2025/06/16 Mon *目隠し、拘束、各種オモチャ、尿道責め、放置プレイなど欲張りセット。 *濁音喘ぎ、あからさまな淫語。 *二次エロはファンタジー。 「あっ!」 高く鋭い音を立て、床に落下した皿が粉々に飛び散った。空気まで一緒にひび割れたような感覚に、操は身をすくませる。 「またやっちゃったぁ……」 「来主、大丈夫か?」 その音に目を丸くして、カウンターの奥から出てきたのは一騎だった。彼は操が迂闊に破片に触れないよう、肩を抱いて一歩引かせると優しく笑って小首を傾げた。 「片付けは俺がするから。来主は下がってな」 「うん……」 「一騎、あまり来主を甘やかすな」 そこへ、休憩から戻った甲洋がバックヤードから姿を現した。後手に黒いエプロンの紐を結びながら、呆れた視線を向けてくる。 「今月に入ってから三枚目だよ。先月は五枚、先々月は四枚。この調子で、今月も記録を更新するつもり?」 チクチクと刺すような物言いに、操は喉の奥で「う」と呻いた。言われても仕方がないことだが、だからこそ反抗心を煽られる。 「ちょっと手が滑っただけなのに! そんなに言わなくたっていいじゃん!」 「気が緩んでる。緊張感がない証拠だよ」 「次は気をつけるってば!」 「それを聞くのも今月に入って三回目だ。いい? 今日のドングリはなし。それと店の掃除だ」 「えぇ!? またぼく一人でぇ!?」 それは皿割り常習犯の操に課せられたルールだった。皿を一枚割ると、その日は報酬のドングリがもらえない。 甲洋はドングリを探す天才だ。丸々としてずっしりと重たい、立派なドングリを操にくれる。自分で探そうとしても虫食いばかりで、痩せたものしか探せないから。だから操は甲洋がくれるドングリを、いつも楽しみにしているのだった。 ドングリは植えると芽が出て、いずれはクヌギという木に成長するらしい。つまり、たくさん植えれば森になる。自宅の庭が森になったら、母・容子はきっとビックリするだろう。その顔が見たくて日々せっせとドングリを集める操にとって、このペナルティはかなり厳しい。 しかも罰はそれだけじゃない。閉店後、普段なら時間短縮のために分担して済ませるところを、一人でこの店内の床磨きなどをさせられる。これがとにかく面倒くさいのだ。 「そんなの厳しすぎるって! こないだ一騎だってお皿一枚割ったじゃん! なのになんの罰もなしなんて、そんなのズルいよ!」 「それを言われると弱いな」 一騎が肩をヒョイとすくめて、恥ずかしそうに苦笑した。 「一騎はあの日たまたまミスをしただけだ。滅多にそんなことはしないし、猛省していた。ごめんなさいの一言もないお前と一緒にするな」 「ムキィィィ……ッ」 ド正論ほど腹が立つものはない。猿のように顔を真っ赤にして怒らせた肩を、一騎がポンと叩いて宥めてくる。けれど操のムカつきは収まらなかった。いま謝ろうと思っていたなんて、そんなことを言えばまたチクリと嫌味を刺されるだけだ。 ぐうの音も出ずに睨みつけるばかりの操に、甲洋は鼻から小さな息を漏らした。 「いつまでそうしてるつもり? そこは俺が片すから、お前は早く仕事に戻りな」 「~~ッ! ふんだ! 甲洋のバカ!」 軽くあごをしゃくるような仕草で向こうへ行けと命じられた操は、拙い捨て台詞を残すと大きな足音を立てて店の奥に引っ込んだ。 操が行ってしまうと、一騎がからかうような瞳を甲洋に向ける。 「破片の片付けは絶対にさせないんだよな、毎回」 「……危なっかしくて、見てられないよ」 そんなふたりの会話が、操の耳に届くことはなかったけれど。 * 「ただいまぁ……」 きっちり掃除を終えて帰宅した操を、容子がリビングから顔を出して迎えてくれた。 「おかえりなさい。遅かったのね」 「うん、ちょっと」 冴えない返事に、容子は心配そうに眉をひそめる。 「操、あなたまたお皿を割ったの?」 「な、なんで分かるの?」 「分かるわよ。帰りが遅い日はいつもそうでしょ?」 バレている。そりゃあそうだ。甲洋は基本的に操を遅くまで残らせることはしない。だからこうして帰りが遅くなる日は、決まってミスをしたときだけなのだ。 「あまり迷惑をかけてはダメよ。あなたは社会勉強をさせてもらっているのだから、ちゃんと甲洋くんの言うことを聞いて、」 「もう! お母さんまでうるさい! そんなこと分かってるよ!」 いつもなら素直に受け取れるはずの言葉も、今の操にはまるで追い打ちのように感じられた。つい腹を立ててしまい、顔を背けると二階の自室へ続く階段を駆け上がっていく。 反抗期さながらの操の態度に、容子は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに眉をハの字にして苦笑する。 「操、ご飯は? 先にお風呂にするの?」 「ご飯いらない! お風呂あとで!」 操が掃除をしているあいだ、一騎は新作カレーの開発を理由に居残っていた。それをたらふく試食させてもらったのだ。その場に甲洋もいたにはいたが、操は一言も口を利かずにそっぽを向いて帰ってきた。結局、最後までごめんなさいは言わないまま。 「なんでこうなるの? お母さんにまで八つ当たりしちゃったじゃん!」 バタン、と大きな音を立て、自室に戻った操はついヒステリーじみた声を上げる。明かりをつけると真っ先にベッドに向かい、枕元のクッションを床に投げつけた。 「ぜんぶ甲洋のせいだ! 甲洋のせいで、ぼくは悪い子になっちゃうんだ!」 それは操がミスを連発するからで、この状態はただ逆ギレしているだけだ。甲洋が言うことはいちいち正しくて、自分が悪いことくらいちゃんと理解しているつもりだけれど。 「……お母さんに謝らなきゃ」 しおしおとうなだれながら、操は投げつけたクッションを拾い上げるとベッドの縁に腰をおろした。クッションを抱きしめ、泣きそうな顔を埋める。 母に当たっても仕方がないのに。ひどいことを言ってしまった。だけど正しいことを言われると、なぜだか心がトゲトゲしてしまう。とりわけ甲洋に言われるとなおさらだった。 「もっと優しくしてくれたっていいのに」 操と甲洋は手を繋いだりキスをしたり、その先のことだってする仲である。つまりは特別な関係で、互いにそういうことをしたいと思う相手のことを、恋人と呼ぶらしい。 だったらもっと優しく接してくれてもいいと思うし、ちょっとくらい甘やかしてくれてもいいのではないかと、操は思う。 「甲洋はいちいち厳しすぎるんだ。嫌味ばっかりぐちゃぐちゃ言ってさ。それに──」 操の不満がこんなにも爆発しているのは、なにも今日あった出来事だけが原因ではなかった。その他にも要因があり、積もり積もって膨らみきってしまったのだ。 クッションから顔をあげ、ふくれっ面の操は壁にかかっているカレンダーに目線をやった。 「もうずっとエッチしてないじゃんか」 最後に甲洋とセックスをしてから、ずいぶん日にちが経っている。 あの男は基本的に、店が休みの日にしか手を出してこようとしない。その他はどんなにねだっても、「ダメだ」の一点張りでそっけなくされてしまう。 楽園は定休日というものを設けておらず、休みは不定期という自由なスタイルで運営されている。ここ最近は店を貸し切りたいという予約客がやけに多かったこともあり、休みがない状態が続いていた。おかげでめっきりご無沙汰だ。 せめてちょっとした隙を見てすり寄ってみても、仕事中にすることではないと冷たくあしらわれるばかり。閉店後はさっさと家に帰されるし、まったくそれらしいことをする暇がない。そのことに操は不満を募らせる一方だった。 「もっといっぱいしたいのに……」 操は甲洋に甘えるのが好きだ。