2025/08/26 Tue 近隣住民の通報により駆けつけた警官に捕らえられた男は、パトカーに押し込められる寸前まで狂ったように『ミサオ』の名を叫び続けていた。 その声を聞くだけで震えが走り、甲洋が肩を抱いて支えていてくれなければ、操はその場に立っていることすら危うかったかもしれない。 その後は操の精神面を考慮して、ひとまず簡易的な聴取だけで済まされた。 詳しい話は後日ということになり、ふたりがマンションに帰宅できたのは21時を過ぎたころだった。 * 部屋に戻るとシャワーを浴びた。 土なのど汚れと一緒に男が乱暴に触れた場所を洗い流しても、首に残る感触が失せることはない。熱い湯に打たれてもなお青い顔をしながら浴室を出ると、甲洋がホットミルクを作って待っていてくれた。 ちびちびとカップに口をつけているあいだ、甲洋はその横でただ静かに操のことを見守っていた。ときどき小さくむせると、背中を優しく擦ってくれる。 ミルクと蜂蜜と、そして甲洋の優しさに包まれて、手足の先までジンジンとあたたかく痺れていくのを感じた。 「顔色、だいぶ戻ってきたな」 操の頬に赤みがさしてきたことを確かめて、甲洋は柔らかい笑みを浮かべた。操はこくりと頷いて、その顔をおずおずと見上げる。 「甲洋、ごめん」 「どうしたの?」 「だって、今日本当は仕事だったんでしょ?」 時刻はいつも甲洋が出かける時間を、とっくの昔に過ぎている。 あんなことがあったばかりで、一人きりにならずに済むのは嬉しいと思う。だけどさすがの操も、今日ばかりは消沈していた。勝手に飛びだして、危ないところを助けてもらって、仕事まで休ませて。 甲洋は優しく目を細め、癖のある前髪を揺らしながら首を軽く横に振った。 「気にしなくていい。俺がそばにいたいだけだから」 「……ありがと」 こんなふうに笑う甲洋を見ると、どうしてか目を逸したいような気持ちになる。初めてセックスをした夜もそうだった。だからあのときの操は、自分からやめろと言って取り上げたはずの眼鏡を、甲洋に押し返したのだ。 じゃなきゃなんだかくすぐったいような気がして、この顔を直視できないと思ったから。その眼鏡も、さっきの件ですっかり駄目になってしまったけれど。 逃げるようにテーブルの上に目をやって、空になったカップを置いた。すると自然と、そこに置かれたままの白い紙袋に意識が向く。 隣であぐらをかいていた甲洋は、いつ切り出そうかと密かにタイミングを図っていたようだった。 「俺こそごめん、来主」 項垂れるようにしながら、甲洋がガクリと頭をさげる。 この袋は古い友人から譲り受けたもので、捨てるに捨てられずただ置いておいただけだということ。操が出演していたビデオもこの中に入っており、それが来栖ミサオを知るキッカケになったこと。そして、他はいっさい見ていないということ。 言い訳にしか聞こえないかもしれないけど──そう付け加えながら話す甲洋はひどくバツが悪い顔をしていて、操がずっと見たいと思っていたはずの、叱られた大型犬のような姿をしていた。こんな形で見たかったわけではないから、どうにも複雑な気持ちになってしまう。 最後にもう一度「ごめん」と言って締めくくった甲洋に、操は首を横に振った。 「うぅん。いっぱい謝らなきゃいけないのはおれのほう。君はなにも悪くない」 だいたい操が常に部屋にいる状況で、AVを見る隙などどこにもありはしなかった。最近の甲洋は暇さえあれば一緒にゲームをして遊んでいたし、それ以外はまるで操を避けるかのようにして寝床で背中を丸めていたのだ。 考えれば分かることだったのに、早とちりもいいところである。 「変な誤解してごめんね。おれAV辞めちゃったし……だからもう飽きたのかなとか、君はやっぱり女の子の方がいいのかな、とか」 自分でも、らしくないなぁと思う。人の見た目だけじゃなく、性別にすらまるでこだわりはないはずだった。だから女の子の服を着ることに抵抗はなかったし、男とだって平気でセックスをすることができた。 だけどもう甲洋とは終わりなのかもしれないと思ったとき、初めて自分の価値に不安を覚えたのだ。女の子に興奮する甲洋を想像して、悔しいとも感じてしまった。 「そんなことあるはずないだろ!」 甲洋がひどく焦った声をあげたので、思わず肩を跳ねさせた。目を丸くした操に、彼はハッとしながら「ごめん」と言って、それから真剣な眼差しを向けてくる。 「俺は来主がいい」 「!」 「来主が好きだ。お前がAVに出ていようがいまいが、俺はきっと来主のことを好きになったよ」 照れもせずまっすぐに吐き出された想いに、操は丸くしていた瞳を潤ませる。 彼のひたむきな言葉が胸にしみた。そこから吹きこぼれるように込み上げた感情を抑えきれずに、操は甲洋の腕に勢いよく縋りついた。 「じゃあ……じゃあさっ!」 「うん」 「エッチしようよ!」 「……ッ、ぇ?」 面食らったように目を見開いた甲洋の頬が、さぁっと赤く染まっていった。 「な、なんでそんな、急に」 「急じゃないよ。むしろ自然な流れじゃないの?」 「や、あの……でも」 「でも?」 「……解かれてないだろ、禁止令」 たじろぎながら逸らされた瞳に、操はきゅっと眉を吊り上げる。 「そんなのもういい。っていうか、最初からどうでもよかったんだよ。なんで真に受けちゃうのさ」 「なんでってお前……え、そうだったの?」 「そうだよ。甲洋のバカ真面目。おれはずっと待ってたのに」 甲洋の顔が、いよいよ耳まで真っ赤になった。戸惑いを色濃く浮かべながらも、操に向けられた瞳はどこか爛々と輝いているように見える。単純なのか複雑なのか、よく分からない男だ。 今だって、きっとなにかグルグルと面倒くさいことを考えてはじめているのだろう。思いっきり期待に満ちた目をしているくせに、大人ぶった態度でまた視線を逸らそうとしている。 「でも、あんなことがあったばかりだろ。今夜はゆっくり休んだ方が……」 「もう! めんどくさいな! だから盛り上がるんじゃん!」 