2025/09/14 Sun 04 「あ、ぅ……!」 脱衣所につくと操の腕を開放した。雪崩れ込むように床に打ちつけられた彼は、そのまま顔を伏せて泣き続ける。 「総士、総士ぃ……」 甲洋はそんな操を冷たい瞳で見下ろした。 静かに、沸々と腸が煮えくり返っていた。彼が総士を呼ぶたびに、かつて自分がこの家の中で不要な異物であったことを思いだす。 (やっぱりこいつも俺を見ない) 両親がそうであったように。操の瞳は甲洋を映さない。その心のなかに、甲洋がいられる場所はどこにもなかった。 (……嫌だ) ようやく見つけられたような気がしていたのに。 自分の言うことだけを聞いて、自分だけを見て、依存してくれる誰かを。無理に笑う必要もない、顔色を伺う必要もない、否と言っても許される、都合のいい人形を。 勝手すぎるだろと、甲洋の中にいるもう一人の甲洋が言った。そいつはまだ幾らか理性を保っていて、駄々をこねて泣きわめく子供のような自分を嘲笑っている。 「脱げよ。そのままだと洗えない」 自身の声に耳を塞ぎ、淡々と命じた。けれど操は首を振り、なおも総士の名を呼び続ける。 うるさくて仕方がなかった。その声も、理性を残す自分の意識も。 「……わかった。もういい」 甲洋は再び操の腕を掴み上げると片手で浴室のドアを押し開ける。そして弱々しく抵抗を示す身体を、服のまま中に放り込んだ。 操は冷たい壁にぴったりと身を寄せ、怯えた表情で甲洋を見上げる。甲洋はぴくりとも表情を動かさず、自身も服のまま浴室に入るとシャワーのコックを捻った。 「ッ……!?」 勢いよく湯が噴き出す。まともに温度の調節もしないまま、甲洋はシャワーヘッドを操に向けた。熱い湯を頭からかぶり、彼は壁に縋りつきながら悲鳴をあげる。 「いっ、ぁ、熱い! やだ! やだやめて! 熱いよぉ!!」 なにも火傷するほどの熱湯を浴びせかけているわけではない。けれど血の気を失っていた操の身体は、急激な温度差に過剰な反応を示していた。 浴室が白い湯気に覆われ、むせるような熱気が立ちこめる。怯えて泣きじゃくる声が、狭い空間に響き渡っていた。 「ぅ、ひっ……く、ぅ、うぅ、ぅ……」 その肌に湯の温度が馴染んでくると、悲鳴は弱々しいすすり泣きへと変わっていった。 甲洋はフックにシャワーを固定して、一緒になって濡れるのも構わず膝をつくと、操の身体に手を伸ばす。たっぷりと水気を含んで皮膚に張り付いているシャツを強引に引き剥がし、下も汚れた下着ごと無理やり皮を剥く要領で剥がしにかかる。 「や、やめて! いやだ!」 操は必死で足をバタつかせながら身体を丸め、甲洋の手から逃れようとする。けれど甲洋は無言で黙々と、皮膚に張り付く下着とハーフパンツを剥がしていった。丸い臀部が顕になり、やがて白い腿を晒しながら膝小僧に纏わりつく。 そこまで肌が露出してしまうと、操は股に両手を挟み込むようにして身体の中心を隠した。 「洗うだけなのに。恥ずかしいんだ?」 冷笑まじりにからかってやると、操の肌は余すところなく真っ赤に染まった。 立てた両膝に顔を埋め、嫌々と首を左右に振ってみせる。恥ずかしがっていることを知られることすら恥ずかしいのだ。十六歳の少年のいじらしい羞恥心が、甲洋の胸をくすぐった。 甲洋は中途半端に引っかかっているものを全て剥ぎ取り、濡れてずっしりと重たくなったシャツやパンツを浴室の隅へ押しやった。 「ほら、隠してたら洗えないよ」 操がまた首を振る。甲洋はわざとらしく溜息を漏らし、それから強引に細い二の腕と肩を掴み上げると、その身体をひっくり返した。 こちらにすっかり背を向けて、膝立ちになった操の身体が冷たいタイルに押しつけられる。 「ッ、つめた、ァ……!」 「これならいいだろ?」 問いかけながら、甲洋は操の背中の半分近くを覆う火傷の痕に気がついた。 肩から肩甲骨、そしてなだらかな背骨の中腹に至るまで、赤く変色した皮膚が所々ケロイドを帯びている。 「ああ、これ……火事の……」 白くきめ細かい肌を浸食する熱傷痕に、甲洋はそっと指を這わせる。操は冷たいタイルに両手と額を張りつかせ、か細く震えていた。 頭上からサラサラと降り注ぐ湯が、白磁の肌と損傷した皮膚組織を滑り落ちていく。 「……綺麗だな」 そのちぐはぐな痛々しさを、甲洋はとても美しいと思った。 うっとりと呟きながら、指先でくまなく触れていく。白い肌との境界線を探るようになぞると、操が肩をぎゅうとすくめた。壊れた組織が歪に引きつる。堪らなく興奮した。 甲洋はなにかに取り憑かれたように、ひたすらその皮膚をなぞり続けた。その度に操の身体がヒクヒクと反応を示す。そのうちもっと深く確かめたくなって、ほとんど無意識のうちに唇を寄せた。 「ひぁ、ん……!」 操の背が僅かに反り返る。煙る熱気に浮かされながら、甲洋はいよいよ堪えることがきなくなった。何度も口づけ、やがてぴちゃりと音を立てて舌を這わせる。顔の角度を変えながら、繰り返し吸い上げた。 