2025/09/19 Fri 変態、誤解が解けるの巻 はっきり言って浮かれていた。 いきなり人間の姿で出迎えて驚かせようなんて、それがまず失敗だったのだ。 よくよく冷静になって考えてみれば、いきなり知らない人間が家の中にいたら、ファイだって怖い。黒鋼が怒るのも当然だと思う。 表に放り出されると毛のない身体では寒くて寒くて仕方がなかったし、あっという間に疲労がピークに達して、元の姿に戻ってしまった。 するとようやく黒鋼が中に入れてくれたので、どうにか助かった。 「ぷしゅん!」 クシャミをすると、すぐに黒鋼に首根っこを掴まれて足の間に入れられた。 「こんな遅くまでほっつき歩いてる馬鹿がいるか」 身体に両手を添えられると、ファイの身体は完全に包み込まれる。 温かくて、ファイは目をとろんとさせながら喉を鳴らした。 「ちょっとおうちに帰ってたのー。ユゥイのお説教が長くって……」 「妙な変態野郎は侵入して来やがるし……妙な日だな、今日は」 「すみません、それオレにゃんだけど……」 変態とは酷い言いようだと思ったが、言われても仕方がないのかもしれない。 黒鋼はぶつくさと文句を言いつつ明かりを消すと、ファイを抱いたまま布団の中に身を横たえた。 ちょうど黒鋼に腕枕されるような態勢で、ファイはふぅと息をついた。やっぱりこの腕の中は安心する。 黒鋼の胸の辺りに両手をついてぐぐっと背伸びをして、喉を鳴らしながらもみもみした。 どうやら慣れないファイにとって、変身は相当の体力を消耗するようだ。早く帰らなければいけないとわかってはいても、もう限界だった。 とりあえず今夜は寝よう。寝て起きてから、改めて今度は黒鋼の目の前で変身しよう。そうすれば、きっと分かってもらえるはずだ。 そんなことを考えながら、ファイは黒鋼の匂いを思いっきり吸いこんで眠りに落ちた。 +++ 念じて念じて念じて。 集中力を高めてイメージを膨らませて、すると白い煙と共にファイは人間の姿に変身を遂げた。 黒鋼が驚きの表情でこちらを見つめるので、ファイはにっこりと笑って見せる。 「黒たん! オレだよ! これでわかってくれたよね?」 「おまえ、人間になれるのか……!」 こちらに手を伸ばそうとする黒鋼に、ファイは思いっきり抱きついた。 「そう、オレ人間に変身できるの! 黒たんとお話してみたくて、ユゥイに教わったんだー!」 優しく抱き返されるのが嬉しくて、その胸に頬ずりをした。 「ねぇ、どうかな……? オレ、ちゃんと人間に見えるでしょ?」 「ああ。猫の姿もよかったが……今の姿もなかなかのもんだ」 「ほんと? 可愛い?」 「ああ」 「うわぁい嬉しいー!」 ぎゅっと首に両手を回して、ファイは黒鋼の鼻を舐めようとした。 だがそのとき、耳をつんざくような大きくて恐ろしい声がした。 「こんの変態野郎ーーー!!!!!」 その瞬間、身体が畳みの床にどんっと落ちた。 「ッ―――!?」 全身を打ち付けるような衝撃を食らって、ファイは一瞬なにが起こったのか分からず、目を白黒させる。 「な、な、なに!? なにが起こったのー!?」 「なにが起こったはこっちの台詞だ!! てめぇ一体どこから侵入してきやがった!? しかもなに人の腕ん中で気持ちよさそうによだれ垂らして寝てやがる!?」 「え!?」 見れば敷布団を両手に持った黒鋼が、鬼の形相で怒鳴り散らしている。どうやら布団をひっくり返されたようだ。 ファイは未だに混乱する頭でむくっと起き上がると、身体に感じる違和感に気付いた。 「あ……あれ……?」 見れば裸の人間の姿。それが今のファイの姿。 「夢だったの……?」 夢の中で変身してしまったのか。 黒鋼は肩で息をしている。今にも殴りかかって来そうな剣幕に、ファイは慌てて両手をぶんぶんと振った。 