2025/09/18 Thu 唇を吸われるだけで眩暈がしていた。 擦れ合う舌と舌が鈍い水音を立てる度に、皮膚の内側をチクチクとした小さな電流が駆け抜けるようだった。 ベッドシーツを爪先で引っ掻きながら、狛枝は無意識に身を捩る。組み敷いてくる日向の身体は熱く、そして存外、逞しい。 「は、ぅ……んぅ……ッ」 角度を変えながら執拗に唇を貪られる合間に、甘ったるい呻きが零れるのを抑えきれない。飲み込めないまま溜まるばかりの二人分の唾液が、口の端を伝った。 重い瞼を薄らとこじ開けた視界は、ぼんやりと滲んでいた。日向の睫毛が微かに震えているが見えて、締め付けられるように胸が疼いた。 真っ昼間のコテージは窓から差し込む陽光に明るく照らされ、ゆったりとした時の流れが風に乗ってカーテンを揺らしている。 こんな時間に何をしてるんだろうと思うほど、背徳的な逸楽に沈まんとする感情を制御できない。 遠慮がちに肩に這わせるだけだった両手を、思い切って日向の首に回してみる。振り払われたらどうしよう、という不安を笑い飛ばすようにして、与えられる口付けが深くなった。 呼吸はますます苦しくなったけれど、拒まれないその事実だけが狛枝の胸にじんわりと沁み込むような歓喜をもたらした。 (このまま、死んじゃうかも……) あるいは、それでもいいのかもしれない、なんて。 遠のいていく意識に身を委ねる狛枝の頬を、温かな指がスルリと撫でた。糸を引きながら離れた唇の名残惜しさに、掠れた熱い吐息が零れる。 「寝るなよ、お前」 見上げれば、少し不貞腐れたような日向の顔があった。ハッとして、すぐに首を左右に振った。 「ね、寝ないよ。ただちょっとふわふわしちゃっただけで」 「ふぅん。ならいいけど。退屈じゃないなら」 「退屈なんてとんでもない……!」 そんなものを感じる余裕が、一体どこにあったというのか。 むしろそれはこちらの台詞でもある。真っ昼間であろうがなんであろうが、日向が求めてくれるならこんなに嬉しいことはないというのに。 本当は、いつも誘ってくれる日向を自分から誘ってみるつもりでここに来た。すでに誰かと出かけているかもしれなかったし、自分なんかが声をかけるなんておこがましいことだと思いつつ、勇気を振り絞ったのだ。 そんな狛枝を、日向は笑顔で迎えてくれた。今ちょうど誘いに行こうとしていたところなんだ、という言葉のオマケ付きで。 夢でも見ているんじゃないかと思うほど嬉しくて、全身の穴という穴から色んな液体が噴出しそうだった。 グルグルと目を回す狛枝は、落ち着けよと宥められつつ今日の行先について相談をした。が、気づいたらなんとなくいい雰囲気になっていて、先に手を伸ばしてきたのは日向の方だった。 「ボクは、日向クンと一緒にいられるだけで……その……」 こんな風に押し倒される形で密着していると、何をどう言っていいのか分からなくなる。日向の顔が驚くほど近くにあって、今の今までキスをしていたというのに、恥ずかしくて見ていられなくなってしまう。 つい視線を背けてしまった狛枝の前髪が、日向の手によって掻き上げられる。普段は隠れている額に口付けられて、ビクンと肩が跳ねてしまった。 「わ、ぁ……!」 「そういう反応されるとさ……なんていうか、こう」 我慢できなくなるんだよな、という、まだ十分に少年らしさの残る声が耳元に押し付けられた。それだけで身体が火を噴きそうなほど熱くなる。 何か言わなくてはいけないような気がして、けれど何も返すべき言葉が見つからない。あったとしても、耳たぶに吸い付く湿った感触にあられもない悲鳴しか上げられない狛枝に、まともな言葉を紡ぐだけの余裕などなかった。 「ひゃ……ッ、ぁ、んッ!」 ちゅう、という音が鼓膜を震わせる。悪戯な舌が耳穴に押し入り、ぬめぬめと蠢いた。咄嗟に肩を竦め、厚い胸板を押し返そうとしても全く力が出ない。 日向は狛枝の弱々しい抵抗など全く意に介さず、執拗に耳朶に舌を這わせながらシャツの裾から手を差し込んできた。 下から上へと脇腹を撫でる手が、シャツを押し上げながらやがて胸へと這わされる。陽の光の下に二つの乳首が晒されて、狛枝は羞恥に身を染め上げることしかできなかった。 別に、見られたからといってどうということはない。でも、例えば海水浴をするとか、プールで遊ぶとか、これはそういう意味で人目に触れるのとは訳が違う。この先なにをするのか分かっているからこその、どうしようもない羞恥心だった。 「あっ、ぅ……!」 日向の指が、まだ柔らかいままの胸の一点に触れる。緩く乳輪をなぞられ、親指と人差し指で扱くようにクリクリと刺激されると、痛いようなむず痒いような不思議な感覚が腰のあたりから這い上がって来た。 狛枝が嫌々と首を振ると、耳から離れた日向の唇がもう片方の乳首に落とされる。最初は軽く吸い付き、それから緩く舌で転がされて。両方を万遍なく刺激されているうちに、胸の二点はぷっくりと腫れあがり、赤い果実のように色づいていく。 脳みそがどろどろに蕩けてしまいそうだと思った。 