「や、や……ッ、ぁ……やめ、て」 操は弱々しく身を捩り、甲洋の愛撫から逃れようとした。背中の皮膚が妖しく艶を放ちながら蠢いている。頭のなかで、けたたましくサイレンが鳴り響いていた。突き上げるような激しい衝動に、目が眩みそうになる。 (なにしてるんだよ、俺は) 少年の肌を犯しながら、ぼんやりと霞む意識で自問する。さっきまで甲洋を嘲笑っていたもう一人の自分が、それ以上はやめておけと冷たく言った。頭のなかで鳴り響いていたサイレンが耳鳴りに変わる。静止の声が、どこか遠くへ押しやられていく。 操のすすり泣く声が、どうしようもないところまで欲望を煽りたてる。 甲洋は熱い息を漏らしながら、窓際のスペースに置かれたボディソープへ手を伸ばした。何度かプッシュして、飛び出してきた液体を受け止める。柑橘系の爽やかな香りが、異様な熱気が立ちこめる空間に広がっていく。 ボディソープでぬるついた手のひらを、柔らかな臀部に這わせた。そこは赤ん坊の肌のようにしっとりと吸いついてくる。 「やぁ……! やめて、そんなとこ……っ!」 操が身体をひねり、後ろ手に甲洋の手首を掴んだ。甲洋はその背に触れて壁に押しつけ、尻から股にかけての割れ目にぬるぬると手のひらを滑らせた。 ボディソープが一気に泡立ち、降り注ぐ湯と共に操の内腿を伝ってタイルに落ちる。 「ヒッ、ぃ……っ、ぁ、や……!」 割れ目に沿って何度も手を行き来させると、指先にぷるぷるとした袋が当たる。指で挟み込むようにしてさらに上の方まで辿っていくと、小ぶりな性器が僅かな弾力を帯びて震えているのが分かった。 「気持ちいいんだ?」 操の耳が赤く染まった。ゆるゆると首を振って見せるが、図星であることは触れている甲洋が一番よく知っている。 「……だめ、そんな、とこ……、触っちゃ、だめ……っ」 「どうして?」 「く、ぅ……ッ、ぁ、だって……だって、そこは……ぁ、大事な、とこ、だから……好きな、人しか……んっ、触っちゃ、ダメ、だって……」 「総士が言ったの?」 「ちが……っ、ん、あッ!」 甲洋は背中に押しつけていた方の手を操の前へと伸ばし、勃ちあがりかけている性器をやんわりと握りしめた。すでに石鹸で十分に泡立ち、滑りを帯びたそこは甲洋の手の中でピクピクと脈打っている。 「ああ、そうか。来主は、俺のことが嫌いだったね」 今は亡き両親が、幼い彼に教え聞かせたことなのだろう。恋すらしたことがあるかどうか怪しい少年が、ずっと大事に守り続けてきた場所に、この手はこうも容易く触れている。 操は凍りついたように動きを止めた。甲洋の方を振り返り、涙を流して唇を戦慄かせた。 「そういうこと、俺の親は教えてくれなかったよ。いい親御さんだったんだな」 「んッ、ぁ……? や、やめて、やめて……っ」 その腰に腕を回して固定しながら、前は竿を扱いて追いあげる。 ダメとか嫌とか、そんなことを言いながら泣くくせに、その声は甘く上ずっていた。ぐちゅぐちゅと下品な音を立てながら、泡にまみれた性器が腫れたように赤くなっている。 下腹にぐっと力が入り、内腿が痙攣しはじめた。多分、もうすぐだ。 「やぁ、ぅ、あッ! だめ、でちゃ……ッ、ぁ、でちゃう! また、おしっこ! 出ちゃうからぁ……っ!」 操が甲洋の肩に項を乗せるようにして喉を反らす。甲洋は赤い耳たぶに唇を押しつけ、小さく笑った。 「出てくるのはおしっこじゃないよ。お前、自分でしたことないの?」 「しな、い……ぁ、こんな、ぁ、あ、やだ、や……ぁ、ヒ、ぃ……──ッ!」 ビクン、と腕のなかで操が腰を震わせた。そのまま断続的に身体を跳ねさせ、その度に手のなかで性器が弾ける。ぴゅ、ぴゅ、と白濁としたものが飛び散って、浴室の壁を汚していく。 「ぁ、ぁ……ッ、ぁー、っ、ぁ……」 脱力した操の身体を抱きながら、一緒にぺたりと床に座り込んだ。 腕の中で苦しそうに上下する身体をやんわりと抱き、甲洋もまた息を弾ませる。手には石鹸と混ざりあった精液が、ねっとりと絡みついていた。 初めての絶頂を迎えた操の、そのバネのようにしなる感触が忘れられず、ごくりと音がするほど大きく喉を鳴らす。 「来主……」 吐息だけで名前を呼んだ。彼はどこか呆然としながらも、小さくすすり泣いている。降り注ぐシャワーに打たれ、肌を色づかせながらも凍えたように震えていた。 甲洋は操の身体に腕を回したまま、再び膝立ちの体勢をとらせた。意外にも抵抗がない。そんな気力も体力も残っていないのか。そのまま身体の向きを変えさせて、浴槽の風呂蓋に上半身を乗り上げるような形で伏せさせる。 「ッ、なに、するの……?」 不安そうな瞳が甲洋に向けられた。それを無視して再び尻の割れ目に手を差し込む。 「いや……もう、洗うの、やだよぉ……」 ふるふると首を振り、操は風呂蓋に縋りつく。 甲洋は濡れた指先で小さな丘の中心を探った。石鹸と体液に潤う窄まりを何度かなぞり、やがて人差し指を潜り込ませる。操の身体が強張った。 