2025/06/16 Mon 07 甲洋と共に帰宅すると、容子は変わらない姿勢でソファに横たわっていた。 「お母さん!」 すぐさま駆け寄った操を差し置いて、どこからか姿を現したショコラが彼女のそばに歩み寄る。容子の顔に鼻を近づけ、軽く匂いを嗅いだあとその頬をペロンと舐めた。 「お母さんに近寄らないで!」 警戒して声を荒げる操を、甲洋が片手で制して「大丈夫」と言った。 「で、でもお母さんが!」 「悪さはしない。ショコラは羽佐間先生のことが好きだから」 「え……?」 操は目を丸くしながらショコラを見た。弱々しく「クゥン」と鳴いて、まるで労るように容子の頬を幾度もペロペロと舐めている。 どういうことかと首を傾げていると、甲洋がソファの足元に膝をついて容子の額に手を当てた。 「少し熱っぽい」 するとそこで、ずっと眠り続けていた容子がはたと目を覚ました。 「お母さん!」 「操……それに、甲洋くん……?」 操と甲洋の顔を交互に見やり、容子は不思議そうな顔をした。 身を起こした彼女の横ではショコラがソファに乗り上げ、『ワン!』と嬉しそうに鳴きながらしっぽを振っている。けれど容子にはその姿が見えず、声も聞こえていないようだった。 「ごめんなさい。私ったら、すっかり眠ってしまったのね」 「よかったぁ……このままだったらどうしようかと思ったよ……」 操は安堵から力が抜けて、ペタリと床に座り込んでしまった。 眉を下げながら苦笑し、容子が改めて甲洋を見る。 「あなたたち、知り合いだったの?」 知り合いというかなんというか。化かしてやりたくて、たびたびちょっかいを出していたとは言いにくい。 そもそも操がああして力尽きていたのは、甲洋に悪さをしようとして失敗した結果だったのだ。でも、それを知られるのはちょっぴり嫌だった。 「えっ、と……う、うん」 容子の前ではいい子でいたい操は、目を泳がせながら曖昧に頷いた。チラリ、と甲洋に横目で見られたような気がしたが、そこは知らんぷりを決め込んだ。 「お母さんに、なにか食べさせなくちゃと思ったんだ。でも、ぼくだけじゃどうしたらいいか分からなくて……だからご飯をもらいにお店に行ったの。そしたら一緒に来てくれた」 「そうだったの。ありがとう、操。甲洋くんも、わざわざごめんなさいね」 甲洋がかぶりを振った。澄ました表情をしているが、目元が少し柔らかい。 「軽い夏バテよ。毎年この時期になると疲れやすくなってしまって。嫌ね、もう歳かしら」 「そんなこと」 甲洋がまた首を振る。 「羽佐間先生には、元気でいてもらわないと」 そう言って、彼は部屋の片隅に目をやった。視線の先には棚に飾られた翔子の写真がある。容子もまた写真を見つめ、どこかしみじみと「そうね」と言った。 ショコラはそんな彼女の隣で行儀よく座っている。黒目がちの濡れた瞳をかすかに細め、容子の顔を見つめていた。 (仲良しなんだ、三人とも) 甲洋にしろショコラにしろ、容子とはどんな間柄なのだろう。 容子にはショコラの姿が見えていないようだが、彼女を見つめるショコラの瞳は慈愛に満ちている。 気にはなったが口を挟める空気ではなくて、操はただ親密そうな彼らを見つめていることしかできなかった。 * その後、容子の代わりにキッチンに立った甲洋が、温かいそうめんを作ってくれた。 あの細長い棒状の束が、少し手を加えるだけでまるで違うものに変化してしまうなんて。もしかしたら、人間のほうがよほど化け術に長けているのではないかと、操は思った。 初めて食べるそうめんは、その温かさも相まって優しく胃に染み込んだ。溶き卵がふわふわしていて、出汁の風味と一緒にネギの香りが引き立っていた。 