2025/09/14 Sun 柔らかな布団に折り重なる身体を沈めて、ぴったりと抱き合った。 重なる胸から少し早めの鼓動が伝わる。 甲洋が吐息混じりに操の名を呼び、そっと啄むような口づけを落とした。 (甲洋の唇、いつもより熱い) 繰り返し、触れるだけのキスをする。ちゅ、ちゅ、という濡れた音に呼吸が乱れ、やがてどちらからともなく口が開くと、甲洋の舌がどこか遠慮がちに潜り込んできた。 「ッ、ん」 操は少しだけ驚いて、肩をピクンと震わせる。 柔らかく濡れたそれは、大好きなオレンジジュースよりもずっと甘く感じた。もっとその味を確かめたくて、両腕で甲洋の頭を引き寄せる。 「ん、ぅッ……!」 ぎこちなく歯列をなぞった舌が操の舌先と擦れ合うと、背筋に小さな電気が走った。思考が溶けたようになり、操は一瞬でその感覚の虜になる。 自ら積極的に舌を差し出し、押し合うみたいにしながら絡め合う。 甲洋の舌は操のものよりも少しだけ大きかった。蕩けるような柔らかさと、頬の内側の滑らかさ。つるつるとした綺麗な歯の並び。こんなに深く口付けなければ決して知ることがなかった、甲洋の形。嬉しくて、胸がいっぱいになる。 「ふ、ぁ……ッ」 甲洋の舌先が操の舌の裏側を引っ掻いた。驚くほど甘い痺れが走って、頭の中がじんわりと蒸されように熱を帯びていく。どこで息をしたらいいかも分からず、クラクラと目眩がした。絡め合うほどに濡れた音が大きくなる。 (きもちいい……これ、食べたいな……) 覚えのある、あの衝動が込み上げる。 噎せるような桜の香りに侵されて、あの時の操は自覚もないままに欲情していたのだ。きっと甲洋もそうだったのだと思う。 もっと早く気づいていればと、口惜しさに焦がれた操は、甲洋の舌に緩く歯を立てた。 「ぅ、ぁ……っ!」 甲洋の身体がビクンと跳ねる。驚いた彼は咄嗟に唇を離してしまった。銀色の糸が名残を惜しむようにふたりを繋ぎ、やがて途切れて口端を伝う。 彼は真っ赤な顔で目を白黒させていた。うっすらと汗ばみ、はかはかと呼吸を乱して、濡れた唇さえも赤く染め上げている。その反応を、可愛いと思った。 「こうよう、かわいい」 「きゅ、急に、噛むな」 「ごめんね……痛かった?」 「痛くはない……だけど、ビックリするから」 黒い耳がペタリと下向き、微かに震えていた。毛がギザギザと逆立っている。 操はふと、さっきの甲洋の言葉を思いだした。食べたいからだと、彼はそう言った。同じだ。操もそうだった。恋しくて、愛しくて、だから食べてしまいたかった。 けれど彼は操にそんな欲望をぶつけることを恐れていた。きっと今も、本当は怖くて堪らないのだと思う。 (弱虫だな、甲洋は) 操はその大きな耳を優しく撫でた。可愛い。毛がふかふかとしていて、熱くて、肉厚で、ぷるぷると震えていて。 愛おしさに胸が締めつけられる。優しくて弱虫な、操だけのイヌ。 あげたいなと思った。甲洋が望むなら、なんだって。来主操の全部をあげたい。 「ねぇ、食べていいよ。もう我慢しないで」 甲洋は答えの代わりに喉を鳴らした。 「おれをあげる。だからおれを、甲洋の特別にしてね」 操は写真立ての中で笑っていた白猫のことを思いだした。 ただ朽ち果てるだけの廃墟になった楽園。始まりもせずに終わった初恋。雨が降る間際の濁った海。彼が失くしたもの。得られなかったもの全部。 全てを忘れない甲洋が、その全てを思い出にして、今は操だけをその瞳に映している。 甲洋が、泣きそうな顔をしながらふっと笑った。 「来主は、もうとっくになってるよ。俺の中で」 「本当? 嬉しい……甲洋、大好き。おれも君が、世界でいちばん特別だよ」 「……うん」 甲洋はたったそれだけ返すのが精一杯のようだった。操の身体を強く抱きしめ、吐く息を震わせている。同じだけの強さで抱き返しながら、操は彼の黒い尻尾が見たこともないくらい大きく揺れていることに気がついた。 嘘をつくことができないそこは、弾むように忙しなく左右に振られている。 「甲洋、かわ」 「もう可愛いって言うの禁止……お前の方が、ずっと可愛い」 「!」 耳元で言われ、操は肩を跳ねさせる。どちらかと言えば言われ慣れている言葉だけれど、甲洋に言われたのは初めてだ。 途端に恥ずかしくなって、もじもじとしながらその肩に目元を擦りつけた。 (そっか、好きなひとに可愛いって言われると、こんな気持ちになるんだ) 言った方も恥ずかしいのか、甲洋が首筋を赤く染めていた。まるで誘われているみたいな気がして、操はそこに唇を寄せるとちゅうっと音を立ててキスをする。 「ッ……!」 甲洋の身体がビクンと跳ねる。彼はもっともっと赤くなって操を見た。困っているようにも、怒っているようにも見える複雑そうな表情を、ふわふわとした気持ちで見つめる。 「お前、もう……知らないからな……」 低く呟きながら、甲洋が悩ましげに潤んだ瞳を細めて見せた。 * 剥ぎ取られたシャツが、布団の端で丸くなっている。 薄明かりの室内にはふたり分の忙しない呼吸が響き、熱気を立ち上らせていた。 「くぅ、んっ……ぁ、こう、よ」 耳の裏側や首周りを、甲洋の唇が何度も辿る。 操の身体に覆いかぶさり、彼は夢中で匂いを嗅いでは薄い皮膚を貪っていた。 操は初めての感覚にただ震えながら、甲洋にしがみつくことしかできない。彼が皮膚の上で鼻をすんすんと鳴らすたび、こそばゆさと羞恥に肌が染まった。 「ゃ、ぁ……!」 鎖骨を辿り、熱い舌が胸の片方に触れると、ちゅうと音を立てながら吸い付いてくる。 軽く歯を立てられ、腹の奥の方に向ってジンと何かが響くのを感じた。操はヒクヒクと身体を跳ねさせて、足先でシーツを掻く。 ともすれば一方的ともとれる甲洋の交尾前行動は、飽きることなく繰り返された。 身体中にゆるゆると手の平を這わせ、匂いを嗅いで、舌で味わい、歯を立てる。本能に従い、息を荒げながら、隅々まで貪ろうとするかのように。 けれど彼は決して操を乱暴に扱うことはしなかった。時おり緩く歯を立てても、強く吸い上げて花びらのような痕を残しても。余裕のない甲洋がギリギリのところで理性を繋ぎ止めているのが、素肌を通して伝わってくるような気がした。 「んっ、ぁ……ねぇ、におい……そんなに?」 「ッ、はぁ……うん、いい。来主の匂い、好きだ。興奮する」 「で、も、くすぐった、ぃ」 息も絶え絶えに泣き言を言う操に、甲洋は吐息だけで「ごめん」と言ったが、やめるつもりはないようだった。身体をひっくり返され、剥き出しになった白い項に緩く歯を立てられると、身体が面白いほど大きく跳ねる。 甲洋の唇が背中を辿り、肩甲骨のでっぱりを甘噛みしたあと、内側の緩やかな窪みにキスの雨を降らせる。そうしている間も、後ろから平らな胸をふにふにと揉みしだかれた。 「ふぁ、ん! ァ、は……っ」 執拗に繰り返される愛撫に、彼はやっぱりイヌなんだなと改めて思う。 まるで本当に食べられているみたいだ。けれど怖いとは微塵も感じなかった。むしろ甲洋になら、本当に頭からバリバリと食べられてしまったとしても許してしまいそうな気がする。 それに、くすぐったいだけじゃなくなってきているのも事実だ。 そこかしこを舐め回されているうちに、神経が剥き出しになったみたいに皮膚が敏感になっていた。やめてほしいような気がするのに、もっとして欲しいと思ってしまう。頭がぼうっとして、わけが分からなくなってきた。 「はふ……ッ、ん」 操の身体はもはやクタクタだ。甲洋の腕によって再び仰向けにひっくり返されても分からないくらい、思考がふやけきってどうしようもなくなっている。 「こう、よ……舐めるの、まだ、するのぉ?」 「……する」 ヒクつく身体に覆いかぶさっていた甲洋は半身を起こして膝立ちになると、邪魔くさいとばかりにシャツを乱暴な動作で脱ぎ捨てた。 その仕草がやけに男っぽくて、心臓がドキリと跳ね上がる。 頼りない明かりの中に浮き上がった素肌は、しっとりと汗ばんで艶を放っていた。細いように見えて、その身体はしっかりとした骨組みによって構成されている。広い肩幅にすら胸が疼くのを感じて、操はこくりと喉を鳴らした。 甲洋の指先がつうっと腹のラインをなぞった。