特にセックスをするときの彼は、まるで操のことを宝物のように優しく扱ってくれる。普段は飴より鞭の方が多いだけに、あの瞬間が好きで好きで仕方なかった。心も身体も気持ちがよくて、嬉しいという感情でいっぱいになる。 だから毎日だってしたいのに、甲洋はちっとも好きにさせてくれない。そのくせ嫌味や小言は尽きなくて、厳しく接するばかりだった。 その点、一騎はいつだって優しくしてくれる。今日だって真っ先に来てくれたし、操を責めるようなことは一言も言わなかった。甲洋とは大違いだ。 「いいなぁ総士は。一騎といつも一緒でさ」 ぶぅと唇を膨らませ、クッションを抱いたままベッドに転がった。 一騎だったら、なんでも言うことを聞いてくれるのだろうか。なにをしたって許してくれて、どんなときも優しくて、キスもセックスも、したいときはいつだってしてくれるのだろうか。 「甲洋が一騎みたいだったらよかったのに……」 好きなときにくっつけないし、エッチもできない。二人っきりのときにしか甘やかしてくれなくて、他はダメだダメだと言うばかり。だんだんと、また腹が立ってくる。どうして自分ばかり、いつも我慢しなくちゃいけないのだろう。 だけど言葉でなにを言ったって敵わない。どうにかして甲洋を意のままにする手はないものかと考えて── 「そうだ! いいこと思いついちゃった!」 ふと名案を思いつき、ベッドから飛び起きるとクッションを投げだした。思い立ったら居ても立っても居られない。操は意気揚々と、ワープで家を飛び出した。 * 数日後──。 「やったー! お仕事終わり! 今日はお皿割らなかった!」 営業時間が終わり、全ての仕事を終わらせた操がバンザイをする。厨房を片していた一騎に「偉かったな」と褒められて、得意げに胸を張った。 「ぼくだってやればできるもんね!」 「それが当たり前だ」 が、カウンターで皿を磨いていた甲洋がすかさず水をさしてくる。操は思わずムッとしかけたが、すぐにニコリと笑うとそばに駆け寄り、背後からその腰に腕を回した。 「っ、危ないだろ」 危うく皿を落としそうになった甲洋が、眉間に深くシワを刻む。それでも振り払う素振りは見せない。営業時間外でもあるし、操は自分の仕事をしっかりと終わらせている。だからそれ以上の文句を言われることはなかった。 「明日は久しぶりにお休みだよね!」 「そうだけど?」 皿を磨きはじめる甲洋の耳元に、背伸びをして唇を近づける。 「じゃあ、今日はお泊りしてもいいでしょ?」 小声で問えば、甲洋はほんの少しの間のあとに「いいよ」と短く返事をした。普段は滅多に心を悟らせない甲洋だが、その瞬間だけはふっと緩みが生じたのが分かる。一騎もいる手前すぐに引き締められたが、操はそれだけで充分に嬉しさを感じた。 明日は久々の休日だ。一騎は総士を連れて、真矢と美羽も一緒に海へピクニックに行くらしい。操と甲洋も声をかけられたが、さりげなく断ったのは甲洋だった。それは甲洋も久々の休みをふたりで過ごすことを望んでいるからで、その意図に気づかないほど操だって鈍くない。だからこれ以上ないほど気分がよかった。今なら多少の嫌味くらい、余裕でスルーできそうなほど。 しかし、心に蓋をして悟らせたくないのは操も同じだった。気を抜くと思い切り開放してしまいそうなほど浮かれているが、そのせいで計画が漏れては台無しだ。操は今夜、甲洋にちょっとした悪戯を仕掛けるつもりでいるのだから。 「むふふふふ」 「……気持ち悪いよ、来主」 怪しい含み笑いに容赦なくジト目を食らったが、そんなことすらへっちゃらだった。 * 帰っていく一騎を見送ると、ふたりは二階にある甲洋の部屋へと向かった。 操の手にはサイズが大きめの、猫柄の巾着袋がぶら下がっている。扉を閉めるなり甲洋がチラリと不思議そうな目を向けてきたが、操は誤魔化すようにその首に抱きついた。 背伸びをしながら引き寄せて、ぶつけるみたいなキスをする。その性急さに、甲洋はふっと笑みを漏らした。 「あせらなくても時間はあるよ」 ふたりきりのときにしか見られない、甘ったるくて優しい笑顔。ひどく久しぶりに見た気がして嬉しくなる。 けれど操はツンと唇を尖らせて、上目遣いに甲洋を軽く睨んでやった。 「だってずっと我慢してたんだもん。ほんとはもっとしたいのに」 「それどころじゃなかったろ。仕事に支障が出れば大変だ」 「君は真面目すぎるんだ。少しくらいなら別にいいじゃん」 「ダメだ。仕事とプライベートはちゃんと分けろ。それができないなら、」 「もう! そういうのいいから、早くしようよ!」 放っておくとまた小言が始まりそうだ。こんなときまでご免だと、操は少し焦りながら甲洋をベッドに引っ張っていく。 「風呂は?」 「そんなのいい! ねぇ早く」 急かす操に苦笑して、甲洋がようやく手を伸ばす。両肩に大きな手がかぶさり、唇を重ねながら並んでベッドに腰掛けた。巾着袋の紐が、操の手首からすり抜ける。 「んんっ、ふ……っ」 忍び込んできた舌を受け入れ、鼻から抜けるような声を漏らした。水音を立てながら競うように舌を絡ませ、互いに服の上から身体をまさぐる。胸や脇腹に大きな手のひらを滑らされ、操の身体がピクンと跳ねた。 「はぁ、ん……!」 芯から込み上げた熱に息が上がり、頬が紅潮する。頭がぼうっと霧がかるのを感じて、操は内心ハッとした。これじゃマズい。夢中になりかけて、うっかり計画を忘れるところだった。互いに無防備になっている今は、仕掛けるのに絶好のチャンスでもある。 操はすぐ脇にある巾着袋にさりげなく片手をやりながら、顔の角度を変えると甲洋の下唇に吸いついた。 「んっ……!」 甲洋の肩がわずかに震えた。その隙をつき、操は巾着袋から抜き取ったものを素早く甲洋の手首の片方に引っ掛ける。 ──カシャン 「ッ!」 響き渡った無機質な音に、甲洋が息を呑む。唇が離れ、目と目が合うと操はニンマリ微笑んだ。 「これは? どういうつもり?」 短く息を漏らし、甲洋がじっとりとした眼差しを向けてくる。操がその手首の片方にハメたのは、安っぽいオモチャの手錠だ。オモチャとはいえそれなりに頑丈で、よくできた代物だった。 「甲洋が悪いんだよ。ダメダメばっかで、ぼくの言うことぜんぜん聞いてくれないから」 操はしたり顔で言うと、手錠のもう片方を格子パネルになっているベッドの背もたれに引っ掛け、固定した。 「だから今日は、ぼくが君を好きに食べちゃう日。いいでしょ?」 手錠に繋がれた甲洋の白い手首に、ゾクゾクとしたものが込み上げる。普段の生活だけじゃない。思えばセックスをするときだって、まともに主導権を握らされたことはなかった。だから今夜は思う存分、甲洋を翻弄してやりたい。 ワープで逃げられてしまえばそれまでだが、そんな気を起こす前に気持ちいいことをたくさん仕掛けて、余裕をなくしてやればいいだけだ。操だって、彼のイイところくらい知っている。 「ッ、ん……」 指先を耳たぶに滑らせて、裏側を軽く引っ掻いた。甲洋がかすかに震え、目を閉じながら顔を背ける。耐えるようにぐっと上下した喉仏に、異様なほど興奮した。 「それが嫌なら、一騎みたいにもっとぼくに優しくしてよ」 わざと意地悪く煽るような言い方をすると、うっすらと赤らんだ目元で軽く睨まれた。 「一騎みたいに? お前のことを?」 押し殺したような低い声。その瞳がスッと細められたのを見て、なぜだか背筋が冷たくなった。たったそれだけで気圧されたような気分になって、操は思わず肩をすくませる。けれど優位に立っているのはこっちなのだからと、気を取り直して鼻を鳴らした。 「そうだよ。だって一騎は小言も嫌味も言わないし。お皿割っても優しいもん。君とはぜんぜん大違い。