2025/07/11 Fri まるで叩きつけられるようにして、乱暴にベッドへ突き飛ばされたとき、ファイは一体なにが起こったのか、まるで理解することが出来なかった。 ただ宝石のような青い瞳を見開き、相手を見上げて呆然とする。 「黒様先生……?」 見下ろしてくる黒鋼の表情は冷たく、なんの感情も読み取ることが出来ない。だが、その紅い瞳にはどこか灰暗い感情が秘められている気がして。 (もしかして、怒ってる……?) 明らかに普段と様子の異なる彼に、不安を覚えたファイは、慌てて身を起こそうとした。が、それより早く黒鋼がベッドに乗り上げてくる。 「く、黒たん!?」 咄嗟に抗おうとした両腕を掴まれ、体重をかけられることであっさり捻じ伏せられた。押さえつけられた両腕が、軋んだ音を立てる。 「痛いっ! ちょ、ちょっと! 痛いってば……ッ!!」 なぜ唐突にこのような扱いを受けるのか、痛みと混乱に、ファイは無駄と知りつつそれでも抵抗を止めなかった。身体を押さえ込まれてなお、身を捩り逃れるべく必死で足掻く。 黒鋼とするのはもちろん好きだ。だが、こんな風に強引に求められたことなど、ましてや乱暴に扱われたことなど今まで一度だってなかった。なぜこんなことになっているのか、せめて訳くらいは聞かせてほしい。 黒鋼がファイの纏うシャツの合わせを強引に掴み上げる。そのままブツブツッ、という嫌な音と共にボタンが飛び散り、引きちぎられたシャツの合間から白い肌が覗いた。 「ッ……!」 首筋に這わされた唇の熱さに、ファイは初めて黒鋼を相手に恐ろしいと感じた。 (これじゃレイプと変わらない……!) こんなものは自分の知る黒鋼ではない。彼は強面だし、不器用ではあるが、根は誰よりも優しいのだ。絶対に、こんなことをする男ではないはずだった。 ファイはジャージ越しでも分かるほど、その肩に強く爪を立てて引き剥がそうとした。そして手も足も、身体全体を使ってこれ以上ないほど強く抵抗を示す。 「黒たんっ! お願いっ、ホントに嫌なの!! ねぇやだってば……ッ!」 激しく首を振って暴れるファイに、これまでピクリとも表情を動かさなかった黒鋼が、眉間に皺を寄せて物騒な舌打ちをした。 そして次の瞬間。 何かが弾けるみたいな、軽やかな音が室内に響いた。 瞬きも忘れて、ただ茫然と黒鋼を見上げる。驚きの方が勝り、痛みは感じなかった。何が起こったのか理解できない。 「ぁ……」 身を横たえているはずなのに、頭がクラクラして仕方がない。けれど、物理的な衝撃より、精神的なショックの方が何倍も大きかった。 (オレ……黒様にぶたれちゃった……) 恐る恐る触れた右の頬が熱かった。じわじわと熱が増すたびに、痛みが遅れて込み上げてくる。 こんなふうにぶたれたのは、これが初めてだ。タンコブが出来るほどのゲンコツの方が、いっそずっと優しい。 黒鋼は、すっと瞳を眇めてただファイを見下ろしている。 ポロポロと、自然に零れ出す涙で視界が滲む。心ごと打ちのめされた気がして、ファイは全身から一気に力を抜いた。パサリと音を立てて、両手がシーツの上に落ちた。 それが合図だとでもいうかのように、黒鋼が本格的にファイに覆いかぶさった。やだ、というか細い悲鳴など、彼の耳に届きはしない。 「やぁ……ぅ、い、たぃ……」 鼻を啜り、小さくしゃくり上げながら緩く首を振る。荒々しい動きで這い回る舌と唇が、時折鋭く歯を立てながら乱暴に痕を残していく。 節くれだった指に、ぷっくりと浮き上がる柔らかな乳首を強く擦られると、思わず喉が引き攣った。 快感よりも、痛みの方が大きい。けれど男に抱かれる行為を知っている身体は、無意識に快楽を拾い上げようとする。やがて痛みさえも悦びに塗り替えていくのに、時間はかからなかった。 ただファイにとって恐ろしいのは、こういった己の体質や性癖に、気持ちがついていかないことだ。