2025/07/11 Fri 12月26日・日曜日・雪 クリスマス明けの日曜日。 イヴも昨日もずっと侑子先生たちと飲み明かしてたから、結局今年も二人きりでしっぽり~は出来なかったけど、お酒も料理も美味しかったし楽しかったからまぁいいや。 どうせ明日からユゥイは里帰りするし、その間ずーっと黒たん先生の部屋にいるもんね。いいもんね。 でも今日は流石にちょっとだるくて、二人でのんびり過ごした。 たった二日飲み明かしただけなのに、オレのお腹がちょっとぷにってしちゃった気がするのはきっと気のせいだよね。 でも、万が一ってこともあるから、今日はお菓子は我慢しよう。 なんて思っていたら、黒たん先生が不思議なことをしはじめたから、ビックリしたなぁ……。 「黒たん」 「なんだよ」 「なにしてるのー?」 「探してんだよ」 「……?」 ひとつ、ふたつ、みっつ……と、黒鋼は大きな手の太い指先で何かをちまちまと摘んではそれを確かめて、テーブルに並べていた。 彼の側にはファイが買い置きしておいた菓子のひとつ、コ●ラのマーチが置かれている。 封を開けた記憶はないのだが、いつの間にか開封されていた。 黒鋼はその中のコアラをひとつひとつ摘んで何か真剣にその絵柄と向き合っていた。 「探してるって……なにを?」 彼は甘いものが嫌いだ。 基本的に間食というのもあまりしない。 だからそんな黒鋼が菓子を手にしていること自体、ちょっと不思議な気がした。 「眉毛つきのコアラだよ。おまえ知ってるか?」 「えっと、たまにレアなのが混ざってる~とかいうやつー?」 こくりと、こちらを見ないまま黒鋼が頷いた。 「見つけるとなんかいいことあるらしいぞ」 「……へぇ~」 確かテレビか何かでその昔、女子高生の間で流行ったとかなんとか言っていたような。 しかしファイにしてみれば、そのようなことを真顔で言いつつコアラチェックしている黒鋼の方が、よほどレアに思えた。 そしてついつい、口をぽっかり開けて見入ってしまった。 「お、あったぞ」 人差し指と親指で摘んだそれを高く掲げて黒鋼は少し嬉しそうだった。(真顔だが) ファイもつい興味をそそられて、黒鋼の肩にぴったりくっつくとそれを覗きこんだ。 「あ、ホントだー……」 ちょっと怒ったように眉を吊り上げているコアラ。少し黒鋼に似ていて、思わずふきだしそうになった。 そんなファイに気付かず、黒鋼がその怒ったコアラを口元に差し出してくる。 「食え」 「えー?」 「おら、いいことあるぞ」 言いながら唇にむにっと押し当てられたので、ファイは戸惑いつつもそれを口の中に収めた。 噛み砕くと、中のチョコレートがふわりと溶けだした。 あーあ、食べちゃった……と思いながら黒鋼を上目使いで見れば、彼はどこか満足そうな顔をしていた。(やっぱり真顔だが) 「美味いか」 「美味い……黒たんの味するよ」 「俺はそんな甘くねぇよ」 いや、十分すぎるほど甘い……と、ファイは思った。 1月3日・木曜日・曇りのち雪 今日はお正月休みの最終日。 三日ともなるとおめでたいムードもちょっと落ち着いてくる。 でも、お正月って昼間でもお笑い番組がやってて楽しいな。 オレがテレビを眺めている間、黒様先生も一緒に見てたけど特に笑っている様子はなかった。 この人の笑いのツボってどこにあるんだろう。 お腹抱えて笑うことってあるのかな? 見てみたいような、そうでないような。 そんなことをぼんやり考えてたら、黒様先生がいつの間にか、またなんか変なことしてた。 それは誰もが経験のある遊び。 食べ物で遊んではいけないと知りつつ、大人も子供もその誘惑には誰もが抗えない。 とん●りコーン……それは魅惑の菓子である。 「またなにかしてるのー?」 「ガキの頃はすっぽり入るのもあったんだがな」 大きさの不揃いなそれは、大人の指では先端にちょっとハマるだけで気をつけないとすぐに割れてしまう。 特に黒鋼の指ではハマるようなサイズを見つけるにも苦労するようだった。 