2025/09/14 Sun 09 甲洋が知らない、操の話。 ひとつひとつ紡がれるたびに感情と共に溢れる涙は、薄ぼんやりとした部屋の中で星屑のようにキラキラと煌めいている。 その美しさに呆然としながら、甲洋は今まで一騎や真矢が言いかけていた言葉の先が、なんとなく想像できたような気がした。 彼は拙い反発心から甲洋に興味を抱いた。 甲洋のことが気になって、総士と一騎だけに留まらず、島中の人に話を聞いて回っていた。そしてその中には、あの両親さえも含まれていたのだ。 ──あのね甲洋 朝、カウンター席で並んで朝食を食べたあと。 寂しいのかと聞いてきた操に、甲洋はキスをして、寂しくないよとまた嘘をついた。 それでも彼はほっとした顔を見せ、それから、なにかを言いかけていた。 ──おれ、前にね、ここで君の あの場所で、操は甲洋の孤独に触れていたのだ。 だからあんなに心配そうに、不安そうに問いかけてきた。甲洋を愛さなかったひとたちがいたあの場所で、甲洋を愛しながら、寄り添おうとしていた。 けれど甲洋は嘘をついた。寂しかった。独りでいるよりもずっと、あのときの甲洋は孤独を感じていた。だって明日にはもう、この子はいないのだと思っていたから。ありのままの自分を好いてくれる人間など、どこにもいないのだと思っていたから。 だから気づけなかった。 本当は、もうずっと前から求めていたものが傍にあったということに。 甲洋は真実の愛が欲しかった。 だけどきっと、そんなものが本当にこの世界に存在するなんて、信じていなかったのは甲洋自身だったのかもしれない。 「あのね、好きなひとしか触っちゃダメって言ったの……あれはね、おれのこと好きじゃないひとは、触っちゃダメって意味だったんだよ」 操は耳の際まで真っ赤にしながら、俯いてもじもじと肩を揺らした。 「だっておれは、甲洋に嫌われることばかりしてたもの」 白い手を握りしめ、彼は子供っぽくグイッと涙を拭った。そんなに乱暴にこすったら腫れてしまう。だけど甲洋は喉が詰まったようになっていて、なにも言うことができなかった。 「最初にちゃんと好きって言えなくて……ごめん」 ひたむきに想いを告げる姿に、胸が張り裂けそうになる。 そこにいるのは初恋に頬を染める少年で、甲洋はこれを平然と穢したのだ。すでに消えない傷を負っている彼の身体を、心を、大事に守っていた場所を暴いて、その尊厳を踏み散らかした。 「でも、初めてだったから……ああいうことするのも、誰かをこんなふうに好きになるのも、おれ、初めてだったから……なんて言ったらいいか、わかってなかった。怖かったし、痛かったし、恥ずかしかったから……」 せっかく拭った瞳から、操はまた涙を流した。何度も鼻をすすっているのを見て、甲洋はどうしたらいいか分からなくなる。ただ身体が震えていた。 未だになにひとつ言葉を発せないまま、衝動的にその身体を引き寄せて、強く抱きしめる。 「こ、こうよ」 「……ごめん」 それしか言えなかった。 「ごめん、来主……ごめん……ごめんな……」 もうなにに対しての謝罪なのか分からないくらい、甲洋は操の肩に目元を押しつけ、そればかりを繰り返した。声は濡れて、酷く掠れて上ずっていた。 甲洋はこの純粋な少年の心を、身体を、たくさんたくさん傷つけた。自分の孤独を埋められさえすればそれでよかった。そこにある痛みも、生まれたばかりだった淡い感情も、なにひとつ知らないで。 それでも彼はしなやかな両腕を甲洋の背に回し、力いっぱい抱き返してくる。 「ねぇ、おれは甲洋が好きだよ。君がどんなに酷いやつでも、ちゃんと好きだよ。嫌なことなんかなにもなかった。だから甲洋……嘘にしないで。全部ほんとのことにしちゃえばいいよ。おれには甲洋しかいないって、もういちど言ってよ」 おれのこと嫌いでもいいからと、操は言った。 「だって、そうじゃなきゃ、おれの気持ちまで嘘になっちゃう。