操は甲洋の後ろ首へ手を伸ばし、長い癖毛ごと強く掴んで引き寄せる。歯がぶつかりそうな勢いでガツンとキスして、それから見開かれている瞳をきつく睨みつけた。 「エッチ禁止令終わり! ねぇ、これでいい!?」 「く、来主」 「おれ、不安だったんだから! 君がぜんぜん触ってこないから、すごく不安だったんだから!」 (分かってるよ。おれも一緒。めんどくさいの。君だってそう思ってるんだろ) 甲洋はスケベだが、操だって同じだ。面倒くさいスケベがふたり。どうせお似合いなんだから、さっきの事件だって、いい感じに盛り上がるための材料にしてしまえばいいのだ。 それくらい分かってるくせに。どうせそうするつもりだったくせに。 「いいでしょ甲洋……おれに怖いこと、いっぱいしてよ」 呆けたような顔をしながら、甲洋がごくりとひとつ、喉を鳴らした。 * 「ん、んっ、ふぅ……」 ベッドの上にふたりで沈んで、キスをしながらもどかしい手つきで服を脱がせ合う。お互い下着姿になってからも、追いかけっこでもしているみたいに舌を絡ませ、吸いついて、歯を立てながら貪った。 暖房がきいた室内にいても、むき出しになった肌に触れる空気は少し冷たい。熱く息を乱しながら、甲洋の大きな手が皮膚を撫でる。急いている心と身体は、それだけで甘い吐息が漏れた。 「来主、来主……」 「ぁ、ッ、甲洋……はやく……っ」 ぴたりと肌を重ねていてさえ足りなくて、操は甲洋の頭を掻き抱いた。操の首には男に締められた痕がうっすらと残されていて、甲洋は痛ましそうに瞳を細めると、そこに顔を埋めて何度も繰り返しキスをする。 あまり出っ張っていない、小さな喉仏を覆う薄い皮膚に吸いつかれると、上ずった声が漏れて震えが走る。 「こう、よ……っ、ぁ、もっと……っ」 唇は徐々に鎖骨へとおりていき、やがて外気に触れてしこりを帯びた胸の粒へとたどり着いた。口に含んだそれを舌先で転がされ、ときどき甘く吸われたと思ったら、緩く歯を立てられる。 指も駆使しながら繰り返しなぶられて、腰が揺れてしまうのを止められない。 「ぁんっ、あっ、あ、ダメ……ッ、おっぱいイヤ……っ、そこいやっ」 操は髪を振り乱しながら嫌々と首を振る。それでも両腕は甲洋の頭を抱きしめたまま、指先は頭皮に甘く爪を立てていた。 嫌だとかダメだとか、操が泣き声をあげるほどに甲洋はそこを執拗に嬲り続ける。 「はぅんっ、ぁ! ちくびやだっ、そこ怖いの……っ、あ、もっと、もっとしてぇ……っ」 身体の中心が、もはや熱を帯びて膨らんでいるのを感じる。甲洋は空腹の犬のように荒く息を吐きだしながら、操の下着に指を引っ掛け、膝下まで一気にずり下げてしまう。形を変えた拙い性器が、先端からトロトロと蜜を滲ませていた。 そっと握り込まれて、操の口からは「くぅん」と子犬のような喘ぎが漏れる。 「もうこんなに濡れてる」 「だって……だってぇ、甲洋が、ずっと放っておくからぁ」 「うん、ごめん……」 くちくちと水音を立てながら緩く扱かれるだけで、操の屹立は決壊したように蜜を溢れさせた。自ら両足を大きく開くと、伝い落ちた体液が尻の谷間へと流れ落ちていく。 こんなに濡れてしまうのは初めてで、自分でも少し怖くなる。何回か軽く扱かれただけで、操の身体はいともたやすく追い込まれてしまった。 「ひんっ、ぁ! やっ、いく、アッ、やだイク……ッ、もう出ちゃうぅ……!」 「いいよ……イッて、来主」 じわりと膨らんだ熱が、抗うこともできないまま弾けてしまった。爪の先でくじられた場所から、ぷしゅ、と勢いよく白濁を散らして、操は内腿を痙攣させる。 ぴゅ、ぴゅ、と断続的に溢れる残滓が、シーツや下腹部にまで飛び散った。 「──ッ、ぁ……っ、……あぁ、ぁ──……っ」 頭の中が熱くジンジンと痺れている。内腿の震えが止まらず、余韻はいつまでも尾を引いた。 こんなに早くにイッてしまったのも初めてで、気持ちよすぎてやっぱり怖い。甲洋にされると、どこもかしこも怖いくらい感じてしまう。 「来主、ここ……いい?」 いつもならもっと愛撫に時間をかけるはずの甲洋の指先が、もはや身体の奥まった場所に伸びていく。その性急さが嬉しくて、操は自身の膝裏にそれぞれ腕を引っ掛けるようにしながら、より大きく足を開いた。 「すごい……もうこんなに……?」 いやらしい体液に濡れて、すぼまった孔はすでにヒクヒクと期待に震えている。甲洋は人差し指の先端を慎重に潜り込ませ、その蕩けた肉の感触に感慨深い声を漏らした。 「ヌルヌルだよ、来主。ローション、いらないかも」 「あっ、ぁう、ァ……ッ」 「閉じたり開いたりしてるの、分かる?」 「ふぅ、ぁ、あ、だって、だって……もう、欲し……っ」 「まだ……もう少し、待って」 操が慣れていることくらい知っているくせに、彼はここに来て急に慎重な手つきで太腿を割り開き、埋めた指先をゆっくりと飲み込ませていく。 たやすく根元まで飲み込んだ指を、きゅんきゅんと締めつけながら操は唇を噛みしめた。圧迫感はあるけれど、この孔はすでにもっと太くて熱い感触を知っている。それで得られる快感の大きさも知っていて、じわじわと慣らされていく過程は焦らし以外のなにものでもなかった。 「こう、よ……こうよ、はや、く……ねぇ、んんっ、ぁ……っ」 「待って、まだ……」 異物を察して分泌される腸液に、ひどく濡れた肉壺が疼いている。一度引き抜かれ、もう一本添えながらまたじわじわと飲み込まされた。指を軽く閉じたり開いたりしながら中をぐるりと擦られて、再び兆している操の陰茎がしくしくと涙を零しては、また孔を濡らした。 「お願い、おねが……っ、あ、ぁん、甲洋、はやく」 たった一週間していなかっただけで、焦がれすぎて今にも焼き切れてしまいそうだった。早く欲しい。甲洋だってもうとっくに──むしろ服を脱がせあったときには、すでに股間をパンパンに膨らませていたくせに。 