だがいい具合のものを見つけるとそれを慎重に指先にハメる。 そしてそれをどうするかと見ていたら、なぜかおもむろにファイの口元に運ぶ。 「ちょ……」 まさかこれにも何かレアな種類や意味があるのだろうか…なんて思いつつ差し出されたそれを、大人しく食べた。 しゃりしゃり、もぐもぐ、ごくん。 しゃりしゃり、もぐもぐ、ごくん。 しゃりしゃり、もぐもぐ、ごくん。 暫しの間、その繰り返しだった。 「ね、ねぇ黒たん……オレ、実はあまりお腹空いてないんだけど」 しかし容赦なく尖った先端を押しつけられて、仕方なくまた口の中に入れた。 いっそのこと指ごと咥えてやろうかと考えたが、あとちょっとのところで間に合わない。 半ばムキになってもぐもぐしていると、なぜか急に彼は「ふっ」と小さく鼻で笑った。 「おまえ……食ってるときの顔がなんかに似てるな」 「えー? もう、なんなの一体」 「ウサギみてぇ」 「ちょ、やだ……それってオレがウサギみたいに可愛いってこと?」 「いや、ウサギの方が可愛いだろ普通に」 「んなっ!?」 文句の一つでも言ってやろうとして、だが再び押し込まれるとん●りコーン。 なんだよ……とファイは頬を膨らませながらもそれを噛み砕いた。 結局この男は人が物を食べているのを見るのが好きなだけなのではないか。 じっと見つめられるのがだんだん照れ臭くなってきて、ちょっと頬を染めた。 そして、どうしてこの人は時々こんなふうに可愛いことするんだろう……とファイは思った。 2月14日・月曜日・晴れ 今日はたくさんチョコレートをもらった……けど、毎年食べきれないんだよね。 黒たん先生は色んな人からおせんべいをもらってた。 みんな黒たんが甘いのダメって知ってるから。 侑子先生だけはオレでさえ気持ち悪くなっちゃうような甘いチョコを黒様にも渡してた。困った人だよね。 でも実はオレも人のこと言えない。 ユゥイに手伝ってもらってそれなりによく出来たチョコをプレゼントした。 凄く嫌そうな顔されちゃったけど……。 別に食べてもらえなくてもいいんだ。 毎年オレだけが黒たんに本命チョコを渡して、それを黒たんが受け取ってくれることが大事なの。 本当は食べてくれるのが一番嬉しいけどさ。 なんてあきらめてたら……見ちゃった……。 真夜中。 当たり前のように黒鋼の部屋で黒鋼のベッドに入り込んで眠っていたファイだが、ふと目が覚めた。 狭いだのなんだのと文句を言いつつ、くっついて寝てくれていたはずの黒鋼の温もりがない。 (あれ、黒たん先生……なにを……?) トイレにでも行ったのかと思ったが、黒鋼は側にいた。 部屋の中がほのかに明るいのは、どうやら音を消した状態のテレビをつけて照明代わりにしているからのようだ。 黒鋼はベッドの縁に背を預けて胡坐をかいているらしい。 なんとなく声をかけられずに、横目でちらちらとその背中を見た。 「……はぁ」 重々しい溜息が聞こえた。 なにやらとんでもなく思い詰めているように聞こえる。 「はぁー……」 これはただ事ではない気がした。 ファイは思わずその背中に触れようと手を伸ばしたが、すぐにピタリと止めた。 カサカサという音がしたからだ。 「?」 それからすぐに、「よっしゃ」という小さな掛け声が聞こえた。 (よ、よっしゃ……?) そして次は、ガリっという音がした。同時にチョコレートのほのかな香りがふんわりと漂う。 まさか、とファイは思った。 (黒たん、オレがあげたチョコを!?) 彼は義理チョコならぬ義理せんべいを大量に貰っていたし、理事長が嫌がらせで渡してきたチョコはファイに押し付けてきたから、彼が所持しているチョコレートといえば一つしかないはずだった。 あるいは知らぬ間にどこぞの泥棒猫が……? なんて考えなくもなかったが、今日は誰が何を黒鋼に渡すか、それなりに目を光らせていたのできっとそれはない。 「はぁ……」 何口か無言で食べ続けていた黒鋼が、俯いて溜息を零した。かなり無理をしつつそれでも耐えているらしい。 