2025/08/13 Wed ふたりでバイクに乗って花京院の自宅についたのは、21時をほんの数分過ぎた頃だった。時刻を知っても、なんとなくまだ感覚が取り戻せない。あの部屋は薄ぼんやりとした光だけが頼りで、昼も夜もない閉鎖された空間だったからだ。 承太郎に二階の部屋へ上がるようにとだけ言って、花京院は家に入るなり一目散に浴室に立てこもった。熱いシャワーを頭から浴びても、四肢はどこか冷えたままのような気がして、無我夢中で全身を洗い、口をすすいだ。 母が愛用しているボディソープは、少し花の香りがキツかった。いつまでも鼻にこびりついて離れない悪臭を消し去りたくて、ボトルを半分以上使ってもなお、皮膚が赤くなるまで全身を擦り続けた。粘ついた体液や息遣い、触れたもの全ての感触を思いだし、胃の中が空になるまで何度も吐いた。吐きながら、涙が滲んだ。 風呂からあがり、ストライプのパジャマに着替えて自室に戻ると、時計の針はまだ22時をさしていた。もっと長いこと浴室にいた気がするのに、実際は一時間も経っていないという事実に、まだ洗い足りないように思えて気持ちが安定しない。 承太郎はベッドにどっかりと腰を下ろしていた。どこかやつれた表情の花京院を見て、両目を細める。花京院は思いだしたようにやんわりと笑みを浮かべた。 「すみません、お茶も出さないで」 「構わねえよ」 「制服、脱いでください。クリーニングに出すから」 承太郎は何も言わず、ただおとなしく学ランを脱いだ。帽子を傍らに置くと、シャツにも手をかけて豪快に脱ぎ捨てる。露わになった逞しい胸板や腹筋から、花京院は慌てて目を逸らすとさりげなく箪笥の方へと移動して、承太郎に背を向けた。 「着替えは……ぼくのじゃ小さいだろうな。でも、何も着ないでいるよりはいいだろうから、少し我慢してくれ。今、なにか探すから」 いちばん上の引き出しを開けて、承太郎でも着られそうな衣服を物色する。その間も、彼はやっぱり何も言おうとしなかった。代わりに背中に痛いほどの視線を感じ、花京院はこのなんともいえないぎこちない空気に、そっと溜息を漏らした。 「悪いが、着替えたら今夜はもう帰ってくれ」 承太郎の方を振り向かないまま言った。誘っておいて悪いとは思うし、感謝はしてもしきれない。だけど、今夜はどうしてもダメだった。これ以上、承太郎に情けない姿を見られるのは耐えられそうもない。花京院が無理に取り繕っていることだって、彼はきっとお見通しなのだ。けれど承太郎が花京院を見透かしているように、花京院だって承太郎のことはよく知っているつもりだった。だから、彼がおとなしく家に帰るはずがないことは、分かっていた。 ベッドが軋む。承太郎が立ちあがり、背後から近づいてくるのが分かって、花京院は息を詰めると肩を竦めた。その肩を強い力で掴まれて、身体を反転させられる。 「ッ!」 「やつに何をされたか、ぜんぶ言いな」 顎を掴まれ、上向かされた。じっと瞳を覗き込んでくるエメラルドに、目を逸らすことすら許されないような威圧感を覚える。花京院はいちど喉を鳴らし「言いたくない」と小さな声を絞り出した。けれど承太郎はそんな花京院を責めるように、ただじっと見つめてくるだけだった。 そっとしておいてほしいのに、そうさせてくれない。承太郎は例えどんな些細なことであったとしても、有耶無耶にすれば夜も眠れないという性分の持ち主だ。そしてあの部屋で花京院の身に起こったおぞましいこと全てを、この男には知る権利がある。彼が救いだしてくれなければ、今ごろどうなっていたことか。 花京院はいちどゆっくりと目を伏せ、諦めたように大きく息を吐きだした。 「……髪や、身体を触られて」 語尾が震える。受けた仕打ちのひとつひとつを思いだして、皮膚が粟立つ。 「顔に、かけられた。髪にも」 「……それから?」 「殴られて、首を絞められた。そのあと制服を引き裂かれて、胸を触られて」 二の腕をさする。ぷつぷつと痺れるように、鳥肌が広がっていくのを感じた。 「……ぼくに、赤ちゃんを産ませるって。お尻にあれを押し付けて、あと少しで挿れられそうになったところで、君が来た」 承太郎はクソ、と低く吐き捨てると、花京院を引き寄せて腕の中にきつく閉じ込めた。その恐ろしいまでの力に、呼吸がとまる。 「だから言ったんだぜおれは。てめーは自分がどんだけエロい匂いプンプンさせてるか、ちっとも分かろうとしやがらねえ」 「よ、よしてくれ、そんな言い方……ッ」 「事実だぜ」 次の瞬間、花京院はベッドに引き倒されていた。大きく目を見開きながら見上げると、承太郎が険しい表情で見下ろしている。肉食獣を思わせる肉厚な唇が、悔しそうに歪んで白い牙を覗かせていた。 「やっぱり殺せばよかったぜ。あの野郎」 「じょ、承太郎」 「いいか花京院、二度とあんなことは許さねえ。二度と、誰にもだ。指一本、触らせるんじゃあねえぞ。てめーは、おれだけのもんだ」 承太郎が見せた剥き出しの独占欲に、胸を熱いもので塞がれたような気がした。そこには余裕の欠片もない。なにひとつ返事ができないでいる花京院に、承太郎は眉間の皺をさらに深くして「返事は」と、重低音で問いかけてくる。うん、と、ひとつ大きく頷くのがやっとだった。 花京院だって同じ気持ちなのだ。あんなこと、二度とごめんだと思う。この身体に触れていいのは承太郎だけだし、承太郎にだけ、触れてほしい。 「ぼくも。ぼくもだ、承太郎」 承太郎の頬へと震える両手を伸ばした。確かめるように触れて、その熱を掌に感じると、冷えていた指先が温かくなってじんと痺れる。 「君がいい。君だけで、いい」 手を、そのまま滑らせる。項に触れて首にしがみつくと、耳朶の後ろに鼻を擦りつけ、その匂いを吸いこんだ。承太郎に抱き返されると、泣きたくなるほどの安堵が込み上げる。ゆっくりと息を吐きだしながら、身体から力が抜けていくのを感じた。 これでもかというほど力強く花京院を抱きしめる承太郎が、やがておもむろに口を開いた。 「……言っとくが、てめーが孕むんだとしたら、腹ん中のガキはおれの子だぜ」 あまりにも真剣な様子で言うものだから、花京院は思わず「ノォホ」と声を出して笑ってしまった。いつもだったら、こんなこと冗談でも受け入れられない。バカなことを言うなと突っぱねているに違いなかった。だけど今は、どうしてか嫌じゃない。それもいいのかな、なんて、思ってしまう。 「いいですよ。君の子なら、産んであげます」 まるで悪ふざけにでも便乗するような体を装い、その実どこか本気で言っている自分に苦笑する。多分それは承太郎も同じだ。ありえないことだと分かっていながら、どんどんその気になって、どんどん頭が、おかしくなっていく。 承太郎からは、彼自身の体臭に混ざって、ほんのりと汗の匂いがした。そこに自分から発される、ボディソープの強い花の香料が混ざる。あの変質者の影はもうどこにもない。