ヒクンと身を震わせていると、やがてその人差し指が操のヘソの窪みを引っかく。一瞬、ピリリとしたものが走った。 「んっ……!」 甲洋が身体を下方へと移動させ、操のヘソに顔を寄せる。そして窪みに鼻を押し付け、すんすんと匂いを嗅いだ。 「ぇッ、や! そ、そこも嗅ぐのぉ?」 じわりと涙を浮かべ、身をよじる。しかし甲洋は操の腰を片腕でぐるりと抱き込み、動けないように固定すると、鼻先をグリグリと押し付けるようにしながら匂いを吸い込んだ。はぁ、と漏らされた息が熱い。 「ひゃッ、ぁ!」 舌が窪みにねじ込まれる。甲洋はそこを抉るように舐めほぐし、ちゅくちゅくと音を立てながら吸い上げた。ピリピリとした痺れが腹の奥へ向かって響き渡る。押さえ込まれている腰がビクビクと大きくのたうった。 「ぁうぅッ、んっ! や……おなか、ぁ、ジンジンして、ひびくよぉ……っ」 嫌々と首を振って悶えていると、甲洋の手が操のウエストにかかった。 下着ごと全て下ろされてしまうと、小ぶりな陰茎がぷるんと揺れながら顔をだす。それは少しだけ勃起して、先端が僅かに濡れていた。 全てを剥ぎ取られ、いよいよ丸裸にされた心許なさに肌が粟立つ。 「ぁ……やだ……!」 いつの間にかヘソから顔を上げていた甲洋が、それをじっと見つめて喉を鳴らしていた。 操は反射的に両膝を立てて閉じようとしたが、甲洋の身体が割り込んでいるせいでそれは叶わない。 「……色、薄いな」 「そう、なのかな……?」 「毛も薄い……というより、ほとんど……生えてない……?」 「おかしい……?」 「おかしくない。可愛い」 押し殺したような声で、即答だった。さっきは照れて恥ずかしそうにしていたくせに、甲洋は目の前のものに気をとられて、もはやそれどころではなくなっている。瞬きの回数も少ないし、まさに穴が空くほど見られているという状態だ。 これはかなり恥ずかしい。でも甲洋の尻尾は大きく揺れて嬉しそうだった。拒めば水を差してしまいそうで、操は逃げだしたいのをぐっと堪える。 「子供みたいだ、来主のここ」 「ッ、ぁ!」 甲洋の手が操のそれをゆるりと撫でた。操は握りしめた両手を胸に押しつけ、緊張と微かな不安から息をごくりと飲み込んだ。 恐る恐る見た甲洋の目は、普段の理知的な色を失いつつあった。肩で息をしながら、獲物を狩るような鋭さを滲ませている。これがオスの目なのかと、ぼんやり思う。 彼は無言で操の両膝に手をかけ、ぐっと割り開かせたと同時に躊躇なくそこに顔を寄せた。 「え、甲洋……!?」 緩く勃ち上がっている性器の付け根に、熱い息がかかる。赤ん坊の産毛のような淡い下生えに鼻を擦りつけられて、すんすんと匂いを吸い込まれた。 「そ、そんなとこ、嗅いじゃやだ!」 操は身体中を真っ赤に染め上げると、甲洋の髪を両手で掴んで引き剥がそうとする。だが彼は動じることなく操の太腿を外側からそれぞれ抱え込むようにして、より一層そこに執着しはじめた。 泣きながら身をよじっていると、吸い込むだけでは足りなくなってきた甲洋の唇が、性器に音を立ててキスをした。 「ひぁッ……!」 それは生まれて初めての感覚だった。繰り返しキスをされ、とろとろの舌を這わされる。その度にビクンビクンと身体が跳ね上がるのを止められない。 そのうち甲洋は辛抱たまらずといった様子で、操のものをぱっくりと口の中に収めてしまった。熱い口内でじゅうっと音を立てて吸い上げられると、内腿が小刻みに痙攣する。 「やっ、ああぁ!」 飴を転がすように舌で嬲られ、操は甲洋の頭に爪を立てながら嫌々と首を振る。焼けるような鋭い快感に押しだされ、涙が溢れて止まらない。 「こん、なっ、の……ッ、ぁッくぅ、ん! ァ、無理、ぃ……っ」 自慰だってまともにしたことがない身体だ。恋も性も、まるで興味が持てないまま、なんの疑問も抱かずに素通りしてきてしまった。そんな身体にこの刺激は強すぎる。 甲洋の口の中で、性器が痛いくらい張り詰めているのが分かった。 いやらしい水音を響かせながら舐めしゃぶられたそれに、緩く歯を立てられる。操は目を見開き、涙を散らしながら絶頂を迎えた。 「ひッ、ぃ、ッ──ァっ……──ッ!!」 波のように襲ってきたそれは、待ち構えていたかのように操を頭から飲み込んだ。 目の前が真っ白で、悲鳴をあげることすらままならない。ただ溺れたようにはくはくと口を開閉し、布団から浮き上がるほど背を反らす。やがて一気に突き落とされたように脱力した。 「ぁ、ッ……は、ぁ……ぁ……」 痺れるような余韻に身を震わせ、さまよわせた視線の先では、甲洋がごくりと喉を鳴らしていた。操が放ったもので濡れた下唇を、赤い舌がゆるりと舐めとっている。 「のんだ、の……?」 整わない呼吸のまま呆然と問えば、甲洋は目を細めながら頷いた。瞳を蕩けさせ、はぁっと熱っぽい息を漏らしている。 「う、うそぉ……」 操が小刻みに震えながら涙を溢れさせると、彼は「ごめん」と小さく謝罪した。 「今からもっと恥ずかしい思い、させると思う」 「な、ぇっ? うわぁッ!?」 布団にくたりと沈んでいた身体がひっくり返された。 甲洋は操の下腹に腕を回し、ぐっと持ち上げると膝を立たせる。上半身をシーツに突っ伏し、尻だけを高く突きだす体勢をとらされた。 「ッ……!?」 自分でも見たことがない奥まった場所に、痛いくらいの視線を感じる。 操が悲鳴をあげるより先に、甲洋の両手が尻たぶにかかった。彼はつるりと丸みを帯びたその片方に、ちゅっと音を立ててキスをする。 「ヒッ、やッ!? う、うそっ、そこもぉ!?」 尻の肉にまで吸い付かれ、操は思わず目を剥いた。 誰にも見せたことのない場所を、自分でも最低限触れることがない場所を、全て甲洋に暴かれている。信じられなくて、頭が混乱してしまう。 淡い谷間はさっきまで受けていた口淫によって、先走りと唾液でしとどに濡れていた。甲洋は薄い尻の肉キスをしながら、右手の人差し指を窄まりに這わせる。背筋にぞわりとしたものが駆け抜けた。 「やぁっ、やだ……ぁッ、こうよ……そんなとこ、だめだよぉ……っ!」 ぬるりと円を描くようにくすぐられて、思わず身を捩る。どうにかして逃れようとしたが、人差し指の先端がつぷりと挿し込まれると、身体が強張って動けなくなった。 「ひぅッ!?」 第一関節まで潜り込んだ指先が、マッサージをするかのように浅い場所を出入りする。濡れているせいか痛みはないが、えも言われぬ異物感が操の身体を苛んだ。 ときどき思いだしたように尻たぶにキスを落とされると、腰がヒクンと跳ねてしまう。 操はもう何がなんだか、わけが分からない状態になっていた。チクチクとささやかな水音を立てながらほぐされているうちに、そこからじわりと不可解な熱が広がっていくのを感じる。 皮膚がぞわぞわと粟立ち、背骨が抜き取られたみたいに力が抜けていった。 「ぁッ、ぁん……ッ、ぁ……は、ッ……!」 高く掲げた尻が、無意識にもじもじと揺れはじめる。甲洋が根気よく解きほぐそうとしている場所が、きゅんと疼いて切なくなってきた。 (なにこれぇ……お尻が変な感じになってきちゃったよぉ……) 半開きの瞳をとろりと蕩けさせていると、指がさらに深くまで押し入ってきた。 「あ、ぁ……ッ、指、甲洋の、ゆび、が……」 ほんのりと濡れて綻びかけた穴に、指がぬるりと深くまで侵入してくる。 異物感が増したところに圧迫感まで加わると、喉が詰まったようになってまともに声すら上げられない。 「ッ、ァ……っ」 じわじわと時間をかけて入り込んだ指が、ゆっくりと探るような動きで抜き挿しされる。内壁をぐるりと擦り上げる感触のリアルさに、操は指先が白く染まるほどシーツを握りしめた。 なんともいえない妙な心地だ。けれど根気よく何度も中を擦られているうちに、さっきよりもずっとおかしな感覚が込み上げてきた。 「ふぁぁっ、ぁ、ん……!」 飲み込む瞬間の苦しさが、引き抜かれる瞬間にはどうでもよくなってしまう。ずるりと抜けていく感覚が、背徳感を伴いながら身体の芯を駆け抜ける。とてもいけないことをしているような気がするのに、それが癖になりそうで少し怖い。 