2025/07/27 Sun 面倒くせぇなぁ、と黒鋼は思っていた。 外は連日30度超えの厳しい暑さにより、不快指数は満点である。 そんな中で汗だくになってようやく帰宅し、快適な部屋の中で麦茶を一杯やったところで一息をついたかと思えば、これだ。 黒鋼の目の前には、ツーンとそっぽを向いているファイがいた。 「……おい」 「ツーン」 「悪かったって言ってんだろ」 「ツーンだ」 ツンツンしているのはこの際いいとして、口で言うな口で、という突っ込みは、面倒だったので飲みこむことにした。 代わりに溜息を零しかけて、ぐっと堪える。 ここでうんざりした様子を曝せば、この男はまたさらに臍を曲げる。ご機嫌取りは得意な方ではないし、なぜ自分がそんなことをしなければいけないのか、という感情もあったりなかったり。 ただ今回ばかりは、どちらかと言えば自分に非があることは認めているから、だからこうして素直に謝罪しているつもりなのだが。 ファイはテーブルの上のグラスに注がれた麦茶に口をつけることもせず、ただペタリと床に座ったままそっぽを向いている。 ああ面倒くさい。 こっそりと、そしてゆっくりと長く息を吐き出しながら、項の辺りをポリポリと掻いた。 「おまえな……いつまで不貞腐れてんだこら。さっきから何回謝りゃ気が済むんだ?」 「……だって……だってさ、オレすっごい楽しみにして行ったのに……」 いい加減、ツンツンしているばかりにも疲れたらしいファイが、ぶぅと唇を尖らせながら口を開いた。白い指先で、グラスから流れる水滴をしきりに突いている。 「だから謝ってんだろ」 「どーしても気が済まないんだから仕方ないじゃん! もう放っておいてよバカー!」 ファイがダン、と拳でテーブルを叩いた。音の割に大した威力はなかったようで、グラスの中身が零れることはなかった。 そして黒鋼は『じゃあなぜここにいる……?』という素朴な疑問を、さらに喉の奥に押し込めた。 ここは黒鋼の自室である。外出先からずっとこの調子であるくせに、ファイはなぜか自分の部屋には戻らず、のこのことここまでついてきて、どっかりと腰を下ろしたのだ。 「だいたいさー、普通は映画館でデートって言ったら、もっと緊張感あるもんじゃないの!? 隣の可愛い子の手をどのタイミングで握ろうかな、とかさー! オレずっと待ってたのにー!!」 いや、そんな涙目で睨まれましても。そして可愛い子ってのは一体誰のことだ……? 「それどころか居眠りしてるなんて、ほんっとサイテー!!」 「だーから! 謝ってんだろうが!! だいたいなぁ、何が緊張感だ!? あんなガキ向けの特撮映画に、ムードもタイミングも手ぇ握るも糞もねぇだろ!?」 「見たかったんだから仕方ないでしょぉ!?」 そう、黒鋼は朝っぱらから映画館に連れだされ、そして大画面でよくわからない特撮映画を見せられたのだ。 てっきりその横のベッタベタな恋愛映画でも見るのかと思っていた。看板を見上げたときにはウンザリしたが、ファイの魂胆は見え見えだったのだ。 太古の時代からあるようなベタな展開が大好きなこの男は、おそらく映画の中で男女のクライマックスシーンにでも手を握ってほしいに違いない……と、黒鋼はしっかり読んでいた。 まったくしょうがない奴だと思ったが、まぁたまにはちょっとくらい付き合ってやってもいいか、と思ったのは、決して大声では言えないが、主演の女優が嫌いではなかったからだ。ファイには絶対に言わないが。(さらに厄介なことになるので) 仕方ないので適当な場面で手を握ってやるつもりだった。優しく、指の骨を砕く程度に。(←日頃の鬱憤も兼ねて) それがまさかの特撮。しかも2本立て。 周りには夏休みということもあって、小さなお子様連れのお母様方で溢れかえっていた。ちらほら若い女性だけの姿も見えたが、長身の男二人は思いっきり浮いていた。 ファイは目を輝かせながら「カッコいいんだよー! 凄いんだよー!」とはしゃいでいた。ぶん殴って一人で帰宅しようかと思ったが、なんだかそれも面倒に思えるほど、黒鋼は気持ちの面で疲れていた。 暑さも寒さも基本は体力気力精神力で平然としていられる方だったが、今年の夏は少々厳しい。流石の黒鋼も多少は気が滅入っていた、のかもしれない。 そんな中、むさ苦しい野郎共がむさ苦しい怪人と戦う映画なんぞを見せられて、どれほどの無神経さを併せ持てば、手なんか握る気になれるのだろう。 しばらく呆れた面持ちで大画面を眺めていた黒鋼だったが、いつしか飽きて欠伸を噛み殺すようになり、やがてうつらうつらとしているうちに、ファイに乱暴に揺り起こされた。もちろん映画は終わっていた。 そして今に至る。 「もういいよ! 二度と黒たん先生と映画なんて行かないから!」 一歩間違えれば指の骨を粉砕されていたかもしれないなんて露知らず、ファイはまたそっぽを向いた。 なんだか知らないが、よほど腹に据え兼ねているらしいファイの機嫌は、どうやらちょっとやそっとじゃ回復しないように思われた。 彼がここまでツンを貫くことは珍しい。彼も彼で、ただでさえ煮えている脳内が、連日続く酷暑のせいで腐ってしまったのだろう。 放っておけばそのうち勝手に元通りになっているだろうが、黒鋼には黒鋼なりに、思うところはそれなりにある。 はっきり言って、別に二度と映画館にこの野郎と一緒に行けなくとも、困りはしない。見たい映画は忘れた頃にでも、DVDを借りて見られればそれで十分な気がする。 だいたい、夏休みといえども生徒たちとは違い、教師にはそれなりに仕事はあるのだ。のうのうと一カ月や二カ月の長期に渡る休暇はなく、世間一般のカレンダーに準ずる、ほんの短い間の休暇のみである。 たまの休みくらいは誰に合わせるでもなく、のんびりと過ごしたいものだ。 黒鋼的にはデートのつもりで出かけたつもりは毛頭なく、だだをこねられて、仕方なく付き合ってやったに過ぎなかった。 だが、映画が終わってファイの気が済んだあとは、どこかで美味い飯でも……くらいのことは考えていた。 ファイはしょっちゅうテレビやら雑誌やらで気になる店を見つけてきては、あーだこーだと話に花を咲かせているが、彼の弟はプロの料理人である。 結局はユゥイの作るものが絶品すぎて、外食などここ最近はめっきりしなくなった。 しかし現在、そのユゥイは里帰り中である。たまにはいい機会だと思ったし、ファイも喜ぶだろうと考えていたが、当人が臍を曲げたせいで、映画館から寄り道せずに直帰したのだった。 黒鋼はついに堪え切れずに溜息を零した。 頭をがりがりと掻きながら「めんどくせぇ」と呟いた。 「ムッ」 案の定、ファイは顔をこちらに向けて頬を膨らませた。つい、ハムスターを思い浮かべてしまう。 「おまえ、どうあっても臍曲げたまんまでいるつもりか」 「……さぁねー」 「だったら自分の部屋で、一人ぶー垂れてりゃいいんじゃねぇのか」 そう、わざわざここでこうしていなくたって、本当に腹が立っているなら、自室へ戻ればいいだけの話だ。 