2025/09/06 Sat 番外編 『寒椿』 ※龍ユゥイ 「今日は、小狼君とサクラちゃんは一緒じゃないのかな?」 さっきまでいた二人組みがいなくなってから、他の何組かの客もいなくなった。 会計を済ませた店員が、カウンター越しに空のカップをぼんやりと見つめていた小龍に声をかける。 ふと顔を上げて、穏やかに微笑んでいるその人を見た。 この人の名前はユゥイ。それは知ってる。 そしてさっきまでいた小うるさい人はファイという名前。 一緒にいたのは、黒たん、とその人に呼ばれていた。 小龍は無表情を崩さないままに、ユゥイに小さく頷いて見せた。 「小狼とさくらがいい感じになってたから。おれがいたら邪魔だし」 そう言うと、ユゥイは小さな声を上げて笑った。 むっと睨みつけると、すかさず「ごめんね」と言われる。 「だって、小龍君が凄く大人に見えちゃったから」 だからってどうして笑われるのだろう。 なんだか馬鹿にされている気がして面白くなかった。 「おれはもともと大人だ」 「うん。そうだね」 「でも、さっきの人は子供っぽかった」 ユゥイは、先刻よりも声を上げて笑った。 この人はいつも笑っているけれど、こんな風に声を上げて笑うところはあまり見ないから珍しい。 「ファイだね。うん、いっつもああなんだ。可愛いでしょ?」 小龍は思わず顔を顰める。可愛いっていうのはさくらのような可愛い女の子や、小狼のように小さな男の子に対して言うものだ。 あのファイという人はとても子供っぽかったけれど、一応は大人の姿をしていたはずだった。 「似てないな。あなたとあの人」 「そう? よく言われるけどね」 「うん」 小龍は、どちらかといえば静かなユゥイの方がいいと思った。 どうしてそう思ったのかは分からない。ただなんとなく、黒たんと呼ばれていたあの大きくて黒い男の人が気の毒に思えた。 一緒にいたら、とても疲れてしまいそうだ。 それでもあの黒い人も、ユゥイと同じようにファイを可愛いと思っていたりするのだろうか。 小龍にはどうでもいいことだったけれど、少し気になる。 「帰る」 チラリと時計を見てから、小龍は椅子から降りた。 その拍子にポケットに入れていた椿の枝がポトリと落ちる。このまま置いていきたかったけれどここはお店の中だから、帰り道で適当に捨てようと思った。 仕方なく拾い上げると、ユゥイが小首を傾げて覗き込んできた。 「綺麗だね。どうしたの?」 「折った」 団地の公園の脇に咲いていた花だった。 さくらに似合うかもしれないと思って、クリスマスプレゼントに渡そうと考えていた。 けれど小龍はさくらと同じくらい小狼も可愛かったから、だから渡せなかった。 ユゥイが何か言いたげな雰囲気を醸し出していたけれど、すぐに背を向けて足早に店を出る。 待って、という声が聞こえた気がしたけれど、なんとなく無視した。 *** 店を出るともうだいぶ暗くなっていた。 寒さもぐんと増していて、小龍は肩をぎゅっと寄せて俯きながら団地のある方向へ歩き出す。 あまり遅くなると小狼や家の人間を心配させる。けれど、小龍はただひたすら小狼とさくらはどうなっただろうと、そればかり考えた。 二人ともまだ子供で鈍い性格だから、見ているといつも焦れったくて仕方がない。 今日はせっかくのイヴだし、クリスマスは恋人達のためのイベントだと、前にテレビか何かで聞いたことがある。 だから気を利かせてやったのだ。 別に寂しいなんて思わない。これっぽっちも、絶対にそんなこと。 そしてふと、さっきの二人はどうなんだろうと思った。 黒たんは少し怖い顔をした人ではあったけど、ファイと接するときは少しだけ柔らかい空気を発していた気がする。 多分、黒たんにとってファイは特別な人なのだと思う。そして、ファイにとっても。 別に偏見はないからどうでもいい。けれど小龍が気になったのはユゥイの方だった。 