容子は終始すまなそうにしていたが、そうめんを食べると少しずつ顔色が戻ってきたようだった。それを見て、操は心底ホッとした。 甲洋は作るだけ作って、食べている二人の姿を静かに見守るだけだった。 そのとき容子から、甲洋が昔の教え子だったことを教えてもらった。ときどき彼の店に食事をしに行くこともあり、今でも交流があるのだと。 だから彼は容子を先生と呼んでいたのか。納得はしたが、子供時代の甲洋というのは、あまり想像できなかった。 食後、容子は自室に戻っていった。今夜は早く休んでほしいと、甲洋が促したからだ。 食器の片付けまで全て終え、帰ろうとする彼を操は玄関先まで見送ることにした。 「それじゃあ、俺はこれで」 「ねぇ、ちょっと待って」 靴を履き、背を向けようとする甲洋を引き止める。色素の薄い瞳が、無言で「なに?」と問いかけてきた。 「えっと、その……今日はありがと。助けてくれて。あと、足のことも。まだお礼言ってなかったから」 「気にしなくていい」 「ん……でも、ありがと」 あのとき彼が助けてくれなければ、足の腫れはさらに悪化していたはずだ。そうなれば操はもっと早い段階で動けなくなって、力尽きていただろう。 今日だって、甲洋がいなければなにもできなかった。容子は命の恩人なのに、操はそんな彼女が弱っているのをただ見ていることしかできなかった。 「まだ、なにかある?」 黙りこくってうつむいてしまった操の顔を、甲洋がかすかに首をかしげて覗き込んでくる。 「……ぼく」 「うん」 「ぼくってやっぱり、ポンコツなのかな……」 一週間ここでのんきに暮らして、忘れたつもりでいたけれど。悪ガキたちが言っていたように、操は失敗ばかりの駄目なタヌキだ。 こんな弱音を甲洋にぶつけたところで、なんの意味もないことは知っている。だけど吐きださずにはいられなくて、操はまた涙を滲ませた。 「……泣き虫タヌキ」 すると小さく息を漏らした甲洋が、澄ましたトーンでぽつりと言った。操は思わずムッとして、ポコンとしっぽを跳ねさせながら彼を睨みつけた。 「ぼくそんな名前じゃないもん! 来主操って名前があるもん!」 泣き虫じゃないし──とも言いかけて、やっぱりやめた。とっさに腹を立ててしまったけれど、甲洋の言う通りだったからだ。さっきからずっと泣き顔ばかり見せている。 なんだかバツが悪くて、操はぶぅっと唇を尖らせた。 「じゃあ来主、お前はちゃんとやれていた。羽佐間先生を助けたよ」 「え?」 「俺のところに来た」 「……でも、それってぼくが助けたとは言えないよ」 「来主が知らせてくれなければ、俺だってなにもできなかった。だから、来主がいてくれて助かった」 それはそうかもしれないが。なんだかいまいちピンと来ない。 だけどもし操がいなければ、一人きりの容子は今ごろどうなっていただろう。自力で助けを求めることさえできなかったはずだ。 操がそばにいたから、すぐに彼女の異変に気づくことができた。だから甲洋が来てくれて、容子を助けることができたのだ。 「そっか……ぼく、ちゃんとお母さんの役に立てたんだ……!」 現金なもので、考え方ひとつで操の心は驚くほど軽くなった。表情にも明るさが戻ってくる。ちょっと誇らしい気持ちにすらなってきて、操は人差し指で鼻の下をこすりながら「えへへ」と笑った。 「……単純」 「えー? なにか言った?」 「いや、なにも」 「そっか、えへへー」 操の笑顔に釣られたのか、甲洋はふっと口元に笑みを浮かべた。そしてまるでショコラにでもするみたいに、ふかふかの耳が生えた操の頭をくしゃりと撫でた。 「!」 驚いて息を呑んだのは二人同時だった。ポカンとする操に、彼はすぐさま背を向けた。 