さっき達したはずの性器は、ゆるゆると再び勃ちあがりかけていた。それはこの行為に、身体が悦んでいる証だった。 「痛くない?」 「ぅ、ん……痛く、ない……でも、なんか、おしりが変……」 「痛かったら言って。傷つけたくないから」 「ん……」 甲洋の手が労るように腰を撫でる。押し殺した声で、それでも優しく囁かれた言葉にホッとして、操はシーツに頬を押しつけたままこくんと頷いた。 甲洋は時おり指に舌を這わせて潤いを足しながら、長い時間をかけて徐々に指を増やしていった。一本、二本と、やがて操のそこは三本もの指を飲み込んだ。圧迫感が比べ物にならないくらい増したが、そのぶんあのなんともいえない感覚も増す。ぐぷ、ぐぷ、という滑った水音にすら気持ちが高ぶっていくのを感じて、意味をなさない嬌声が止めどなく口から溢れた。 「ぁ、ぅッんっ……あ、ぁっ……ッ、ふ……ぁっ、ん……っ!」 「来主……いい?」 問いかけに、操は何度もこくこくと頷いた。 「い、い……ぁ、どうしよ……これ、きもち、い……ぁ、こう、よ」 「……よかった」 ホッとしたように甲洋が笑う。 操の身体はあまりにも素直に、そして柔軟に与えられる刺激を飲み込んでいた。誰のものでもなかった身体が、甲洋のためだけに作り変えられていくような気がする。操はそれを嬉しいと感じた。 だけど甲洋はずっと我慢したままだ。操が苦痛を感じずに済むよう時間をかける代わりに、彼は必死で欲求を抑え込んでいる。甲洋が熱い息を漏らす音を聞いて、操はどうしようもなく切ない気持ちになった。 「こう、よ」 首を捻って背後を見れば、酷く潤んだ瞳と視線が交わる。 「も……いい、よ」 「……まだ」 「早く、ねぇ甲洋」 息を呑んだ甲洋の指が、思わずといった様子で中からずるりと引き抜かれる。その感覚に身を震わせながら、操は身体を横に倒すと力が入らない両腕でどうにか半身を起こした。 「ねぇ、ほら……甲洋の、もうこんなだもん」 甲洋の身体の中心は目に見えて膨らみを帯びていた。テントを張ったようになっているそこは窮屈そうで、操は彼のヘソの下に手をかけると下着ごと掴んでグイとずらした。 「ッ!」 大きく肩を跳ねさせて、甲洋が唇を引き結ぶ。 ぐんと反り返っている屹立が、可哀想なくらい震えて血管を浮き上がらせていた。 それは操のものより一回り大きくて、バラの花のような濃い色をしていた。焦茶の下生えも十分に生え揃っている。同じ男で年齢もひとつしか違わないのに、どこか未発達なままの自分とは、まるで違ったものに見えた。 「甲洋のは、大人の形をしているね」 操はうっとりと呟き、右手でそっと太い竿に触れた。甲洋の肩が揺れる。 「これをおれのあそこに挿れるんでしょ? なんか嘘みたい」 手の中で、それはピクピクと健気に震えていた。そっと握り込めば、甲洋が喉の奥で低い呻きを漏らす。悩ましげに寄せられた眉と、赤い唇から忙しくなく溢れる吐息に興奮する。 遠慮がちにゆるゆると軽く撫でてみると、肉茎がより膨らみを増した気がした。甲洋の黒い大きな耳はすっかり倒れて、快感が走るたびに後ろの方では長い尻尾がピクンピクンと跳ねている。 (かわいい) 身体の芯が疼いた。食べてもらうつもりでいたのに、やっぱり食べたいと思ってしまう。可愛くて、大好きな甲洋を、いっそ頭から。 操は蕩けた思考で正面から彼に身を寄せた。その肩に両手を置くと膝立ちになり、甲洋の身体を跨ぐような姿勢をとる。 「く、来主」 戸惑いながらも期待と興奮を滲ませた瞳を見下ろし、操は笑った。 その頬に手をやって、震える耳にキスをする。唇でぱくりと食んで、ちゅうと音を立てながら吸いついてみた。 「ッ、ぅ、ぁ! く、来主……ッ」 「ぁ、んむ……ふふ、こうよう、耳、感じるんだ」 甲洋がわずかに身をよじり、操の腰を掴むように両手をかけた。こそばゆさに尻が揺れたが、操は構わず耳の内側に舌を這わせてぬるりと舐める。 「ぁ、こら……っ」 「はぁ……ねぇ、しよ……? 早く君と、ひとつになりたい」 耳に唇を押しつけたまま言った。 「……あぁ、くそ」 甲洋は操の平らな胸に額を押し付けながら、彼にしては珍しく乱暴な言葉を吐きだした。それからキッと睨むように操を見上げる。 「本当に、初めてなんだよな……?」 操はことりと首を傾げた。 「そうだよ。なんでそんなこと聞くの?」 「……別に。分かってるけど、なんとなく」 まるで玄人じみた誘い方をしてしまったなんて、操に分かるはずがない。ましてや蕩けきった表情が、ちぐはぐな幼さが、どれだけ扇情的であるのかなんて。 甲洋はなぜだか少しだけ苛立ったように唇を引き結び、操の身体を抱え込むと布団に押し倒した。そうすると自然と彼の腰を両足で挟み込む形になる。 伸し掛かってくる重みを受け止めて、操は胸を高鳴らせた。 膝裏にかかった手で足をいっそう開かされると、濡れた穴にその熱い切っ先が触れる。 (セックスするんだ、おれたち) あるいは交尾と呼ぶべきだろうか。ふわふわとした意識を掻き分けて、今さらのように実感が込み上げる。初めてなのに、不安や恐れがひとつもなかった。 (嬉しい) ずっと苦しかった。だから探していた。甲洋を一番近くに感じる方法を。いっそひとつになって、溶け合ってしまえたらいいのにと。その願いが、ようやく叶う。 高ぶる感情に任せて、操は甲洋の首に両腕を巻きつけると強く引きよせた。息を荒げた甲洋が、耳元で「いくよ」と吐き出す声にこくんと頷く。 甲洋の屹立が、ぐっと穴を圧迫した。ぐち、という鈍い水音がして、指とは比べ物にならない大きくて熱い塊が中に潜り込んでくる。 「あぅッ、ん、ひっ……!」 入ってくる。甲洋の肉が、操の肉を掻き分けて。ギリギリまで引き伸ばされた穴が引きつり、痛みが走る。凄まじい圧迫感に息を吸うことも、吐き出すこともままならない。 思わず甲洋の背に爪を立てながら小刻みに震えた。それに気づいた甲洋は、まだ全てを挿入しきっていない状態で動きをとめてしまう。操は慌てて首を左右に振った。 「ぃ、い……! いい、から、そのままきて……!」 「……ッ、でも」 「やめちゃやだ……ねぇ、お願い……」 痛みも苦しさも、燃えるような熱にのまれて麻痺しはじめている。 操はペタリと寝ている甲洋の耳を優しく撫でた。汗ばんだ頬に髪を張り付けながら、彼は操よりよほど辛そうな顔をする。操はその頭を抱き込んで笑った。 「だいじょうぶ、おれは傷つかないよ。だからそんな顔しないで」 「くるす……」 「大好き、甲洋」 「ッ……!」 甲洋が奥歯を噛みしめる。操を抱く腕に力を込めて、腹を括ったように最後まで高ぶりを押し込んだ。操はその衝撃に声も出せなかったが、皮膚が一瞬にして歓喜に粟立つのを感じた。 身体の中に甲洋がいる。ビクビクと脈打って、操を満たす。1メートル以上も離れていた距離が0になって、ひとつになった。嬉しい。嬉しい。ただそれだけだった。 これ以上ないくらい深く繋がると、ふたりは言葉もなく息を荒げて抱き合った。濡れた粘膜がその形を確かめるように、甲洋を締めつけるのが分かる。 操の腕の中で、甲洋が小さくすんと鼻を鳴らした。 「甲洋……泣いてるの?」 操のこめかみあたりに目元を押しつける甲洋の髪を、そっと撫でる。彼は掠れた声で、素直に「うん」と頷いた。 顔が見たい気がしたけれど、またこの次にしようと思う。代わりにもう一度「好きだよ」と囁くと、彼はふっと笑って「俺も」と言った。 「来主が好きだ」 「うん」 「大好きなんだ」 「うん……嬉しい」 「俺も、嬉しい」 裸の心で紡ぐ言葉はあまりにも拙くて、切ないくらいひたむきだった。 もっと沢山のことを伝えたい気がするのに、だけどそれ以上は言葉にならない。心も身体も、甲洋だけでいっぱいだった。 会話を諦め、ふたりは唇を重ね合わせた。互いに舌を絡めながら、ふとこの味はさっき自分が出したものの味なのかなと思いはしたが、甲洋が小さく腰を揺らめかせた瞬間どうでもよくなる。 「んぅ、ァ……っ!」 奥を突かれた衝撃に、合わさっていた唇がほどける。そのまま幾度か突かれる度に、腹の奥に鋭い熱が広がった。 脈打つものが肉壁をこじ開けては引いていく。