ズバリ指摘されたファイは、少しだけ「ビクリ」と肩を揺らしてそっぽを向くと、下手くそな唇を吹く動作をした。 「べ、別にー。オレがどこで何してたって関係ないじゃーん」 黒鋼は不敵に笑った。 「素直に一人が寂しいって言えばいいんじゃねぇか?」 「そんなんじゃないですー! 黒様先生が一人で寂しくて退屈するだろうと思って、仕方なく一緒にいてあげてるだけですー」 顔を真っ赤にしながらテーブルを両手でバンバン叩いているファイを見て、どこまで面倒くさければ気がすむのかと呆れる。 どうしてこう妙なところで意地っ張りなのか知らないが、まぁ本音を言えば、そこがこの男の面白いところなのだ。 むくり……と、黒鋼の中で何かが頭を擡げた。別にこれで一日が無駄になったわけではない。まだ日も高いことだし、楽しみ方は十分にある。 ちょっとした仕返しも兼ねて、目の前のアホに、たまにはオモチャにでもなってもらおう。 「そいつはありがてぇな」 黒鋼は少し腰を浮かせると、ファイへ向けて手を伸ばした。隙だらけだった彼の胸倉を掴んで強引に引き寄せつつ、同時に互いを隔てていたテーブルを適当に押して動かしてしまう。 「わわわっ!?」 痩せっぽちの身体は簡単に黒鋼の胸へと落ちて来た。抱きかかえるようにしてその腰に腕を回し、驚いて身を固くしているファイの顎を掴んで上向かせる。 「っ、く、くろ……?」 「なんだかんだ言って朝っぱらから付き合ってやったろうが。今度は俺に付き合ってもらうぜ」 ぽかんと口を開けたままだったファイの顔が、みるみるうちに真っ赤になった。途端、細腕が必死に黒鋼の胸を遠ざけようともがきだした。 「な、なに言ってんの!? なにする気!?」 「俺が退屈して寂しくねぇように傍にいてくれてんだろ? だったら一人じゃできねぇことでもして遊ぼうじゃねぇか」 「ちょ、ちょっと!? どこ触って……! ひ、一人でも出来るじゃん! やろうと思えば!」 「相手がいるに越したことねぇだろ」 「なんか目が据わってるよー!?」 うるせぇ、と低く言って噛みつくようにその唇を奪った。腕の中で彼がどんなに暴れても、黒鋼はビクともしない。 むしろ彼が逃れようと身を捩れば捩るほど、拘束する腕の力を強めていく。 口内を犯す動作は相手を感じさせるというよりは、体力を奪うことが目的の乱暴なものであったが、それでもファイは小刻みに背筋を震わせる。もともと体力面で黒鋼に敵うはずのない彼は、面白いほどあっけなく弱っていった。 「もっ、ちょ……ッ」 そろそろいいかと、腰を拘束していた腕を動かし、彼のシャツの中へと手を潜り込ませ、脇腹をゆるりと撫でたときだった。へにゃりとなっていた身体に再び緊張が帯びて、大きく跳ね上がった。 ファイの手が黒鋼の口元を覆うと、ぐっと遠ざける。 「あんだよ……」 「だ、だめ……。ほん、とに、今は……っ」 息も絶え絶えに、ファイはにじにじと距離を取ろうとする。それを再び抱き寄せて、間近でじっと見つめた。 どの道もう黒鋼にはスイッチが入っているので、ここで離すつもりはなかったが、一応は聞く態勢である。 ファイは痛いほどの視線を感じつつ、口元をもごもごとさせた。 「……まだ明るいし……暑いし……」 日頃、朝昼晩とどこででも盛るくせに、今日に限ってやけにまともなことを言うもんだと不信感が募る中、ファイはさらにぼそりと口にした。 「あ、汗……かいたし……」 自分の胸の辺りで両手をぎゅっと握ってもじもじとしながら、ファイは「ね?」と小首を傾げた。お願いのポーズである。 だが、通常であればその仕草にイラッとしている黒鋼もまた、普段とは少し違っていた。 「おもしれねぇな、それ」 「え」 「汗くせぇかどうか、俺が検査してやる」 「え!?」 「おら、脱げ」 「!?」 ザァッと青ざめたファイのシャツを思い切りたくしあげると、夏でも透けるように白い胸が露出した。確かに、少し汗ばんで艶々としている。 「だ、ダメだってばー!! オレ帰る! 帰ってお風呂入ってからまたすぐ来るぅー!!」 思わずその素肌に唇を寄せかけた黒鋼の頭をポカポカと殴りながら、またしてもファイは暴れた。 「すぐ来るっておまえ……結局は昼間だろうが関係ねぇんだな……」 突っ込みもそこそこに汗ばんだ肌にべろりと舌を這わすと、ファイの「きぃーやぁー!!」という悲鳴と共に微かな塩の味がして、黒鋼は青ざめている男を上目使いに見上げると、にやりと笑った。 「味はまぁまぁだな。次は匂いか」 「!?」 ファイの背を両手で抱いて、そのまま体勢を変えた。床の上にすっかり転がされ、見下ろされる立場となったファイは、涙目でプルプルと震えると 「へ、へ、変態!!」 と、叫んだ。 *** 「やー!! やだー!! 離してぇーっ」 「暴れっとなおさら汗だくになんぞ」 「……!」 バタバタと身体の真下で暴れていたファイだったが、黒鋼の一言にビシッと動きを止めた。 室内温度は現在エアコンで28度と、きっちりエコに調節されている。しかしながら真昼間、身体を動かすとなると、些か物足りない室温だ。 散々ぱら暴れた後であるから、今さら静止したところでもはや遅い気もするのだが。 しめたとばかりにたくし上げられていたシャツを、ズボッと頭から引き抜いてしまうと、完全に取り払うことはせずファイの手首の辺りで適当にゴタゴタと丸めたり、捻じったりして拘束した。 そこでようやくハッとしたファイが、また悲鳴を上げた。 「ギャー!? 黒様が言霊でオレを縛った!! そしてその間に手首まで縛ったぁーイヤァー!!」 「だから暴れんなって」 うまい具合に体重をかけて押さえつけると、黒鋼はファイの耳の裏に顔を埋めた。そして、わざとらしく鼻を鳴らして吸い込む音を聞かせてやる。 「っ――!!」 薄い身体が息を飲みながらビクンと跳ね上がった。その反応に気を良くしながら耳たぶに舌を這わせ、緩く歯を立てる。 「ちょ、ぁ! く、くろ……、ほんとに、や……ッ」 緊張に身を硬くしながらも、その声は甘い。どこまでも快楽に弱いこの男の弱点は全て知り尽くしている。じわじわと高めてやることで、やがてまるで全身が性感帯にでもなったかのように蕩けていくことも。 すでにささやかな主張をしはじめている胸の突起にも触れてやりながら、黒鋼はあえてバカにしたように、その耳元に向けて鼻で笑ってやった。 ビクリと腰を揺らしながら、ファイは傷ついたような表情を見せた。 「なんて顔してんだよ」 「だっ、て……だって……臭いもん……オレ……」 「それを確かめてんだろ」 「もう……もう、いい、でしょ? 嗅いだじゃん……! お風呂、入らせてよぉ……」 両手を拘束しているグルグル巻きのシャツを目元に押し当てながら、ファイは顔を真っ赤に染めていた。 彼がここまで抵抗して嫌がるのは珍しいことだった。黒鋼自身、無理やり事を成すことはあまり好きではない。 それが今はなぜだか、ファイが嫌がれば嫌がるほど、無性に興奮する自分がいた。 このまま続ければ確実に泣きだすだろうと、そう理解しつつも、黒鋼は行為を続行する。 