「じゃあ、俺はもう帰るから」 声はいつにもまして平坦で、押し殺したように低かった。 いよいよ帰ろうとしてドアノブに手をかける甲洋にハッとして、操は「待って」と引き止めた。 「……なに」 振り向かないまま、彼はぶっきらぼうな返事をする。 「どうして夜だと、葉っぱでもご飯がもらえるの?」 操はさっきの店でのやり取りが、ずっと胸に引っかかっていた。 思えば初めて偽札を持って店に突撃したときも、彼は「夜に出直せ」と言っていた。昼間は駄目で、夜ならいいというのはなぜなんだろう。 次はいつ会えるか分からないし、今しか聞くチャンスがないと思った。 「……気になるなら、一週間後の夜にまたおいで」 甲洋はそれだけ言うと帰っていった。 残された操は、彼が出ていった扉を見つめたまましばらく動くことができなかった。家の中はシンと静まり返っていて、今までのことがまるで夢のようだった。 「……笑った、よね?」 夢じゃないことを確かめるように、操は自分自身に問いかけた。時間差でジワジワと胸が熱くなってくる。 「わ、ぁ……わぁ……」 感嘆の声をしきりに漏らし、操はとっさに両手を頭にやった。左右それぞれの耳をきゅっと掴んで、頬を赤くする。大きな手の感触が、まだそこに残っているような気がした。だんだん耳まで熱くなる。 「ぼくに笑ってくれたんだ!」 ショコラにしていたみたいに、優しく頭を撫でながら。 操はそこでようやく、自分がショコラを羨んでいたことに気がついた。あの坂道で、初めて彼の笑顔を見たときから。心のどこかでずっとそう思っていたことに。 どうして羨ましかったのかは分からないし、今だってこの感情につける名前を持たないけれど。 (嬉しい……!) それだけは確かで、操はぎゅうぎゅうと耳を握りしめたまま喜びに胸を波打たせた。 ←戻る ・ 次へ→
甲洋と共に帰宅すると、容子は変わらない姿勢でソファに横たわっていた。
「お母さん!」
すぐさま駆け寄った操を差し置いて、どこからか姿を現したショコラが彼女のそばに歩み寄る。容子の顔に鼻を近づけ、軽く匂いを嗅いだあとその頬をペロンと舐めた。
「お母さんに近寄らないで!」
警戒して声を荒げる操を、甲洋が片手で制して「大丈夫」と言った。
「で、でもお母さんが!」
「悪さはしない。ショコラは羽佐間先生のことが好きだから」
「え……?」
操は目を丸くしながらショコラを見た。弱々しく「クゥン」と鳴いて、まるで労るように容子の頬を幾度もペロペロと舐めている。
どういうことかと首を傾げていると、甲洋がソファの足元に膝をついて容子の額に手を当てた。
「少し熱っぽい」
するとそこで、ずっと眠り続けていた容子がはたと目を覚ました。
「お母さん!」
「操……それに、甲洋くん……?」
操と甲洋の顔を交互に見やり、容子は不思議そうな顔をした。
身を起こした彼女の横ではショコラがソファに乗り上げ、『ワン!』と嬉しそうに鳴きながらしっぽを振っている。けれど容子にはその姿が見えず、声も聞こえていないようだった。
「ごめんなさい。私ったら、すっかり眠ってしまったのね」
「よかったぁ……このままだったらどうしようかと思ったよ……」
操は安堵から力が抜けて、ペタリと床に座り込んでしまった。
眉を下げながら苦笑し、容子が改めて甲洋を見る。
「あなたたち、知り合いだったの?」
知り合いというかなんというか。化かしてやりたくて、たびたびちょっかいを出していたとは言いにくい。
そもそも操がああして力尽きていたのは、甲洋に悪さをしようとして失敗した結果だったのだ。でも、それを知られるのはちょっぴり嫌だった。
「えっ、と……う、うん」