ゆっくりと、やがて徐々にペースを上げて中を重く穿つ。 手間暇をかけてほぐされたそこは、それでもまだ初めての行為に強張ってはいたけれど、きつく抱きしめられながら揺さぶられているうちに、熱く蕩けるようにほどけていった。 「はっ、ぁ……来主……っ」 感じ入る甲洋の声が、吐息が、心と鼓膜を震わせる。彼がこの身体で感じているのだと思うほどに、操もまた高ぶらされた。 甲洋と繋がっている場所は、炎のように熱く激しく操の身体を苛んでいる。突かれるごとに内臓が押し上げられ、その反動でひっきりなしに声が押しだされた。 「ぁう、あっ、こう……よ……ぁつ、い……ッ、熱いよぉ……!」 頭の芯までじわじわと蒸されて、ゼリーのように溶けていくような気がする。いつ焼き切れたっておかしくない。どこまで意識を繋ぎ止めていられるか分からなかった。 そのとき、甲洋がギリギリまで引き抜いたものを僅かに角度を変えながら突き入れてきた。 「ッ──!?」 瞬間、まだ上があるのかと思うほどの熱さが競り上がり、操は目を見開いて涙を散らす。 「ッ、ぁ、あ……!?」 甲洋が、ふっと笑った。 「ここ?」 そう言いながら、中の比較的浅い一点を先端でノックするように擦りつける。 操はビクビクと大きく身体を痙攣させ、嫌々と首を左右に振った。 「やっ、やぁ……! ぁッ、そこやだ! だめ、だめ!」 「さっきは上手く探せなかったんだけど……やっと見つけた」 「なに、が、ァ……やめ、ぁ……ひッ、ああぁ……っ!」 両膝の裏に手がかかり、腰が浮き上がるほど深く身体を二つに折り曲げられた。 そして甲洋は操が酷く感じてしまう場所を目がけて、抽送を再開する。擦り上げるようにしながら奥まで突かれると、操の淡い屹立が赤く腫れ上がったように膨らんで蜜を零した。 痛みにも似た強烈な感覚を、操は上手く快感として認識できない。ただ蛇口が壊れた水道みたいに、突き上げられるたびに性器からぴゅ、ぴゅ、と飛沫が上がった。 「だめぇ……っ、そこ、こうよ、こうよぉ……!」 「来主……っ、好きだ」 呟かれた言葉に、混乱していた意識が面白いほど一瞬で蕩かされるのを感じた。 甲洋は何度も繰り返し操の名前を呼んだ。時おり甘く小さな喘ぎを零しながら、いっそ鼓膜が腫れてしまいそうなくらい、好きだと繰り返した。 (おれも好き。好きだよ。大好き、甲洋) 押し寄せてくる波が大きすぎて、声は出せても言葉にはならない。だからせめて心の中で、操も同じだけ愛の言葉を繰り返す。 宙に浮いた足先が、甲洋の動きに合わせて揺れていた。彼の頬を伝った汗が、操の皮膚にぽとりと落ちる。室内に満ちるふたつの呼吸は荒々しくて、己もまた獣に過ぎないのだと、操は思った。 (──気持ちいい) 今にも爆ぜるという瞬間、互いにきつく抱き合った。耳元で甲洋が呻く。操はその腕の中で身体を大きくしならせて、声もなく絶頂にさらわれる。触れられてもいないのに、操のそれは白い精を吐きだしていた。 甲洋がぶるりと震え、腹の中で何か熱いものが弾けるのを感じる。そのままぐったりと沈み込んでくる無防備さが愛しくて、 遠く霞んでいく意識で操は懸命にその身体を抱きしめた。 「っ、ぁ……あ……」 痺れるように尾を引く余韻に、うまく身体が動かない。操の上で忙しない呼吸を繰り返す甲洋の髪に、指先を絡めるだけで精一杯だった。 「ふぁ、んッ!」 ズルリと中から引き抜かれる感触に身を震わせ、操はほうっと息をついた。 穴が閉じきる前に甲洋が放ったものがとろりと溢れ出るのが分かったけれど、身じろぐことすら今は億劫に感じる。このまま眠ってしまえたら、どんなに気持ちがいいだろう。 「来主……」 ふっと意識を手放しかけたとき、名前を呼ばれた。 「は、ぇ……?」 「 ……ごめん」 なにが起こったのか、すぐには理解できなかった。どういうわけか、操は身体をひっくり返されて四つん這いの体勢をとられていた。 「え!?」 慌てて振り向けば、操の背に覆いかぶさろうとしていた甲洋と目が合う。 彼は肩で息をしながら、鋭い瞳を向けてくる。そこに幾ばくかの理性しか残されていないことは、操の目にも明白だった。なにより、達したばかりであるはずの甲洋自身が、まるで力を失っていなかった。 そこで操はようやく、彼が何に対して謝罪したのかを理解した。 「まだ、するのぉ?」 「……ごめん」 「あッ、や、ひぃんっ……!?」 二度目の謝罪と共に熱い楔が再び突き入れられる。 「まだ足りない……もっと、お前を食べさせて」 聞いたこともないくらい低い声で呟かれた言葉を最後に、操にはそこから先の記憶がない。 * 目を覚ますと、操はベッドの中にいた。 カーテンの隙間から零れる白い光が室内を照らし、とっくに夜が終わっていたことを告げている。 「来主……起きた?」 ぼんやりと瞬きをしながら天井を見ていると、視界の横から甲洋がひょいっと顔を覗かせる。酷く心配そうに眉を下げている彼は、ジーンズだけを身に着けた格好でベッドの縁に手をついて身を乗りだしていた。 「こ、よ」 彼の名を呼びかけて、喉がヒリヒリと痛んだ。軽く咳き込んだ操に、甲洋は「いま水を持ってくるから」と言って部屋を飛び出し、すぐにまた戻ってきた。 「起き上がれる?」 水が入ったグラスを手にした甲洋は、ベッドに片膝で乗り上げて腰を下ろすと操が起き上がる動作を助けた。 どうにかして起こした身体を引きよせられて、操はくったりと甲洋によりかかる。それから口元に運ばれたグラスに口をつけ、一口飲んだ。カラカラに乾いた身体にほどよく冷えた水が浸透していくようで、ホッと息をつく。 「大丈夫?」 問いかけながら、甲洋がグラスをキャビネットの上に置いた。 「んん……なんか、腰が変……」 「痛む……?」 「んー……あそこがじんじんして重い。まだ君のが入ってるみたいな……?」 「……ごめん」 しゅん、と耳を下向きにさせ、甲洋が項垂れた。 「抑えがきかなかった……」 操はしょんぼりとしている甲洋を見つめながら、昨夜のことを思いだそうとした。 自分の気持ちを自覚して、生まれて初めての性行為に及んだことはもちろん覚えている。けれど、二度目からは記憶が部分的にしか残されていなかった。あのあと、何度したのかも覚えていない。 自力で起き上がっていられないくらい疲弊しきっていることから察するに、かなり凄かった、のだと思う。 「うぅん。ビックリしたけど、嫌じゃなかったよ」 操はふにゃりと笑って、甲洋の頭に手を伸ばした。黒い耳を優しく撫でると、彼は安堵した様子で小さく息を漏らした。 (あれ? そういえばおれ、ちゃんと服着てる) 人心地ついたところで、操は今さらのように自分がしっかりシャツとスウェットパンツを着込んでいることに気がついた。身体もちゃんと汗やその他諸々が拭き取られているようで、サラサラとして気持ちがいい。 ふと見やればカバーを全て剥がされた布団が、このあとすぐにでも干せるようにと折り畳まれている。遠くで洗濯機が回るかすかな音がしていた。 律儀だなぁと操は思う。自分が目を覚ますまで、彼はどんな気持ちで傍にいたのだろう。無理をさせてしまったという後悔だとか不安とか、そんなものでずっとグルグルと眠れずにいる姿が目に浮かぶ。 操はふっと笑って甲洋の首に腕を回すと、その頬に口づけた。 「君がいっぱい欲しがってくれて嬉しかった。言ったでしょ? おれは傷つかないって」 「……うん」 「でも、起きたとき甲洋が一緒にくっついて寝てたら、もっと嬉しかったかな」 甲洋は少し困ったように目を瞬かせて、それから小さく口を開こうとした。操は昨夜の彼がそうしたように、指先をその唇に押し当てる。 「ごめんはもうなし。ねぇ、次はそうして?」 甲洋は目を丸くしたあと小さく笑うと、操の手首をとって指の甲に口づけた。 「わかった。次はそうする」 蕩けそうなくらいに優しく細められた瞳に、気づけば操は頬を赤らめて見惚れていた。 これが恋だと気づいたからって、泣きたくなるような胸のドキドキが静まることはない。 ならきっとこれは一生モノなんだろうなと思いながら目を閉じて、降ってくるあたたかな唇を受け止めた。 ←戻る ・ 次へ→