甲洋が一騎だったらよかったのに」 ツンとそっぽを向きながら、今のは少し言い過ぎたかなぁなんて思いはしたが、そのときにはもう空気が凍りついていた。操はギクリとしながら甲洋を見る。 深く溜息をつき、彼は心底あきれ果てたという顔をしていた。不愉快だという感情を、今の甲洋は隠しもしない。彼がこれほど明確に心を悟らせるのは珍しかった。 「……少しくらいなら、好きに遊ばせてやろうかと思ってたけど」 「え?」 「気が変わったよ」 甲洋は手錠で繋がれていない方の手を、スッと操の目の前に持ち上げた。その指先には、小さな鍵が摘まれている。 「な、なんで!? なんで君がそれを持ってるの!?」 操はとっさに両手で自分の胸をまさぐった。無い。どこにも無い。シャツの胸ポケットに、こっそり隠し持っていたはずの手錠の鍵が。 「様子がおかしいと思ったら。なかなか面白いことを考えたな」 甲洋が長い足を組み、手のひらで鍵を弄ぶ。 「あっ、もしかしてさっき……!」 軽く混乱しながらも、操はさっきのキスを思いだした。彼は口づけを深くしながら、操の胸や脇腹をまさぐっていた。あくまで偶然だったのだろうが、そこで胸ポケットにある鍵の存在に気づき、知らぬ間に抜き取っていたのだ。 操はキスに溺れかけていて、そのことにまったく気がついていなかった。 「詰めが甘いよ、来主」 「か、返して!」 取り返そうと手を伸ばしたが、甲洋は鍵を握りしめると遠ざけてしまう。 「返してよぉ! それはぼくのなんだからぁ!」 「いいよ。これを外した後でね」 余裕の笑みが腹立たしかった。今にも飛びかかってやろうとしたけれど、その寸前で手早く解錠されてしまう。自由になった片手を軽く振りながら、甲洋は感心したように「けっこう頑丈だな」と呟いた。 終わった、と操は思う。優位に立っていたつもりが、最初から手のひらで遊ばれていたのは自分の方だった。ここからまた形勢を立て直すのは難しいだろう。きっと今からこってり絞られるに違いない。最悪、朝まで説教コースになる可能性だってある。 「もぉー! なんでぇ!? なんでうまくいかないのぉ!?」 悔しすぎて泣きそうになる。操は癇癪を起こした子供のように声を張り上げ、頭を抱えるとぐしゃぐしゃと髪を乱した。 甲洋は辟易とした様子で嘆息を漏らし、ベッドの端に置き去りにされていた猫柄の巾着袋を引き寄せた。 「それで? いかにも怪しいこれはなに?」 「あっ! それダメ!」 サァッと青褪めた操を尻目に、甲洋は中身を全てベッドの中央にぶちまける。 「うわ……」 出てきた品々を見て、甲洋が珍しく顔を引き攣らせる。操はいよいよ両手で顔を覆い、無駄に終わってしまったアイテムたちへの虚しさを嘆いた。 「あぁ~……お母さんからもらったお小遣い、残ってたのぜんぶ使い果たしたのにぃ……」 袋から出てきたのは、ピンクローターが5つと綿素材のSM用ロープ、黒い目隠しと白いギャグボール、そしてシリコン製のコックリング。挙句の果てにはバイブ機能がついた黒いブジーと、チューブ付きのシリンジが潤滑剤とセットになっているものまであった。 「まさかお前……これを全て俺に使おうとしてたのか……?」 そのえげつないラインナップに、さすがの甲洋も顔色をなくしていた。呆れさせたことはあっても、ここまでドン引きさせたことはない。こうなるとさすがに恥ずかしくなってきた操は、顔を真っ赤にしながら逆に開き直ってしまった。 「そうだよ! これで君のことヒンヒン言わせようと思ってたのに! 台無しだよ!」 「頭どうかしてるぞ……これ全部、わざわざ闇市で買ってきたのか……?」 大きく鼻をすすりながら、こくんと頷く。 数日前の夜、ふと閃いた操が向かった先は、鈴村神社からほど近い商店街の路地裏だった。昼間でも薄暗いその場所には、真夜中になると小さなライトが灯される。そこで密かに開かれているのが、大人たちのあいだで闇市と呼ばれている店だった。 海神島では鈴村神社で開催されるフリーマーケットとは別に、昼間の時間帯には扱えない商品を売る店が、ひっそりと存在していた。それが闇市だ。そこではこういったアダルトグッズの類──もちろん新品──や、エロ本などの性的嗜好品が数多く売られている。 ささやかなライトの下にはレジャーシートが敷かれ、所狭しと怪しげな品々が並べられていた。店には帽子を目深にかぶった男がアウトドアチェアに腰掛けているだけで、他に客はいなかった。操はその中から直感で幾つかアイテムを選び、購入したのだ。 使い方を知っていたわけではないが、そこは甲洋の身体を使って試してみればいっか、くらいの軽いノリだった。 「そんなところに一人で行くな」 「だぁって君、行きたいって言っても連れてってくれないじゃん」 「当たり前だ。必要があるとは思えない」 その冷めた口調に、操は唇を尖らせた。出だしの甘い雰囲気はどこへやら、甲洋には普段の手厳しさが戻ってしまっている。 面白くない。せっかく買い揃えたものも無駄になってしまい、操は「あーぁ」と言って肩を落とした。 「つまんない。これでめちゃくちゃにしてやろうと思ってたのに。ぜーんぶ無駄になっちゃった」 「……そうでもないさ」 「えぇ~? なに、ぁ、わっ」 手首を掴まれると引き寄せられて、しっかりと肩を抱き込まれる。ポカンとしながら見上げる操に、甲洋は目を細めて微笑んだ。 「これでめちゃくちゃにされたかったのは、来主のほうだろ?」 「ッ、は? なに言ってんの? そんなわけないじゃん」 「本当に?」 「……なんで? なんでそんなこと……だって、これはぜんぶ君に……」 どうしてか、最後まで言えずに言葉を詰まらせてしまう。操は計画が失敗したときのことを、まるで考えていなかったのだ。甲洋を拘束して、いつも自分がされているみたいにいっぱい気持ちよくして、焦らして焦らして追い詰めてやろうと思っていた。 その頭しかなかったはずなのに、なぜか強く否定することができない。そんな自分への戸惑いに目をそらせば、ベッドの上には大人のオモチャが散乱している。無意識にこくんと喉が鳴った。 (これ、どんなふうに使うんだろ。使ったらどうなるのかな? 気持ちよく、なるのかな……?) 急に心臓がうるさく騒ぎだす。 「試せばいいさ」 操の心を読み取った甲洋が、耳元で吐息混じりに囁きかける。ビクンと肩を跳ねさせて、潤んだ瞳をおずおずと向けた。戸惑いと不安と、期待と恐れ。様々なものが入り混じって揺れる瞳を覗き込み、甲洋が妖しく笑みを浮かべた。 「俺は一騎みたいに優しくないから。だからあいつが、お前相手には絶対にしないようなことを、してあげる」 * 裸に剥かれた操は目隠しをされ、ベッドの背もたれに手錠のチェーンを引っ掛ける形で両手首を拘束されていた。 両足は太ももの裏にふくらはぎがぴったりくっつくように折りたたまれて、膝横と足首辺りを縄で縛りつけられている。巻きつけた部分を束ねて閂状に固定すると、そこからさらにロープを通して背もたれの格子にそれぞれ括りつけられた。M字に開脚する臀部から腰の下には何枚ものタオルが重ねて敷かれ、クッション代わりになっている。 「縄が綿素材でよかった。痕も残りにくいし、痛くないだろ?」 「ね、ねぇ甲洋……ぼく今どうなってるの?」 操はすっかり目隠しをされているため、視覚情報の一切を遮断されている。甲洋の心を読もうにも厚い壁が張り巡らされ、自分がどんな状態でいるのかさえよく分からない。 「なかなか似合ってるよ、来主。いい眺め」 「やっぱやめようよ……なんか嫌だ。もうやめたい」 目も見えず、心も読めないとなると不安だけが増すばかりだ。ここまでおとなしくはしていたものの、今さら後悔が押し寄せてくる。 