2025/08/03 Sun 「ッ、ぅ……も、やめ、ろ……ッ、頼む、から……ッ」 忙しない呼吸と、苦しげに呻くような声がした。 それは聞きなれたもののように思えるのに、何かが、違うような気もして。 少女はふと、意識を浮上させる。 (あれ……私、どうして……?) 遠くで下校時間を知らせるチャイムが鳴り響いていた。 一体いつの間に眠ってしまったのだろう。こんな時間になるまで、目を覚まさないなんて。 まだ夢の中にいるようなぼんやりとした頭で、幾度か瞬きをしてみる。霞む視界が徐々に鮮明になってくると、そこには自分のスカートと、白い膝小僧が映っていた。 どうやら椅子に座ったまま、がっくりと項垂れた状態で居眠りをしていたようだ。だけど、なぜだろう? ふと小さく身じろいだのと同時に、違和感を覚えた。瞬間、意識がハッキリと覚醒して、びくんと肩を揺らしながら息を飲んだ。 「ッ!?」 両手首が、椅子の背もたれに括り付けるようにして、きつく縛りつけられていた。両足もそれぞれ前脚部分に縄できっちりと固定されて、まるで身動きが取れない。 (な、なにこれ……なんで私、縛られてるの……!?) 全身が冷水を浴びたように硬直していく。導火線に火がついたみたいに、じわじわと混乱が押し寄せてきた。今にも悲鳴をあげそうになりながら、必死に前後の記憶を手繰り寄せてみる。 そうだ、自分は確か、具合が悪そうにしていた『彼』に付き添って、保健室を訪れていたはず。それがなぜ、四肢を拘束された状態で目を覚ますなんて、ありえない状況に置かれているのだろう? 一人でも平気だよと強がりを言う『彼』に寄り添い、保健室のドアをくぐった辺りから、記憶がぷっつりと途切れている。 「ぅぐ、あッ……! ダメ、だ……これ以上は、本当に……ッ」 またあの声が聞こえて、一気に思考が引き戻される。 知っている。少女はこの声を知っている。やっぱりこれは、『彼』のものだ。 「花京院」 それとは別に、低い男の声が『彼』の名を呼んだ。 少女はごくりと喉を鳴らしながら、ゆっくりと、ゆっくりと俯けていた視線を上げる 目に飛び込んできたものを、最初はまるで認識できなかった。 夕暮れ時の保健室。黒い。黒い、塊。 「てめーの大事なお姫様が、ようやくお目覚めのようだぜ」 窓から差し込む強い夕陽に、視界が眩む。黒い塊はその鮮烈な赤を背負って、そこにいた。 少しずつ目が慣れていくと、塊が二つの人の形を成していることに、気がつく。 全貌が認識できた途端に、少女は青褪めた表情で目を見開いた。 真っ先に、目が合った。 恐ろしいまでに美しく整った顔立ちをした男が、少女を見て笑っている。 凍り付いたように冷たい翡翠が、猫のように、すぅっと細められた。 ――JOJO。 あまりにも整いすぎた、彫刻のような美を湛える容姿。教師ですら平伏す豪然たる振る舞い。不良という名のレッテルを欲しいままにする男。 こんなに近くで顔を見たのは、初めてだ。どうしてこの男がここにいるのだろう。それに。 なぜ、『彼』が……? ベッドの縁に腰かけるJOJOの膝の上には、制服の前をシャツごと引きちぎられて素肌を覗かせる『彼』が……花京院が、座らされていた。その腹にはまるで一度大きな穴でも空けたかのように、歪な傷跡がこびりついている。 花京院はズボンと下着さえも剥ぎ取られ、完全に下肢を曝け出していた。長い両足の先で、靴下と上履きだけがいやに白く、そして寒々しく目に映る。 真っ赤なチェリーのようなピアスが、燃えさかる炎のように煌々と輝き、揺れる。 彼は後ろ手に拘束され、片足をJOJOの腕に引っ掛ける形で股を開かされていた。その身体の中心では、赤く腫れた性器が震えている。なぜか根本が白い布のようなもので縛りつけられているのが見えた。おそらく彼がいつも持ち歩いている、ハンカチ、だと思う。 あまりにも、異様な光景。 「ぁ……」 少女の視線を真正面から受け止めて、花京院はその表情を絶望に青白く染めながら、カタカタと震えだした。声もなく首を振り、身を捩って逃れようとするのを、JOJOの太い腕が許さない。 背けようとしていた顔はもう片方の手に顎を掴まれ、無理やりこちらを向かされる。 「しっかり見せつけてやんな」 「いや、だ……頼む、から……!」 「ッ――!!」 少女は咄嗟に悲鳴を上げようとしたが、それはどういうわけか叶わなかった。 息を吸いこもうとした瞬間、喉に強い圧迫感を覚えたのだ。まるで大きな手に首を一掴みにされているみたいに。ギリギリと締め付けられて、息ができない。 「ぁ、ッ、が……っ!?」 「やめろッ! 彼女には手を出さない約束だろう……ッ!!」 花京院の悲痛な叫びが、ずっとずっと遠くに聞こえる。そのくせJOJOが冷やかに鼻で笑う声だけは、ハッキリと聞こえた気がした。 このままでは死ぬ。死んでしまう。こんなにも死を身近に感じたのは、生まれて初めての経験だ。怖い。怖い。見えない『何か』が、今にも自分を締め殺そうとしている。それがどんなものかは見えないし、感じることもできないけれど、大人しくしていなければ、一瞬でくびり殺すことが出来るのだという警告だけは理解できた気がして、少女は大きく開けていた口をぐっと閉じた。 すると、圧迫感がほんの少しだけ和らいだ。ひゅうっと息を吸い込んだと同時に、思いだしたように全身に冷たい汗が噴き出す。 おかしい。絶対におかしい。得体の知れない恐怖に、全身の血が凍りつく。 「てめー次第だ。わかるな?」 「ッ、この、下衆が……ッ」 耳元で囁いたJOJOに、花京院は憎しみを露わに表情を歪め、気丈にも吐き捨てる。 JOJOはどこか満足そうに笑みを浮かべ、低く唸るような声で笑った。 「……約束だったな。この女が目を覚ましたら、イカせてやるってよ」 「ッ……!?」 息を飲んだのは、少女と花京院、同時だった。 「それとも、もっと焦らされてえのか?」 「いや、だ……いやだ……承太郎、頼む! やめろ……ッ!」 JOJOの大きな手が、容赦なく花京院の張り詰めた性器を扱きはじめた。どれだけ長い時間、こうして嬲られていたのだろう。花京院は苦悶に満ちた表情で、一言だけ「ひ」と短く悲鳴をあげたあと、痛々しいほど強く唇を噛み締める。 少女は、瞬きもせずにただ見つめることしかできなかった。目の前で起こっていることが信じられない。理解できない。頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしたらいいか分からなかった。 (これは……なに……?) どうしてこんなことになっているの? どうしてJOJOはこんなことをするの? 私は一体、なにを見せられているの……? どうして、どうして、どうして。 わからない。何もわからない。 ただ今この瞬間、目を覚ましてしまったことを深く、後悔していた。 *** なんとなく。 本当に、ただなんとなく。 キッカケは、互いにほんの些細な気紛れから、だったのだと思う。 花京院典明といえば、転校初日に忽然と姿を消し、そのまま数ヶ月にもおよぶ失踪を遂げていたことで有名な人物だった。 その間どこにいたのか、何をしていたのか、真相を知るものは誰もいない。彼はある日、何事もなかったかのように姿を現し、当たり前のように学校という空間に溶け込んでしまった。 なにか重い病に侵されているのではないか。どこか裏の世界に通じていて、学生としての姿は仮のもの、なのではないか。様々な噂だけが次から次へと生まれては、消えていく。 何か秘密がありそうな、物静かでミステリアスなクラスメイト。 少女にとって、花京院典明は住んでいる世界の違う、遠い存在という認識だった。 そんな花京院と初めて言葉を交わしたのは、放課後の図書室でのことだった。 高い場所にある本が取れず、背伸びをしていたところに頭上から伸びて来た白い手。それが彼のものだった。 爽やかで濁りのない声が「どうぞ」と言って本を差し出してきた瞬間、その少女漫画のような光景に心臓を掴まれるような思いがした。 鮮やかな赤い髪に夕焼け色を吸い込ませ、すみれの花のように澄んだ瞳をして微笑む花京院は、今まで見てきたどんなものよりも、美しく輝いて見えたのを覚えている。 なんとなく。ただ、なんとなく。 それをキッカケに、二人はよく放課後の図書室で顔を合わせては、少しずつ会話をするようになった。 