戸惑いを飲み込むことができるまで、この浅ましい身体は待ってもくれないし、黒鋼の性急な愛撫もいっそう激しくなるばかりだった。 「ッ――!」 無意識に逃げを打とうとする腰に黒鋼の熱い手がかかる。ベルトを外す金属音が、今日はやけに残酷なものに聞こえる気がした。 抵抗しようとして、けれど先刻のあの衝撃を思いだして身を強張らせる。ぶたれた頬の熱さが、ファイの動きを封じてしまう。もう、あんなふうに暴力をふるわれるのは嫌だった。 見かけによらず器用なはずの彼の手が苛立ったように蠢き、ファイの下肢を守るもの全てを乱暴に剥いてしまった。もはや残されたのは中途半端に前を暴かれた白いシャツだけ。 太腿の内側を強く掴まれ、一気に押し開かれる。ファイは涙を溜めた瞳を見開いた。無理矢理に強いられている行為のはずが、身体の中心に息づく性器は、僅かながらに勃起していた。 黒鋼が鼻で笑う気配がして、けれど羞恥を痛感する間もなく、性器をぐっと掴まれる。全身を陸に打ち上げられた魚のように大きくしならせ、声もなく喉を反らした。 半勃ちのそれが、大きな手の中で扱かれる。押し潰されそうで、身が竦む。それでも黒鋼は手を止めない。その腕に両手を伸ばし、縋るように爪を立てた。 「ひっ、ぐ……ッ! ぁ、やだぁ……ッ! 黒、お願い……ッ、乱暴に、しないでぇ……ッ!」 「うるせぇな。だったらてめぇのこれは、なんだってこんなに濡れてきやがる?」 「ああぁ……ッ!!」 ぐりっと、親指の爪の先がデリケートな性器の窪みを抉った。絶頂の大波が全身を飲み込み、目の前が一瞬白く光ったような気がする。 黒鋼が再び鼻で嘲笑う。白濁の液で濡れた手を幾度か振れば、幾つも赤い痕の残るファイの胸や腹に、それがパタパタと降りかかる。 ファイは射精したばかりの敏感な身体を痙攣させながら、涙で頬を濡らした。両手で顔を覆い、もうやめて、と幾度も訴えた。 「もうやだよ……こんなのひどいよ……やめてよ……」 「てめぇ一人が出すもん出して終われると思ってんのか?」 「ッ……!?」 力なくベッドに沈むだけだった身体を、いとも簡単に引っくり返され、気がつくとファイは犬のように四つん這いにさせられていた。 尻だけを高く相手に突き出すような姿勢に、慌てて身体を捻ろうとして後頭部を鷲掴みにされる。そのままシーツに頬を強く押し付けられた。腫れている方の頬がシーツに擦れて、ファイはその痛みに呻く。 「ぅぐ……っ!」 先刻ファイが放ったもので濡れた指が、剥きだしの尻穴に押し付けられた。悲鳴を上げる間もなく、それが一気に2本も捻じ込まれる。 「――ッ!?」 太い指がなんの躊躇いもなく奥まで押し込まれ、ファイは大きく背中をしならせてシーツを掻いた。痛みより、息苦しさが競りあがってくる。 いつもは潤滑油を駆使して、じっくりと時間をかけて慣らされるのだ。じれったくて、ファイが急かしても黒鋼は決して妥協しない。一本、二本、と優しく開かれていくはずなのに。 指はそのまま、幾度かおざなりに出入りした後ズルリと引き抜かれた。 けれどほっと息をつく間もなく熱いものが入り口に押し付けられて、ビクリと身体が跳ねた。 頭部を鷲掴みにしていた手が腰をぐっと掴んで引き寄せようとする。首だけをどうにか捻り、あまりの恐怖に目を見開いた。 「黒、さま……? ま、って……、ぅ、そ……? ま……っ!?」 力の入らない腰を捩ってズルズルと逃げを打つ。けれど腰を強く引かれるのと、打ち付けられるのは同時だった。衝撃に背筋が弓のように反り返り、涙が辺りに飛び散った。 満足に声を出すことも出来ず、開かれたままの唇からは唾液が零れる。 引き裂かれるような痛み。あまりにも小さすぎる穴は、満足に潤いもないままに硬く大きな性器を飲み込まされ、悲鳴を上げている。 