「やめるもなにも」 音と気配だけで、甲洋がすぐ脇に腰を下ろしたことだけはかろうじて伝わった。それだけで、身体がビクンと跳ねてしまう。 「まだ始まってすらいないよ」 甲洋がそう言ったと同時に、ローターの低いモーター音が唸りをあげはじめた。ドキリとして身を強張らせる操の耳元まで近づいて、耳の穴に触れるか触れないかのところで耳たぶをくすぐりはじめる。 「やっ、やだ! くすぐったい……っ!」 振動と一緒に、頭の中にまで直にモーター音が響き渡るようだった。逃れようとして身をよじると、両腕を拘束している手錠がガチャガチャと音を立てる。それらの無機質な音にまぎれて、甲洋が小さく笑った気がした。 「どんな感じ?」 耳の穴をつついていたローターの先端が、頬の輪郭なぞって首筋を伝っていく。鎖骨をたどり、やがて乳首に触れると乳輪をなぞるようにクルクルと動いた。 「やぁっ、ぁ! んっ……わかんない、よ……っ」 左右の乳首をゆるゆると交互に刺激する振動に、操は皮膚をざわざわと粟立てた。その動きは決して一定のものではなくて、片方をやけにしつこくいじっていたかと思えば、もう片方はかすめる程度につつくだけと、まるで予測がつかない。 視界を遮られているからこそ神経が余計に研ぎ澄まされて、振動になぶられる肌が敏感になっていく。 「乳首が勃ってる。ずいぶん気に入ったように見えるけど?」 「んっ、んっ、ぁッ、ち、ちが、ぅ……変な、感じ……あっ、ジンジン、してきちゃ……っ」 「もう腰が揺れてるよ。そんなにこれが好き?」 「ち、ちがうもん! ……っ、ぁ、こんなのぼく、好きじゃな……ぁ、んんっ」 不思議なことに、甲洋の言葉ひとつひとつがいつもの何倍も意地悪く聞こえてしまう。けれどもっと不思議なのは、そのことに異常なまでに興奮を覚えていることだった。 「嘘が下手だな、来主は。こんなに乳首をパンパンにしてるくせに──ああ、そうだ」 こころなしか、甲洋の言葉選びもいつもよりわざとらしく、あからさまに聞こえる。彼はいったんそこを離れたかと思うと、カタカタと音をさせながら何かを探る気配を見せた。 モーター音が止まり、ローター責めから開放された操は少しだけ安堵して息をつく。けれどすぐにまたローターが乳首に押し当てられて、そのままピタリと固定された。 「なっ、なに!? なにしてるの!?」 「気に入ったみたいだからさ。ほら、これをテープでこうすれば……」 「や、やだやだ! あっ、ね、ねぇ! ねぇってば!」 もう片方の乳首にも同様にローターが押し当てられ、ぴったりとテープで貼り付けられるのが分かる。なにをされるのか予想がついて、操は拘束された両足で必死にもがくが、ただ悪戯に格子パネルが軋んだ音を立てるだけだった。 「これならずっと遊べるだろ?」 「や……っ!?」 甲洋が二つになったローターのスイッチを同時に入れた。あの独特なモーター音と振動が、それぞれの乳首で唸りだす。 「んんっ、ぁ、ぁ、やだ……っ、や、これ、とって、とってぇ……っ」 薄い胸の上で、張りついたローターが『弱』のまま延々と振動を繰り返す。そのもどかしさに操は悶え、悩ましく身をよじった。弱い振動はじれったく神経を苛むばかりで、決定的な快感には至らない。それがより一層、ジワジワと炙るように性感を高めていく。 「はぁっ、ぅ、んッ……こ、よ、おねが……ッ、も、や……っ」 「あせるなよ。時間はあるって言っただろ?」 両腕を乱暴に動かして、手錠を鳴らした。けれど甲洋はそれらの訴えをまるで無視して、別のアイテムに手を伸ばす。包装を解く音だけを聞きながら、次に彼がなにをするつもりでいるのか、操にはまったく想像がつかなかった。 「尿道ブジー、ね。知らずに買ったんだろうけど……これは玄人向けのアイテムだよ」 「うぅー、もうやだぁ! ねぇ甲洋、こんなのやめて普通にしてよぉ!」 「これは躾だよ、来主。普通にしたんじゃ意味がない」 身から出た錆だしねと、そう付け加えた甲洋の声は楽しげだ。 「ローションかと思ったけど、これは滅菌用のジェルなのか。これをこの50mlのシリンジに入れて、尿道に注入するわけだ」 「んッ、ぁ……ねぇ、なにする、の……?」 「痛みを感じなくするためのジェルだよ。これをオシッコをするための穴に入れるんだってさ。ローションよりだいぶ固めだな……待って、今シリンジに移すから」 甲洋は説明書に目を通しながら作業にあたっているようだ。独り言も織り交ぜながら、まるで実況するかのように事細かに、今なにをしているのかを説明していく。けれど操はそれどころではなかった。とにかく早くローターを止めてほしい。こうしている間にも、小さな火に炙られているようだった。 暴れようとしたせいで両足を縛る縄がより肌に食い込み、そのかすかな痛みにすら身体が疼く。 「来主、あまり勃起させないで。勃った状態だと、ブジーの挿入時に痛むらしいから」 「そん、なっ、こと! 言われたってぇ!」 「……あぁ、ちょっと遅かったかな。少し勃ってる。でもまだ柔らかいね」 「アッ、待っ! 今ちんちん触ったら感じちゃうぅ!」 「我慢」 「~~っ!!」 無茶な話だ。操の身体はすっかり興奮しているし、やめてほしいと思いながらも早く気持ちよくなりたくてウズウズしている。我慢なんてできるわけがない。 甲洋は操の半勃ちの幹に手を添えると、もはや先走りで湿った鈴口に手早くなにかを押し当てた。そしてそれを、なんの一言もなしにぐっと穴に押し込んだ。 「ヒッ、ぃ……ッ、──!?」 まともに声も上げられないまま、操の身体がビクンと跳ねる。ささやかな穴に通されたのは、太さが4ミリ程度の細い管だ。痛みはなかったが、初めての感覚にショックが大きい。 その異物感の凄まじさが急に恐ろしくなってきて、操は歯の根をカチカチと鳴らした。 「これ自体は医療用だよ。痛くなかったろ?」 「や、だ……抜い、て、抜いて、お願い……」 「ジェルを入れたらね」 甲洋がシリンジの押し子に力を込めるのが、性器を通して伝わってくる。次の瞬間、尿道を逆流して冷たいジェルが注入された。 「うあぁッ、ぁ、ヒッ!? やめ、アッ、つめ、た、冷たいぃ……ッ!」 「まだ半分も入ってないよ。全部イケそう?」 「むっ、むり! むり! ぜったい無理ぃ!」 固めのジェルは、狭すぎる道を無理やりこじ開けるようにして逆流していく。ジワジワと内部を満たし、深い場所にまで溜まっていくような感覚に、操は髪を振り乱した。 冷えた感触は徐々に焼けるような熱に変わっていく。甲洋が押し子に力をかければかけるほど、注入されたジェルは膀胱を満たし、ぐるぐると暴れまわった。 「ぁぐ、ぅッ、うぅ……ッ、やだっ、これやだ……っ、やら、ぁ……もう、やめ……ッ」 「……ぜんぶ入った。気分はどう?」 「あぁ、う、ぅ……! あつ、い……奥が、熱くて、膨らんで……苦し、い」 「その割には気持ちよさそうに勃起してるよ。我慢しろって言ったのに」 甲洋がフッと笑って、ギリギリまで押し込んだシリンジの押し子をぐんと引きはじめた。その瞬間、操の口から絶叫じみた悲鳴が漏れる。 「はぎッ、ィ、ぁッ──!? や、やッ、あああぁぁ……──ッ!?」 細い尿道からジェルが吸い出される感覚は、まるで強制的に射精させられているようだった。しかも普通の射精じゃない。狭い通り道に固めのジェルがプツプツとダマになりながら排出されて、通常の射精では決して得られない過ぎた快感を味わわされる。 「あ゛ぁぁーッ、ぁ゛っ、あ゛ぁッ、なにごれッ、イグッ、イグぅ──~~ッ!!」 成す術もなく絶頂を迎えた操の白濁が、透明なジェルと混ざって吸い上げられる。