話してみると、彼とは読書を好む以外にも、多くの共通点があった。 好きな音楽や憧れている俳優、応援している野球チーム。女友達と話をするよりも、花京院との会話は驚くほど弾んだ。誰かと一緒にいて、これほど楽しく、そして心が安らぐのを感じたのは初めてだった。 なんの変哲もない平凡な日常は檻のようで、彼なら、きっと自分をここから連れ出してくれる。そんな予感めいたものを、漠然と感じはじめていた。 二人の交流は、いつしか学校の外にまで及んだ。 映画を見に行ったり、喫茶店でお茶を飲んだり、図書館で一緒にテスト勉強をしたり。 花京院はいつも優しくて、格好良くて、紳士的で大人びていて、まるで子供の頃に絵本で見た、王子様のようだった。彼と一緒にいると、まるで自分がお姫様にでもなったような気にさせられて、気がつくと、胸がドキドキと高鳴るようになっていた。 男女の間に友情が芽生えることがあるのかどうか、異性と親しい仲になったことのない少女には、まだ分からなかった。 だけど街を歩けばカップルに見られているだろうし、学校では、あっという間に噂になった。 だからお互い、意識してしまったのかもしれない。下校中、ふと会話が途切れたとき、偶然ふたりの指先が触れ合った。一瞬だけギクリとして、それから、どちらからともなく、手を繋いだ。 友情と判別のつかない、曖昧な関係がそこで終わった。 花京院とは手を繋ぐ以上のことはまだなくて、あくまでも清い関係が続いていた。 自分たちは高校生だし、キスだとか、ましてやその先のことなんてまだ早い。一緒に同じ時間を過ごせるだけで、十分に幸せだと感じられた。 彼は表情や仕草にこそ出さないものの、あまり身体が丈夫ではないようだった。けれどそんな強がりや儚い一面ですら、自分が支えになれたらいいと、そう思っていた。 だけど一つだけ、どうしても気になっていることがあった。 それは主に学校で。花京院の側にいると、ふと視線を感じることがあった。皮膚を刺すようなそれは、少女が辺りを見回すと、一瞬で消えてしまう。 彼に想いを寄せる女子生徒は少なくなかったし、嫉妬されること自体は決して不快なものではなかったけれど、その視線だけは、何かが違うような気がしていた。 多分あれは、嫉妬なんて生易しいものではなくて。 殺意、だったのではないか。 *** 悪夢のような光景に硬直しながら、確信する。 あの刺すような感覚。背筋をナイフの切っ先でなぞられるような、深く暗い闇の底から覗き込まれているような、そんな恐ろしく冷たい視線の正体。 空条承太郎。この男に、違いないと。 花京院が失踪したのとまったく同じ時期。彼もまた姿を消し、そして二人同時に復帰したというのは、あまりにも有名は話だった。 彼らが親しげに談笑する姿は、勝手気ままな噂を助長する餌になっている。その光景は、少女も幾度か見かけたことがあった。 JOJOと、花京院。二人の間には他者が踏み込むことのできない、特別な世界があるような気がした。決して触れてはならない、何かが。 それが一体なんなのか、聞いてみたい気持ちはあったけれど、いつか話してくれる日が来たら、それでいいと思っていた。だって自分たちはただの友達ではなく、もっと特別で、深い関係なのだからと。 だけど思いもよらない形で、扉は開かれてしまった。 彼らの世界に、今、自分は異物として縛りつけられている。 初めて恋をした相手が、目の前でただ嬲られる姿を、息を殺して見つめていなければならない現実は、苦痛でしかなかった。 「み、るな」 花京院の唇は、あまりにも強く噛み締めていたせいで血が滲んでいる。その隙間から、彼は何度も苦しげに「見ないでくれ」と切れ切れな声を漏らした。 堰き止められたままの性器は、可哀想なほど赤く腫れている。JOJOの大きな手がそれをねっとりと扱き上げ、親指の腹で先端を擦るたび、彼の白い内腿がビクビクと激しく震えた。 男性の、ましてや勃起した性器を見るのは初めてだった。けれど感覚が麻痺しはじめているせいか、それ自体に不快感はまるでない。ただ、痛々しくて仕方がなかった。 お願いだから、もうやめて。 何度も叫びかけて、その度に不可思議な喉の圧迫感に怯え、口を引き結ぶ。 花京院はJOJOの腕の中で苦しそうに肩を上下させ、全身に汗を噴きだしながら、苦悶の表情を浮かべていた。 なぜこんなことになってしまったのだろう。どんなに考えても答えはでない。だけど彼がこれほどの屈辱に耐え続けているのは、他でもない自分を守るためなのだということだけは、分かる。 どうすることもできない無力感に、少女は大粒の涙が溢れるのを堪え切れなかった。 「だい、じょうぶ……」 そのとき、ずっと顔を背けていた花京院が、真っ直ぐにこちらを見てふと表情を和らげた。笑うと少し幼く見える、あの大きめの唇を震わせながら、ぎこちなく微笑んでいる。 「ぼくは、大丈夫だから……ッ、必ず、助ける、から。巻き込んで、ごめ、ん」 どうして花京院が謝らなくてはならないのだろう。 いつ終わるとも知れない地獄の中にいるのは、彼自身であるはずなのに。少女の目には、JOJOの姿は悪魔にしか見えない。 当の悪魔はバカにしたように鼻で笑って、「泣かせる光景だな」と白々しく吐き捨てた。 花京院が背後の承太郎に向かって、鋭い視線を走らせる。 「もう、いいだろう? ぼくのことは好きにしていい……だから、彼女だけは解放しろ」 「ずいぶんと強がるじゃあねえか。ところで、この女とはもうヤッたのか?」 「バカなことを聞くなッ! 君には、関係ない……ッ」 何が面白いのか、JOJOはくつくつと肩を揺らしながら低く笑った。 だけど目だけは笑っていない。 「てめーがまともに女を抱けるとは思えねえがな」 JOJOは酷く馬鹿にした様子で鼻を鳴らし、腫れあがった性器の先端を指先で乱暴に弾いた。花京院は大きく身体をビクつかせ、堪らず上擦った悲鳴を上げる。 「ひぅッ、ん……ッ!!」 「いつもなら、とっくにイカせてくれってピーピー泣いてる頃だぜ。女みてーによ」 (いつもなら……?) その部分が、やけに強調されて聞こえた気がした。 JOJOは顔を背けようとする花京院の耳元に唇を押し付け、視線だけはこちらに向けながら目を細めて笑っている。 「花京院」 JOJOは花京院の首筋に音を立ててキスをしながら、嫌でも目立つ変色した腹の傷跡をゆるりと撫でた。 「ぅ、くッ、……んッ」 「辛いだろ? 可哀想にな」 何度も何度も、労わるように。 その優しい手つきとJOJOの伏せられた長い睫毛に、胸が締め付けられたのはなぜだろう。 目を覆いたくなるような、痛々しい傷跡。何があったのかは、分からない。けれどそこに、いつも感じていたあの立ち入ってはいけない『世界』そのものが、隠されているような気がする。 そこは他の部分よりも皮膚に受ける感覚が異なるのだろうか。花京院はJOJOがそっと撫でるたび、ひくひくと敏感に身を震わせていた。 心なしか、頬がうっすらと赤らんでいる。悦い、のかもしれない。 「も、ッ、さわ、るな……ッ」 「つれねえな。あの頃はもっと可愛げがあったぜ」 「うる、さッ、ぁ、ヒッ……!?」 するりと、根本を縛りつけていたハンカチが解かれる。くしゃくしゃになったそれが床に落ちる光景が、いやにゆっくりと目に映った。 花京院はガクンと身を揺らし、目を見開いて首を左右に振る。 「い、やだ……ッ、やめろ、やめ……ッ!!」 「とっとと楽になりてえだろ。我慢しねえでイッちまいな」 激しく身を捩る花京院の抵抗など気にもとめず、JOJOは再びねっとりと勃起した性器を扱きはじめる。そこは先端からだらだらと蜜を溢れさせ、淫らな水音を響かせていた。 花京院は何度も何度も首を振っては拒絶の言葉を口にする。開かされた内腿が小刻みに痙攣して、彼がもうとっくに限界を迎えていることを知らせていた。 血の滲んだ下唇に、さらにきつく歯を立てて、花京院はどうにかして感覚を痛みの方へ逃がそうと、必死に足掻き続けているようだった。 そんなささやかな抵抗にすら、JOJOはお見通しとばかりに笑みを崩さなかった。 「うぁッ……!?」 不意に、花京院の身体がこれまで以上に大きく跳ねた。 腹の傷跡を撫で摩っていたJOJOの手が、彼の身体の奥待った場所に伸ばされ、潜り込んでいるのが見える。 (指、を……?) 中に、捻じ込んだのか。あの太くて、長い指を。 花京院は女性ではない。だから、穴は一つしかないはずだ。 「いっ、痛……ッ、ぁ、じょ、たろ……ッ」 「キツイな。こっちに戻ってからは使ってねえから、当然か」 「そこ、は……やめ……ッ」 「これでも我慢してやってたんだぜ?」 「ッ、承太郎ッ!?」 JOJOは上体を僅かにのけ反らせ、花京院の片足を引っ掻けていた腕を、とくと見ろと言わんばかりにさらに強く持ち上げた。薄紅色をした恥部に、節くれだった太い指が三本も捻じ込まれ、強引に出たり入ったりを繰り返しているのが分かる。 あまりにも惨い。そしておぞましいと思うのに、少女はその小さな穴がいたぶられる光景から、目が離せなかった。心臓が、痛いほど高鳴っている。 JOJOが吐き出す言葉の全ては、自分が花京院と気持ちを通じあわせるずっと以前から、二人が身体の関係を結んでいたことを、明確に物語っている。 失踪していた間に起こった出来事であることは、確かなようだった。 「……漏らしちまったっけな」 中を指で掻きまわし、同時に性器を責めたてながら、おもむろに何かを思いだしたようにJOJOが言う。 痛みから小刻みに震えるばかりだった花京院が、それを聞いてギクリと身を強張らせた。 「覚えてねえか? ありゃ砂漠で野宿してるときだったか……ここに、おれのをブチ込んで」 「おい……なに、を……」 言うつもりだ……? 青褪めていく、花京院の唇。さっきよりもずっと、凍えたように震えだす身体。 彼を見つめるJOJOの瞳が、過去を懐かしむように優しく細められる。 「死ぬほどイカせてやったあとによ」 「やめろ……それ以上言うなッ! 彼女の前で、そんなこと……ッ!」 言わないでくれッ!! 花京院が悲痛な叫びをあげる。 けれど容赦なく開かれたJOJOの唇は、三日月のように美しく歪んでいた。 「しょんべん漏らしてよ。ガキみてぇに泣きじゃくったっけな?」 言うと同時に、JOJOが掴んでいた性器の先端にある窪みを、親指の爪で強く抉る。 花京院の口から、小さく引き攣ったような息が漏れた。 「ぃ、ひッ……――ッ!!」 びゅう、という音と共に、白濁の飛沫があがる。それは花京院の腹や胸に飛び散り、彼自身の肌を汚した。 長いこと堰き止められていた精が止め処なく溢れては震え、その度に花京院の胸がビクビクと跳ねる。JOJOはまるで悪戯が成功した子供のように笑い、舌なめずりをした。 精液で濡れた腹に大きな手の平を這わせ、馴染ませるように幾度も撫でる。 花京院は、絶頂の余韻にヒクつきながら、力なくがっくりと項垂れてしまった。やがて、その肩が小刻みに震えだす。 「……ッく、ぅ……どう、して……」 顔は見えないけれど。ぼろぼろと、雫が落ちては濡れた肌に吸い込まれていく。 「そんなこと、どうして、ここで……! なん、で、こんな、こと……ッ」 彼は小さくしゃくりを上げながら、ついに泣きだしてしまった。 少女はただただ、その憐れな姿を瞬きも忘れて凝視する。 いつも優しくて、大きな存在だった。紳士的で大人びた、王子様のように上品で格好いい、完璧な恋人。それが少女にとっての花京院だったし、彼もまた、そんな自分でありたかったに違いない。 だけどギリギリのところで保たれていたであろう彼のプライドは、恥かしい秘密をバラされながら達してしまったことで、いよいよ粉々に砕かれてしまった。 最後に残ったのは、自分より大きな相手に苛められて、めそめそと泣きじゃくるばかりの、小さな子供のような姿だった。 (なんて、ひどい……) 可哀想な花京院。 こんなことになるくらいなら、あの日、手なんか繋がなければよかったのだろうか。ただの友達でいれば。それすらも、JOJOは許さなかったのかもしれないけれど。 少女は気がついてしまった。いや、もしかしたら、ここで目を覚まして二人の姿を認識した瞬間には、すでに理解していたのかもしれない。 これは、見せしめだと。 花京院は、JOJOのものだったのだ。 本人にそのつもりはなかったのかもしれない。彼はきっとJOJOを大切な友達だと、そう思っていたのではないか。 だけどJOJOは違った。自分が抱いていた淡い恋心など、遥かにしのぐ執着をもってして、狂ったように、花京院を。 「なぜ……? やれやれ、それをてめーが聞くのか」 「うぁッ!!」 唐突に、JOJOが花京院の背を乱暴に突き飛ばした。 後ろ手に拘束されたままの彼は、顎や胸を打ち付けながら床に崩れ落ちる。少女の、足元に。 尻を高く突きだすという不様な格好を見下ろし、少女はごくりと喉を鳴らした。 多分きっと、ここからが本番だ。花京院は傷ついて、こんなにもボロボロになっているというのに。まだ、終わらない。 JOJOはベッドの縁から腰を上げると立ち上がり、自らの前を寛げながら花京院の背後に膝をつく。 姿を現したJOJOの性器は、赤黒く脈を浮き立たせながら勃起している。花京院のものとは、比べものにならないくらいリアルで、そして、あまりにも大きい。目の前で黒々とした男性器を見せつけられていることに、今更ショックを受けている自分が、少し可笑しかった。 「や、だ……やだ、嫌だ……それだけは……ッ」 酷く怯えながら逃れようとする腰を、JOJOの手が掴む。 そして、もう片方の手は自身を掴み、幾度か扱く動作を見せた。 (挿れるんだ……) あんなものが、あそこに、入るのだろうか。あんな小さな場所に。そうしたら、花京院はどうなってしまうのだろう。 心臓が口から出そうだ。ばくばくと、大きく跳ねている。 怖いから? 見たくないから? 違う。多分、違う。瞬きが、できない。 「笑っちまうぜ」 「ぁ、や……ッ、じょ、たろ……?」 「なぁ、花京院」 白く引き締まった谷間に、JOJOが性器の先端を押し当てるのが分かる。そして次の瞬間、ぐっと腰を押し込んだ。 「や、やめ、や、ぁ゛ッ……――!?」 激痛に背を反らし、血の滲んだ唇を大きく開いた花京院の顔が、見下ろした先にある。彼は全身を引き攣らせ、見開いた菫色の瞳から大粒の涙を撒き散らしていた。 その衝撃と、苦痛をありありと滲ませた表情に、少女は背筋にゾクリとしたものが走るのを感じて、喉を鳴らす。 「ッ、ひぐ、ぅ、ッ……た、ぃッ……痛い、ッ、じょ、た、ろ……ッ!」 「流石に裂けちまったな。血が出てる」 JOJOの男根が、小さく引き締まった尻の谷間にずぶずぶと潜り込んでいく。 あんな大きなものをまともに慣らさないで挿れられたら、ひとたまりもないだろう。女性ですら、きっと耐えられない。 花京院は口の端から唾液を漏らし、歯の根をカタカタと鳴らしながら、痛い、痛いと悲痛な声をあげ続けていた。 「うぅッ、ぅ……やだ、いやだ……痛い、こんなの、やだ、ぁ……ッ!!」 「はっ、そう言うなよ。何度もこうやって愛し合った仲じゃあねえか」 「ちが、ぅ……ッ! 違う、だって、だってあのときは、お互い処理をしてただけで……ッ、君もぼくも、ちょっとおかしくなっていただけじゃあないかッ!!」 「……黙んな」 ばつん、という肌と肌がぶつかる音がして、JOJOが最奥まで性器を打ち込んだのが、わかる。 「あッ、が……ッ!!」 まともに悲鳴もあげられないほどの衝撃。 JOJOは息をつく間もなく、強張ったままの身体を揺さぶりはじめる。 何度も何度も、あの肌がぶつかる音がして、その度に舌を噛むのではないかと思うほど、ガクガクと花京院の身体が揺れていた。 まさにレイプと呼ぶに相応しい、酷い、光景。だけど。 「ひっ、んんッ、あッ、は、ッ……はぁッ、んッ!」 苦痛に呻くだけだった声に、なにか、違う色が混じりはじめていることに、少女は気づいた。 裂けてしまったことで滲む血が、潤滑油の代わりにでもなっているのだろうか。鈍い水音が、二人の荒々しい呼吸に混じり合っていく。 「慣れてきたか」 「あ、うぅッ、ぅ……や、だ……じょお、たろ、ッ、やだ、ぁ……ッ!」 「ちょっぴり痛いほうが、てめーはよく鳴くんだったな」 「ひぃッ、あ、あぁッ……!!」 突き上げる動きはそのままに、JOJOが拘束された腕を掴み上げる。そのままぐんと引き上げると、繋がり合ったまま花京院の身体が膝立ちの体勢になった。