容子の前ではいい子でいたい操は、目を泳がせながら曖昧に頷いた。チラリ、と甲洋に横目で見られたような気がしたが、そこは知らんぷりを決め込んだ。
「お母さんに、なにか食べさせなくちゃと思ったんだ。でも、ぼくだけじゃどうしたらいいか分からなくて……だからご飯をもらいにお店に行ったの。そしたら一緒に来てくれた」
「そうだったの。ありがとう、操。甲洋くんも、わざわざごめんなさいね」
甲洋がかぶりを振った。澄ました表情をしているが、目元が少し柔らかい。
「軽い夏バテよ。毎年この時期になると疲れやすくなってしまって。嫌ね、もう歳かしら」
「そんなこと」
甲洋がまた首を振る。
「羽佐間先生には、元気でいてもらわないと」
そう言って、彼は部屋の片隅に目をやった。視線の先には棚に飾られた翔子の写真がある。容子もまた写真を見つめ、どこかしみじみと「そうね」と言った。
ショコラはそんな彼女の隣で行儀よく座っている。黒目がちの濡れた瞳をかすかに細め、容子の顔を見つめていた。
(仲良しなんだ、三人とも)
甲洋にしろショコラにしろ、容子とはどんな間柄なのだろう。
容子にはショコラの姿が見えていないようだが、彼女を見つめるショコラの瞳は慈愛に満ちている。
気にはなったが口を挟める空気ではなくて、操はただ親密そうな彼らを見つめていることしかできなかった。
*
その後、容子の代わりにキッチンに立った甲洋が、温かいそうめんを作ってくれた。
あの細長い棒状の束が、少し手を加えるだけでまるで違うものに変化してしまうなんて。もしかしたら、人間のほうがよほど化け術に長けているのではないかと、操は思った。
初めて食べるそうめんは、その温かさも相まって優しく胃に染み込んだ。溶き卵がふわふわしていて、出汁の風味と一緒にネギの香りが引き立っていた。
容子は終始すまなそうにしていたが、そうめんを食べると少しずつ顔色が戻ってきたようだった。それを見て、操は心底ホッとした。
甲洋は作るだけ作って、食べている二人の姿を静かに見守るだけだった。
そのとき容子から、甲洋が昔の教え子だったことを教えてもらった。ときどき彼の店に食事をしに行くこともあり、今でも交流があるのだと。
だから彼は容子を先生と呼んでいたのか。納得はしたが、子供時代の甲洋というのは、あまり想像できなかった。
食後、容子は自室に戻っていった。今夜は早く休んでほしいと、甲洋が促したからだ。
食器の片付けまで全て終え、帰ろうとする彼を操は玄関先まで見送ることにした。
「それじゃあ、俺はこれで」
「ねぇ、ちょっと待って」
靴を履き、背を向けようとする甲洋を引き止める。色素の薄い瞳が、無言で「なに?」と問いかけてきた。
「えっと、その……今日はありがと。助けてくれて。あと、足のことも。まだお礼言ってなかったから」
「気にしなくていい」
「ん……でも、ありがと」
あのとき彼が助けてくれなければ、足の腫れはさらに悪化していたはずだ。そうなれば操はもっと早い段階で動けなくなって、力尽きていただろう。
今日だって、甲洋がいなければなにもできなかった。容子は命の恩人なのに、操はそんな彼女が弱っているのをただ見ていることしかできなかった。
「まだ、なにかある?」
黙りこくってうつむいてしまった操の顔を、甲洋がかすかに首をかしげて覗き込んでくる。
「……ぼく」
「うん」
「ぼくってやっぱり、ポンコツなのかな……」
一週間ここでのんきに暮らして、忘れたつもりでいたけれど。悪ガキたちが言っていたように、操は失敗ばかりの駄目なタヌキだ。
こんな弱音を甲洋にぶつけたところで、なんの意味もないことは知っている。だけど吐きださずにはいられなくて、操はまた涙を滲ませた。
「……泣き虫タヌキ」