そんなの、やだよ」 甲洋は止めどなく溢れる涙に歯を食いしばり、緩く首を振る。 だってそんなの、あんまりだ。 「俺、は」 あまりにも、狡いではないか。 「俺は、ただ怖くて……否定されたことが、怖くて……」 「うん……」 「思い通りになるなら、きっと誰でも、よかったんだ……お前が特別だったからじゃ、ない……他の誰が相手でも、俺はきっと、同じことをしたんだよ……」 「……うん」 「そんなの、ずるいだろ……? お前なんかどうでもいいって……思い通りにならないなら、傷つけたっていいって……傷つけてでも、欲しいだなんてさ……」 泣き方を知らない子供のように、甲洋は言葉を詰まらせながら心の中身をぶちまける。 「こんな気持ち、間違ってるだろ? 許せないだろ? こんな俺が今さら……今さらお前のことが好きなんて、そんなの……」 操は泣いている甲洋の頭をゆるりと撫でながら「うん」と小さく頷いた。 「……それじゃあやっぱり、君にはおれしかいないんだ」 「ッ、……?」 操は甲洋の頬を両手で包み込むと、そっと肩から引き離す。真っ赤な目をして泣いている顔を見て、涙目で笑うと額同士をくっつけた。 「君みたいなやつ、なんて言うか知ってるよ。めんどくさいんだ。こんなのを好きでいられるなんて、きっとおれしかいないでしょ?」 「くるす……」 「だから甲洋には、おれしかいない」 抗毒血清。 「おれしかいないんだよ」 少しずつ、少しずつ身体を蛇の毒で侵していって、中和するための抗体を作る。 操は、甲洋の毒を喰ってしまった。 喰らいつくして、嘘を真実に、変えてしまったのだ。 * 「好きだよ甲洋……ねぇ、大好き……ぁ、こう、よ」 甘く上ずった声が甲洋の名を呼んで、喘ぎながら、何度も好きと繰り返す。 それは甲洋の芯に深く爪を立てるように絡みついて、熱く、柔らかく、蕩けさせていった。 「あッ、痛い……こぉよ……あぁ、ぁ……痛い、よぉ……」 甲洋は下から操を貫いていた。あのあと夢中でキスをして、服すら満足に脱がないままに、繋がった。 愛撫もそこそこに、ただ薄っすらと滲んだ互いの体液だけを頼りに。まだ解れきっていない大事な場所をこじ開けて、揺さぶっている。 甲洋は痛みを一身に受ける操の身体を掻き抱いて、操は甲洋の首にしがみついて、汗を振りまきながら互いを貪り合っていた。ベッドが軋み、換気をしていない室内は性の匂いで蒸している。 「ごめん、来主……ぁ、ッ、ごめん、ごめ、ん」 性急な行為に悲鳴をあげる身体を、甲洋は欲望のままに幾度も突き上げた。優しくしたいのに、その首筋に顔を埋めながら、それでも腰が止まらない。 操のなかは熱く甲洋を締めつけて、鈍い水音を響かせながらさらに奥へと誘い込もうとしているようだった。ずん、ずん、と衝撃を与えるたび、甲洋の上に跨る身体が大きくしなる。 彼は泣きながら笑い、首を振りながら「いいよ」と言った。 「許すから……ぁ、う、甲洋のこと、許すから……」 ──許すから。 ああ、きっと、甲洋の嘘が毒ならば、彼の言葉は魔法のようだ。 甘く拙く、とろとろに煮込んだ果実に、幾つも幾つも角砂糖を放り込んでいくような。喉が焼けるほどの甘味もまた、きっと毒であることに違いない。 操の魔法は、甲洋の心を真綿でそっと締め上げる。痛苦しさの中に生まれて初めて安らぎを覚えた甲洋は、涙を流しながら自分自身と向き合った。 (父さん母さん……ごめんなさい……) 甲洋はずっと許されたかった。 そこにいることを許されたかった。 どうか否定しないで。どうかどうか、俺を愛して。 そんなふうにいつまでも求め続ける自分を、許してほしかった。 島を出たのも、本当は引き止めてほしかったからだ。 父から初めて電話がきたとき、そろそろ帰って来いと、そう言ってくれるのではないかと期待した。 戻ってきたのは、いつかふたりが帰ってくるかもしれないと思ったから。 