花京院の内腿には、ほんのりと血の混じった液体が伝っている。 ふるん、ふるん、と揺さぶられる度に赤く膨らんだ性器が揺れていた。それはもはや腹につくほど反り返り、力を取り戻している。奥を突かれる度、揺れる性器の先端からは先走りの蜜が飛び散り、床にシミを作り上げていた。 感じている、ということだ。花京院は、男に犯されて、感じている。 「や、だ……あッ、こんな、かっこ、アッ、くぅ、ん……ッ!」 目を逸らすことすらせず、少女はただ放心したようにそのぶつかり合う肉の音と、水音を聞いている。自分の心が、どこかに切り離されて遠くにあるような気がしていた。 そうやって押しやったのは理性だとか、常識だとか、人として必要なもの、だったのだと思う。 多分、それは花京院も同じだった。 顔を上げた花京院と、一瞬、目が合った。 どろりと濁っていく瞳に、あの日、夕焼けを吸い込んで輝いていたすみれ色の輝きはない。 圧倒的な支配と、屈辱と、羞恥。そして快楽。彼はそれらに蝕まれ、いま完全に堕ちようとしている。 「あれがただの性欲処理だと?」 薄笑いを浮かべるばかりだったはずのJOJOの顔が、僅かに歪んだ。 少女の中で、そこの知れない恐ろしい悪魔というイメージが、ゆっくりと崩れ落ちていく。 「花京院、おれはな。あの旅で、てめーの全てを手に入れたと……そう思ってたんだぜ」 大切なオモチャを取り上げられて、癇癪を起す寸前の子供のようだ。ゾッとするほど冷たく見えた翡翠がうっすらと潤んで、今にも零れ落ちそうに見える。 彼らの『旅』が、どんなものであったのかなんて、きっと自分は生涯、知る由もない。 だから。 「それが戻って来た途端、勝手に女なんか作っていやがった」 (……やめて) お願いだから。 (私を、あなたたちの『世界』の登場人物にしないで) ほう、と。 少女は頬を赤らめて、熱っぽい吐息を漏らしていた。 理不尽に責めたてられ、凌辱の限りを尽くされる、惨めで非力で、可哀想な王子様。それでも快楽に抗えず、逃げ道にしてしまった、淫らな王子様。 JOJOのあまりにも我儘で、強引な愛が、彼を壊してしまった。もはや何も映さない瞳で嬌声をあげながら揺さぶられる、その姿を。 とても、美しいと思った。 そこにはもう少女が憧れた姿はないけれど、どうしてか、今はひどく気分が高揚している。 だって、こんなにも素晴らしいショーを、真正面の特等席で見ることができているのだから。 同じ空間で、同じ熱を体感しながら、演者と観客の間には決して越えられない壁がある。舞台の上は、異世界でなくてはならないのだ。届かないからこそ永遠に憧れ続ける、それでこそ、素晴らしい。 気がつけば、喉に感じていた圧迫感が消えていた。 許されたような。そんな、気がする。 「てめーをこんな風に雌にしてやったのは誰だ?」 「んんッ、あッ……だ、め……ッ! これ、すご、い、気持ち、い……ッ!!」 「答えな花京院。おまえは」 ――誰のものだ? 花京院の口元に、うっすらと、歪むような笑みが浮かんだ。ゾクリとする。なんて、笑い方。 滲む血液で赤く紅を引いたようにも見える唇が、酷く甘えたような声で、じょうたろう、と呼んだ。 「じょ、たろ……ッ、んあっ、あッ、じょぉ、たろう、です……ッ!」 そこにあるのは、ただの『雌』の顔だ。 「ぼくは、承太郎のッ、もの、ですッ……じょ、たろの、これ、ずっと……欲しかったッ!」 「……上出来だ」 JOJOが微笑む。掴んでいた両腕をさらに引き寄せ、首を捩じった花京院に求められるまま、深い口付けを交わす。赤い舌が絡み合い、角度を変えながら貪り合う。どちらのものともつかない唾液が、銀色に輝きながら伝い落ちていく。 JOJOの動きに合わせて、花京院も懸命に腰を揺らしていた。快楽だけを、ただあるがままに追いかける彼らは、美しく卑しい、獣のようだった。 「はぁ、アッ、いッく、イク! ぼく、もう……ッ!」 「いいぜ。どうしてほしい?」 「出して、ナカにッ、承太郎の、いっぱい、ぼくに……くださ、ッ、い……っ!!」 JOJOがより一層、大きく花京院を突き上げる。あ、という形に口を開いたまま、花京院はクジラが潮を噴くように激しく吐精した。弧を描きながら噴きだすそれが床を汚し、少女の上履きの先も、少しだけ、汚す。 びくん、びくん、と身を震わせる花京院の背後では、JOJOが低く唸って腰を僅かに震わせている。 「で、てる……ぁ、はッ、じょ、たろ……いっぱ、い……」 「はッ、かきょう、いん……!」 うっすらと笑みを浮かべたまま、花京院の身体が前のめりに崩れ落ちた。 JOJOもまた腰を屈め、小さく痙攣を繰り返す花京院の耳元に唇を押し付ける。何か囁いたようだが、あまりにも小さな声は、少女の耳には届かなかった。 (終わった……) とても名残惜しい気分で、ぴくりとも動かなくなってしまった花京院を見下ろす。 頭の中がぼうっとして、熱に浮かされたように何も考えられない。 するりと、縄が解けて身体が自由になった。JOJOでもない。花京院でもない。あの得体のしれない何かが、少女の拘束を解いたのだ。 結局、それが何かは最後まで、分からなかったけれど、それで、いいのだと感じる。 「悪かったな」 伏せている花京院を抱き起こし、腕の中に収めながらJOJOが言う。その瞳からナイフのように尖ったものは消え失せていた。 「こういうわけだ。他にもっとまともな王子様でも探しな」 JOJOの口元に、ほんのりと笑みが浮かぶのを見て、少女もふわりと微笑んだ。まるで共犯者にでも、なったような気分だった。 少し痺れている足で、椅子から立ち上がる。 「ありがとう。とても素敵なショーだったわ」 *** あれから、学校で花京院の姿を見ることはなかった。 時が経つにつれ、あの保健室での出来事は本当は夢だったのではないかと、そんな風に思えてくる。 新しい王子様が見つかる気配はないけれど、当分は、そんな気になれそうもなかった。 花京院と出会う前の、ありふれた日常。その中を淡々と生きながら、放課後のチャイムをバックに一人夕焼け空を見ていると、時々、あのときの光景が鮮明に蘇る。 夢、だったのかもしれない。多分、そういうことにしておかなくてはいけない。 だけどどうしても、もう一度だけ、あの時の光景に触れてみたいと。そんな気もして。 だから、花京院の家を訪ねた。 クラスメイト思いの生徒を装って、学校帰りに彼の家の呼び鈴を鳴らす。 姿を現したのは、少しやつれた様子の綺麗な女の人だった。瞳の色も、赤い髪も、彼によく、似ていた。 「息子は身体の具合が悪くて、遠くの施設で療養しているの」 彼女は痩せた目元に暗い影を落としながら、力なくそう言った。 それ以上は何も聞くことができず、ただ「お大事に」という当たり障りない言葉だけを述べて、彼の家に背を向けた。 真っ赤に燃える夕陽を見つめながら、ふと気づく。 私は、ピエロだったのかもしれない、と。 赤く紅を引いたような唇で笑っていた、花京院が忘れられない。彼は心の底から悦んでいた。 本当は、ずっとああなることを待ち望んでいたのではないか。 彼こそが、檻の中から連れ出してくれる王子様を、待っていたのではないか。 そんなふうに思えてならない。 今となっては全てが幻のようで、真実を知る術もなければ、その必要もないことを、知っている。 花京院が消えた日から。 JOJOも、消えてしまった。 少女は軽やかな足取りで家路を辿る。 そうだ、読みかけのミステリ小説が、机の引き出しに仕舞ってあるのだった。帰ったら紅茶を淹れて、大好きなチョコレートを口に含みながら、読んでしまおう。 物語の中で、犯人が誰であるかの目星はついている。どんな動機で、どうやって罪を犯したのか、そのなにもかも。けれどその世界観がとても好きで、結末を知ってしまうのが惜しかった。 だけどそれではいつまでも終われない。最後のページを閉じることで、エンドマークをうつのは読者である、自分自身なのだから。 彼らがただ共に、幸せであればそれでいい。 だからきっと、この物語はハッピーエンドだ。 ←戻る ・ Wavebox👏
忙しない呼吸と、苦しげに呻くような声がした。
それは聞きなれたもののように思えるのに、何かが、違うような気もして。
少女はふと、意識を浮上させる。
(あれ……私、どうして……?)
