2025/09/19 Fri 黒鋼、ツッコミ厳禁の巻 「お、おい……その不吉な物言いはなんだ……」 ファイの両目を覗きこむユゥイの目が据わっている。 背筋に薄ら寒いものが駆け抜けるのは気のせいだろうか……。 「言った通り、そのまんまだよ」 「目ん玉えぐってぐちゃぐちゃ食うとか、そんな鬼展開じゃねぇだろうな……」 ファイの肩がビクッと震えた。 「な、なんかオレも……そんなようなビジョンが一瞬見えたような……」 「二人とも何を言っているの?」 ユゥイが呆れたような顔をしつつ、ようやくファイの両頬を解放した。 「なんでそんなN●Kじゃとてもじゃないけど放送できないようなグロ展開になるのさ」 「いや、なんとなくな……」 「オレも……なんとなく……」 「あのね、言葉のあやだよ。ファイの魔力の源はこの両目の青なの。これさえ取り除けば、ファイのMPカラカラだから」 「あれ? HPはー? オレ吸血鬼じゃないよー?」 「まぁいいじゃない、そんな細かいことは」 「おまえらRPGみてぇな言い方すんなよ……」 事実なんだから仕方ないでしょ、とユゥイは吐き捨てるように言った。 「あとはそこにボクがちょちょいっと変身魔法でもかけちゃえば、どうにでもなるんじゃない?」 「てめぇはまたアバウトなことを……」 「だからさー、難しいことばっか考えてるとハゲるよ。……むしろハゲろ(ぼそっ)」 「聞こえてんぞてめぇ」 「あーぁ……んじゃやっちゃおっかー」 「堂々と無視か!!」 黒鋼に対してドスルーを決め込んだらしいユゥイが、ダルそうに首の後ろを掻きながら立ち上がった。 そして指先でなにやら怪しげな呪文のようなものを描きだす。 太陽のような眩い光に辺りが包まれたのは、一瞬のことだった。 「もう終わりか……?」 「そ、終わり」 黒鋼はチカチカと眩んでいる目でファイとユゥイ、両方を幾度も見やる。 ぽかんとした顔で座り込んだままのファイの頭上からは、耳が消えている。もちろん、尻尾も。 残されていたはずの猫の特徴が二つとも消えて、彼はどこからどう見ても人間の姿へと変身を遂げていた。 黒鋼はファイへ腕を伸ばすと両頬を掴むようにして自分へ向けた。派手に間接の鳴る音が聞こえたような気がしたが、まぁいい……。 「いだだだっ! コキャって鳴ったー!!」 「お、おまえ、しっかり目ぇ開けろ……!」 ぎゅうと閉じた目元に涙を浮かべていたファイが、ゆっくりと瞼を開ける。 美しい青が消え、代わりに黄金の瞳が黒鋼を映す。 「こいつは一体……どんなメカニズムだ……?」 「だから突っ込むなって何度言わせるんだか」 「そいつはなんだ?」 黒鋼は頭の中で収拾がつかないことを整理するのを諦め、とりあえずユゥイの手の上に浮かんでいる、青い宝石のような物体を指さした。 人間の頭一つ分を優に超えるほどの大きさの石は、ほんのりと淡い光を放っている。その色はファイの元々の瞳の青を思わせた。 「魔力がぎゅぎゅっと凝縮された結晶だよ。満タン状態が二つ分だからね。見事なもんだね」 「これがオレの中にあったんだねー。感慨深いなぁ」 「あ、触らない方がいいよ。魔力を持たない普通の人間が下手に触れば、一体どうなるか……」 「ど、どうなるの……?」 「軽く星を巻きこむレベルの爆発が……」 「!」 「起こったら困るから気をつけよう」 「はぁい」 「……」 もういちいち突っ込むのは止めよう、と黒鋼は思った。 ユゥイがパチンと指を鳴らすと、青い結晶はどこかへ姿を消してしまう。そして彼は両手を腰に当てると「ふぅ」と息をついた。 「ファイ、どう? 身体、どこかおかしいとこない?」 聞かれて、ファイは自分の頭を両手でポンポンと触ると「ない」と呟く。