この店を守っていれば、そのうちひょっこり顔を出して、また最初からやり直そうと言ってくれるかもしれないと。 今までよくやったなと、立派になったなと、褒めてほしかった。 (ずっと諦められなくて、ごめんなさい) だけどその未練を、期待を、甲洋は操を抱きながら手放した。 (諦めたから、だから) もう、いい。 「好きだよ」 甲洋は言った。抽送の合間に、操の耳たぶに鼻先を押しつけて。 自分の気持ちを疑うことに疲れてしまった。本当は誰でもよかった。だけどきっと、そうじゃない。都合がよくたっていい。狡くたっていい。後付けだって構わない。だってこんなに好きだ。この子でよかったと、甲洋の心と身体は、こんなにも喜んでいる。 「好きだ、来主……好きだよ……好きに、なったんだ……」 操の身体がビクリと跳ねて、甲洋を食んでいる秘所がさらにきゅうっときつく締まった。 彼は赤かった全身をもっともっと染め上げて、甲洋の顔を間近に見ながら唇を戦慄かせる。 「来主に会えて、よかった」 多分きっと最初から、依存していたのは甲洋だった。 依存されることに依存していた。それはとても愚かなことで、だけどこのまま、変わることなんかできないのかもしれない。 だけど操が許すなら。許してくれるなら。甲洋はこの愛を、信じてみたかった。 「うん……おれも嬉しいよ。甲洋に会えたこと」 こんな幸せを、甲洋は知らない。 受け止めきれなくて、内側から溢れ出してしまいそうだった。だけど一滴も手放したくなくて、全部この身体に注ぎ込みたいと思った。嬉しい。嬉しい。もうなにも、言葉にならない。 「あッ! ふぁ……っ!」 操を抱いたまま、甲洋は体勢を変えるとベッドにその身を押し倒す。両足をギリギリまで開かせて、体重をかけながら奥まで突き上げると、深く身体を折られた操の腰がシーツからすっかり浮いた状態になった。 「ひッ、ぃ! あッ、あう、ぁ……っ、ふか、い! こうよ、深い、よぉ……!」 シャツ越しに操が背中に爪を立てる。性急にことを進めてしまったせいで、その薄い布越しの感覚にもどかしさを覚えた。 大きく身体を揺さぶるたびに、操の小さな屹立が揺れる。先走りの蜜がとろとろと零れて腹を伝い、胸のあたりまでたくし上げられているシャツまでしっとりと濡らしていった。 快感の痺れが背筋を這い上がり、頭の天辺まで響き渡る。なにも考えられなくなって、急いたように動物めいた息だけが大きくなっていく。 「う、ッ、ぁ、来主……、来主、いく……ぁっ、出したい、ナカ、に」 色づいた全身をぶるぶると震わせながら、操は何度も首を縦に振った。甲洋の腰に絡みつく、柔らかな腿が痙攣している。 操の赤い屹立を手のひらですっぽり包み込むと、ぐちぐちと水音を立てながら小刻みに扱いた。前と後ろを同時に責められ、操の唇から打ち据えられた子犬のような悲鳴があがる。目がくらみそうになるほどの興奮に甲洋もまた小さく喘いで、絡みつく肉壁に逆らいながら奥を突く。 焼け爛れそうな熱に、頭の中が白く染まった。 「あぁッ、こうよ、甲洋……っ、ぁう、ぁ、あぁ──……ッ!」 同時に飛沫をあげながら、ぎゅうと強く抱き合って震えた。早鐘をうつ鼓動が、荒々しい息が、もうどちらのものか分からないくらい、ひとつに溶け合っているのを感じる。 長く尾を引くような絶頂に、目の前で星がキラキラと舞い踊っていた。怖いくらい、気持ちがいい。操はか細い声で喘ぎながら、甲洋の迸りを全て薄い臓腑に受け止める。 「こう、よ」 ふやけた声で甲洋の名を呼びながら、操のしっとりと汗ばむ両腕が甲洋の頭を抱きかかえ、癖のある焦げ茶を梳かすように何度も撫でた。 ふと、抱かれているのは俺のほうだと、甲洋は思った。守られているような安堵すら込み上げて、自分より身体の小さな少年の腕のなかで、甲洋はまた少し泣いてしまった。 ←戻る ・ 次へ→
甲洋が知らない、操の話。