遠くで下校時間を知らせるチャイムが鳴り響いていた。
一体いつの間に眠ってしまったのだろう。こんな時間になるまで、目を覚まさないなんて。
まだ夢の中にいるようなぼんやりとした頭で、幾度か瞬きをしてみる。霞む視界が徐々に鮮明になってくると、そこには自分のスカートと、白い膝小僧が映っていた。
どうやら椅子に座ったまま、がっくりと項垂れた状態で居眠りをしていたようだ。だけど、なぜだろう?
ふと小さく身じろいだのと同時に、違和感を覚えた。瞬間、意識がハッキリと覚醒して、びくんと肩を揺らしながら息を飲んだ。
「ッ!?」
両手首が、椅子の背もたれに括り付けるようにして、きつく縛りつけられていた。両足もそれぞれ前脚部分に縄できっちりと固定されて、まるで身動きが取れない。
(な、なにこれ……なんで私、縛られてるの……!?)
全身が冷水を浴びたように硬直していく。導火線に火がついたみたいに、じわじわと混乱が押し寄せてきた。今にも悲鳴をあげそうになりながら、必死に前後の記憶を手繰り寄せてみる。
そうだ、自分は確か、具合が悪そうにしていた『彼』に付き添って、保健室を訪れていたはず。それがなぜ、四肢を拘束された状態で目を覚ますなんて、ありえない状況に置かれているのだろう?
一人でも平気だよと強がりを言う『彼』に寄り添い、保健室のドアをくぐった辺りから、記憶がぷっつりと途切れている。
「ぅぐ、あッ……! ダメ、だ……これ以上は、本当に……ッ」
またあの声が聞こえて、一気に思考が引き戻される。
知っている。少女はこの声を知っている。やっぱりこれは、『彼』のものだ。
「花京院」
それとは別に、低い男の声が『彼』の名を呼んだ。
少女はごくりと喉を鳴らしながら、ゆっくりと、ゆっくりと俯けていた視線を上げる
目に飛び込んできたものを、最初はまるで認識できなかった。
夕暮れ時の保健室。黒い。黒い、塊。
「てめーの大事なお姫様が、ようやくお目覚めのようだぜ」
窓から差し込む強い夕陽に、視界が眩む。黒い塊はその鮮烈な赤を背負って、そこにいた。
少しずつ目が慣れていくと、塊が二つの人の形を成していることに、気がつく。
全貌が認識できた途端に、少女は青褪めた表情で目を見開いた。
真っ先に、目が合った。
恐ろしいまでに美しく整った顔立ちをした男が、少女を見て笑っている。
凍り付いたように冷たい翡翠が、猫のように、すぅっと細められた。
――JOJO。
あまりにも整いすぎた、彫刻のような美を湛える容姿。教師ですら平伏す豪然たる振る舞い。不良という名のレッテルを欲しいままにする男。
こんなに近くで顔を見たのは、初めてだ。どうしてこの男がここにいるのだろう。それに。
なぜ、『彼』が……?
ベッドの縁に腰かけるJOJOの膝の上には、制服の前をシャツごと引きちぎられて素肌を覗かせる『彼』が……花京院が、座らされていた。その腹にはまるで一度大きな穴でも空けたかのように、歪な傷跡がこびりついている。
花京院はズボンと下着さえも剥ぎ取られ、完全に下肢を曝け出していた。長い両足の先で、靴下と上履きだけがいやに白く、そして寒々しく目に映る。
真っ赤なチェリーのようなピアスが、燃えさかる炎のように煌々と輝き、揺れる。
彼は後ろ手に拘束され、片足をJOJOの腕に引っ掛ける形で股を開かされていた。その身体の中心では、赤く腫れた性器が震えている。なぜか根本が白い布のようなもので縛りつけられているのが見えた。おそらく彼がいつも持ち歩いている、ハンカチ、だと思う。
あまりにも、異様な光景。
「ぁ……」
少女の視線を真正面から受け止めて、花京院はその表情を絶望に青白く染めながら、カタカタと震えだした。声もなく首を振り、身を捩って逃れようとするのを、JOJOの太い腕が許さない。
背けようとしていた顔はもう片方の手に顎を掴まれ、無理やりこちらを向かされる。
「しっかり見せつけてやんな」
「いや、だ……頼む、から……!」
「ッ――!!」
少女は咄嗟に悲鳴を上げようとしたが、それはどういうわけか叶わなかった。
息を吸いこもうとした瞬間、喉に強い圧迫感を覚えたのだ。まるで大きな手に首を一掴みにされているみたいに。ギリギリと締め付けられて、息ができない。
「ぁ、ッ、が……っ!?」
「やめろッ! 彼女には手を出さない約束だろう……ッ!!」
花京院の悲痛な叫びが、ずっとずっと遠くに聞こえる。そのくせJOJOが冷やかに鼻で笑う声だけは、ハッキリと聞こえた気がした。
このままでは死ぬ。死んでしまう。こんなにも死を身近に感じたのは、生まれて初めての経験だ。怖い。怖い。見えない『何か』が、今にも自分を締め殺そうとしている。それがどんなものかは見えないし、感じることもできないけれど、大人しくしていなければ、一瞬でくびり殺すことが出来るのだという警告だけは理解できた気がして、少女は大きく開けていた口をぐっと閉じた。
すると、圧迫感がほんの少しだけ和らいだ。ひゅうっと息を吸い込んだと同時に、思いだしたように全身に冷たい汗が噴き出す。
おかしい。絶対におかしい。得体の知れない恐怖に、全身の血が凍りつく。
「てめー次第だ。わかるな?」
「ッ、この、下衆が……ッ」
耳元で囁いたJOJOに、花京院は憎しみを露わに表情を歪め、気丈にも吐き捨てる。
JOJOはどこか満足そうに笑みを浮かべ、低く唸るような声で笑った。
「……約束だったな。この女が目を覚ましたら、イカせてやるってよ」
「ッ……!?」
息を飲んだのは、少女と花京院、同時だった。
「それとも、もっと焦らされてえのか?」
「いや、だ……いやだ……承太郎、頼む! やめろ……ッ!」
JOJOの大きな手が、容赦なく花京院の張り詰めた性器を扱きはじめた。どれだけ長い時間、こうして嬲られていたのだろう。花京院は苦悶に満ちた表情で、一言だけ「ひ」と短く悲鳴をあげたあと、痛々しいほど強く唇を噛み締める。
少女は、瞬きもせずにただ見つめることしかできなかった。目の前で起こっていることが信じられない。理解できない。頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしたらいいか分からなかった。
(これは……なに……?)
どうしてこんなことになっているの?
どうしてJOJOはこんなことをするの?
私は一体、なにを見せられているの……?