さらに後ろへ手をやって臀部の辺りを探して、また「ない」と言った。 「す、凄い! オレ本物の人間みたいだー!」 そう言いながら勢いよく立ちあがる。だが。 「あいた!!」 すぐにベタンと派手に尻餅をついてしまった。 「あ、あれー?」 「あはは。尻尾がなくてもバランス取れるように、訓練しないとねぇ」 「変な感じー……」 なるほど、細長いだけに見えた尻尾でも、ファイが身体のバランスを取る上では大事な部分だったらしい。 四足歩行から突如として二足歩行に変わっても彼がなんなく動けていたのは、あの尻尾があってこそだったのだ。 不思議なものだが、どこからどう見ても大人の男がまず始めなければならないのは、立って歩くことらしい。 手始めに『はいはい』でもさせればいいのか……と少し悩むところである。 「でもオレ……ホントに人間になれちゃったんだ……」 それでも感動した様子のファイは、瞳にじんわりと涙を浮かべていた。 ちょっと呆れたような、どこか苦しそうな、それでも笑顔を見せるユゥイがファイを優しく見つめていた。 +++ 別れのときがやってきた。 なんとなく窓辺に寄って壁に背を預けると腕を組み、黒鋼はしばし彼らを見守ることにした。 今の二人に口を出すのは、野暮なことのように思えたからだ。 「ありがとうユゥイ……ワガママ聞いてくれて……」 上手く立ち上がることができずに床に座り込んでいるファイは、泣きそうな目をしてユゥイを見上げて言った。 畳みに片膝をついたユゥイが、そんなファイをふわりと抱きしめる。 「ファイは新しく生まれ変わったんだよ。あの青を失った時点で、ボクとは違う時間軸を、すでに生きはじめてるんだ」 ユゥイの背中を掻き抱くようにして腕を回したファイの瞳から、ついにポロリと涙が零れ落ちる。 宝石のような黄金から零れたそれがあまりにも切なくて、黒鋼はただ瞳を眇めた。 「ユゥイ……ごめんなさい……オレ……ユゥイを、一人ぼっちに……」 白い耳がなくなってしまった、金色の頭を労わるように撫でるユゥイの手はどこまでも優しい。 「ボクは一人じゃないよ。猫の国には、たくさんの可愛い子供たちがいるんだから」 少しだけ笑って、彼は懐かしそうに瞳を細めた。 「ファイはいつものんびり屋で、おっとりしてて、甘えん坊で……ボクがいなくちゃ、なにも出来ない子だったのにね」 「あのねユゥイ……オレは、ユゥイのこと……」 「ファイ、幸せになりなさい」 「……ッ」 泣き濡れて少し赤くなっている目元を、そっと華奢な両手が包み込む。 「いつだって君を想ってる。忘れないで」 そっと、黒鋼は目を逸らした。 双子のような彼らが交わす、秘め事のような口付けから。 次の瞬間、部屋の中に一陣の強い風が巻き起こり、大きな青い光に包まれた。 視線を戻せば、床に手をついて肩を震わせるファイが一人、残されている。小さく息をつき、壁から背を離すと静かに歩み寄り、膝をつく。 かける言葉はなく、ただ肩を抱き寄せれば、耳も尾もなくした一人の青年が、しがみつくようにして胸に顔を埋めてきた。 「オレ……っ、自分のことばっかりだ……!」 黒鋼には想像も及ばないほどの年月を、彼らは共に歩んできた。 血の繋がりはなくとも、そこには計り知れない絆があって、本当ならこれから先もずっと、唯一無二の存在として長きを歩むはずだったふたり。 気の遠くなるほどの生を、消えて行った彼は一人で歩むことになるのだろう。 けれどファイや黒鋼が選んだように、全てを許した時点で、ユゥイもまた自らその道を選んだということになる。 きつく抱き返しながら、黒鋼は小さく首を左右に振った。 「それでも選らんだ道なら、後悔はさせねぇ。