日向に触れられているというだけも、どうにかなってしまいそうなのに。 「ひな、た、ク……っ、も、そこ……ッ」 嫌だ、なんてハッキリと口にするのは、あまりにもおこがましいことだ。こんなゴミ虫のような自分が、そんな生意気なことは絶対に言えない。本当に嫌なわけでは決してないし、本音ではもっとして欲しいとも思っている。でも、このままでは本当に気が狂ってしまいそうな気もして、もう何がなんだか分からない。 ただ確かなのは、こんな風に感じ入っているのは自分だけ、ということ。 (ボクも……ボクも何かしなきゃ……このままじゃ日向クンが退屈しちゃう) 狛枝に緩く肩を押された日向がようやく顔を上げる。なぜか少し不満そうな目をしていて、やっぱり飽きかけていたんだと察する。 「なんだよ」 「ぁ、日向クン……ごめん。ボクなんかが、一人で気持ちよくなって……」 狛枝は震える指先で日向のワイシャツのネクタイに手をかけた。必死で解こうとするが、うまく力が入らない。余計に絡まるばかりのそれを見て、日向がひとつ溜息を零した。 「ご、ごめ」 「あのさ、お前って男のくせに、男のことなんにも分かってないんだよな」 「え、ぇ……?」 「お前だけじゃないよ。俺だって気持ちいいぞ」 目を丸くするばかりの狛枝に、頬を染めた日向がぶっきらぼうに言う。 「俺は俺がしたいことをさせてもらってるだけだし。それにさ、その……あぁ、くそ!」 日向は苛立ったように声を荒げると、上体を起こして狛枝を跨ぐように膝立ちになった。 自らネクタイを外し、ボタンが弾け飛ぶんじゃないかと心配になるくらい強引な手つきでシャツを脱ぐと、まとめてベッドの下に放り投げる。健康的に焼けた肌と、バランスよく引き伸ばされた筋肉が薄らと隆起する様が、昼間の明るさの中で眩しいくらいだった。 一連の動作と、幼い顔つきの割に逞しい身体をした日向に目を奪われていた狛枝は、射るような双眸に見下ろされて身を強張らせる。 「俺は狛枝が素直に感じてくれてるのが嬉しいんだ。声とか……可愛いし」 最後の一言は、あまりにもボソリと呟かれたせいでハッキリとは聞き取れなかった。 でも、少なくとも日向は退屈なんかしていなかった。それが分かっただけでも嬉しくて、涙が出そうだった。 シャイな日向は赤くなった顔を隠すようにして、再び覆いかぶさって来た。 すぐにまた何かしらされるのかと緊張に気を張り詰めていた狛枝だったが、ぎゅうと強く抱きしめられるだけで日向が動き出す様子はなかった。 心臓が口から飛び出しそうなくらいバクバクと音を立てていた。こうして肌を重ねるのは初めてのことではないのに、いつだって目が回りそうなくらい緊張してしまう。今日なんか特に、お互いの顔がよく見える分、普段の比ではなかった。だけど、それと重なるように同じくらい大きな心音を肌に感じた。 (日向クンも……凄くドキドキしてる……) 先刻、日向に言われた言葉を思い出す。 男のくせに、男の気持ちが分かっていないと。なら、今なにをどう言えば日向は喜んでくれるだろう。いつもの調子で自虐的なことを言えば、きっと怒らせてしまうに違いない。 狛枝は知らず知らずのうちにシーツを握りしめていた両手を、そっと日向の背に回した。ほんのりと汗ばむ素肌は手の平に吸い付くようで、多分きっと、今なら何を言っても拒まれないような、そんな勇気を与えてくれる気がした。 「日向、クン」 カラカラに乾いた喉で、か細く名前を呼んでみる。ん、と吐息混じりに返事を寄越す日向の耳元に、さっき彼がそうしたように唇を押し付けた。 「あのね、ボクのこと……滅茶苦茶に、してくれる……?」 日向の身体が一気に強張るのを感じた。 果たしてこの台詞で合っていただろうか。またお前は分かってない、なんて言われてしまうんだろうか。 不安に押し潰されそうになっている狛枝の耳元で、日向が大きく喉を鳴らす音が聞こえた。 それからの日向は、なんというか、それはもう激しかった。 噛んだり舐めたり、吸ったり擦ったり。身体中どこもかしこもいいようにされて、もはや今がまだ日中だとか、誰が通りかかるか分からないとか、そんなことを気にする余裕もなくただ身悶えて喘ぐしかできなかった。 胸の上までたくし上げられたシャツ以外、他は全て丸裸に剥かれても、恥ずかしがる暇すら与えてもらえないまま、心も身体もドロドロに溶かされてしまった。 「も、ッ、だ、め! ひにゃ、た、ク……ッ」 うつ伏せでシーツに縋りつき、膝を立てて尻だけを高く突き出す狛枝が、日向の節くれだった指を三本も飲み込むようになった頃。 もう舌さえも回らなくなった情けない声に、日向が小さく吹き出すのが分かった。 「なんだよ、ひにゃたクンって」 「あ、ぁ、あ……ッ、んっ、んうぅ……!」 三本の指が器用に中を広げながら引き抜かれ、背筋を駆け抜ける快感に腰が跳ねる。開きっぱなしの口端からは次から次へとだらしなく唾液が零れ落ち、馬鹿になってしまった涙腺からは生理的な涙が後を絶たない。 