「ヒッ、ぅ、う、そ……ッ、なん、で、そんな……!?」 嫌だ嫌だと、操が叫ぶ。甲洋は暴れようとする操の肩を片手で押さえつけ、体重をかけるようにして風呂蓋に固定した。そのせいで上半身はビクともせず、ただ誘うように腰を振っているようにしか見えない。 そうしている間にも、指を穴に押し込んでいく。みっちりと詰まった肉の抵抗を物ともせず、ぬるぬると奥までこじ開けていった。何度か出し入れをしながら指を増やすと、操が大きな声で「痛い」と叫ぶ。彼はひどく混乱し、髪を振り乱して泣いていた。 分かっている。ここはセックスをするためにある器官ではなくて、操の身体は甲洋を受け入れるためにはできていない。 甲洋だってそうだ。男なんて抱いたことはないし、性欲の対象であったことすらない。だけど、どうしてか今は欲しくて堪らなかった。頭の芯が、ひどく痺れている。 欲しい。欲しい。この子が欲しい。操のなかに無理矢理にでも押し入って、自分の存在を刻みつけたい。居場所がないなら、壊してでも作ってしまえばいいのだと。 「ぁうっ!」 甲洋は操の中から指を引き抜くと、泡立って滑る手でどうにか前をくつろげた。下着の中から勃起した自身を取りだし、何度か扱き上げて潤いを与える。そしてそれを、操の尻たぶに擦りつけた。 「ヒッ……!?」 風呂蓋に縋りついたまま、操が喉を引きつらせる。声も出せずに、歯の根が鳴るほどにガタガタと震えていた。 薄い肉を押し広げると、掴み上げた自身の先端を濡れた窄まりに押しつける。何度か擦りつけ、やがて狙いを定めて突き入れた。 「ッ──!!」 ひゅう、と操の反らされた喉が鳴った。 先端を潜り込ませた瞬間、ぶつりと音がしたような感覚を覚える。それでも構うことなく、小さな穴をその皺がひとつもなくなるくらいまで押し広げ、奥深くまで犯していく。 肉の抵抗が強ければ強いほど、あの生意気だった操を蹂躙しているのだという実感に興奮させられる。もうこれ以上は無理というところまで辿り着いたとき、甲洋はありえないほどの充足感を味わっていた。 「ぁ゛……ッ、は……、っ、ぃ……だ……いだ、ぃ……ァ、たす、け……っ」 操の身体が、大事なネジを失ったかのように痙攣していた。風呂蓋の上で泳ぐように手を伸ばし、爪でカリカリと引っ掻いている。 甲洋は獣じみた息を吐きだし、ギチギチと痛いほど噛みついてくる肉の感覚を逃そうとした。気を抜けば、意識が遠くに吹き飛んでしまいそうだった。 「たす、け、て……そう、し……総士、こわい……痛い……たすけて、たすけ、て……」 性懲りもなく操が総士に助けを求める。甲洋は背後から腕を忍ばせ、小さな顎を掴むと強引にひねってこちらを向かせた。 「ぁぐ、ぅ……っ」 「あのふたりがただ仕事のためだけに島を出たなんて……お前、本気でそう思ってる?」 「っ、ぁ、ぇ……?」 「総士も今ごろ、俺たちと同じことをしてるのに」 操は何を言っているのか分からないという顔をした。本当に分からないのだ。彼は。一番近くにいるくせに、ふたりのことを、なにも知らない。 甲洋は笑いながら、僅かに腰を突き上げた。 「ひぎッ、ィ……っ! ァッ、や、やめっ、動かな……ぁ!」 「セックスしてるに決まってるだろ。こんなふうに、一騎とさ」 結合部から溢れだす泡に血が混ざり、ほんのりと桜色に染まっていた。絶え間なく降り注ぐシャワーが、それを次から次へと洗い流して排水口へと吸い込ませる。 「イっ、あ゛ッ! やめ、な、に? なに、言って、ぁッ、ひっ!」 「煩わしい子守りから開放されて、今ごろ夢中で愛し合ってるよ」 「や、だ、やだ……そんな、の、聞きたく、ない……!」 耳を塞ごうとするその両手を掴んで、風呂蓋に押しつけた。痛々しい痕が残る背中にぴったりと胸を合わせて体重をかけ、完全に身動きを封じてしまう。 「お前を捨てて、このまま帰って来ないつもりかもな」 痛みに喘ぐ操の耳に、甲洋は平然と嘘を吹き込んだ。絶句した操の身体が硬直する。 そんなことは決してありえないのだ。総士たちは必ずここに帰ってくるし、彼を捨てたりなんかしない。まともな精神状態であれば、これがただの偽言であることくらい簡単に見抜けるはずだった。 けれど操の精神はあまりにも無垢で、脆くて、笑ってしまうくらい純粋だ。もしかしたら、未だにサンタクロースやコウノトリを信じているかもしれない。じゃなきゃここまで追いつめられてなんかいないだろう。 これじゃあ悪い大人に騙されたって文句は言えない。毒牙にかかり、食いものにされたってしょうがないのだ。操にとっての甲洋は、そんな悪い大人の男でしかなかった。 「あのふたりの中に、お前の居場所はどこにもない」 甲洋の嘘が、その毒が、幼い意識を蝕んでいく。少しずつ死に至るように、その瞳がどろりと濁っていくのが分かった。 置き去りにされ、見向きもされない子供の気持ちが、甲洋には痛いほど理解できる。だからこんなとき、誰でもいいから縋りつきたくなる寂しさも、よく知っていた。 