名残すら。きっとこのまま承太郎に抱かれたら、二度と思いだすことすらなくなる気がした。 「しよう、承太郎」 項に添えていた手を、するりと背中へ走らせた。帰ってくれなんて、ほんの数分前に口にしたばかりの言葉が、もうなかったことになっている。本当に一人になりたかったのなら、家に上がる前にはそう切り出していたはずだから。天邪鬼。お互いを知り尽しているという甘えを都合よく利用して、つまらない駆け引きをしただけ。 両親の不在を餌に承太郎を誘った時点で、本当は頭の中なんてセックスをする以外、なにもなかったのだ。そんなサルみたいな思考を恥じて、そうではないのだと、気づかないふりをしてすましていたかった。だけど今は、もうどうしようもないところまで気持ちが高ぶっている。さっきの出来事にはもちろんショックを受けているが、こうしてふたりだけの世界に没頭してしまえば、それすらもちょっとした興奮剤になり下がっているから、滑稽だった。 「ん……ッ」 承太郎の唇が、真っ直ぐ花京院の唇に落とされることはなかった。肉厚なそれで左の口の端をべろりと舐められる。殴られて傷ついたそこは、血は止まっているものの、刺激を受けると鋭く痛んだ。執拗にそこに舌を這わせようとする承太郎の頭を抱きこみ、顔の角度を変えて奪うように唇を重ねた。すぐに舌を捻じ込むと、普段は見せない積極性に承太郎が目を見開く。だけどすぐに睫毛を伏せて、花京院に応えた。 卑猥な水音を立てながら絡み合う舌の感触に、頭の芯まで掻きまわされているような気がする。承太郎はそのあいだも僅かに上体を浮かせて、花京院のパジャマの裾から手を差し込むと、裏側から器用にボタンを外していった。 「イッ、痛……!」 前が完全に肌蹴て、露わになった胸の片方に承太郎が掌を這わせると、反射的に悲鳴が漏れた。実際、痛みはなかったのだが。 「……痣になってる」 花京院の反応に、唇を離した承太郎が言った。のろのろと視線を俯ければ、確かに彼の言う通り、ほどよく盛り上がったふたつの丘には、痛々しい痣がこびりついていた。自分でもこれでもかというほど擦ってしまったから、ただでさえ赤くなった皮膚に、それはより赤黒く浮き上がって見える。 「力加減を知らない男だったんだ」 揉まれたというよりは、力任せに抓られたといった方が正しい触れ方だった。本当に、ただの暴力以外の何物でもなかった。 承太郎は苛立ったように舌打ちをすると、花京院の胸に顔を埋めた。中央の窪みに優しくキスをしながら、労わるように両手で胸をそれぞれ包み込む。 「イテェか」 低く問われて、花京院は首を左右に振った。 「平気。いつもみたいに、してください」 「ん」 「ぁ、んッ」 ゆるゆると、波打つような動作で胸を揉みほぐされる。花京院が悦いと感じる加減を、承太郎はよく知っていた。あるいは、承太郎にこれで感じるよう覚え込まされたから、だろうか。全体を押し上げるようにされると、双方の中央で硬くなった乳首がよりいっそう尖って天を向く。その粒の片方に、舌を這わされた。鈍い音を立てて吸いついたかと思うと、頭を左右に振りながら緩く歯を立てられる。それだけで気が遠くなりそうなほどの快感が突き上げてきて、身体がびくびくと跳ねあがった。 「アッ、くぅ、んッ」 承太郎がもう片方にも舌を這わせながら、視線だけで問いかけてくるのに、何度も頷いた。気持ちがいい。いつもこうして女性にでもするように愛撫されるたび、羞恥に溺れながらも本当はひどく興奮している。男のくせにこんなことをされて感じているなんて、絶対におかしいと思うのに、自分を否定すればするほど気持ちがよくなってしまうのだ。それをいつもは必要以上に声に出したりはしない。可能な限り堪えて押し殺すのが常だった。だけど今日は、少しおかしくなっているから。 「気持ち、い……ッ、あ、……じょ、たろ……もっと、して、くださ、ぁッ」 承太郎がぐっと息をつめたような気がした。指と舌と歯が、これでもかというほど花京院の快感を煽る。じゅう、と音をたてて周りの肉ごと乳首を強く吸われると、もう訳が分からなくなるくらい感じて、花京院は嫌々と首を振りながら上擦った悲鳴をあげた。 「あぁッ、あ……! い、ぃ……承太郎に、されるの……感じ、る」 「ここ、また少しデカくなったか?」 「や、だ、知ら、な……ッ、アッ! じょ、たろ、もっと、さわって……ッ」 「今日は随分と素直で可愛いじゃあねえか」 目を細め、承太郎が舌なめずりをした。赤い舌がぬるりと蠢く光景にすら興奮する。 承太郎は花京院の胸に何度も口付け、花弁のような痕を残しながら徐々に下肢へと移動していった。脇腹を辿り、大きな手がウエスト部分に滑り込む。直接臀部を触れられるのに合わせて片膝を立てると、承太郎の手首に引っかかる形で、パジャマのズボンが下着ごと足から抜けた。 花京院の性器は、胸への刺激だけで先走りを漏らすほど反り返っている。太く長い指が、先端の濡れた窪みから裏筋にかけて緩く何度も行き来した。 「くぅ、ぁ、んッ」 「ここは、触られたか」 問いかけに、花京院は身悶えながら何度も首を左右に振った。小林が直接触れた場所は、結局のところ胸だけだったのだ。それも今では承太郎によって存分に可愛がられて、甘く痺れるような感覚しか残っていない。 承太郎はほっと息をつくと花京院の内腿にひとつ口付け、身体の中心で震える屹立を緩く握り込んだ。彼の大きな手に触れられると、自分のものがまるで未発達な子供の性器みたいに小さく見えてしまうから、恥ずかしい。 「んぁ、あッ、や……ッ」 ゆるゆると扱かれると、快感と一緒に透明な蜜が次から次へと溢れ出た。背を反らし、指先でシーツを掻きながら悶える花京院に、承太郎が喉を鳴らしたのが分かる。汗ばんだ肌に痛いほどの視線を感じ、ゆらりと瞼を持ち上げれば、承太郎も興奮しているようで、額に汗を滲ませているのが見えた。 「じょう、たろう……ぼく、も」 触れたいという欲求が込み上げて、花京院はうまく力が入らない身体で上半身を起こす。承太郎の身体の中心は、制服のズボンを押し上げるほどに張り詰めて膨らんでいた。跳ねる心臓に息を荒げながら、両手でベルトを外し、前を寛げていく。チャックを下ろして下着をずらすだけで、いきり起った剛直が反動をつけて飛び出した。太い血管を走らせながら震えるそれを見つめ、思えばこんな風に勃起した承太郎の性器を直視したのは、これが初めてかもしれないということに気がついた。 持っているものは同じはずだし、あまりジロジロと観察するのも悪いような気がして、いつも遠慮してしまうのだ。だが実際のところ大半を占めていたのは羞恥心と、まだどこかたどたどしい行為への、初心さからだった。 (よくこんな大きなものが……) あんな場所に入るものだと、変に感心してしまう。知っていたつもりだが、こうしてまじまじと見ると、やっぱり大きい。