「だ、だからー! オレだってば! 白猫! チビ助!」 「ふざっけんな!!」 怒鳴った黒鋼は、だがすぐにハッとして辺りを見回す。 「そういやあいつまたどこ行った!? おいチビ! チビ助!!」 「ここ! ここだってばー!」 ギンッと睨まれる。その恐ろしい表情にファイはぶるっと震えた。 なんということだ。まさか寝ぼけて変身してしまうとは。 ファイは脳内をフル回転させた。このままではまた放り出される。昨夜のループになってしまう。 「く、黒たん!」 「ああ!?」 「黒たんが初めてオレにくれたご飯はカニカマ!」 「!?」 「お給料日の前なのに、オレのこと病院に連れてってくれたんだよね!? あと、オレが人間だったらきっとお喋り野郎だーとか言ってた! そんでもって最近はおーやさんがヤバイ!」 「……」 「昼間はガッコウ、夜はバイトっていうお仕事してて……でねでね、知ってた? 黒たんの背中にはほくろが二つあってー、今はいてるパンツは灰色! 寝るときはいっつも今みたいな黒ジャージ!」 ファイはとりあえず自分が持っている彼の情報を、手当たり次第に口にしてみた。 これでどうだと言わんばかりに鼻息を荒くすると、彼はわなわなと拳を震わせた。そして俊敏な動きで辺りを見回す。 「カメラ……カメラだな!? てめぇいつから仕掛けていやがった!!」 「きゃめら?」 「盗撮や盗聴まで趣味とはな……流石は変態ストーカーだ……」 「とーさつ? すとっきんぐ?」 ポキパキ……。と小気味よい音をさせながら黒鋼が指の関節を鳴らし、目の前までやってくる。 (この感じ……どっかで覚えがあるような……?) 初日にボス猫にボコられたことを思い出す。 人間になってまでとっちめられるなんてまっぴらごめんで、ファイは慌てて四つん這いで逃げ出そうとした。 が、また髪を鷲掴みにされる。 「いやーー!! 暴力反対! 助けてーっ」 「うるせぇゴルァ! 観念しやが……ッ!?」 目を吊り上げる黒鋼がきつく握った拳を振り上げようとした、その瞬間。 ボムッと白煙が上がった。 「なんだ!?」 「ふにゃぁ……」 「!?」 ファイは猫の姿に戻った。 首根っこを掴まれた状態で、力なく鳴き声をあげる。 「チビ、お、おまえ……」 「ねぇ……これで信じてもらえた……?」 ほんの数分なのにどっと疲れて、ついさっき起きたばかりなのに意識が沈みそうになる。 この姿だと言葉は途端に通じなくなるけれど、下手に通じる言葉を並び立てるよりも、ずっと説得力があったらしい。 黒鋼は随分と長い間、石のように動かないまま目を見開いていた。ついでに口も開きっぱなしだった。 「嘘だろ……?」 嘘じゃない、と言いたかったけれど、ファイは重たい瞼を開じたまま気を失ってしまった。 +++ と、いうわけで。 たっぷり眠って起きたファイは再び人間の姿に変身した。 今は胡坐をかいて腕組みをしている黒鋼と向き合って、ぺたんと座っている。 ちなみに変身後すぐにパーカーとジーンズというものを着せられた。どちらもこの身体には少し大きかったが、毛のない身体にはありがたかった。 尻尾は腹にくるんと巻き付けて、窮屈だったが服の中に隠した。 「やっと信じてくれたねー」 「……………………」 「オレ、つい昨日まで自分が変身できるなんて知らなかったんだー。だからまだ下手くそで、耳と尻尾だけは上手くいかないみたい」 「……………………」 「でもこれでようやくお話できるようにー……って……黒たん? 聞いてる?」 黒鋼は目を閉じて、まるで瞑想に耽っているかのようだった。 だがすぐに目を開くと、苦々しい顔をする。 「……夢、じゃねぇんだよな?」 「夢じゃないよ? つねってあげよっか?」 