ユゥイにも好きな人がいるのだろうか。 ファイと黒たんが仲良くしているのを見て、寂しいとは感じないのだろうか。 「待って、小龍君」 そのとき、背後の方でよく知る声がした。さっきまで一緒にいた人だ。 今まさにその人のことを考えていたせいで、小龍は思わずドキリとして肩を跳ねさせた。 驚いてしまったことを悟られぬように無表情を装って振り向くと、ユゥイが真っ白の息を吐き出しながら追いついた。 「足速いね、君」 小首を傾げて笑うユゥイは、店から慌てて飛び出してきたのか、いつもの制服姿に上から何も羽織っていなかった。 思わず、むっと眉間に皺を寄せる。 「寒くないの?」 「寒いよ? もうすぐ雪が降るね」 にっこりと笑ったユゥイは、はい、と小さく握った拳を差し出した。 「なに?」 「おつりだよ。お客さん」 「そんなことのために?」 手を出すと、ほんの数十円が手の平に落ちてきた。 別にこれっぽっち、わざわざ追いかけてきてまで寄越すことないのに。 そう思いはしたが、受け取ってしまったものは仕方がない。 椿の刺さったポケットに適当に捻じ込むと、ユゥイがしゃがんで目線を合わせてきた。 「それ、誰かにプレゼントするのかな?」 「そのつもりだったけど……」 これはもう必要のないものだ。道すがら捨てるつもりなのだから、ゴミと言ってもいい。 そうとは知らず、ユゥイはなぜか少し困ったような顔をした。 「あのね、椿はあまり縁起のいい花じゃないんだって。迷信だけどね」 「どうして?」 「花がね、首を切ったみたいに落ちるからって、言われてるらしいよ。可哀想にね」 こんなに綺麗な花なのにさ。 そう言って、ユゥイは萎れた椿に目を細めた。 小龍はポケットから細い枝を取り出して、それをじっと見つめる。 迷信。けれど、日本人がそういったものを鵜呑みに出来ない性質だということを知っていた。 さくらは知らないだろうけど、やっぱり渡さなくてよかったと思う。 「はい、どうぞ」 そんな小龍の目の前に、小さな柊の葉が差し出された。 「可愛いでしょ? お店にあったから、引っこ抜いて来ちゃったんだ」 「これ……」 緑色の葉と、可憐な赤い実。この時期にぴったりの植物だった。 「造花なんだけどね。だからほら、柔らかくてチクチクしないよ」 ユゥイの白い指先が、柊の尖った葉を幾度か撫でる。 小龍は、なぜ彼がこんなものを寄越すのか意味が分からず、ただそれを眺めていた。 「髪に飾ってあげたらきっと可愛いから。サクラちゃん」 「!」 「あれ? 違うの?」 首を傾げるユゥイに、小龍はなぜか焦ったような気持ちになって頬を赤らめた。見透かされたことも、なんとなく悔しいような気もする。 「ち、違う。別にそんなんじゃ」 「そうなんだ」 目の前の人は、特に疑うでもなくただ微笑んだ。 夜の光を弾く金色の綺麗な髪が、冷たい風に乗って揺れていた。 「でも、これボクからのプレゼント。もしいらなかったら、誰か大切な人にあげるといいよ」 小龍はなんとなく咄嗟に手袋を片方外すと、作り物の柊を受け取った。無機質なはずのそれが、なぜかとても温かいような感覚を指先にもたらした。 どうしてか、胸の辺りがくすぐったい。 何かお返しがしたいけれど、小龍はこの不吉な謂れの花しか持ち合わせていない。 戸惑っていると、ユゥイの指先がそっと伸びてきて、椿の枝をさらってゆく。 驚いて顔をあげた小龍に、やっぱり彼は優しげに微笑んでいた。 「代わりに、この花はボクが貰ってもいいかな?」 「……でも」 迷信なんて信じちゃいない。でも、一度知ってしまったらそれを彼にくれてやることには戸惑いがあった。しかも、一度はゴミだと認識までした代物だ。 もし彼に何か不幸なことがあったら。そう思うと柄にもなく少し、怖い。 「平気だよ」 けれどユゥイは、そんな小龍などお見通しとでも言うかのように、一つコクリと頷いた。 「大丈夫。