ドクン、という大きな衝撃が身体全体に走り、噴きだす精液の勢いに押されてチューブが抜けた。ちゅぽん、という間抜けな音が響き渡る。 「うあぁっ、あ゛ッ! あぁーっ! ぁっ、いやあぁ……! ぁ゛ッ、とまっ、な……っ、しゃせぇ、とまんないぃ……っ!!」 ようやくまともに開放を許された性器からは、絶え間なくジェルと混ざりあった白濁が撒き散らされた。拘束された不自由な身体をビクビクと跳ねさせながら、どこからどこまでが絶頂なのか、あるいは余韻なのかが分からなくなる。 「凄いイキ方。そんなによかった?」 「ッ、ぁ……あぁー……ッ、ぁ、ぁ、ぁー……っ」 意識が白く弾けたまま、どこか遠くに飛んでいくのを感じた。すべてを吐きだしきったあとも、断続的な痙攣が止まらない。 甲洋は操の髪をサラリと撫でて、また笑った。 「来主、しっかりして。ここからだよ」 「っ、ぁ……? う、そ……まだ、するの……?」 「お前のここはまだ足りないって言ってるよ」 大量の射精を終えた操の肉茎は、萎れかけてはいたがまだ幾らかの弾力を帯びていた。甲洋はそれを軽く握り、糸を引く鈴口を親指の腹でクリクリと撫で擦る。 「あっ、やッ、やあぁ……っ」 「パクパクして、中が見えそうになってる。恥ずかしいな」 「見ちゃいや、見ないで……ッ、おちんちんの中、見たらダメぇ……!」 「なら栓をしないとね」 甲洋がまた動き出す気配がした。過ぎた快感から戻りきれないでいる操は、それでもなお終わりが見えないことに絶望感を味わう。 「甲洋、いや……っ」 「暴れると怪我するよ。痛い思いをするのが嫌なら、おとなしくしてて」 「ッ……!」 優しげに聞こえて、その声には圧がある。操はヒュウと息を呑み、抜けきらない余韻と恐怖に、身体を震えさせた。 「アッ、っ……!」 鈴口に、細長くしなるブジーの先端があてがわれた。容赦なく穴に差し込まれ、チューブのときと同様に操の身体がビクンと跳ねる。けれどさっきと違うのは、それがチューブよりもほんの僅かに太いということ。そして、ブツブツとまるでビーズが連なっているかのような形状をしているということだった。 「あ、あ、アッ、やだ、やだぁ……ッ、ぁ、痛いよっ、もういれちゃダメぇ……ッ!」 「だから勃起させるなってば。せっかく少し萎れてたのに」 「あぁーっ、あ、あぁぁ……っ、ぁ、ふか、い、ッ、深いの、こわいよぉ……っ!」 ブジーはチューブが差し込まれていた位置をとうに過ぎ、穴の奥へと侵入していく。中に残っているジェルの力を借りて、ズルズルと最奥へ到達した。その瞬間、腹の奥底でじわりと広がるような熱が灯った。 「ぁ、ヒッ……!? やだ、なに……!?」 「この長さがぜんぶ入った。奥が熱い?」 声も出せずに、操はただこくこくと何度も頷く。 「なら、少しノックしてみようか?」 「ッ、?」 鈴口から飛び出しているブジーの先端には、小さな楕円形のスイッチがついている。甲洋はその頭を指先でコツコツと叩いた。すると内部にあるブジーの先端によって、尿道側から前立腺をノックされ、操の腰がビクビクと跳ね上がる。 「あぅッ、あっ、あ゛ぁッ……! やめ、やだ、奥だめっ、コンコンしないれぇッ!」 甲洋は小さな幹をしっかり掴み、ブジーを幾度か抜き差しした。そこはもはやジェルで味わわされた快感に味をしめていて、内壁を擦られながら前立腺を押しつぶされる感覚に、射精したい欲が押し寄せる。けれど尿道はブジーによって塞がれており、出すことは叶わない。それでも極致の波は容赦なく襲いかかってきた。 「ひィッ、ぁ゛ッ、イぐッ、イ゙ぐッ! イッ……──ッ!」 「待ぁて」 「ッ゛~~っ……!!」 犬や猫をたしなめるような声音で命じ、甲洋がイク寸前で刺激する手を止めてしまう。 「やっ、なん、で? やだ……イキたい、イキたいよぉっ!!」 「ダメだ。お前、今メスイキしようとしただろ?」 「ッ、? メス、い……?」 「俺がいいって言うまで、絶対イクな。しばらくこのままじっとして」 「そっ、そんなの無理! 無理だよぉっ!」 操の身体は絶頂する寸前の強張りが解けないままだ。プツ、プツ、とブジーが勝手に押し出され、その感覚だけで果ててしまいそうになっている。 「もう緩くなった? 随分だらしない穴だな」 甲洋はわざとらしい溜息をつき、ブジーをぐっと押し込んだ。 「ひあぁッ、ぁぐぅっ……!」 「イ、ク、な。何度も言わせるなよ」 「ぃぎ……ッ、ぃ、ひ……っ」 全身をガチガチと震わせて、歯を食いしばる。甲洋はブジーが抜けてしまわぬよう、オウトツが浅い亀頭部分にコックリングをハメて固定してしまった。あと一歩で手が届きそうなのに、せき止められた血流が絶頂を掴ませてくれない。 「ぁ、ぐ……っ、ぁ゛……も、む、り……」 「まだだよ来主。ローターだって余ってる。こっちだってそろそろ寂しいだろ?」 甲洋の指先が、ジェルと体液でぐちゃぐちゃになった尻の孔に這わされる。指を押し込まれ、ねっとりと浅い部分を掻き回された。 「やぁあっ! こうよ、っ、や、あうぅ……っ!!」 不格好に尻を振り、逃れようとする動きを見せる操の耳に、クスリと笑う甲洋の声が聞こえる。彼はあっさり指を引き抜いてしまうと、余っているローターの一つをヒクつく孔に宛てがい、ぐっとナカに押し込んだ。 「ヒィッ、ぁ!? やぁ……っ、い、いれないでぇッ!」 「簡単に入っていくよ。あと二つ」 「やだッ、いやぁ……っ!」 残り二つを、立て続けに入れられた。それだけで、操の狭いナカはいっぱいになってしまう。けれどそこに甲洋の長い指も一緒に潜り込んできて、また中をかき回された。バラバラに動く異物が、濡れた肉の壁を不規則に擦る。 「い、ぁ゛……やめ、お腹、苦しいっ、甲洋……っ!」 「普段もっと太いのを挿れてるだろ? 来主ならすぐに慣れるよ」 操の訴えを袖にして、彼は指を引き抜くと容赦なく三つのローターのスイッチを入れていった。 「ッ~~!? ぁ゛ッ、……ッ、んくっ、ぁ! やあぁ……ッ!」 胸とは違い、それは最初から『強』に設定されているようだった。三つのローターはナカで激しく振動し、互いに擦れ合い、より振動を強くする。モーター音が腹の奥で低く唸りをあげて、ナカを激しく暴れまわった。 「さて、じゃあ次はこっちだ」 次に甲洋がしたのは、ブジーについているバイブのスイッチを入れることだった。カチッという音が無情にも鳴り響き、ナカのブジーが振動をはじめる。その瞬間、操はバチバチと視界が白く弾けるのを見た。 「ッ、!? ィ゛、……ッ、──!?」 ブジーは繊細な尿道で激しく震え、その震えは先端から前立腺を刺激する。さらに裏側からはローターが圧迫しており、二つの刺激によって前後から同時に前立腺を責め苛む。 「ぁ゛ッ、あ゛あァ──ッ! ぁ゛んぐッ、あ、ぁ──!! もッ、ごわれる!! ごわれるぅ゛ッ、! 抜いで、抜い、ッ! ん゛んぅ、ア゛ぁ…──ッ!!」 内ももは激しく痙攣し、頭上では手錠が酷い金属音を奏でていた。閉じることができない口から唾液を漏らし、それだけでは足りずに舌まで突き出すようにしながら、延々と繰り返される快楽に身を焼かれる。 雁首でせき止められ、パンパンに赤く膨れ上がった性器はぴったりと腹にくっついて、小魚のように跳ねていた。 「凄い反応。逆に気の毒になってくるよ」 「やべでッ、もうやべでぇッ……! こうよ、ヒぎッ、ぃ゛……っ、ぁ゛ぐうぅぅっ!!」 「ひどい声だな。もっと聞いていたいけど」 甲洋が一つだけ残ったギャグボールを手に取った。 「どうせだから、これも使おうか」 唾液と共に絶叫を撒き散らす操の口に、丸い球体が噛まされる。ベルト部分を首の後ろで固定され、まともに喘ぐことすらできなくなった。 