腹につくほど形を変えた性器も、先端から止めどなく先走りの蜜を振りまいていた。 狛枝はシーツを掻き毟るように乱しながら、無理に首を捻って背後の日向に顔を向ける。 「も、ぉ、ダメ、だよ……ッ、入れ、て! ひにゃた、クンの……ッ!」 これ以上続けられたら、本当にどうにかなってしまう。その前に、日向のものが欲しかった。じゃなきゃ、本当に一人で楽しむだけ楽しんで終わってしまいそうな気がする。日向にもよくなって欲しい。こんなちっぽけな身体でも、許されるなら。 狛枝の反応を見て、日向も先刻からずっと息を荒げていた。きっと彼もそうしたいと思ってくれているに違いない。狛枝は両腕を後方に伸ばし、薄い尻の肉にそれぞれ手を這わせると、これ以上ないくらい割開いて幾度も腰を捩った。醜い姿だと理解はしていても、自分の痴態を止める術がない。 「おねが、い……! ね、ボクの、ここ、使って……!」 「ッ……!」 「緩くて、あんまり、よくないかもしれないけど……いっぱい使って、好きにして、いいから……ッ」 「……あのなぁ!」 声を荒げた日向に強引に身体を引っくり返される。あまりに唐突で、舌を噛みそうになりながらぎゅっと目を閉じた。 また間違ったことを言ってしまったのかと、恐る恐る瞼を開けて見上げれば、案の定少し怒ったような顔をした日向と至近距離で目が合った。 「ぁ、あ……ごめ、ボク……」 「使えとか緩いとか、そういう言い方するなよな!」 「だ、だって、ボクなんか……」 「それ以上言ったら本気で怒るぞ!」 「お、怒らないで……嫌いに……」 「なるわけないだろ! バカ!」 やっぱり怒らせてしまったのだと、狛枝はせめてこれ以上日向の気を損ねまいと震える唇を噛み締めた。 日向は険しい表情のまま狛枝の両足を割り開くと、焦ったような手つきで自らの前を寛げる。すっかり見慣れた柄の下着をほんの僅かに下げただけで、反り返った性器が勢いよく飛び出してきた。 明るい光の下で見るそれは、思っていたよりも大きくて逞しかった。思わず瞬きも忘れて息を飲む狛枝に見せつけるように、日向はそれを右手に持って幾度か扱く。 こんな立派なブツが、つい最近まで未使用のまま眠らされていたなんて。 「お前のことが好きだから、こんな風になるんだからな」 「ッ……!」 脈打つ屹立が、散々指を咥えこんで慣らされた尻穴にぐっと押し付けられる。貫かれる衝撃を知っている身体が、無意識に強張った。 握りしめた両手を胸の上で震わせる狛枝の顔をチラリと見て、日向はゆっくりとその先端を潜り込ませてくる。 「ッ、ぅ……んぐ、ぅ……!」 狛枝は唇を噛み締めたまま、その衝撃に耐えた。 どれほど慣らされたとはいえ、そこは本来なら受け入れるための場所ではない。かろうじて痛みはないが、圧迫感に息が詰まる。 日向の手が小刻みに震える狛枝の両膝をそれぞれ掴んだ。彼はこちらの表情や反応を注意深く窺いながら腰を進め、時折「大丈夫か?」と吐息混じりに確認してくる。 狛枝は握ったままの拳を口元に押し当て、何度も首を縦に振った。構わず一気に貫いてくれても構わないのに、額に大粒の汗を滲ませ、堪えるように奥歯を噛み締めながらも労わろうとする日向の気遣いに心が震える。 普段は夜のコテージで、灯りもつけずに交わることが多いから。こんな風に苦しそうな顔をしているなんて、知らなかった。 「ッ、お、まえ……そんな、締めるなって……っ」 「ひな、ッ、ぁ、ごめ……ッ」 胸の疼きがそのまま身体の奥の強張りに繋がってしまった。無意識に力んでしまったせいか、締め付けの鋭さに日向が喉を唸らせる。 このままではきっと苦しいだけだ。肉棒はようやく半分ほどが収まった程度で、日向は一度動きを止めると大きく息ついて呼吸を整えはじめる。 こんなに身も心も蕩けきっているのに、どうしてこの身体は日向の形に馴染んでくれないのだろう。やっぱり自分は何をやってもダメな人間だ。ちょっと優しくされたぐらいで愛されているような気になって、結局は大好きな人の性欲すらまともに満たせない。 (日向クン……ごめん……ごめんね……。ボクなんかじゃキミを気持ちよくさせてあげられない……身体まで出来損ないだなんて、本当にボクはどこまでも絶望的で、ダニにも劣るゴミクズ人間だよ……) 「それは、違うぞ」 「え……?」 自分を責めるばかりの狛枝の心を読んだかのように、日向が否定の言葉を口にした。 そのまま両腕を取られ、首に回すように導かれる。されるがまま素直に抱き付くと、日向は満足そうに微笑んで狛枝の涙や汗に濡れた頬に小さな口付けを落としてきた。そして。 「凪斗」 「ッ……!?」 耳元で、名前を呼ばれた。狛枝ではなく、凪斗、と。 それは魔法のように狛枝の心を甘く蕩かした。身体から一気に力が抜けて、何も考えられなくなってしまう。日向の首にしがみついていなければ、このままふわふわとどこか遠くへ飛んで行ってしまいそうだった。 酩酊状態。まさに、そんな感じ。ずるい。こんなの、反則だ。 好機とばかりに日向の腕が狛枝の腰を抱く。