2025/08/04 Mon 光 黒たんは、いっつもキラキラに光っていたんだ。 たくさん友達に囲まれて、黒たんはあんまり笑わないけど、みんなはニコニコしていたよ。 オレはずっと見ていたから、知ってるんだよ。 みんな黒たんが大好きだよ。 だから。 だからおねがい。 そんなふうに、泣かないで。 * はっきり言って、最初から気に入らなかった。 家族だって近所の人たちだって、みんなあの家の子供には近寄るなって言ってたし、余所者はただでさえ悪さをする奴がいるから、注意しなきゃいけないって。 最初はあの変わった色の目や髪とか、大きな街の方からやって来たアイツに興味深々な奴もいたけどさ。 でも、話しかけてもおかしなことばかり言うし、いっつもヘラヘラ馬鹿みたいに笑ってるのが、みんなだんだん気持ち悪くなっていったんだ。 だからやっぱり外から来た奴なんか、ろくなもんじゃないんだよ。 しかもたまに、アイツはぼんやりした顔でこっちを見ていることがあったんだ。 それは本当に時々なんだけど、おれたちが教室で固まって喋ってたり、校庭で走り回ってたりするときに、気がつくと見てる。 おれがにらみ返してるのに気づくと、やっぱりヘラヘラ笑ってから、どこか他を向いてしまうけど。 もしかしたら、大道寺くんを見ていたのかもしれないって、今になって思う。 大道寺くんはクラスで一番大きくて、足も速いし勉強もできるし、名前だって強そうで、すごくカッコいい。 大道寺くんが言うことはみんななんでも信じるし、大道寺くんがやることはなんでもマネした。 カリスマ、っていうのかな? とにかく、おれたちにとって大道寺くんは、憧れのリーダーなんだ。 生意気な女子共は目つきが恐いとか、怒ってるみたいだとか言って、大道寺くんのことをあまり良く思ってない。 どうせ女子なんかには分からないんだから、そんなことはどうでもいいんだけど。 そんなことよりもおれたちが、ってゆーかおれが一番ムカついたのは、最近になって大道寺くんと、あのチビ野郎が仲良くしてるってことなんだ。 ずっと興味なんかなさそうだったのに、大道寺くんはどうしていちいちあんな奴を構うようになったんだろう。 放課後なんて、二人してさっさとどっかに消えちゃうし、おれたちは大道寺くんとあんまり遊べなくなった。 教室にいても、校庭にいても、大道寺くんは必ずアイツを連れてくるようになった。 今までは影でこっそりアイツをイジメたりしてたから、みんなそんな奴と遊ぶのは、なんとなく気が引けてたんだ。 おれたちはみんな大道寺くんがイジメとか、そーゆうのが嫌いだってことを知っていたから、だから影でこっそりやってたんだけど。 大道寺くんとアイツが仲良くなってから、アイツが一人きりでいることはほとんどなくなったから、誰もちょっかいを出せる奴はいなくなった。 ただそれでもマシだったのは、あのチビは大道寺くんに金魚のフンみたいにくっついてはくるけど、おれたちの輪の中にまでは、入ってこないってことだった。 校庭でも他のどこかでも、ただ近くにいて、ニコニコしながらおれたちを眺めているだけ。 他の連中はそのうちだんだん気にならなくなったみたいだけど。 おれはそれでも十分、イヤだった。 その日は、体育の授業で先生が校庭で好きなことをしてもいいって言った。 だからおれたちは、みんな倉庫から持ってきたサッカーボールを転がして走り回ってた。 そうしたら、大道寺くんはもともと朝からあんまり調子がよくなかったみたいで、ひとしきり遊んだあと「腹がイテェ」って言って、保健室に行っちゃった。 行く前に、鉄棒に寄りかかっておれたちを眺めていたチビ野郎のところに行って、なんか声かけてたのを見て、おれはちょっといい機会だと思った。 アイツは最近いい気になってるから、せっかくだからちょっと脅かしてやろうぜってことになって、一人きりになったアイツのところに何人かで行って、取り囲んでやった。 「もうボールで遊ばないのー?」 楽しかったのに……なんて、一緒に遊んでたわけでもないのにチビは言った。 「お前さ、調子にのんなよ」 そう言ってやると、「オレ、なんにものってないよー?」なんてふざけたことを言う。 やっぱりコイツは馬鹿だ。 無性にムカついて、おれがちっこい肩に思い切りパンチを入れると、薄っぺらな身体は大きく揺れて、ペタリと崩れた。 女みたいに座り込んだ格好を見て、おれたちはゲラゲラ笑った。 でも、チビは不思議そうにおれたちの顔を見上げたあと、ヘラっと笑って「ころんじゃったぁ」と言った。 それから、まるで何事もなかったみたいにキョロキョロ辺りを見渡しはじめた。 