士が触れ合うと、かぁっと頬を染めた甲洋に操が楽しげな含み笑いを漏らした。 「ねぇ、もっと気持ちいいこと、しようよ」 「も、もっと?」 「うん。もっとすごいこと」 「すごいこと……」 途端にソワソワしてしまうことに恥ずかしさを覚えながらも、胸が高鳴る。期待と不安を交差させ、へそを曲げていたことも置き去りにして甲洋は頷いた。 胸を押されて、逆らわずにそのまま仰向けに寝転んだ。操が甲洋の腹に手をつくと、もう片方の手を自分の股へと伸ばしていく。 「んっ……」 「な、なにしてるの?」 性器に触れているのかと思ったが、指先はそのさらに奥の方をまさぐっているようだった。操はモゾモゾと身じろぎながら、「はぁ」と色っぽい息をついた。 「おれのお尻ね、濡れるんだよ」 「?」 「エッチなことしてるとね、ちょっとずつ濡れてくるの。君がそういうふうにしたんだよ。おれのこと、女の子みたいにしちゃったの」 「お、女の子? そんなの俺、知らないよ……」 とっさに目を泳がせる。なら、操はいま自分で自分の尻の孔に触れているということだ。頭の中が熱くなり、沸き立つように血が騒いだ。 (お尻で、するんだ……) 男同士でも子供を作るみたいな行為ができることに、甲洋は衝撃を受けていた。前の自分が、そうなるように操の身体を変えたから。生唾を飲みながら、どんな顔をすればいいか分からずにいると、操は「うん」と頷いて笑った。 「いいんだ。それだけ知っててくれたら……んっ、ぁ……おれの身体が、ぜんぶ君のためにあるってこと、ちゃんと知っててくれたら、それでいいの」 「……うん」 素直に頷きながら、心が震えた。過去の自分がどんなふうに操の身体を作り変えていったのかは分からない。だからやっぱり少しだけ複雑な気持ちはあるけれど、期待に張り詰めた自身が痛いくらい力を取り戻しているのが、はっきりと分かる。自分の身体が、喜び勇んでいることが。 「ぅ、あ……っ、ん……もうちょっと、待ってね。おれも、すごく久しぶりだから……」 甲洋は呆けた顔をして操を見上げた。彼は小刻みに震えながら腰を揺らしている。尻にやった指先を蠢かせ、悩ましそうに眉根を寄せていた。浴衣は肘までずり落ちて、帯でかろうじて巻きついているだけになっている。浮き上がった汗に艶めく素肌を、綺麗だと思った。 「は、ぁっ……そろそろ、挿れるね」 熱い吐息を漏らす操に、甲洋は緊張しながら頷いた。弾けそうなほど勃起した性器に指を添えられると、先端を濡れた孔に押しつけられる。 「ぁ、うっ……!」 たったそれだけで圧迫感を覚え、甲洋は呻きながらブルリと腰を震わせた。 彼が言ったとおり、そこはぐっしょりと濡れている。操自身が放った精液だとか、分泌されるその他の体液で柔らかくなっていた。女の人のあそこなんか見たことも触ったこともないけれど、操のそこは本当に女の子になってるんだと甲洋は思った。 操がじわじわと体重をかけていくと、鈍い水音を立てながら亀頭がズルリと潜り込む。 「うぁッ……!」 「あぁっ、ん……! はぁ……っ!」 口の中とは比べ物にならない圧迫感と、競り上がる鋭い快感に、いっそ恐怖すら覚える。ふたり同時に悲鳴をあげて、甲洋は泣きそうな目で操を見た。 「はっ、ぁ……ッ、だいじょう、ぶ、怖く、ないからね。おれのナカ、ちゃんと甲洋のカタチに、ピッタリだから」 「で、でも、操が……」 操は微笑んでいるが、甲洋よりもずっと苦しそうに見えた。内ももがブルブルと震えているし、大粒の汗が首筋に伝っている。操は甲洋を安心させるように首をゆるく振って、左手を伸ばしてきた。 「手、繋いでて」 「うん……」 右手を伸ばし、大きさの違う手のひら同士をぴったりと重ねた。お互いの指の隙間を縫うように、しっかりと強く握りあう。そうすると鼓動も一緒に重なるみたいで、少しだけホッとした。 「こうしてたら、怖くないからね」 「あっ、ぁ……! み、みさ、お……っ」 操がどんどん腰を落としていく。ズブズブと熱い肉壁に飲み込まれ、このまま食い千切られてしまうのではないかと思うほど、そこは小さくて狭い孔だった。 「ん……ぁ、甲洋のっ、甲洋のが……っ、あっ、はうぅ……っ!」 腹の奥まで収めながら、操は感極まったような嬌声をあげた。しゃがみ込むような形で立てた両膝をガクガクと踊らせて、ぽってりと腫れた屹立からよだれを垂らしている。 すべてがナカに収まりきってしまうと、甲洋と操は息を荒げて言葉を失くした。握りあった手と手に力を込め合い、しばらくはそのまま身じろぐことさえできなかった。 「ね、ピッタリでしょ? おれのナカ」 やがて操が目を細めてそう言った。唇を震わせて、甲洋はこくこくと何度も頷く。 「操のナカ、熱くて、濡れてて……気持ちいい……」 「これからもっともっと気持ちよくなるの……おれが教えてあげるからね」 操がゆっくりと腰を揺らしはじめた。抜けそうになるギリギリまで引き抜いたかと思うと、ズブっとまた押し込める。 「ぅっ、あ! みさ、お、これ……すご、ぃ……っ」 「はぁっ、あッ! あんっ……ぁッ、こう、よ……こうよぉ……っ!」 緩慢だった動きが徐々に大きくなっていくと、操も甲洋もひっきりなしにあられもない悲鳴をあげた。目の前がチカチカするくらい気持ちがよくて、頭がバカになりそうだった。 「あっ、あぁ……っ、ん! きもち……ッ、あぅっ、アッ、すご、い……っ」 夢中で腰を揺らしながら、操は空いている方の手を後方へやり、甲洋の緩く立てられた膝の辺りをぐっと掴んだ。自然と胸が反り返り、赤く膨らんだ乳首が突き出される。甲洋は無意識に片方の手を伸ばし、小さな胸の薄い肉をぎゅうと掴んで揉みしだく。そして同時に、操の動きに合わせて自らも腰を突き上げた。 「ひ、ぃッ……!? アッ、あぁ! あっ、や、やぁ……っ!」 「みさお……みさお……っ」 操が嫌々と首を振ると、目尻に浮かんでいた涙が一緒に飛び散る。 「まっ、待って! 急にそんな……っ、お腹、そんなにズンズンしたらダメぇ……っ!」 「だって、ぁッ、俺だって……!」 操のことをもっと気持ちよくしたい。そう思ったら、身体が勝手に動いてしまう。執拗に胸を揉みながら、何度も何度も操の身体を突き上げた。 「やぁぁっ……っ、あん、あッ、やだ、イッちゃ、あっ、イっく! いくぅ……っ!」 ナカで甲洋のものが大きく脈打つのと、熱い肉壁がキュウッと収縮するのは同時だった。握りあった互いの手の甲に爪を立てながら、同時に果てる。 絶頂に身を震わせながら、操の飛沫は甲洋の下腹を汚し、甲洋は操のナカを汚した。ブルリと身震いをして、残滓もすべて吐きだしてしまう。 深く息をつき、隅々まで幸福感に満たされた。 「あ、ぁ……っ、ぁ……」 か細く声をあげながら、操が胸に倒れ込んできた。握り合っていた手と手が解け、甲洋はその身体を両腕で受け止める。彼はまだ戻ってこられないようで、痙攣を繰り返しながら呼吸を荒げていた。 「み、操……」 自分とは違ったイキっぷりを見せる操に、甲洋は少し不安になった。