「ぁっ、ぐ……ッ! ぅ、うぅ……ッ!!」 黒鋼が、最後の一押しとでも言うかのように腰をぐっと押し進めた。ガツンというぶつかるような衝撃が、内部から脳天にかけて響き渡る。 上半身をすっかり脱力させて小刻みに震えるファイの頭上で、黒鋼は一つ息を吐き出すのが聞こえた。それから、小さく笑うような息遣いも。涙が、シーツにシミを作る。 「ど、して……こんなこと、するの……酷い……よ」 「そんなもん」 黒鋼が掴んでいる腰に再び力を入れた。ファイもギクリと全身を強張らせる。 「てめぇの胸にでも聞いてみやがれ」 「ひぎッ、ぃっ……!? や、あぁぁ……!!」 有無を言わさず、ぎちぎちと食いついて余裕の無い穴を肉棒が蹂躙する。ブチ、という音がして、皮膚が割けて傷ついたことがわかった。皮肉なことに、その出血が黒鋼の突き上げる動きの助けになる。 あまりの痛みと衝撃に、ファイはもはや切れ切れに悲鳴を上げて、シーツに縋りつくことしか術はなかった。 自分が何をしたというのだろう。どうして、彼はこれほどまでに豹変してしまったのか。 もし何か気に障ることをしてしまったのなら謝りたい。これ以上、自分に彼を恐がらせないでほしい。大好きなのに。彼が望むなら、どんな酷いことだって受け入れるのに。けれど、こんなふうに人形のように扱われるのだけは、あまりにも悲しかった。 「ぃ、ぎッ、……! ぁぐっ……! あっ、ぃ、痛い……―っ! 痛い、よぉ……ッ!!」 ガクガクと舌を噛みそうになるほど激しく揺さぶられて、このまま腹を破られてしまうのではないかという恐怖に駆られる。こんなにも深く咥えこまされたのも、これが初めてだった。 「ぉ、なか、お腹、が……ッ! 黒、さまっ……ッ、たす、けて……ッ!」 腹の中いっぱいに黒鋼の肉が容赦なく打ち込まれては、淫らな音を立てる。レイプされているというのに、やはりファイの意思は置いてきぼりを食らい、激痛の中によく知る感覚が生まれつつあった。 腰を打ちつけながら、黒鋼がそれを察して低く笑った。 「てめぇのここは悦んでるじゃねぇか……だらしねぇな、この淫乱が……ッ」 パンッと一つ尻の肉を叩かれ、ファイは犬のような甲高い悲鳴を上げて、背を反らした。 その隙をついて黒鋼の両手が伸びてくると、それぞれ背後からファイの二の腕を掴んで引き上げる。強引に膝立ちの姿勢にまで引き上げられて、ファイはその薄い胸を天井に向けて突き出す形になった。腹につくほど反り返った性器が粒のような液を滴らせ、揺さぶられる度に淫らに散っていた。 「やっ、ぁんっ……ッ! ちがうっ、オレ、違う、の……ッ! こんッ、なの、ッ……ちがっ……!」 「何が違うって? 強姦されて、メスブタみてぇによがってるてめぇの、何が違うってんだ?」 耳を塞ぎたくなるような黒鋼の言葉ごと、ファイは最早それを快感として受け止めていた。そうだ、無理矢理に犯されて、酷いことを言われて、この身体は上り詰めようとしている。 人形のように、玩具のように。弄ばれて犯されて、感じているのだ。 せめてもの抵抗は、ただひたすら「違う」だとか「嫌」だとかいう否定の言葉を、嫌々と首を振りながら紡ぐことのみだ。 けれどそれも、甘い嬌声に満ちている。 (嫌なのに……ちゃんと優しくしてほしいのに、オレ……もう……) 「だめっ……! あっ……ぃ、い……! イッちゃう……ッ! オレ、レイプされて、イッちゃう……ッ!!」 「いけよ、たっぷり出してやる……ッ」 「ヒッ……!? ぅあ……! だ、め……ッ、ナカ、やだ……ッ、や、ぁ――……ッ!!」 本当に突き破られるのではないかというくらい、一際強く突かれた瞬間、ファイは絶頂を迎えた。勢いよく飛び出した精液が胸や顔にまでかかり、同時に耳元で低い唸り声が聞こえた。 内部でドクドクと脈打つ黒鋼が、熱い迸りで内壁を満たす。