「俺しかいないよ」 糸が切れたように項垂れて力を失った身体を、甲洋は強く抱きしめた。 自分よりも一回り小さな胸郭も、肩幅も、腕のなかにすっぽりと閉じ込めながら。欲しいと、そう思う。彼の肉を犯し、その心をへし折ってさえ、まだ足りない。乾きと疼き。呪いのように、甘い声で囁きかける。 「来主には、もう俺しかいない」 のろのろと顔をこちらに向けた操が、甲洋をその虚ろな瞳に映しだす。 「呼んで、来主。俺の名前。そうしたら」 (堕ちてこい) 自分と同じところまで。 「死ぬほど優しくしてあげる」 ゾッとするほど甘い囁き声に、空虚な瞳が大きく揺れる。そこにいるのが誰であるかを確かめるように瞬きを繰り返し、やがて青褪めた唇が小さく震えた。 ──こうよう、と。 彼は初めて、甲洋の名前を口にした。 「こうよう……こうよう……甲洋……」 操は何度も何度も、噛みしめるように繰り返し甲洋の名を呼んだ。 少し高めの甘い声。どこか舌足らずな呼び方が、狂おしいほど耳朶を打つ。目眩がした。 (──堕ちた) 小さな顎に指先をあてがうと、唇を重ね合わせた。 狭い口腔を舌で嬲れば、操は素直にそれを真似て絡みつかせる。どうすればいいか分からないくせに、必死で甲洋がすることを真似て応えようとしていた。巣から落ちた小鳥のヒナが、飛ぶこともできずにもがき苦しんでいる。そんな姿に似ている気がした。 赤くそまった肌を辿って、甲洋は操の身体の中心に指先を纏わりつかせた。少しいじってやるだけで、そこは簡単に熱をもつ。 「ふぁ、んっ、ぁ……ぁ、ん……」 媚を含んだかのように甘い声が、止めどなく浴室に反響する。 前をゆるゆると扱く動きに合わせて、甲洋は優しく腰を揺らめかせた。痛みから逃げる術が快楽にしかないことに、彼の身体は気づきつつある。手のなかの性器が弾力を帯び、誘うようにピクピクと脈打ちはじめていた。 「こ、よ……こぉよ、あッ、ひぅっ、ぁ、あ、ぁ……っ!」 抽送が少しずつ大胆になるにつれ、離れ離れになった唇がひっきりなしに甲洋を呼んだ。 焼けるように熱い肉壺は、さっきまで固く閉じきっていたのが嘘みたいに甲洋の肉茎を甘く食み、ぐずぐずに溶けていきそうな快感もたらす。 決して乱暴にならないよう、けれど確実に追い上げるために震える陰茎を扱き上げれば、操は甲高い悲鳴をあげて甘えるように甲洋の耳元に額を何度も擦りつけた。 「や、くる……! こわいの、またくる! やだこれ、こうよ、甲洋……っ!」 「いい子……いい子だね来主……っ、……いいよ、俺もイクから、一緒に」 色づいた全身をひどく震わせ、爪先まで痺れるような快楽に芯を焼かれる。手の中で操が弾けたのに数秒遅れて、甲洋もまた欲望を放った。 * 動かなくなった操の身体を清めながら、自分もついでにシャワーを浴びた。 ぐっしょりと濡れた二人分の衣服は洗濯機に放り込み、引っ張り出した部屋着の下だけを穿くと、甲洋は大判のバスタオルに操をすっぽりと包み込んで自室に運んだ。 ベッドへ仰向けに横たわらせ、濡れた髪の水分をタオルに丁寧に含ませる。そうしている間も、操は死んだように気を失ったまま、目を覚ます気配はなかった。 あらかた水気をとってしまうと、甲洋は元両親の寝室へ向かった。 換気のために窓を開け、汚れたラグマットは引き剥がし、小さくまとめてゴミ袋いっぱいに詰める。床を磨き、手つかずの食事はキッチンの冷蔵庫に押し込んだ。 それらを終えて部屋に戻ると、操は甲洋のタオルケットに包まれて眠り続けていた。 ベッドの縁に腰掛けて、その寝顔を見下ろす。デスクライトだけが頼りの室内で、彼の肌は青白いマネキンのように儚く見えた。 まだほんのりと水気を含んだ前髪に触れ、柔らかな頬の曲線をなぞる。 平静を取り戻してしまったら、今度こそ後悔すると思っていた。甲洋は彼の心だけでなく、その身体にまで疵をつけてしまったのだ。あれはセックスなんかじゃない。刹那的な衝動に溺れただけの、ただのレイプでしかなかった。 けれど甲洋の心はあの歪んだ幸福感で満たされていた。操が名前を呼んでくれた。その瞳にはあの瞬間、確かに甲洋だけが映し出されていた。彼の身体をこじ開けて、自分の存在を刻みつけた。 「来主……」 名前を呼んでも、操は目を覚まさない。タオルケット越しに、薄い胸が規則正しく上下している。 甲洋は彼の隣に身を横たえた。折りたたんだ右腕を枕にして、幼い寝顔をそっと見つめる。 目を覚ましたら、彼はどんな顔をするのだろう。また酷く怯えて、泣きながら総士の名前を呼ぶのだろうか。あるいは、甲洋が目覚めるより先にここを抜け出し、どこか遠くへ逃げるだろうか。 左手を操の胸にそっと這わせた。鼓動が伝わる。甲洋は祈るように瞼をおろした。 (なにも、考えたくない) 今はただ、この窒素中毒のような多幸感に溺れて眠りたかった。 軽率に、傲慢に、海の底へ沈んでいこうとする愚かな潜水士のように。 ←戻る ・ 次へ→
「あ、ぅ……!」