抱きしめたまま半身を起こすと、慰めるように背中を擦る。操の呼吸が落ち着くまで、ずっとそれを繰り返した。 「ぅ……甲洋のバカ。おれが最後までしたかったのに……!」 やがて少しずつ調子を取り戻した操が、不満そうな声をあげた。至近距離で睨まれて、甲洋はしおしおと肩をすくめる。 「ご、ごめん」 「覚えてないなんて嘘なんじゃないの!?」 「……そうかも」 疑うのはもっともだと思う。記憶がないことに嘘はないが、甲洋の身体はどうすれば操が悦ぶかを、ちゃんと覚えているようだった。実感がわかないままだった記憶への手応えを感じた気がして、甲洋は胸を熱く痺れさせた。 けれど手取り足取り最初から教え込みたかったらしい操は、やっぱり不満そうだ。彼は甲洋の首に回した腕に力を込め、両膝を立てて踏ん張ると、ナカのものをキツく締め上げた。 「っ!?」 「君がおれをリードするのはね、んっ、ぁ、まだ、早いんだから!」 「アッ、ちょ……っ、まだ、イッたばかりで……!」 「だーめ! いい子だから、おとなしくしてて!」 操はそのままぐりんぐりんと波打つような腰使いをしてみせた。鈍い水音が大きく響き、脳がひどく揺れているような気がする。 「うぁっ、ぁ……! まって、みさお、まっ、ぁ……ッ!」 達したばかりで剥き出した神経が悲鳴をあげる。ヒリつくようなかすかな痛みと、息もつけない快感の狭間で、甲洋は泣きだしそうだった。キツく食いしめられた性器が、もはやカチカチに固くなっている。 「これぇ、ずっと、欲しかったの……っ! アッ、あぁっ、ん! 甲洋の、欲しかったのぉ……っ!」 うっすらと笑みを滲ませながら、操が蕩けた表情で甘く叫んだ。甲洋は自分のことをすごくスケベな男なんだと思ったけれど、それはきっと操も同じだ。彼は何年もずっと我慢して、熟れた熱を持て余していた。子供に返ってしまった甲洋を優しく甘やかす傍ら、ずっと欲望を募らせていたのだ。彼はそれをすっかり爆発させて、歯止めがきかなくなっている。 そんな操のことを、甲洋はなんていやらしくて可愛い人なんだろうと思った。いっそ健気にすら感じてしまう。そしてやっぱり、甲洋は甲洋のことが憎かった。だってこの人のことを、こんなふうにした男だから。 (だったら、俺が……!) 憎たらしい自分ごと喰ってやろうと、甲洋の中に激しい欲求が生まれた。この人が自分のものだと、もっと強くそう思えるようになるには、こんなものではまだ足りない。 甲洋は操の腰を強く抱き込み、一気に体勢を変えた。あっと驚いている操の身体を布団に押し倒し、横抱きにするみたいにして白い片足を抱えると深く突き挿れる。 「ヒィんっ……!? やっ、こ、甲洋……ッ? なに、アッ、あっ、ああぁッ……!」 目をむいた操が悲鳴をあげる。衝動に抗うことなく腰を引いては穿ち、絶妙に角度を変えてはまた打ちつけた。 確実に弱いところを狙って先端で擦り上げると、操の下腹がビクビクと痙攣する。彼は布団に深く爪を立て、しがみつきながら達してしまった。薄くなった精液を吐きだしながら声も出せずに震える身体を、さらにそのまま突き上げる。 「ぃっ、ァ゛……ッ! まっ、イッた……ッ、ひっ、イッたから! まだ、イッてるからぁッ!」 突き上げるたびに操の赤い屹立からは残滓が弾け飛ぶ。 甲洋は獣のように息を荒げ、抱え込んでいた足を下ろすとその身体をひっくり返した。四つん這いの姿勢をとらせ、背中にぴったりと胸を押し付けるようにしながら抱きかかえると、さらに腰を突き動かす。 「あぅッ、アッ、あぁんッ……! ダメ、おれが、おれがするのにっ、バカ、バカぁっ……っ!」 まだ年上風を吹かせようとする操におかしさを覚えながら、甲洋は夢中で腰を揺さぶった。汗ばむ項に唇を押しつけ、両胸を揉みしだきながらさらに激しく打ちつける。 「みさお……っ、みさお、気持ちいい……っ、好き……好きだよ、操……っ」 「はぁっ、ぁ、アッ……っ、おれ、も……おれも好き、あっ、あぁ、イッちゃう、また、イクぅ……!」 「ッ、ん、いいよ……一緒にイこう──来主」 「ぇ……? アッ、あぁ! や、待って、まっ、ああぁ……っ!」 操の身体がビクンと跳ねる。腕のなかで引き攣る身体に愛おしさを募らせながら、甲洋もまたナカで自身を弾けさせた。頭の中が真っ白に染まる。長く尾を引くような射精の果てに、操を抱きしめたまま柔らかな布団に身を沈ませた。 * 白い障子紙から朝日が差し込んでいる。 深い眠りからふと浮上した甲洋は、操の腕に抱かれて胸に顔を埋めていることに気がついた。甲洋はかろうじて下着だけ身につけていたが、操は一糸まとわぬ姿で横たわっている。 「!?」 頭の中に、昨夜の記憶が物凄い速さで駆け巡っていた。あのあとも熱が収まらず、カラカラになるくらい何度も抱き合った。甲洋を抱き込んでいる操の肩や二の腕には歯型までついていて、行為の激しさを物語っている。 (俺、なんてこと……!) 操の胸に顔を埋めたまま、甲洋は消え入りたいような気持ちになった。昨夜の自分は、なにかいけない薬でもキメていたんじゃないだろうか。かなり調子に乗ってしまったと思うし、好き放題してさんざん彼を泣かせてしまった。 (操、起きたら怒るかな……) 謝らなくちゃと思うのに、どんな顔をすればいいか分からない。彼も悦んでいたとは思うけど……。 「んー……」 すると、ぴったりとくっついている身体がもぞりと動いて、操が小さな呻きをあげた。ビクリと身を震わせると、動いちゃダメとばかりにぎゅっと強く抱きしめられる。 「み、みさお」 「もう朝ぁ?」 操の声は掠れていた。たくさん声をあげたから、喉を痛めてしまったのかもしれない。 「こうよ、おはよぉ」 ぽやん、という表現がしっくりきそうな寝起きの表情で、操が布団を剥ぎながらゆっくりと身を起こした。甲洋も「おはよう」と返しながら起き上がったが、歯型やキスマークだらけの身体を直視できずに、真っ赤な顔をさりげなく逸した。 操が手を伸ばし、ゴソゴソと浴衣を引き寄せている。袖を通しただけで帯はしなかったが、剥き出しの面積が減っただけでも幾らかホッとして胸を撫で下ろす。 「あ、あの、操……」 おずおずと目をやりながら、潜めた声をかけてみる。すると操が真剣な眼差しで甲洋を見た。 「甲洋」 「は、はい!」 ぜったい怒られる! と思いながらシャンと背筋を伸ばした甲洋の頬に、操が片手を伸ばしてきた。そっと触れながらまんまるの目で見つめられ、ことりと首を傾げる。 「操?」 「昨日、おれの名前……」 「名前?」 ふたりしてキョトンとしながら瞬きしあい、やがて操がふっと笑って手を下ろす。 「……うぅん。なんでもないや」 「どうかしたの?」 「んー? やっぱり甲洋は甲洋だなって思っただけ!」 「?」 おかしそうに笑って肩をすくめる操に、よく分からないが甲洋もつられて笑みを浮かべた。昨夜のことは反省しなきゃと思うけど、身体も気分も満たされてスッキリしている。 