濡れた音を立てながら白い首筋を貪る。時折緩く歯を立て、吸いついてやれば、敏感な肌には面白いほど簡単に痕が残る。 しっとりと汗ばむ肌は、ほんのりと塩辛いはずが、なぜか妙に甘く感じた。甘いものは好きではない。けれど今、黒鋼はまるで必死で花の蜜を集める蜂にでもなった気分だった。 「やっ、ぁ……ふ、ぅ、ん……」 顔を隠しながら嫌々と首を振るファイの、細い割に柔らかな二の腕を掴む。顔を見せろと言わんばかりに上へと押し上げて、その表情を暴けば、彼の瞳は涙で潤んでいた。嫌だと言う割に、しっかりと情欲の色を乗せた揺らめくそれに、黒鋼は静かに喉を鳴らす。 腕を押し上げたことで剥き出しになった、ファイのシミ一つない脇のへこみが眼下に飛び込んでくる。そこに目を留めている黒鋼が何をするつもりかを察したのだろう、はっとしたファイが暴れ出す前に、唇を寄せた。 「やっ、だ……ッ! あっ! やぁ……!!」 案の定、暴れ出すファイの抵抗など完全に無視して、そのへこみをベロリと舐め上げる。甘い味と、香りが一層増した気がして、黒鋼は熱い息を吐きだした。身体の中心に、激しい疼きを感じる。 薄い皮膚の下、神経の集中した敏感なそこは、特に気になる場所である。それを知りつつ殊更いやらしい音を立てて執拗に吸いつけば、ファイは身悶えながらもついに涙を流して泣きだした。 「そこ嫌ッ、そこ嫌だぁ……ッ! 舐めちゃダメ……! もうやだ……ッ!」 ひくひくと身を震わせるファイに、流石に顔を上げる。 幼子のように頬を濡らしている様を見て、イジメすぎたかと思いつつ、黒鋼は小さく笑った。 「マジ泣きすんなよ」 「っ、ぅ、っく……、ばか……もうきらい……っ」 「てめぇの匂いしかしねぇよ」 それは本当に、彼の匂い、としか言いようがない。 こういうものをフェロモン、とでも言えばいいのか。黒鋼の雄の本能を刺激してやまない。愛おしくてどうしようもなかった。 「しょうがねぇだろ。興奮しちまうんもんは」 そもそも体臭など人それぞれで、実際のところ、この男はその体臭そのものが薄い。 だいたい、普段からこうして身体を重ねればお互い汗をかくのは当たり前で、そんなもの気にする余裕などないくせに。 けれどそれを言ってしまえば、きっと彼は「そういう問題じゃない」と言って、さらに怒り出すに違いなかった。 身を乗り出して、濡れた頬に口づけた。それでもどうやら感情の高ぶりが治まらないらしいファイは顔を逸らす。 「きらい……いじわる……っ」 「んなこと言うな。……よくしてやるから」 「ぅ、わ……!」 乱暴にならない程度の力で、彼の身体をひっくり返した。 白く美しい曲線を描く背中や、腰のラインに幾度もキスをしながら、ファイの気を逸らしつつ細いウエストに手を回すと、器用に前をくつろげて下着ごと下ろしてしまう。 小さな尻がつるりと姿を現して、ファイは羞恥から逃れようと身体をくねらせる。尻を高く掲げて突きだすような体勢に、その全身が桃色に染まった。 「や、やだ……っ!」 だが、膝の辺りまでしか下ろされていない下着とジーンズは、上手い具合に彼の両足も拘束する形になる。 両足の中心では緩く勃ち上がる性器が微かに震えていた。 むしゃぶりついて思いきり啼かせてやりたい衝動に駆られながらも、ひとまずは柔らかな二つの丘を大きな手でそれぞれ包み込む。ぐにぐにと揉みしだき、吸いつくような弾力を確かめてから親指に力を入れ、ぐっと割り開いた。 「もうヒクついてんじゃねぇか」 きゅっと窄まった桃色の秘穴が、それを持つ本人の建前とは裏腹に、何かを期待するかのようにヒクヒクとしている。 「い、やだ……、恥ずかしい、から……見ないで……お願い、お願いだよ……」 弱々しい懇願も、泣き濡れて掠れた語尾も、震える身体も、今はその全てが黒鋼を煽る材料にしかならない。 昼間の明るい日差しがレースのカーテン越しに射しこむ中で全て暴かれて、彼の羞恥は如何ほどだろうか。心中を察すれば若干哀れに思いつつも、黒鋼自身あまり余裕はなかった。 引き寄せられるかのように顔を寄せて、窄まりにキスをする。 大きく跳ね上がったファイは背筋を仰け反らせ、声にならない悲鳴を上げた。 「ヒッ――!?」 ぬるりと舌の先端を入り口に潜り込ませて、刻まれている小さな皺の一つ一つを丹念に伸ばすようにして穿る。 「うそ、うそ……ッ、ダメ、舐めちゃ……ッ!」 拘束されている両腕で必死に肘を立て、無理に身体を捻ろうとする動きも意に介さず、黒鋼はそこを解す作業に夢中になった。 チクチクという小さな水音と共に、頑なな蕾は熱を孕みながら開いていく。 ファイの内腿が痙攣しはじめる。床に縋りつきながらしくしくと泣いているくせに、いつしか細い腰は物欲しげに揺れ始めていた。 「だめ、……っ、ぁ、うぅ、んッ、おしり、ッ、オレの、おしり……とけ、ちゃう、ぅ……ッ」 舌だけでは奥になど到底届かない。彼が切なく身を焦がしていることは知っていた。わざわざ触れて確認せずとも、性器が痛いほど張りつめているであろうことも。 角度を変えながら音を立てて秘穴を舐め解しながら、黒鋼はファイの下着とジーンズをさらに下ろし、片足だけ引き抜かせた。痙攣する内腿に手を差し入れて開かせると、案の定、反り返っている性器の先端から溢れた先走りの液が、柔らかな袋を伝い、床に染みを作り上げていた。 悟られぬよう薄く笑いながら、唾液で潤ってきたタイミングを見計らって、中指を差し入れた。びくびくと、ファイの背筋が跳ねる。 「あ……ひ……っ、んんっ!」 関節ごとに僅かに引っ掛かりながらも、そこは黒鋼の指を丸々飲みこんだ。このぶんならと幾度か出し入れをしてから中指を引き抜くと、次は人差し指も添えて2本同時に潜り込ませる。 ファイのあえかな悲鳴が、明るい室内に水音と共に響き渡った。 あまりにも不釣り合いに思えて、甘美な背徳感が黒鋼をさらに高揚させた。 熱い肉壁の中へ二本の指を慎重に進めながら、さらに彼を追い立てる場所を探り当てる。小さく柔らかなしこりを指先に感じた瞬間、ファイの腰がのたうちながら、本能的な逃げを打つべく大きく跳ねた。 「――ッ!! アッ、ああぁッ、そこ、は……ッ、だ……っ!!」 その一点に指先を軽く押し当てるだけで、面白いほど乱れ狂う彼は、もはや羞恥を感じる間もない様子だが、このまま続ければすぐにでも限界を迎えてしまうことは明白だ。 「まだイクんじゃねぇぞ」 「ぁう、うぅ……っ、う……っく、ぅ……」 そっと指を引き抜くと、黒鋼は自分の汗で張り付いている鬱陶しいシャツを、乱暴に脱ぎ捨てた。今にもくったりと崩れ落ちそうになっている腰を片手で掴んで支えながら、自分のジーンズの前を寛げる。 痛いほど張りつめていた自身の性器を自由にしてやると、ほっと息を吐きだした。 そしてファイの身体を背中からすっぽりと覆うように身を乗り出して、床に顔を伏して泣いている彼の項に、あやすように口づけた。 「おら、泣いてんなよ。よくしてやってるだろ」 耳元に囁くと、苦しそうにこちらに顔を向けたファイに睨まれた。