ひとつひとつ紡がれるたびに感情と共に溢れる涙は、薄ぼんやりとした部屋の中で星屑のようにキラキラと煌めいている。
その美しさに呆然としながら、甲洋は今まで一騎や真矢が言いかけていた言葉の先が、なんとなく想像できたような気がした。
彼は拙い反発心から甲洋に興味を抱いた。
甲洋のことが気になって、総士と一騎だけに留まらず、島中の人に話を聞いて回っていた。そしてその中には、あの両親さえも含まれていたのだ。
──あのね甲洋
朝、カウンター席で並んで朝食を食べたあと。
寂しいのかと聞いてきた操に、甲洋はキスをして、寂しくないよとまた嘘をついた。
それでも彼はほっとした顔を見せ、それから、なにかを言いかけていた。
──おれ、前にね、ここで君の
あの場所で、操は甲洋の孤独に触れていたのだ。
だからあんなに心配そうに、不安そうに問いかけてきた。甲洋を愛さなかったひとたちがいたあの場所で、甲洋を愛しながら、寄り添おうとしていた。
けれど甲洋は嘘をついた。寂しかった。独りでいるよりもずっと、あのときの甲洋は孤独を感じていた。だって明日にはもう、この子はいないのだと思っていたから。ありのままの自分を好いてくれる人間など、どこにもいないのだと思っていたから。
だから気づけなかった。
本当は、もうずっと前から求めていたものが傍にあったということに。
甲洋は真実の愛が欲しかった。
だけどきっと、そんなものが本当にこの世界に存在するなんて、信じていなかったのは甲洋自身だったのかもしれない。
「あのね、好きなひとしか触っちゃダメって言ったの……あれはね、おれのこと好きじゃないひとは、触っちゃダメって意味だったんだよ」
操は耳の際まで真っ赤にしながら、俯いてもじもじと肩を揺らした。
「だっておれは、甲洋に嫌われることばかりしてたもの」
白い手を握りしめ、彼は子供っぽくグイッと涙を拭った。そんなに乱暴にこすったら腫れてしまう。だけど甲洋は喉が詰まったようになっていて、なにも言うことができなかった。
「最初にちゃんと好きって言えなくて……ごめん」
ひたむきに想いを告げる姿に、胸が張り裂けそうになる。
そこにいるのは初恋に頬を染める少年で、甲洋はこれを平然と穢したのだ。すでに消えない傷を負っている彼の身体を、心を、大事に守っていた場所を暴いて、その尊厳を踏み散らかした。
「でも、初めてだったから……ああいうことするのも、誰かをこんなふうに好きになるのも、おれ、初めてだったから……なんて言ったらいいか、わかってなかった。怖かったし、痛かったし、恥ずかしかったから……」
せっかく拭った瞳から、操はまた涙を流した。何度も鼻をすすっているのを見て、甲洋はどうしたらいいか分からなくなる。ただ身体が震えていた。
未だになにひとつ言葉を発せないまま、衝動的にその身体を引き寄せて、強く抱きしめる。
「こ、こうよ」
「……ごめん」
それしか言えなかった。
「ごめん、来主……ごめん……ごめんな……」
もうなにに対しての謝罪なのか分からないくらい、甲洋は操の肩に目元を押しつけ、そればかりを繰り返した。声は濡れて、酷く掠れて上ずっていた。
甲洋はこの純粋な少年の心を、身体を、たくさんたくさん傷つけた。自分の孤独を埋められさえすればそれでよかった。そこにある痛みも、生まれたばかりだった淡い感情も、なにひとつ知らないで。
それでも彼はしなやかな両腕を甲洋の背に回し、力いっぱい抱き返してくる。
「ねぇ、おれは甲洋が好きだよ。君がどんなに酷いやつでも、ちゃんと好きだよ。嫌なことなんかなにもなかった。だから甲洋……嘘にしないで。全部ほんとのことにしちゃえばいいよ。おれには甲洋しかいないって、もういちど言ってよ」
おれのこと嫌いでもいいからと、操は言った。
「だって、そうじゃなきゃ、おれの気持ちまで嘘になっちゃう。そんなの、やだよ」