ぐ、ぐ、と身体の奥深くまで熱の塊が押し入って来る感覚に、狛枝は甲高い子犬のような悲鳴を上げる。 「ひぁ、アッ、ああぁ――……ッ!!」 「う、ぁ……!」 日向の甘い呻きが心地いい。身体の隅々まで、余すところなく満たされたような気がした。ギリギリまで伸ばされた襞の感覚に、奥まった場所が痛いほど痺れていた。 自分でも触れたことのないような場所で、日向自身が脈打っている。二人の身体に挟まれるようにして天を仰ぐ狛枝自身も、断続的にビクビクと小さく跳ねていた。 日向は狛枝をきつく抱いて、ゆっくりと小刻みに腰を動かし始めた。その度に狛枝の身体がカクンカクンと上下に揺れる。 「あ、あッ……ひぅ、アっ……ん、ぅ!」 内臓を直接押し上げられているような圧迫感と、内壁を強く擦られる快感とで、溺れたみたいに息が苦しい。 徐々に早まる動きの激しさにベッドが軋む音を聞きながら、あまりにも刺激的すぎる律動に嫌々と首を振る。日向の唇が薄い首筋の皮膚を痛いほど吸い上げ、狛枝はその太く硬い髪に指を通してぐしゃぐしゃと乱しながらこれ以上ないくらい身悶えた。 突き上げられる度に頭の奥が痺れて堪らない。 「ひな、ぁッ、た、ク……ッ、んぅ、ぁ、きも、ち、ぃ……ッ」 「俺も……ッ、俺も、凄くいい……狛枝……!」 「ね、ぇ! 好きッ、て……ッ、ん、言って、い、ぃ?」 「ッ、こ、の……バカ……ッ」 身体中を真っ赤に染め上げた日向の、いちいち聞くなよ、という声を聞いた途端に、狛枝は壊れたオモチャのように「好き」という言葉を繰り返した。 好き、好き、大好き。もっと、もっと。そう言って日向と同じタイミングで腰を跳ねるように動かした。日向の呼吸がどんどん荒くなる。はち切れそうなほど膨らんだ狛枝自身も、律動に合わせて揺れながら涎を垂らし、ぬるぬると脇腹を滑り落ちていく。 「もっ、ア、やぁ、あ……! イッ、く! いく、ボク、もぉ……!!」 「狛枝、一緒に……ッ」 目の前で幾つもの白い火花が飛び散るのが見えた気がした。 ビン、と爪先を張り、声にならない悲鳴を上げて狛枝が先に射精した。ひ、ひ、と脆弱な呼吸を繰り返しながら激しく身を震わせる狛枝の中から、日向の性器が一気に引き抜かれる。 「ぅ、ッ、ぁ……!」 低い呻きと共に、日向が吐き出した白濁が狛枝の腹に飛び散った。二人分の精液が溶けるように混ざり合う。 断続的な痙攣を繰り返したまま、絶頂の余韻から抜け出せない狛枝は倒れ込んできた日向の頬に自分の頬を擦りつける。途切れそうな意識で無防備に甘える狛枝の耳に、日向の「好きだぞ」という声が柔らかく沁みこんだ。 窓から差し込む光は昼間のものから夕焼け色に変わっていた。 あのあとも散々戯れて、何度か繋がって、今は二人並んでベッドにダラダラと寝そべっている。シャワーを浴びたい欲求はあるものの、下半身の感覚がすっかり麻痺して動くのがひたすら億劫だった。この調子では、夕食をとりに行けるかどうかも微妙なところだ。 「生きてるか?」 日向が軽く半身を起し、気遣わしげに顔を覗き込んでくる。狛枝はまだどこかぼんやりとした頭で、微かに笑うと頷いた。 「なんとか大丈夫、かな?」 「……悪かったよ」 「?」 狛枝が小首を傾げると、日向は照れ臭そうに頬を指先で幾度か引っ掻いた。 「いや……結局どこにも行けなかったしさ。先に手を出したのも俺だし」 それは違うよと、狛枝は心の中でポツリと吐き出す。 拒まなかったのは自分だし、結局のところ日向と一緒にいられるなら、どこだって構わないのだから。ただ。 「なんかボクたち、凄く爛れた大人になってしまったような気がするね」 何気なく放った言葉に、日向が軽く吹き出した。 「ッ、た、爛れたって、お前な……」 「だってお昼だよ? みんなが健全に外で過ごしてるのに、ボク達ときたら」 「わ、分かった。分かったよ。だから俺が悪かったって言ってるだろ」 「謝っちゃやだよ。ボクは凄く嬉しかったんだから」 普段は見れないものが、色々と見れたのだから。 日向がどんな顔をして、反応をして、労わってくれていたかを存分に知ることができた。 顔を赤くした日向は、口の中でごにょごにょと何かを言いかけて、やがて諦めたようにシーツに深く沈みこんだ。 ぴったりと身を寄せ合って、そのまま何気ない沈黙が流れる。心地よい静けさの中、狛枝はどんどん瞼が重くなっていくのを感じた。 「あのさ」 気づけば日向の指先が狛枝の髪を緩く弄んでいる。なんだかくすぐったくて、小さく肩を竦めた。 「明日は、走るか。砂浜で」 それはちょっと嫌かな、なんて思ったけれど、それで日向が今日の帳尻を合わせたいなら文句を言うつもりはなかった。 いつもなら、やんわりと断っているところだけど。 「あは、いいね。それ、凄く健全だよ」 何より、明日も一緒に過ごせることを彼が約束してくれたことが、とても嬉しい。 「誘いに行くからな。待ってろよ」 「ん、待ってる」 蕩けるような安堵感に身を任せて、狛枝は微笑みながらまどろみに落ちていった。 ←戻る ・ Wavebox👏
