2025/09/14 Sun 三日後。 操は総士に呼び出され、彼が通う大学にある食堂を訪れていた。 「すまない。急に呼び出して」 白のニットセーターの袖を、なんとはなしにいじくりながら広い食堂の片隅に座っていると、眼鏡に白衣姿の総士がやってきた。 向かい側に腰かけた彼に首を振った操の頬は、このたった三日間で少しやつれて目の下に隈を作っている。 「そのぶんだと、あまりうまくいってないようだな」 「いくわけないじゃん~……同じ空間にいるだけでオシッコ漏れそうだよぉ」 深く長い息を漏らして、操はテーブルに突っ伏した。 「本当にすまない。なるべく様子を見に行くようにはするが」 「うぅん。だって総士は忙しいし。一騎にも頼めないもんね……わかってるよ」 あまり愚痴っぽくなれば、総士が気に病む。操に頼むことがどれほど無謀か、きっと彼が一番よく分かっているだろうから。証拠に、総士はなんともいえない様子で苦笑いをして見せる。 「彼の様子はどうだ」 テーブルに突っ伏していた操はのろのろと上体を起こし、自分でも驚くほど冴えない声で「うーん」と唸っていた。 「変わりない、と思うよ。喋らないし、笑わない。夜はおれのベッドを使ってもらってるけど、それ以外はずっと本棚の横に座ってる。あとはときどき窓の外を眺めてるくらいかな。ただ……」 「ただ?」 「ご飯を食べてくれない。おれの料理が下手すぎて、食べる気が起きないだけかもしれないけど」 操はこの三日というもの、慣れないなりに頑張っていた。 朝はパンと玉子(黒焦げ)とサラダにスープ、昼はバイトで不在のときも多いため、おにぎり(ボロボロ)を握って置いておき、夜は肉を焼いたり(生焼けな上に調味料を忘れて無味)などなど……。 確かに、思いだすだけでも酷い出来のブツばかりを作りだしている自覚はあった。 テーブルの上でモジモジと擦りあわせたりしている操の指先には、何枚もの絆創膏が巻きつけられていた。包丁なんてまともに扱った試しがない。しょっちゅう指を切ったり、火傷を負ったりしてメソメソと泣いてばかりだ。 総士はそれを痛ましそうに見たあと、難しい顔をして息を漏らした。 「何か対策を練った方がよさそうだな」 「料理教室に通うとか……?」 「一騎に習うというのも手だが」 「あっ、そういえば一騎はどうなの? 元気になった?」 「ああ、だいぶ落ち着いた」 総士が小さく笑う。その様子を見て操は胸を撫で下ろしたが、総士はすぐに表情を引き締めると「ここからが今日の本題だ」と切り出した。 「お前を呼んだのは、彼がいない場所で話しておきたいことがあったからだ」 どこか重々しい雰囲気を察して、操は思わず姿勢を正す。 何かとても言いにくいことを言おうとしているのが、その口ぶりから感じとることができた。 「単刀直入に言う。甲洋は、元の飼い主によって虐待されていた」 「虐待!?」 咄嗟に声を張り上げてしまう。食堂内はそれほど混雑してはいないものの、幾人かから訝しげな視線を向けられてしまった。 操は思わず背中を丸め、声を潜める。 「虐待って……じゃあ、あの子の飼い主は……?」 「探しているのは、彼の新しい飼い主になってくれる人間だ」 「そうだったんだ……」 操は俯き、白く光沢のあるテーブルへと視線を落とす。 甲洋はてっきり迷子犬なのだとばかり思いこんでいた。しかしあの心の閉ざし方を思えば、嫌でも納得せざるをえなかった。彼が厚い壁を作っていることは、操の目から見ても明らかだ。 苦い錠剤を噛み潰してしまったかのように、胸に不快なものが込み上げる。 「酷い。そんなのってないよ……」 「……ネグレクトが主だったようだ。真冬のベランダに長く放置されている姿を、一騎が視た」 「視た? それって、読心能力っていうやつで?」 