甲洋は止めどなく溢れる涙に歯を食いしばり、緩く首を振る。
だってそんなの、あんまりだ。
「俺、は」
あまりにも、狡いではないか。
「俺は、ただ怖くて……否定されたことが、怖くて……」
「うん……」
「思い通りになるなら、きっと誰でも、よかったんだ……お前が特別だったからじゃ、ない……他の誰が相手でも、俺はきっと、同じことをしたんだよ……」
「……うん」
「そんなの、ずるいだろ……? お前なんかどうでもいいって……思い通りにならないなら、傷つけたっていいって……傷つけてでも、欲しいだなんてさ……」
泣き方を知らない子供のように、甲洋は言葉を詰まらせながら心の中身をぶちまける。
「こんな気持ち、間違ってるだろ? 許せないだろ? こんな俺が今さら……今さらお前のことが好きなんて、そんなの……」
操は泣いている甲洋の頭をゆるりと撫でながら「うん」と小さく頷いた。
「……それじゃあやっぱり、君にはおれしかいないんだ」
「ッ、……?」
操は甲洋の頬を両手で包み込むと、そっと肩から引き離す。真っ赤な目をして泣いている顔を見て、涙目で笑うと額同士をくっつけた。
「君みたいなやつ、なんて言うか知ってるよ。めんどくさいんだ。こんなのを好きでいられるなんて、きっとおれしかいないでしょ?」
「くるす……」
「だから甲洋には、おれしかいない」
抗毒血清。
「おれしかいないんだよ」
少しずつ、少しずつ身体を蛇の毒で侵していって、中和するための抗体を作る。
操は、甲洋の毒を喰ってしまった。
喰らいつくして、嘘を真実に、変えてしまったのだ。
*
「好きだよ甲洋……ねぇ、大好き……ぁ、こう、よ」
甘く上ずった声が甲洋の名を呼んで、喘ぎながら、何度も好きと繰り返す。
それは甲洋の芯に深く爪を立てるように絡みついて、熱く、柔らかく、蕩けさせていった。
「あッ、痛い……こぉよ……あぁ、ぁ……痛い、よぉ……」
甲洋は下から操を貫いていた。あのあと夢中でキスをして、服すら満足に脱がないままに、繋がった。
愛撫もそこそこに、ただ薄っすらと滲んだ互いの体液だけを頼りに。まだ解れきっていない大事な場所をこじ開けて、揺さぶっている。
甲洋は痛みを一身に受ける操の身体を掻き抱いて、操は甲洋の首にしがみついて、汗を振りまきながら互いを貪り合っていた。ベッドが軋み、換気をしていない室内は性の匂いで蒸している。
「ごめん、来主……ぁ、ッ、ごめん、ごめ、ん」
性急な行為に悲鳴をあげる身体を、甲洋は欲望のままに幾度も突き上げた。優しくしたいのに、その首筋に顔を埋めながら、それでも腰が止まらない。
操のなかは熱く甲洋を締めつけて、鈍い水音を響かせながらさらに奥へと誘い込もうとしているようだった。ずん、ずん、と衝撃を与えるたび、甲洋の上に跨る身体が大きくしなる。
彼は泣きながら笑い、首を振りながら「いいよ」と言った。
「許すから……ぁ、う、甲洋のこと、許すから……」
──許すから。
ああ、きっと、甲洋の嘘が毒ならば、彼の言葉は魔法のようだ。
甘く拙く、とろとろに煮込んだ果実に、幾つも幾つも角砂糖を放り込んでいくような。喉が焼けるほどの甘味もまた、きっと毒であることに違いない。
操の魔法は、甲洋の心を真綿でそっと締め上げる。痛苦しさの中に生まれて初めて安らぎを覚えた甲洋は、涙を流しながら自分自身と向き合った。
(父さん母さん……ごめんなさい……)
甲洋はずっと許されたかった。
そこにいることを許されたかった。
どうか否定しないで。どうかどうか、俺を愛して。
そんなふうにいつまでも求め続ける自分を、許してほしかった。
島を出たのも、本当は引き止めてほしかったからだ。
父から初めて電話がきたとき、そろそろ帰って来いと、そう言ってくれるのではないかと期待した。
戻ってきたのは、いつかふたりが帰ってくるかもしれないと思ったから。
この店を守っていれば、そのうちひょっこり顔を出して、また最初からやり直そうと言ってくれるかもしれないと。