涙に濡れ、快感に赤くなった頬をしながらそんな目をされても、黒鋼は笑うしかない。 「バカ黒……! よすぎて……もう、わかんない! ぐちゃぐちゃだよ!」 「まだ嫌いとかほざくんじゃねぇだろうな」 「あっ! んぅ、や、擦りつけ、ないで……ッ」 わざと先端をヒクつく穴に押しつける。焦らすように当たりを外しながら、自身の先走りを塗りつけるようにして。 「ヒッ、ん……! ばかぁ……!」 「言えよ」 余裕はないものの、身体の下でビクンビクンと反応する身体が面白くて、黒鋼は焦らすのを止めない。 挿入するギリギリの強さでぐっと先端を押し付けると、ファイはきつく目を閉じて悔しそうに言い放った。 「もう! 好きだよ! 好きだから、早く入れてよ……!」 それを合図に、しっかりと腰を抱きしめた状態で身体を前へと進めた。 ずぶりという音がした瞬間、先端からゆっくりと熱い肉の壁に締めつけられていく。思わず漏れそうになる呻きをぐっと堪えた。 「あっ、あ、あぁあ……ッ! すご、はいっ、て、くるっ! すごいの……ッ!」 背を反らし、喉を反らして喘ぐファイの耳裏に、鼻先を擦りつけるようにして押し付けた。ふわりと、またファイが香った。 時間をかけて納めきってしまえば、挿入しているのは身体の一部分のはずなのに、まるで全身を包み込まれているような気がして眩暈がした。 汗が、頬を伝い落ちる。 「平気か」 弾む息を整えながら、震えの止まらないファイを気遣う。彼は、緩く首を振った。 「平気じゃ、ない……っ! つぎ、動かれたら、オレ、いく……ッ」 これでも随分と堪えたらしい。ふと手を伸ばせば、驚くほど熱を持った性器が弾けそうなほど膨らみ、よだれを垂らし続けているのがわかった。 「しょうがねぇな」 「さ、さわらない、で……!」 「いいぜ。イケよ。なんべんでも」 「やっ……!」 手のひらにそれをきゅっと包みこんで、緩く扱くのと同時に腰を小刻みに動かし、揺さぶった。腕の中の身体がぐっと緊張する。 「――ッ!!」 彼は宣言通り、あっけないほど一瞬にして絶頂を迎えた。 強すぎた快感がゆえに、大きく開かれた唇からは悲鳴さえ上がらない。食いちぎられそうなほどの締めつけに歯を食いしばりながらも、黒鋼は全身を大きく震わせながら射精するファイを、しっかりと抱きしめていた。 手だけでは受け止めきれなかった精液が床に零れ落ちる。後で掃除が面倒だと思いながらも、そんなこと今はどうでもよかった。 「ぁ―……、ぁ……ぁ、ぁ……っ」 「派手にいったな」 まともに言葉も発せずに、必死で呼吸を繰り返すファイの両手の戒めを解くと、グシャグシャになったそれで適当に手を拭って放り投げた。 未だ断続的に痙攣しながら力の抜けていく腰を支えながら、くしゃりと髪を撫でてやる。 そして、一度ナカから自身を引き抜くとファイの身体を今度は向き合うようにひっくり返した。 くったりと成すがままのファイのとろんとした瞳はどこか虚ろで、ふと笑みが零れる。 「こら、飛んでんじゃねぇよ。腕まわせ」 「ぁ……?」 ファイの腕を掴み、首に回させる。弱々しいながらも素直にファイの両腕が絡みついてくると、黒鋼は熱い息を吐きだすその唇に深く口づけながら、再び肉棒を濡れた秘穴に挿入していく。 「んっ、んっ、ぁ、ふ……」 混ざり合った互いの唾液が、ファイの口端から溢れだす頃になると、黒鋼はようやく自らも欲望を満たすため動きを再開させた。 はじめはゆっくり、抱きしめたファイの身体を小刻みに揺さぶりながら、やがて徐々に律動を大きくしていく。 唇同士が糸を引きながら離れると、ファイの口からはひっきりなしに甘い嬌声が上がる。 黒鋼もまた次第に息が上がり、獣じみた呼吸に支配されていた。 汗が、吐息が、鼓動が混ざり合う。境目などないほどに繋がって、溶け合って、二人が一つになっていく。 「すごいっ、すごいの……ッ! も、こんなのっ、ダメっ、死んじゃう……!」 いつしかバツンバツンと肌がぶつかり合うほどの激しさで快楽を貪っていた。結合部が淫らな音を立てる。 先刻、あれほど勢いよく放ったはずのファイの性器も、すでに力を取り戻して、律動の度にブルブルと震えながら玉のような液を幾粒も散らしていた。 「あっ、あっ、イッ、く、イク……! いくぅ!!」 瞼の裏側にぱちぱちとした火花のようなものが煌めく。黒鋼にもついに限界が訪れようとしていたが、先に果てたのはファイの方だった。 放たれた精液が黒鋼の腹をも熱く濡らした瞬間、堪えがたいほどの締めつけに腰が跳ねる。食いしばった歯の隙間から低い呻きを漏らしながら、黒鋼はファイの最奥に精を放った。 「っ、はっ、く……!」 凄まじい射精感が一瞬の嵐のように過ぎ去ると、黒鋼はファイの首筋に額を埋めた。 はかはかと浅い呼吸を繰り返しながら、ファイの両腕がそんな黒鋼の頭を優しく抱きとめた。 * そうして二人は少しの間、余韻に浸っていた。 ふと思い出してちらりと窓の外を見れば、ほんの僅かに陽が傾き始めていることに気がつく。 夢中になりすぎて、時間の感覚を失っていた。 結局、ファイが雑誌で見つけてくるような店には行けなかったが、この後もし彼の身体が大丈夫そうなら、軽くシャワーでも浴びて、どこかその辺りの店にでも連れだしてやろうか。いい加減、腹も減ったことだし。 そんなことにぼんやりと思考を巡らせながら、抜かずにいた性器を引き抜こうとしたとき、ファイがぽつりと口を開いた。 「黒たんせんせ……」 「なんだ?」 「ん……」 顔を上げると鼻先が触れあいそうな距離でファイが困ったような、戸惑ったような表情を浮かべている。 「なんだよ」 「……あのね、オレ……ほんとはちょっと、わかる気がする」 「何が」 「うんとね……黒たんの……」 ファイの頬が赤い。こうして本気で照れているような表情は、彼にしては少し珍しい。 無言で僅かに首を傾げていると、白い腕がぎゅっと黒鋼の首を抱いて、首筋に顔を埋めてくる。その状態で上目づかいで黒鋼を見やるとファイは言った。 「黒たんの汗の匂いね、凄く、エッチな匂いがするから……」 黒鋼は思わず目を見開き、すっとんきょうな顔をした。それから、堪らず小さく吹き出した。 「もう、笑うのずるい……っ、て! ちょ、っと!?」 「おまえなぁ……せっかく人が……」 「えっ!? え!? ぅあっ!? 黒た……っ、中で、おっきくな……ッ」 腕の中、華奢な身体がビクンと跳ね上がった。 体中を真っ赤にしながらあたふたともがくファイに、黒鋼はとびきりの悪人面でニヤリと笑って見せた。 彼にとっては何気ない発言だったものが、ひとまずは鎮まっていた黒鋼に、またしても火をつけてしまった。 「可愛いこと言ってんじゃねぇぞ」 強く抱きしめて耳元に囁きながら腰を揺らすと、再びファイの唇からは甘い吐息と喘ぎが零れた。 それは暑い熱い夏の日のこと。 止めどなく発情する二人の姿を知っているのは、テーブルの上、口をつけられることなく放置されて温くなった、麦茶のグラスだけだった。 ←戻る ・ Wavebox👏