「んぶぅッ、んぉッ、お゛ぉア゛ァッ、ん、ぶッ……ふ、ぅ゛──……っ!!」 よりいっそう品のない悲鳴があがり、甲洋が満足そうに笑う吐息が聞こえる。すぐ脇でベッドの縁が軋み、目の前で顔を覗き込まれているのが、突き刺さる視線で察することができた。操は呻きを上げながら、激しく首を左右に振った。 「ごあえぅッ、ごあぇひゃうぅ! ほぉア゛ぇへえッ……!!」 「なに言ってるか分からないよ」 甲洋がまた笑った。操は心の中で、何度もやめてと叫びをあげた。このままでは壊れてしまう。気が狂って、戻れなくなる。一分でも一秒でも、この快楽責めには耐えられない。 全て聞き取っているはずなのに、甲洋はその訴えに答えようとはしなかった。代わりに、囁くような声で「三枚だよ」と、言った。 「~~ッ、!?」 「今月、来主が割った皿の数。ドングリ三個分だ」 振動と共にビクビクと跳ねている腫れた屹立を、指先がつうっと撫であげる。 「その分を引かれるのが不満なら、代わりにこのまま堪えてごらん」 「うぶぅぅッ! ぅぐうぅぅぅーッ!!」 また少しベッドが軋んだ。甲洋の気配が離れるのを感じて、操は半狂乱になりながら髪を振り乱した。 「俺は下にいるから。三時間したら戻ってくるよ」 (待って! 待って甲洋! 嘘でしょ!? やだ……ッ、ぼくを置いて行かないで!!) 「飛ぶなよ、来主」 その言葉には、二つの意味が込められている。決してワープで逃げようなんて考えは起こすなということ、そして意識を保ったままでいろということ。 言葉だけで絶対的な圧をかけ、甲洋の声はその後いっさい聞こえなくなった。扉を開け締めする音は聞こえなかったから、ワープで部屋を出ていったのかもしれない。けれど視界を遮られている以上、本当にいなくなったのかどうかすら操には判断がつかなかった。 どちらにせよ、この地獄のような責めから開放されるのは、まだずっと先なのだ。三時間と、甲洋は言っていた。割った皿、三枚分。突き落とされるような絶望感に、操はただ泣いて呻くことしかできない。 「ううぅーッ、ぉ゛ッ、……ッ、ぉ゛あッ、ア゛ッ、おぁぁッ……ッ!!」 胸と、ナカと、性器に差し込まれたバイブは延々と唸りを上げている。足をガクガクと動かし、ロープを引き千切ろうとしてもビクともしない。荒れ狂う快感の激流が、操の神経を焼き切ろうとしている。 (壊れる、壊れる……! 助けて、怖い、助けて甲洋ぉ……っ!!) 目隠しは操の涙でぐしゃぐしゃになっていた。点々と空いたギャグボールの空気穴からは、絶えず唾液が溢れ出る。身をよじればよじるほど、ナカでローターが暴れまわった。前立腺を激しい振動がこねくり回し、張り詰めた性器が弾けそうになっている。 けれど尿道は塞がれて、射精はできない。イクことができない、はずなのに。 「ぁ゛っ、ぇ……ッ、~~ぉ゛、ッ゛……ッ!!」 操の中で、なにかが決壊した。呼吸すら忘れて、大きな波に飲み込まれる。性器がグン、と大きくしなった。そのままビクビクと痙攣を繰り返し、爆ぜるような快感が噴き出した。 (ダメ、ダメぇ! もうイク! イクイクッ、イクぅぅ……ッ) 「あおぁッ、うぅぅッ、んぐぅぅぅッ……!!」 白い光が、頭の中で一気に弾けた。射精もしないまま、痺れるほどの絶頂感に襲われる。 「〜〜〜っ、ッ! ぉ゛、……アッ、──!!」 ガチャ、ガチャ、と手錠が鳴る。背もたれの格子パネルは軋み、拘束されている足の爪先が、攣りそうなほど丸まった。 (ぼく、メスイキしたんだ……甲洋に、また怒られる……) 我慢しろと言われていたのに、操はメスイキしてしまった。彼が戻ってきてこれを知ったら、これよりもっと酷いことをされるかもしれない。けれどそれを思うとゾクゾクしたものが込み上げて、いっそう快感が膨れ上がった。何度も何度も、射精を伴わない絶頂が快楽の上限を塗り替えて、際限もなくイキ狂う。 (ぎもぢい、ぎもぢい、ぎもぢいぃぃ……っ!!) ローターとバイブは止まらない。目隠しの下で白目を剥く操の、地獄のような快楽の時間はまだ始まったばかりだった。 * 「まったく声が聞こえなくなったから、様子を見に戻ってみれば……」 ずっと遠くで、甲洋の声が聞こえた気がした。思考に厚い膜が張っているような感覚に、虚ろな意識を彷徨わせる。操はただ小刻みに痙攣しながら、時折ビクンと弾かれたように身を跳ねさせるだけになっていた。 ギャグボールの空気穴から泡を噴き、半ば失神しかけている。 「まだ一時間しか経ってないよ」 甲洋が苦笑しながら、ギャグボールと目隠しを外した。操は白目を剥いていて、自由になった口からはか細く短い呻きしか漏れない。 「ぁ……ぁ゛……ァー……、ぉ、ぁぁ、ァー……」 「ほら、しっかりして」 ベッドに乗り上げた甲洋が、操の頬を軽く叩く。上を向いたままだった眼球が、左右に揺れながらゆっくりと焦点を合わせていく。涙は枯れていたが、甲洋の存在を認識した途端、ポロポロとまた溢れだした。 「あと二時間、がんばれそう?」 「ッ、ぅ……こ、よ……こうよ……な、さ……ごめ、なさ……ごめ、ん……っ」 甲洋が優しく微笑み、「何回イッたの?」と問いかける。操は嫌々と首を振り、くしゃりと顔を歪めた。 「ごめん、なさい、ぁう、ぅ……ッ、ごめんなさい……っ」 「悪い子だな。これじゃ躾にならないよ」 「ッ、ごべんなざいっ! ごべんなざい! ごべんなじゃいぃ!」 ローターとバイブは未だに唸りを上げていた。けれど一時間ものあいだ絶え間なく絶頂を繰り返した操の身体は、ただジクジクと熱く痺れるだけで麻痺しはじめていた。何度イッたかなんて分からないし、まだイキ続けているような気もする。 「しょうがないな」 泣きじゃくるばかりの操に、甲洋は小さく息を漏らすと、真っ赤に腫れた性器からリングを取り去った。せき止められていたマグマのような熱が、一気にぐっと競り上がる感覚を覚え、操は大きく息を呑む。 「ヒッ、ィ、ぁ……っ」 そこで初めて、操は自分の身体を見下ろした。パンパンに膨らんだ性器から、黒いブジーの頭が突き出ている。小さな卵型のスイッチだ。甲洋はそのスイッチを止め、ジワジワと引き抜いていく。 「ぁぐッ、ぅ……っ、ああ゛ぁ、ぁ、ぁ゛……っ!」 ビーズ状のブジーが、柔らかくしなりながら鈴口から飛び出してくる。その感覚にブルリと震えていると、残りのブジーが一気に引き抜かれた。 「ヒギッ……!? ィ、ぃああぁぁ──ッ!!」 その途端、溜まるにいいだけ溜まった精液がドッと噴きだした。長く続いた射精のあと、プシャッと音を立てて透明な潮まで吹いてしまう。腰回りはぐしゃぐしゃで、なぜ甲洋があらかじめタオルを敷いていたのかが、やっと分かった。 「はあぁッ、ぁ、ぁ、ぁ……あぁーっ、ア゛ーっ……」 また半分ほど白目を剥きながら、操はピクピクと痙攣した。ブジーを抜かれた鈴口が、真っ赤に染まりながら閉じたり開いたりを繰り返し、ぷくん、ぷくんと残滓を吐きだしている。 その痴態に甲洋はごくりと喉を鳴らし、震える息を漏らしながら、今度は尻の孔からローターを一つ、引き抜こうとした。けれどしっかりと食い締めて、なかなか上手く出てこない。 「これがそんなに気に入った?」 「ち、が……ちが……」 「俺のを挿れてるときよりも、ずいぶんしっかり咥え込んでるようだけど?」 「ひぅっ、アッ、くうぅぅんッ……!」 ローターがズルンと強引に引き抜かれた。尻の孔から卵を産まされたような感覚に、また軽くイッてしまう。操の身体は完全に大事な糸が切れていて、少しの刺激でも簡単に達してしまうようになっていた。頭も心も身体でさえも、すっかりバカになっている。 