おまえにも、あいつにも……」 少しの間、幼子のように泣いていたファイは、鼻を啜りながら小さな声で「うん」と返事をした。 泣きじゃくってしまったことが照れ臭かったのか、顔を上げた彼はようやく情けない笑顔を浮かべる。黒鋼もまた小さく笑って、柔らかく癖のある金色の髪を梳くようにして撫でた。 猫のように目を細めたファイの瞳が完全に閉じられて、ふたりは互いに自然と顔を近づけ合った。 唇が重なる……かと思ったその瞬間。 どろん、と間抜けな音がした。 「そうそう忘れてたー」 ユゥイが現れた……。 「これこれ、渡すの忘れちゃってたから届けに来たんだけど……ってちょっと……人がいなくなった途端なにイチャコラしはじめてるの」 「お、おま……」 白い携帯電話を手にしたユゥイが、物凄く嫌そうな顔をしてこちらを睨んでいる。 あの感動の別れのシーンは一体なんだったのだろうか……。 まさに開いた口が塞がらない状態の黒鋼を無視し、ユゥイは二人の間にズンズンと割り込むと、ファイに白くのっぺりとした板のようなものを手渡す。 流石のファイも少し拍子抜けしたような顔をしつつ、大人しくそれを受け取ると首を傾げた。 「これなぁに?」 「スマホだよ。ガラケーもいいけど、やっぱり時代はこれだよね。あ、防水加工もばっちりだから、お風呂に入りながらワンセグ視聴も楽しめちゃう優れモノ」 「わんせぐ?」 「テレビだよテレビ。ファイ好きでしょ?」 途端、ファイはぱっと目を輝かせた。 「お風呂でテレビ見れちゃうのー!?」 「ふふふ」 ワンセグなんて今どき珍しくもなんともない。一体いつの時代の感覚なのか。 だが満足げなユゥイの笑顔に、控えるまでもなく突っ込む言葉さえ見つからない黒鋼は、激しい頭痛に襲われながら、がっくりと項垂れた。 ←戻る ・ 次へ→
「お、おい……その不吉な物言いはなんだ……」
ファイの両目を覗きこむユゥイの目が据わっている。
背筋に薄ら寒いものが駆け抜けるのは気のせいだろうか……。
「言った通り、そのまんまだよ」
「目ん玉えぐってぐちゃぐちゃ食うとか、そんな鬼展開じゃねぇだろうな……」
ファイの肩がビクッと震えた。
「な、なんかオレも……そんなようなビジョンが一瞬見えたような……」
「二人とも何を言っているの?」
ユゥイが呆れたような顔をしつつ、ようやくファイの両頬を解放した。
「なんでそんなN●Kじゃとてもじゃないけど放送できないようなグロ展開になるのさ」
「いや、なんとなくな……」
「オレも……なんとなく……」
「あのね、言葉のあやだよ。ファイの魔力の源はこの両目の青なの。これさえ取り除けば、ファイのMPカラカラだから」
「あれ? HPはー? オレ吸血鬼じゃないよー?」
「まぁいいじゃない、そんな細かいことは」
「おまえらRPGみてぇな言い方すんなよ……」
事実なんだから仕方ないでしょ、とユゥイは吐き捨てるように言った。
「あとはそこにボクがちょちょいっと変身魔法でもかけちゃえば、どうにでもなるんじゃない?」
「てめぇはまたアバウトなことを……」
「だからさー、難しいことばっか考えてるとハゲるよ。……むしろハゲろ(ぼそっ)」
「聞こえてんぞてめぇ」
「あーぁ……んじゃやっちゃおっかー」
「堂々と無視か!!」
黒鋼に対してドスルーを決め込んだらしいユゥイが、ダルそうに首の後ろを掻きながら立ち上がった。
そして指先でなにやら怪しげな呪文のようなものを描きだす。
太陽のような眩い光に辺りが包まれたのは、一瞬のことだった。
「もう終わりか……?」
「そ、終わり」
黒鋼はチカチカと眩んでいる目でファイとユゥイ、両方を幾度も見やる。