あの部屋で突きつけられたものが、どれほど粗末なものだったかがよく分かった。こちらの方がよほど狂気じみているのに、渇きを覚える程度には、愛しいと感じる。 (こんなものが、ぼくのなかに入るんだ。ぼくはこれで、いつも……) 花京院は無意識に喉を鳴らすと、太い竿へ手を伸ばす。そっと触れて、幾度かゆるゆると扱いた。 「花京院」 低い声が、僅かに掠れる。花京院はシーツにペッタリと座り込んだ体勢で、ゆっくりと身体を前に倒し、背中を丸めると迷うことなく濡れた先端に口をつけた。 「ッ、おい」 承太郎の手が頭部に触れる。彼にしては珍しく、戸惑いが見え隠れする触れ方だった。 自らオーラルを試みるのはこれが初めてだ。承太郎には何度かされたことがあったが、自分には到底できそうもないと決めつけていた。決して嫌だったわけではない。ただ恥ずかしくて、上手くできるのかも分からなくて、積極的にやろうとはどうしても思えなかったのだ。 「ん……」 ゆっくりと、硬く張りつめた肉棒に舌を這わせ、飲み込んでいく。大きすぎて、全てを咥え込むことはできないけれど、承太郎という雄の匂いが鼻から抜けていく感覚に、たまらなく興奮する。ぎこちなくではあるが、歯を立てないよう意識しながら懸命に奉仕した。 唾液と先走りが合わさり、はしたない水音が響く。承太郎は食いしばった歯の隙間から、低く小さな呻きを漏らしていた。頭皮を滑る指先の感覚が、まるで愛撫のように感じられて、花京院の性器からも淫らな密が零れ落ちる。 承太郎のものは、花京院の口内でさらに硬く張り詰めていた。手でも同時に扱きながら、徐々に動きを大胆にしていく。承太郎はどこか悔しそうにも見える表情で、珍しく耳まで赤くなっている。 (このまま、イッてほしい) 口の中で脈打つ肉塊が、はち切れそうなほどの弾力が、全て愛しい。欲しくて欲しくて堪らなかった。こんなはしたない真似ができるのも、承太郎だからなのだと思うと、得も言われぬ喜びが沸き上がる。 「お、い、ちょっと、待ちな」 夢中で奉仕に努める花京院の前髪を、承太郎が緩く掴んだ。そのまま顔を引き剥がされて、糸を引きながら離されてしまう。 「マジで、これ以上したら出ちまうぜ」 花京院はぼうっと熱に浮かされた瞳で、承太郎を見上げた。 「出してほしかったんだ、ぼくは」 「ッ、てめー、いま自分がどんだけエロい顔してるか、分かって言ってんのか」 「そんなの、承太郎だって」 承太郎は舌打ちをすると、花京院の腕を強く引き「乗りな」と言って仰向けに身体を倒した。どうするつもりなのかと首を傾げる花京院に、後ろを向けと命じてくる。促されるままに、承太郎に尻を向ける形で覆いかぶさった。 「こ、これって」 「いい眺めだぜ。丸見えだ」 「承太郎ッ!」 「この体勢でなら、好きなだけ咥えても構わないぜ。やれるもんならよ」 「あッ!」 承太郎の両手に、尻の肉を掴まれる。下から全てを見られていると思うと、羞恥に全身が熱くなった。これはいわゆる、シックスナインというものか。 「じょ、たろ……ッ、これ、はずか、し……ッ」 「いいからてめーはそっちに集中しな」 眼前で、承太郎の張り詰めた男茎が揺れている。花京院は下唇を噛み締め、じわりと浮かぶ涙を堪えながらそれに両手で触れた。熱い。掌で脈打っている。焼き尽くされそうな羞恥を紛らわすには、目の前のことに夢中になる以外、なさそうだった。もういっそどうにでもなれという気にもなって、再びそれを口に含んだ。 「んっ、んぅ、ぅ」 おとなしく奉仕を再開した花京院の尻たぶを、承太郎が解すようにいやらしく揉みしだく。ぞくぞくとした感覚が背筋を駆け、思わず腰を捩る。 「ぅむ、ぁ、んんッ」 「ここ、触られたんだろ。あの野郎によ」 「ぷ、はッ、ぁ……直接、じゃ、ない」 「一緒だぜ」 承太郎は吐き捨てるように言うと、人差し指に舌を這わせて濡らしたものを、中心にぐっと押し付ける。 「あぅッ……!」 そそり起つ肉棒を掴んだまま、甘い声が漏れた。承太郎は何度も根気よく濡らした指で窄まった穴に触れ、少しずつそこを解していく。入口をじくじくと刺激されるもどかしさに、奉仕を再開するのもままならない。それでも頬を擦りつけ、必死で舌を這わせる。 「小せえのに変わりはねえが、ずいぶんケツが丸くなったな」 「ん、な……わけ……ッ」 「前はいかにも野郎のケツって具合で、もっと硬かったのによ」 「いや、だ、そんな、こと、ッ、ぁ、あッ」 「いい加減、素直に認めちまいな」 パン、と音を立てながら、尻たぶにそれぞれ承太郎の掌が押し付けられる。ひん、と子犬のような呻きをあげ、思わず背を反らすと、よりいっそう承太郎へ尻を突きだす形になった。 「このエロい身体で、無意識に男を誘ってるってよ」 「も、嫌だ……そんなこと、言わないで……」 恥ずかしさで、死んでしまいそうだ。けれど承太郎に意地の悪いことを言われる度に、身体はどんどん熱く、敏感に反応した。触れられていない性器が、いっそ痛みを覚えるほどに張り詰めている。だらしなくよだれを垂らし、承太郎の肌を汚しているのだ。 承太郎は何度も何度も尻の肉を揉みほぐし、やがて引き寄せると指で解された穴に舌を這わせた。 「ヒィッ、ぁ、や、やめ! そんな、汚い……ッ」 柔らかくぬるりとしたものが、中に潜り込んでくる。不規則に蠢き、浅い場所を何度も抉る。わざと大きな水音を立てて、舐めては捻じ込む動作を繰り返された。 このままでは、本当に頭がおかしくなると思った。羞恥も、快感も、全て花京院の許容量を超えていた。もどかしくて、尻を振るのをとめられない。手の中では変わらず逞しい男根が脈打っている。熱く反り返り、噎せるような雄の香りを放っていた。 (ほんとう、に?) 承太郎が言うように、この身体は自分でも知らないうちに、その形を変えているというのか。尻も、肩や腰のラインも。匂いでさえも。あんな頭のおかしな男まで寄せ付けてしまうくらいに――? バカげている。そう思うのに、否定しきれないくらい追い詰められてしまったのも、事実だった。小林は、完全に花京院を『雌』として見ていた。花京院にとってそれは耐え難いほどの屈辱でしかない。だけど、こんなふうに自分を作り変えてしまったのが他の誰でもない、花京院が唯一愛してやまない男のせいなのだとしたら。 (嬉しい) 身体が、承太郎のための『形』になっていく。それを心の底から嬉しいと思う。男性としての生理やプライドをへし曲げてでも、愛されることに、支配されることに喜びを感じている自分を、もう否定することはできなかった。 「じょ、たろ……ッ、もう、足りない……ほし、い、我慢、できない……ッ!」 舌だけでは足りない。濡れそぼった穴が、もっと大きくて太いものを求めて収縮しているのがわかる。承太郎の指がそこに押し入ってきた。内壁をぐるりと擦られる。 「我慢なんかしなくていいぜ。