それでも操を傷つけまいとする配慮がもどかしくて、同時に嬉しくもあって、だけどもう我慢も限界で。 (もうやだ、もう無理!) そうだ。こんなときは、もっと分かりやすく強請ればいい。可愛い声をあげながら、いやらしい言葉をいっぱい吐きだして、甲洋の理性を壊してしまえば。 「ねぇもう我慢できないの……! 早く甲洋の──」 (……あれ?) なのに、操はその先を続けることができなかった。急に声の出し方を忘れてしまったみたいに、喉の奥がきゅっと窄まる。 ──早く甲洋のおちんぽちょうだい。おっきい大人ちんぽで、おれのエッチなお尻まんこ、いっぱいズボズボして。 いつもみたいに、そう言って下品に煽り倒すつもりだったのに。操があからさまな単語を発すると、甲洋はいつだって呆気なく陥落する。紳士であろうと努めていたはずの瞳を、飢えた野獣みたいにギラギラとさせ、隠し持っていた牙を曝け出してみせるのだ。操はその瞬間が好きだった。 だけど、どうしてか今日はそれができない。顔が焼けるように熱くて、胸がドキドキして、いつもみたいに恥も外聞もなく強請ることに戸惑いを覚えた。 「来主?」 真っ赤に茹だって黙り込んだ操に、様子がおかしいことに気づいた甲洋が目を丸くした。訳が分からず、操の思考はぐるぐると迷子のように回り続ける。 (なんで? なんで、急に、こんな……) 「どうかした?」 (なんでこんなに、恥ずかしいの……!?) 「ぁ……」 早く欲しい。その気持ちは本当で、早く太くて熱いもので嫌というほど泣かせてほしい。 だから早く言わなければ。これ以上時間をかけられたら、頭がバカになりそうで。 「あ、あの……あのね甲洋」 「うん、なに?」 「おれ、もう我慢できなくて……それでね、その……ち、ん……」 「うん……?」 「甲洋、の……ぉ、おち、ちん……欲しい……」 「……ぇ」 蚊の鳴くような声でようやく絞り出した操に、甲洋はぎょっとしたような顔をする。 「お、おちんちん……? 今、おちんちんって言ったの?」 「ッ、い、言ったよ! だからなに!?」 「え、だってお前、そんな……今までそんな可愛い言い方、したことないだろ……?」 「い、いいじゃんそんなこと!」 「いやだって、いつもはちんぽって……」 「バカぁ! 恥ずかしいから、今日は言いたくないだけだもん!」 「は、恥ずかしい……?」 お前にそんな感情があったのか──甲洋の顔には、それがハッキリと書かれている。 操にだってよく分からないのだ。どうして急にこんなに恥ずかしいと思ってしまうのか。それもこれも、下手に間を置いてしまったから、なのだろうか。久しぶりのセックス──と言ってもたったの一週間だけれど──だから、勝手を忘れてしまったのかもしれない。 (だけど、そんなことってあるのかな……?) そこまで考えて、なにかが違うような気がした。 (……あ、そっか) そしてふと、気がついた。 下品な物言いに慣れていたのは、操が【来栖ミサオ】だったからだ。AVの仕事を辞めて、甲洋と一緒に暮らすようになって、初めて仕事とは違うセックスをするようになってからも、操は無意識にどこかで来栖ミサオを演じていた。 そうすれば、きっと甲洋が喜ぶと思っていたから。可愛がってくれると思っていたから。 だけどもうそんな必要はないのだと気がついて、操は今この瞬間、ようやく来栖ミサオを卒業することができた。 だからこんなに恥ずかしいのだ。慣れているはずの行為が、言葉が、まるで初めてのようにも感じられて。急に不器用になってしまった。 (うわぁ、どうしよ……今までどうしてたんだっけ……!?) 自ら大きく足を開いて、惜しげもなく裸をさらして、心はまるで処女のようになっているなんて、あまりにもちぐはぐだ。 なにが正しいのか分からなくなってしまった操は、助けを求めるように甲洋を見た。甲洋はうつむき、なぜか肩を震わせている。 「こ、甲洋……?」 「……来主、それは不味い」 「え?」 「そんなの今更、反則だ……!」 顔を上げた甲洋は、それはもう飢えに飢えたケダモノの瞳をしていた。 刺さったんだなと、操は思う。操のこの初々しくもアンバランスな反応に、心の臓をぶち抜かれている。 なんだかよく分からないが、とりあえずこれでよかったらしい。このひと結局なんでもいいんだなぁとちょっと呆れた気もしつつ、操も少しだけ、調子を取り戻せたような気がした。 「ねぇ甲洋、しよ……甲洋のおちんちん、早くちょうだい?」 「……ん」 グッと口を引き結び、こくんと深く頷く仕草が子供みたいで可愛いと思う。歳上のくせに、妙な幼さを覗かせる甲洋に操もまた心臓をドスンと突かれた。 甲洋は埋め込んだままだった指を引き抜き、片手をつくとベッド脇のチェストに手を伸ばした。ゴソゴソとなにかを取り出そうとしているのを察して、操は咄嗟に彼の手首を掴んで引き止める。 「甲洋、ゴム……いらない」 「えっ?」 「今日は、しないでいいよ」 甲洋がぐっと喉を詰まらせた。眼球がわずかに左右に揺れて、彼がひどく戸惑い、迷っていることが伝わってくる。 操はふるふると首を横に振った。それから、「いれて」と乾いた喉で懇願する。甲洋の瞳がじわりと潤んで、喉がごくんと鳴らされた。 中で出されるのは、あまり好きじゃない。だけど今日は、ほんの薄い膜一枚ですら邪魔だと思った。 足首に引っかかっていた下着を蹴り飛ばすようにして床に落としながら、操は甲洋の股間の膨らみに目を奪われる。長い指によってズルリと引き出されたそれは限界まで膨らんで、先端をわずかに光らせながら血管を浮き上がらせていた。 「ぁ……甲洋、それ、はやく……」 「わかってる」 甲洋は押し殺したように声を発して、自身を幾度か扱いて先走りを馴染ませる。改めて割り開いた操の太腿を掴み、存分に濡れた窄まりにあてがった。 「いく、よ」 「んっ……あ、ぁ……っ、く、うぅ……!」 引き攣るようなわずかな痛みと、内臓を圧迫される異物感。