甲洋はふと、浴衣の裾から剥き出している操の右足に視線をやった。その脛には古いものと思しき傷跡が、うっすらと残されている。 「……」 今までは聞くに聞けなかった。触れていいものなのか分からずに、遠慮してしまっていたのだ。ただ、見ているとやけに胸が騒ぐ。この気持ちがなんなのかを確かめたくて、甲洋は少しだけ勇気を振り絞ることにした。 「あの、操」 「なに?」 「その傷……」 軽く指をさすと、操は自分の右足の脛に視線を落とし、愛しげに目を細めた。 「これは、罰と証だよ」 「罰と、証?」 操が頷いて甲洋を見る。 「君を傷つけた罰と、君がおれの神様だってことの証──ねぇ、甲洋」 白い手が、布団の上にある甲洋の手の甲にそっと重ねられた。 「覚えていてね。おれが嘘つきだったこと。君をずっと愛してること」 「操……」 「大好き。おれの神様」 そう言って、操が傾けた頭を肩に預けてくる。かすかな重みと柔らかいぬくもりを受け止めながら、甲洋には漠然と感じるものがあった。操の記憶は甲洋の記憶。彼は自分が失くしてしまったものを、いつまでだって大切に持っていてくれる。だからきっと、操の罪は甲洋の罪でもあるのだろうと。 「──俺にとっては」 「ん」 「俺にとっては、操が神様だよ」 小さくて可愛い、甲洋だけの神様。いつか思いだせる日が来たら、操の足に残るこの傷跡を、今よりもっと深く愛しいと思えるようになるのかもしれない。 うん、と頷いた操の声は、なぜか少しだけ泣きそうに上ずっていた。彼はそれを誤魔化すみたいにイタズラっぽく笑って顔をあげると、甲洋の腕に抱きついて頬にちゅっとキスをする。 「わっ」 「すごかったよ、昨日の君」 「ッ!」 「またしようね。いっぱい」 甲洋はかぁっと頬を赤らめた。あまり思いださせないでほしい。散々したのに、またあそこがおかしくなってしまいそうな気がする。だけど嬉しいと感じてしまう自分は、やっぱりスケベなんだと思う。こくんと素直に頷くと、操が嬉しそうに「えへへ」と笑った。 「お風呂はいろ! そしたら朝ご飯にしようよ。玉子焼き、うーんと甘くしてあげる!」 布団も干さなきゃと言いながら立ち上がろうとした操が身体をよろめかせたので、甲洋はそれを支えながらまた頷くと、はにかみながら笑顔を浮かべた。 種の月喰 / 了 ←戻る ・ Wavebox👏
中秋の月が輝く晩だった。
ほのかに湯気が立ち込める浴室で、腰にタオルを巻いた甲洋は風呂椅子に腰掛けていた。覇気のない表情で白い壁を見つめ、どこか現実逃避でもしているみたいにぼうっと過ごす。
「……」
やがて甲洋は思いだしたように、チラリと自分の身体の中心に視線を落とした。タオルの端を指先でつまんで、少し迷ってからぺろりとめくりあげてみる。
「うわぁ……」
引き気味の嘆声を漏らし、見つめる先には自分の分身ともいえる身体の一部があった。
なんというか、大人のソレだ。大きいし、毛が生えているし、剥けている。自分が知っている形とはかけ離れすぎていて、甲洋はこの姿で目を覚ましてからというもの、こいつをあまりしげしげと見られないでいる。
甲洋の中身はまだ小学生の子供だが、身体は25歳の青年だ。同級生に比べると発育はいい方だったが、今やゆうに180を超えている。サイズ感への戸惑いもさることながら、大人と子供では違いすぎるそのブツに、戸惑いを拭いきれないでいた。
別に大人の性器を見たことがないわけではない。島にいた頃には、よく友達と銭湯に行っていた。子供から老人まで幅広く利用者がいる中で、成熟した大人のイチモツを見て、まるでゾウさんみたいだなぁと思っていた。俺も大人になったら、あんなふうになるのかなぁと。
まだ毛も生えていない自分のモノと見比べて、信じられない気持ちになったりしたものだ。
それがまさかすべての成長過程をすっ飛ばして、目覚めたらゾウさんになっているとは思いもしなかった。可能な限り目を背けたくても、自分の身体の一部である以上はそうもいかない。風呂やトイレに行かないわけにもいかないし、いい加減この身体にも慣れていかないと──などと思っていると、
「甲洋ー! ちゃんと身体洗ったー?」
という、能天気な操の声が脱衣所の方から聞こえてきた。
「あっ、いえ、まだ……!」
ついついぼんやりと過ごしてしまって、まだなにもしていない。甲洋は肩をビクつかせながら声をあげたが、次の瞬間、
「まだ? じゃあおれが背中流してあげるー!」
と言って、すっぽんぽんの操がガラリと磨りガラスの戸を開けて中に入ってきた。
「うわっ!?」
甲洋は顔を真っ赤にしながら大慌てで背中を丸めた。同じ男同士とはいえ、甲洋は操に特別な感情を抱いている。まだまだ中身はピュアなお年頃の甲洋にとって、好きな人と二人っきりで裸のお付き合いなんて十年早い。(精神的に)
けれど操はそんなのお構いなしで、こうしてしょっちゅうズケズケと風呂場に入ってくるのだった。
「ちゃあんとキレイにしてあげるからね!」
本人は片足が不自由な甲洋の世話を焼きたいようだが、この家には至るところに手摺がついているため、わざわざ介助は必要ない。しかし操は甲洋の面倒を見ることが、楽しくてしょうがないらしかった。
どんなに断っても決して引き下がってくれないことを学習済みの甲洋は、ただ黙って縮こまりながら彼の好きにさせておくことしかできない。
「ふんふーん」
操は甲洋の背後で膝立ちをして、上機嫌で鼻歌を口ずさみながらスポンジで背中を隅々まで磨いていく。丁寧に肩や首の後ろにまでスポンジを走らせ、泡まみれにしていった。
この時間はいつも異様に長く感じてしまう。甲洋は真っ赤な顔のまま、早く終わってくれと願うばかりだ。間違っても後ろを振り向かないよう、身を硬くしながら猫背でうつむく。
「こんなもんかな? ほら、 前も洗うからこっち向いて」
「えっ、ちょ、い、いいです! 前は自分で洗うんで!」
「もー、なに恥ずかしがってんの?」
「べ、別に、そんなんじゃ……」
「ならいいじゃん! ほらほら、遠慮しないでさ!」
操は甲洋の肩に手をつき、膝でにじにじと脇に回り込んできた。スポンジを持った手を胸や腹にゴシゴシと走らせ、やがて下肢の方にまで伸ばしてくる。
今まではどうにかギリギリ回避してきたが、今日の操はやけにしつこい。不自然に顔を背けながらも、甲洋は慌てて身をよじった。
「ちょっと、まっ……! そこは、自分でやるから!」
「あっ、こら! 動いちゃだめ!」
「あっ!」
操が腰に巻かれているタオルを引っ剥がそうとするので、甲洋は青ざめながら大きく身じろいだ。するとその拍子にガタンと傾いた風呂椅子から、石鹸で滑った尻がずり落ちてしまう。
「ぁ、ッ!?」
「うわぁっ!」
臀部に鈍い衝撃が走ったが、それ以上に甲洋の頭の中は一瞬にして真っ白になった。まるで折り重なるような態勢で、操ごと転倒してしまったのだ。
「……!?」
ぴったりと合わさる胸と胸。軽く立てた足の片方に操の股がすっぽりとはまり、太ももを尻で挟みこまれるような形になっている。泡まみれでぬるつく肌の感触に、甲洋は目を大きく見開いて硬直した。