おら、イッちまいな」 「嫌だ、嫌だ……ッ! 頼むから、認めるからッ」 「なにを?」 花京院は肩を震わせ、とめどなく流れる涙にひくひくとしゃくりをあげた。欲しい。欲しくて仕方がない。こんなにいやらしい身体にしたのは、承太郎なのだ。承太郎が、花京院の全てを変えてしまった。 「ぼく、は……ぼくの、身体は……」 「ん」 「男の人を、寄せ付けるような……えっちな、身体、です」 「そうだな」 「承太郎、が……ぼくを、こんな、ふうに……ッ」 承太郎が笑った。ひどく満足そうに。中から指を一気に引き抜いて、花京院の腰に腕を回しながら半身を起こす。 「よく言えたな」 「はや、く」 「いいぜ」 腰を浮かせている花京院の尻に、承太郎が自身の竿を掴んだものをあてがった。先走りを馴染ませるように幾度か先端で穴を擦られると、期待に全身が粟立つ。緊張と興奮で、心臓がドカドカと激しく暴れていた。 先端が濡れた穴に潜り込んだ瞬間、息が止まる。承太郎は花京院の腰を掴むと、ゆっくりと引き寄せた。 「あッ、ぃ……ッ、はいっ、て、アッ、くぅ、うッ!」 「まだだぜ」 「イッ、ひ……――!!」 半分ほどまで飲み込んだところで、強く腰を引かれた。叩きつけるような勢いで、ずん、と奥まで貫かれ、目の前が真っ白になる。一瞬、どこか遠くへ意識をさらわれ、かくんと首を折った花京院の背を掻き抱いて、承太郎が容赦なく律動を開始した。 「――ッ、あぁッ、ヒ、うぅ……ッ!」 「気ぃしっかり持て、よ」 「あひ、アッ、あっ、じょ、たッ、ろ、すご、これ、すご、ぃ……ッ!」 引き抜かれるたびに、内臓を全て引きずり出されそうな恐怖が襲う。奥を突きあげられると、衝撃が頭の天辺まで雷のように駆け巡った。熱い。怖い。この快感はあまりにも強すぎて、自分が自分ではなくなっていく。舌を噛みそうなほど、激しい。 髪を振り乱し、花京院は自らも律動に合わせて、腰を前後に大きく揺らした。ピンと立てた両腕の先で、指先が病的なまでに震えながらシーツに深い皺を刻む。 「じょ、たろ、ッ……じょう、アッ、じょう、たろうが、あっ、んっく、ぅ……ッ!」 どんどん呂律が回らなくなって、なにを口走っているのかも分からなくなっていった。ただ、伝えたくて必死だった。 「これ、が、ッ、あ、好き……ッ、あ、あんな、あんな、の、絶対、ッ……!」 あんな男に、穢されなくてよかった。あんなものを挿れられなくてよかった。そう言いたいのに上手く言えない。けれど承太郎には伝わっていて、彼は花京院の耳元に背後から頬を擦りつけ「わかってる」と低く呟いた。胸いっぱいに熱いものが溢れ返って、たまらなくキスがしたくなる。花京院は腰を捻り、片腕を承太郎の首に回した。夢中でキスをしている間に、承太郎のものがいちど引き抜かれる。仰向けに身体を反転させられ、両足を大きく開くと正面から再び受け入れた。 「う、アッ、も、イク……ッ、じょうたろ、出して、ナカ、くださ、ぃ……ッ」 「いい、ぜ。一緒に、花京院」 極致に至る瞬間は、声も出なかった。真っ白に染まる世界で、打ち上げられ、叩きつけられる。互いに強く抱き合いながら腰を大きく震わせた。中で、熱いものが弾けている。花京院のものも、腹と腹の間で白濁を散らしていた。 「ぁ、ぁ……ッ、でて、る……なか、ビクビク、して……」 「ッ、く」 下腹が疼く。承太郎が放逐した蛋白性の遺伝子が、花京院の中で確かな意思を持って、飛び跳ねるように蠢いている気がした。肉路の先で、結実を求めてビクビクと波打っている。尾を引く絶頂に痙攣を繰り返しながら、花京院は承太郎の腰に両足を巻きつけて、より深く奥へと誘いこもうとした。足首をクロスさせ、強く引き寄せる。承太郎もそんな花京院をいっそう強く抱しめて、中に放ったものをなじませようと、抜かずに留まり続ける。 そのまま呼吸が整うまで、互いになにも言わずただ抱き合った。そのうちなんだか可笑しくなって、つい、笑ってしまう。 「本当にデキてしまったら、どうするんだい」 「認知するに決まってんだろ。お袋も喜ぶだろうよ」 「ふふッ、ああもう、馬鹿だなあぼくら」 いいじゃあねえかと、笑いながら承太郎は言った。それからふっと笑みを消して、花京院の額に自分の額を押し付けると、じっと瞳を覗き込んでくる。長い睫毛に縁どられたエメラルドに胸の高鳴りを覚えながら、つい喉を詰まらせた花京院に、承太郎は囁くような声で「好きだ」と言った。 「承、ッ、アッ!」 顔を赤らめた花京院の中を、承太郎が緩く突きあげる。 「誰にも渡さねえ。そこんとこ、朝までみっちり叩きこむぜ。このエロい身体によ」 ああ、なんて恥ずかしいことを。けれど花京院はもう認めてしまった。作り変えられていくことの喜びを知ってしまった。もう嫌というほど分かりきっているのに、それでも足りないという承太郎にしがみついて、花京院は本当に、朝まで絶え間なく啼き続けることになるのだった。 * あれ以来、小林が花京院たちの前に姿を現すことはなかった。 すぐにやってきた別の非常勤講師は女性で、女子生徒からも男子生徒からも受けがいいようだった。 皆が彼の存在を忘れてしまった頃、意外にも特に小林を毛嫌いしていたはずの女子生徒の口から、ある日の放課後、その名前が飛び出した。 「ねえ聞いた花京院くん!? 小林っていたでしょ! 前の非常勤、あれ、逮捕されたんだってよ!!」 席について帰り支度をしていた花京院の机に、数人のクラスメイトの女子が興奮気味に集まってきた。 「さっき職員室で聞いたの! 他所の高校で女の子に変なことして、警察に捕まったんだって! 新聞にも載ったってよ!」 「最低―! まじキモすぎ……確かにやりそうだったもんね」 「なんかね、理由がまたすっごいキモいの。その子が一度だけ目を合わせて挨拶してくれたから、それで自分に気があるって思ったんだって!」 「嫌あぁ……ッ! 花京院くん、危なかったよね。だって小林にセクハラされてたでしょ?」 「そうよ! 下手したら襲われてたの、花京院くんだったかも……」 鞄に教科書やノートを詰めながら耳を傾けていた花京院は、思わず手を止めると苦笑した。 「確かに気に入られてはいたようだが、ぼくは男ですよ。襲われるなんてことには、ならなかったんじゃあないかな」 実際この身に起こったことは、当の小林と自分、そして承太郎しか知らないことだ。今でもあの時のことを思いだすと不愉快な気持ちにはなるが、そのあと朝までたっぷり承太郎に可愛がられてしまった記憶が上塗りされて、身体が熱くなってしまうから困りものだった。 「でも、花京院くんだったら分からないわよ? だってすごく色っぽいし……」 「わかる! なんか不思議な色気があるのよね! 男でもコロッといっちゃうかも……」 「あはは、そうかな。それは……」 (光栄だ) 頬を染めながら頷き合う女子たちの合間を縫って、ふと走らせた視線の先に、以前体育館裏で告白をしてきた男子生徒が、気まずそうにこちらを見ていた。