胸がじんとした……。 もしかしたら、毎年こうして我慢して食べてくれていたのかもしれない。 どうせ食べてくれないだろうからと、いつも思いっきり甘く作っているのに。そしてそれは今年のチョコも同じだった。 (黒たんのバカ) 嫌いなら、捨ててしまえばいいのに。 別に一度でも受け取ってくれたなら、返して寄こされたって気にしないのに。 無理して食べてほしくて渡してるんじゃないのに。 大好きの気持ちと、ほんのちょっとの意地悪で渡してるだけなのに。 彼はその後もかなりの時間をかけて、溜息を幾度も零しながらそれを食べ続けた。 ファイは涙ぐみながらもその背中をずっと見守っていた。 やがて完食し終えたのを見計らうと、声をかけた。 「……黒たん」 「おまえな……今年もまたえらくえげつねぇなコレ」 デカいしよ……と、黒鋼はこちらを振り向かずにボソリと言った。きっとHPは0に近い。 ファイは思わず声を出して笑った。そして、起き上ると背後からぎゅっと抱きついた。 「バカだなぁ黒たんは」 「起きてんなら言えよ」 「気付いてたくせにさー」 そしてようやく顔を向けて来た黒鋼の眉間の皺は、いつも以上に深かった。 ふふふと笑って、唇を重ねる。 呆れるくらいベタな味のするキスだなぁと、ファイは思った。 「来年からは、甘さ控えめにしてあげる」 唇が離れるとすぐにそう言ったファイに、黒鋼はやっぱり溜息を零しながら、「そいつはありがてぇな」と言って少しだけ笑った。 ←戻る ・ Wavebox👏
クリスマス明けの日曜日。
イヴも昨日もずっと侑子先生たちと飲み明かしてたから、結局今年も二人きりでしっぽり~は出来なかったけど、お酒も料理も美味しかったし楽しかったからまぁいいや。
どうせ明日からユゥイは里帰りするし、その間ずーっと黒たん先生の部屋にいるもんね。いいもんね。
でも今日は流石にちょっとだるくて、二人でのんびり過ごした。
たった二日飲み明かしただけなのに、オレのお腹がちょっとぷにってしちゃった気がするのはきっと気のせいだよね。
でも、万が一ってこともあるから、今日はお菓子は我慢しよう。
なんて思っていたら、黒たん先生が不思議なことをしはじめたから、ビックリしたなぁ……。
「黒たん」
「なんだよ」
「なにしてるのー?」
「探してんだよ」
「……?」
ひとつ、ふたつ、みっつ……と、黒鋼は大きな手の太い指先で何かをちまちまと摘んではそれを確かめて、テーブルに並べていた。
彼の側にはファイが買い置きしておいた菓子のひとつ、コ●ラのマーチが置かれている。
封を開けた記憶はないのだが、いつの間にか開封されていた。
黒鋼はその中のコアラをひとつひとつ摘んで何か真剣にその絵柄と向き合っていた。
「探してるって……なにを?」
彼は甘いものが嫌いだ。
基本的に間食というのもあまりしない。
だからそんな黒鋼が菓子を手にしていること自体、ちょっと不思議な気がした。
「眉毛つきのコアラだよ。おまえ知ってるか?」
「えっと、たまにレアなのが混ざってる~とかいうやつー?」
こくりと、こちらを見ないまま黒鋼が頷いた。
「見つけるとなんかいいことあるらしいぞ」
「……へぇ~」
確かテレビか何かでその昔、女子高生の間で流行ったとかなんとか言っていたような。
しかしファイにしてみれば、そのようなことを真顔で言いつつコアラチェックしている黒鋼の方が、よほどレアに思えた。
そしてついつい、口をぽっかり開けて見入ってしまった。
「お、あったぞ」
人差し指と親指で摘んだそれを高く掲げて黒鋼は少し嬉しそうだった。(真顔だが)
ファイもつい興味をそそられて、黒鋼の肩にぴったりくっつくとそれを覗きこんだ。
「あ、ホントだー……」
ちょっと怒ったように眉を吊り上げているコアラ。少し黒鋼に似ていて、思わずふきだしそうになった。
そんなファイに気付かず、黒鋼がその怒ったコアラを口元に差し出してくる。
「食え」
「えー?」
「おら、いいことあるぞ」