断続的に中に出されるたびに、ファイは大きく痙攣した。 「ぁ、ぁ……でて、る……黒様のせーし、いっぱぃ……出ちゃって、る……」 黒鋼が獣のように吐息を震わせながら、肉棒を引き抜いた。同時に手綱のように掴まれていた両腕も放されて、ファイは尻だけを高く掲げたまま、上半身をぐったりとシーツに沈めた。痙攣が治まらない。 尻の肉を掴まれてぐっと押し広げられると、ヒクつく穴からドロリとした精液が大量に零れ落ちる。黒鋼は人差し指を中に押し込み、馴染ませるようにして掻き回すと、口元を緩めた。 「まだだ。もっと犯してやるよ」 「もっ……と……?」 (もっと……して欲しい……) もはや何も考えられない。思考や理性など、とうに輪郭を失っていた。 自分の胸に聞いてみろ。そう言った黒鋼の言葉。そうだ、これを、これこそを、ファイは望んでいた。 もっともっと、奴隷のようにいたぶられたい。どろどろに穢して欲しい。彼なら、それを叶えてくれる……。 ――ファイは虚ろな瞳で微笑んだ。 * 「て、ゆう夢を見たんだー」 穏やかな木漏れ日の差す昼下がりだった。 校庭を一望できる木陰のベンチで、ファイがヘラヘラと笑った。 黒鋼は口に放り込んだばかりのタコさんウィンナーを、ブッと噴出す。 「食べものは粗末にしないでください」 ユゥイが無表情でティッシュを取り出し、砂に塗れたウィンナーを拾った。 「てめぇ、なんつう胸糞悪い夢を見てやがる! てめぇも落ち着いてねぇで、変態兄貴になんとか言いやがれ!!」 「ほらファイ、口にご飯粒つけてるよ」 「んー、ありがとーユゥイー」 ユゥイが指でファイの口元の白い粒を摘んで、それを自分の口元に運び入れた。 そうして黒鋼を挟むようにして弁当をつついていた双子が、仲睦まじく笑い合っている。黒鋼の膝は、もはやユゥイが作ってきた弁当を置くためのテーブル代わりだった。 「聞いてんのか!?」 「ちょっとー、黒たん先生が暴れたらお弁当落ちちゃうでしょー」 「だから聞け!!」 一向に人の話を聞こうとしない2人に、黒鋼はちょっと涙目である。ファイは甘い玉子焼きをもちゃもちゃと頬張りながら、ウットリと空を見上げた。 「鬼畜な黒様先生、すっごいカッコよくてゾクゾクしちゃったよー……ねぇねぇ、今夜やってよー」 「はぁ!?」 いくらすっかりバレているとはいえ、兄弟がいる前でなんという発言をかますのか。 「黒様先生はちょっと淡泊すぎだよー。本当は無理矢理とか、ちょっとやってみたいくせにー」 もう怒鳴り散らすのも疲れきっていた。実際はゲンコツの一つもかましてやりたいところだが、それをすれば本当に膝の上の弁当箱が引っくり返る。そうすれば、お隣の弟さんにどんな仕打ちを受けるか分からない。 ファイは相変わらず耳を塞ぎたくなるような夢の内容を語り続けている。 「先生」 ブルブルと苛立ちに震える黒鋼の傍らから、勤めて冷静な声が呼びかけてきた。 「あ?」 「尻に拳を捻じ込まれたくなかったら、実際そんな馬鹿な真似しないでくださいね。絶対」 「……ッ!?」 「黒鋼先生、処女でしょ? いきなり拳はキツイですよ」 だから、ね? と握った拳を見せ付けつつ微笑むユゥイ。暗にもなにも、あからさまに『ファイにそんな真似したらケツの穴ガバガバにすんぞ』という、真昼間のフィスト宣言である。 なぜファイが勝手に見たとんでもない夢のせいで、自分がそのような宣言をされなければならないのか……。 ウゾゾ、と駆け抜けた悪寒に、黒鋼は自らの身体をぎゅっと抱きしめた。 ←戻る ・ Wavebox👏
ただ宝石のような青い瞳を見開き、相手を見上げて呆然とする。
「黒様先生……?」
見下ろしてくる黒鋼の表情は冷たく、なんの感情も読み取ることが出来ない。だが、その紅い瞳にはどこか灰暗い感情が秘められている気がして。
(もしかして、怒ってる……?)