脱衣所につくと操の腕を開放した。雪崩れ込むように床に打ちつけられた彼は、そのまま顔を伏せて泣き続ける。
「総士、総士ぃ……」
甲洋はそんな操を冷たい瞳で見下ろした。
静かに、沸々と腸が煮えくり返っていた。彼が総士を呼ぶたびに、かつて自分がこの家の中で不要な異物であったことを思いだす。
(やっぱりこいつも俺を見ない)
両親がそうであったように。操の瞳は甲洋を映さない。その心のなかに、甲洋がいられる場所はどこにもなかった。
(……嫌だ)
ようやく見つけられたような気がしていたのに。
自分の言うことだけを聞いて、自分だけを見て、依存してくれる誰かを。無理に笑う必要もない、顔色を伺う必要もない、否と言っても許される、都合のいい人形を。
勝手すぎるだろと、甲洋の中にいるもう一人の甲洋が言った。そいつはまだ幾らか理性を保っていて、駄々をこねて泣きわめく子供のような自分を嘲笑っている。
「脱げよ。そのままだと洗えない」
自身の声に耳を塞ぎ、淡々と命じた。けれど操は首を振り、なおも総士の名を呼び続ける。
うるさくて仕方がなかった。その声も、理性を残す自分の意識も。
「……わかった。もういい」
甲洋は再び操の腕を掴み上げると片手で浴室のドアを押し開ける。そして弱々しく抵抗を示す身体を、服のまま中に放り込んだ。
操は冷たい壁にぴったりと身を寄せ、怯えた表情で甲洋を見上げる。甲洋はぴくりとも表情を動かさず、自身も服のまま浴室に入るとシャワーのコックを捻った。
「ッ……!?」
勢いよく湯が噴き出す。まともに温度の調節もしないまま、甲洋はシャワーヘッドを操に向けた。熱い湯を頭からかぶり、彼は壁に縋りつきながら悲鳴をあげる。
「いっ、ぁ、熱い! やだ! やだやめて! 熱いよぉ!!」
なにも火傷するほどの熱湯を浴びせかけているわけではない。けれど血の気を失っていた操の身体は、急激な温度差に過剰な反応を示していた。
浴室が白い湯気に覆われ、むせるような熱気が立ちこめる。怯えて泣きじゃくる声が、狭い空間に響き渡っていた。
「ぅ、ひっ……く、ぅ、うぅ、ぅ……」
その肌に湯の温度が馴染んでくると、悲鳴は弱々しいすすり泣きへと変わっていった。
甲洋はフックにシャワーを固定して、一緒になって濡れるのも構わず膝をつくと、操の身体に手を伸ばす。たっぷりと水気を含んで皮膚に張り付いているシャツを強引に引き剥がし、下も汚れた下着ごと無理やり皮を剥く要領で剥がしにかかる。
「や、やめて! いやだ!」
操は必死で足をバタつかせながら身体を丸め、甲洋の手から逃れようとする。けれど甲洋は無言で黙々と、皮膚に張り付く下着とハーフパンツを剥がしていった。丸い臀部が顕になり、やがて白い腿を晒しながら膝小僧に纏わりつく。
そこまで肌が露出してしまうと、操は股に両手を挟み込むようにして身体の中心を隠した。
「洗うだけなのに。恥ずかしいんだ?」
冷笑まじりにからかってやると、操の肌は余すところなく真っ赤に染まった。
立てた両膝に顔を埋め、嫌々と首を左右に振ってみせる。恥ずかしがっていることを知られることすら恥ずかしいのだ。十六歳の少年のいじらしい羞恥心が、甲洋の胸をくすぐった。
甲洋は中途半端に引っかかっているものを全て剥ぎ取り、濡れてずっしりと重たくなったシャツやパンツを浴室の隅へ押しやった。
「ほら、隠してたら洗えないよ」
操がまた首を振る。甲洋はわざとらしく溜息を漏らし、それから強引に細い二の腕と肩を掴み上げると、その身体をひっくり返した。
こちらにすっかり背を向けて、膝立ちになった操の身体が冷たいタイルに押しつけられる。
「ッ、つめた、ァ……!」
「これならいいだろ?」
問いかけながら、甲洋は操の背中の半分近くを覆う火傷の痕に気がついた。
肩から肩甲骨、そしてなだらかな背骨の中腹に至るまで、赤く変色した皮膚が所々ケロイドを帯びている。
「ああ、これ……火事の……」
白くきめ細かい肌を浸食する熱傷痕に、甲洋はそっと指を這わせる。操は冷たいタイルに両手と額を張りつかせ、か細く震えていた。
頭上からサラサラと降り注ぐ湯が、白磁の肌と損傷した皮膚組織を滑り落ちていく。
「……綺麗だな」
そのちぐはぐな痛々しさを、甲洋はとても美しいと思った。
うっとりと呟きながら、指先でくまなく触れていく。白い肌との境界線を探るようになぞると、操が肩をぎゅうとすくめた。壊れた組織が歪に引きつる。堪らなく興奮した。
甲洋はなにかに取り憑かれたように、ひたすらその皮膚をなぞり続けた。その度に操の身体がヒクヒクと反応を示す。そのうちもっと深く確かめたくなって、ほとんど無意識のうちに唇を寄せた。
「ひぁ、ん……!」
操の背が僅かに反り返る。煙る熱気に浮かされながら、甲洋はいよいよ堪えることがきなくなった。何度も口づけ、やがてぴちゃりと音を立てて舌を這わせる。顔の角度を変えながら、繰り返し吸い上げた。
「や、や……ッ、ぁ……やめ、て」