「わー、なになに? ビックリしたぁ……」
床に手をついてどうにか顔を上げた操が、すっかり仰向けに倒れている甲洋を見下ろすと、さすがの彼も不自然な体勢でいることに気がついたのか、「ぁ」と小さな声をあげながら頬を赤らめた。
「ッ──~~!?」
心臓が爆発する。そう思った瞬間、甲洋は片足が麻痺っているとは思えない早業でそこから抜け出すと、石鹸まみれのまま湯船に飛び込んだ。
「うわぁ!?」
大きな水しぶきを食らいながら、操がコロンと床に転がる。
「な、なに!? 今なにが起こったの!?」
半身を起こした操が湯船で丸くなっている甲洋を見て、目を白黒させている。
しかし甲洋はそれどころではなかった。限界まで身体を縮め、立てた両膝をしっかりと抱きしめると、ゆでダコのようになっている顔を鼻の上まで湯船につけた。
「変な甲洋」
操がそう言って、ぷぅっと唇を尖らせながら首を傾げる。甲洋はなにも言えず、ただブクブクと泡を吐きだすだけだった。
*
風呂上がり、甲洋はめちゃくちゃにショックを受けて落ち込んでいた。
「ふー、お風呂に入るとスッキリして気持ちいいね。今夜もぐっすり眠れそう」
体育座りをして項垂れている甲洋の背後では、淡い空色の浴衣を着た操がポンポンと布団を整えている。
普段着は洋服の彼だが、家にいるときは楽だし慣れているからという理由で浴衣を着用することが多い。甲洋は少し前まできっちり上下揃ったパジャマ(青のチェック柄)を着せられていたが、最近は操の真似をして浴衣で過ごすことが増えていた。
病んだ片足でも時間をかけずにすんなり着られて、慣れると確かに楽だった。ちなみに今夜は枯れ葉のような深い緑の浴衣を着用している。
「甲洋? どうかしたの?」
黙り込んで背を向けている甲洋の顔を、四つん這いでにじり寄ってきた操が覗き込んでくる。ギクリとしながら目を逸らすと、彼はキョトンと小首を傾げた。
「なんか変だよ。ずっと赤くなってるし、もしかしてのぼせた?」
「だ、だいじょうぶ」
「ほんと? あれからしばらく出てこなかったじゃん」
「それは……」
あのあとのことは、思いだすだけで嫌になる。
甲洋は操が身体を洗い終えて浴室から出ていくまで──浴槽は甲洋のせいで泡まみれになっていたので浸かるのは諦めた──あのままの状態で湯船から出られないでいた。その間ずっと心臓はバクバクしていたし、頭はグルグルしていたし、なにより身体の中心がイライラというか、ムズムズというか、とにかくおかしな状態だった。
操が浴室から出ていくと、甲洋はおそるおそる自分のブツに目をやった。するとそこは見たことがない形状に変化していて、甲洋はその反応に大ショックを受けてしまったのだ。
泣きそうになりながら身体を丸めていたら、どうにか少しずつ落ち着きを取り戻してはきたものの、またすぐにでもおかしくなってしまいそうで怖かった。
合わさった胸に感じた小さな粒のような感触だとか、太ももに押しつけられたプニプニだとか、フニフニだとか。思いだすだけで、あそこがイライラしてきてしまう。
(どうしよう……)
多分、これはとても悪いことだ。以前、友達と海辺の釣り小屋で拾ったエロ本を見たときに覚えた、よくない感じと酷似している。みんな大はしゃぎで興奮していたが、甲洋は真っ赤な顔でそっぽを向きながら、所在なく砂を蹴っているだけだった。
興味がないわけではなかったけれど、そんな自分に罪悪感を覚えてしまったのだ。だから素直に輪の中に入っていくことができなかったし、大人にバレたらきっと叱られてしまうとも思っていたから。
そのときのことを思いだして、甲洋は絶対に操には知られたくないと思った。
「……あの」
「ん? なに?」
「今夜は、ひとりで寝たい……です」
「へ? なんで?」
「な、なんでも!」
理由なんか言えるわけがない。あなたの大事な場所に触れた感触が忘れられずに、あそこがイライラするなんて。知られたらきっと嫌われる。だってこれはとても悪いことだから。
すると操が思いっきり不満そうな顔をしながら、駄々をこねてきた。
「えー! そんなのやだ! 甲洋のこと抱っこしてなきゃ、おれ寝られないもん!」
「だ、抱っこは……その、今日は、ダメ……」
「なんでぇ? ちゃんと理由を言ってくれなきゃ分かんないよぉ!」
操が甲洋の腕を掴んで揺さぶってくる。甲洋は立てた両膝に顔を埋めると、蚊の鳴くような声で「お願いだから」と漏らした。
「今日は、ひとりにして……」
「甲洋?」
さすがの操も、甲洋のただならぬ様子に気がついたらしい。すっかり身体を丸め、耳から首筋にかけてを真っ赤に染めているのを見て、なにかピンときたようだった。
「ねぇ、ひょっとしてさ」
わずかに声を潜めた操が、甲洋に寄り添って耳元に唇を寄せてきた。
「あそこ、勃っちゃった?」
「!?」
ハッとしながらとっさに顔をあげた甲洋の、あんぐりと開いた口を見て、操が肩を震わせながらクスクスと笑った。
「だから様子が変だったんだ。ごめんね、気づいてあげられなくて」
「ちっ、ちが……っ」
慌てて否定したところでもう遅い。
「そこ、そういうふうになったのは初めて?」
操は甲洋の肩に手を置いたまま、首を傾げて問いかけてくる。彼は目を細めて微笑んでいるだけで、揶揄したり咎めるような素振りをいっさい見せない。不安で仕方がなかった甲洋は、その様子に安堵を覚えて少しだけ涙ぐんでしまった。
子供らしい仕草でこくんと頷くと、操は「そっか」と言ってぽんぽんと甲洋の頭に優しく触れた。
「……ごめんなさい」
それでも甲洋の中にある罪悪感は消えなくて、小さな声で謝罪する。すると操がゆるく首を振った。
「ごめんは禁止って言ったでしょ。君はなんにも悪くないよ」
「……本当?」
「うん、本当」
操は頬を染め、瞳をじわりと潤ませていた。ドキリと胸を突かれたような感覚を覚え、とっさに視線をうつむける。するとちょうどよく操の浴衣の合わせに目がとまり、ざっくりと開いた胸元を食い入るように見つめてしまった。
「おっぱい、気になる?」
「ッ、ぁ……、ご、ごめ……」
また謝りかけて口を噤んだ。操は笑いながら「いいよ」と言って、胸を大きくはだけさせた。風呂上がりの清潔な香りが、ほのかな熱と一緒にむわっと辺りに立ち込める。
「ほら」
「わっ……!?」
甲洋はキツく目を閉じ、思いっきり顔を背けた。別に見たってどうということはないはずなのに、とてもいけないことのような気がしてしまう。
「し、しまって……早く……」
胸をバクバクとさせながら声を絞り出すと、操は楽しそうに「なんで?」と笑った。
「甲洋、ちゃんと見て」
「で、でも」
「ねぇ、早く」
観念したようにおずおずと目を開けて、操の胸に目をやった。ぺったんこだ。だけどそれぞれの胸には、ピンクに色づいた乳首が膨らみを帯びながら主張している。
(か、かわいい……)
甲洋の目はすっかり釘付けになってしまった。