明らかに普段と様子の異なる彼に、不安を覚えたファイは、慌てて身を起こそうとした。が、それより早く黒鋼がベッドに乗り上げてくる。
「く、黒たん!?」
咄嗟に抗おうとした両腕を掴まれ、体重をかけられることであっさり捻じ伏せられた。押さえつけられた両腕が、軋んだ音を立てる。
「痛いっ! ちょ、ちょっと! 痛いってば……ッ!!」
なぜ唐突にこのような扱いを受けるのか、痛みと混乱に、ファイは無駄と知りつつそれでも抵抗を止めなかった。身体を押さえ込まれてなお、身を捩り逃れるべく必死で足掻く。
黒鋼とするのはもちろん好きだ。だが、こんな風に強引に求められたことなど、ましてや乱暴に扱われたことなど今まで一度だってなかった。なぜこんなことになっているのか、せめて訳くらいは聞かせてほしい。
黒鋼がファイの纏うシャツの合わせを強引に掴み上げる。そのままブツブツッ、という嫌な音と共にボタンが飛び散り、引きちぎられたシャツの合間から白い肌が覗いた。
「ッ……!」
首筋に這わされた唇の熱さに、ファイは初めて黒鋼を相手に恐ろしいと感じた。
(これじゃレイプと変わらない……!)
こんなものは自分の知る黒鋼ではない。彼は強面だし、不器用ではあるが、根は誰よりも優しいのだ。絶対に、こんなことをする男ではないはずだった。
ファイはジャージ越しでも分かるほど、その肩に強く爪を立てて引き剥がそうとした。そして手も足も、身体全体を使ってこれ以上ないほど強く抵抗を示す。
「黒たんっ! お願いっ、ホントに嫌なの!! ねぇやだってば……ッ!」
激しく首を振って暴れるファイに、これまでピクリとも表情を動かさなかった黒鋼が、眉間に皺を寄せて物騒な舌打ちをした。
そして次の瞬間。
何かが弾けるみたいな、軽やかな音が室内に響いた。
瞬きも忘れて、ただ茫然と黒鋼を見上げる。驚きの方が勝り、痛みは感じなかった。何が起こったのか理解できない。
「ぁ……」
身を横たえているはずなのに、頭がクラクラして仕方がない。けれど、物理的な衝撃より、精神的なショックの方が何倍も大きかった。
(オレ……黒様にぶたれちゃった……)
恐る恐る触れた右の頬が熱かった。じわじわと熱が増すたびに、痛みが遅れて込み上げてくる。
こんなふうにぶたれたのは、これが初めてだ。タンコブが出来るほどのゲンコツの方が、いっそずっと優しい。
黒鋼は、すっと瞳を眇めてただファイを見下ろしている。
ポロポロと、自然に零れ出す涙で視界が滲む。心ごと打ちのめされた気がして、ファイは全身から一気に力を抜いた。パサリと音を立てて、両手がシーツの上に落ちた。
それが合図だとでもいうかのように、黒鋼が本格的にファイに覆いかぶさった。やだ、というか細い悲鳴など、彼の耳に届きはしない。
「やぁ……ぅ、い、たぃ……」
鼻を啜り、小さくしゃくり上げながら緩く首を振る。荒々しい動きで這い回る舌と唇が、時折鋭く歯を立てながら乱暴に痕を残していく。
節くれだった指に、ぷっくりと浮き上がる柔らかな乳首を強く擦られると、思わず喉が引き攣った。
快感よりも、痛みの方が大きい。けれど男に抱かれる行為を知っている身体は、無意識に快楽を拾い上げようとする。やがて痛みさえも悦びに塗り替えていくのに、時間はかからなかった。
ただファイにとって恐ろしいのは、こういった己の体質や性癖に、気持ちがついていかないことだ。戸惑いを飲み込むことができるまで、この浅ましい身体は待ってもくれないし、黒鋼の性急な愛撫もいっそう激しくなるばかりだった。
「ッ――!」
無意識に逃げを打とうとする腰に黒鋼の熱い手がかかる。ベルトを外す金属音が、今日はやけに残酷なものに聞こえる気がした。