欲望がみっちりと詰まった肉をずぶずぶと飲み込みながら、頭の芯まで突き破られるような快感に襲われる。 「ぁ、っく……ぅ、くる、す」 「あひっ、ぁ……あぁっ、こうよ、奥……あっ、おちんちん、奥まで……ッ、あ、来た、ぁ……っ!」 奥まで満たされ、ピンと張った爪先が震えた。操の身体の両脇に手をついて、項垂れた甲洋が荒く息をつく。生々しい肉の感触を味わいながら、しばらくはお互い挿入の余韻に絡め取られて動けなかった。 「来主、ちょっと……不味い、かも」 「ふ、ぅ……ぁ、なに……?」 「ごめん、待って。このまま、少し……」 甲洋が歯を食いしばっている。その身体が小刻みに震えているのを見て、挿れただけで限界寸前になっていることが分かった。 甲洋だってずっと我慢していたのだから、しょうがない。しかもナマでするのは、初めてしたとき以来のことだ。 「はっ、ぁ……はぁ、はぁ……っ」 「こうよ、動いて……いいよ、イッてもいいから」 両手を伸ばして、汗ばむ頬を包み込んだ。誘うように小さく笑うと、くしゃりと泣きそうに顔を歪めながら、甲洋の身体が倒れてくる。操の身体をしっかりと抱き込んで、首筋に顔を埋めてきた。 操は甲洋の頭を抱きしめながら、両足をその腰にクロスさせるようにして巻きつけた。腹に力を込めてナカのものを圧迫すると、甲洋の口から切羽詰まった呻きが漏れる。 「うぁ、あ……、来主……っ」 「甲洋好き、大好き」 「ッ、……俺、も、来主……俺も……」 甲洋が腰を揺らして、奥を軽くノックする。限界間際のところでどうにか堪え、歯を食いしばりながら、そのまま抜いては突く動作を繰り返した。 「やぁ、ぁ、アッ! きもちっ、……きもちぃの! そこダメ、あぁっ、ぁ゛……!」 ひと突きごとにナカの弱い場所をこねられ、またたくまに射精感が込み上げた。ふたりの身体に挟まれながらプルプルと震える陰茎が、赤く腫れて弾けそうになっている。 腹の奥にはどんどん熱が蓄積されていくようだった。引き抜かれる瞬間は気が遠くなるようで、全身が粟立つ。押し込まれる瞬間は、ほんの少しの鈍痛と共にくじられる泣き所から、怖いくらいの快感が大きな波のように襲ってくる。 「ダメ、やだ……ッ、そこもっと! だめ、きもちぃ、きもちぃよぉ……っ!」 「う、ァッ、来主……っ、来主、もう……っ」 「あぁッ、ぁ、こう、よ、好き……っ、ふぁッ、好き、大好き!」 「ッ、俺も好き、来主、来主……っ」 何度も何度も、お互いバカみたいに名前を呼んで、バカみたいに「好き」を繰り返す。一緒に腰を振りながら、もうどちらの声か分からないくらい、甘く喘いだ。 「ねぇ、出して……なか、いっぱい出してぇ……っ!」 多分、甲洋は最後の瞬間はナカから引き抜こうと思っていたのだ。それが分かってしまうから、両腕と両足を甲洋の身体にきつく絡めて、外で出せないようにしっかりとホールドする。 「く、来主っ、ぁ、う……──ッ!」 快感の波にすっぽりと飲み込まれ、ふたりほぼ同時に熱を吐き出す。頭を真っ白に染めながら、操は叩きつけるように吐き出された熱の飛沫を受け止めた。 どくどくと注がれる精に腹の奥を焼かれながら、意識を保つだけで精一杯だった。 「あっ、ぁ──っ、ぁ、ぁ……ッ、奥、出て……ひぃ、あぁ、ぁ、あ──……っ」 荒く蒸した呼吸を繰り返し、ふたりで腰を震わせた。余韻から力が抜けて、そのまましばらく動けない。はかはかと呼吸を繰り返せば、甲洋の汗の匂いに目眩がする。合わさった胸と胸から心臓の音が伝わった。空気と命。操と甲洋。あのときもし死んでいたら──そんなことを考えて、また急に怖くなる。 腹の中で甲洋がヒクヒクと震えているのを感じながら、抱き込んだ頭に何度も頬ずりをした。よかった。生きている。噛みしめて、また身体に火がついた。 「来主……」 「ん、ん……」 濡れた瞳と視線を交わらせ、降ってきた唇を受け止めた。抱き合いながら、舌を絡め合う。まだほんのりと残っている蜂蜜とミルクの味。とろとろに蕩けた二人分の唾液をこくんと飲み込んだとき、甲洋がまた腰を揺らす。 「ふあぁ、ぁ……っ、こう、よ……っ」 甲洋が放ったものが、ひどい水音を響かせた。抜かないままにゆっくりと抜き差しされる動きに合わせて、泡立ちながら結合部から溢れ出すのを感じる。 達したばかりの身体は神経が剥きだしたようになっていて、ピリピリと痺れる感覚の鋭さに涙と震えが止まらない。 甲洋は小刻みに抽挿を繰り返し、感じている操の顔をじっと見下ろしていた。 あまりにも近い距離で見つめられるものだから、少し恥ずかしいと思う。前はどんなに見られても平気だったのに。 不細工になってないといいなと、そんなことを考えながらもうっすらと開いた瞳で、同じように甲洋の顔を見返した。 汗を含んだ焦げ茶の髪を赤い頬に張りつけて、ハッ、ハッ、と短く息を吐き出す甲洋は、子供のように無防備な表情をしていた。快楽に濡れた瞳を細めて、ときどき小さく喘ぎを漏らして。 「来主……俺の、来主……」 甘く掠れた声がうわ言のようにそう吐き出すのを聞いて、受け入れている場所がさらに熱く痺れるのを感じる。腹の奥が、もっと欲しくて疼いていた。胸が熱くなり、溺れたように息が苦しい。嬉しくて、少しだけ泣きたくなった。 (おれ、甲洋のなんだなぁ) とても不思議な感じがする。ずっと自由に生きてきた。誰かに縛られるのはきっととても窮屈で、面倒くさいのだろうと思いながら。だけど甲洋と出会って、操の心は変化した。 このひとになら、あげてもいいと。身動きがとれないくらい、縛られるのも悪くない。 そうしたら、甲洋だって操のものだ。世界でたった一人だけの。 (おれだけのひと) 徐々に大きくなっていく動きにカクカクと揺さぶられながら、堪らない気持ちになって甲洋の頭を抱き寄せる。大事にしようと、そう思った。自分のことも、甲洋のことも。 (このひとのことが、大好き) 確かめ合うように肌を重ねて、ふたりはそうしていつまでも抱き合った。 意識が遠のいて、ぷっつりと途切れてしまうまで。何度も何度も、繰り返し。 ←戻る ・ 次へ→