言いながら唇にむにっと押し当てられたので、ファイは戸惑いつつもそれを口の中に収めた。
噛み砕くと、中のチョコレートがふわりと溶けだした。
あーあ、食べちゃった……と思いながら黒鋼を上目使いで見れば、彼はどこか満足そうな顔をしていた。(やっぱり真顔だが)
「美味いか」
「美味い……黒たんの味するよ」
「俺はそんな甘くねぇよ」
いや、十分すぎるほど甘い……と、ファイは思った。
1月3日・木曜日・曇りのち雪
今日はお正月休みの最終日。
三日ともなるとおめでたいムードもちょっと落ち着いてくる。
でも、お正月って昼間でもお笑い番組がやってて楽しいな。
オレがテレビを眺めている間、黒様先生も一緒に見てたけど特に笑っている様子はなかった。
この人の笑いのツボってどこにあるんだろう。
お腹抱えて笑うことってあるのかな?
見てみたいような、そうでないような。
そんなことをぼんやり考えてたら、黒様先生がいつの間にか、またなんか変なことしてた。
それは誰もが経験のある遊び。
食べ物で遊んではいけないと知りつつ、大人も子供もその誘惑には誰もが抗えない。
とん●りコーン……それは魅惑の菓子である。
「またなにかしてるのー?」
「ガキの頃はすっぽり入るのもあったんだがな」
大きさの不揃いなそれは、大人の指では先端にちょっとハマるだけで気をつけないとすぐに割れてしまう。
特に黒鋼の指ではハマるようなサイズを見つけるにも苦労するようだった。
だがいい具合のものを見つけるとそれを慎重に指先にハメる。
そしてそれをどうするかと見ていたら、なぜかおもむろにファイの口元に運ぶ。
「ちょ……」
まさかこれにも何かレアな種類や意味があるのだろうか…なんて思いつつ差し出されたそれを、大人しく食べた。
しゃりしゃり、もぐもぐ、ごくん。
しゃりしゃり、もぐもぐ、ごくん。
しゃりしゃり、もぐもぐ、ごくん。
暫しの間、その繰り返しだった。
「ね、ねぇ黒たん……オレ、実はあまりお腹空いてないんだけど」
しかし容赦なく尖った先端を押しつけられて、仕方なくまた口の中に入れた。
いっそのこと指ごと咥えてやろうかと考えたが、あとちょっとのところで間に合わない。
半ばムキになってもぐもぐしていると、なぜか急に彼は「ふっ」と小さく鼻で笑った。
「おまえ……食ってるときの顔がなんかに似てるな」
「えー? もう、なんなの一体」
「ウサギみてぇ」
「ちょ、やだ……それってオレがウサギみたいに可愛いってこと?」
「いや、ウサギの方が可愛いだろ普通に」
「んなっ!?」
文句の一つでも言ってやろうとして、だが再び押し込まれるとん●りコーン。
なんだよ……とファイは頬を膨らませながらもそれを噛み砕いた。
結局この男は人が物を食べているのを見るのが好きなだけなのではないか。
じっと見つめられるのがだんだん照れ臭くなってきて、ちょっと頬を染めた。
そして、どうしてこの人は時々こんなふうに可愛いことするんだろう……とファイは思った。
2月14日・月曜日・晴れ
今日はたくさんチョコレートをもらった……けど、毎年食べきれないんだよね。
黒たん先生は色んな人からおせんべいをもらってた。
みんな黒たんが甘いのダメって知ってるから。
侑子先生だけはオレでさえ気持ち悪くなっちゃうような甘いチョコを黒様にも渡してた。困った人だよね。
でも実はオレも人のこと言えない。
ユゥイに手伝ってもらってそれなりによく出来たチョコをプレゼントした。
凄く嫌そうな顔されちゃったけど……。
別に食べてもらえなくてもいいんだ。
毎年オレだけが黒たんに本命チョコを渡して、それを黒たんが受け取ってくれることが大事なの。
本当は食べてくれるのが一番嬉しいけどさ。
なんてあきらめてたら……見ちゃった……。
真夜中。
当たり前のように黒鋼の部屋で黒鋼のベッドに入り込んで眠っていたファイだが、ふと目が覚めた。
狭いだのなんだのと文句を言いつつ、くっついて寝てくれていたはずの黒鋼の温もりがない。
(あれ、黒たん先生……なにを……?)