「触っていいよ」
「ッ、え?」
「おれは君のものだもん。だからこのおっぱいも、君の好きにしていいんだよ」
ごくんと喉が鳴った。そんなことを言われて、拒む理由などあるはずがない。
甲洋は操と向き合い、緊張と期待に震える右手をそっと胸に伸ばしていった。指先が遠慮がちに尖った乳首に触れると、操がピクンと肩を揺らしながら「あっ」という甘ったるい声をあげた。
「ッ!」
初めて聞く声に驚いて硬直した甲洋に、操が切なそうな表情で「やめないで」と先を促す。けれど甲洋は軽く混乱していて、物欲しげに震えているようにも見える乳首と操の表情を、ただオロオロと交互に見比べた。
「で、でも、声が……」
いいのか悪いのか、甲洋には判別できない声色だった。ただ胸がザワザワするというか、あそこがムラムラするというか、とにかく落ち着かない気分になってしまう。操は戸惑う甲洋にはにかんだ笑みを浮かべて、「平気」と言った。
「気持ちいいと出ちゃうんだもん。変な声」
「き、気持ちいい? さっきの、気持ちよかったの……?」
「うん……だから、もっと触って」
そういうことならと頷いて、さらにツンツンと控えめにつついてみた。
「あっ、んんッ……! ぁ、あ……」
指の腹をくりくりと押しつけると、気持ちいいときの声が次から次へと漏れてくる。思考をぼうっと煙らせて、甲洋は両手でそれぞれの乳首を軽くつまんでみた。すると操はいっそう甲高い声をあげ、ピクピクと身を震わせる。
触れるほどに、そこは弾力を帯びて膨らんでいくようだった。ぎこちなかったはずの指先が、まるで心得たように勝手に動きだす。親指と人差し指で軽く扱いてみたり、絶妙な力加減できゅっと引っ張ってみたりした。
「あっ、やぁっ、ん……ッ!」
操は泣きだす寸前のような表情で首を振った。そして物欲しそうに濡れた瞳で甲洋を見た。
「ねぇ、そこ……舐めても、いいよ」
「ッ、!」
大きく息を呑んだ甲洋の肩に手をつきながら、操が膝立ちになってまたがってきた。見せつけるみたいに、腫れた乳首が目の前に突き出される。
「吸ったり舐めたり、いっぱい、して……」
両手で頬を包まれて、甲洋は我慢できずに片方の乳首をぱくんと食んだ。
「あんッ……!」
操の身体が大きく跳ねる。それを合図に、甲洋はタガが外れたようにそこを夢中で舐めまわした。薄い肉に両手をそれぞれ這わせると、寄せてあげるようにしながら揉みしだき、音を立てて吸い上げる。
「あはっ、んっ、アッ、ぁ……っ、おっぱいきもちい、ぁッ、こぉよ……っ」
操の両腕が甲洋の頭を掻き抱いた。頭皮に爪を立てられ、くしゃくしゃと髪を乱されるのが気持ちいい。背中にピリピリと小さな電気が流れていくみたいだった。
「すごい、ぁっ、じょうず……あんっ、ん……ッ」
褒められて、甲洋は嬉しくなった。そのまま「もっと」とねだられ、ますます熱心に吸ったり舐めたりを繰り返す。しっとりと滲みでる汗と甲洋の唾液で胸がベタベタになってしまうくらい、時間をかけて貪った。やがて操の腰に腕を回して引き寄せると、腫れぼったくなった乳首のひとつをキツく吸い上げ、歯を立てる。
「ヒッ、やぁっ、アッ、あぁ──……ッ!」
一段と高く上ずった声をあげ、操が軽く背を反らした。ビクビクッと身を大きく跳ねさせたかと思うと、糸が切れたように弛緩していく。太ももにペタリと尻を落ち着けながら倒れ込んできた身体を抱きとめ、甲洋は目を丸く見開いた。
あまりにも夢中になりすぎて、自分がどうしていたか分からなくなってしまう。ただ、ピクピクと震え続ける操の身体に、なにかが起きたらしいことだけは理解できた。
「ぁ、あの……だいじょうぶ……?」
「はぁ……はっ、ぁ……」
「み、操」
「ん……ぁ、こうよ……おれ、イッちゃったぁ」
泣きそうに蕩けた瞳で見上げられ、ぐっと言葉を詰まらせながらも、意味が分からず首を傾げる。
「だって久しぶりなんだもん……」
赤い頬でそう言って、操は浴衣の裾をめくりあげた。あっと声をあげる間もなく晒されたそこには、半勃ちで震える子供みたいな性器があって、白い内ももやその周辺がひどく濡れそぼっている。淡い水色の浴衣が、濡れた箇所だけ色味を濃くしているのを目の当たりにした甲洋は、ぽかんと口を開けたまま放心してしまった。
この人パンツ履いてなかったんだ、という驚きもさることながら……。
「おもらし、したの……?」
「ち、違うよぉ! バカぁ!」
操は顔を真っ赤にしながら甲洋の肩を軽くポカリと叩いた。
「で、でもこれ……?」
「おしっこじゃないもん!」
「?」
まだピンと来ていない甲洋に、操は珍しく困った顔をして見せた。うーんと唸りながら、やがておずおずと目を向けてくる。
「おちんちん、気持ちよくなるとおしっこじゃないのが出るの。えっと……あ、そうだ! 赤ちゃんの種!」
「精液のこと?」
「知ってんじゃん!」
「だ、だって図書室の本で読んだし……」
甲洋の学年ではまだ保健体育の授業は始まっていなかったが、図書室に置いてあった生物図鑑には、虫や動物の交尾についてが分かりやすく書かれていた。だから赤ちゃんができる仕組みくらいは知っている。
「でも、どうして胸を触っただけでそれが出てくるの?」
図鑑にそんな記述は一切なかった。だから不思議だ。子供らしい純粋な疑問を口にしただけなのに、操は顔いっぱいに赤みを広めながらまたひとつ、甲洋の肩をペチリと叩いた。
「君がこんなふうにしたんじゃん!」
「俺のせいなの!?」
「甲洋のバカぁ!」
「ご、ごめん!」
今度ばかりは「ごめん」を言っても、操はなにも言わなかった。ただ涙目でほっぺたを膨らませているだけだ。謝ったのは条件反射で、なにがいけないのかは分かっていない。
こういうとき、悪いのはだいたい記憶を失くす前の自分なのだ。もしかして俺は物凄くスケベな奴だったのかなと、恥ずかしい気持ちになりながらもなぜだか腑に落ちるものを感じてしまった。
(だって、可愛いし……)
甲洋はあえてそれ以上は視界に入れないようにしていた操の下肢に、チラリと視線を落とした。彼のそこはほとんど毛も生えていないし、形も小ぶりで桃色だ。それがぐしゃぐしゃに濡れて艶を放っている光景に、思わず喉を鳴らしてしまう。
(俺ってやっぱり、スケベなのかな)
さっきからずっと身体の中心がムズムズして、ちょっと痛いくらいだった。操は悪くないと言ってくれたが、この状態を一体どう収めればいいのだろう。
困り果てて目を泳がせる甲洋に気づいて、操はやっと余裕を取り戻したようだった。ふふんと得意げに笑うと、猫のように四つん這いの体勢をとって甲洋の浴衣の裾を割る。
「あっ、ちょ!?」
「君だっておれのこと言えないじゃん。パンツ濡れてるよ」
「え!?」
甲洋のそこはグレーの下着をぐんぐんと押し上げながら、先端にあたる部分の色味を濃く変えていた。操がウエストのゴムを指に引っ掛けてちょっとズラすだけで、勃起した大人の性器が勢いよく飛び出してくる。
「うわぁっ!?」