その声を聞くだけで震えが走り、甲洋が肩を抱いて支えていてくれなければ、操はその場に立っていることすら危うかったかもしれない。
その後は操の精神面を考慮して、ひとまず簡易的な聴取だけで済まされた。
詳しい話は後日ということになり、ふたりがマンションに帰宅できたのは21時を過ぎたころだった。
*
部屋に戻るとシャワーを浴びた。
土なのど汚れと一緒に男が乱暴に触れた場所を洗い流しても、首に残る感触が失せることはない。熱い湯に打たれてもなお青い顔をしながら浴室を出ると、甲洋がホットミルクを作って待っていてくれた。
ちびちびとカップに口をつけているあいだ、甲洋はその横でただ静かに操のことを見守っていた。ときどき小さくむせると、背中を優しく擦ってくれる。
ミルクと蜂蜜と、そして甲洋の優しさに包まれて、手足の先までジンジンとあたたかく痺れていくのを感じた。
「顔色、だいぶ戻ってきたな」
操の頬に赤みがさしてきたことを確かめて、甲洋は柔らかい笑みを浮かべた。操はこくりと頷いて、その顔をおずおずと見上げる。
「甲洋、ごめん」
「どうしたの?」
「だって、今日本当は仕事だったんでしょ?」
時刻はいつも甲洋が出かける時間を、とっくの昔に過ぎている。
あんなことがあったばかりで、一人きりにならずに済むのは嬉しいと思う。だけどさすがの操も、今日ばかりは消沈していた。勝手に飛びだして、危ないところを助けてもらって、仕事まで休ませて。
甲洋は優しく目を細め、癖のある前髪を揺らしながら首を軽く横に振った。
「気にしなくていい。俺がそばにいたいだけだから」
「……ありがと」
こんなふうに笑う甲洋を見ると、どうしてか目を逸したいような気持ちになる。初めてセックスをした夜もそうだった。だからあのときの操は、自分からやめろと言って取り上げたはずの眼鏡を、甲洋に押し返したのだ。
じゃなきゃなんだかくすぐったいような気がして、この顔を直視できないと思ったから。その眼鏡も、さっきの件ですっかり駄目になってしまったけれど。
逃げるようにテーブルの上に目をやって、空になったカップを置いた。すると自然と、そこに置かれたままの白い紙袋に意識が向く。
隣であぐらをかいていた甲洋は、いつ切り出そうかと密かにタイミングを図っていたようだった。
「俺こそごめん、来主」
項垂れるようにしながら、甲洋がガクリと頭をさげる。
この袋は古い友人から譲り受けたもので、捨てるに捨てられずただ置いておいただけだということ。操が出演していたビデオもこの中に入っており、それが来栖ミサオを知るキッカケになったこと。そして、他はいっさい見ていないということ。
言い訳にしか聞こえないかもしれないけど──そう付け加えながら話す甲洋はひどくバツが悪い顔をしていて、操がずっと見たいと思っていたはずの、叱られた大型犬のような姿をしていた。こんな形で見たかったわけではないから、どうにも複雑な気持ちになってしまう。
最後にもう一度「ごめん」と言って締めくくった甲洋に、操は首を横に振った。
「うぅん。いっぱい謝らなきゃいけないのはおれのほう。君はなにも悪くない」
だいたい操が常に部屋にいる状況で、AVを見る隙などどこにもありはしなかった。最近の甲洋は暇さえあれば一緒にゲームをして遊んでいたし、それ以外はまるで操を避けるかのようにして寝床で背中を丸めていたのだ。
考えれば分かることだったのに、早とちりもいいところである。
「変な誤解してごめんね。おれAV辞めちゃったし……だからもう飽きたのかなとか、君はやっぱり女の子の方がいいのかな、とか」
自分でも、らしくないなぁと思う。人の見た目だけじゃなく、性別にすらまるでこだわりはないはずだった。だから女の子の服を着ることに抵抗はなかったし、男とだって平気でセックスをすることができた。
だけどもう甲洋とは終わりなのかもしれないと思ったとき、初めて自分の価値に不安を覚えたのだ。女の子に興奮する甲洋を想像して、悔しいとも感じてしまった。
「そんなことあるはずないだろ!」
甲洋がひどく焦った声をあげたので、思わず肩を跳ねさせた。目を丸くした操に、彼はハッとしながら「ごめん」と言って、それから真剣な眼差しを向けてくる。
「俺は来主がいい」
「!」
「来主が好きだ。お前がAVに出ていようがいまいが、俺はきっと来主のことを好きになったよ」
照れもせずまっすぐに吐き出された想いに、操は丸くしていた瞳を潤ませる。
彼のひたむきな言葉が胸にしみた。そこから吹きこぼれるように込み上げた感情を抑えきれずに、操は甲洋の腕に勢いよく縋りついた。
「じゃあ……じゃあさっ!」
「うん」
「エッチしようよ!」
「……ッ、ぇ?」
面食らったように目を見開いた甲洋の頬が、さぁっと赤く染まっていった。
「な、なんでそんな、急に」
「急じゃないよ。むしろ自然な流れじゃないの?」
「や、あの……でも」
「でも?」
「……解かれてないだろ、禁止令」
たじろぎながら逸らされた瞳に、操はきゅっと眉を吊り上げる。
「そんなのもういい。っていうか、最初からどうでもよかったんだよ。なんで真に受けちゃうのさ」
「なんでってお前……え、そうだったの?」
「そうだよ。甲洋のバカ真面目。おれはずっと待ってたのに」
甲洋の顔が、いよいよ耳まで真っ赤になった。戸惑いを色濃く浮かべながらも、操に向けられた瞳はどこか爛々と輝いているように見える。単純なのか複雑なのか、よく分からない男だ。
今だって、きっとなにかグルグルと面倒くさいことを考えてはじめているのだろう。思いっきり期待に満ちた目をしているくせに、大人ぶった態度でまた視線を逸らそうとしている。
「でも、あんなことがあったばかりだろ。今夜はゆっくり休んだ方が……」
「もう! めんどくさいな! だから盛り上がるんじゃん!」