操は弱々しく身を捩り、甲洋の愛撫から逃れようとした。背中の皮膚が妖しく艶を放ちながら蠢いている。頭のなかで、けたたましくサイレンが鳴り響いていた。突き上げるような激しい衝動に、目が眩みそうになる。
(なにしてるんだよ、俺は)
少年の肌を犯しながら、ぼんやりと霞む意識で自問する。さっきまで甲洋を嘲笑っていたもう一人の自分が、それ以上はやめておけと冷たく言った。頭のなかで鳴り響いていたサイレンが耳鳴りに変わる。静止の声が、どこか遠くへ押しやられていく。
操のすすり泣く声が、どうしようもないところまで欲望を煽りたてる。
甲洋は熱い息を漏らしながら、窓際のスペースに置かれたボディソープへ手を伸ばした。何度かプッシュして、飛び出してきた液体を受け止める。柑橘系の爽やかな香りが、異様な熱気が立ちこめる空間に広がっていく。
ボディソープでぬるついた手のひらを、柔らかな臀部に這わせた。そこは赤ん坊の肌のようにしっとりと吸いついてくる。
「やぁ……! やめて、そんなとこ……っ!」
操が身体をひねり、後ろ手に甲洋の手首を掴んだ。甲洋はその背に触れて壁に押しつけ、尻から股にかけての割れ目にぬるぬると手のひらを滑らせた。
ボディソープが一気に泡立ち、降り注ぐ湯と共に操の内腿を伝ってタイルに落ちる。
「ヒッ、ぃ……っ、ぁ、や……!」
割れ目に沿って何度も手を行き来させると、指先にぷるぷるとした袋が当たる。指で挟み込むようにしてさらに上の方まで辿っていくと、小ぶりな性器が僅かな弾力を帯びて震えているのが分かった。
「気持ちいいんだ?」
操の耳が赤く染まった。ゆるゆると首を振って見せるが、図星であることは触れている甲洋が一番よく知っている。
「……だめ、そんな、とこ……、触っちゃ、だめ……っ」
「どうして?」
「く、ぅ……ッ、ぁ、だって……だって、そこは……ぁ、大事な、とこ、だから……好きな、人しか……んっ、触っちゃ、ダメ、だって……」
「総士が言ったの?」
「ちが……っ、ん、あッ!」
甲洋は背中に押しつけていた方の手を操の前へと伸ばし、勃ちあがりかけている性器をやんわりと握りしめた。すでに石鹸で十分に泡立ち、滑りを帯びたそこは甲洋の手の中でピクピクと脈打っている。
「ああ、そうか。来主は、俺のことが嫌いだったね」
今は亡き両親が、幼い彼に教え聞かせたことなのだろう。恋すらしたことがあるかどうか怪しい少年が、ずっと大事に守り続けてきた場所に、この手はこうも容易く触れている。
操は凍りついたように動きを止めた。甲洋の方を振り返り、涙を流して唇を戦慄かせた。
「そういうこと、俺の親は教えてくれなかったよ。いい親御さんだったんだな」
「んッ、ぁ……? や、やめて、やめて……っ」
その腰に腕を回して固定しながら、前は竿を扱いて追いあげる。
ダメとか嫌とか、そんなことを言いながら泣くくせに、その声は甘く上ずっていた。ぐちゅぐちゅと下品な音を立てながら、泡にまみれた性器が腫れたように赤くなっている。
下腹にぐっと力が入り、内腿が痙攣しはじめた。多分、もうすぐだ。
「やぁ、ぅ、あッ! だめ、でちゃ……ッ、ぁ、でちゃう! また、おしっこ! 出ちゃうからぁ……っ!」
操が甲洋の肩に項を乗せるようにして喉を反らす。甲洋は赤い耳たぶに唇を押しつけ、小さく笑った。
「出てくるのはおしっこじゃないよ。お前、自分でしたことないの?」
「しな、い……ぁ、こんな、ぁ、あ、やだ、や……ぁ、ヒ、ぃ……──ッ!」
ビクン、と腕のなかで操が腰を震わせた。そのまま断続的に身体を跳ねさせ、その度に手のなかで性器が弾ける。ぴゅ、ぴゅ、と白濁としたものが飛び散って、浴室の壁を汚していく。
「ぁ、ぁ……ッ、ぁー、っ、ぁ……」
脱力した操の身体を抱きながら、一緒にぺたりと床に座り込んだ。
腕の中で苦しそうに上下する身体をやんわりと抱き、甲洋もまた息を弾ませる。手には石鹸と混ざりあった精液が、ねっとりと絡みついていた。
初めての絶頂を迎えた操の、そのバネのようにしなる感触が忘れられず、ごくりと音がするほど大きく喉を鳴らす。
「来主……」
吐息だけで名前を呼んだ。彼はどこか呆然としながらも、小さくすすり泣いている。降り注ぐシャワーに打たれ、肌を色づかせながらも凍えたように震えていた。
甲洋は操の身体に腕を回したまま、再び膝立ちの体勢をとらせた。意外にも抵抗がない。そんな気力も体力も残っていないのか。そのまま身体の向きを変えさせて、浴槽の風呂蓋に上半身を乗り上げるような形で伏せさせる。
「ッ、なに、するの……?」
不安そうな瞳が甲洋に向けられた。それを無視して再び尻の割れ目に手を差し込む。
「いや……もう、洗うの、やだよぉ……」
ふるふると首を振り、操は風呂蓋に縋りつく。
甲洋は濡れた指先で小さな丘の中心を探った。石鹸と体液に潤う窄まりを何度かなぞり、やがて人差し指を潜り込ませる。操の身体が強張った。
「ヒッ、ぅ、う、そ……ッ、なん、で、そんな……!?」