だってボクは魔法が使えるから」 「……魔法?」 「そう。だから魔除けの呪文も知ってるよ」 変なの。小龍はそう思った。 魔法だなんて、御伽噺や漫画の世界でもあるまいし、大人のくせに何を馬鹿なことを言っているんだろう。 けれどその反面、彼なら出来るのかもしれないと、なぜか思った。 どこか不思議な雰囲気のある人だから、不思議な力だってあってもおかしくはないかもしれない。 だから小龍は素直に頷いた。 「わかった。じゃあ、あげる」 「ありがとう」 そのときふわりと、柊を持つ小龍の手に冷たいものが落ちて融けた。 空を見上げれば、いくつもの淡い雪が地上へ向かって降り注いでいる。 「雪だ……」 「初雪だね」 彼の予言は当たった。 雪の中、嬉しそうな笑顔はまるで花が咲いたかのように綺麗に見えて。 どういうわけか、胸がドキドキして止まらなくなった。 綺麗とか可愛いとか、そんなのは大人の男の人に対して思うことではないから。 だから小龍はそう感じてしまった自分の気持ちに、気づかないふりをした。 *** 家に帰る頃には、雪の粒が驚くほど大きくなっていた。 きっと朝には積もっているだろうなと、少しだけワクワクしながら窓の外に向けていた視線を、小龍は手の中の柊の葉に移した。 あの人は、あの椿の花をどうしたのだろうか。 魔除けの呪文は効いたのだろうか。 明日、また店に行ってみようと思った。 もし魔法が不発に終わっていたら、一応は一言くらい謝った方がいいだろう。 そして、もし彼に不幸があったならこの柊を返そう。 髪に飾ってやったら、大人でもちょっとは『可愛い』が似合うかもしれない。 柊には魔除けの効果があると、帰ってきてすぐに図鑑を調べたら書いてあった。 これは造花だから、決して枯れることはないのだ。 ――誰か大切な人にあげるといいよ。 だからきっと、いつまでも彼を守ってくれるだろう。 End ←戻る ・ Wavebox👏
※龍ユゥイ
「今日は、小狼君とサクラちゃんは一緒じゃないのかな?」
さっきまでいた二人組みがいなくなってから、他の何組かの客もいなくなった。
会計を済ませた店員が、カウンター越しに空のカップをぼんやりと見つめていた小龍に声をかける。
ふと顔を上げて、穏やかに微笑んでいるその人を見た。
この人の名前はユゥイ。それは知ってる。
そしてさっきまでいた小うるさい人はファイという名前。
一緒にいたのは、黒たん、とその人に呼ばれていた。
小龍は無表情を崩さないままに、ユゥイに小さく頷いて見せた。
「小狼とさくらがいい感じになってたから。おれがいたら邪魔だし」
そう言うと、ユゥイは小さな声を上げて笑った。
むっと睨みつけると、すかさず「ごめんね」と言われる。
「だって、小龍君が凄く大人に見えちゃったから」
だからってどうして笑われるのだろう。
なんだか馬鹿にされている気がして面白くなかった。
「おれはもともと大人だ」
「うん。そうだね」
「でも、さっきの人は子供っぽかった」
ユゥイは、先刻よりも声を上げて笑った。
この人はいつも笑っているけれど、こんな風に声を上げて笑うところはあまり見ないから珍しい。
「ファイだね。うん、いっつもああなんだ。可愛いでしょ?」
小龍は思わず顔を顰める。可愛いっていうのはさくらのような可愛い女の子や、小狼のように小さな男の子に対して言うものだ。
あのファイという人はとても子供っぽかったけれど、一応は大人の姿をしていたはずだった。
「似てないな。あなたとあの人」
「そう? よく言われるけどね」
「うん」
小龍は、どちらかといえば静かなユゥイの方がいいと思った。
どうしてそう思ったのかは分からない。ただなんとなく、黒たんと呼ばれていたあの大きくて黒い男の人が気の毒に思えた。
一緒にいたら、とても疲れてしまいそうだ。
それでもあの黒い人も、ユゥイと同じようにファイを可愛いと思っていたりするのだろうか。