操は甲洋の後ろ首へ手を伸ばし、長い癖毛ごと強く掴んで引き寄せる。歯がぶつかりそうな勢いでガツンとキスして、それから見開かれている瞳をきつく睨みつけた。
「エッチ禁止令終わり! ねぇ、これでいい!?」
「く、来主」
「おれ、不安だったんだから! 君がぜんぜん触ってこないから、すごく不安だったんだから!」
(分かってるよ。おれも一緒。めんどくさいの。君だってそう思ってるんだろ)
甲洋はスケベだが、操だって同じだ。面倒くさいスケベがふたり。どうせお似合いなんだから、さっきの事件だって、いい感じに盛り上がるための材料にしてしまえばいいのだ。
それくらい分かってるくせに。どうせそうするつもりだったくせに。
「いいでしょ甲洋……おれに怖いこと、いっぱいしてよ」
呆けたような顔をしながら、甲洋がごくりとひとつ、喉を鳴らした。
*
「ん、んっ、ふぅ……」
ベッドの上にふたりで沈んで、キスをしながらもどかしい手つきで服を脱がせ合う。お互い下着姿になってからも、追いかけっこでもしているみたいに舌を絡ませ、吸いついて、歯を立てながら貪った。
暖房がきいた室内にいても、むき出しになった肌に触れる空気は少し冷たい。熱く息を乱しながら、甲洋の大きな手が皮膚を撫でる。急いている心と身体は、それだけで甘い吐息が漏れた。
「来主、来主……」
「ぁ、ッ、甲洋……はやく……っ」
ぴたりと肌を重ねていてさえ足りなくて、操は甲洋の頭を掻き抱いた。操の首には男に締められた痕がうっすらと残されていて、甲洋は痛ましそうに瞳を細めると、そこに顔を埋めて何度も繰り返しキスをする。
あまり出っ張っていない、小さな喉仏を覆う薄い皮膚に吸いつかれると、上ずった声が漏れて震えが走る。
「こう、よ……っ、ぁ、もっと……っ」
唇は徐々に鎖骨へとおりていき、やがて外気に触れてしこりを帯びた胸の粒へとたどり着いた。口に含んだそれを舌先で転がされ、ときどき甘く吸われたと思ったら、緩く歯を立てられる。
指も駆使しながら繰り返しなぶられて、腰が揺れてしまうのを止められない。
「ぁんっ、あっ、あ、ダメ……ッ、おっぱいイヤ……っ、そこいやっ」
操は髪を振り乱しながら嫌々と首を振る。それでも両腕は甲洋の頭を抱きしめたまま、指先は頭皮に甘く爪を立てていた。
嫌だとかダメだとか、操が泣き声をあげるほどに甲洋はそこを執拗に嬲り続ける。
「はぅんっ、ぁ! ちくびやだっ、そこ怖いの……っ、あ、もっと、もっとしてぇ……っ」
身体の中心が、もはや熱を帯びて膨らんでいるのを感じる。甲洋は空腹の犬のように荒く息を吐きだしながら、操の下着に指を引っ掛け、膝下まで一気にずり下げてしまう。形を変えた拙い性器が、先端からトロトロと蜜を滲ませていた。
そっと握り込まれて、操の口からは「くぅん」と子犬のような喘ぎが漏れる。
「もうこんなに濡れてる」
「だって……だってぇ、甲洋が、ずっと放っておくからぁ」
「うん、ごめん……」
くちくちと水音を立てながら緩く扱かれるだけで、操の屹立は決壊したように蜜を溢れさせた。自ら両足を大きく開くと、伝い落ちた体液が尻の谷間へと流れ落ちていく。
こんなに濡れてしまうのは初めてで、自分でも少し怖くなる。何回か軽く扱かれただけで、操の身体はいともたやすく追い込まれてしまった。
「ひんっ、ぁ! やっ、いく、アッ、やだイク……ッ、もう出ちゃうぅ……!」
「いいよ……イッて、来主」
じわりと膨らんだ熱が、抗うこともできないまま弾けてしまった。爪の先でくじられた場所から、ぷしゅ、と勢いよく白濁を散らして、操は内腿を痙攣させる。
ぴゅ、ぴゅ、と断続的に溢れる残滓が、シーツや下腹部にまで飛び散った。
「──ッ、ぁ……っ、……あぁ、ぁ──……っ」
頭の中が熱くジンジンと痺れている。内腿の震えが止まらず、余韻はいつまでも尾を引いた。
こんなに早くにイッてしまったのも初めてで、気持ちよすぎてやっぱり怖い。甲洋にされると、どこもかしこも怖いくらい感じてしまう。
「来主、ここ……いい?」
いつもならもっと愛撫に時間をかけるはずの甲洋の指先が、もはや身体の奥まった場所に伸びていく。その性急さが嬉しくて、操は自身の膝裏にそれぞれ腕を引っ掛けるようにしながら、より大きく足を開いた。
「すごい……もうこんなに……?」
いやらしい体液に濡れて、すぼまった孔はすでにヒクヒクと期待に震えている。甲洋は人差し指の先端を慎重に潜り込ませ、その蕩けた肉の感触に感慨深い声を漏らした。
「ヌルヌルだよ、来主。ローション、いらないかも」
「あっ、ぁう、ァ……ッ」
「閉じたり開いたりしてるの、分かる?」
「ふぅ、ぁ、あ、だって、だって……もう、欲し……っ」
「まだ……もう少し、待って」
操が慣れていることくらい知っているくせに、彼はここに来て急に慎重な手つきで太腿を割り開き、埋めた指先をゆっくりと飲み込ませていく。
たやすく根元まで飲み込んだ指を、きゅんきゅんと締めつけながら操は唇を噛みしめた。圧迫感はあるけれど、この孔はすでにもっと太くて熱い感触を知っている。それで得られる快感の大きさも知っていて、じわじわと慣らされていく過程は焦らし以外のなにものでもなかった。
「こう、よ……こうよ、はや、く……ねぇ、んんっ、ぁ……っ」
「待って、まだ……」
異物を察して分泌される腸液に、ひどく濡れた肉壺が疼いている。一度引き抜かれ、もう一本添えながらまたじわじわと飲み込まされた。指を軽く閉じたり開いたりしながら中をぐるりと擦られて、再び兆している操の陰茎がしくしくと涙を零しては、また孔を濡らした。
「お願い、おねが……っ、あ、ぁん、甲洋、はやく」
たった一週間していなかっただけで、焦がれすぎて今にも焼き切れてしまいそうだった。早く欲しい。甲洋だってもうとっくに──むしろ服を脱がせあったときには、すでに股間をパンパンに膨らませていたくせに。
それでも操を傷つけまいとする配慮がもどかしくて、同時に嬉しくもあって、だけどもう我慢も限界で。
(もうやだ、もう無理!)