嫌だ嫌だと、操が叫ぶ。甲洋は暴れようとする操の肩を片手で押さえつけ、体重をかけるようにして風呂蓋に固定した。そのせいで上半身はビクともせず、ただ誘うように腰を振っているようにしか見えない。
そうしている間にも、指を穴に押し込んでいく。みっちりと詰まった肉の抵抗を物ともせず、ぬるぬると奥までこじ開けていった。何度か出し入れをしながら指を増やすと、操が大きな声で「痛い」と叫ぶ。彼はひどく混乱し、髪を振り乱して泣いていた。
分かっている。ここはセックスをするためにある器官ではなくて、操の身体は甲洋を受け入れるためにはできていない。
甲洋だってそうだ。男なんて抱いたことはないし、性欲の対象であったことすらない。だけど、どうしてか今は欲しくて堪らなかった。頭の芯が、ひどく痺れている。
欲しい。欲しい。この子が欲しい。操のなかに無理矢理にでも押し入って、自分の存在を刻みつけたい。居場所がないなら、壊してでも作ってしまえばいいのだと。
「ぁうっ!」
甲洋は操の中から指を引き抜くと、泡立って滑る手でどうにか前をくつろげた。下着の中から勃起した自身を取りだし、何度か扱き上げて潤いを与える。そしてそれを、操の尻たぶに擦りつけた。
「ヒッ……!?」
風呂蓋に縋りついたまま、操が喉を引きつらせる。声も出せずに、歯の根が鳴るほどにガタガタと震えていた。
薄い肉を押し広げると、掴み上げた自身の先端を濡れた窄まりに押しつける。何度か擦りつけ、やがて狙いを定めて突き入れた。
「ッ──!!」
ひゅう、と操の反らされた喉が鳴った。
先端を潜り込ませた瞬間、ぶつりと音がしたような感覚を覚える。それでも構うことなく、小さな穴をその皺がひとつもなくなるくらいまで押し広げ、奥深くまで犯していく。
肉の抵抗が強ければ強いほど、あの生意気だった操を蹂躙しているのだという実感に興奮させられる。もうこれ以上は無理というところまで辿り着いたとき、甲洋はありえないほどの充足感を味わっていた。
「ぁ゛……ッ、は……、っ、ぃ……だ……いだ、ぃ……ァ、たす、け……っ」
操の身体が、大事なネジを失ったかのように痙攣していた。風呂蓋の上で泳ぐように手を伸ばし、爪でカリカリと引っ掻いている。
甲洋は獣じみた息を吐きだし、ギチギチと痛いほど噛みついてくる肉の感覚を逃そうとした。気を抜けば、意識が遠くに吹き飛んでしまいそうだった。
「たす、け、て……そう、し……総士、こわい……痛い……たすけて、たすけ、て……」
性懲りもなく操が総士に助けを求める。甲洋は背後から腕を忍ばせ、小さな顎を掴むと強引にひねってこちらを向かせた。
「ぁぐ、ぅ……っ」
「あのふたりがただ仕事のためだけに島を出たなんて……お前、本気でそう思ってる?」
「っ、ぁ、ぇ……?」
「総士も今ごろ、俺たちと同じことをしてるのに」
操は何を言っているのか分からないという顔をした。本当に分からないのだ。彼は。一番近くにいるくせに、ふたりのことを、なにも知らない。
甲洋は笑いながら、僅かに腰を突き上げた。
「ひぎッ、ィ……っ! ァッ、や、やめっ、動かな……ぁ!」
「セックスしてるに決まってるだろ。こんなふうに、一騎とさ」
結合部から溢れだす泡に血が混ざり、ほんのりと桜色に染まっていた。絶え間なく降り注ぐシャワーが、それを次から次へと洗い流して排水口へと吸い込ませる。
「イっ、あ゛ッ! やめ、な、に? なに、言って、ぁッ、ひっ!」
「煩わしい子守りから開放されて、今ごろ夢中で愛し合ってるよ」
「や、だ、やだ……そんな、の、聞きたく、ない……!」
耳を塞ごうとするその両手を掴んで、風呂蓋に押しつけた。痛々しい痕が残る背中にぴったりと胸を合わせて体重をかけ、完全に身動きを封じてしまう。
「お前を捨てて、このまま帰って来ないつもりかもな」
痛みに喘ぐ操の耳に、甲洋は平然と嘘を吹き込んだ。絶句した操の身体が硬直する。
そんなことは決してありえないのだ。総士たちは必ずここに帰ってくるし、彼を捨てたりなんかしない。まともな精神状態であれば、これがただの偽言であることくらい簡単に見抜けるはずだった。
けれど操の精神はあまりにも無垢で、脆くて、笑ってしまうくらい純粋だ。もしかしたら、未だにサンタクロースやコウノトリを信じているかもしれない。じゃなきゃここまで追いつめられてなんかいないだろう。
これじゃあ悪い大人に騙されたって文句は言えない。毒牙にかかり、食いものにされたってしょうがないのだ。操にとっての甲洋は、そんな悪い大人の男でしかなかった。
「あのふたりの中に、お前の居場所はどこにもない」
甲洋の嘘が、その毒が、幼い意識を蝕んでいく。少しずつ死に至るように、その瞳がどろりと濁っていくのが分かった。
置き去りにされ、見向きもされない子供の気持ちが、甲洋には痛いほど理解できる。だからこんなとき、誰でもいいから縋りつきたくなる寂しさも、よく知っていた。
「俺しかいないよ」
糸が切れたように項垂れて力を失った身体を、甲洋は強く抱きしめた。