外は連日30度超えの厳しい暑さにより、不快指数は満点である。
そんな中で汗だくになってようやく帰宅し、快適な部屋の中で麦茶を一杯やったところで一息をついたかと思えば、これだ。
黒鋼の目の前には、ツーンとそっぽを向いているファイがいた。
「……おい」
「ツーン」
「悪かったって言ってんだろ」
「ツーンだ」
ツンツンしているのはこの際いいとして、口で言うな口で、という突っ込みは、面倒だったので飲みこむことにした。
代わりに溜息を零しかけて、ぐっと堪える。
ここでうんざりした様子を曝せば、この男はまたさらに臍を曲げる。ご機嫌取りは得意な方ではないし、なぜ自分がそんなことをしなければいけないのか、という感情もあったりなかったり。
ただ今回ばかりは、どちらかと言えば自分に非があることは認めているから、だからこうして素直に謝罪しているつもりなのだが。
ファイはテーブルの上のグラスに注がれた麦茶に口をつけることもせず、ただペタリと床に座ったままそっぽを向いている。
ああ面倒くさい。
こっそりと、そしてゆっくりと長く息を吐き出しながら、項の辺りをポリポリと掻いた。
「おまえな……いつまで不貞腐れてんだこら。さっきから何回謝りゃ気が済むんだ?」
「……だって……だってさ、オレすっごい楽しみにして行ったのに……」
いい加減、ツンツンしているばかりにも疲れたらしいファイが、ぶぅと唇を尖らせながら口を開いた。白い指先で、グラスから流れる水滴をしきりに突いている。
「だから謝ってんだろ」
「どーしても気が済まないんだから仕方ないじゃん! もう放っておいてよバカー!」
ファイがダン、と拳でテーブルを叩いた。音の割に大した威力はなかったようで、グラスの中身が零れることはなかった。
そして黒鋼は『じゃあなぜここにいる……?』という素朴な疑問を、さらに喉の奥に押し込めた。
ここは黒鋼の自室である。外出先からずっとこの調子であるくせに、ファイはなぜか自分の部屋には戻らず、のこのことここまでついてきて、どっかりと腰を下ろしたのだ。
「だいたいさー、普通は映画館でデートって言ったら、もっと緊張感あるもんじゃないの!? 隣の可愛い子の手をどのタイミングで握ろうかな、とかさー! オレずっと待ってたのにー!!」
いや、そんな涙目で睨まれましても。そして可愛い子ってのは一体誰のことだ……?
「それどころか居眠りしてるなんて、ほんっとサイテー!!」
「だーから! 謝ってんだろうが!! だいたいなぁ、何が緊張感だ!? あんなガキ向けの特撮映画に、ムードもタイミングも手ぇ握るも糞もねぇだろ!?」
「見たかったんだから仕方ないでしょぉ!?」
そう、黒鋼は朝っぱらから映画館に連れだされ、そして大画面でよくわからない特撮映画を見せられたのだ。
てっきりその横のベッタベタな恋愛映画でも見るのかと思っていた。看板を見上げたときにはウンザリしたが、ファイの魂胆は見え見えだったのだ。
太古の時代からあるようなベタな展開が大好きなこの男は、おそらく映画の中で男女のクライマックスシーンにでも手を握ってほしいに違いない……と、黒鋼はしっかり読んでいた。
まったくしょうがない奴だと思ったが、まぁたまにはちょっとくらい付き合ってやってもいいか、と思ったのは、決して大声では言えないが、主演の女優が嫌いではなかったからだ。ファイには絶対に言わないが。(さらに厄介なことになるので)
仕方ないので適当な場面で手を握ってやるつもりだった。優しく、指の骨を砕く程度に。(←日頃の鬱憤も兼ねて)
それがまさかの特撮。しかも2本立て。
周りには夏休みということもあって、小さなお子様連れのお母様方で溢れかえっていた。ちらほら若い女性だけの姿も見えたが、長身の男二人は思いっきり浮いていた。
ファイは目を輝かせながら「カッコいいんだよー! 凄いんだよー!」とはしゃいでいた。ぶん殴って一人で帰宅しようかと思ったが、なんだかそれも面倒に思えるほど、黒鋼は気持ちの面で疲れていた。
暑さも寒さも基本は体力気力精神力で平然としていられる方だったが、今年の夏は少々厳しい。流石の黒鋼も多少は気が滅入っていた、のかもしれない。
そんな中、むさ苦しい野郎共がむさ苦しい怪人と戦う映画なんぞを見せられて、どれほどの無神経さを併せ持てば、手なんか握る気になれるのだろう。
しばらく呆れた面持ちで大画面を眺めていた黒鋼だったが、いつしか飽きて欠伸を噛み殺すようになり、やがてうつらうつらとしているうちに、ファイに乱暴に揺り起こされた。もちろん映画は終わっていた。
そして今に至る。
「もういいよ! 二度と黒たん先生と映画なんて行かないから!」
一歩間違えれば指の骨を粉砕されていたかもしれないなんて露知らず、ファイはまたそっぽを向いた。
なんだか知らないが、よほど腹に据え兼ねているらしいファイの機嫌は、どうやらちょっとやそっとじゃ回復しないように思われた。
彼がここまでツンを貫くことは珍しい。彼も彼で、ただでさえ煮えている脳内が、連日続く酷暑のせいで腐ってしまったのだろう。
放っておけばそのうち勝手に元通りになっているだろうが、黒鋼には黒鋼なりに、思うところはそれなりにある。
はっきり言って、別に二度と映画館にこの野郎と一緒に行けなくとも、困りはしない。見たい映画は忘れた頃にでも、DVDを借りて見られればそれで十分な気がする。
だいたい、夏休みといえども生徒たちとは違い、教師にはそれなりに仕事はあるのだ。のうのうと一カ月や二カ月の長期に渡る休暇はなく、世間一般のカレンダーに準ずる、ほんの短い間の休暇のみである。
たまの休みくらいは誰に合わせるでもなく、のんびりと過ごしたいものだ。
黒鋼的にはデートのつもりで出かけたつもりは毛頭なく、だだをこねられて、仕方なく付き合ってやったに過ぎなかった。
だが、映画が終わってファイの気が済んだあとは、どこかで美味い飯でも……くらいのことは考えていた。
ファイはしょっちゅうテレビやら雑誌やらで気になる店を見つけてきては、あーだこーだと話に花を咲かせているが、彼の弟はプロの料理人である。
結局はユゥイの作るものが絶品すぎて、外食などここ最近はめっきりしなくなった。
しかし現在、そのユゥイは里帰り中である。たまにはいい機会だと思ったし、ファイも喜ぶだろうと考えていたが、当人が臍を曲げたせいで、映画館から寄り道せずに直帰したのだった。
黒鋼はついに堪え切れずに溜息を零した。
頭をがりがりと掻きながら「めんどくせぇ」と呟いた。
「ムッ」
案の定、ファイは顔をこちらに向けて頬を膨らませた。つい、ハムスターを思い浮かべてしまう。
「おまえ、どうあっても臍曲げたまんまでいるつもりか」
「……さぁねー」
「だったら自分の部屋で、一人ぶー垂れてりゃいいんじゃねぇのか」
そう、わざわざここでこうしていなくたって、本当に腹が立っているなら、自室へ戻ればいいだけの話だ。
ズバリ指摘されたファイは、少しだけ「ビクリ」と肩を揺らしてそっぽを向くと、下手くそな唇を吹く動作をした。