重なる胸から少し早めの鼓動が伝わる。
甲洋が吐息混じりに操の名を呼び、そっと啄むような口づけを落とした。
(甲洋の唇、いつもより熱い)
繰り返し、触れるだけのキスをする。ちゅ、ちゅ、という濡れた音に呼吸が乱れ、やがてどちらからともなく口が開くと、甲洋の舌がどこか遠慮がちに潜り込んできた。
「ッ、ん」
操は少しだけ驚いて、肩をピクンと震わせる。
柔らかく濡れたそれは、大好きなオレンジジュースよりもずっと甘く感じた。もっとその味を確かめたくて、両腕で甲洋の頭を引き寄せる。
「ん、ぅッ……!」
ぎこちなく歯列をなぞった舌が操の舌先と擦れ合うと、背筋に小さな電気が走った。思考が溶けたようになり、操は一瞬でその感覚の虜になる。
自ら積極的に舌を差し出し、押し合うみたいにしながら絡め合う。
甲洋の舌は操のものよりも少しだけ大きかった。蕩けるような柔らかさと、頬の内側の滑らかさ。つるつるとした綺麗な歯の並び。こんなに深く口付けなければ決して知ることがなかった、甲洋の形。嬉しくて、胸がいっぱいになる。
「ふ、ぁ……ッ」
甲洋の舌先が操の舌の裏側を引っ掻いた。驚くほど甘い痺れが走って、頭の中がじんわりと蒸されように熱を帯びていく。どこで息をしたらいいかも分からず、クラクラと目眩がした。絡め合うほどに濡れた音が大きくなる。
(きもちいい……これ、食べたいな……)
覚えのある、あの衝動が込み上げる。
噎せるような桜の香りに侵されて、あの時の操は自覚もないままに欲情していたのだ。きっと甲洋もそうだったのだと思う。
もっと早く気づいていればと、口惜しさに焦がれた操は、甲洋の舌に緩く歯を立てた。
「ぅ、ぁ……っ!」
甲洋の身体がビクンと跳ねる。驚いた彼は咄嗟に唇を離してしまった。銀色の糸が名残を惜しむようにふたりを繋ぎ、やがて途切れて口端を伝う。
彼は真っ赤な顔で目を白黒させていた。うっすらと汗ばみ、はかはかと呼吸を乱して、濡れた唇さえも赤く染め上げている。その反応を、可愛いと思った。
「こうよう、かわいい」
「きゅ、急に、噛むな」
「ごめんね……痛かった?」
「痛くはない……だけど、ビックリするから」
黒い耳がペタリと下向き、微かに震えていた。毛がギザギザと逆立っている。
操はふと、さっきの甲洋の言葉を思いだした。食べたいからだと、彼はそう言った。同じだ。操もそうだった。恋しくて、愛しくて、だから食べてしまいたかった。
けれど彼は操にそんな欲望をぶつけることを恐れていた。きっと今も、本当は怖くて堪らないのだと思う。
(弱虫だな、甲洋は)
操はその大きな耳を優しく撫でた。可愛い。毛がふかふかとしていて、熱くて、肉厚で、ぷるぷると震えていて。
愛おしさに胸が締めつけられる。優しくて弱虫な、操だけのイヌ。
あげたいなと思った。甲洋が望むなら、なんだって。来主操の全部をあげたい。
「ねぇ、食べていいよ。もう我慢しないで」
甲洋は答えの代わりに喉を鳴らした。
「おれをあげる。だからおれを、甲洋の特別にしてね」
操は写真立ての中で笑っていた白猫のことを思いだした。
ただ朽ち果てるだけの廃墟になった楽園。始まりもせずに終わった初恋。雨が降る間際の濁った海。彼が失くしたもの。得られなかったもの全部。
全てを忘れない甲洋が、その全てを思い出にして、今は操だけをその瞳に映している。
甲洋が、泣きそうな顔をしながらふっと笑った。
「来主は、もうとっくになってるよ。俺の中で」
「本当? 嬉しい……甲洋、大好き。おれも君が、世界でいちばん特別だよ」
「……うん」
甲洋はたったそれだけ返すのが精一杯のようだった。操の身体を強く抱きしめ、吐く息を震わせている。同じだけの強さで抱き返しながら、操は彼の黒い尻尾が見たこともないくらい大きく揺れていることに気がついた。
嘘をつくことができないそこは、弾むように忙しなく左右に振られている。
「甲洋、かわ」
「もう可愛いって言うの禁止……お前の方が、ずっと可愛い」
「!」
耳元で言われ、操は肩を跳ねさせる。どちらかと言えば言われ慣れている言葉だけれど、甲洋に言われたのは初めてだ。
途端に恥ずかしくなって、もじもじとしながらその肩に目元を擦りつけた。
(そっか、好きなひとに可愛いって言われると、こんな気持ちになるんだ)
言った方も恥ずかしいのか、甲洋が首筋を赤く染めていた。まるで誘われているみたいな気がして、操はそこに唇を寄せるとちゅうっと音を立ててキスをする。
「ッ……!」
甲洋の身体がビクンと跳ねる。彼はもっともっと赤くなって操を見た。困っているようにも、怒っているようにも見える複雑そうな表情を、ふわふわとした気持ちで見つめる。
「お前、もう……知らないからな……」
低く呟きながら、甲洋が悩ましげに潤んだ瞳を細めて見せた。
*
剥ぎ取られたシャツが、布団の端で丸くなっている。
薄明かりの室内にはふたり分の忙しない呼吸が響き、熱気を立ち上らせていた。
「くぅ、んっ……ぁ、こう、よ」
耳の裏側や首周りを、甲洋の唇が何度も辿る。
操の身体に覆いかぶさり、彼は夢中で匂いを嗅いでは薄い皮膚を貪っていた。
操は初めての感覚にただ震えながら、甲洋にしがみつくことしかできない。彼が皮膚の上で鼻をすんすんと鳴らすたび、こそばゆさと羞恥に肌が染まった。
「ゃ、ぁ……!」
鎖骨を辿り、熱い舌が胸の片方に触れると、ちゅうと音を立てながら吸い付いてくる。
軽く歯を立てられ、腹の奥の方に向ってジンと何かが響くのを感じた。操はヒクヒクと身体を跳ねさせて、足先でシーツを掻く。
ともすれば一方的ともとれる甲洋の交尾前行動は、飽きることなく繰り返された。
身体中にゆるゆると手の平を這わせ、匂いを嗅いで、舌で味わい、歯を立てる。本能に従い、息を荒げながら、隅々まで貪ろうとするかのように。
けれど彼は決して操を乱暴に扱うことはしなかった。時おり緩く歯を立てても、強く吸い上げて花びらのような痕を残しても。余裕のない甲洋がギリギリのところで理性を繋ぎ止めているのが、素肌を通して伝わってくるような気がした。
「んっ、ぁ……ねぇ、におい……そんなに?」
「ッ、はぁ……うん、いい。来主の匂い、好きだ。興奮する」
「で、も、くすぐった、ぃ」
息も絶え絶えに泣き言を言う操に、甲洋は吐息だけで「ごめん」と言ったが、やめるつもりはないようだった。身体をひっくり返され、剥き出しになった白い項に緩く歯を立てられると、身体が面白いほど大きく跳ねる。
甲洋の唇が背中を辿り、肩甲骨のでっぱりを甘噛みしたあと、内側の緩やかな窪みにキスの雨を降らせる。そうしている間も、後ろから平らな胸をふにふにと揉みしだかれた。
「ふぁ、ん! ァ、は……っ」
執拗に繰り返される愛撫に、彼はやっぱりイヌなんだなと改めて思う。
まるで本当に食べられているみたいだ。けれど怖いとは微塵も感じなかった。むしろ甲洋になら、本当に頭からバリバリと食べられてしまったとしても許してしまいそうな気がする。
それに、くすぐったいだけじゃなくなってきているのも事実だ。
そこかしこを舐め回されているうちに、神経が剥き出しになったみたいに皮膚が敏感になっていた。やめてほしいような気がするのに、もっとして欲しいと思ってしまう。頭がぼうっとして、わけが分からなくなってきた。
「はふ……ッ、ん」
操の身体はもはやクタクタだ。甲洋の腕によって再び仰向けにひっくり返されても分からないくらい、思考がふやけきってどうしようもなくなっている。
「こう、よ……舐めるの、まだ、するのぉ?」
「……する」
ヒクつく身体に覆いかぶさっていた甲洋は半身を起こして膝立ちになると、邪魔くさいとばかりにシャツを乱暴な動作で脱ぎ捨てた。
その仕草がやけに男っぽくて、心臓がドキリと跳ね上がる。
頼りない明かりの中に浮き上がった素肌は、しっとりと汗ばんで艶を放っていた。細いように見えて、その身体はしっかりとした骨組みによって構成されている。広い肩幅にすら胸が疼くのを感じて、操はこくりと喉を鳴らした。
甲洋の指先がつうっと腹のラインをなぞった。ヒクンと身を震わせていると、やがてその人差し指が操のヘソの窪みを引っかく。一瞬、ピリリとしたものが走った。