擦れ合う舌と舌が鈍い水音を立てる度に、皮膚の内側をチクチクとした小さな電流が駆け抜けるようだった。
ベッドシーツを爪先で引っ掻きながら、狛枝は無意識に身を捩る。組み敷いてくる日向の身体は熱く、そして存外、逞しい。
「は、ぅ……んぅ……ッ」
角度を変えながら執拗に唇を貪られる合間に、甘ったるい呻きが零れるのを抑えきれない。飲み込めないまま溜まるばかりの二人分の唾液が、口の端を伝った。
重い瞼を薄らとこじ開けた視界は、ぼんやりと滲んでいた。日向の睫毛が微かに震えているが見えて、締め付けられるように胸が疼いた。
真っ昼間のコテージは窓から差し込む陽光に明るく照らされ、ゆったりとした時の流れが風に乗ってカーテンを揺らしている。
こんな時間に何をしてるんだろうと思うほど、背徳的な逸楽に沈まんとする感情を制御できない。
遠慮がちに肩に這わせるだけだった両手を、思い切って日向の首に回してみる。振り払われたらどうしよう、という不安を笑い飛ばすようにして、与えられる口付けが深くなった。
呼吸はますます苦しくなったけれど、拒まれないその事実だけが狛枝の胸にじんわりと沁み込むような歓喜をもたらした。
(このまま、死んじゃうかも……)
あるいは、それでもいいのかもしれない、なんて。
遠のいていく意識に身を委ねる狛枝の頬を、温かな指がスルリと撫でた。糸を引きながら離れた唇の名残惜しさに、掠れた熱い吐息が零れる。
「寝るなよ、お前」
見上げれば、少し不貞腐れたような日向の顔があった。ハッとして、すぐに首を左右に振った。
「ね、寝ないよ。ただちょっとふわふわしちゃっただけで」
「ふぅん。ならいいけど。退屈じゃないなら」
「退屈なんてとんでもない……!」
そんなものを感じる余裕が、一体どこにあったというのか。
むしろそれはこちらの台詞でもある。真っ昼間であろうがなんであろうが、日向が求めてくれるならこんなに嬉しいことはないというのに。
本当は、いつも誘ってくれる日向を自分から誘ってみるつもりでここに来た。すでに誰かと出かけているかもしれなかったし、自分なんかが声をかけるなんておこがましいことだと思いつつ、勇気を振り絞ったのだ。
そんな狛枝を、日向は笑顔で迎えてくれた。今ちょうど誘いに行こうとしていたところなんだ、という言葉のオマケ付きで。
夢でも見ているんじゃないかと思うほど嬉しくて、全身の穴という穴から色んな液体が噴出しそうだった。
グルグルと目を回す狛枝は、落ち着けよと宥められつつ今日の行先について相談をした。が、気づいたらなんとなくいい雰囲気になっていて、先に手を伸ばしてきたのは日向の方だった。
「ボクは、日向クンと一緒にいられるだけで……その……」
こんな風に押し倒される形で密着していると、何をどう言っていいのか分からなくなる。日向の顔が驚くほど近くにあって、今の今までキスをしていたというのに、恥ずかしくて見ていられなくなってしまう。
つい視線を背けてしまった狛枝の前髪が、日向の手によって掻き上げられる。普段は隠れている額に口付けられて、ビクンと肩が跳ねてしまった。
「わ、ぁ……!」
「そういう反応されるとさ……なんていうか、こう」
我慢できなくなるんだよな、という、まだ十分に少年らしさの残る声が耳元に押し付けられた。それだけで身体が火を噴きそうなほど熱くなる。
何か言わなくてはいけないような気がして、けれど何も返すべき言葉が見つからない。あったとしても、耳たぶに吸い付く湿った感触にあられもない悲鳴しか上げられない狛枝に、まともな言葉を紡ぐだけの余裕などなかった。
「ひゃ……ッ、ぁ、んッ!」
ちゅう、という音が鼓膜を震わせる。悪戯な舌が耳穴に押し入り、ぬめぬめと蠢いた。咄嗟に肩を竦め、厚い胸板を押し返そうとしても全く力が出ない。
日向は狛枝の弱々しい抵抗など全く意に介さず、執拗に耳朶に舌を這わせながらシャツの裾から手を差し込んできた。
下から上へと脇腹を撫でる手が、シャツを押し上げながらやがて胸へと這わされる。陽の光の下に二つの乳首が晒されて、狛枝は羞恥に身を染め上げることしかできなかった。
別に、見られたからといってどうということはない。でも、例えば海水浴をするとか、プールで遊ぶとか、これはそういう意味で人目に触れるのとは訳が違う。この先なにをするのか分かっているからこその、どうしようもない羞恥心だった。
「あっ、ぅ……!」
日向の指が、まだ柔らかいままの胸の一点に触れる。緩く乳輪をなぞられ、親指と人差し指で扱くようにクリクリと刺激されると、痛いようなむず痒いような不思議な感覚が腰のあたりから這い上がって来た。
狛枝が嫌々と首を振ると、耳から離れた日向の唇がもう片方の乳首に落とされる。最初は軽く吸い付き、それから緩く舌で転がされて。両方を万遍なく刺激されているうちに、胸の二点はぷっくりと腫れあがり、赤い果実のように色づいていく。
脳みそがどろどろに蕩けてしまいそうだと思った。
日向に触れられているというだけも、どうにかなってしまいそうなのに。