「べ、別にー。オレがどこで何してたって関係ないじゃーん」
黒鋼は不敵に笑った。
「素直に一人が寂しいって言えばいいんじゃねぇか?」
「そんなんじゃないですー! 黒様先生が一人で寂しくて退屈するだろうと思って、仕方なく一緒にいてあげてるだけですー」
顔を真っ赤にしながらテーブルを両手でバンバン叩いているファイを見て、どこまで面倒くさければ気がすむのかと呆れる。
どうしてこう妙なところで意地っ張りなのか知らないが、まぁ本音を言えば、そこがこの男の面白いところなのだ。
むくり……と、黒鋼の中で何かが頭を擡げた。別にこれで一日が無駄になったわけではない。まだ日も高いことだし、楽しみ方は十分にある。
ちょっとした仕返しも兼ねて、目の前のアホに、たまにはオモチャにでもなってもらおう。
「そいつはありがてぇな」
黒鋼は少し腰を浮かせると、ファイへ向けて手を伸ばした。隙だらけだった彼の胸倉を掴んで強引に引き寄せつつ、同時に互いを隔てていたテーブルを適当に押して動かしてしまう。
「わわわっ!?」
痩せっぽちの身体は簡単に黒鋼の胸へと落ちて来た。抱きかかえるようにしてその腰に腕を回し、驚いて身を固くしているファイの顎を掴んで上向かせる。
「っ、く、くろ……?」
「なんだかんだ言って朝っぱらから付き合ってやったろうが。今度は俺に付き合ってもらうぜ」
ぽかんと口を開けたままだったファイの顔が、みるみるうちに真っ赤になった。途端、細腕が必死に黒鋼の胸を遠ざけようともがきだした。
「な、なに言ってんの!? なにする気!?」
「俺が退屈して寂しくねぇように傍にいてくれてんだろ? だったら一人じゃできねぇことでもして遊ぼうじゃねぇか」
「ちょ、ちょっと!? どこ触って……! ひ、一人でも出来るじゃん! やろうと思えば!」
「相手がいるに越したことねぇだろ」
「なんか目が据わってるよー!?」
うるせぇ、と低く言って噛みつくようにその唇を奪った。腕の中で彼がどんなに暴れても、黒鋼はビクともしない。
むしろ彼が逃れようと身を捩れば捩るほど、拘束する腕の力を強めていく。
口内を犯す動作は相手を感じさせるというよりは、体力を奪うことが目的の乱暴なものであったが、それでもファイは小刻みに背筋を震わせる。もともと体力面で黒鋼に敵うはずのない彼は、面白いほどあっけなく弱っていった。
「もっ、ちょ……ッ」
そろそろいいかと、腰を拘束していた腕を動かし、彼のシャツの中へと手を潜り込ませ、脇腹をゆるりと撫でたときだった。へにゃりとなっていた身体に再び緊張が帯びて、大きく跳ね上がった。
ファイの手が黒鋼の口元を覆うと、ぐっと遠ざける。
「あんだよ……」
「だ、だめ……。ほん、とに、今は……っ」
息も絶え絶えに、ファイはにじにじと距離を取ろうとする。それを再び抱き寄せて、間近でじっと見つめた。
どの道もう黒鋼にはスイッチが入っているので、ここで離すつもりはなかったが、一応は聞く態勢である。
ファイは痛いほどの視線を感じつつ、口元をもごもごとさせた。
「……まだ明るいし……暑いし……」
日頃、朝昼晩とどこででも盛るくせに、今日に限ってやけにまともなことを言うもんだと不信感が募る中、ファイはさらにぼそりと口にした。
「あ、汗……かいたし……」
自分の胸の辺りで両手をぎゅっと握ってもじもじとしながら、ファイは「ね?」と小首を傾げた。お願いのポーズである。
だが、通常であればその仕草にイラッとしている黒鋼もまた、普段とは少し違っていた。
「おもしれねぇな、それ」
「え」
「汗くせぇかどうか、俺が検査してやる」
「え!?」
「おら、脱げ」
「!?」
ザァッと青ざめたファイのシャツを思い切りたくしあげると、夏でも透けるように白い胸が露出した。確かに、少し汗ばんで艶々としている。
「だ、ダメだってばー!! オレ帰る! 帰ってお風呂入ってからまたすぐ来るぅー!!」
思わずその素肌に唇を寄せかけた黒鋼の頭をポカポカと殴りながら、またしてもファイは暴れた。
「すぐ来るっておまえ……結局は昼間だろうが関係ねぇんだな……」
突っ込みもそこそこに汗ばんだ肌にべろりと舌を這わすと、ファイの「きぃーやぁー!!」という悲鳴と共に微かな塩の味がして、黒鋼は青ざめている男を上目使いに見上げると、にやりと笑った。
「味はまぁまぁだな。次は匂いか」
「!?」
ファイの背を両手で抱いて、そのまま体勢を変えた。床の上にすっかり転がされ、見下ろされる立場となったファイは、涙目でプルプルと震えると
「へ、へ、変態!!」
と、叫んだ。
***
「やー!! やだー!! 離してぇーっ」
「暴れっとなおさら汗だくになんぞ」
「……!」
バタバタと身体の真下で暴れていたファイだったが、黒鋼の一言にビシッと動きを止めた。
室内温度は現在エアコンで28度と、きっちりエコに調節されている。しかしながら真昼間、身体を動かすとなると、些か物足りない室温だ。
散々ぱら暴れた後であるから、今さら静止したところでもはや遅い気もするのだが。
しめたとばかりにたくし上げられていたシャツを、ズボッと頭から引き抜いてしまうと、完全に取り払うことはせずファイの手首の辺りで適当にゴタゴタと丸めたり、捻じったりして拘束した。
そこでようやくハッとしたファイが、また悲鳴を上げた。
「ギャー!? 黒様が言霊でオレを縛った!! そしてその間に手首まで縛ったぁーイヤァー!!」
「だから暴れんなって」
うまい具合に体重をかけて押さえつけると、黒鋼はファイの耳の裏に顔を埋めた。そして、わざとらしく鼻を鳴らして吸い込む音を聞かせてやる。
「っ――!!」
薄い身体が息を飲みながらビクンと跳ね上がった。その反応に気を良くしながら耳たぶに舌を這わせ、緩く歯を立てる。
「ちょ、ぁ! く、くろ……、ほんとに、や……ッ」
緊張に身を硬くしながらも、その声は甘い。どこまでも快楽に弱いこの男の弱点は全て知り尽くしている。じわじわと高めてやることで、やがてまるで全身が性感帯にでもなったかのように蕩けていくことも。
すでにささやかな主張をしはじめている胸の突起にも触れてやりながら、黒鋼はあえてバカにしたように、その耳元に向けて鼻で笑ってやった。
ビクリと腰を揺らしながら、ファイは傷ついたような表情を見せた。
「なんて顔してんだよ」
「だっ、て……だって……臭いもん……オレ……」
「それを確かめてんだろ」
「もう……もう、いい、でしょ? 嗅いだじゃん……! お風呂、入らせてよぉ……」
両手を拘束しているグルグル巻きのシャツを目元に押し当てながら、ファイは顔を真っ赤に染めていた。
彼がここまで抵抗して嫌がるのは珍しいことだった。黒鋼自身、無理やり事を成すことはあまり好きではない。
それが今はなぜだか、ファイが嫌がれば嫌がるほど、無性に興奮する自分がいた。
このまま続ければ確実に泣きだすだろうと、そう理解しつつも、黒鋼は行為を続行する。
濡れた音を立てながら白い首筋を貪る。時折緩く歯を立て、吸いついてやれば、敏感な肌には面白いほど簡単に痕が残る。