ぽかんとした顔で座り込んだままのファイの頭上からは、耳が消えている。もちろん、尻尾も。
残されていたはずの猫の特徴が二つとも消えて、彼はどこからどう見ても人間の姿へと変身を遂げていた。
黒鋼はファイへ腕を伸ばすと両頬を掴むようにして自分へ向けた。派手に間接の鳴る音が聞こえたような気がしたが、まぁいい……。
「いだだだっ! コキャって鳴ったー!!」
「お、おまえ、しっかり目ぇ開けろ……!」
ぎゅうと閉じた目元に涙を浮かべていたファイが、ゆっくりと瞼を開ける。
美しい青が消え、代わりに黄金の瞳が黒鋼を映す。
「こいつは一体……どんなメカニズムだ……?」
「だから突っ込むなって何度言わせるんだか」
「そいつはなんだ?」
黒鋼は頭の中で収拾がつかないことを整理するのを諦め、とりあえずユゥイの手の上に浮かんでいる、青い宝石のような物体を指さした。
人間の頭一つ分を優に超えるほどの大きさの石は、ほんのりと淡い光を放っている。その色はファイの元々の瞳の青を思わせた。
「魔力がぎゅぎゅっと凝縮された結晶だよ。満タン状態が二つ分だからね。見事なもんだね」
「これがオレの中にあったんだねー。感慨深いなぁ」
「あ、触らない方がいいよ。魔力を持たない普通の人間が下手に触れば、一体どうなるか……」
「ど、どうなるの……?」
「軽く星を巻きこむレベルの爆発が……」
「!」
「起こったら困るから気をつけよう」
「はぁい」
「……」
もういちいち突っ込むのは止めよう、と黒鋼は思った。
ユゥイがパチンと指を鳴らすと、青い結晶はどこかへ姿を消してしまう。そして彼は両手を腰に当てると「ふぅ」と息をついた。
「ファイ、どう? 身体、どこかおかしいとこない?」
聞かれて、ファイは自分の頭を両手でポンポンと触ると「ない」と呟く。さらに後ろへ手をやって臀部の辺りを探して、また「ない」と言った。
「す、凄い! オレ本物の人間みたいだー!」
そう言いながら勢いよく立ちあがる。だが。
「あいた!!」
すぐにベタンと派手に尻餅をついてしまった。
「あ、あれー?」
「あはは。尻尾がなくてもバランス取れるように、訓練しないとねぇ」
「変な感じー……」
なるほど、細長いだけに見えた尻尾でも、ファイが身体のバランスを取る上では大事な部分だったらしい。
四足歩行から突如として二足歩行に変わっても彼がなんなく動けていたのは、あの尻尾があってこそだったのだ。
不思議なものだが、どこからどう見ても大人の男がまず始めなければならないのは、立って歩くことらしい。
手始めに『はいはい』でもさせればいいのか……と少し悩むところである。
「でもオレ……ホントに人間になれちゃったんだ……」
それでも感動した様子のファイは、瞳にじんわりと涙を浮かべていた。
ちょっと呆れたような、どこか苦しそうな、それでも笑顔を見せるユゥイがファイを優しく見つめていた。
+++
別れのときがやってきた。
なんとなく窓辺に寄って壁に背を預けると腕を組み、黒鋼はしばし彼らを見守ることにした。
今の二人に口を出すのは、野暮なことのように思えたからだ。
「ありがとうユゥイ……ワガママ聞いてくれて……」
上手く立ち上がることができずに床に座り込んでいるファイは、泣きそうな目をしてユゥイを見上げて言った。
畳みに片膝をついたユゥイが、そんなファイをふわりと抱きしめる。
「ファイは新しく生まれ変わったんだよ。あの青を失った時点で、ボクとは違う時間軸を、すでに生きはじめてるんだ」
ユゥイの背中を掻き抱くようにして腕を回したファイの瞳から、ついにポロリと涙が零れ落ちる。
宝石のような黄金から零れたそれがあまりにも切なくて、黒鋼はただ瞳を眇めた。