「そうだ」 総士の話はこうだった。 彼らの相性は、決して最初から悪いものだったわけではない。甲洋は一騎にまるで関心がない様子だったし、合う合わないでいえば、むしろ波長は合っているような印象を総士は受けた。 ただ幾度か対話を試みる段階で一騎が意図せず彼の記憶を『視て』しまったことが、甲洋の感情を激しく揺さぶり、刺激してしまったのだと。 「怒ったの? あの子が?」 「僕も驚いた。酷く唸りながら、一騎を突き飛ばした」 一騎は感受性が豊かで、イヌの中でも特に優れた読心能力を持っていた。 甲洋の記憶を視てしまったのは、その力の強さがゆえに起きてしまった、ある種の事故といっても過言ではない。 どんな生き物だって、常に気を張り詰めていることは不可能だ。頑なに警戒心を解こうとしなかった甲洋にも、一瞬の気の緩みから心の解れは生じてしまった。そのとき傍に一騎がいたというだけの話だ。 「一騎は甲洋に心を砕いていた。その気持ちが強すぎたんだろう」 閉ざされた心に寄り添おうとする気持ちが、甲洋の最も触れられたくない場所を暴いてしまうという結果になった。 一騎は無遠慮に誰かの心に踏み込むようなイヌではない。けれどそこにどんな要因があるにせよ、踏み込まれた方には関係のない話だ。甲洋が混乱して感情的になってしまったとしても、誰も責めることはできない。 それが触れられたくない場所であればあるほど、自己を守ろうとする本能が働いてしまうのだ。 「だから一騎、落ち込んじゃったんだね」 「記憶に引きずられて同調してしまったというのもあるだろうが……多くは罪悪感だろうな」 一騎は悪くない。もちろん、甲洋もだ。 「ねぇ総士、その元の飼い主が、今どこにいるか分かる?」 「なにをするつもりだ」 「決まってるじゃん! そんな酷いことするなんて、一度ガツンと言ってやらなきゃ気が済まない!」 総士は溜息をつきながら首を左右に振り「やめておけ」と言った。 「なんで!」 「気持ちは分かるが、不可能だ」 「だからなんで?」 「……来主、僕らが通っていた中学校の近くに、喫茶店があったのを覚えているか?」 「え?」 突然の問いかけに戸惑いながらも、操は記憶の引き出しを探りだす。 自分と総士が通っていた高校。竜宮中学校だ。その近くに、確かに一軒だけ喫茶店があったことは記憶している。 「楽園、だっけ。一度も行ったことはないけど……それがなに?」 「そこは三ヶ月近く前に閉店し、今はもぬけの殻になっている。オーナー夫婦はその二階に住んでいたが、引っ越して現在の消息は不明だ」 「甲洋はそこんちの子だったの?」 総士が頷く。操はやり場のない憤りを覚えた。虐待の末に、そのまま置き去りにして引っ越してしまったということだ。そんなことをするくらいなら、どうして動物を飼おうなんて思ったのだろう。 操は涙が滲むのを止められなかった。 「ッ、お前が泣いたって仕方がない」 「わかってるよぅ……」 「……いや、その。すまない」 総士は白衣のポケットから綺麗に折りたたまれたハンカチを取りだすと、ぎこちない様子で操に差し出してくる。操は遠慮なくそれを受け取り、涙を拭うと少しだけ笑った。 「ありがとう総士。大丈夫、総士が言いたかったこと、おれわかるよ」 ただ一言「泣くな」と言えない不器用な従兄弟だ。 総士は操を泣かせるつもりなんかなかったし、甲洋のことも一騎のことも深く心配している。その優しさはハンカチを通してちゃんと伝わってきた。 涙を拭いながら、つくづく彼の傍にいるのが一騎でよかったと思う。イヌは同種間ほどではないにしろ、人間の心を感じとる力があるらしいから。 彼はきっと子供の頃から一緒にいるはずの操よりも、ずっと総士のことを理解している。 (おれと甲洋は、絶対にそんなふうにはなれないだろうな) 操はどうしたってイヌが怖いし、甲洋はきっと人間という生き物に何も期待していないだろう。あの瞳に映る自分は、彼を捨て去った楽園のオーナー夫婦となにも変わらないのかもしれない。 嫌だと思うのに、それをどうにかするだけの力がないことは操が一番よく知っていた。 甲洋の心を癒し、幸せにできる人間はきっとどこか他にいるはずだ。それを信じて、今は待つしかない。 「おれも飼い主になってくれそうな人、探してみるよ。あと、もうちょっとまともなご飯も作れるようにならないと」 「お前に関してはそちらが最優先事項だろうな」 「だよねぇ」 力なく笑いながら肩を落とした操からハンカチを受け取ると、総士は「そういえば」と言って発券機の方を見た。 「なにか食べていくか? 世話になっている礼だ。好きなものを選ぶといい」 「え!? いいの!?」 喜びかけた操だが、けれどすぐに思い直して首を左右に振った。 「やっぱいいや。おれだけ外でまともなもの食べるなんて、なんか悪いもん」 甲洋だって、本当はきっとお腹を空かせているに違いないのだ。 がんばってもう少しいいものが作れたら、次こそちゃんと食べてくれるかもしれない。そのときは、できれば一緒に食べたいと思う。 同様の理由で、ここ数日はバイト先のまかないも食べずに我慢している。昼は甲洋に握ったのと同じ、ボロボロのおにぎりを持参して食べていた。 「そうか」 「うん。甲洋が待ってる……かは分からないけど、おれもう帰るよ」 隣の椅子に丸めて置いていたモッズコートを引き寄せると席を立った操に、総士は優しく目を細めながらふわりと笑った。 「来主」 「ん、なに?」 「お前に頼んでよかった」 ひとつもまともに世話などできていないのだが。 総士に言われると嬉しくて、操は頬を赤らめながら「ありがとう」と笑って肩をすくめた。 ←戻る ・ 次へ→
操は総士に呼び出され、彼が通う大学にある食堂を訪れていた。
「すまない。急に呼び出して」
白のニットセーターの袖を、なんとはなしにいじくりながら広い食堂の片隅に座っていると、眼鏡に白衣姿の総士がやってきた。
向かい側に腰かけた彼に首を振った操の頬は、このたった三日間で少しやつれて目の下に隈を作っている。
「そのぶんだと、あまりうまくいってないようだな」
「いくわけないじゃん~……同じ空間にいるだけでオシッコ漏れそうだよぉ」
深く長い息を漏らして、操はテーブルに突っ伏した。
「本当にすまない。なるべく様子を見に行くようにはするが」
「うぅん。だって総士は忙しいし。一騎にも頼めないもんね……わかってるよ」
あまり愚痴っぽくなれば、総士が気に病む。操に頼むことがどれほど無謀か、きっと彼が一番よく分かっているだろうから。証拠に、総士はなんともいえない様子で苦笑いをして見せる。
「彼の様子はどうだ」
テーブルに突っ伏していた操はのろのろと上体を起こし、自分でも驚くほど冴えない声で「うーん」と唸っていた。
「変わりない、と思うよ。喋らないし、笑わない。夜はおれのベッドを使ってもらってるけど、それ以外はずっと本棚の横に座ってる。あとはときどき窓の外を眺めてるくらいかな。ただ……」
「ただ?」
「ご飯を食べてくれない。おれの料理が下手すぎて、食べる気が起きないだけかもしれないけど」
操はこの三日というもの、慣れないなりに頑張っていた。
朝はパンと玉子(黒焦げ)とサラダにスープ、昼はバイトで不在のときも多いため、おにぎり(ボロボロ)を握って置いておき、夜は肉を焼いたり(生焼けな上に調味料を忘れて無味)などなど……。
確かに、思いだすだけでも酷い出来のブツばかりを作りだしている自覚はあった。