「本当にあのチビ助、なんだな?」 ファイはこくりと頷いた。 「でもちゃんと名前あるよ。ファイだよ」 「……化け猫かてめぇは」 そう言われて、ファイはパッと顔を輝かせると手のひらに握った拳をポンと打ち付けた。 「それ! そういえばオレね、化け猫探しもしたくて来たんだったよー!」 「はぁ?」 ファイはまた変身が解けてしまわぬうちにと、時折思いっきり舌を噛みながらも、これまでの経緯を説明した。 黒鋼は終始怪訝そうな顔をしていたが、それでも最後まで聞いてくれた。 ちゃんと話が通じているんだと、そう思うと涙が出そうになるくらい嬉しかった。 「……よくわからねぇが……わかった……」 「それってつまりどっち?」 「世の中にゃ俺の理解の範疇を超えることってのがある……ってことがわかった」 ようするに容量オーバーというやつを起こし、いっそどうでもいいということらしい。 それでもちゃんと言葉が通じているのだから、まぁいいかとファイは特に気にしないことにする。嬉しさの方が勝っていたからだ。 「でね、オレどうしても君とお話がしてみたくて」 そのときだった。 ピンポーン……。 玄関のチャイムが鳴った。 その来客を知らせるサインに、黒鋼はより一層、苦々しい表情になった。 「忘れてた……」 「なに? お客さん?」 「おいおまえ、戻れるか? 猫に」 立ちあがった黒鋼に指を指されて、ファイはきょとんとした。が、すぐに頷く。 「うん。そろそろ時間切れだと思うし……」 残念だが仕方がない。もっともっとたくさん話したいことや聞きたいことがあるけれど、お客さんが帰るまでまた少し休んで、それからまた変身しよう。 「よし。じゃあすぐ戻っとけ」 「わかったよー」 ファイが右手を上げて返事をするのを確認すると、黒鋼は玄関へ向かった。 言われた通り元の姿に戻るべく目を閉じた。 ――が。 「あり?」 もう一度、元々の姿をイメージして念じる。 だが、いつまで経っても白煙は上がらなかった。 「……なんで?」 ファイは人間の姿のまま、なぜか元に戻ることが出来なくなってしまった……。 ←戻る ・ 次へ→
はっきり言って浮かれていた。
いきなり人間の姿で出迎えて驚かせようなんて、それがまず失敗だったのだ。
よくよく冷静になって考えてみれば、いきなり知らない人間が家の中にいたら、ファイだって怖い。黒鋼が怒るのも当然だと思う。
表に放り出されると毛のない身体では寒くて寒くて仕方がなかったし、あっという間に疲労がピークに達して、元の姿に戻ってしまった。
するとようやく黒鋼が中に入れてくれたので、どうにか助かった。
「ぷしゅん!」
クシャミをすると、すぐに黒鋼に首根っこを掴まれて足の間に入れられた。
「こんな遅くまでほっつき歩いてる馬鹿がいるか」
身体に両手を添えられると、ファイの身体は完全に包み込まれる。
温かくて、ファイは目をとろんとさせながら喉を鳴らした。
「ちょっとおうちに帰ってたのー。ユゥイのお説教が長くって……」
「妙な変態野郎は侵入して来やがるし……妙な日だな、今日は」
「すみません、それオレにゃんだけど……」
変態とは酷い言いようだと思ったが、言われても仕方がないのかもしれない。
黒鋼はぶつくさと文句を言いつつ明かりを消すと、ファイを抱いたまま布団の中に身を横たえた。
ちょうど黒鋼に腕枕されるような態勢で、ファイはふぅと息をついた。やっぱりこの腕の中は安心する。
黒鋼の胸の辺りに両手をついてぐぐっと背伸びをして、喉を鳴らしながらもみもみした。
どうやら慣れないファイにとって、変身は相当の体力を消耗するようだ。早く帰らなければいけないとわかってはいても、もう限界だった。