甲洋は思わず両手で顔を覆った。さっき風呂場で見たときよりも、さらに元気になっているような気がする。指の隙間から結局は視界に入れて、すっかり言葉をなくしてしまう。
先端からはじわりと透明な液が滲み出ているし、下腹部がジンジンと痺れたようになっている。それを操に見られていると思うと、恥ずかしすぎて死にそうだった。
「ビクビクしてて苦しそう……ずっと我慢してたんだね」
「ぁ、ち、ちが……」
何に対しての否定なのか、自分でも分かっていなかった。力なく首を振った甲洋を見上げて、操が愛おしそうに微笑んだ。
「大丈夫。気持ちよくしてあげるから」
「な、なに、するの……?」
「いいこと」
そう言って、操は甲洋のモノに触れるとそっと優しく撫であげた。
「ッ、ぁ!」
おかしな声が出てしまい、甲洋は引き結んだ唇を両手で強く覆った。
操の白くて柔らかな手が、先端から滲む体液を擦り込むように性器を幾度か扱きあげる。下肢にわだかまっていた熱と痺れが一気に広がる感覚に、甲洋はビクンと身を震わせた。
「んんっ、う、うぅ……っ!」
堪らえきれずに、指の隙間からくぐもった悲鳴が漏れてしまう。操は何度も勃起した性器を優しく扱いて、甲洋の反応に目を細めた。
「可愛い。ねぇ、我慢しないで。気持ちいときの声、おれにも聞かせて?」
「ッ、……! っ! ……!」
いっそう口元を抑え込む手に力を込めながら、甲洋はぎゅっと目を閉じて首を左右に振った。
「もー、頑固だなぁ。じゃあこれは?」
操が頬にかかる髪を片方だけ耳にかけ、先端にキスをしたかと思うと口の中にすっぽりと収めてしまう。
「ッ──!? な、なに……ッ、なにして……っ!?」
信じられない光景に、ガツンと一撃を食らったような衝撃が脳に走った。とっさに両手で操の頭部を掴んではみたものの、柔らかく濡れた口内の熱や絡みつく舌の感覚に、引き剥がすどころではなくなってしまう。
「うぁ、ぁ……っ、そんな、みさ、お……っ」
「んっ、んむ……っ、ん、はっ」
いやらしい水音を立てながら、操は両手と口を使って性器を上下に刺激していった。キャンディでもしゃぶっているみたいに恍惚とした表情を浮かべ、頬を窄めながら吸いついてくる。
切迫した快感に身悶えながら、甲洋は操の髪をぎゅうと掴んだ。気持ちよすぎて、脳がドロドロに蕩けてしまいそうだった。
「ぃ、あ……っ、そんな、そんなにしたら……っ」
「んっ、ふ……いいお、らひへ」
「~~ッ!?」
しゃぶったまま操が喋ると、かすかに歯があたって強く舌を擦りつけられる形になった。彼は出してもいいと、多分そう言ったのだと思う。もうダメだと、甲洋は思った。異様な興奮と快感が身体中に満ちて、とても耐えられそうにない。
「で、出る、出るから! アッ、みさ、もう離し……うぅ、~~!!」
いよいよ頭を引き剥がそうとして、間に合わなかった。熱い波に全身を飲み込まれ、甲洋は身を引き攣らせながらイクという感覚を味わった。射精の鋭い快感に大きく脈打つ性器を、操がしっかりと咥えこんで受け止めている。
「──ッ、ぁ、うっく……、はぁ……っ」
腹の底からじわりと温かいものが広がっていく。呆けたような表情で、甲洋はがっくりと項垂れながら長い息を吐きだした。
(射精って、こんなに気持ちいいんだ……)
頭の中まで痺れているみたいだった。身体がふわふわとして、意識がぼうっとしたままなかなか戻ってこられない。
「んっ……」
操がごくんと喉を鳴らして、大きく息をつきながら身を起こした。口の端にはどろりとした白いものが付着している。彼はそれを手の甲で拭き取ると、下唇に舌を走らせながら満足そうに微笑んだ。
「甲洋の味、久しぶり」
「っ? ぁ、え……?」
「飲んじゃった。ごちそうさま!」
「の、飲んだの……ッ!?」
平然と頷く操に唖然としながら、甲洋の中にはどこかしみじみと感じ入るものがあった。薄々気づいてはいたけれど、やっぱり自分たちは日頃からこういうことをしていたんだな、と。
今さら驚くようなことではないのかもしれない。だけど手を繋いだり、キスするだけで精一杯の甲洋にとっては、まるで嘘みたいな話に思える。
(だって俺は、そんなことぜんぜん覚えてないし……)
あの夏祭りの夜に一皮むけたつもりでいたけれど、甲洋はまだどこかで過去の自身に対する嫉妬を拭い去れないでいた。だからちょっと面白くない。慣れている操のことも、過去には平気でこんなことをしていた自分のことも。どうしようもないことだとは思うけど。
「どしたの?」
密かに拗ねる甲洋の顔を覗き込み、操が大きな瞳をパチクリとさせた。なんでもないと横に振った首に、細い両腕が巻きついてくる。音を立てて唇同士が触れ合うと、かぁっと頬を染めた甲洋に操が楽しげな含み笑いを漏らした。
「ねぇ、もっと気持ちいいこと、しようよ」
「も、もっと?」
「うん。もっとすごいこと」
「すごいこと……」
途端にソワソワしてしまうことに恥ずかしさを覚えながらも、胸が高鳴る。期待と不安を交差させ、へそを曲げていたことも置き去りにして甲洋は頷いた。
胸を押されて、逆らわずにそのまま仰向けに寝転んだ。操が甲洋の腹に手をつくと、もう片方の手を自分の股へと伸ばしていく。
「んっ……」
「な、なにしてるの?」
性器に触れているのかと思ったが、指先はそのさらに奥の方をまさぐっているようだった。操はモゾモゾと身じろぎながら、「はぁ」と色っぽい息をついた。
「おれのお尻ね、濡れるんだよ」
「?」
「エッチなことしてるとね、ちょっとずつ濡れてくるの。君がそういうふうにしたんだよ。おれのこと、女の子みたいにしちゃったの」
「お、女の子? そんなの俺、知らないよ……」
とっさに目を泳がせる。なら、操はいま自分で自分の尻の孔に触れているということだ。頭の中が熱くなり、沸き立つように血が騒いだ。
(お尻で、するんだ……)
男同士でも子供を作るみたいな行為ができることに、甲洋は衝撃を受けていた。前の自分が、そうなるように操の身体を変えたから。生唾を飲みながら、どんな顔をすればいいか分からずにいると、操は「うん」と頷いて笑った。
「いいんだ。それだけ知っててくれたら……んっ、ぁ……おれの身体が、ぜんぶ君のためにあるってこと、ちゃんと知っててくれたら、それでいいの」
「……うん」
素直に頷きながら、心が震えた。過去の自分がどんなふうに操の身体を作り変えていったのかは分からない。だからやっぱり少しだけ複雑な気持ちはあるけれど、期待に張り詰めた自身が痛いくらい力を取り戻しているのが、はっきりと分かる。自分の身体が、喜び勇んでいることが。
「ぅ、あ……っ、ん……もうちょっと、待ってね。おれも、すごく久しぶりだから……」
甲洋は呆けた顔をして操を見上げた。彼は小刻みに震えながら腰を揺らしている。尻にやった指先を蠢かせ、悩ましそうに眉根を寄せていた。浴衣は肘までずり落ちて、帯でかろうじて巻きついているだけになっている。浮き上がった汗に艶めく素肌を、綺麗だと思った。