しっとりと汗ばむ肌は、ほんのりと塩辛いはずが、なぜか妙に甘く感じた。甘いものは好きではない。けれど今、黒鋼はまるで必死で花の蜜を集める蜂にでもなった気分だった。
「やっ、ぁ……ふ、ぅ、ん……」
顔を隠しながら嫌々と首を振るファイの、細い割に柔らかな二の腕を掴む。顔を見せろと言わんばかりに上へと押し上げて、その表情を暴けば、彼の瞳は涙で潤んでいた。嫌だと言う割に、しっかりと情欲の色を乗せた揺らめくそれに、黒鋼は静かに喉を鳴らす。
腕を押し上げたことで剥き出しになった、ファイのシミ一つない脇のへこみが眼下に飛び込んでくる。そこに目を留めている黒鋼が何をするつもりかを察したのだろう、はっとしたファイが暴れ出す前に、唇を寄せた。
「やっ、だ……ッ! あっ! やぁ……!!」
案の定、暴れ出すファイの抵抗など完全に無視して、そのへこみをベロリと舐め上げる。甘い味と、香りが一層増した気がして、黒鋼は熱い息を吐きだした。身体の中心に、激しい疼きを感じる。
薄い皮膚の下、神経の集中した敏感なそこは、特に気になる場所である。それを知りつつ殊更いやらしい音を立てて執拗に吸いつけば、ファイは身悶えながらもついに涙を流して泣きだした。
「そこ嫌ッ、そこ嫌だぁ……ッ! 舐めちゃダメ……! もうやだ……ッ!」
ひくひくと身を震わせるファイに、流石に顔を上げる。
幼子のように頬を濡らしている様を見て、イジメすぎたかと思いつつ、黒鋼は小さく笑った。
「マジ泣きすんなよ」
「っ、ぅ、っく……、ばか……もうきらい……っ」
「てめぇの匂いしかしねぇよ」
それは本当に、彼の匂い、としか言いようがない。
こういうものをフェロモン、とでも言えばいいのか。黒鋼の雄の本能を刺激してやまない。愛おしくてどうしようもなかった。
「しょうがねぇだろ。興奮しちまうんもんは」
そもそも体臭など人それぞれで、実際のところ、この男はその体臭そのものが薄い。
だいたい、普段からこうして身体を重ねればお互い汗をかくのは当たり前で、そんなもの気にする余裕などないくせに。
けれどそれを言ってしまえば、きっと彼は「そういう問題じゃない」と言って、さらに怒り出すに違いなかった。
身を乗り出して、濡れた頬に口づけた。それでもどうやら感情の高ぶりが治まらないらしいファイは顔を逸らす。
「きらい……いじわる……っ」
「んなこと言うな。……よくしてやるから」
「ぅ、わ……!」
乱暴にならない程度の力で、彼の身体をひっくり返した。
白く美しい曲線を描く背中や、腰のラインに幾度もキスをしながら、ファイの気を逸らしつつ細いウエストに手を回すと、器用に前をくつろげて下着ごと下ろしてしまう。
小さな尻がつるりと姿を現して、ファイは羞恥から逃れようと身体をくねらせる。尻を高く掲げて突きだすような体勢に、その全身が桃色に染まった。
「や、やだ……っ!」
だが、膝の辺りまでしか下ろされていない下着とジーンズは、上手い具合に彼の両足も拘束する形になる。
両足の中心では緩く勃ち上がる性器が微かに震えていた。
むしゃぶりついて思いきり啼かせてやりたい衝動に駆られながらも、ひとまずは柔らかな二つの丘を大きな手でそれぞれ包み込む。ぐにぐにと揉みしだき、吸いつくような弾力を確かめてから親指に力を入れ、ぐっと割り開いた。
「もうヒクついてんじゃねぇか」
きゅっと窄まった桃色の秘穴が、それを持つ本人の建前とは裏腹に、何かを期待するかのようにヒクヒクとしている。
「い、やだ……、恥ずかしい、から……見ないで……お願い、お願いだよ……」
弱々しい懇願も、泣き濡れて掠れた語尾も、震える身体も、今はその全てが黒鋼を煽る材料にしかならない。
昼間の明るい日差しがレースのカーテン越しに射しこむ中で全て暴かれて、彼の羞恥は如何ほどだろうか。心中を察すれば若干哀れに思いつつも、黒鋼自身あまり余裕はなかった。
引き寄せられるかのように顔を寄せて、窄まりにキスをする。
大きく跳ね上がったファイは背筋を仰け反らせ、声にならない悲鳴を上げた。
「ヒッ――!?」
ぬるりと舌の先端を入り口に潜り込ませて、刻まれている小さな皺の一つ一つを丹念に伸ばすようにして穿る。
「うそ、うそ……ッ、ダメ、舐めちゃ……ッ!」
拘束されている両腕で必死に肘を立て、無理に身体を捻ろうとする動きも意に介さず、黒鋼はそこを解す作業に夢中になった。
チクチクという小さな水音と共に、頑なな蕾は熱を孕みながら開いていく。
ファイの内腿が痙攣しはじめる。床に縋りつきながらしくしくと泣いているくせに、いつしか細い腰は物欲しげに揺れ始めていた。
「だめ、……っ、ぁ、うぅ、んッ、おしり、ッ、オレの、おしり……とけ、ちゃう、ぅ……ッ」
舌だけでは奥になど到底届かない。彼が切なく身を焦がしていることは知っていた。わざわざ触れて確認せずとも、性器が痛いほど張りつめているであろうことも。
角度を変えながら音を立てて秘穴を舐め解しながら、黒鋼はファイの下着とジーンズをさらに下ろし、片足だけ引き抜かせた。痙攣する内腿に手を差し入れて開かせると、案の定、反り返っている性器の先端から溢れた先走りの液が、柔らかな袋を伝い、床に染みを作り上げていた。
悟られぬよう薄く笑いながら、唾液で潤ってきたタイミングを見計らって、中指を差し入れた。びくびくと、ファイの背筋が跳ねる。
「あ……ひ……っ、んんっ!」
関節ごとに僅かに引っ掛かりながらも、そこは黒鋼の指を丸々飲みこんだ。このぶんならと幾度か出し入れをしてから中指を引き抜くと、次は人差し指も添えて2本同時に潜り込ませる。
ファイのあえかな悲鳴が、明るい室内に水音と共に響き渡った。
あまりにも不釣り合いに思えて、甘美な背徳感が黒鋼をさらに高揚させた。
熱い肉壁の中へ二本の指を慎重に進めながら、さらに彼を追い立てる場所を探り当てる。小さく柔らかなしこりを指先に感じた瞬間、ファイの腰がのたうちながら、本能的な逃げを打つべく大きく跳ねた。
「――ッ!! アッ、ああぁッ、そこ、は……ッ、だ……っ!!」
その一点に指先を軽く押し当てるだけで、面白いほど乱れ狂う彼は、もはや羞恥を感じる間もない様子だが、このまま続ければすぐにでも限界を迎えてしまうことは明白だ。
「まだイクんじゃねぇぞ」
「ぁう、うぅ……っ、う……っく、ぅ……」
そっと指を引き抜くと、黒鋼は自分の汗で張り付いている鬱陶しいシャツを、乱暴に脱ぎ捨てた。今にもくったりと崩れ落ちそうになっている腰を片手で掴んで支えながら、自分のジーンズの前を寛げる。
痛いほど張りつめていた自身の性器を自由にしてやると、ほっと息を吐きだした。
そしてファイの身体を背中からすっぽりと覆うように身を乗り出して、床に顔を伏して泣いている彼の項に、あやすように口づけた。
「おら、泣いてんなよ。よくしてやってるだろ」
耳元に囁くと、苦しそうにこちらに顔を向けたファイに睨まれた。涙に濡れ、快感に赤くなった頬をしながらそんな目をされても、黒鋼は笑うしかない。