とりあえず今夜は寝よう。寝て起きてから、改めて今度は黒鋼の目の前で変身しよう。そうすれば、きっと分かってもらえるはずだ。
そんなことを考えながら、ファイは黒鋼の匂いを思いっきり吸いこんで眠りに落ちた。
+++
念じて念じて念じて。
集中力を高めてイメージを膨らませて、すると白い煙と共にファイは人間の姿に変身を遂げた。
黒鋼が驚きの表情でこちらを見つめるので、ファイはにっこりと笑って見せる。
「黒たん! オレだよ! これでわかってくれたよね?」
「おまえ、人間になれるのか……!」
こちらに手を伸ばそうとする黒鋼に、ファイは思いっきり抱きついた。
「そう、オレ人間に変身できるの! 黒たんとお話してみたくて、ユゥイに教わったんだー!」
優しく抱き返されるのが嬉しくて、その胸に頬ずりをした。
「ねぇ、どうかな……? オレ、ちゃんと人間に見えるでしょ?」
「ああ。猫の姿もよかったが……今の姿もなかなかのもんだ」
「ほんと? 可愛い?」
「ああ」
「うわぁい嬉しいー!」
ぎゅっと首に両手を回して、ファイは黒鋼の鼻を舐めようとした。
だがそのとき、耳をつんざくような大きくて恐ろしい声がした。
「こんの変態野郎ーーー!!!!!」
その瞬間、身体が畳みの床にどんっと落ちた。
「ッ―――!?」
全身を打ち付けるような衝撃を食らって、ファイは一瞬なにが起こったのか分からず、目を白黒させる。
「な、な、なに!? なにが起こったのー!?」
「なにが起こったはこっちの台詞だ!! てめぇ一体どこから侵入してきやがった!? しかもなに人の腕ん中で気持ちよさそうによだれ垂らして寝てやがる!?」
「え!?」
見れば敷布団を両手に持った黒鋼が、鬼の形相で怒鳴り散らしている。どうやら布団をひっくり返されたようだ。
ファイは未だに混乱する頭でむくっと起き上がると、身体に感じる違和感に気付いた。
「あ……あれ……?」
見れば裸の人間の姿。それが今のファイの姿。
「夢だったの……?」
夢の中で変身してしまったのか。
黒鋼は肩で息をしている。今にも殴りかかって来そうな剣幕に、ファイは慌てて両手をぶんぶんと振った。
「だ、だからー! オレだってば! 白猫! チビ助!」
「ふざっけんな!!」
怒鳴った黒鋼は、だがすぐにハッとして辺りを見回す。
「そういやあいつまたどこ行った!? おいチビ! チビ助!!」
「ここ! ここだってばー!」
ギンッと睨まれる。その恐ろしい表情にファイはぶるっと震えた。
なんということだ。まさか寝ぼけて変身してしまうとは。
ファイは脳内をフル回転させた。このままではまた放り出される。昨夜のループになってしまう。
「く、黒たん!」
「ああ!?」
「黒たんが初めてオレにくれたご飯はカニカマ!」
「!?」
「お給料日の前なのに、オレのこと病院に連れてってくれたんだよね!? あと、オレが人間だったらきっとお喋り野郎だーとか言ってた! そんでもって最近はおーやさんがヤバイ!」
「……」
「昼間はガッコウ、夜はバイトっていうお仕事してて……でねでね、知ってた? 黒たんの背中にはほくろが二つあってー、今はいてるパンツは灰色! 寝るときはいっつも今みたいな黒ジャージ!」
ファイはとりあえず自分が持っている彼の情報を、手当たり次第に口にしてみた。
これでどうだと言わんばかりに鼻息を荒くすると、彼はわなわなと拳を震わせた。そして俊敏な動きで辺りを見回す。
「カメラ……カメラだな!? てめぇいつから仕掛けていやがった!!」
「きゃめら?」
「盗撮や盗聴まで趣味とはな……流石は変態ストーカーだ……」
「とーさつ? すとっきんぐ?」
ポキパキ……。と小気味よい音をさせながら黒鋼が指の関節を鳴らし、目の前までやってくる。
(この感じ……どっかで覚えがあるような……?)