「ひな、た、ク……っ、も、そこ……ッ」
嫌だ、なんてハッキリと口にするのは、あまりにもおこがましいことだ。こんなゴミ虫のような自分が、そんな生意気なことは絶対に言えない。本当に嫌なわけでは決してないし、本音ではもっとして欲しいとも思っている。でも、このままでは本当に気が狂ってしまいそうな気もして、もう何がなんだか分からない。
ただ確かなのは、こんな風に感じ入っているのは自分だけ、ということ。
(ボクも……ボクも何かしなきゃ……このままじゃ日向クンが退屈しちゃう)
狛枝に緩く肩を押された日向がようやく顔を上げる。なぜか少し不満そうな目をしていて、やっぱり飽きかけていたんだと察する。
「なんだよ」
「ぁ、日向クン……ごめん。ボクなんかが、一人で気持ちよくなって……」
狛枝は震える指先で日向のワイシャツのネクタイに手をかけた。必死で解こうとするが、うまく力が入らない。余計に絡まるばかりのそれを見て、日向がひとつ溜息を零した。
「ご、ごめ」
「あのさ、お前って男のくせに、男のことなんにも分かってないんだよな」
「え、ぇ……?」
「お前だけじゃないよ。俺だって気持ちいいぞ」
目を丸くするばかりの狛枝に、頬を染めた日向がぶっきらぼうに言う。
「俺は俺がしたいことをさせてもらってるだけだし。それにさ、その……あぁ、くそ!」
日向は苛立ったように声を荒げると、上体を起こして狛枝を跨ぐように膝立ちになった。
自らネクタイを外し、ボタンが弾け飛ぶんじゃないかと心配になるくらい強引な手つきでシャツを脱ぐと、まとめてベッドの下に放り投げる。健康的に焼けた肌と、バランスよく引き伸ばされた筋肉が薄らと隆起する様が、昼間の明るさの中で眩しいくらいだった。
一連の動作と、幼い顔つきの割に逞しい身体をした日向に目を奪われていた狛枝は、射るような双眸に見下ろされて身を強張らせる。
「俺は狛枝が素直に感じてくれてるのが嬉しいんだ。声とか……可愛いし」
最後の一言は、あまりにもボソリと呟かれたせいでハッキリとは聞き取れなかった。
でも、少なくとも日向は退屈なんかしていなかった。それが分かっただけでも嬉しくて、涙が出そうだった。
シャイな日向は赤くなった顔を隠すようにして、再び覆いかぶさって来た。
すぐにまた何かしらされるのかと緊張に気を張り詰めていた狛枝だったが、ぎゅうと強く抱きしめられるだけで日向が動き出す様子はなかった。
心臓が口から飛び出しそうなくらいバクバクと音を立てていた。こうして肌を重ねるのは初めてのことではないのに、いつだって目が回りそうなくらい緊張してしまう。今日なんか特に、お互いの顔がよく見える分、普段の比ではなかった。だけど、それと重なるように同じくらい大きな心音を肌に感じた。
(日向クンも……凄くドキドキしてる……)
先刻、日向に言われた言葉を思い出す。
男のくせに、男の気持ちが分かっていないと。なら、今なにをどう言えば日向は喜んでくれるだろう。いつもの調子で自虐的なことを言えば、きっと怒らせてしまうに違いない。
狛枝は知らず知らずのうちにシーツを握りしめていた両手を、そっと日向の背に回した。ほんのりと汗ばむ素肌は手の平に吸い付くようで、多分きっと、今なら何を言っても拒まれないような、そんな勇気を与えてくれる気がした。
「日向、クン」
カラカラに乾いた喉で、か細く名前を呼んでみる。ん、と吐息混じりに返事を寄越す日向の耳元に、さっき彼がそうしたように唇を押し付けた。
「あのね、ボクのこと……滅茶苦茶に、してくれる……?」
日向の身体が一気に強張るのを感じた。
果たしてこの台詞で合っていただろうか。またお前は分かってない、なんて言われてしまうんだろうか。
不安に押し潰されそうになっている狛枝の耳元で、日向が大きく喉を鳴らす音が聞こえた。
それからの日向は、なんというか、それはもう激しかった。
噛んだり舐めたり、吸ったり擦ったり。身体中どこもかしこもいいようにされて、もはや今がまだ日中だとか、誰が通りかかるか分からないとか、そんなことを気にする余裕もなくただ身悶えて喘ぐしかできなかった。
胸の上までたくし上げられたシャツ以外、他は全て丸裸に剥かれても、恥ずかしがる暇すら与えてもらえないまま、心も身体もドロドロに溶かされてしまった。
「も、ッ、だ、め! ひにゃ、た、ク……ッ」
うつ伏せでシーツに縋りつき、膝を立てて尻だけを高く突き出す狛枝が、日向の節くれだった指を三本も飲み込むようになった頃。
もう舌さえも回らなくなった情けない声に、日向が小さく吹き出すのが分かった。
「なんだよ、ひにゃたクンって」
「あ、ぁ、あ……ッ、んっ、んうぅ……!」
三本の指が器用に中を広げながら引き抜かれ、背筋を駆け抜ける快感に腰が跳ねる。開きっぱなしの口端からは次から次へとだらしなく唾液が零れ落ち、馬鹿になってしまった涙腺からは生理的な涙が後を絶たない。
腹につくほど形を変えた性器も、先端から止めどなく先走りの蜜を振りまいていた。