どうして、どうして、どうして。
わからない。何もわからない。
ただ今この瞬間、目を覚ましてしまったことを深く、後悔していた。
***
なんとなく。
本当に、ただなんとなく。
キッカケは、互いにほんの些細な気紛れから、だったのだと思う。
花京院典明といえば、転校初日に忽然と姿を消し、そのまま数ヶ月にもおよぶ失踪を遂げていたことで有名な人物だった。
その間どこにいたのか、何をしていたのか、真相を知るものは誰もいない。彼はある日、何事もなかったかのように姿を現し、当たり前のように学校という空間に溶け込んでしまった。
なにか重い病に侵されているのではないか。どこか裏の世界に通じていて、学生としての姿は仮のもの、なのではないか。様々な噂だけが次から次へと生まれては、消えていく。
何か秘密がありそうな、物静かでミステリアスなクラスメイト。
少女にとって、花京院典明は住んでいる世界の違う、遠い存在という認識だった。
そんな花京院と初めて言葉を交わしたのは、放課後の図書室でのことだった。
高い場所にある本が取れず、背伸びをしていたところに頭上から伸びて来た白い手。それが彼のものだった。
爽やかで濁りのない声が「どうぞ」と言って本を差し出してきた瞬間、その少女漫画のような光景に心臓を掴まれるような思いがした。
鮮やかな赤い髪に夕焼け色を吸い込ませ、すみれの花のように澄んだ瞳をして微笑む花京院は、今まで見てきたどんなものよりも、美しく輝いて見えたのを覚えている。
なんとなく。ただ、なんとなく。
それをキッカケに、二人はよく放課後の図書室で顔を合わせては、少しずつ会話をするようになった。
話してみると、彼とは読書を好む以外にも、多くの共通点があった。
好きな音楽や憧れている俳優、応援している野球チーム。女友達と話をするよりも、花京院との会話は驚くほど弾んだ。誰かと一緒にいて、これほど楽しく、そして心が安らぐのを感じたのは初めてだった。
なんの変哲もない平凡な日常は檻のようで、彼なら、きっと自分をここから連れ出してくれる。そんな予感めいたものを、漠然と感じはじめていた。
二人の交流は、いつしか学校の外にまで及んだ。
映画を見に行ったり、喫茶店でお茶を飲んだり、図書館で一緒にテスト勉強をしたり。
花京院はいつも優しくて、格好良くて、紳士的で大人びていて、まるで子供の頃に絵本で見た、王子様のようだった。彼と一緒にいると、まるで自分がお姫様にでもなったような気にさせられて、気がつくと、胸がドキドキと高鳴るようになっていた。
男女の間に友情が芽生えることがあるのかどうか、異性と親しい仲になったことのない少女には、まだ分からなかった。
だけど街を歩けばカップルに見られているだろうし、学校では、あっという間に噂になった。
だからお互い、意識してしまったのかもしれない。下校中、ふと会話が途切れたとき、偶然ふたりの指先が触れ合った。一瞬だけギクリとして、それから、どちらからともなく、手を繋いだ。
友情と判別のつかない、曖昧な関係がそこで終わった。
花京院とは手を繋ぐ以上のことはまだなくて、あくまでも清い関係が続いていた。
自分たちは高校生だし、キスだとか、ましてやその先のことなんてまだ早い。一緒に同じ時間を過ごせるだけで、十分に幸せだと感じられた。
彼は表情や仕草にこそ出さないものの、あまり身体が丈夫ではないようだった。けれどそんな強がりや儚い一面ですら、自分が支えになれたらいいと、そう思っていた。
だけど一つだけ、どうしても気になっていることがあった。
それは主に学校で。花京院の側にいると、ふと視線を感じることがあった。皮膚を刺すようなそれは、少女が辺りを見回すと、一瞬で消えてしまう。
彼に想いを寄せる女子生徒は少なくなかったし、嫉妬されること自体は決して不快なものではなかったけれど、その視線だけは、何かが違うような気がしていた。
多分あれは、嫉妬なんて生易しいものではなくて。
殺意、だったのではないか。
***
悪夢のような光景に硬直しながら、確信する。
あの刺すような感覚。背筋をナイフの切っ先でなぞられるような、深く暗い闇の底から覗き込まれているような、そんな恐ろしく冷たい視線の正体。
空条承太郎。この男に、違いないと。
花京院が失踪したのとまったく同じ時期。彼もまた姿を消し、そして二人同時に復帰したというのは、あまりにも有名は話だった。
彼らが親しげに談笑する姿は、勝手気ままな噂を助長する餌になっている。その光景は、少女も幾度か見かけたことがあった。
JOJOと、花京院。二人の間には他者が踏み込むことのできない、特別な世界があるような気がした。決して触れてはならない、何かが。
それが一体なんなのか、聞いてみたい気持ちはあったけれど、いつか話してくれる日が来たら、それでいいと思っていた。だって自分たちはただの友達ではなく、もっと特別で、深い関係なのだからと。
だけど思いもよらない形で、扉は開かれてしまった。
彼らの世界に、今、自分は異物として縛りつけられている。
初めて恋をした相手が、目の前でただ嬲られる姿を、息を殺して見つめていなければならない現実は、苦痛でしかなかった。
「み、るな」
花京院の唇は、あまりにも強く噛み締めていたせいで血が滲んでいる。その隙間から、彼は何度も苦しげに「見ないでくれ」と切れ切れな声を漏らした。
堰き止められたままの性器は、可哀想なほど赤く腫れている。JOJOの大きな手がそれをねっとりと扱き上げ、親指の腹で先端を擦るたび、彼の白い内腿がビクビクと激しく震えた。
男性の、ましてや勃起した性器を見るのは初めてだった。けれど感覚が麻痺しはじめているせいか、それ自体に不快感はまるでない。ただ、痛々しくて仕方がなかった。
お願いだから、もうやめて。
何度も叫びかけて、その度に不可思議な喉の圧迫感に怯え、口を引き結ぶ。
花京院はJOJOの腕の中で苦しそうに肩を上下させ、全身に汗を噴きだしながら、苦悶の表情を浮かべていた。
なぜこんなことになってしまったのだろう。どんなに考えても答えはでない。だけど彼がこれほどの屈辱に耐え続けているのは、他でもない自分を守るためなのだということだけは、分かる。
どうすることもできない無力感に、少女は大粒の涙が溢れるのを堪え切れなかった。
「だい、じょうぶ……」
そのとき、ずっと顔を背けていた花京院が、真っ直ぐにこちらを見てふと表情を和らげた。笑うと少し幼く見える、あの大きめの唇を震わせながら、ぎこちなく微笑んでいる。
「ぼくは、大丈夫だから……ッ、必ず、助ける、から。巻き込んで、ごめ、ん」
どうして花京院が謝らなくてはならないのだろう。
いつ終わるとも知れない地獄の中にいるのは、彼自身であるはずなのに。少女の目には、JOJOの姿は悪魔にしか見えない。
当の悪魔はバカにしたように鼻で笑って、「泣かせる光景だな」と白々しく吐き捨てた。
花京院が背後の承太郎に向かって、鋭い視線を走らせる。
「もう、いいだろう? ぼくのことは好きにしていい……だから、彼女だけは解放しろ」
「ずいぶんと強がるじゃあねえか。ところで、この女とはもうヤッたのか?」
「バカなことを聞くなッ! 君には、関係ない……ッ」
何が面白いのか、JOJOはくつくつと肩を揺らしながら低く笑った。
だけど目だけは笑っていない。
「てめーがまともに女を抱けるとは思えねえがな」
JOJOは酷く馬鹿にした様子で鼻を鳴らし、腫れあがった性器の先端を指先で乱暴に弾いた。花京院は大きく身体をビクつかせ、堪らず上擦った悲鳴を上げる。
「ひぅッ、ん……ッ!!」
「いつもなら、とっくにイカせてくれってピーピー泣いてる頃だぜ。女みてーによ」
(いつもなら……?)
その部分が、やけに強調されて聞こえた気がした。
JOJOは顔を背けようとする花京院の耳元に唇を押し付け、視線だけはこちらに向けながら目を細めて笑っている。
「花京院」
JOJOは花京院の首筋に音を立ててキスをしながら、嫌でも目立つ変色した腹の傷跡をゆるりと撫でた。
「ぅ、くッ、……んッ」
「辛いだろ? 可哀想にな」
何度も何度も、労わるように。
その優しい手つきとJOJOの伏せられた長い睫毛に、胸が締め付けられたのはなぜだろう。
目を覆いたくなるような、痛々しい傷跡。何があったのかは、分からない。けれどそこに、いつも感じていたあの立ち入ってはいけない『世界』そのものが、隠されているような気がする。
そこは他の部分よりも皮膚に受ける感覚が異なるのだろうか。花京院はJOJOがそっと撫でるたび、ひくひくと敏感に身を震わせていた。
心なしか、頬がうっすらと赤らんでいる。悦い、のかもしれない。
「も、ッ、さわ、るな……ッ」
「つれねえな。あの頃はもっと可愛げがあったぜ」
「うる、さッ、ぁ、ヒッ……!?」
するりと、根本を縛りつけていたハンカチが解かれる。くしゃくしゃになったそれが床に落ちる光景が、いやにゆっくりと目に映った。
花京院はガクンと身を揺らし、目を見開いて首を左右に振る。
「い、やだ……ッ、やめろ、やめ……ッ!!」
「とっとと楽になりてえだろ。我慢しねえでイッちまいな」
激しく身を捩る花京院の抵抗など気にもとめず、JOJOは再びねっとりと勃起した性器を扱きはじめる。そこは先端からだらだらと蜜を溢れさせ、淫らな水音を響かせていた。
花京院は何度も何度も首を振っては拒絶の言葉を口にする。開かされた内腿が小刻みに痙攣して、彼がもうとっくに限界を迎えていることを知らせていた。
血の滲んだ下唇に、さらにきつく歯を立てて、花京院はどうにかして感覚を痛みの方へ逃がそうと、必死に足掻き続けているようだった。
そんなささやかな抵抗にすら、JOJOはお見通しとばかりに笑みを崩さなかった。
「うぁッ……!?」
不意に、花京院の身体がこれまで以上に大きく跳ねた。
腹の傷跡を撫で摩っていたJOJOの手が、彼の身体の奥待った場所に伸ばされ、潜り込んでいるのが見える。
(指、を……?)