小龍にはどうでもいいことだったけれど、少し気になる。
「帰る」
チラリと時計を見てから、小龍は椅子から降りた。
その拍子にポケットに入れていた椿の枝がポトリと落ちる。このまま置いていきたかったけれどここはお店の中だから、帰り道で適当に捨てようと思った。
仕方なく拾い上げると、ユゥイが小首を傾げて覗き込んできた。
「綺麗だね。どうしたの?」
「折った」
団地の公園の脇に咲いていた花だった。
さくらに似合うかもしれないと思って、クリスマスプレゼントに渡そうと考えていた。
けれど小龍はさくらと同じくらい小狼も可愛かったから、だから渡せなかった。
ユゥイが何か言いたげな雰囲気を醸し出していたけれど、すぐに背を向けて足早に店を出る。
待って、という声が聞こえた気がしたけれど、なんとなく無視した。
***
店を出るともうだいぶ暗くなっていた。
寒さもぐんと増していて、小龍は肩をぎゅっと寄せて俯きながら団地のある方向へ歩き出す。
あまり遅くなると小狼や家の人間を心配させる。けれど、小龍はただひたすら小狼とさくらはどうなっただろうと、そればかり考えた。
二人ともまだ子供で鈍い性格だから、見ているといつも焦れったくて仕方がない。
今日はせっかくのイヴだし、クリスマスは恋人達のためのイベントだと、前にテレビか何かで聞いたことがある。
だから気を利かせてやったのだ。
別に寂しいなんて思わない。これっぽっちも、絶対にそんなこと。
そしてふと、さっきの二人はどうなんだろうと思った。
黒たんは少し怖い顔をした人ではあったけど、ファイと接するときは少しだけ柔らかい空気を発していた気がする。
多分、黒たんにとってファイは特別な人なのだと思う。そして、ファイにとっても。
別に偏見はないからどうでもいい。けれど小龍が気になったのはユゥイの方だった。
ユゥイにも好きな人がいるのだろうか。
ファイと黒たんが仲良くしているのを見て、寂しいとは感じないのだろうか。
「待って、小龍君」
そのとき、背後の方でよく知る声がした。さっきまで一緒にいた人だ。
今まさにその人のことを考えていたせいで、小龍は思わずドキリとして肩を跳ねさせた。
驚いてしまったことを悟られぬように無表情を装って振り向くと、ユゥイが真っ白の息を吐き出しながら追いついた。
「足速いね、君」
小首を傾げて笑うユゥイは、店から慌てて飛び出してきたのか、いつもの制服姿に上から何も羽織っていなかった。
思わず、むっと眉間に皺を寄せる。
「寒くないの?」
「寒いよ? もうすぐ雪が降るね」
にっこりと笑ったユゥイは、はい、と小さく握った拳を差し出した。
「なに?」
「おつりだよ。お客さん」
「そんなことのために?」
手を出すと、ほんの数十円が手の平に落ちてきた。
別にこれっぽっち、わざわざ追いかけてきてまで寄越すことないのに。
そう思いはしたが、受け取ってしまったものは仕方がない。
椿の刺さったポケットに適当に捻じ込むと、ユゥイがしゃがんで目線を合わせてきた。
「それ、誰かにプレゼントするのかな?」
「そのつもりだったけど……」
これはもう必要のないものだ。道すがら捨てるつもりなのだから、ゴミと言ってもいい。
そうとは知らず、ユゥイはなぜか少し困ったような顔をした。
「あのね、椿はあまり縁起のいい花じゃないんだって。迷信だけどね」
「どうして?」
「花がね、首を切ったみたいに落ちるからって、言われてるらしいよ。可哀想にね」
こんなに綺麗な花なのにさ。
そう言って、ユゥイは萎れた椿に目を細めた。
小龍はポケットから細い枝を取り出して、それをじっと見つめる。
迷信。けれど、日本人がそういったものを鵜呑みに出来ない性質だということを知っていた。
さくらは知らないだろうけど、やっぱり渡さなくてよかったと思う。
「はい、どうぞ」
そんな小龍の目の前に、小さな柊の葉が差し出された。