今までよくやったなと、立派になったなと、褒めてほしかった。
(ずっと諦められなくて、ごめんなさい)
だけどその未練を、期待を、甲洋は操を抱きながら手放した。
(諦めたから、だから)
もう、いい。
「好きだよ」
甲洋は言った。抽送の合間に、操の耳たぶに鼻先を押しつけて。
自分の気持ちを疑うことに疲れてしまった。本当は誰でもよかった。だけどきっと、そうじゃない。都合がよくたっていい。狡くたっていい。後付けだって構わない。だってこんなに好きだ。この子でよかったと、甲洋の心と身体は、こんなにも喜んでいる。
「好きだ、来主……好きだよ……好きに、なったんだ……」
操の身体がビクリと跳ねて、甲洋を食んでいる秘所がさらにきゅうっときつく締まった。
彼は赤かった全身をもっともっと染め上げて、甲洋の顔を間近に見ながら唇を戦慄かせる。
「来主に会えて、よかった」
多分きっと最初から、依存していたのは甲洋だった。
依存されることに依存していた。それはとても愚かなことで、だけどこのまま、変わることなんかできないのかもしれない。
だけど操が許すなら。許してくれるなら。甲洋はこの愛を、信じてみたかった。
「うん……おれも嬉しいよ。甲洋に会えたこと」
こんな幸せを、甲洋は知らない。
受け止めきれなくて、内側から溢れ出してしまいそうだった。だけど一滴も手放したくなくて、全部この身体に注ぎ込みたいと思った。嬉しい。嬉しい。もうなにも、言葉にならない。
「あッ! ふぁ……っ!」
操を抱いたまま、甲洋は体勢を変えるとベッドにその身を押し倒す。両足をギリギリまで開かせて、体重をかけながら奥まで突き上げると、深く身体を折られた操の腰がシーツからすっかり浮いた状態になった。
「ひッ、ぃ! あッ、あう、ぁ……っ、ふか、い! こうよ、深い、よぉ……!」
シャツ越しに操が背中に爪を立てる。性急にことを進めてしまったせいで、その薄い布越しの感覚にもどかしさを覚えた。
大きく身体を揺さぶるたびに、操の小さな屹立が揺れる。先走りの蜜がとろとろと零れて腹を伝い、胸のあたりまでたくし上げられているシャツまでしっとりと濡らしていった。
快感の痺れが背筋を這い上がり、頭の天辺まで響き渡る。なにも考えられなくなって、急いたように動物めいた息だけが大きくなっていく。
「う、ッ、ぁ、来主……、来主、いく……ぁっ、出したい、ナカ、に」
色づいた全身をぶるぶると震わせながら、操は何度も首を縦に振った。甲洋の腰に絡みつく、柔らかな腿が痙攣している。
操の赤い屹立を手のひらですっぽり包み込むと、ぐちぐちと水音を立てながら小刻みに扱いた。前と後ろを同時に責められ、操の唇から打ち据えられた子犬のような悲鳴があがる。目がくらみそうになるほどの興奮に甲洋もまた小さく喘いで、絡みつく肉壁に逆らいながら奥を突く。
焼け爛れそうな熱に、頭の中が白く染まった。
「あぁッ、こうよ、甲洋……っ、ぁう、ぁ、あぁ──……ッ!」
同時に飛沫をあげながら、ぎゅうと強く抱き合って震えた。早鐘をうつ鼓動が、荒々しい息が、もうどちらのものか分からないくらい、ひとつに溶け合っているのを感じる。
長く尾を引くような絶頂に、目の前で星がキラキラと舞い踊っていた。怖いくらい、気持ちがいい。操はか細い声で喘ぎながら、甲洋の迸りを全て薄い臓腑に受け止める。
「こう、よ」
ふやけた声で甲洋の名を呼びながら、操のしっとりと汗ばむ両腕が甲洋の頭を抱きかかえ、癖のある焦げ茶を梳かすように何度も撫でた。
ふと、抱かれているのは俺のほうだと、甲洋は思った。守られているような安堵すら込み上げて、自分より身体の小さな少年の腕のなかで、甲洋はまた少し泣いてしまった。
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