「黒たんおそいねー? おなかイタイのかわいそう……」 おれは頭に血が上った。 きっとコイツは大道寺くんに助けを求めるつもりでいるんだ。 そうしたらおれたちが、大道寺くんに嫌われるってことを知ってるから。 前に放課後、コイツにちょっかいを出していたやつが、運悪く大道寺くんに見られて睨まれたって言ってた。 そいつらはしばらくの間、大道寺くんに無視されて青くなってたっけ。 「お前さ、ムカつくんだよ! もう大道寺くんについて歩くのやめろよ!」 同情されてるだけだって早く気づけよ。 見てると無性に腹立つんだよ。 余所者は早く出てけ。 いっそ死ねばいいんだ。 今すぐに。 おれもみんなも、そんなようなことを口々に言ったけど、笑ってないのはおれだけだった。 からかうとか、ちょっと脅かすとか、おれはもうそんなレベルじゃなくなってた。 馬鹿みたいに笑って、女みたいな顔して、おれたちの楽しい時間を奪って。 チビはポカンと口をあけて、青い眼をパチクリさせた。 そうだ、この眼が一番ムカつくんだ。 いつもおれたちを見てた。大道寺くんを。 おれは砂場の砂を蹴り上げてチビ野郎に吹っかけた。 白い体操着が薄茶色に汚れる。 何度も蹴り上げているうちに、おれは足先になにか固いものがぶつかったのを感じて、下を見た。 なんでこんなもんが砂場に埋まってるのか、きっと誰かの悪戯かなんかだったんだろう。 でもそんなことはどうでもよくて、おれはそれを勢いよく掴み上げた。 ちょうど野球ボールくらいの、真っ黒い石だった。 他のみんなが、驚いて「わっ」と声を上げた。 よせ、とかやめろ、って声も混ざっていた気がしたけど、おれの耳にはほとんど届いていなかった。 「死ね!!」 おれはそれを、相変わらず座り込んだままのチビ野郎の顔面に、叩き付けてやった。 * 黒たん、やっぱりお腹が痛いのかな。 泣かないでって言いたいけど、オレは上手に言えてるのかな? どうしてだろう。 オレには君の声が聞こえないんだ。 もうすぐ顔も見えなくなるみたい。 目の中が赤くて、顔がとっても熱いんだ。 ねぇ黒たん。 みんな君が大好きだよ。 オレも君が大好きだよ。 だから黒たん。 ――泣かないで。 ←戻る ・ 次へ→
黒たんは、いっつもキラキラに光っていたんだ。
たくさん友達に囲まれて、黒たんはあんまり笑わないけど、みんなはニコニコしていたよ。
オレはずっと見ていたから、知ってるんだよ。
みんな黒たんが大好きだよ。
だから。
だからおねがい。
そんなふうに、泣かないで。
*
はっきり言って、最初から気に入らなかった。
家族だって近所の人たちだって、みんなあの家の子供には近寄るなって言ってたし、余所者はただでさえ悪さをする奴がいるから、注意しなきゃいけないって。
最初はあの変わった色の目や髪とか、大きな街の方からやって来たアイツに興味深々な奴もいたけどさ。
でも、話しかけてもおかしなことばかり言うし、いっつもヘラヘラ馬鹿みたいに笑ってるのが、みんなだんだん気持ち悪くなっていったんだ。
だからやっぱり外から来た奴なんか、ろくなもんじゃないんだよ。
しかもたまに、アイツはぼんやりした顔でこっちを見ていることがあったんだ。
それは本当に時々なんだけど、おれたちが教室で固まって喋ってたり、校庭で走り回ってたりするときに、気がつくと見てる。
おれがにらみ返してるのに気づくと、やっぱりヘラヘラ笑ってから、どこか他を向いてしまうけど。
もしかしたら、大道寺くんを見ていたのかもしれないって、今になって思う。
大道寺くんはクラスで一番大きくて、足も速いし勉強もできるし、名前だって強そうで、すごくカッコいい。
大道寺くんが言うことはみんななんでも信じるし、大道寺くんがやることはなんでもマネした。
カリスマ、っていうのかな? とにかく、おれたちにとって大道寺くんは、憧れのリーダーなんだ。
生意気な女子共は目つきが恐いとか、怒ってるみたいだとか言って、大道寺くんのことをあまり良く思ってない。
どうせ女子なんかには分からないんだから、そんなことはどうでもいいんだけど。
そんなことよりもおれたちが、ってゆーかおれが一番ムカついたのは、最近になって大道寺くんと、あのチビ野郎が仲良くしてるってことなんだ。
ずっと興味なんかなさそうだったのに、大道寺くんはどうしていちいちあんな奴を構うようになったんだろう。
放課後なんて、二人してさっさとどっかに消えちゃうし、おれたちは大道寺くんとあんまり遊べなくなった。
教室にいても、校庭にいても、大道寺くんは必ずアイツを連れてくるようになった。