「んっ……!」
甲洋が身体を下方へと移動させ、操のヘソに顔を寄せる。そして窪みに鼻を押し付け、すんすんと匂いを嗅いだ。
「ぇッ、や! そ、そこも嗅ぐのぉ?」
じわりと涙を浮かべ、身をよじる。しかし甲洋は操の腰を片腕でぐるりと抱き込み、動けないように固定すると、鼻先をグリグリと押し付けるようにしながら匂いを吸い込んだ。はぁ、と漏らされた息が熱い。
「ひゃッ、ぁ!」
舌が窪みにねじ込まれる。甲洋はそこを抉るように舐めほぐし、ちゅくちゅくと音を立てながら吸い上げた。ピリピリとした痺れが腹の奥へ向かって響き渡る。押さえ込まれている腰がビクビクと大きくのたうった。
「ぁうぅッ、んっ! や……おなか、ぁ、ジンジンして、ひびくよぉ……っ」
嫌々と首を振って悶えていると、甲洋の手が操のウエストにかかった。
下着ごと全て下ろされてしまうと、小ぶりな陰茎がぷるんと揺れながら顔をだす。それは少しだけ勃起して、先端が僅かに濡れていた。
全てを剥ぎ取られ、いよいよ丸裸にされた心許なさに肌が粟立つ。
「ぁ……やだ……!」
いつの間にかヘソから顔を上げていた甲洋が、それをじっと見つめて喉を鳴らしていた。
操は反射的に両膝を立てて閉じようとしたが、甲洋の身体が割り込んでいるせいでそれは叶わない。
「……色、薄いな」
「そう、なのかな……?」
「毛も薄い……というより、ほとんど……生えてない……?」
「おかしい……?」
「おかしくない。可愛い」
押し殺したような声で、即答だった。さっきは照れて恥ずかしそうにしていたくせに、甲洋は目の前のものに気をとられて、もはやそれどころではなくなっている。瞬きの回数も少ないし、まさに穴が空くほど見られているという状態だ。
これはかなり恥ずかしい。でも甲洋の尻尾は大きく揺れて嬉しそうだった。拒めば水を差してしまいそうで、操は逃げだしたいのをぐっと堪える。
「子供みたいだ、来主のここ」
「ッ、ぁ!」
甲洋の手が操のそれをゆるりと撫でた。操は握りしめた両手を胸に押しつけ、緊張と微かな不安から息をごくりと飲み込んだ。
恐る恐る見た甲洋の目は、普段の理知的な色を失いつつあった。肩で息をしながら、獲物を狩るような鋭さを滲ませている。これがオスの目なのかと、ぼんやり思う。
彼は無言で操の両膝に手をかけ、ぐっと割り開かせたと同時に躊躇なくそこに顔を寄せた。
「え、甲洋……!?」
緩く勃ち上がっている性器の付け根に、熱い息がかかる。赤ん坊の産毛のような淡い下生えに鼻を擦りつけられて、すんすんと匂いを吸い込まれた。
「そ、そんなとこ、嗅いじゃやだ!」
操は身体中を真っ赤に染め上げると、甲洋の髪を両手で掴んで引き剥がそうとする。だが彼は動じることなく操の太腿を外側からそれぞれ抱え込むようにして、より一層そこに執着しはじめた。
泣きながら身をよじっていると、吸い込むだけでは足りなくなってきた甲洋の唇が、性器に音を立ててキスをした。
「ひぁッ……!」
それは生まれて初めての感覚だった。繰り返しキスをされ、とろとろの舌を這わされる。その度にビクンビクンと身体が跳ね上がるのを止められない。
そのうち甲洋は辛抱たまらずといった様子で、操のものをぱっくりと口の中に収めてしまった。熱い口内でじゅうっと音を立てて吸い上げられると、内腿が小刻みに痙攣する。
「やっ、ああぁ!」
飴を転がすように舌で嬲られ、操は甲洋の頭に爪を立てながら嫌々と首を振る。焼けるような鋭い快感に押しだされ、涙が溢れて止まらない。
「こん、なっ、の……ッ、ぁッくぅ、ん! ァ、無理、ぃ……っ」
自慰だってまともにしたことがない身体だ。恋も性も、まるで興味が持てないまま、なんの疑問も抱かずに素通りしてきてしまった。そんな身体にこの刺激は強すぎる。
甲洋の口の中で、性器が痛いくらい張り詰めているのが分かった。
いやらしい水音を響かせながら舐めしゃぶられたそれに、緩く歯を立てられる。操は目を見開き、涙を散らしながら絶頂を迎えた。
「ひッ、ぃ、ッ──ァっ……──ッ!!」
波のように襲ってきたそれは、待ち構えていたかのように操を頭から飲み込んだ。
目の前が真っ白で、悲鳴をあげることすらままならない。ただ溺れたようにはくはくと口を開閉し、布団から浮き上がるほど背を反らす。やがて一気に突き落とされたように脱力した。
「ぁ、ッ……は、ぁ……ぁ……」
痺れるような余韻に身を震わせ、さまよわせた視線の先では、甲洋がごくりと喉を鳴らしていた。操が放ったもので濡れた下唇を、赤い舌がゆるりと舐めとっている。
「のんだ、の……?」
整わない呼吸のまま呆然と問えば、甲洋は目を細めながら頷いた。瞳を蕩けさせ、はぁっと熱っぽい息を漏らしている。
「う、うそぉ……」
操が小刻みに震えながら涙を溢れさせると、彼は「ごめん」と小さく謝罪した。
「今からもっと恥ずかしい思い、させると思う」
「な、ぇっ? うわぁッ!?」
布団にくたりと沈んでいた身体がひっくり返された。
甲洋は操の下腹に腕を回し、ぐっと持ち上げると膝を立たせる。上半身をシーツに突っ伏し、尻だけを高く突きだす体勢をとらされた。
「ッ……!?」
自分でも見たことがない奥まった場所に、痛いくらいの視線を感じる。
操が悲鳴をあげるより先に、甲洋の両手が尻たぶにかかった。彼はつるりと丸みを帯びたその片方に、ちゅっと音を立ててキスをする。
「ヒッ、やッ!? う、うそっ、そこもぉ!?」
尻の肉にまで吸い付かれ、操は思わず目を剥いた。
誰にも見せたことのない場所を、自分でも最低限触れることがない場所を、全て甲洋に暴かれている。信じられなくて、頭が混乱してしまう。
淡い谷間はさっきまで受けていた口淫によって、先走りと唾液でしとどに濡れていた。甲洋は薄い尻の肉キスをしながら、右手の人差し指を窄まりに這わせる。背筋にぞわりとしたものが駆け抜けた。
「やぁっ、やだ……ぁッ、こうよ……そんなとこ、だめだよぉ……っ!」
ぬるりと円を描くようにくすぐられて、思わず身を捩る。どうにかして逃れようとしたが、人差し指の先端がつぷりと挿し込まれると、身体が強張って動けなくなった。
「ひぅッ!?」
第一関節まで潜り込んだ指先が、マッサージをするかのように浅い場所を出入りする。濡れているせいか痛みはないが、えも言われぬ異物感が操の身体を苛んだ。
ときどき思いだしたように尻たぶにキスを落とされると、腰がヒクンと跳ねてしまう。
操はもう何がなんだか、わけが分からない状態になっていた。チクチクとささやかな水音を立てながらほぐされているうちに、そこからじわりと不可解な熱が広がっていくのを感じる。
皮膚がぞわぞわと粟立ち、背骨が抜き取られたみたいに力が抜けていった。
「ぁッ、ぁん……ッ、ぁ……は、ッ……!」
高く掲げた尻が、無意識にもじもじと揺れはじめる。甲洋が根気よく解きほぐそうとしている場所が、きゅんと疼いて切なくなってきた。
(なにこれぇ……お尻が変な感じになってきちゃったよぉ……)
半開きの瞳をとろりと蕩けさせていると、指がさらに深くまで押し入ってきた。
「あ、ぁ……ッ、指、甲洋の、ゆび、が……」
ほんのりと濡れて綻びかけた穴に、指がぬるりと深くまで侵入してくる。
異物感が増したところに圧迫感まで加わると、喉が詰まったようになってまともに声すら上げられない。
「ッ、ァ……っ」
じわじわと時間をかけて入り込んだ指が、ゆっくりと探るような動きで抜き挿しされる。内壁をぐるりと擦り上げる感触のリアルさに、操は指先が白く染まるほどシーツを握りしめた。
なんともいえない妙な心地だ。けれど根気よく何度も中を擦られているうちに、さっきよりもずっとおかしな感覚が込み上げてきた。
「ふぁぁっ、ぁ、ん……!」
飲み込む瞬間の苦しさが、引き抜かれる瞬間にはどうでもよくなってしまう。ずるりと抜けていく感覚が、背徳感を伴いながら身体の芯を駆け抜ける。とてもいけないことをしているような気がするのに、それが癖になりそうで少し怖い。
さっき達したはずの性器は、ゆるゆると再び勃ちあがりかけていた。それはこの行為に、身体が悦んでいる証だった。