「ユゥイ……ごめんなさい……オレ……ユゥイを、一人ぼっちに……」
白い耳がなくなってしまった、金色の頭を労わるように撫でるユゥイの手はどこまでも優しい。
「ボクは一人じゃないよ。猫の国には、たくさんの可愛い子供たちがいるんだから」
少しだけ笑って、彼は懐かしそうに瞳を細めた。
「ファイはいつものんびり屋で、おっとりしてて、甘えん坊で……ボクがいなくちゃ、なにも出来ない子だったのにね」
「あのねユゥイ……オレは、ユゥイのこと……」
「ファイ、幸せになりなさい」
「……ッ」
泣き濡れて少し赤くなっている目元を、そっと華奢な両手が包み込む。
「いつだって君を想ってる。忘れないで」
そっと、黒鋼は目を逸らした。
双子のような彼らが交わす、秘め事のような口付けから。
次の瞬間、部屋の中に一陣の強い風が巻き起こり、大きな青い光に包まれた。
視線を戻せば、床に手をついて肩を震わせるファイが一人、残されている。小さく息をつき、壁から背を離すと静かに歩み寄り、膝をつく。
かける言葉はなく、ただ肩を抱き寄せれば、耳も尾もなくした一人の青年が、しがみつくようにして胸に顔を埋めてきた。
「オレ……っ、自分のことばっかりだ……!」
黒鋼には想像も及ばないほどの年月を、彼らは共に歩んできた。
血の繋がりはなくとも、そこには計り知れない絆があって、本当ならこれから先もずっと、唯一無二の存在として長きを歩むはずだったふたり。
気の遠くなるほどの生を、消えて行った彼は一人で歩むことになるのだろう。
けれどファイや黒鋼が選んだように、全てを許した時点で、ユゥイもまた自らその道を選んだということになる。
きつく抱き返しながら、黒鋼は小さく首を左右に振った。
「それでも選らんだ道なら、後悔はさせねぇ。おまえにも、あいつにも……」
少しの間、幼子のように泣いていたファイは、鼻を啜りながら小さな声で「うん」と返事をした。
泣きじゃくってしまったことが照れ臭かったのか、顔を上げた彼はようやく情けない笑顔を浮かべる。黒鋼もまた小さく笑って、柔らかく癖のある金色の髪を梳くようにして撫でた。
猫のように目を細めたファイの瞳が完全に閉じられて、ふたりは互いに自然と顔を近づけ合った。
唇が重なる……かと思ったその瞬間。
どろん、と間抜けな音がした。
「そうそう忘れてたー」
ユゥイが現れた……。
「これこれ、渡すの忘れちゃってたから届けに来たんだけど……ってちょっと……人がいなくなった途端なにイチャコラしはじめてるの」
「お、おま……」
白い携帯電話を手にしたユゥイが、物凄く嫌そうな顔をしてこちらを睨んでいる。
あの感動の別れのシーンは一体なんだったのだろうか……。
まさに開いた口が塞がらない状態の黒鋼を無視し、ユゥイは二人の間にズンズンと割り込むと、ファイに白くのっぺりとした板のようなものを手渡す。
流石のファイも少し拍子抜けしたような顔をしつつ、大人しくそれを受け取ると首を傾げた。
「これなぁに?」
「スマホだよ。ガラケーもいいけど、やっぱり時代はこれだよね。あ、防水加工もばっちりだから、お風呂に入りながらワンセグ視聴も楽しめちゃう優れモノ」
「わんせぐ?」
「テレビだよテレビ。ファイ好きでしょ?」
途端、ファイはぱっと目を輝かせた。
「お風呂でテレビ見れちゃうのー!?」
「ふふふ」
ワンセグなんて今どき珍しくもなんともない。一体いつの時代の感覚なのか。
だが満足げなユゥイの笑顔に、控えるまでもなく突っ込む言葉さえ見つからない黒鋼は、激しい頭痛に襲われながら、がっくりと項垂れた。
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