「可愛いでしょ? お店にあったから、引っこ抜いて来ちゃったんだ」
「これ……」
緑色の葉と、可憐な赤い実。この時期にぴったりの植物だった。
「造花なんだけどね。だからほら、柔らかくてチクチクしないよ」
ユゥイの白い指先が、柊の尖った葉を幾度か撫でる。
小龍は、なぜ彼がこんなものを寄越すのか意味が分からず、ただそれを眺めていた。
「髪に飾ってあげたらきっと可愛いから。サクラちゃん」
「!」
「あれ? 違うの?」
首を傾げるユゥイに、小龍はなぜか焦ったような気持ちになって頬を赤らめた。見透かされたことも、なんとなく悔しいような気もする。
「ち、違う。別にそんなんじゃ」
「そうなんだ」
目の前の人は、特に疑うでもなくただ微笑んだ。
夜の光を弾く金色の綺麗な髪が、冷たい風に乗って揺れていた。
「でも、これボクからのプレゼント。もしいらなかったら、誰か大切な人にあげるといいよ」
小龍はなんとなく咄嗟に手袋を片方外すと、作り物の柊を受け取った。無機質なはずのそれが、なぜかとても温かいような感覚を指先にもたらした。
どうしてか、胸の辺りがくすぐったい。
何かお返しがしたいけれど、小龍はこの不吉な謂れの花しか持ち合わせていない。
戸惑っていると、ユゥイの指先がそっと伸びてきて、椿の枝をさらってゆく。
驚いて顔をあげた小龍に、やっぱり彼は優しげに微笑んでいた。
「代わりに、この花はボクが貰ってもいいかな?」
「……でも」
迷信なんて信じちゃいない。でも、一度知ってしまったらそれを彼にくれてやることには戸惑いがあった。しかも、一度はゴミだと認識までした代物だ。
もし彼に何か不幸なことがあったら。そう思うと柄にもなく少し、怖い。
「平気だよ」
けれどユゥイは、そんな小龍などお見通しとでも言うかのように、一つコクリと頷いた。
「大丈夫。だってボクは魔法が使えるから」
「……魔法?」
「そう。だから魔除けの呪文も知ってるよ」
変なの。小龍はそう思った。
魔法だなんて、御伽噺や漫画の世界でもあるまいし、大人のくせに何を馬鹿なことを言っているんだろう。
けれどその反面、彼なら出来るのかもしれないと、なぜか思った。
どこか不思議な雰囲気のある人だから、不思議な力だってあってもおかしくはないかもしれない。
だから小龍は素直に頷いた。
「わかった。じゃあ、あげる」
「ありがとう」
そのときふわりと、柊を持つ小龍の手に冷たいものが落ちて融けた。
空を見上げれば、いくつもの淡い雪が地上へ向かって降り注いでいる。
「雪だ……」
「初雪だね」
彼の予言は当たった。
雪の中、嬉しそうな笑顔はまるで花が咲いたかのように綺麗に見えて。
どういうわけか、胸がドキドキして止まらなくなった。
綺麗とか可愛いとか、そんなのは大人の男の人に対して思うことではないから。
だから小龍はそう感じてしまった自分の気持ちに、気づかないふりをした。
***
家に帰る頃には、雪の粒が驚くほど大きくなっていた。
きっと朝には積もっているだろうなと、少しだけワクワクしながら窓の外に向けていた視線を、小龍は手の中の柊の葉に移した。
あの人は、あの椿の花をどうしたのだろうか。
魔除けの呪文は効いたのだろうか。
明日、また店に行ってみようと思った。
もし魔法が不発に終わっていたら、一応は一言くらい謝った方がいいだろう。
そして、もし彼に不幸があったならこの柊を返そう。
髪に飾ってやったら、大人でもちょっとは『可愛い』が似合うかもしれない。
柊には魔除けの効果があると、帰ってきてすぐに図鑑を調べたら書いてあった。
これは造花だから、決して枯れることはないのだ。
――誰か大切な人にあげるといいよ。
だからきっと、いつまでも彼を守ってくれるだろう。
End
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