「もういやぁッ! イギだくないっ! イギだくないよぉ……っ」 「さっきはイカせてってうるさかったのに?」 「もうやらっ! やらぁっ!」 涙と鼻水でひどい有様の顔を見て、甲洋はまたひとつ震える息を吐きだした。その目つきは飢えた獣のようで、操が耐えていた分だけ彼もまた堪えていたことが伺い知れる。 「……ごめん、来主」 甲洋は低く吐き捨て、息を荒げながら自身の前をくつろげた。下着から引きずり出されたそれは、見たことがないくらいギンギンと脈を浮かせて反り返っている。見慣れているはずの肉棒が、今の操には凶器に見えた。 「や……やだ……いや……」 こんなものを挿れられたら、また死ぬほどイカされる。操はこれがどれほど気持ちいいものかを知っていた。ナカに挿れて、肉の壁をいっぱいに広げられ、痛いくらい擦られて、腹の奥を突かれると、よだれを垂らしながら悦んでしまう自分の淫らさを知っている。 だから怖い。これ以上は本当に壊れてしまいそうなのに。甲洋の男根から目が離せずに、喉を鳴らしてしまう自分が信じられない。 「やだ、やだ……っ、今したら、ぼく死んじゃう……っ」 ゆるゆると首を振って怯える操に、甲洋は余裕のない低い声でもう一度「ごめん」と言った。そして、縄が食い込む内ももに手をかける。二本のコードが伸びている濡れた孔に、熱い筒先を宛てがわれ、操は血の気が引くのを感じた。 「ダメ、ダメぇ! まだ入ってるの! ブルブルが、まだナカに……ッ!」 「来主……っ」 「いァ゛……や、!? 〜〜っぁ゛、やめ、ぁ゛っ、ァ──ッ!!」 ローターが残されたままの肉壷に、甲洋の肉柱が突き立てられる。比較的浅い場所に留まっていた二つのローターが、その切っ先によって奥へ押し込まれた。肉棒と一緒に壁を擦り、ブルブルと暴れながら届いてはいけない場所まで届いてしまう。 「イ゛ッ、んぃいぃ゛ッ! ……っ! や、め゛っ、壊れ、あ゛──! ァ゛……!? んぉ゛ッ、も、イグ、イグぅ゛──……ッ!!」 目を見開いていてすら、視界に火花が飛び散った。枯れた喉で絶叫し、また派手に絶頂を迎える。 甲洋はそれぞれ掴み上げた操の膝頭に爪を立て、食い締める肉の感触にブルリと背筋を震わせた。喘ぎ混じりに荒く呼吸を繰り返し、熟れただれた媚肛を激しく突き上げる。 何度も何度も、繰り返される律動のたびに潮を噴き上げ、操はイキ続けたまま戻れなくなった。 「や゛、ぁああ゛! ごわれるッ、ごあれるぅ……っ、ア゛ッ、ぉ゛……っ、ごべ、なざ、ごべんなざいッ、もう悪い子しないッ! 悪い子じないがらぁ……ッ!」 獣のように腰を穿ち続ける甲洋が、操の泣き顔を見下ろしながら口元を笑みに歪めた。 「来主は、いい子だよ」 彼はズボンのポケットから鍵を取り出し、手錠を外した。それをどこかに放り投げ、操の身体を抱きしめる。感覚をなくして痺れる両腕で、その首にぎゅうと抱きついた。耳元に擦りつけられた甲洋の唇が、「好きだよ」と甘く囁いて耳朶を食む。 「ッ、ぅ……うぅ、ぁ……っ、ひっ、く」 心がどろどろに蕩けだすのを感じて、操はどうしようもなくしゃくりを上げて泣きじゃくった。好きというたった一言を、こんなに嬉しく感じたことがあっただろうか。言葉でも、そして心でも、甲洋はその甘ったるい声で操に何度も好きだと言った。 「来主は……? お前の一番は、誰?」 切なく掠れる甲洋の吐息に、操は迷わずその名を呼んだ。 「ぁ゛……ッ、はっ、こう、よ……ッ、あぁッ、ぁ……っ、甲洋が、好き、いちばん、好きぃ……っ!!」 ドスン、とまた勢いよく奥を穿たれる。操はもう何度目になるか分からない絶頂を味わった。痙攣する肉の締めつけに甲洋もまた甘く呻いて、白い熱液を迸らせる。 ぶちまけられた灼熱の粘液に下腹を震わせながら、溺れたようにその背を掻き抱く。休みなく続行される抽挿に、操はそのあとも狂ったようにイカされ続けた。 * 目が覚めたのは、すっかり昼になる頃だった。 シーツは綺麗に取り替えられて、簡素なシャツとハーフパンツを着せられた身体も、ある程度は清められている。拘束も完全に解かれているが、起き上がるどころかまともに声を出すことさえままならなかった。 「来主、起きた?」 そこへ白いカップを手にした甲洋がやってくる。彼はカップをいったん机に置くと、操側に身体を向けてベッドの縁に腰掛けた。 「ぅ゛、ん……ケホッ、ケホッ!」 さんざん喚いたせいで、喉にヒリヒリと痛みが走った。軽く咳き込みながらも身を起こそうとする操の肩に腕を差し入れ、甲洋が眉をひそめながら介助する。 「これ飲んで」 甲洋は机に手を伸ばし、白いカップを操に差し出す。ほのかに立ち込める湯気と一緒に、蜂蜜と生姜のあたたかな香りがした。 カップを両手に持ち、ちびちびと口をつける。ほどよく冷ましてはあるようで、操はそれを最後まで飲み干してしまった。 「おいしぃ」 ホッと息をつき、甲洋を見るとへにゃっと笑う。甲洋もふっと笑った。操の手から空のカップを受け取り、机に戻す。 操はそんな甲洋をおずおずと見上げ、目が合うと視線をわずかにうつむけた。 「どうかした?」 「ん? んー……。あのさ」 「うん」 「……お皿割ってごめんなさい。次からは本当に、がんばって気をつけるから」 膝の上で、両手の指をモジモジとさせる。あれだけミスをしておいて、まともに謝ったのはこれが初めてかもしれない。操は甲洋に対して多くの不満を持っていたけれど、こうして素直に謝ってみると、今までの棘がスッと抜け落ちたような清々しさがあった。 息をついた操の髪を、大きな手がくしゃくしゃと乱す。見上げれば優しい笑みがあって、その笑顔が今朝はとびきり甘く見える。 「俺こそ悪かった」 「なんで君まで謝るの?」 「お前のワガママは可愛いよ。生意気なところもさ。可愛いから、困ってしまう」 キョトンとしながら首を傾げた操に、甲洋は苦笑を浮かべた。 「来主を甘やかすってことは、俺まで一緒にダメになるってことだ。本当は店もなにも放りだして、四六時中お前とベタベタしていたいよ」 「えっ、それほんと!? ほんとにそんなこと思ってたの!?」 「ほんとだよ」 自嘲気味に肩をすくめた甲洋に、操は瞳を輝かせながらグンと伸び上がるような嬉しさを感じた。 「俺が厳しく接するぶん、一騎がフォローしてくれる。そこに甘えすぎてたよ」 ふたりきりでいるときの甲洋と、仕事をしているときの甲洋とではあまりにも態度が違いすぎて、操はそのギャップを受け入れられずにずっと腹を立てていた。けれど彼が仕事中やたらと厳しかったのは、操を律するのと同時に自分をも厳しく律していたからだったのだ。 変なの、と思ったけれど、そこが甲洋らしくもある。そう思える自分に、操は喜びを感じた。そんな彼らしさが腑に落ちるくらいには、自分たちはもうずいぶんと長く一緒に過ごした。これはその証でもあったから。 「なぁんだ、そっか! そうだったんだ……えへへ、嬉しい!」 広がる喜色を満面の笑顔に乗せて、操は甲洋に抱きついた。いつもクーがしてくるみたいに、甲洋の頬やあごの下にスリスリと自分の頬を擦りつける。しっかりと抱き返しながら受け止める甲洋の心が、くすぐったそうに震えていた。だから操までくすぐったい気持ちになって、ころころと声をあげて笑ってしまう。 「あ、そういえば」 ずっとそうしていたかったけれど、ふと気になって顔を上げた。 「あのオモチャどうしたの? もう捨てた?」 「まさか。勝手に捨てたりなんかしないよ」 甲洋が窓際のチェストに目線をやるので、操もそれを追いかけた。チェストの上には昨夜使ったアイテムたちが、普段使用しているローションだとか、ゴムの箱と一緒に行儀よくカゴに収まっている。 