狛枝はシーツを掻き毟るように乱しながら、無理に首を捻って背後の日向に顔を向ける。
「も、ぉ、ダメ、だよ……ッ、入れ、て! ひにゃた、クンの……ッ!」
これ以上続けられたら、本当にどうにかなってしまう。その前に、日向のものが欲しかった。じゃなきゃ、本当に一人で楽しむだけ楽しんで終わってしまいそうな気がする。日向にもよくなって欲しい。こんなちっぽけな身体でも、許されるなら。
狛枝の反応を見て、日向も先刻からずっと息を荒げていた。きっと彼もそうしたいと思ってくれているに違いない。狛枝は両腕を後方に伸ばし、薄い尻の肉にそれぞれ手を這わせると、これ以上ないくらい割開いて幾度も腰を捩った。醜い姿だと理解はしていても、自分の痴態を止める術がない。
「おねが、い……! ね、ボクの、ここ、使って……!」
「ッ……!」
「緩くて、あんまり、よくないかもしれないけど……いっぱい使って、好きにして、いいから……ッ」
「……あのなぁ!」
声を荒げた日向に強引に身体を引っくり返される。あまりに唐突で、舌を噛みそうになりながらぎゅっと目を閉じた。
また間違ったことを言ってしまったのかと、恐る恐る瞼を開けて見上げれば、案の定少し怒ったような顔をした日向と至近距離で目が合った。
「ぁ、あ……ごめ、ボク……」
「使えとか緩いとか、そういう言い方するなよな!」
「だ、だって、ボクなんか……」
「それ以上言ったら本気で怒るぞ!」
「お、怒らないで……嫌いに……」
「なるわけないだろ! バカ!」
やっぱり怒らせてしまったのだと、狛枝はせめてこれ以上日向の気を損ねまいと震える唇を噛み締めた。
日向は険しい表情のまま狛枝の両足を割り開くと、焦ったような手つきで自らの前を寛げる。すっかり見慣れた柄の下着をほんの僅かに下げただけで、反り返った性器が勢いよく飛び出してきた。
明るい光の下で見るそれは、思っていたよりも大きくて逞しかった。思わず瞬きも忘れて息を飲む狛枝に見せつけるように、日向はそれを右手に持って幾度か扱く。
こんな立派なブツが、つい最近まで未使用のまま眠らされていたなんて。
「お前のことが好きだから、こんな風になるんだからな」
「ッ……!」
脈打つ屹立が、散々指を咥えこんで慣らされた尻穴にぐっと押し付けられる。貫かれる衝撃を知っている身体が、無意識に強張った。
握りしめた両手を胸の上で震わせる狛枝の顔をチラリと見て、日向はゆっくりとその先端を潜り込ませてくる。
「ッ、ぅ……んぐ、ぅ……!」
狛枝は唇を噛み締めたまま、その衝撃に耐えた。
どれほど慣らされたとはいえ、そこは本来なら受け入れるための場所ではない。かろうじて痛みはないが、圧迫感に息が詰まる。
日向の手が小刻みに震える狛枝の両膝をそれぞれ掴んだ。彼はこちらの表情や反応を注意深く窺いながら腰を進め、時折「大丈夫か?」と吐息混じりに確認してくる。
狛枝は握ったままの拳を口元に押し当て、何度も首を縦に振った。構わず一気に貫いてくれても構わないのに、額に大粒の汗を滲ませ、堪えるように奥歯を噛み締めながらも労わろうとする日向の気遣いに心が震える。
普段は夜のコテージで、灯りもつけずに交わることが多いから。こんな風に苦しそうな顔をしているなんて、知らなかった。
「ッ、お、まえ……そんな、締めるなって……っ」
「ひな、ッ、ぁ、ごめ……ッ」
胸の疼きがそのまま身体の奥の強張りに繋がってしまった。無意識に力んでしまったせいか、締め付けの鋭さに日向が喉を唸らせる。
このままではきっと苦しいだけだ。肉棒はようやく半分ほどが収まった程度で、日向は一度動きを止めると大きく息ついて呼吸を整えはじめる。
こんなに身も心も蕩けきっているのに、どうしてこの身体は日向の形に馴染んでくれないのだろう。やっぱり自分は何をやってもダメな人間だ。ちょっと優しくされたぐらいで愛されているような気になって、結局は大好きな人の性欲すらまともに満たせない。
(日向クン……ごめん……ごめんね……。ボクなんかじゃキミを気持ちよくさせてあげられない……身体まで出来損ないだなんて、本当にボクはどこまでも絶望的で、ダニにも劣るゴミクズ人間だよ……)
「それは、違うぞ」
「え……?」
自分を責めるばかりの狛枝の心を読んだかのように、日向が否定の言葉を口にした。
そのまま両腕を取られ、首に回すように導かれる。されるがまま素直に抱き付くと、日向は満足そうに微笑んで狛枝の涙や汗に濡れた頬に小さな口付けを落としてきた。そして。
「凪斗」
「ッ……!?」
耳元で、名前を呼ばれた。狛枝ではなく、凪斗、と。
それは魔法のように狛枝の心を甘く蕩かした。身体から一気に力が抜けて、何も考えられなくなってしまう。日向の首にしがみついていなければ、このままふわふわとどこか遠くへ飛んで行ってしまいそうだった。
酩酊状態。まさに、そんな感じ。ずるい。こんなの、反則だ。
好機とばかりに日向の腕が狛枝の腰を抱く。ぐ、ぐ、と身体の奥深くまで熱の塊が押し入って来る感覚に、狛枝は甲高い子犬のような悲鳴を上げる。