自分よりも一回り小さな胸郭も、肩幅も、腕のなかにすっぽりと閉じ込めながら。欲しいと、そう思う。彼の肉を犯し、その心をへし折ってさえ、まだ足りない。乾きと疼き。呪いのように、甘い声で囁きかける。
「来主には、もう俺しかいない」
のろのろと顔をこちらに向けた操が、甲洋をその虚ろな瞳に映しだす。
「呼んで、来主。俺の名前。そうしたら」
(堕ちてこい)
自分と同じところまで。
「死ぬほど優しくしてあげる」
ゾッとするほど甘い囁き声に、空虚な瞳が大きく揺れる。そこにいるのが誰であるかを確かめるように瞬きを繰り返し、やがて青褪めた唇が小さく震えた。
──こうよう、と。
彼は初めて、甲洋の名前を口にした。
「こうよう……こうよう……甲洋……」
操は何度も何度も、噛みしめるように繰り返し甲洋の名を呼んだ。
少し高めの甘い声。どこか舌足らずな呼び方が、狂おしいほど耳朶を打つ。目眩がした。
(──堕ちた)
小さな顎に指先をあてがうと、唇を重ね合わせた。
狭い口腔を舌で嬲れば、操は素直にそれを真似て絡みつかせる。どうすればいいか分からないくせに、必死で甲洋がすることを真似て応えようとしていた。巣から落ちた小鳥のヒナが、飛ぶこともできずにもがき苦しんでいる。そんな姿に似ている気がした。
赤くそまった肌を辿って、甲洋は操の身体の中心に指先を纏わりつかせた。少しいじってやるだけで、そこは簡単に熱をもつ。
「ふぁ、んっ、ぁ……ぁ、ん……」
媚を含んだかのように甘い声が、止めどなく浴室に反響する。
前をゆるゆると扱く動きに合わせて、甲洋は優しく腰を揺らめかせた。痛みから逃げる術が快楽にしかないことに、彼の身体は気づきつつある。手のなかの性器が弾力を帯び、誘うようにピクピクと脈打ちはじめていた。
「こ、よ……こぉよ、あッ、ひぅっ、ぁ、あ、ぁ……っ!」
抽送が少しずつ大胆になるにつれ、離れ離れになった唇がひっきりなしに甲洋を呼んだ。
焼けるように熱い肉壺は、さっきまで固く閉じきっていたのが嘘みたいに甲洋の肉茎を甘く食み、ぐずぐずに溶けていきそうな快感もたらす。
決して乱暴にならないよう、けれど確実に追い上げるために震える陰茎を扱き上げれば、操は甲高い悲鳴をあげて甘えるように甲洋の耳元に額を何度も擦りつけた。
「や、くる……! こわいの、またくる! やだこれ、こうよ、甲洋……っ!」
「いい子……いい子だね来主……っ、……いいよ、俺もイクから、一緒に」
色づいた全身をひどく震わせ、爪先まで痺れるような快楽に芯を焼かれる。手の中で操が弾けたのに数秒遅れて、甲洋もまた欲望を放った。
*
動かなくなった操の身体を清めながら、自分もついでにシャワーを浴びた。
ぐっしょりと濡れた二人分の衣服は洗濯機に放り込み、引っ張り出した部屋着の下だけを穿くと、甲洋は大判のバスタオルに操をすっぽりと包み込んで自室に運んだ。
ベッドへ仰向けに横たわらせ、濡れた髪の水分をタオルに丁寧に含ませる。そうしている間も、操は死んだように気を失ったまま、目を覚ます気配はなかった。
あらかた水気をとってしまうと、甲洋は元両親の寝室へ向かった。
換気のために窓を開け、汚れたラグマットは引き剥がし、小さくまとめてゴミ袋いっぱいに詰める。床を磨き、手つかずの食事はキッチンの冷蔵庫に押し込んだ。
それらを終えて部屋に戻ると、操は甲洋のタオルケットに包まれて眠り続けていた。
ベッドの縁に腰掛けて、その寝顔を見下ろす。デスクライトだけが頼りの室内で、彼の肌は青白いマネキンのように儚く見えた。
まだほんのりと水気を含んだ前髪に触れ、柔らかな頬の曲線をなぞる。
平静を取り戻してしまったら、今度こそ後悔すると思っていた。甲洋は彼の心だけでなく、その身体にまで疵をつけてしまったのだ。あれはセックスなんかじゃない。刹那的な衝動に溺れただけの、ただのレイプでしかなかった。
けれど甲洋の心はあの歪んだ幸福感で満たされていた。操が名前を呼んでくれた。その瞳にはあの瞬間、確かに甲洋だけが映し出されていた。彼の身体をこじ開けて、自分の存在を刻みつけた。
「来主……」
名前を呼んでも、操は目を覚まさない。タオルケット越しに、薄い胸が規則正しく上下している。
甲洋は彼の隣に身を横たえた。折りたたんだ右腕を枕にして、幼い寝顔をそっと見つめる。
目を覚ましたら、彼はどんな顔をするのだろう。また酷く怯えて、泣きながら総士の名前を呼ぶのだろうか。あるいは、甲洋が目覚めるより先にここを抜け出し、どこか遠くへ逃げるだろうか。
左手を操の胸にそっと這わせた。鼓動が伝わる。甲洋は祈るように瞼をおろした。
(なにも、考えたくない)
今はただ、この窒素中毒のような多幸感に溺れて眠りたかった。
軽率に、傲慢に、海の底へ沈んでいこうとする愚かな潜水士のように。
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