抵抗しようとして、けれど先刻のあの衝撃を思いだして身を強張らせる。ぶたれた頬の熱さが、ファイの動きを封じてしまう。もう、あんなふうに暴力をふるわれるのは嫌だった。
見かけによらず器用なはずの彼の手が苛立ったように蠢き、ファイの下肢を守るもの全てを乱暴に剥いてしまった。もはや残されたのは中途半端に前を暴かれた白いシャツだけ。
太腿の内側を強く掴まれ、一気に押し開かれる。ファイは涙を溜めた瞳を見開いた。無理矢理に強いられている行為のはずが、身体の中心に息づく性器は、僅かながらに勃起していた。
黒鋼が鼻で笑う気配がして、けれど羞恥を痛感する間もなく、性器をぐっと掴まれる。全身を陸に打ち上げられた魚のように大きくしならせ、声もなく喉を反らした。
半勃ちのそれが、大きな手の中で扱かれる。押し潰されそうで、身が竦む。それでも黒鋼は手を止めない。その腕に両手を伸ばし、縋るように爪を立てた。
「ひっ、ぐ……ッ! ぁ、やだぁ……ッ! 黒、お願い……ッ、乱暴に、しないでぇ……ッ!」
「うるせぇな。だったらてめぇのこれは、なんだってこんなに濡れてきやがる?」
「ああぁ……ッ!!」
ぐりっと、親指の爪の先がデリケートな性器の窪みを抉った。絶頂の大波が全身を飲み込み、目の前が一瞬白く光ったような気がする。
黒鋼が再び鼻で嘲笑う。白濁の液で濡れた手を幾度か振れば、幾つも赤い痕の残るファイの胸や腹に、それがパタパタと降りかかる。
ファイは射精したばかりの敏感な身体を痙攣させながら、涙で頬を濡らした。両手で顔を覆い、もうやめて、と幾度も訴えた。
「もうやだよ……こんなのひどいよ……やめてよ……」
「てめぇ一人が出すもん出して終われると思ってんのか?」
「ッ……!?」
力なくベッドに沈むだけだった身体を、いとも簡単に引っくり返され、気がつくとファイは犬のように四つん這いにさせられていた。
尻だけを高く相手に突き出すような姿勢に、慌てて身体を捻ろうとして後頭部を鷲掴みにされる。そのままシーツに頬を強く押し付けられた。腫れている方の頬がシーツに擦れて、ファイはその痛みに呻く。
「ぅぐ……っ!」
先刻ファイが放ったもので濡れた指が、剥きだしの尻穴に押し付けられた。悲鳴を上げる間もなく、それが一気に2本も捻じ込まれる。
「――ッ!?」
太い指がなんの躊躇いもなく奥まで押し込まれ、ファイは大きく背中をしならせてシーツを掻いた。痛みより、息苦しさが競りあがってくる。
いつもは潤滑油を駆使して、じっくりと時間をかけて慣らされるのだ。じれったくて、ファイが急かしても黒鋼は決して妥協しない。一本、二本、と優しく開かれていくはずなのに。
指はそのまま、幾度かおざなりに出入りした後ズルリと引き抜かれた。
けれどほっと息をつく間もなく熱いものが入り口に押し付けられて、ビクリと身体が跳ねた。
頭部を鷲掴みにしていた手が腰をぐっと掴んで引き寄せようとする。首だけをどうにか捻り、あまりの恐怖に目を見開いた。
「黒、さま……? ま、って……、ぅ、そ……? ま……っ!?」
力の入らない腰を捩ってズルズルと逃げを打つ。けれど腰を強く引かれるのと、打ち付けられるのは同時だった。衝撃に背筋が弓のように反り返り、涙が辺りに飛び散った。
満足に声を出すことも出来ず、開かれたままの唇からは唾液が零れる。
引き裂かれるような痛み。あまりにも小さすぎる穴は、満足に潤いもないままに硬く大きな性器を飲み込まされ、悲鳴を上げている。
「ぁっ、ぐ……ッ! ぅ、うぅ……ッ!!」
黒鋼が、最後の一押しとでも言うかのように腰をぐっと押し進めた。ガツンというぶつかるような衝撃が、内部から脳天にかけて響き渡る。