「痛くない?」
「ぅ、ん……痛く、ない……でも、なんか、おしりが変……」
「痛かったら言って。傷つけたくないから」
「ん……」
甲洋の手が労るように腰を撫でる。押し殺した声で、それでも優しく囁かれた言葉にホッとして、操はシーツに頬を押しつけたままこくんと頷いた。
甲洋は時おり指に舌を這わせて潤いを足しながら、長い時間をかけて徐々に指を増やしていった。一本、二本と、やがて操のそこは三本もの指を飲み込んだ。圧迫感が比べ物にならないくらい増したが、そのぶんあのなんともいえない感覚も増す。ぐぷ、ぐぷ、という滑った水音にすら気持ちが高ぶっていくのを感じて、意味をなさない嬌声が止めどなく口から溢れた。
「ぁ、ぅッんっ……あ、ぁっ……ッ、ふ……ぁっ、ん……っ!」
「来主……いい?」
問いかけに、操は何度もこくこくと頷いた。
「い、い……ぁ、どうしよ……これ、きもち、い……ぁ、こう、よ」
「……よかった」
ホッとしたように甲洋が笑う。
操の身体はあまりにも素直に、そして柔軟に与えられる刺激を飲み込んでいた。誰のものでもなかった身体が、甲洋のためだけに作り変えられていくような気がする。操はそれを嬉しいと感じた。
だけど甲洋はずっと我慢したままだ。操が苦痛を感じずに済むよう時間をかける代わりに、彼は必死で欲求を抑え込んでいる。甲洋が熱い息を漏らす音を聞いて、操はどうしようもなく切ない気持ちになった。
「こう、よ」
首を捻って背後を見れば、酷く潤んだ瞳と視線が交わる。
「も……いい、よ」
「……まだ」
「早く、ねぇ甲洋」
息を呑んだ甲洋の指が、思わずといった様子で中からずるりと引き抜かれる。その感覚に身を震わせながら、操は身体を横に倒すと力が入らない両腕でどうにか半身を起こした。
「ねぇ、ほら……甲洋の、もうこんなだもん」
甲洋の身体の中心は目に見えて膨らみを帯びていた。テントを張ったようになっているそこは窮屈そうで、操は彼のヘソの下に手をかけると下着ごと掴んでグイとずらした。
「ッ!」
大きく肩を跳ねさせて、甲洋が唇を引き結ぶ。
ぐんと反り返っている屹立が、可哀想なくらい震えて血管を浮き上がらせていた。
それは操のものより一回り大きくて、バラの花のような濃い色をしていた。焦茶の下生えも十分に生え揃っている。同じ男で年齢もひとつしか違わないのに、どこか未発達なままの自分とは、まるで違ったものに見えた。
「甲洋のは、大人の形をしているね」
操はうっとりと呟き、右手でそっと太い竿に触れた。甲洋の肩が揺れる。
「これをおれのあそこに挿れるんでしょ? なんか嘘みたい」
手の中で、それはピクピクと健気に震えていた。そっと握り込めば、甲洋が喉の奥で低い呻きを漏らす。悩ましげに寄せられた眉と、赤い唇から忙しくなく溢れる吐息に興奮する。
遠慮がちにゆるゆると軽く撫でてみると、肉茎がより膨らみを増した気がした。甲洋の黒い大きな耳はすっかり倒れて、快感が走るたびに後ろの方では長い尻尾がピクンピクンと跳ねている。
(かわいい)
身体の芯が疼いた。食べてもらうつもりでいたのに、やっぱり食べたいと思ってしまう。可愛くて、大好きな甲洋を、いっそ頭から。
操は蕩けた思考で正面から彼に身を寄せた。その肩に両手を置くと膝立ちになり、甲洋の身体を跨ぐような姿勢をとる。
「く、来主」
戸惑いながらも期待と興奮を滲ませた瞳を見下ろし、操は笑った。
その頬に手をやって、震える耳にキスをする。唇でぱくりと食んで、ちゅうと音を立てながら吸いついてみた。
「ッ、ぅ、ぁ! く、来主……ッ」
「ぁ、んむ……ふふ、こうよう、耳、感じるんだ」
甲洋がわずかに身をよじり、操の腰を掴むように両手をかけた。こそばゆさに尻が揺れたが、操は構わず耳の内側に舌を這わせてぬるりと舐める。
「ぁ、こら……っ」
「はぁ……ねぇ、しよ……? 早く君と、ひとつになりたい」
耳に唇を押しつけたまま言った。
「……あぁ、くそ」
甲洋は操の平らな胸に額を押し付けながら、彼にしては珍しく乱暴な言葉を吐きだした。それからキッと睨むように操を見上げる。
「本当に、初めてなんだよな……?」
操はことりと首を傾げた。
「そうだよ。なんでそんなこと聞くの?」
「……別に。分かってるけど、なんとなく」
まるで玄人じみた誘い方をしてしまったなんて、操に分かるはずがない。ましてや蕩けきった表情が、ちぐはぐな幼さが、どれだけ扇情的であるのかなんて。
甲洋はなぜだか少しだけ苛立ったように唇を引き結び、操の身体を抱え込むと布団に押し倒した。そうすると自然と彼の腰を両足で挟み込む形になる。
伸し掛かってくる重みを受け止めて、操は胸を高鳴らせた。
膝裏にかかった手で足をいっそう開かされると、濡れた穴にその熱い切っ先が触れる。
(セックスするんだ、おれたち)
あるいは交尾と呼ぶべきだろうか。ふわふわとした意識を掻き分けて、今さらのように実感が込み上げる。初めてなのに、不安や恐れがひとつもなかった。
(嬉しい)
ずっと苦しかった。だから探していた。甲洋を一番近くに感じる方法を。いっそひとつになって、溶け合ってしまえたらいいのにと。その願いが、ようやく叶う。
高ぶる感情に任せて、操は甲洋の首に両腕を巻きつけると強く引きよせた。息を荒げた甲洋が、耳元で「いくよ」と吐き出す声にこくんと頷く。
甲洋の屹立が、ぐっと穴を圧迫した。ぐち、という鈍い水音がして、指とは比べ物にならない大きくて熱い塊が中に潜り込んでくる。
「あぅッ、ん、ひっ……!」
入ってくる。甲洋の肉が、操の肉を掻き分けて。ギリギリまで引き伸ばされた穴が引きつり、痛みが走る。凄まじい圧迫感に息を吸うことも、吐き出すこともままならない。
思わず甲洋の背に爪を立てながら小刻みに震えた。それに気づいた甲洋は、まだ全てを挿入しきっていない状態で動きをとめてしまう。操は慌てて首を左右に振った。
「ぃ、い……! いい、から、そのままきて……!」
「……ッ、でも」
「やめちゃやだ……ねぇ、お願い……」
痛みも苦しさも、燃えるような熱にのまれて麻痺しはじめている。
操はペタリと寝ている甲洋の耳を優しく撫でた。汗ばんだ頬に髪を張り付けながら、彼は操よりよほど辛そうな顔をする。操はその頭を抱き込んで笑った。
「だいじょうぶ、おれは傷つかないよ。だからそんな顔しないで」
「くるす……」
「大好き、甲洋」
「ッ……!」
甲洋が奥歯を噛みしめる。操を抱く腕に力を込めて、腹を括ったように最後まで高ぶりを押し込んだ。操はその衝撃に声も出せなかったが、皮膚が一瞬にして歓喜に粟立つのを感じた。
身体の中に甲洋がいる。ビクビクと脈打って、操を満たす。1メートル以上も離れていた距離が0になって、ひとつになった。嬉しい。嬉しい。ただそれだけだった。
これ以上ないくらい深く繋がると、ふたりは言葉もなく息を荒げて抱き合った。濡れた粘膜がその形を確かめるように、甲洋を締めつけるのが分かる。
操の腕の中で、甲洋が小さくすんと鼻を鳴らした。
「甲洋……泣いてるの?」
操のこめかみあたりに目元を押しつける甲洋の髪を、そっと撫でる。彼は掠れた声で、素直に「うん」と頷いた。
顔が見たい気がしたけれど、またこの次にしようと思う。代わりにもう一度「好きだよ」と囁くと、彼はふっと笑って「俺も」と言った。
「来主が好きだ」
「うん」
「大好きなんだ」
「うん……嬉しい」
「俺も、嬉しい」
裸の心で紡ぐ言葉はあまりにも拙くて、切ないくらいひたむきだった。
もっと沢山のことを伝えたい気がするのに、だけどそれ以上は言葉にならない。心も身体も、甲洋だけでいっぱいだった。
会話を諦め、ふたりは唇を重ね合わせた。互いに舌を絡めながら、ふとこの味はさっき自分が出したものの味なのかなと思いはしたが、甲洋が小さく腰を揺らめかせた瞬間どうでもよくなる。
「んぅ、ァ……っ!」
奥を突かれた衝撃に、合わさっていた唇がほどける。そのまま幾度か突かれる度に、腹の奥に鋭い熱が広がった。
脈打つものが肉壁をこじ開けては引いていく。ゆっくりと、やがて徐々にペースを上げて中を重く穿つ。