「は、ぁっ……そろそろ、挿れるね」
熱い吐息を漏らす操に、甲洋は緊張しながら頷いた。弾けそうなほど勃起した性器に指を添えられると、先端を濡れた孔に押しつけられる。
「ぁ、うっ……!」
たったそれだけで圧迫感を覚え、甲洋は呻きながらブルリと腰を震わせた。
彼が言ったとおり、そこはぐっしょりと濡れている。操自身が放った精液だとか、分泌されるその他の体液で柔らかくなっていた。女の人のあそこなんか見たことも触ったこともないけれど、操のそこは本当に女の子になってるんだと甲洋は思った。
操がじわじわと体重をかけていくと、鈍い水音を立てながら亀頭がズルリと潜り込む。
「うぁッ……!」
「あぁっ、ん……! はぁ……っ!」
口の中とは比べ物にならない圧迫感と、競り上がる鋭い快感に、いっそ恐怖すら覚える。ふたり同時に悲鳴をあげて、甲洋は泣きそうな目で操を見た。
「はっ、ぁ……ッ、だいじょう、ぶ、怖く、ないからね。おれのナカ、ちゃんと甲洋のカタチに、ピッタリだから」
「で、でも、操が……」
操は微笑んでいるが、甲洋よりもずっと苦しそうに見えた。内ももがブルブルと震えているし、大粒の汗が首筋に伝っている。操は甲洋を安心させるように首をゆるく振って、左手を伸ばしてきた。
「手、繋いでて」
「うん……」
右手を伸ばし、大きさの違う手のひら同士をぴったりと重ねた。お互いの指の隙間を縫うように、しっかりと強く握りあう。そうすると鼓動も一緒に重なるみたいで、少しだけホッとした。
「こうしてたら、怖くないからね」
「あっ、ぁ……! み、みさ、お……っ」
操がどんどん腰を落としていく。ズブズブと熱い肉壁に飲み込まれ、このまま食い千切られてしまうのではないかと思うほど、そこは小さくて狭い孔だった。
「ん……ぁ、甲洋のっ、甲洋のが……っ、あっ、はうぅ……っ!」
腹の奥まで収めながら、操は感極まったような嬌声をあげた。しゃがみ込むような形で立てた両膝をガクガクと踊らせて、ぽってりと腫れた屹立からよだれを垂らしている。
すべてがナカに収まりきってしまうと、甲洋と操は息を荒げて言葉を失くした。握りあった手と手に力を込め合い、しばらくはそのまま身じろぐことさえできなかった。
「ね、ピッタリでしょ? おれのナカ」
やがて操が目を細めてそう言った。唇を震わせて、甲洋はこくこくと何度も頷く。
「操のナカ、熱くて、濡れてて……気持ちいい……」
「これからもっともっと気持ちよくなるの……おれが教えてあげるからね」
操がゆっくりと腰を揺らしはじめた。抜けそうになるギリギリまで引き抜いたかと思うと、ズブっとまた押し込める。
「ぅっ、あ! みさ、お、これ……すご、ぃ……っ」
「はぁっ、あッ! あんっ……ぁッ、こう、よ……こうよぉ……っ!」
緩慢だった動きが徐々に大きくなっていくと、操も甲洋もひっきりなしにあられもない悲鳴をあげた。目の前がチカチカするくらい気持ちがよくて、頭がバカになりそうだった。
「あっ、あぁ……っ、ん! きもち……ッ、あぅっ、アッ、すご、い……っ」
夢中で腰を揺らしながら、操は空いている方の手を後方へやり、甲洋の緩く立てられた膝の辺りをぐっと掴んだ。自然と胸が反り返り、赤く膨らんだ乳首が突き出される。甲洋は無意識に片方の手を伸ばし、小さな胸の薄い肉をぎゅうと掴んで揉みしだく。そして同時に、操の動きに合わせて自らも腰を突き上げた。
「ひ、ぃッ……!? アッ、あぁ! あっ、や、やぁ……っ!」
「みさお……みさお……っ」
操が嫌々と首を振ると、目尻に浮かんでいた涙が一緒に飛び散る。
「まっ、待って! 急にそんな……っ、お腹、そんなにズンズンしたらダメぇ……っ!」
「だって、ぁッ、俺だって……!」
操のことをもっと気持ちよくしたい。そう思ったら、身体が勝手に動いてしまう。執拗に胸を揉みながら、何度も何度も操の身体を突き上げた。
「やぁぁっ……っ、あん、あッ、やだ、イッちゃ、あっ、イっく! いくぅ……っ!」
ナカで甲洋のものが大きく脈打つのと、熱い肉壁がキュウッと収縮するのは同時だった。握りあった互いの手の甲に爪を立てながら、同時に果てる。
絶頂に身を震わせながら、操の飛沫は甲洋の下腹を汚し、甲洋は操のナカを汚した。ブルリと身震いをして、残滓もすべて吐きだしてしまう。
深く息をつき、隅々まで幸福感に満たされた。
「あ、ぁ……っ、ぁ……」
か細く声をあげながら、操が胸に倒れ込んできた。握り合っていた手と手が解け、甲洋はその身体を両腕で受け止める。彼はまだ戻ってこられないようで、痙攣を繰り返しながら呼吸を荒げていた。
「み、操……」
自分とは違ったイキっぷりを見せる操に、甲洋は少し不安になった。抱きしめたまま半身を起こすと、慰めるように背中を擦る。操の呼吸が落ち着くまで、ずっとそれを繰り返した。
「ぅ……甲洋のバカ。おれが最後までしたかったのに……!」
やがて少しずつ調子を取り戻した操が、不満そうな声をあげた。至近距離で睨まれて、甲洋はしおしおと肩をすくめる。
「ご、ごめん」
「覚えてないなんて嘘なんじゃないの!?」
「……そうかも」
疑うのはもっともだと思う。記憶がないことに嘘はないが、甲洋の身体はどうすれば操が悦ぶかを、ちゃんと覚えているようだった。実感がわかないままだった記憶への手応えを感じた気がして、甲洋は胸を熱く痺れさせた。
けれど手取り足取り最初から教え込みたかったらしい操は、やっぱり不満そうだ。彼は甲洋の首に回した腕に力を込め、両膝を立てて踏ん張ると、ナカのものをキツく締め上げた。
「っ!?」
「君がおれをリードするのはね、んっ、ぁ、まだ、早いんだから!」
「アッ、ちょ……っ、まだ、イッたばかりで……!」
「だーめ! いい子だから、おとなしくしてて!」
操はそのままぐりんぐりんと波打つような腰使いをしてみせた。鈍い水音が大きく響き、脳がひどく揺れているような気がする。
「うぁっ、ぁ……! まって、みさお、まっ、ぁ……ッ!」
達したばかりで剥き出した神経が悲鳴をあげる。ヒリつくようなかすかな痛みと、息もつけない快感の狭間で、甲洋は泣きだしそうだった。キツく食いしめられた性器が、もはやカチカチに固くなっている。
「これぇ、ずっと、欲しかったの……っ! アッ、あぁっ、ん! 甲洋の、欲しかったのぉ……っ!」
うっすらと笑みを滲ませながら、操が蕩けた表情で甘く叫んだ。甲洋は自分のことをすごくスケベな男なんだと思ったけれど、それはきっと操も同じだ。彼は何年もずっと我慢して、熟れた熱を持て余していた。子供に返ってしまった甲洋を優しく甘やかす傍ら、ずっと欲望を募らせていたのだ。彼はそれをすっかり爆発させて、歯止めがきかなくなっている。
そんな操のことを、甲洋はなんていやらしくて可愛い人なんだろうと思った。いっそ健気にすら感じてしまう。そしてやっぱり、甲洋は甲洋のことが憎かった。だってこの人のことを、こんなふうにした男だから。
(だったら、俺が……!)