すると小さく息を漏らした甲洋が、澄ましたトーンでぽつりと言った。操は思わずムッとして、ポコンとしっぽを跳ねさせながら彼を睨みつけた。
「ぼくそんな名前じゃないもん! 来主操って名前があるもん!」
泣き虫じゃないし──とも言いかけて、やっぱりやめた。とっさに腹を立ててしまったけれど、甲洋の言う通りだったからだ。さっきからずっと泣き顔ばかり見せている。
なんだかバツが悪くて、操はぶぅっと唇を尖らせた。
「じゃあ来主、お前はちゃんとやれていた。羽佐間先生を助けたよ」
「え?」
「俺のところに来た」
「……でも、それってぼくが助けたとは言えないよ」
「来主が知らせてくれなければ、俺だってなにもできなかった。だから、来主がいてくれて助かった」
それはそうかもしれないが。なんだかいまいちピンと来ない。
だけどもし操がいなければ、一人きりの容子は今ごろどうなっていただろう。自力で助けを求めることさえできなかったはずだ。
操がそばにいたから、すぐに彼女の異変に気づくことができた。だから甲洋が来てくれて、容子を助けることができたのだ。
「そっか……ぼく、ちゃんとお母さんの役に立てたんだ……!」
現金なもので、考え方ひとつで操の心は驚くほど軽くなった。表情にも明るさが戻ってくる。ちょっと誇らしい気持ちにすらなってきて、操は人差し指で鼻の下をこすりながら「えへへ」と笑った。
「……単純」
「えー? なにか言った?」
「いや、なにも」
「そっか、えへへー」
操の笑顔に釣られたのか、甲洋はふっと口元に笑みを浮かべた。そしてまるでショコラにでもするみたいに、ふかふかの耳が生えた操の頭をくしゃりと撫でた。
「!」
驚いて息を呑んだのは二人同時だった。ポカンとする操に、彼はすぐさま背を向けた。
「じゃあ、俺はもう帰るから」
声はいつにもまして平坦で、押し殺したように低かった。
いよいよ帰ろうとしてドアノブに手をかける甲洋にハッとして、操は「待って」と引き止めた。
「……なに」
振り向かないまま、彼はぶっきらぼうな返事をする。
「どうして夜だと、葉っぱでもご飯がもらえるの?」
操はさっきの店でのやり取りが、ずっと胸に引っかかっていた。
思えば初めて偽札を持って店に突撃したときも、彼は「夜に出直せ」と言っていた。昼間は駄目で、夜ならいいというのはなぜなんだろう。
次はいつ会えるか分からないし、今しか聞くチャンスがないと思った。
「……気になるなら、一週間後の夜にまたおいで」
甲洋はそれだけ言うと帰っていった。
残された操は、彼が出ていった扉を見つめたまましばらく動くことができなかった。家の中はシンと静まり返っていて、今までのことがまるで夢のようだった。
「……笑った、よね?」
夢じゃないことを確かめるように、操は自分自身に問いかけた。時間差でジワジワと胸が熱くなってくる。
「わ、ぁ……わぁ……」
感嘆の声をしきりに漏らし、操はとっさに両手を頭にやった。左右それぞれの耳をきゅっと掴んで、頬を赤くする。大きな手の感触が、まだそこに残っているような気がした。だんだん耳まで熱くなる。
「ぼくに笑ってくれたんだ!」
ショコラにしていたみたいに、優しく頭を撫でながら。
操はそこでようやく、自分がショコラを羨んでいたことに気がついた。あの坂道で、初めて彼の笑顔を見たときから。心のどこかでずっとそう思っていたことに。
どうして羨ましかったのかは分からないし、今だってこの感情につける名前を持たないけれど。
(嬉しい……!)
それだけは確かで、操はぎゅうぎゅうと耳を握りしめたまま喜びに胸を波打たせた。
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