「ひぁ、アッ、ああぁ――……ッ!!」
「う、ぁ……!」
日向の甘い呻きが心地いい。身体の隅々まで、余すところなく満たされたような気がした。ギリギリまで伸ばされた襞の感覚に、奥まった場所が痛いほど痺れていた。
自分でも触れたことのないような場所で、日向自身が脈打っている。二人の身体に挟まれるようにして天を仰ぐ狛枝自身も、断続的にビクビクと小さく跳ねていた。
日向は狛枝をきつく抱いて、ゆっくりと小刻みに腰を動かし始めた。その度に狛枝の身体がカクンカクンと上下に揺れる。
「あ、あッ……ひぅ、アっ……ん、ぅ!」
内臓を直接押し上げられているような圧迫感と、内壁を強く擦られる快感とで、溺れたみたいに息が苦しい。
徐々に早まる動きの激しさにベッドが軋む音を聞きながら、あまりにも刺激的すぎる律動に嫌々と首を振る。日向の唇が薄い首筋の皮膚を痛いほど吸い上げ、狛枝はその太く硬い髪に指を通してぐしゃぐしゃと乱しながらこれ以上ないくらい身悶えた。
突き上げられる度に頭の奥が痺れて堪らない。
「ひな、ぁッ、た、ク……ッ、んぅ、ぁ、きも、ち、ぃ……ッ」
「俺も……ッ、俺も、凄くいい……狛枝……!」
「ね、ぇ! 好きッ、て……ッ、ん、言って、い、ぃ?」
「ッ、こ、の……バカ……ッ」
身体中を真っ赤に染め上げた日向の、いちいち聞くなよ、という声を聞いた途端に、狛枝は壊れたオモチャのように「好き」という言葉を繰り返した。
好き、好き、大好き。もっと、もっと。そう言って日向と同じタイミングで腰を跳ねるように動かした。日向の呼吸がどんどん荒くなる。はち切れそうなほど膨らんだ狛枝自身も、律動に合わせて揺れながら涎を垂らし、ぬるぬると脇腹を滑り落ちていく。
「もっ、ア、やぁ、あ……! イッ、く! いく、ボク、もぉ……!!」
「狛枝、一緒に……ッ」
目の前で幾つもの白い火花が飛び散るのが見えた気がした。
ビン、と爪先を張り、声にならない悲鳴を上げて狛枝が先に射精した。ひ、ひ、と脆弱な呼吸を繰り返しながら激しく身を震わせる狛枝の中から、日向の性器が一気に引き抜かれる。
「ぅ、ッ、ぁ……!」
低い呻きと共に、日向が吐き出した白濁が狛枝の腹に飛び散った。二人分の精液が溶けるように混ざり合う。
断続的な痙攣を繰り返したまま、絶頂の余韻から抜け出せない狛枝は倒れ込んできた日向の頬に自分の頬を擦りつける。途切れそうな意識で無防備に甘える狛枝の耳に、日向の「好きだぞ」という声が柔らかく沁みこんだ。
窓から差し込む光は昼間のものから夕焼け色に変わっていた。
あのあとも散々戯れて、何度か繋がって、今は二人並んでベッドにダラダラと寝そべっている。シャワーを浴びたい欲求はあるものの、下半身の感覚がすっかり麻痺して動くのがひたすら億劫だった。この調子では、夕食をとりに行けるかどうかも微妙なところだ。
「生きてるか?」
日向が軽く半身を起し、気遣わしげに顔を覗き込んでくる。狛枝はまだどこかぼんやりとした頭で、微かに笑うと頷いた。
「なんとか大丈夫、かな?」
「……悪かったよ」
「?」
狛枝が小首を傾げると、日向は照れ臭そうに頬を指先で幾度か引っ掻いた。
「いや……結局どこにも行けなかったしさ。先に手を出したのも俺だし」
それは違うよと、狛枝は心の中でポツリと吐き出す。
拒まなかったのは自分だし、結局のところ日向と一緒にいられるなら、どこだって構わないのだから。ただ。
「なんかボクたち、凄く爛れた大人になってしまったような気がするね」
何気なく放った言葉に、日向が軽く吹き出した。
「ッ、た、爛れたって、お前な……」
「だってお昼だよ? みんなが健全に外で過ごしてるのに、ボク達ときたら」
「わ、分かった。分かったよ。だから俺が悪かったって言ってるだろ」
「謝っちゃやだよ。ボクは凄く嬉しかったんだから」
普段は見れないものが、色々と見れたのだから。
日向がどんな顔をして、反応をして、労わってくれていたかを存分に知ることができた。
顔を赤くした日向は、口の中でごにょごにょと何かを言いかけて、やがて諦めたようにシーツに深く沈みこんだ。
ぴったりと身を寄せ合って、そのまま何気ない沈黙が流れる。心地よい静けさの中、狛枝はどんどん瞼が重くなっていくのを感じた。
「あのさ」
気づけば日向の指先が狛枝の髪を緩く弄んでいる。なんだかくすぐったくて、小さく肩を竦めた。
「明日は、走るか。砂浜で」
それはちょっと嫌かな、なんて思ったけれど、それで日向が今日の帳尻を合わせたいなら文句を言うつもりはなかった。
いつもなら、やんわりと断っているところだけど。
「あは、いいね。それ、凄く健全だよ」
何より、明日も一緒に過ごせることを彼が約束してくれたことが、とても嬉しい。
「誘いに行くからな。待ってろよ」
「ん、待ってる」
蕩けるような安堵感に身を任せて、狛枝は微笑みながらまどろみに落ちていった。
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