テーブルの上でモジモジと擦りあわせたりしている操の指先には、何枚もの絆創膏が巻きつけられていた。包丁なんてまともに扱った試しがない。しょっちゅう指を切ったり、火傷を負ったりしてメソメソと泣いてばかりだ。
総士はそれを痛ましそうに見たあと、難しい顔をして息を漏らした。
「何か対策を練った方がよさそうだな」
「料理教室に通うとか……?」
「一騎に習うというのも手だが」
「あっ、そういえば一騎はどうなの? 元気になった?」
「ああ、だいぶ落ち着いた」
総士が小さく笑う。その様子を見て操は胸を撫で下ろしたが、総士はすぐに表情を引き締めると「ここからが今日の本題だ」と切り出した。
「お前を呼んだのは、彼がいない場所で話しておきたいことがあったからだ」
どこか重々しい雰囲気を察して、操は思わず姿勢を正す。
何かとても言いにくいことを言おうとしているのが、その口ぶりから感じとることができた。
「単刀直入に言う。甲洋は、元の飼い主によって虐待されていた」
「虐待!?」
咄嗟に声を張り上げてしまう。食堂内はそれほど混雑してはいないものの、幾人かから訝しげな視線を向けられてしまった。
操は思わず背中を丸め、声を潜める。
「虐待って……じゃあ、あの子の飼い主は……?」
「探しているのは、彼の新しい飼い主になってくれる人間だ」
「そうだったんだ……」
操は俯き、白く光沢のあるテーブルへと視線を落とす。
甲洋はてっきり迷子犬なのだとばかり思いこんでいた。しかしあの心の閉ざし方を思えば、嫌でも納得せざるをえなかった。彼が厚い壁を作っていることは、操の目から見ても明らかだ。
苦い錠剤を噛み潰してしまったかのように、胸に不快なものが込み上げる。
「酷い。そんなのってないよ……」
「……ネグレクトが主だったようだ。真冬のベランダに長く放置されている姿を、一騎が視た」
「視た? それって、読心能力っていうやつで?」
「そうだ」
総士の話はこうだった。
彼らの相性は、決して最初から悪いものだったわけではない。甲洋は一騎にまるで関心がない様子だったし、合う合わないでいえば、むしろ波長は合っているような印象を総士は受けた。
ただ幾度か対話を試みる段階で一騎が意図せず彼の記憶を『視て』しまったことが、甲洋の感情を激しく揺さぶり、刺激してしまったのだと。
「怒ったの? あの子が?」
「僕も驚いた。酷く唸りながら、一騎を突き飛ばした」
一騎は感受性が豊かで、イヌの中でも特に優れた読心能力を持っていた。
甲洋の記憶を視てしまったのは、その力の強さがゆえに起きてしまった、ある種の事故といっても過言ではない。
どんな生き物だって、常に気を張り詰めていることは不可能だ。頑なに警戒心を解こうとしなかった甲洋にも、一瞬の気の緩みから心の解れは生じてしまった。そのとき傍に一騎がいたというだけの話だ。
「一騎は甲洋に心を砕いていた。その気持ちが強すぎたんだろう」
閉ざされた心に寄り添おうとする気持ちが、甲洋の最も触れられたくない場所を暴いてしまうという結果になった。
一騎は無遠慮に誰かの心に踏み込むようなイヌではない。けれどそこにどんな要因があるにせよ、踏み込まれた方には関係のない話だ。甲洋が混乱して感情的になってしまったとしても、誰も責めることはできない。
それが触れられたくない場所であればあるほど、自己を守ろうとする本能が働いてしまうのだ。
「だから一騎、落ち込んじゃったんだね」
「記憶に引きずられて同調してしまったというのもあるだろうが……多くは罪悪感だろうな」
一騎は悪くない。もちろん、甲洋もだ。
「ねぇ総士、その元の飼い主が、今どこにいるか分かる?」
「なにをするつもりだ」
「決まってるじゃん! そんな酷いことするなんて、一度ガツンと言ってやらなきゃ気が済まない!」
総士は溜息をつきながら首を左右に振り「やめておけ」と言った。
「なんで!」