初日にボス猫にボコられたことを思い出す。
人間になってまでとっちめられるなんてまっぴらごめんで、ファイは慌てて四つん這いで逃げ出そうとした。
が、また髪を鷲掴みにされる。
「いやーー!! 暴力反対! 助けてーっ」
「うるせぇゴルァ! 観念しやが……ッ!?」
目を吊り上げる黒鋼がきつく握った拳を振り上げようとした、その瞬間。
ボムッと白煙が上がった。
「なんだ!?」
「ふにゃぁ……」
「!?」
ファイは猫の姿に戻った。
首根っこを掴まれた状態で、力なく鳴き声をあげる。
「チビ、お、おまえ……」
「ねぇ……これで信じてもらえた……?」
ほんの数分なのにどっと疲れて、ついさっき起きたばかりなのに意識が沈みそうになる。
この姿だと言葉は途端に通じなくなるけれど、下手に通じる言葉を並び立てるよりも、ずっと説得力があったらしい。
黒鋼は随分と長い間、石のように動かないまま目を見開いていた。ついでに口も開きっぱなしだった。
「嘘だろ……?」
嘘じゃない、と言いたかったけれど、ファイは重たい瞼を開じたまま気を失ってしまった。
+++
と、いうわけで。
たっぷり眠って起きたファイは再び人間の姿に変身した。
今は胡坐をかいて腕組みをしている黒鋼と向き合って、ぺたんと座っている。
ちなみに変身後すぐにパーカーとジーンズというものを着せられた。どちらもこの身体には少し大きかったが、毛のない身体にはありがたかった。
尻尾は腹にくるんと巻き付けて、窮屈だったが服の中に隠した。
「やっと信じてくれたねー」
「……………………」
「オレ、つい昨日まで自分が変身できるなんて知らなかったんだー。だからまだ下手くそで、耳と尻尾だけは上手くいかないみたい」
「……………………」
「でもこれでようやくお話できるようにー……って……黒たん? 聞いてる?」
黒鋼は目を閉じて、まるで瞑想に耽っているかのようだった。
だがすぐに目を開くと、苦々しい顔をする。
「……夢、じゃねぇんだよな?」
「夢じゃないよ? つねってあげよっか?」
「本当にあのチビ助、なんだな?」
ファイはこくりと頷いた。
「でもちゃんと名前あるよ。ファイだよ」
「……化け猫かてめぇは」
そう言われて、ファイはパッと顔を輝かせると手のひらに握った拳をポンと打ち付けた。
「それ! そういえばオレね、化け猫探しもしたくて来たんだったよー!」
「はぁ?」
ファイはまた変身が解けてしまわぬうちにと、時折思いっきり舌を噛みながらも、これまでの経緯を説明した。
黒鋼は終始怪訝そうな顔をしていたが、それでも最後まで聞いてくれた。
ちゃんと話が通じているんだと、そう思うと涙が出そうになるくらい嬉しかった。
「……よくわからねぇが……わかった……」
「それってつまりどっち?」
「世の中にゃ俺の理解の範疇を超えることってのがある……ってことがわかった」
ようするに容量オーバーというやつを起こし、いっそどうでもいいということらしい。
それでもちゃんと言葉が通じているのだから、まぁいいかとファイは特に気にしないことにする。嬉しさの方が勝っていたからだ。
「でね、オレどうしても君とお話がしてみたくて」
そのときだった。
ピンポーン……。
玄関のチャイムが鳴った。
その来客を知らせるサインに、黒鋼はより一層、苦々しい表情になった。
「忘れてた……」
「なに? お客さん?」
「おいおまえ、戻れるか? 猫に」
立ちあがった黒鋼に指を指されて、ファイはきょとんとした。が、すぐに頷く。
「うん。そろそろ時間切れだと思うし……」
残念だが仕方がない。もっともっとたくさん話したいことや聞きたいことがあるけれど、お客さんが帰るまでまた少し休んで、それからまた変身しよう。
「よし。じゃあすぐ戻っとけ」
「わかったよー」
ファイが右手を上げて返事をするのを確認すると、黒鋼は玄関へ向かった。
言われた通り元の姿に戻るべく目を閉じた。
――が。
「あり?」
もう一度、元々の姿をイメージして念じる。
だが、いつまで経っても白煙は上がらなかった。
「……なんで?」
ファイは人間の姿のまま、なぜか元に戻ることが出来なくなってしまった……。
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