上半身をすっかり脱力させて小刻みに震えるファイの頭上で、黒鋼は一つ息を吐き出すのが聞こえた。それから、小さく笑うような息遣いも。涙が、シーツにシミを作る。
「ど、して……こんなこと、するの……酷い……よ」
「そんなもん」
黒鋼が掴んでいる腰に再び力を入れた。ファイもギクリと全身を強張らせる。
「てめぇの胸にでも聞いてみやがれ」
「ひぎッ、ぃっ……!? や、あぁぁ……!!」
有無を言わさず、ぎちぎちと食いついて余裕の無い穴を肉棒が蹂躙する。ブチ、という音がして、皮膚が割けて傷ついたことがわかった。皮肉なことに、その出血が黒鋼の突き上げる動きの助けになる。
あまりの痛みと衝撃に、ファイはもはや切れ切れに悲鳴を上げて、シーツに縋りつくことしか術はなかった。
自分が何をしたというのだろう。どうして、彼はこれほどまでに豹変してしまったのか。
もし何か気に障ることをしてしまったのなら謝りたい。これ以上、自分に彼を恐がらせないでほしい。大好きなのに。彼が望むなら、どんな酷いことだって受け入れるのに。けれど、こんなふうに人形のように扱われるのだけは、あまりにも悲しかった。
「ぃ、ぎッ、……! ぁぐっ……! あっ、ぃ、痛い……―っ! 痛い、よぉ……ッ!!」
ガクガクと舌を噛みそうになるほど激しく揺さぶられて、このまま腹を破られてしまうのではないかという恐怖に駆られる。こんなにも深く咥えこまされたのも、これが初めてだった。
「ぉ、なか、お腹、が……ッ! 黒、さまっ……ッ、たす、けて……ッ!」
腹の中いっぱいに黒鋼の肉が容赦なく打ち込まれては、淫らな音を立てる。レイプされているというのに、やはりファイの意思は置いてきぼりを食らい、激痛の中によく知る感覚が生まれつつあった。
腰を打ちつけながら、黒鋼がそれを察して低く笑った。
「てめぇのここは悦んでるじゃねぇか……だらしねぇな、この淫乱が……ッ」
パンッと一つ尻の肉を叩かれ、ファイは犬のような甲高い悲鳴を上げて、背を反らした。
その隙をついて黒鋼の両手が伸びてくると、それぞれ背後からファイの二の腕を掴んで引き上げる。強引に膝立ちの姿勢にまで引き上げられて、ファイはその薄い胸を天井に向けて突き出す形になった。腹につくほど反り返った性器が粒のような液を滴らせ、揺さぶられる度に淫らに散っていた。
「やっ、ぁんっ……ッ! ちがうっ、オレ、違う、の……ッ! こんッ、なの、ッ……ちがっ……!」
「何が違うって? 強姦されて、メスブタみてぇによがってるてめぇの、何が違うってんだ?」
耳を塞ぎたくなるような黒鋼の言葉ごと、ファイは最早それを快感として受け止めていた。そうだ、無理矢理に犯されて、酷いことを言われて、この身体は上り詰めようとしている。
人形のように、玩具のように。弄ばれて犯されて、感じているのだ。
せめてもの抵抗は、ただひたすら「違う」だとか「嫌」だとかいう否定の言葉を、嫌々と首を振りながら紡ぐことのみだ。
けれどそれも、甘い嬌声に満ちている。
(嫌なのに……ちゃんと優しくしてほしいのに、オレ……もう……)
「だめっ……! あっ……ぃ、い……! イッちゃう……ッ! オレ、レイプされて、イッちゃう……ッ!!」
「いけよ、たっぷり出してやる……ッ」
「ヒッ……!? ぅあ……! だ、め……ッ、ナカ、やだ……ッ、や、ぁ――……ッ!!」
本当に突き破られるのではないかというくらい、一際強く突かれた瞬間、ファイは絶頂を迎えた。勢いよく飛び出した精液が胸や顔にまでかかり、同時に耳元で低い唸り声が聞こえた。