目が合った瞬間ふわりと笑いかけると、彼は顔を真っ赤にして、一目散に教室を出て行ってしまう。 入れ替わるようにヌッと姿を現したのは、承太郎だった。途端に女子生徒たちが黄色い悲鳴をあげる。 「花京院」 帰るぜ、というひと声に、花京院は花が綻ぶような笑みを浮かべると、席を立つ。 最近、前にも増して承太郎は過保護になった。放課後、一分と待たずしてこうして迎えにやってくる。以前は承太郎がこういった姿勢を見せることに不満を覚えていた花京院だったが、今ではどちらかというと諦めの方が勝っていた。あれは独占欲の塊のような男なのだ。 今でも承太郎が行くなと言ったコンビニは事あるごとに利用しているし、自分の立ち振る舞いを変えるつもりはない。ただ唯一変わったのは、承太郎に愛される喜びが今の自分を形作っていることを、誇れるようになったことだ。それは同時に、承太郎がこの身体に溺れている証拠でもあるから。 「それじゃあぼくはこれで。みんな、また明日」 承太郎の姿にすっかり骨抜き状態になっている女子たちは、熱い溜息を漏らしながら手を振り、去っていくふたりの背中を見送った。 ←戻る ・ Wavebox👏
承太郎に二階の部屋へ上がるようにとだけ言って、花京院は家に入るなり一目散に浴室に立てこもった。熱いシャワーを頭から浴びても、四肢はどこか冷えたままのような気がして、無我夢中で全身を洗い、口をすすいだ。
母が愛用しているボディソープは、少し花の香りがキツかった。いつまでも鼻にこびりついて離れない悪臭を消し去りたくて、ボトルを半分以上使ってもなお、皮膚が赤くなるまで全身を擦り続けた。粘ついた体液や息遣い、触れたもの全ての感触を思いだし、胃の中が空になるまで何度も吐いた。吐きながら、涙が滲んだ。
風呂からあがり、ストライプのパジャマに着替えて自室に戻ると、時計の針はまだ22時をさしていた。もっと長いこと浴室にいた気がするのに、実際は一時間も経っていないという事実に、まだ洗い足りないように思えて気持ちが安定しない。
承太郎はベッドにどっかりと腰を下ろしていた。どこかやつれた表情の花京院を見て、両目を細める。花京院は思いだしたようにやんわりと笑みを浮かべた。
「すみません、お茶も出さないで」
「構わねえよ」
「制服、脱いでください。クリーニングに出すから」
承太郎は何も言わず、ただおとなしく学ランを脱いだ。帽子を傍らに置くと、シャツにも手をかけて豪快に脱ぎ捨てる。露わになった逞しい胸板や腹筋から、花京院は慌てて目を逸らすとさりげなく箪笥の方へと移動して、承太郎に背を向けた。
「着替えは……ぼくのじゃ小さいだろうな。でも、何も着ないでいるよりはいいだろうから、少し我慢してくれ。今、なにか探すから」
いちばん上の引き出しを開けて、承太郎でも着られそうな衣服を物色する。その間も、彼はやっぱり何も言おうとしなかった。代わりに背中に痛いほどの視線を感じ、花京院はこのなんともいえないぎこちない空気に、そっと溜息を漏らした。
「悪いが、着替えたら今夜はもう帰ってくれ」
承太郎の方を振り向かないまま言った。誘っておいて悪いとは思うし、感謝はしてもしきれない。だけど、今夜はどうしてもダメだった。これ以上、承太郎に情けない姿を見られるのは耐えられそうもない。花京院が無理に取り繕っていることだって、彼はきっとお見通しなのだ。けれど承太郎が花京院を見透かしているように、花京院だって承太郎のことはよく知っているつもりだった。だから、彼がおとなしく家に帰るはずがないことは、分かっていた。
ベッドが軋む。承太郎が立ちあがり、背後から近づいてくるのが分かって、花京院は息を詰めると肩を竦めた。その肩を強い力で掴まれて、身体を反転させられる。
「ッ!」
「やつに何をされたか、ぜんぶ言いな」
顎を掴まれ、上向かされた。じっと瞳を覗き込んでくるエメラルドに、目を逸らすことすら許されないような威圧感を覚える。花京院はいちど喉を鳴らし「言いたくない」と小さな声を絞り出した。けれど承太郎はそんな花京院を責めるように、ただじっと見つめてくるだけだった。
そっとしておいてほしいのに、そうさせてくれない。承太郎は例えどんな些細なことであったとしても、有耶無耶にすれば夜も眠れないという性分の持ち主だ。そしてあの部屋で花京院の身に起こったおぞましいこと全てを、この男には知る権利がある。彼が救いだしてくれなければ、今ごろどうなっていたことか。
花京院はいちどゆっくりと目を伏せ、諦めたように大きく息を吐きだした。
「……髪や、身体を触られて」
語尾が震える。受けた仕打ちのひとつひとつを思いだして、皮膚が粟立つ。
「顔に、かけられた。髪にも」
「……それから?」
「殴られて、首を絞められた。そのあと制服を引き裂かれて、胸を触られて」
二の腕をさする。ぷつぷつと痺れるように、鳥肌が広がっていくのを感じた。
「……ぼくに、赤ちゃんを産ませるって。お尻にあれを押し付けて、あと少しで挿れられそうになったところで、君が来た」
承太郎はクソ、と低く吐き捨てると、花京院を引き寄せて腕の中にきつく閉じ込めた。その恐ろしいまでの力に、呼吸がとまる。
「だから言ったんだぜおれは。てめーは自分がどんだけエロい匂いプンプンさせてるか、ちっとも分かろうとしやがらねえ」
「よ、よしてくれ、そんな言い方……ッ」
「事実だぜ」
次の瞬間、花京院はベッドに引き倒されていた。大きく目を見開きながら見上げると、承太郎が険しい表情で見下ろしている。肉食獣を思わせる肉厚な唇が、悔しそうに歪んで白い牙を覗かせていた。
「やっぱり殺せばよかったぜ。あの野郎」
「じょ、承太郎」
「いいか花京院、二度とあんなことは許さねえ。二度と、誰にもだ。指一本、触らせるんじゃあねえぞ。てめーは、おれだけのもんだ」
承太郎が見せた剥き出しの独占欲に、胸を熱いもので塞がれたような気がした。そこには余裕の欠片もない。なにひとつ返事ができないでいる花京院に、承太郎は眉間の皺をさらに深くして「返事は」と、重低音で問いかけてくる。うん、と、ひとつ大きく頷くのがやっとだった。
花京院だって同じ気持ちなのだ。あんなこと、二度とごめんだと思う。この身体に触れていいのは承太郎だけだし、承太郎にだけ、触れてほしい。
「ぼくも。ぼくもだ、承太郎」
承太郎の頬へと震える両手を伸ばした。確かめるように触れて、その熱を掌に感じると、冷えていた指先が温かくなってじんと痺れる。
「君がいい。君だけで、いい」
手を、そのまま滑らせる。項に触れて首にしがみつくと、耳朶の後ろに鼻を擦りつけ、その匂いを吸いこんだ。承太郎に抱き返されると、泣きたくなるほどの安堵が込み上げる。ゆっくりと息を吐きだしながら、身体から力が抜けていくのを感じた。