今までは影でこっそりアイツをイジメたりしてたから、みんなそんな奴と遊ぶのは、なんとなく気が引けてたんだ。
おれたちはみんな大道寺くんがイジメとか、そーゆうのが嫌いだってことを知っていたから、だから影でこっそりやってたんだけど。
大道寺くんとアイツが仲良くなってから、アイツが一人きりでいることはほとんどなくなったから、誰もちょっかいを出せる奴はいなくなった。
ただそれでもマシだったのは、あのチビは大道寺くんに金魚のフンみたいにくっついてはくるけど、おれたちの輪の中にまでは、入ってこないってことだった。
校庭でも他のどこかでも、ただ近くにいて、ニコニコしながらおれたちを眺めているだけ。
他の連中はそのうちだんだん気にならなくなったみたいだけど。
おれはそれでも十分、イヤだった。
その日は、体育の授業で先生が校庭で好きなことをしてもいいって言った。
だからおれたちは、みんな倉庫から持ってきたサッカーボールを転がして走り回ってた。
そうしたら、大道寺くんはもともと朝からあんまり調子がよくなかったみたいで、ひとしきり遊んだあと「腹がイテェ」って言って、保健室に行っちゃった。
行く前に、鉄棒に寄りかかっておれたちを眺めていたチビ野郎のところに行って、なんか声かけてたのを見て、おれはちょっといい機会だと思った。
アイツは最近いい気になってるから、せっかくだからちょっと脅かしてやろうぜってことになって、一人きりになったアイツのところに何人かで行って、取り囲んでやった。
「もうボールで遊ばないのー?」
楽しかったのに……なんて、一緒に遊んでたわけでもないのにチビは言った。
「お前さ、調子にのんなよ」
そう言ってやると、「オレ、なんにものってないよー?」なんてふざけたことを言う。
やっぱりコイツは馬鹿だ。
無性にムカついて、おれがちっこい肩に思い切りパンチを入れると、薄っぺらな身体は大きく揺れて、ペタリと崩れた。
女みたいに座り込んだ格好を見て、おれたちはゲラゲラ笑った。
でも、チビは不思議そうにおれたちの顔を見上げたあと、ヘラっと笑って「ころんじゃったぁ」と言った。
それから、まるで何事もなかったみたいにキョロキョロ辺りを見渡しはじめた。
「黒たんおそいねー? おなかイタイのかわいそう……」
おれは頭に血が上った。
きっとコイツは大道寺くんに助けを求めるつもりでいるんだ。
そうしたらおれたちが、大道寺くんに嫌われるってことを知ってるから。
前に放課後、コイツにちょっかいを出していたやつが、運悪く大道寺くんに見られて睨まれたって言ってた。
そいつらはしばらくの間、大道寺くんに無視されて青くなってたっけ。
「お前さ、ムカつくんだよ! もう大道寺くんについて歩くのやめろよ!」
同情されてるだけだって早く気づけよ。
見てると無性に腹立つんだよ。
余所者は早く出てけ。
いっそ死ねばいいんだ。
今すぐに。
おれもみんなも、そんなようなことを口々に言ったけど、笑ってないのはおれだけだった。
からかうとか、ちょっと脅かすとか、おれはもうそんなレベルじゃなくなってた。
馬鹿みたいに笑って、女みたいな顔して、おれたちの楽しい時間を奪って。
チビはポカンと口をあけて、青い眼をパチクリさせた。
そうだ、この眼が一番ムカつくんだ。
いつもおれたちを見てた。大道寺くんを。
おれは砂場の砂を蹴り上げてチビ野郎に吹っかけた。
白い体操着が薄茶色に汚れる。
何度も蹴り上げているうちに、おれは足先になにか固いものがぶつかったのを感じて、下を見た。
なんでこんなもんが砂場に埋まってるのか、きっと誰かの悪戯かなんかだったんだろう。
でもそんなことはどうでもよくて、おれはそれを勢いよく掴み上げた。
ちょうど野球ボールくらいの、真っ黒い石だった。
他のみんなが、驚いて「わっ」と声を上げた。
よせ、とかやめろ、って声も混ざっていた気がしたけど、おれの耳にはほとんど届いていなかった。
「死ね!!」
おれはそれを、相変わらず座り込んだままのチビ野郎の顔面に、叩き付けてやった。
*
黒たん、やっぱりお腹が痛いのかな。
泣かないでって言いたいけど、オレは上手に言えてるのかな?
どうしてだろう。
オレには君の声が聞こえないんだ。
もうすぐ顔も見えなくなるみたい。
目の中が赤くて、顔がとっても熱いんだ。
ねぇ黒たん。
みんな君が大好きだよ。
オレも君が大好きだよ。
だから黒たん。
――泣かないで。
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