内部でドクドクと脈打つ黒鋼が、熱い迸りで内壁を満たす。断続的に中に出されるたびに、ファイは大きく痙攣した。
「ぁ、ぁ……でて、る……黒様のせーし、いっぱぃ……出ちゃって、る……」
黒鋼が獣のように吐息を震わせながら、肉棒を引き抜いた。同時に手綱のように掴まれていた両腕も放されて、ファイは尻だけを高く掲げたまま、上半身をぐったりとシーツに沈めた。痙攣が治まらない。
尻の肉を掴まれてぐっと押し広げられると、ヒクつく穴からドロリとした精液が大量に零れ落ちる。黒鋼は人差し指を中に押し込み、馴染ませるようにして掻き回すと、口元を緩めた。
「まだだ。もっと犯してやるよ」
「もっ……と……?」
(もっと……して欲しい……)
もはや何も考えられない。思考や理性など、とうに輪郭を失っていた。
自分の胸に聞いてみろ。そう言った黒鋼の言葉。そうだ、これを、これこそを、ファイは望んでいた。
もっともっと、奴隷のようにいたぶられたい。どろどろに穢して欲しい。彼なら、それを叶えてくれる……。
――ファイは虚ろな瞳で微笑んだ。
*
「て、ゆう夢を見たんだー」
穏やかな木漏れ日の差す昼下がりだった。
校庭を一望できる木陰のベンチで、ファイがヘラヘラと笑った。
黒鋼は口に放り込んだばかりのタコさんウィンナーを、ブッと噴出す。
「食べものは粗末にしないでください」
ユゥイが無表情でティッシュを取り出し、砂に塗れたウィンナーを拾った。
「てめぇ、なんつう胸糞悪い夢を見てやがる! てめぇも落ち着いてねぇで、変態兄貴になんとか言いやがれ!!」
「ほらファイ、口にご飯粒つけてるよ」
「んー、ありがとーユゥイー」
ユゥイが指でファイの口元の白い粒を摘んで、それを自分の口元に運び入れた。
そうして黒鋼を挟むようにして弁当をつついていた双子が、仲睦まじく笑い合っている。黒鋼の膝は、もはやユゥイが作ってきた弁当を置くためのテーブル代わりだった。
「聞いてんのか!?」
「ちょっとー、黒たん先生が暴れたらお弁当落ちちゃうでしょー」
「だから聞け!!」
一向に人の話を聞こうとしない2人に、黒鋼はちょっと涙目である。ファイは甘い玉子焼きをもちゃもちゃと頬張りながら、ウットリと空を見上げた。
「鬼畜な黒様先生、すっごいカッコよくてゾクゾクしちゃったよー……ねぇねぇ、今夜やってよー」
「はぁ!?」
いくらすっかりバレているとはいえ、兄弟がいる前でなんという発言をかますのか。
「黒様先生はちょっと淡泊すぎだよー。本当は無理矢理とか、ちょっとやってみたいくせにー」
もう怒鳴り散らすのも疲れきっていた。実際はゲンコツの一つもかましてやりたいところだが、それをすれば本当に膝の上の弁当箱が引っくり返る。そうすれば、お隣の弟さんにどんな仕打ちを受けるか分からない。
ファイは相変わらず耳を塞ぎたくなるような夢の内容を語り続けている。
「先生」
ブルブルと苛立ちに震える黒鋼の傍らから、勤めて冷静な声が呼びかけてきた。
「あ?」
「尻に拳を捻じ込まれたくなかったら、実際そんな馬鹿な真似しないでくださいね。絶対」
「……ッ!?」
「黒鋼先生、処女でしょ? いきなり拳はキツイですよ」
だから、ね? と握った拳を見せ付けつつ微笑むユゥイ。暗にもなにも、あからさまに『ファイにそんな真似したらケツの穴ガバガバにすんぞ』という、真昼間のフィスト宣言である。
なぜファイが勝手に見たとんでもない夢のせいで、自分がそのような宣言をされなければならないのか……。
ウゾゾ、と駆け抜けた悪寒に、黒鋼は自らの身体をぎゅっと抱きしめた。
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