そうだ。こんなときは、もっと分かりやすく強請ればいい。可愛い声をあげながら、いやらしい言葉をいっぱい吐きだして、甲洋の理性を壊してしまえば。
「ねぇもう我慢できないの……! 早く甲洋の──」
(……あれ?)
なのに、操はその先を続けることができなかった。急に声の出し方を忘れてしまったみたいに、喉の奥がきゅっと窄まる。
──早く甲洋のおちんぽちょうだい。おっきい大人ちんぽで、おれのエッチなお尻まんこ、いっぱいズボズボして。
いつもみたいに、そう言って下品に煽り倒すつもりだったのに。操があからさまな単語を発すると、甲洋はいつだって呆気なく陥落する。紳士であろうと努めていたはずの瞳を、飢えた野獣みたいにギラギラとさせ、隠し持っていた牙を曝け出してみせるのだ。操はその瞬間が好きだった。
だけど、どうしてか今日はそれができない。顔が焼けるように熱くて、胸がドキドキして、いつもみたいに恥も外聞もなく強請ることに戸惑いを覚えた。
「来主?」
真っ赤に茹だって黙り込んだ操に、様子がおかしいことに気づいた甲洋が目を丸くした。訳が分からず、操の思考はぐるぐると迷子のように回り続ける。
(なんで? なんで、急に、こんな……)
「どうかした?」
(なんでこんなに、恥ずかしいの……!?)
「ぁ……」
早く欲しい。その気持ちは本当で、早く太くて熱いもので嫌というほど泣かせてほしい。
だから早く言わなければ。これ以上時間をかけられたら、頭がバカになりそうで。
「あ、あの……あのね甲洋」
「うん、なに?」
「おれ、もう我慢できなくて……それでね、その……ち、ん……」
「うん……?」
「甲洋、の……ぉ、おち、ちん……欲しい……」
「……ぇ」
蚊の鳴くような声でようやく絞り出した操に、甲洋はぎょっとしたような顔をする。
「お、おちんちん……? 今、おちんちんって言ったの?」
「ッ、い、言ったよ! だからなに!?」
「え、だってお前、そんな……今までそんな可愛い言い方、したことないだろ……?」
「い、いいじゃんそんなこと!」
「いやだって、いつもはちんぽって……」
「バカぁ! 恥ずかしいから、今日は言いたくないだけだもん!」
「は、恥ずかしい……?」
お前にそんな感情があったのか──甲洋の顔には、それがハッキリと書かれている。
操にだってよく分からないのだ。どうして急にこんなに恥ずかしいと思ってしまうのか。それもこれも、下手に間を置いてしまったから、なのだろうか。久しぶりのセックス──と言ってもたったの一週間だけれど──だから、勝手を忘れてしまったのかもしれない。
(だけど、そんなことってあるのかな……?)
そこまで考えて、なにかが違うような気がした。
(……あ、そっか)
そしてふと、気がついた。
下品な物言いに慣れていたのは、操が【来栖ミサオ】だったからだ。AVの仕事を辞めて、甲洋と一緒に暮らすようになって、初めて仕事とは違うセックスをするようになってからも、操は無意識にどこかで来栖ミサオを演じていた。
そうすれば、きっと甲洋が喜ぶと思っていたから。可愛がってくれると思っていたから。
だけどもうそんな必要はないのだと気がついて、操は今この瞬間、ようやく来栖ミサオを卒業することができた。
だからこんなに恥ずかしいのだ。慣れているはずの行為が、言葉が、まるで初めてのようにも感じられて。急に不器用になってしまった。
(うわぁ、どうしよ……今までどうしてたんだっけ……!?)
自ら大きく足を開いて、惜しげもなく裸をさらして、心はまるで処女のようになっているなんて、あまりにもちぐはぐだ。
なにが正しいのか分からなくなってしまった操は、助けを求めるように甲洋を見た。甲洋はうつむき、なぜか肩を震わせている。
「こ、甲洋……?」
「……来主、それは不味い」
「え?」
「そんなの今更、反則だ……!」
顔を上げた甲洋は、それはもう飢えに飢えたケダモノの瞳をしていた。
刺さったんだなと、操は思う。操のこの初々しくもアンバランスな反応に、心の臓をぶち抜かれている。
なんだかよく分からないが、とりあえずこれでよかったらしい。このひと結局なんでもいいんだなぁとちょっと呆れた気もしつつ、操も少しだけ、調子を取り戻せたような気がした。
「ねぇ甲洋、しよ……甲洋のおちんちん、早くちょうだい?」
「……ん」
グッと口を引き結び、こくんと深く頷く仕草が子供みたいで可愛いと思う。歳上のくせに、妙な幼さを覗かせる甲洋に操もまた心臓をドスンと突かれた。
甲洋は埋め込んだままだった指を引き抜き、片手をつくとベッド脇のチェストに手を伸ばした。ゴソゴソとなにかを取り出そうとしているのを察して、操は咄嗟に彼の手首を掴んで引き止める。
「甲洋、ゴム……いらない」
「えっ?」
「今日は、しないでいいよ」
甲洋がぐっと喉を詰まらせた。眼球がわずかに左右に揺れて、彼がひどく戸惑い、迷っていることが伝わってくる。
操はふるふると首を横に振った。それから、「いれて」と乾いた喉で懇願する。甲洋の瞳がじわりと潤んで、喉がごくんと鳴らされた。
中で出されるのは、あまり好きじゃない。だけど今日は、ほんの薄い膜一枚ですら邪魔だと思った。
足首に引っかかっていた下着を蹴り飛ばすようにして床に落としながら、操は甲洋の股間の膨らみに目を奪われる。長い指によってズルリと引き出されたそれは限界まで膨らんで、先端をわずかに光らせながら血管を浮き上がらせていた。
「ぁ……甲洋、それ、はやく……」
「わかってる」
甲洋は押し殺したように声を発して、自身を幾度か扱いて先走りを馴染ませる。改めて割り開いた操の太腿を掴み、存分に濡れた窄まりにあてがった。
「いく、よ」
「んっ……あ、ぁ……っ、く、うぅ……!」
引き攣るようなわずかな痛みと、内臓を圧迫される異物感。欲望がみっちりと詰まった肉をずぶずぶと飲み込みながら、頭の芯まで突き破られるような快感に襲われる。
「ぁ、っく……ぅ、くる、す」