憎たらしい自分ごと喰ってやろうと、甲洋の中に激しい欲求が生まれた。この人が自分のものだと、もっと強くそう思えるようになるには、こんなものではまだ足りない。
甲洋は操の腰を強く抱き込み、一気に体勢を変えた。あっと驚いている操の身体を布団に押し倒し、横抱きにするみたいにして白い片足を抱えると深く突き挿れる。
「ヒィんっ……!? やっ、こ、甲洋……ッ? なに、アッ、あっ、ああぁッ……!」
目をむいた操が悲鳴をあげる。衝動に抗うことなく腰を引いては穿ち、絶妙に角度を変えてはまた打ちつけた。
確実に弱いところを狙って先端で擦り上げると、操の下腹がビクビクと痙攣する。彼は布団に深く爪を立て、しがみつきながら達してしまった。薄くなった精液を吐きだしながら声も出せずに震える身体を、さらにそのまま突き上げる。
「ぃっ、ァ゛……ッ! まっ、イッた……ッ、ひっ、イッたから! まだ、イッてるからぁッ!」
突き上げるたびに操の赤い屹立からは残滓が弾け飛ぶ。
甲洋は獣のように息を荒げ、抱え込んでいた足を下ろすとその身体をひっくり返した。四つん這いの姿勢をとらせ、背中にぴったりと胸を押し付けるようにしながら抱きかかえると、さらに腰を突き動かす。
「あぅッ、アッ、あぁんッ……! ダメ、おれが、おれがするのにっ、バカ、バカぁっ……っ!」
まだ年上風を吹かせようとする操におかしさを覚えながら、甲洋は夢中で腰を揺さぶった。汗ばむ項に唇を押しつけ、両胸を揉みしだきながらさらに激しく打ちつける。
「みさお……っ、みさお、気持ちいい……っ、好き……好きだよ、操……っ」
「はぁっ、ぁ、アッ……っ、おれ、も……おれも好き、あっ、あぁ、イッちゃう、また、イクぅ……!」
「ッ、ん、いいよ……一緒にイこう──来主」
「ぇ……? アッ、あぁ! や、待って、まっ、ああぁ……っ!」
操の身体がビクンと跳ねる。腕のなかで引き攣る身体に愛おしさを募らせながら、甲洋もまたナカで自身を弾けさせた。頭の中が真っ白に染まる。長く尾を引くような射精の果てに、操を抱きしめたまま柔らかな布団に身を沈ませた。
*
白い障子紙から朝日が差し込んでいる。
深い眠りからふと浮上した甲洋は、操の腕に抱かれて胸に顔を埋めていることに気がついた。甲洋はかろうじて下着だけ身につけていたが、操は一糸まとわぬ姿で横たわっている。
「!?」
頭の中に、昨夜の記憶が物凄い速さで駆け巡っていた。あのあとも熱が収まらず、カラカラになるくらい何度も抱き合った。甲洋を抱き込んでいる操の肩や二の腕には歯型までついていて、行為の激しさを物語っている。
(俺、なんてこと……!)
操の胸に顔を埋めたまま、甲洋は消え入りたいような気持ちになった。昨夜の自分は、なにかいけない薬でもキメていたんじゃないだろうか。かなり調子に乗ってしまったと思うし、好き放題してさんざん彼を泣かせてしまった。
(操、起きたら怒るかな……)
謝らなくちゃと思うのに、どんな顔をすればいいか分からない。彼も悦んでいたとは思うけど……。
「んー……」
すると、ぴったりとくっついている身体がもぞりと動いて、操が小さな呻きをあげた。ビクリと身を震わせると、動いちゃダメとばかりにぎゅっと強く抱きしめられる。
「み、みさお」
「もう朝ぁ?」
操の声は掠れていた。たくさん声をあげたから、喉を痛めてしまったのかもしれない。
「こうよ、おはよぉ」
ぽやん、という表現がしっくりきそうな寝起きの表情で、操が布団を剥ぎながらゆっくりと身を起こした。甲洋も「おはよう」と返しながら起き上がったが、歯型やキスマークだらけの身体を直視できずに、真っ赤な顔をさりげなく逸した。
操が手を伸ばし、ゴソゴソと浴衣を引き寄せている。袖を通しただけで帯はしなかったが、剥き出しの面積が減っただけでも幾らかホッとして胸を撫で下ろす。
「あ、あの、操……」
おずおずと目をやりながら、潜めた声をかけてみる。すると操が真剣な眼差しで甲洋を見た。
「甲洋」
「は、はい!」
ぜったい怒られる! と思いながらシャンと背筋を伸ばした甲洋の頬に、操が片手を伸ばしてきた。そっと触れながらまんまるの目で見つめられ、ことりと首を傾げる。
「操?」
「昨日、おれの名前……」
「名前?」
ふたりしてキョトンとしながら瞬きしあい、やがて操がふっと笑って手を下ろす。
「……うぅん。なんでもないや」
「どうかしたの?」
「んー? やっぱり甲洋は甲洋だなって思っただけ!」
「?」
おかしそうに笑って肩をすくめる操に、よく分からないが甲洋もつられて笑みを浮かべた。昨夜のことは反省しなきゃと思うけど、身体も気分も満たされてスッキリしている。
甲洋はふと、浴衣の裾から剥き出している操の右足に視線をやった。その脛には古いものと思しき傷跡が、うっすらと残されている。
「……」
今までは聞くに聞けなかった。触れていいものなのか分からずに、遠慮してしまっていたのだ。ただ、見ているとやけに胸が騒ぐ。この気持ちがなんなのかを確かめたくて、甲洋は少しだけ勇気を振り絞ることにした。
「あの、操」
「なに?」
「その傷……」
軽く指をさすと、操は自分の右足の脛に視線を落とし、愛しげに目を細めた。
「これは、罰と証だよ」
「罰と、証?」
操が頷いて甲洋を見る。
「君を傷つけた罰と、君がおれの神様だってことの証──ねぇ、甲洋」
白い手が、布団の上にある甲洋の手の甲にそっと重ねられた。
「覚えていてね。おれが嘘つきだったこと。君をずっと愛してること」
「操……」
「大好き。おれの神様」
そう言って、操が傾けた頭を肩に預けてくる。かすかな重みと柔らかいぬくもりを受け止めながら、甲洋には漠然と感じるものがあった。操の記憶は甲洋の記憶。彼は自分が失くしてしまったものを、いつまでだって大切に持っていてくれる。だからきっと、操の罪は甲洋の罪でもあるのだろうと。
「──俺にとっては」
「ん」
「俺にとっては、操が神様だよ」
小さくて可愛い、甲洋だけの神様。いつか思いだせる日が来たら、操の足に残るこの傷跡を、今よりもっと深く愛しいと思えるようになるのかもしれない。
うん、と頷いた操の声は、なぜか少しだけ泣きそうに上ずっていた。彼はそれを誤魔化すみたいにイタズラっぽく笑って顔をあげると、甲洋の腕に抱きついて頬にちゅっとキスをする。
「わっ」
「すごかったよ、昨日の君」
「ッ!」
「またしようね。いっぱい」
甲洋はかぁっと頬を赤らめた。あまり思いださせないでほしい。散々したのに、またあそこがおかしくなってしまいそうな気がする。だけど嬉しいと感じてしまう自分は、やっぱりスケベなんだと思う。こくんと素直に頷くと、操が嬉しそうに「えへへ」と笑った。
「お風呂はいろ! そしたら朝ご飯にしようよ。玉子焼き、うーんと甘くしてあげる!」
布団も干さなきゃと言いながら立ち上がろうとした操が身体をよろめかせたので、甲洋はそれを支えながらまた頷くと、はにかみながら笑顔を浮かべた。
種の月喰 / 了
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