トイレにでも行ったのかと思ったが、黒鋼は側にいた。
部屋の中がほのかに明るいのは、どうやら音を消した状態のテレビをつけて照明代わりにしているからのようだ。
黒鋼はベッドの縁に背を預けて胡坐をかいているらしい。
なんとなく声をかけられずに、横目でちらちらとその背中を見た。
「……はぁ」
重々しい溜息が聞こえた。
なにやらとんでもなく思い詰めているように聞こえる。
「はぁー……」
これはただ事ではない気がした。
ファイは思わずその背中に触れようと手を伸ばしたが、すぐにピタリと止めた。
カサカサという音がしたからだ。
「?」
それからすぐに、「よっしゃ」という小さな掛け声が聞こえた。
(よ、よっしゃ……?)
そして次は、ガリっという音がした。同時にチョコレートのほのかな香りがふんわりと漂う。
まさか、とファイは思った。
(黒たん、オレがあげたチョコを!?)
彼は義理チョコならぬ義理せんべいを大量に貰っていたし、理事長が嫌がらせで渡してきたチョコはファイに押し付けてきたから、彼が所持しているチョコレートといえば一つしかないはずだった。
あるいは知らぬ間にどこぞの泥棒猫が……?
なんて考えなくもなかったが、今日は誰が何を黒鋼に渡すか、それなりに目を光らせていたのできっとそれはない。
「はぁ……」
何口か無言で食べ続けていた黒鋼が、俯いて溜息を零した。かなり無理をしつつそれでも耐えているらしい。
胸がじんとした……。
もしかしたら、毎年こうして我慢して食べてくれていたのかもしれない。
どうせ食べてくれないだろうからと、いつも思いっきり甘く作っているのに。そしてそれは今年のチョコも同じだった。
(黒たんのバカ)
嫌いなら、捨ててしまえばいいのに。
別に一度でも受け取ってくれたなら、返して寄こされたって気にしないのに。
無理して食べてほしくて渡してるんじゃないのに。
大好きの気持ちと、ほんのちょっとの意地悪で渡してるだけなのに。
彼はその後もかなりの時間をかけて、溜息を幾度も零しながらそれを食べ続けた。
ファイは涙ぐみながらもその背中をずっと見守っていた。
やがて完食し終えたのを見計らうと、声をかけた。
「……黒たん」
「おまえな……今年もまたえらくえげつねぇなコレ」
デカいしよ……と、黒鋼はこちらを振り向かずにボソリと言った。きっとHPは0に近い。
ファイは思わず声を出して笑った。そして、起き上ると背後からぎゅっと抱きついた。
「バカだなぁ黒たんは」
「起きてんなら言えよ」
「気付いてたくせにさー」
そしてようやく顔を向けて来た黒鋼の眉間の皺は、いつも以上に深かった。
ふふふと笑って、唇を重ねる。
呆れるくらいベタな味のするキスだなぁと、ファイは思った。
「来年からは、甘さ控えめにしてあげる」
唇が離れるとすぐにそう言ったファイに、黒鋼はやっぱり溜息を零しながら、「そいつはありがてぇな」と言って少しだけ笑った。
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