「バカ黒……! よすぎて……もう、わかんない! ぐちゃぐちゃだよ!」
「まだ嫌いとかほざくんじゃねぇだろうな」
「あっ! んぅ、や、擦りつけ、ないで……ッ」
わざと先端をヒクつく穴に押しつける。焦らすように当たりを外しながら、自身の先走りを塗りつけるようにして。
「ヒッ、ん……! ばかぁ……!」
「言えよ」
余裕はないものの、身体の下でビクンビクンと反応する身体が面白くて、黒鋼は焦らすのを止めない。
挿入するギリギリの強さでぐっと先端を押し付けると、ファイはきつく目を閉じて悔しそうに言い放った。
「もう! 好きだよ! 好きだから、早く入れてよ……!」
それを合図に、しっかりと腰を抱きしめた状態で身体を前へと進めた。
ずぶりという音がした瞬間、先端からゆっくりと熱い肉の壁に締めつけられていく。思わず漏れそうになる呻きをぐっと堪えた。
「あっ、あ、あぁあ……ッ! すご、はいっ、て、くるっ! すごいの……ッ!」
背を反らし、喉を反らして喘ぐファイの耳裏に、鼻先を擦りつけるようにして押し付けた。ふわりと、またファイが香った。
時間をかけて納めきってしまえば、挿入しているのは身体の一部分のはずなのに、まるで全身を包み込まれているような気がして眩暈がした。
汗が、頬を伝い落ちる。
「平気か」
弾む息を整えながら、震えの止まらないファイを気遣う。彼は、緩く首を振った。
「平気じゃ、ない……っ! つぎ、動かれたら、オレ、いく……ッ」
これでも随分と堪えたらしい。ふと手を伸ばせば、驚くほど熱を持った性器が弾けそうなほど膨らみ、よだれを垂らし続けているのがわかった。
「しょうがねぇな」
「さ、さわらない、で……!」
「いいぜ。イケよ。なんべんでも」
「やっ……!」
手のひらにそれをきゅっと包みこんで、緩く扱くのと同時に腰を小刻みに動かし、揺さぶった。腕の中の身体がぐっと緊張する。
「――ッ!!」
彼は宣言通り、あっけないほど一瞬にして絶頂を迎えた。
強すぎた快感がゆえに、大きく開かれた唇からは悲鳴さえ上がらない。食いちぎられそうなほどの締めつけに歯を食いしばりながらも、黒鋼は全身を大きく震わせながら射精するファイを、しっかりと抱きしめていた。
手だけでは受け止めきれなかった精液が床に零れ落ちる。後で掃除が面倒だと思いながらも、そんなこと今はどうでもよかった。
「ぁ―……、ぁ……ぁ、ぁ……っ」
「派手にいったな」
まともに言葉も発せずに、必死で呼吸を繰り返すファイの両手の戒めを解くと、グシャグシャになったそれで適当に手を拭って放り投げた。
未だ断続的に痙攣しながら力の抜けていく腰を支えながら、くしゃりと髪を撫でてやる。
そして、一度ナカから自身を引き抜くとファイの身体を今度は向き合うようにひっくり返した。
くったりと成すがままのファイのとろんとした瞳はどこか虚ろで、ふと笑みが零れる。
「こら、飛んでんじゃねぇよ。腕まわせ」
「ぁ……?」
ファイの腕を掴み、首に回させる。弱々しいながらも素直にファイの両腕が絡みついてくると、黒鋼は熱い息を吐きだすその唇に深く口づけながら、再び肉棒を濡れた秘穴に挿入していく。
「んっ、んっ、ぁ、ふ……」
混ざり合った互いの唾液が、ファイの口端から溢れだす頃になると、黒鋼はようやく自らも欲望を満たすため動きを再開させた。
はじめはゆっくり、抱きしめたファイの身体を小刻みに揺さぶりながら、やがて徐々に律動を大きくしていく。
唇同士が糸を引きながら離れると、ファイの口からはひっきりなしに甘い嬌声が上がる。
黒鋼もまた次第に息が上がり、獣じみた呼吸に支配されていた。
汗が、吐息が、鼓動が混ざり合う。境目などないほどに繋がって、溶け合って、二人が一つになっていく。
「すごいっ、すごいの……ッ! も、こんなのっ、ダメっ、死んじゃう……!」
いつしかバツンバツンと肌がぶつかり合うほどの激しさで快楽を貪っていた。結合部が淫らな音を立てる。
先刻、あれほど勢いよく放ったはずのファイの性器も、すでに力を取り戻して、律動の度にブルブルと震えながら玉のような液を幾粒も散らしていた。
「あっ、あっ、イッ、く、イク……! いくぅ!!」
瞼の裏側にぱちぱちとした火花のようなものが煌めく。黒鋼にもついに限界が訪れようとしていたが、先に果てたのはファイの方だった。
放たれた精液が黒鋼の腹をも熱く濡らした瞬間、堪えがたいほどの締めつけに腰が跳ねる。食いしばった歯の隙間から低い呻きを漏らしながら、黒鋼はファイの最奥に精を放った。
「っ、はっ、く……!」
凄まじい射精感が一瞬の嵐のように過ぎ去ると、黒鋼はファイの首筋に額を埋めた。
はかはかと浅い呼吸を繰り返しながら、ファイの両腕がそんな黒鋼の頭を優しく抱きとめた。
*
そうして二人は少しの間、余韻に浸っていた。
ふと思い出してちらりと窓の外を見れば、ほんの僅かに陽が傾き始めていることに気がつく。
夢中になりすぎて、時間の感覚を失っていた。
結局、ファイが雑誌で見つけてくるような店には行けなかったが、この後もし彼の身体が大丈夫そうなら、軽くシャワーでも浴びて、どこかその辺りの店にでも連れだしてやろうか。いい加減、腹も減ったことだし。
そんなことにぼんやりと思考を巡らせながら、抜かずにいた性器を引き抜こうとしたとき、ファイがぽつりと口を開いた。
「黒たんせんせ……」
「なんだ?」
「ん……」
顔を上げると鼻先が触れあいそうな距離でファイが困ったような、戸惑ったような表情を浮かべている。
「なんだよ」
「……あのね、オレ……ほんとはちょっと、わかる気がする」
「何が」
「うんとね……黒たんの……」
ファイの頬が赤い。こうして本気で照れているような表情は、彼にしては少し珍しい。
無言で僅かに首を傾げていると、白い腕がぎゅっと黒鋼の首を抱いて、首筋に顔を埋めてくる。その状態で上目づかいで黒鋼を見やるとファイは言った。
「黒たんの汗の匂いね、凄く、エッチな匂いがするから……」
黒鋼は思わず目を見開き、すっとんきょうな顔をした。それから、堪らず小さく吹き出した。
「もう、笑うのずるい……っ、て! ちょ、っと!?」
「おまえなぁ……せっかく人が……」
「えっ!? え!? ぅあっ!? 黒た……っ、中で、おっきくな……ッ」
腕の中、華奢な身体がビクンと跳ね上がった。
体中を真っ赤にしながらあたふたともがくファイに、黒鋼はとびきりの悪人面でニヤリと笑って見せた。
彼にとっては何気ない発言だったものが、ひとまずは鎮まっていた黒鋼に、またしても火をつけてしまった。
「可愛いこと言ってんじゃねぇぞ」
強く抱きしめて耳元に囁きながら腰を揺らすと、再びファイの唇からは甘い吐息と喘ぎが零れた。
それは暑い熱い夏の日のこと。
止めどなく発情する二人の姿を知っているのは、テーブルの上、口をつけられることなく放置されて温くなった、麦茶のグラスだけだった。
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