これでもかというほど力強く花京院を抱きしめる承太郎が、やがておもむろに口を開いた。
「……言っとくが、てめーが孕むんだとしたら、腹ん中のガキはおれの子だぜ」
あまりにも真剣な様子で言うものだから、花京院は思わず「ノォホ」と声を出して笑ってしまった。いつもだったら、こんなこと冗談でも受け入れられない。バカなことを言うなと突っぱねているに違いなかった。だけど今は、どうしてか嫌じゃない。それもいいのかな、なんて、思ってしまう。
「いいですよ。君の子なら、産んであげます」
まるで悪ふざけにでも便乗するような体を装い、その実どこか本気で言っている自分に苦笑する。多分それは承太郎も同じだ。ありえないことだと分かっていながら、どんどんその気になって、どんどん頭が、おかしくなっていく。
承太郎からは、彼自身の体臭に混ざって、ほんのりと汗の匂いがした。そこに自分から発される、ボディソープの強い花の香料が混ざる。あの変質者の影はもうどこにもない。名残すら。きっとこのまま承太郎に抱かれたら、二度と思いだすことすらなくなる気がした。
「しよう、承太郎」
項に添えていた手を、するりと背中へ走らせた。帰ってくれなんて、ほんの数分前に口にしたばかりの言葉が、もうなかったことになっている。本当に一人になりたかったのなら、家に上がる前にはそう切り出していたはずだから。天邪鬼。お互いを知り尽しているという甘えを都合よく利用して、つまらない駆け引きをしただけ。
両親の不在を餌に承太郎を誘った時点で、本当は頭の中なんてセックスをする以外、なにもなかったのだ。そんなサルみたいな思考を恥じて、そうではないのだと、気づかないふりをしてすましていたかった。だけど今は、もうどうしようもないところまで気持ちが高ぶっている。さっきの出来事にはもちろんショックを受けているが、こうしてふたりだけの世界に没頭してしまえば、それすらもちょっとした興奮剤になり下がっているから、滑稽だった。
「ん……ッ」
承太郎の唇が、真っ直ぐ花京院の唇に落とされることはなかった。肉厚なそれで左の口の端をべろりと舐められる。殴られて傷ついたそこは、血は止まっているものの、刺激を受けると鋭く痛んだ。執拗にそこに舌を這わせようとする承太郎の頭を抱きこみ、顔の角度を変えて奪うように唇を重ねた。すぐに舌を捻じ込むと、普段は見せない積極性に承太郎が目を見開く。だけどすぐに睫毛を伏せて、花京院に応えた。
卑猥な水音を立てながら絡み合う舌の感触に、頭の芯まで掻きまわされているような気がする。承太郎はそのあいだも僅かに上体を浮かせて、花京院のパジャマの裾から手を差し込むと、裏側から器用にボタンを外していった。
「イッ、痛……!」
前が完全に肌蹴て、露わになった胸の片方に承太郎が掌を這わせると、反射的に悲鳴が漏れた。実際、痛みはなかったのだが。
「……痣になってる」
花京院の反応に、唇を離した承太郎が言った。のろのろと視線を俯ければ、確かに彼の言う通り、ほどよく盛り上がったふたつの丘には、痛々しい痣がこびりついていた。自分でもこれでもかというほど擦ってしまったから、ただでさえ赤くなった皮膚に、それはより赤黒く浮き上がって見える。
「力加減を知らない男だったんだ」
揉まれたというよりは、力任せに抓られたといった方が正しい触れ方だった。本当に、ただの暴力以外の何物でもなかった。
承太郎は苛立ったように舌打ちをすると、花京院の胸に顔を埋めた。中央の窪みに優しくキスをしながら、労わるように両手で胸をそれぞれ包み込む。
「イテェか」
低く問われて、花京院は首を左右に振った。
「平気。いつもみたいに、してください」
「ん」
「ぁ、んッ」
ゆるゆると、波打つような動作で胸を揉みほぐされる。花京院が悦いと感じる加減を、承太郎はよく知っていた。あるいは、承太郎にこれで感じるよう覚え込まされたから、だろうか。全体を押し上げるようにされると、双方の中央で硬くなった乳首がよりいっそう尖って天を向く。その粒の片方に、舌を這わされた。鈍い音を立てて吸いついたかと思うと、頭を左右に振りながら緩く歯を立てられる。それだけで気が遠くなりそうなほどの快感が突き上げてきて、身体がびくびくと跳ねあがった。
「アッ、くぅ、んッ」
承太郎がもう片方にも舌を這わせながら、視線だけで問いかけてくるのに、何度も頷いた。気持ちがいい。いつもこうして女性にでもするように愛撫されるたび、羞恥に溺れながらも本当はひどく興奮している。男のくせにこんなことをされて感じているなんて、絶対におかしいと思うのに、自分を否定すればするほど気持ちがよくなってしまうのだ。それをいつもは必要以上に声に出したりはしない。可能な限り堪えて押し殺すのが常だった。だけど今日は、少しおかしくなっているから。
「気持ち、い……ッ、あ、……じょ、たろ……もっと、して、くださ、ぁッ」
承太郎がぐっと息をつめたような気がした。指と舌と歯が、これでもかというほど花京院の快感を煽る。じゅう、と音をたてて周りの肉ごと乳首を強く吸われると、もう訳が分からなくなるくらい感じて、花京院は嫌々と首を振りながら上擦った悲鳴をあげた。
「あぁッ、あ……! い、ぃ……承太郎に、されるの……感じ、る」
「ここ、また少しデカくなったか?」
「や、だ、知ら、な……ッ、アッ! じょ、たろ、もっと、さわって……ッ」
「今日は随分と素直で可愛いじゃあねえか」
目を細め、承太郎が舌なめずりをした。赤い舌がぬるりと蠢く光景にすら興奮する。
承太郎は花京院の胸に何度も口付け、花弁のような痕を残しながら徐々に下肢へと移動していった。脇腹を辿り、大きな手がウエスト部分に滑り込む。直接臀部を触れられるのに合わせて片膝を立てると、承太郎の手首に引っかかる形で、パジャマのズボンが下着ごと足から抜けた。
花京院の性器は、胸への刺激だけで先走りを漏らすほど反り返っている。太く長い指が、先端の濡れた窪みから裏筋にかけて緩く何度も行き来した。
「くぅ、ぁ、んッ」
「ここは、触られたか」
問いかけに、花京院は身悶えながら何度も首を左右に振った。小林が直接触れた場所は、結局のところ胸だけだったのだ。それも今では承太郎によって存分に可愛がられて、甘く痺れるような感覚しか残っていない。
承太郎はほっと息をつくと花京院の内腿にひとつ口付け、身体の中心で震える屹立を緩く握り込んだ。彼の大きな手に触れられると、自分のものがまるで未発達な子供の性器みたいに小さく見えてしまうから、恥ずかしい。
「んぁ、あッ、や……ッ」
ゆるゆると扱かれると、快感と一緒に透明な蜜が次から次へと溢れ出た。背を反らし、指先でシーツを掻きながら悶える花京院に、承太郎が喉を鳴らしたのが分かる。汗ばんだ肌に痛いほどの視線を感じ、ゆらりと瞼を持ち上げれば、承太郎も興奮しているようで、額に汗を滲ませているのが見えた。
「じょう、たろう……ぼく、も」