中に、捻じ込んだのか。あの太くて、長い指を。
花京院は女性ではない。だから、穴は一つしかないはずだ。
「いっ、痛……ッ、ぁ、じょ、たろ……ッ」
「キツイな。こっちに戻ってからは使ってねえから、当然か」
「そこ、は……やめ……ッ」
「これでも我慢してやってたんだぜ?」
「ッ、承太郎ッ!?」
JOJOは上体を僅かにのけ反らせ、花京院の片足を引っ掻けていた腕を、とくと見ろと言わんばかりにさらに強く持ち上げた。薄紅色をした恥部に、節くれだった太い指が三本も捻じ込まれ、強引に出たり入ったりを繰り返しているのが分かる。
あまりにも惨い。そしておぞましいと思うのに、少女はその小さな穴がいたぶられる光景から、目が離せなかった。心臓が、痛いほど高鳴っている。
JOJOが吐き出す言葉の全ては、自分が花京院と気持ちを通じあわせるずっと以前から、二人が身体の関係を結んでいたことを、明確に物語っている。
失踪していた間に起こった出来事であることは、確かなようだった。
「……漏らしちまったっけな」
中を指で掻きまわし、同時に性器を責めたてながら、おもむろに何かを思いだしたようにJOJOが言う。
痛みから小刻みに震えるばかりだった花京院が、それを聞いてギクリと身を強張らせた。
「覚えてねえか? ありゃ砂漠で野宿してるときだったか……ここに、おれのをブチ込んで」
「おい……なに、を……」
言うつもりだ……?
青褪めていく、花京院の唇。さっきよりもずっと、凍えたように震えだす身体。
彼を見つめるJOJOの瞳が、過去を懐かしむように優しく細められる。
「死ぬほどイカせてやったあとによ」
「やめろ……それ以上言うなッ! 彼女の前で、そんなこと……ッ!」
言わないでくれッ!!
花京院が悲痛な叫びをあげる。
けれど容赦なく開かれたJOJOの唇は、三日月のように美しく歪んでいた。
「しょんべん漏らしてよ。ガキみてぇに泣きじゃくったっけな?」
言うと同時に、JOJOが掴んでいた性器の先端にある窪みを、親指の爪で強く抉る。
花京院の口から、小さく引き攣ったような息が漏れた。
「ぃ、ひッ……――ッ!!」
びゅう、という音と共に、白濁の飛沫があがる。それは花京院の腹や胸に飛び散り、彼自身の肌を汚した。
長いこと堰き止められていた精が止め処なく溢れては震え、その度に花京院の胸がビクビクと跳ねる。JOJOはまるで悪戯が成功した子供のように笑い、舌なめずりをした。
精液で濡れた腹に大きな手の平を這わせ、馴染ませるように幾度も撫でる。
花京院は、絶頂の余韻にヒクつきながら、力なくがっくりと項垂れてしまった。やがて、その肩が小刻みに震えだす。
「……ッく、ぅ……どう、して……」
顔は見えないけれど。ぼろぼろと、雫が落ちては濡れた肌に吸い込まれていく。
「そんなこと、どうして、ここで……! なん、で、こんな、こと……ッ」
彼は小さくしゃくりを上げながら、ついに泣きだしてしまった。
少女はただただ、その憐れな姿を瞬きも忘れて凝視する。
いつも優しくて、大きな存在だった。紳士的で大人びた、王子様のように上品で格好いい、完璧な恋人。それが少女にとっての花京院だったし、彼もまた、そんな自分でありたかったに違いない。
だけどギリギリのところで保たれていたであろう彼のプライドは、恥かしい秘密をバラされながら達してしまったことで、いよいよ粉々に砕かれてしまった。
最後に残ったのは、自分より大きな相手に苛められて、めそめそと泣きじゃくるばかりの、小さな子供のような姿だった。
(なんて、ひどい……)
可哀想な花京院。
こんなことになるくらいなら、あの日、手なんか繋がなければよかったのだろうか。ただの友達でいれば。それすらも、JOJOは許さなかったのかもしれないけれど。
少女は気がついてしまった。いや、もしかしたら、ここで目を覚まして二人の姿を認識した瞬間には、すでに理解していたのかもしれない。
これは、見せしめだと。
花京院は、JOJOのものだったのだ。
本人にそのつもりはなかったのかもしれない。彼はきっとJOJOを大切な友達だと、そう思っていたのではないか。
だけどJOJOは違った。自分が抱いていた淡い恋心など、遥かにしのぐ執着をもってして、狂ったように、花京院を。
「なぜ……? やれやれ、それをてめーが聞くのか」
「うぁッ!!」
唐突に、JOJOが花京院の背を乱暴に突き飛ばした。
後ろ手に拘束されたままの彼は、顎や胸を打ち付けながら床に崩れ落ちる。少女の、足元に。
尻を高く突きだすという不様な格好を見下ろし、少女はごくりと喉を鳴らした。
多分きっと、ここからが本番だ。花京院は傷ついて、こんなにもボロボロになっているというのに。まだ、終わらない。
JOJOはベッドの縁から腰を上げると立ち上がり、自らの前を寛げながら花京院の背後に膝をつく。
姿を現したJOJOの性器は、赤黒く脈を浮き立たせながら勃起している。花京院のものとは、比べものにならないくらいリアルで、そして、あまりにも大きい。目の前で黒々とした男性器を見せつけられていることに、今更ショックを受けている自分が、少し可笑しかった。
「や、だ……やだ、嫌だ……それだけは……ッ」
酷く怯えながら逃れようとする腰を、JOJOの手が掴む。
そして、もう片方の手は自身を掴み、幾度か扱く動作を見せた。
(挿れるんだ……)
あんなものが、あそこに、入るのだろうか。あんな小さな場所に。そうしたら、花京院はどうなってしまうのだろう。
心臓が口から出そうだ。ばくばくと、大きく跳ねている。
怖いから? 見たくないから? 違う。多分、違う。瞬きが、できない。
「笑っちまうぜ」
「ぁ、や……ッ、じょ、たろ……?」
「なぁ、花京院」
白く引き締まった谷間に、JOJOが性器の先端を押し当てるのが分かる。そして次の瞬間、ぐっと腰を押し込んだ。
「や、やめ、や、ぁ゛ッ……――!?」
激痛に背を反らし、血の滲んだ唇を大きく開いた花京院の顔が、見下ろした先にある。彼は全身を引き攣らせ、見開いた菫色の瞳から大粒の涙を撒き散らしていた。
その衝撃と、苦痛をありありと滲ませた表情に、少女は背筋にゾクリとしたものが走るのを感じて、喉を鳴らす。
「ッ、ひぐ、ぅ、ッ……た、ぃッ……痛い、ッ、じょ、た、ろ……ッ!」
「流石に裂けちまったな。血が出てる」
JOJOの男根が、小さく引き締まった尻の谷間にずぶずぶと潜り込んでいく。
あんな大きなものをまともに慣らさないで挿れられたら、ひとたまりもないだろう。女性ですら、きっと耐えられない。
花京院は口の端から唾液を漏らし、歯の根をカタカタと鳴らしながら、痛い、痛いと悲痛な声をあげ続けていた。
「うぅッ、ぅ……やだ、いやだ……痛い、こんなの、やだ、ぁ……ッ!!」
「はっ、そう言うなよ。何度もこうやって愛し合った仲じゃあねえか」
「ちが、ぅ……ッ! 違う、だって、だってあのときは、お互い処理をしてただけで……ッ、君もぼくも、ちょっとおかしくなっていただけじゃあないかッ!!」
「……黙んな」
ばつん、という肌と肌がぶつかる音がして、JOJOが最奥まで性器を打ち込んだのが、わかる。
「あッ、が……ッ!!」
まともに悲鳴もあげられないほどの衝撃。
JOJOは息をつく間もなく、強張ったままの身体を揺さぶりはじめる。
何度も何度も、あの肌がぶつかる音がして、その度に舌を噛むのではないかと思うほど、ガクガクと花京院の身体が揺れていた。
まさにレイプと呼ぶに相応しい、酷い、光景。だけど。
「ひっ、んんッ、あッ、は、ッ……はぁッ、んッ!」
苦痛に呻くだけだった声に、なにか、違う色が混じりはじめていることに、少女は気づいた。
裂けてしまったことで滲む血が、潤滑油の代わりにでもなっているのだろうか。鈍い水音が、二人の荒々しい呼吸に混じり合っていく。
「慣れてきたか」
「あ、うぅッ、ぅ……や、だ……じょお、たろ、ッ、やだ、ぁ……ッ!」
「ちょっぴり痛いほうが、てめーはよく鳴くんだったな」
「ひぃッ、あ、あぁッ……!!」
突き上げる動きはそのままに、JOJOが拘束された腕を掴み上げる。そのままぐんと引き上げると、繋がり合ったまま花京院の身体が膝立ちの体勢になった。花京院の内腿には、ほんのりと血の混じった液体が伝っている。