「気持ちは分かるが、不可能だ」
「だからなんで?」
「……来主、僕らが通っていた中学校の近くに、喫茶店があったのを覚えているか?」
「え?」
突然の問いかけに戸惑いながらも、操は記憶の引き出しを探りだす。
自分と総士が通っていた高校。竜宮中学校だ。その近くに、確かに一軒だけ喫茶店があったことは記憶している。
「楽園、だっけ。一度も行ったことはないけど……それがなに?」
「そこは三ヶ月近く前に閉店し、今はもぬけの殻になっている。オーナー夫婦はその二階に住んでいたが、引っ越して現在の消息は不明だ」
「甲洋はそこんちの子だったの?」
総士が頷く。操はやり場のない憤りを覚えた。虐待の末に、そのまま置き去りにして引っ越してしまったということだ。そんなことをするくらいなら、どうして動物を飼おうなんて思ったのだろう。
操は涙が滲むのを止められなかった。
「ッ、お前が泣いたって仕方がない」
「わかってるよぅ……」
「……いや、その。すまない」
総士は白衣のポケットから綺麗に折りたたまれたハンカチを取りだすと、ぎこちない様子で操に差し出してくる。操は遠慮なくそれを受け取り、涙を拭うと少しだけ笑った。
「ありがとう総士。大丈夫、総士が言いたかったこと、おれわかるよ」
ただ一言「泣くな」と言えない不器用な従兄弟だ。
総士は操を泣かせるつもりなんかなかったし、甲洋のことも一騎のことも深く心配している。その優しさはハンカチを通してちゃんと伝わってきた。
涙を拭いながら、つくづく彼の傍にいるのが一騎でよかったと思う。イヌは同種間ほどではないにしろ、人間の心を感じとる力があるらしいから。
彼はきっと子供の頃から一緒にいるはずの操よりも、ずっと総士のことを理解している。
(おれと甲洋は、絶対にそんなふうにはなれないだろうな)
操はどうしたってイヌが怖いし、甲洋はきっと人間という生き物に何も期待していないだろう。あの瞳に映る自分は、彼を捨て去った楽園のオーナー夫婦となにも変わらないのかもしれない。
嫌だと思うのに、それをどうにかするだけの力がないことは操が一番よく知っていた。
甲洋の心を癒し、幸せにできる人間はきっとどこか他にいるはずだ。それを信じて、今は待つしかない。
「おれも飼い主になってくれそうな人、探してみるよ。あと、もうちょっとまともなご飯も作れるようにならないと」
「お前に関してはそちらが最優先事項だろうな」
「だよねぇ」
力なく笑いながら肩を落とした操からハンカチを受け取ると、総士は「そういえば」と言って発券機の方を見た。
「なにか食べていくか? 世話になっている礼だ。好きなものを選ぶといい」
「え!? いいの!?」
喜びかけた操だが、けれどすぐに思い直して首を左右に振った。
「やっぱいいや。おれだけ外でまともなもの食べるなんて、なんか悪いもん」
甲洋だって、本当はきっとお腹を空かせているに違いないのだ。
がんばってもう少しいいものが作れたら、次こそちゃんと食べてくれるかもしれない。そのときは、できれば一緒に食べたいと思う。
同様の理由で、ここ数日はバイト先のまかないも食べずに我慢している。昼は甲洋に握ったのと同じ、ボロボロのおにぎりを持参して食べていた。
「そうか」
「うん。甲洋が待ってる……かは分からないけど、おれもう帰るよ」
隣の椅子に丸めて置いていたモッズコートを引き寄せると席を立った操に、総士は優しく目を細めながらふわりと笑った。
「来主」
「ん、なに?」
「お前に頼んでよかった」
ひとつもまともに世話などできていないのだが。
総士に言われると嬉しくて、操は頬を赤らめながら「ありがとう」と笑って肩をすくめた。
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