触れたいという欲求が込み上げて、花京院はうまく力が入らない身体で上半身を起こす。承太郎の身体の中心は、制服のズボンを押し上げるほどに張り詰めて膨らんでいた。跳ねる心臓に息を荒げながら、両手でベルトを外し、前を寛げていく。チャックを下ろして下着をずらすだけで、いきり起った剛直が反動をつけて飛び出した。太い血管を走らせながら震えるそれを見つめ、思えばこんな風に勃起した承太郎の性器を直視したのは、これが初めてかもしれないということに気がついた。
持っているものは同じはずだし、あまりジロジロと観察するのも悪いような気がして、いつも遠慮してしまうのだ。だが実際のところ大半を占めていたのは羞恥心と、まだどこかたどたどしい行為への、初心さからだった。
(よくこんな大きなものが……)
あんな場所に入るものだと、変に感心してしまう。知っていたつもりだが、こうしてまじまじと見ると、やっぱり大きい。あの部屋で突きつけられたものが、どれほど粗末なものだったかがよく分かった。こちらの方がよほど狂気じみているのに、渇きを覚える程度には、愛しいと感じる。
(こんなものが、ぼくのなかに入るんだ。ぼくはこれで、いつも……)
花京院は無意識に喉を鳴らすと、太い竿へ手を伸ばす。そっと触れて、幾度かゆるゆると扱いた。
「花京院」
低い声が、僅かに掠れる。花京院はシーツにペッタリと座り込んだ体勢で、ゆっくりと身体を前に倒し、背中を丸めると迷うことなく濡れた先端に口をつけた。
「ッ、おい」
承太郎の手が頭部に触れる。彼にしては珍しく、戸惑いが見え隠れする触れ方だった。
自らオーラルを試みるのはこれが初めてだ。承太郎には何度かされたことがあったが、自分には到底できそうもないと決めつけていた。決して嫌だったわけではない。ただ恥ずかしくて、上手くできるのかも分からなくて、積極的にやろうとはどうしても思えなかったのだ。
「ん……」
ゆっくりと、硬く張りつめた肉棒に舌を這わせ、飲み込んでいく。大きすぎて、全てを咥え込むことはできないけれど、承太郎という雄の匂いが鼻から抜けていく感覚に、たまらなく興奮する。ぎこちなくではあるが、歯を立てないよう意識しながら懸命に奉仕した。
唾液と先走りが合わさり、はしたない水音が響く。承太郎は食いしばった歯の隙間から、低く小さな呻きを漏らしていた。頭皮を滑る指先の感覚が、まるで愛撫のように感じられて、花京院の性器からも淫らな密が零れ落ちる。
承太郎のものは、花京院の口内でさらに硬く張り詰めていた。手でも同時に扱きながら、徐々に動きを大胆にしていく。承太郎はどこか悔しそうにも見える表情で、珍しく耳まで赤くなっている。
(このまま、イッてほしい)
口の中で脈打つ肉塊が、はち切れそうなほどの弾力が、全て愛しい。欲しくて欲しくて堪らなかった。こんなはしたない真似ができるのも、承太郎だからなのだと思うと、得も言われぬ喜びが沸き上がる。
「お、い、ちょっと、待ちな」
夢中で奉仕に努める花京院の前髪を、承太郎が緩く掴んだ。そのまま顔を引き剥がされて、糸を引きながら離されてしまう。
「マジで、これ以上したら出ちまうぜ」
花京院はぼうっと熱に浮かされた瞳で、承太郎を見上げた。
「出してほしかったんだ、ぼくは」
「ッ、てめー、いま自分がどんだけエロい顔してるか、分かって言ってんのか」
「そんなの、承太郎だって」
承太郎は舌打ちをすると、花京院の腕を強く引き「乗りな」と言って仰向けに身体を倒した。どうするつもりなのかと首を傾げる花京院に、後ろを向けと命じてくる。促されるままに、承太郎に尻を向ける形で覆いかぶさった。
「こ、これって」
「いい眺めだぜ。丸見えだ」
「承太郎ッ!」
「この体勢でなら、好きなだけ咥えても構わないぜ。やれるもんならよ」
「あッ!」
承太郎の両手に、尻の肉を掴まれる。下から全てを見られていると思うと、羞恥に全身が熱くなった。これはいわゆる、シックスナインというものか。
「じょ、たろ……ッ、これ、はずか、し……ッ」
「いいからてめーはそっちに集中しな」
眼前で、承太郎の張り詰めた男茎が揺れている。花京院は下唇を噛み締め、じわりと浮かぶ涙を堪えながらそれに両手で触れた。熱い。掌で脈打っている。焼き尽くされそうな羞恥を紛らわすには、目の前のことに夢中になる以外、なさそうだった。もういっそどうにでもなれという気にもなって、再びそれを口に含んだ。
「んっ、んぅ、ぅ」
おとなしく奉仕を再開した花京院の尻たぶを、承太郎が解すようにいやらしく揉みしだく。ぞくぞくとした感覚が背筋を駆け、思わず腰を捩る。
「ぅむ、ぁ、んんッ」
「ここ、触られたんだろ。あの野郎によ」
「ぷ、はッ、ぁ……直接、じゃ、ない」
「一緒だぜ」
承太郎は吐き捨てるように言うと、人差し指に舌を這わせて濡らしたものを、中心にぐっと押し付ける。
「あぅッ……!」
そそり起つ肉棒を掴んだまま、甘い声が漏れた。承太郎は何度も根気よく濡らした指で窄まった穴に触れ、少しずつそこを解していく。入口をじくじくと刺激されるもどかしさに、奉仕を再開するのもままならない。それでも頬を擦りつけ、必死で舌を這わせる。
「小せえのに変わりはねえが、ずいぶんケツが丸くなったな」
「ん、な……わけ……ッ」
「前はいかにも野郎のケツって具合で、もっと硬かったのによ」
「いや、だ、そんな、こと、ッ、ぁ、あッ」
「いい加減、素直に認めちまいな」
パン、と音を立てながら、尻たぶにそれぞれ承太郎の掌が押し付けられる。ひん、と子犬のような呻きをあげ、思わず背を反らすと、よりいっそう承太郎へ尻を突きだす形になった。
「このエロい身体で、無意識に男を誘ってるってよ」
「も、嫌だ……そんなこと、言わないで……」
恥ずかしさで、死んでしまいそうだ。けれど承太郎に意地の悪いことを言われる度に、身体はどんどん熱く、敏感に反応した。触れられていない性器が、いっそ痛みを覚えるほどに張り詰めている。だらしなくよだれを垂らし、承太郎の肌を汚しているのだ。
承太郎は何度も何度も尻の肉を揉みほぐし、やがて引き寄せると指で解された穴に舌を這わせた。
「ヒィッ、ぁ、や、やめ! そんな、汚い……ッ」
柔らかくぬるりとしたものが、中に潜り込んでくる。不規則に蠢き、浅い場所を何度も抉る。わざと大きな水音を立てて、舐めては捻じ込む動作を繰り返された。
このままでは、本当に頭がおかしくなると思った。羞恥も、快感も、全て花京院の許容量を超えていた。もどかしくて、尻を振るのをとめられない。手の中では変わらず逞しい男根が脈打っている。熱く反り返り、噎せるような雄の香りを放っていた。
(ほんとう、に?)
承太郎が言うように、この身体は自分でも知らないうちに、その形を変えているというのか。尻も、肩や腰のラインも。匂いでさえも。あんな頭のおかしな男まで寄せ付けてしまうくらいに――?