手間暇をかけてほぐされたそこは、それでもまだ初めての行為に強張ってはいたけれど、きつく抱きしめられながら揺さぶられているうちに、熱く蕩けるようにほどけていった。
「はっ、ぁ……来主……っ」
感じ入る甲洋の声が、吐息が、心と鼓膜を震わせる。彼がこの身体で感じているのだと思うほどに、操もまた高ぶらされた。
甲洋と繋がっている場所は、炎のように熱く激しく操の身体を苛んでいる。突かれるごとに内臓が押し上げられ、その反動でひっきりなしに声が押しだされた。
「ぁう、あっ、こう……よ……ぁつ、い……ッ、熱いよぉ……!」
頭の芯までじわじわと蒸されて、ゼリーのように溶けていくような気がする。いつ焼き切れたっておかしくない。どこまで意識を繋ぎ止めていられるか分からなかった。
そのとき、甲洋がギリギリまで引き抜いたものを僅かに角度を変えながら突き入れてきた。
「ッ──!?」
瞬間、まだ上があるのかと思うほどの熱さが競り上がり、操は目を見開いて涙を散らす。
「ッ、ぁ、あ……!?」
甲洋が、ふっと笑った。
「ここ?」
そう言いながら、中の比較的浅い一点を先端でノックするように擦りつける。
操はビクビクと大きく身体を痙攣させ、嫌々と首を左右に振った。
「やっ、やぁ……! ぁッ、そこやだ! だめ、だめ!」
「さっきは上手く探せなかったんだけど……やっと見つけた」
「なに、が、ァ……やめ、ぁ……ひッ、ああぁ……っ!」
両膝の裏に手がかかり、腰が浮き上がるほど深く身体を二つに折り曲げられた。
そして甲洋は操が酷く感じてしまう場所を目がけて、抽送を再開する。擦り上げるようにしながら奥まで突かれると、操の淡い屹立が赤く腫れ上がったように膨らんで蜜を零した。
痛みにも似た強烈な感覚を、操は上手く快感として認識できない。ただ蛇口が壊れた水道みたいに、突き上げられるたびに性器からぴゅ、ぴゅ、と飛沫が上がった。
「だめぇ……っ、そこ、こうよ、こうよぉ……!」
「来主……っ、好きだ」
呟かれた言葉に、混乱していた意識が面白いほど一瞬で蕩かされるのを感じた。
甲洋は何度も繰り返し操の名前を呼んだ。時おり甘く小さな喘ぎを零しながら、いっそ鼓膜が腫れてしまいそうなくらい、好きだと繰り返した。
(おれも好き。好きだよ。大好き、甲洋)
押し寄せてくる波が大きすぎて、声は出せても言葉にはならない。だからせめて心の中で、操も同じだけ愛の言葉を繰り返す。
宙に浮いた足先が、甲洋の動きに合わせて揺れていた。彼の頬を伝った汗が、操の皮膚にぽとりと落ちる。室内に満ちるふたつの呼吸は荒々しくて、己もまた獣に過ぎないのだと、操は思った。
(──気持ちいい)
今にも爆ぜるという瞬間、互いにきつく抱き合った。耳元で甲洋が呻く。操はその腕の中で身体を大きくしならせて、声もなく絶頂にさらわれる。触れられてもいないのに、操のそれは白い精を吐きだしていた。
甲洋がぶるりと震え、腹の中で何か熱いものが弾けるのを感じる。そのままぐったりと沈み込んでくる無防備さが愛しくて、 遠く霞んでいく意識で操は懸命にその身体を抱きしめた。
「っ、ぁ……あ……」
痺れるように尾を引く余韻に、うまく身体が動かない。操の上で忙しない呼吸を繰り返す甲洋の髪に、指先を絡めるだけで精一杯だった。
「ふぁ、んッ!」
ズルリと中から引き抜かれる感触に身を震わせ、操はほうっと息をついた。
穴が閉じきる前に甲洋が放ったものがとろりと溢れ出るのが分かったけれど、身じろぐことすら今は億劫に感じる。このまま眠ってしまえたら、どんなに気持ちがいいだろう。
「来主……」
ふっと意識を手放しかけたとき、名前を呼ばれた。
「は、ぇ……?」
「 ……ごめん」
なにが起こったのか、すぐには理解できなかった。どういうわけか、操は身体をひっくり返されて四つん這いの体勢をとられていた。
「え!?」
慌てて振り向けば、操の背に覆いかぶさろうとしていた甲洋と目が合う。
彼は肩で息をしながら、鋭い瞳を向けてくる。そこに幾ばくかの理性しか残されていないことは、操の目にも明白だった。なにより、達したばかりであるはずの甲洋自身が、まるで力を失っていなかった。
そこで操はようやく、彼が何に対して謝罪したのかを理解した。
「まだ、するのぉ?」
「……ごめん」
「あッ、や、ひぃんっ……!?」
二度目の謝罪と共に熱い楔が再び突き入れられる。
「まだ足りない……もっと、お前を食べさせて」
聞いたこともないくらい低い声で呟かれた言葉を最後に、操にはそこから先の記憶がない。
*
目を覚ますと、操はベッドの中にいた。
カーテンの隙間から零れる白い光が室内を照らし、とっくに夜が終わっていたことを告げている。
「来主……起きた?」
ぼんやりと瞬きをしながら天井を見ていると、視界の横から甲洋がひょいっと顔を覗かせる。酷く心配そうに眉を下げている彼は、ジーンズだけを身に着けた格好でベッドの縁に手をついて身を乗りだしていた。
「こ、よ」
彼の名を呼びかけて、喉がヒリヒリと痛んだ。軽く咳き込んだ操に、甲洋は「いま水を持ってくるから」と言って部屋を飛び出し、すぐにまた戻ってきた。
「起き上がれる?」
水が入ったグラスを手にした甲洋は、ベッドに片膝で乗り上げて腰を下ろすと操が起き上がる動作を助けた。
どうにかして起こした身体を引きよせられて、操はくったりと甲洋によりかかる。それから口元に運ばれたグラスに口をつけ、一口飲んだ。カラカラに乾いた身体にほどよく冷えた水が浸透していくようで、ホッと息をつく。
「大丈夫?」
問いかけながら、甲洋がグラスをキャビネットの上に置いた。
「んん……なんか、腰が変……」
「痛む……?」
「んー……あそこがじんじんして重い。まだ君のが入ってるみたいな……?」
「……ごめん」
しゅん、と耳を下向きにさせ、甲洋が項垂れた。
「抑えがきかなかった……」
操はしょんぼりとしている甲洋を見つめながら、昨夜のことを思いだそうとした。
自分の気持ちを自覚して、生まれて初めての性行為に及んだことはもちろん覚えている。けれど、二度目からは記憶が部分的にしか残されていなかった。あのあと、何度したのかも覚えていない。
自力で起き上がっていられないくらい疲弊しきっていることから察するに、かなり凄かった、のだと思う。
「うぅん。ビックリしたけど、嫌じゃなかったよ」
操はふにゃりと笑って、甲洋の頭に手を伸ばした。黒い耳を優しく撫でると、彼は安堵した様子で小さく息を漏らした。
(あれ? そういえばおれ、ちゃんと服着てる)
人心地ついたところで、操は今さらのように自分がしっかりシャツとスウェットパンツを着込んでいることに気がついた。身体もちゃんと汗やその他諸々が拭き取られているようで、サラサラとして気持ちがいい。
ふと見やればカバーを全て剥がされた布団が、このあとすぐにでも干せるようにと折り畳まれている。遠くで洗濯機が回るかすかな音がしていた。
律儀だなぁと操は思う。自分が目を覚ますまで、彼はどんな気持ちで傍にいたのだろう。無理をさせてしまったという後悔だとか不安とか、そんなものでずっとグルグルと眠れずにいる姿が目に浮かぶ。
操はふっと笑って甲洋の首に腕を回すと、その頬に口づけた。
「君がいっぱい欲しがってくれて嬉しかった。言ったでしょ? おれは傷つかないって」
「……うん」
「でも、起きたとき甲洋が一緒にくっついて寝てたら、もっと嬉しかったかな」
甲洋は少し困ったように目を瞬かせて、それから小さく口を開こうとした。操は昨夜の彼がそうしたように、指先をその唇に押し当てる。
「ごめんはもうなし。ねぇ、次はそうして?」
甲洋は目を丸くしたあと小さく笑うと、操の手首をとって指の甲に口づけた。
「わかった。次はそうする」
蕩けそうなくらいに優しく細められた瞳に、気づけば操は頬を赤らめて見惚れていた。
これが恋だと気づいたからって、泣きたくなるような胸のドキドキが静まることはない。
ならきっとこれは一生モノなんだろうなと思いながら目を閉じて、降ってくるあたたかな唇を受け止めた。
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