「あひっ、ぁ……あぁっ、こうよ、奥……あっ、おちんちん、奥まで……ッ、あ、来た、ぁ……っ!」
奥まで満たされ、ピンと張った爪先が震えた。操の身体の両脇に手をついて、項垂れた甲洋が荒く息をつく。生々しい肉の感触を味わいながら、しばらくはお互い挿入の余韻に絡め取られて動けなかった。
「来主、ちょっと……不味い、かも」
「ふ、ぅ……ぁ、なに……?」
「ごめん、待って。このまま、少し……」
甲洋が歯を食いしばっている。その身体が小刻みに震えているのを見て、挿れただけで限界寸前になっていることが分かった。
甲洋だってずっと我慢していたのだから、しょうがない。しかもナマでするのは、初めてしたとき以来のことだ。
「はっ、ぁ……はぁ、はぁ……っ」
「こうよ、動いて……いいよ、イッてもいいから」
両手を伸ばして、汗ばむ頬を包み込んだ。誘うように小さく笑うと、くしゃりと泣きそうに顔を歪めながら、甲洋の身体が倒れてくる。操の身体をしっかりと抱き込んで、首筋に顔を埋めてきた。
操は甲洋の頭を抱きしめながら、両足をその腰にクロスさせるようにして巻きつけた。腹に力を込めてナカのものを圧迫すると、甲洋の口から切羽詰まった呻きが漏れる。
「うぁ、あ……、来主……っ」
「甲洋好き、大好き」
「ッ、……俺、も、来主……俺も……」
甲洋が腰を揺らして、奥を軽くノックする。限界間際のところでどうにか堪え、歯を食いしばりながら、そのまま抜いては突く動作を繰り返した。
「やぁ、ぁ、アッ! きもちっ、……きもちぃの! そこダメ、あぁっ、ぁ゛……!」
ひと突きごとにナカの弱い場所をこねられ、またたくまに射精感が込み上げた。ふたりの身体に挟まれながらプルプルと震える陰茎が、赤く腫れて弾けそうになっている。
腹の奥にはどんどん熱が蓄積されていくようだった。引き抜かれる瞬間は気が遠くなるようで、全身が粟立つ。押し込まれる瞬間は、ほんの少しの鈍痛と共にくじられる泣き所から、怖いくらいの快感が大きな波のように襲ってくる。
「ダメ、やだ……ッ、そこもっと! だめ、きもちぃ、きもちぃよぉ……っ!」
「う、ァッ、来主……っ、来主、もう……っ」
「あぁッ、ぁ、こう、よ、好き……っ、ふぁッ、好き、大好き!」
「ッ、俺も好き、来主、来主……っ」
何度も何度も、お互いバカみたいに名前を呼んで、バカみたいに「好き」を繰り返す。一緒に腰を振りながら、もうどちらの声か分からないくらい、甘く喘いだ。
「ねぇ、出して……なか、いっぱい出してぇ……っ!」
多分、甲洋は最後の瞬間はナカから引き抜こうと思っていたのだ。それが分かってしまうから、両腕と両足を甲洋の身体にきつく絡めて、外で出せないようにしっかりとホールドする。
「く、来主っ、ぁ、う……──ッ!」
快感の波にすっぽりと飲み込まれ、ふたりほぼ同時に熱を吐き出す。頭を真っ白に染めながら、操は叩きつけるように吐き出された熱の飛沫を受け止めた。
どくどくと注がれる精に腹の奥を焼かれながら、意識を保つだけで精一杯だった。
「あっ、ぁ──っ、ぁ、ぁ……ッ、奥、出て……ひぃ、あぁ、ぁ、あ──……っ」
荒く蒸した呼吸を繰り返し、ふたりで腰を震わせた。余韻から力が抜けて、そのまましばらく動けない。はかはかと呼吸を繰り返せば、甲洋の汗の匂いに目眩がする。合わさった胸と胸から心臓の音が伝わった。空気と命。操と甲洋。あのときもし死んでいたら──そんなことを考えて、また急に怖くなる。
腹の中で甲洋がヒクヒクと震えているのを感じながら、抱き込んだ頭に何度も頬ずりをした。よかった。生きている。噛みしめて、また身体に火がついた。
「来主……」
「ん、ん……」
濡れた瞳と視線を交わらせ、降ってきた唇を受け止めた。抱き合いながら、舌を絡め合う。まだほんのりと残っている蜂蜜とミルクの味。とろとろに蕩けた二人分の唾液をこくんと飲み込んだとき、甲洋がまた腰を揺らす。
「ふあぁ、ぁ……っ、こう、よ……っ」
甲洋が放ったものが、ひどい水音を響かせた。抜かないままにゆっくりと抜き差しされる動きに合わせて、泡立ちながら結合部から溢れ出すのを感じる。
達したばかりの身体は神経が剥きだしたようになっていて、ピリピリと痺れる感覚の鋭さに涙と震えが止まらない。
甲洋は小刻みに抽挿を繰り返し、感じている操の顔をじっと見下ろしていた。
あまりにも近い距離で見つめられるものだから、少し恥ずかしいと思う。前はどんなに見られても平気だったのに。
不細工になってないといいなと、そんなことを考えながらもうっすらと開いた瞳で、同じように甲洋の顔を見返した。
汗を含んだ焦げ茶の髪を赤い頬に張りつけて、ハッ、ハッ、と短く息を吐き出す甲洋は、子供のように無防備な表情をしていた。快楽に濡れた瞳を細めて、ときどき小さく喘ぎを漏らして。
「来主……俺の、来主……」
甘く掠れた声がうわ言のようにそう吐き出すのを聞いて、受け入れている場所がさらに熱く痺れるのを感じる。腹の奥が、もっと欲しくて疼いていた。胸が熱くなり、溺れたように息が苦しい。嬉しくて、少しだけ泣きたくなった。
(おれ、甲洋のなんだなぁ)
とても不思議な感じがする。ずっと自由に生きてきた。誰かに縛られるのはきっととても窮屈で、面倒くさいのだろうと思いながら。だけど甲洋と出会って、操の心は変化した。
このひとになら、あげてもいいと。身動きがとれないくらい、縛られるのも悪くない。
そうしたら、甲洋だって操のものだ。世界でたった一人だけの。
(おれだけのひと)
徐々に大きくなっていく動きにカクカクと揺さぶられながら、堪らない気持ちになって甲洋の頭を抱き寄せる。大事にしようと、そう思った。自分のことも、甲洋のことも。
(このひとのことが、大好き)
確かめ合うように肌を重ねて、ふたりはそうしていつまでも抱き合った。
意識が遠のいて、ぷっつりと途切れてしまうまで。何度も何度も、繰り返し。
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