バカげている。そう思うのに、否定しきれないくらい追い詰められてしまったのも、事実だった。小林は、完全に花京院を『雌』として見ていた。花京院にとってそれは耐え難いほどの屈辱でしかない。だけど、こんなふうに自分を作り変えてしまったのが他の誰でもない、花京院が唯一愛してやまない男のせいなのだとしたら。
(嬉しい)
身体が、承太郎のための『形』になっていく。それを心の底から嬉しいと思う。男性としての生理やプライドをへし曲げてでも、愛されることに、支配されることに喜びを感じている自分を、もう否定することはできなかった。
「じょ、たろ……ッ、もう、足りない……ほし、い、我慢、できない……ッ!」
舌だけでは足りない。濡れそぼった穴が、もっと大きくて太いものを求めて収縮しているのがわかる。承太郎の指がそこに押し入ってきた。内壁をぐるりと擦られる。
「我慢なんかしなくていいぜ。おら、イッちまいな」
「嫌だ、嫌だ……ッ! 頼むから、認めるからッ」
「なにを?」
花京院は肩を震わせ、とめどなく流れる涙にひくひくとしゃくりをあげた。欲しい。欲しくて仕方がない。こんなにいやらしい身体にしたのは、承太郎なのだ。承太郎が、花京院の全てを変えてしまった。
「ぼく、は……ぼくの、身体は……」
「ん」
「男の人を、寄せ付けるような……えっちな、身体、です」
「そうだな」
「承太郎、が……ぼくを、こんな、ふうに……ッ」
承太郎が笑った。ひどく満足そうに。中から指を一気に引き抜いて、花京院の腰に腕を回しながら半身を起こす。
「よく言えたな」
「はや、く」
「いいぜ」
腰を浮かせている花京院の尻に、承太郎が自身の竿を掴んだものをあてがった。先走りを馴染ませるように幾度か先端で穴を擦られると、期待に全身が粟立つ。緊張と興奮で、心臓がドカドカと激しく暴れていた。
先端が濡れた穴に潜り込んだ瞬間、息が止まる。承太郎は花京院の腰を掴むと、ゆっくりと引き寄せた。
「あッ、ぃ……ッ、はいっ、て、アッ、くぅ、うッ!」
「まだだぜ」
「イッ、ひ……――!!」
半分ほどまで飲み込んだところで、強く腰を引かれた。叩きつけるような勢いで、ずん、と奥まで貫かれ、目の前が真っ白になる。一瞬、どこか遠くへ意識をさらわれ、かくんと首を折った花京院の背を掻き抱いて、承太郎が容赦なく律動を開始した。
「――ッ、あぁッ、ヒ、うぅ……ッ!」
「気ぃしっかり持て、よ」
「あひ、アッ、あっ、じょ、たッ、ろ、すご、これ、すご、ぃ……ッ!」
引き抜かれるたびに、内臓を全て引きずり出されそうな恐怖が襲う。奥を突きあげられると、衝撃が頭の天辺まで雷のように駆け巡った。熱い。怖い。この快感はあまりにも強すぎて、自分が自分ではなくなっていく。舌を噛みそうなほど、激しい。
髪を振り乱し、花京院は自らも律動に合わせて、腰を前後に大きく揺らした。ピンと立てた両腕の先で、指先が病的なまでに震えながらシーツに深い皺を刻む。
「じょ、たろ、ッ……じょう、アッ、じょう、たろうが、あっ、んっく、ぅ……ッ!」
どんどん呂律が回らなくなって、なにを口走っているのかも分からなくなっていった。ただ、伝えたくて必死だった。
「これ、が、ッ、あ、好き……ッ、あ、あんな、あんな、の、絶対、ッ……!」
あんな男に、穢されなくてよかった。あんなものを挿れられなくてよかった。そう言いたいのに上手く言えない。けれど承太郎には伝わっていて、彼は花京院の耳元に背後から頬を擦りつけ「わかってる」と低く呟いた。胸いっぱいに熱いものが溢れ返って、たまらなくキスがしたくなる。花京院は腰を捻り、片腕を承太郎の首に回した。夢中でキスをしている間に、承太郎のものがいちど引き抜かれる。仰向けに身体を反転させられ、両足を大きく開くと正面から再び受け入れた。
「う、アッ、も、イク……ッ、じょうたろ、出して、ナカ、くださ、ぃ……ッ」
「いい、ぜ。一緒に、花京院」
極致に至る瞬間は、声も出なかった。真っ白に染まる世界で、打ち上げられ、叩きつけられる。互いに強く抱き合いながら腰を大きく震わせた。中で、熱いものが弾けている。花京院のものも、腹と腹の間で白濁を散らしていた。
「ぁ、ぁ……ッ、でて、る……なか、ビクビク、して……」
「ッ、く」
下腹が疼く。承太郎が放逐した蛋白性の遺伝子が、花京院の中で確かな意思を持って、飛び跳ねるように蠢いている気がした。肉路の先で、結実を求めてビクビクと波打っている。尾を引く絶頂に痙攣を繰り返しながら、花京院は承太郎の腰に両足を巻きつけて、より深く奥へと誘いこもうとした。足首をクロスさせ、強く引き寄せる。承太郎もそんな花京院をいっそう強く抱しめて、中に放ったものをなじませようと、抜かずに留まり続ける。
そのまま呼吸が整うまで、互いになにも言わずただ抱き合った。そのうちなんだか可笑しくなって、つい、笑ってしまう。
「本当にデキてしまったら、どうするんだい」
「認知するに決まってんだろ。お袋も喜ぶだろうよ」
「ふふッ、ああもう、馬鹿だなあぼくら」
いいじゃあねえかと、笑いながら承太郎は言った。それからふっと笑みを消して、花京院の額に自分の額を押し付けると、じっと瞳を覗き込んでくる。長い睫毛に縁どられたエメラルドに胸の高鳴りを覚えながら、つい喉を詰まらせた花京院に、承太郎は囁くような声で「好きだ」と言った。
「承、ッ、アッ!」
顔を赤らめた花京院の中を、承太郎が緩く突きあげる。
「誰にも渡さねえ。そこんとこ、朝までみっちり叩きこむぜ。このエロい身体によ」
ああ、なんて恥ずかしいことを。けれど花京院はもう認めてしまった。作り変えられていくことの喜びを知ってしまった。もう嫌というほど分かりきっているのに、それでも足りないという承太郎にしがみついて、花京院は本当に、朝まで絶え間なく啼き続けることになるのだった。
*
あれ以来、小林が花京院たちの前に姿を現すことはなかった。
すぐにやってきた別の非常勤講師は女性で、女子生徒からも男子生徒からも受けがいいようだった。
皆が彼の存在を忘れてしまった頃、意外にも特に小林を毛嫌いしていたはずの女子生徒の口から、ある日の放課後、その名前が飛び出した。
「ねえ聞いた花京院くん!? 小林っていたでしょ! 前の非常勤、あれ、逮捕されたんだってよ!!」
席について帰り支度をしていた花京院の机に、数人のクラスメイトの女子が興奮気味に集まってきた。
「さっき職員室で聞いたの! 他所の高校で女の子に変なことして、警察に捕まったんだって! 新聞にも載ったってよ!」
「最低―! まじキモすぎ……確かにやりそうだったもんね」
「なんかね、理由がまたすっごいキモいの。その子が一度だけ目を合わせて挨拶してくれたから、それで自分に気があるって思ったんだって!」
「嫌あぁ……ッ! 花京院くん、危なかったよね。だって小林にセクハラされてたでしょ?」
「そうよ! 下手したら襲われてたの、花京院くんだったかも……」
鞄に教科書やノートを詰めながら耳を傾けていた花京院は、思わず手を止めると苦笑した。
「確かに気に入られてはいたようだが、ぼくは男ですよ。襲われるなんてことには、ならなかったんじゃあないかな」
実際この身に起こったことは、当の小林と自分、そして承太郎しか知らないことだ。今でもあの時のことを思いだすと不愉快な気持ちにはなるが、そのあと朝までたっぷり承太郎に可愛がられてしまった記憶が上塗りされて、身体が熱くなってしまうから困りものだった。
「でも、花京院くんだったら分からないわよ? だってすごく色っぽいし……」
「わかる! なんか不思議な色気があるのよね! 男でもコロッといっちゃうかも……」
「あはは、そうかな。それは……」
(光栄だ)
頬を染めながら頷き合う女子たちの合間を縫って、ふと走らせた視線の先に、以前体育館裏で告白をしてきた男子生徒が、気まずそうにこちらを見ていた。目が合った瞬間ふわりと笑いかけると、彼は顔を真っ赤にして、一目散に教室を出て行ってしまう。
入れ替わるようにヌッと姿を現したのは、承太郎だった。途端に女子生徒たちが黄色い悲鳴をあげる。
「花京院」
帰るぜ、というひと声に、花京院は花が綻ぶような笑みを浮かべると、席を立つ。
最近、前にも増して承太郎は過保護になった。放課後、一分と待たずしてこうして迎えにやってくる。以前は承太郎がこういった姿勢を見せることに不満を覚えていた花京院だったが、今ではどちらかというと諦めの方が勝っていた。あれは独占欲の塊のような男なのだ。
今でも承太郎が行くなと言ったコンビニは事あるごとに利用しているし、自分の立ち振る舞いを変えるつもりはない。ただ唯一変わったのは、承太郎に愛される喜びが今の自分を形作っていることを、誇れるようになったことだ。それは同時に、承太郎がこの身体に溺れている証拠でもあるから。
「それじゃあぼくはこれで。みんな、また明日」
承太郎の姿にすっかり骨抜き状態になっている女子たちは、熱い溜息を漏らしながら手を振り、去っていくふたりの背中を見送った。
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