ふるん、ふるん、と揺さぶられる度に赤く膨らんだ性器が揺れていた。それはもはや腹につくほど反り返り、力を取り戻している。奥を突かれる度、揺れる性器の先端からは先走りの蜜が飛び散り、床にシミを作り上げていた。
感じている、ということだ。花京院は、男に犯されて、感じている。
「や、だ……あッ、こんな、かっこ、アッ、くぅ、ん……ッ!」
目を逸らすことすらせず、少女はただ放心したようにそのぶつかり合う肉の音と、水音を聞いている。自分の心が、どこかに切り離されて遠くにあるような気がしていた。
そうやって押しやったのは理性だとか、常識だとか、人として必要なもの、だったのだと思う。
多分、それは花京院も同じだった。
顔を上げた花京院と、一瞬、目が合った。
どろりと濁っていく瞳に、あの日、夕焼けを吸い込んで輝いていたすみれ色の輝きはない。
圧倒的な支配と、屈辱と、羞恥。そして快楽。彼はそれらに蝕まれ、いま完全に堕ちようとしている。
「あれがただの性欲処理だと?」
薄笑いを浮かべるばかりだったはずのJOJOの顔が、僅かに歪んだ。
少女の中で、そこの知れない恐ろしい悪魔というイメージが、ゆっくりと崩れ落ちていく。
「花京院、おれはな。あの旅で、てめーの全てを手に入れたと……そう思ってたんだぜ」
大切なオモチャを取り上げられて、癇癪を起す寸前の子供のようだ。ゾッとするほど冷たく見えた翡翠がうっすらと潤んで、今にも零れ落ちそうに見える。
彼らの『旅』が、どんなものであったのかなんて、きっと自分は生涯、知る由もない。
だから。
「それが戻って来た途端、勝手に女なんか作っていやがった」
(……やめて)
お願いだから。
(私を、あなたたちの『世界』の登場人物にしないで)
ほう、と。
少女は頬を赤らめて、熱っぽい吐息を漏らしていた。
理不尽に責めたてられ、凌辱の限りを尽くされる、惨めで非力で、可哀想な王子様。それでも快楽に抗えず、逃げ道にしてしまった、淫らな王子様。
JOJOのあまりにも我儘で、強引な愛が、彼を壊してしまった。もはや何も映さない瞳で嬌声をあげながら揺さぶられる、その姿を。
とても、美しいと思った。
そこにはもう少女が憧れた姿はないけれど、どうしてか、今はひどく気分が高揚している。
だって、こんなにも素晴らしいショーを、真正面の特等席で見ることができているのだから。
同じ空間で、同じ熱を体感しながら、演者と観客の間には決して越えられない壁がある。舞台の上は、異世界でなくてはならないのだ。届かないからこそ永遠に憧れ続ける、それでこそ、素晴らしい。
気がつけば、喉に感じていた圧迫感が消えていた。
許されたような。そんな、気がする。
「てめーをこんな風に雌にしてやったのは誰だ?」
「んんッ、あッ……だ、め……ッ! これ、すご、い、気持ち、い……ッ!!」
「答えな花京院。おまえは」
――誰のものだ?
花京院の口元に、うっすらと、歪むような笑みが浮かんだ。ゾクリとする。なんて、笑い方。
滲む血液で赤く紅を引いたようにも見える唇が、酷く甘えたような声で、じょうたろう、と呼んだ。
「じょ、たろ……ッ、んあっ、あッ、じょぉ、たろう、です……ッ!」
そこにあるのは、ただの『雌』の顔だ。
「ぼくは、承太郎のッ、もの、ですッ……じょ、たろの、これ、ずっと……欲しかったッ!」
「……上出来だ」
JOJOが微笑む。掴んでいた両腕をさらに引き寄せ、首を捩じった花京院に求められるまま、深い口付けを交わす。赤い舌が絡み合い、角度を変えながら貪り合う。どちらのものともつかない唾液が、銀色に輝きながら伝い落ちていく。
JOJOの動きに合わせて、花京院も懸命に腰を揺らしていた。快楽だけを、ただあるがままに追いかける彼らは、美しく卑しい、獣のようだった。
「はぁ、アッ、いッく、イク! ぼく、もう……ッ!」
「いいぜ。どうしてほしい?」
「出して、ナカにッ、承太郎の、いっぱい、ぼくに……くださ、ッ、い……っ!!」
JOJOがより一層、大きく花京院を突き上げる。あ、という形に口を開いたまま、花京院はクジラが潮を噴くように激しく吐精した。弧を描きながら噴きだすそれが床を汚し、少女の上履きの先も、少しだけ、汚す。
びくん、びくん、と身を震わせる花京院の背後では、JOJOが低く唸って腰を僅かに震わせている。
「で、てる……ぁ、はッ、じょ、たろ……いっぱ、い……」
「はッ、かきょう、いん……!」
うっすらと笑みを浮かべたまま、花京院の身体が前のめりに崩れ落ちた。
JOJOもまた腰を屈め、小さく痙攣を繰り返す花京院の耳元に唇を押し付ける。何か囁いたようだが、あまりにも小さな声は、少女の耳には届かなかった。
(終わった……)
とても名残惜しい気分で、ぴくりとも動かなくなってしまった花京院を見下ろす。
頭の中がぼうっとして、熱に浮かされたように何も考えられない。
するりと、縄が解けて身体が自由になった。JOJOでもない。花京院でもない。あの得体のしれない何かが、少女の拘束を解いたのだ。
結局、それが何かは最後まで、分からなかったけれど、それで、いいのだと感じる。
「悪かったな」
伏せている花京院を抱き起こし、腕の中に収めながらJOJOが言う。その瞳からナイフのように尖ったものは消え失せていた。
「こういうわけだ。他にもっとまともな王子様でも探しな」
JOJOの口元に、ほんのりと笑みが浮かぶのを見て、少女もふわりと微笑んだ。まるで共犯者にでも、なったような気分だった。
少し痺れている足で、椅子から立ち上がる。
「ありがとう。とても素敵なショーだったわ」
***
あれから、学校で花京院の姿を見ることはなかった。
時が経つにつれ、あの保健室での出来事は本当は夢だったのではないかと、そんな風に思えてくる。
新しい王子様が見つかる気配はないけれど、当分は、そんな気になれそうもなかった。
花京院と出会う前の、ありふれた日常。その中を淡々と生きながら、放課後のチャイムをバックに一人夕焼け空を見ていると、時々、あのときの光景が鮮明に蘇る。
夢、だったのかもしれない。多分、そういうことにしておかなくてはいけない。
だけどどうしても、もう一度だけ、あの時の光景に触れてみたいと。そんな気もして。
だから、花京院の家を訪ねた。
クラスメイト思いの生徒を装って、学校帰りに彼の家の呼び鈴を鳴らす。
姿を現したのは、少しやつれた様子の綺麗な女の人だった。瞳の色も、赤い髪も、彼によく、似ていた。
「息子は身体の具合が悪くて、遠くの施設で療養しているの」
彼女は痩せた目元に暗い影を落としながら、力なくそう言った。
それ以上は何も聞くことができず、ただ「お大事に」という当たり障りない言葉だけを述べて、彼の家に背を向けた。
真っ赤に燃える夕陽を見つめながら、ふと気づく。
私は、ピエロだったのかもしれない、と。
赤く紅を引いたような唇で笑っていた、花京院が忘れられない。彼は心の底から悦んでいた。
本当は、ずっとああなることを待ち望んでいたのではないか。
彼こそが、檻の中から連れ出してくれる王子様を、待っていたのではないか。
そんなふうに思えてならない。
今となっては全てが幻のようで、真実を知る術もなければ、その必要もないことを、知っている。
花京院が消えた日から。
JOJOも、消えてしまった。
少女は軽やかな足取りで家路を辿る。
そうだ、読みかけのミステリ小説が、机の引き出しに仕舞ってあるのだった。帰ったら紅茶を淹れて、大好きなチョコレートを口に含みながら、読んでしまおう。
物語の中で、犯人が誰であるかの目星はついている。どんな動機で、どうやって罪を犯したのか、そのなにもかも。けれどその世界観がとても好きで、結末を知ってしまうのが惜しかった。
だけどそれではいつまでも終われない。最後のページを閉じることで、エンドマークをうつのは読者である、自分自身なのだから。
彼らがただ共に、幸せであればそれでいい。
だからきっと、この物語はハッピーエンドだ。
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