「とりあえず洗って消毒はしたけど」 どうするの? と目だけで問われて、操は少しドキリとした。捨てるも捨てないも、それは持ち主である操次第だ。 つい昨夜のことを思いだして、身体の奥がジンとする。ひどい目にあったとは思うけど──。 (やっぱり、自分のために買ったのかも……) 甲洋が言っていた通り、めちゃくちゃにされたかったのは自分の方だったのかもしれない。思わず漏れた熱い吐息が、それを証明しているようだった。 「……ときどき使おうよ。ダメ?」 死にそうな思いをしたし、前も後ろもなんだかまだ違和感がある。 甲洋はいつもより怖くて意地悪で、そのくせぜんぜん余裕がなかった。こうしてずっと一緒にいたとしても、まだまだ知らない顔がある。それをもっと知りたいと思った。だからたまになら、またしてみたい。優しくされるのもいいけれど、あんなふうにイジメられるのが嫌いじゃない自分を、操は知ってしまったから。 きっとそのときになれば、またひどく泣いて後悔するに違いないのに。 「いいよ」 そんな感情を隠しもせずに漏らす操に、甲洋は少しだけ困ったような顔をして笑った。彼もまた、昨夜の異様な高ぶりを思いだしている。 癖になってしまったのは、甲洋も同じだ。 「俺に使わないならね」 しっかりと刺された釘に、操はわざと「どうしようかな?」と悪戯っぽく言いながら、可笑しくてつい笑ってしまった。 了 To a friend born in November. Happy Birthday! ←戻る ・ Wavebox👏
*濁音喘ぎ、あからさまな淫語。
*二次エロはファンタジー。
「あっ!」
高く鋭い音を立て、床に落下した皿が粉々に飛び散った。空気まで一緒にひび割れたような感覚に、操は身をすくませる。
「またやっちゃったぁ……」
「来主、大丈夫か?」
その音に目を丸くして、カウンターの奥から出てきたのは一騎だった。彼は操が迂闊に破片に触れないよう、肩を抱いて一歩引かせると優しく笑って小首を傾げた。
「片付けは俺がするから。来主は下がってな」
「うん……」
「一騎、あまり来主を甘やかすな」
そこへ、休憩から戻った甲洋がバックヤードから姿を現した。後手に黒いエプロンの紐を結びながら、呆れた視線を向けてくる。
「今月に入ってから三枚目だよ。先月は五枚、先々月は四枚。この調子で、今月も記録を更新するつもり?」
チクチクと刺すような物言いに、操は喉の奥で「う」と呻いた。言われても仕方がないことだが、だからこそ反抗心を煽られる。
「ちょっと手が滑っただけなのに! そんなに言わなくたっていいじゃん!」
「気が緩んでる。緊張感がない証拠だよ」
「次は気をつけるってば!」
「それを聞くのも今月に入って三回目だ。いい? 今日のドングリはなし。それと店の掃除だ」
「えぇ!? またぼく一人でぇ!?」
それは皿割り常習犯の操に課せられたルールだった。皿を一枚割ると、その日は報酬のドングリがもらえない。
甲洋はドングリを探す天才だ。丸々としてずっしりと重たい、立派なドングリを操にくれる。自分で探そうとしても虫食いばかりで、痩せたものしか探せないから。だから操は甲洋がくれるドングリを、いつも楽しみにしているのだった。
ドングリは植えると芽が出て、いずれはクヌギという木に成長するらしい。つまり、たくさん植えれば森になる。自宅の庭が森になったら、母・容子はきっとビックリするだろう。その顔が見たくて日々せっせとドングリを集める操にとって、このペナルティはかなり厳しい。
しかも罰はそれだけじゃない。閉店後、普段なら時間短縮のために分担して済ませるところを、一人でこの店内の床磨きなどをさせられる。これがとにかく面倒くさいのだ。
「そんなの厳しすぎるって! こないだ一騎だってお皿一枚割ったじゃん! なのになんの罰もなしなんて、そんなのズルいよ!」
「それを言われると弱いな」
一騎が肩をヒョイとすくめて、恥ずかしそうに苦笑した。
「一騎はあの日たまたまミスをしただけだ。滅多にそんなことはしないし、猛省していた。ごめんなさいの一言もないお前と一緒にするな」
「ムキィィィ……ッ」
ド正論ほど腹が立つものはない。猿のように顔を真っ赤にして怒らせた肩を、一騎がポンと叩いて宥めてくる。けれど操のムカつきは収まらなかった。いま謝ろうと思っていたなんて、そんなことを言えばまたチクリと嫌味を刺されるだけだ。
ぐうの音も出ずに睨みつけるばかりの操に、甲洋は鼻から小さな息を漏らした。
「いつまでそうしてるつもり? そこは俺が片すから、お前は早く仕事に戻りな」
「~~ッ! ふんだ! 甲洋のバカ!」
軽くあごをしゃくるような仕草で向こうへ行けと命じられた操は、拙い捨て台詞を残すと大きな足音を立てて店の奥に引っ込んだ。
操が行ってしまうと、一騎がからかうような瞳を甲洋に向ける。
「破片の片付けは絶対にさせないんだよな、毎回」
「……危なっかしくて、見てられないよ」
そんなふたりの会話が、操の耳に届くことはなかったけれど。
*
「ただいまぁ……」
きっちり掃除を終えて帰宅した操を、容子がリビングから顔を出して迎えてくれた。
「おかえりなさい。遅かったのね」
「うん、ちょっと」
冴えない返事に、容子は心配そうに眉をひそめる。
「操、あなたまたお皿を割ったの?」
「な、なんで分かるの?」
「分かるわよ。帰りが遅い日はいつもそうでしょ?」
バレている。そりゃあそうだ。甲洋は基本的に操を遅くまで残らせることはしない。だからこうして帰りが遅くなる日は、決まってミスをしたときだけなのだ。
「あまり迷惑をかけてはダメよ。あなたは社会勉強をさせてもらっているのだから、ちゃんと甲洋くんの言うことを聞いて、」
「もう! お母さんまでうるさい! そんなこと分かってるよ!」
いつもなら素直に受け取れるはずの言葉も、今の操にはまるで追い打ちのように感じられた。つい腹を立ててしまい、顔を背けると二階の自室へ続く階段を駆け上がっていく。
反抗期さながらの操の態度に、容子は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに眉をハの字にして苦笑する。
「操、ご飯は? 先にお風呂にするの?」
「ご飯いらない! お風呂あとで!」
操が掃除をしているあいだ、一騎は新作カレーの開発を理由に居残っていた。それをたらふく試食させてもらったのだ。その場に甲洋もいたにはいたが、操は一言も口を利かずにそっぽを向いて帰ってきた。結局、最後までごめんなさいは言わないまま。
「なんでこうなるの? お母さんにまで八つ当たりしちゃったじゃん!」
バタン、と大きな音を立て、自室に戻った操はついヒステリーじみた声を上げる。明かりをつけると真っ先にベッドに向かい、枕元のクッションを床に投げつけた。
「ぜんぶ甲洋のせいだ! 甲洋のせいで、ぼくは悪い子になっちゃうんだ!」
それは操がミスを連発するからで、この状態はただ逆ギレしているだけだ。甲洋が言うことはいちいち正しくて、自分が悪いことくらいちゃんと理解しているつもりだけれど。
「……お母さんに謝らなきゃ」
しおしおとうなだれながら、操は投げつけたクッションを拾い上げるとベッドの縁に腰をおろした。クッションを抱きしめ、泣きそうな顔を埋める。
母に当たっても仕方がないのに。ひどいことを言ってしまった。だけど正しいことを言われると、なぜだか心がトゲトゲしてしまう。とりわけ甲洋に言われるとなおさらだった。
「もっと優しくしてくれたっていいのに」
操と甲洋は手を繋いだりキスをしたり、その先のことだってする仲である。つまりは特別な関係で、互いにそういうことをしたいと思う相手のことを、恋人と呼ぶらしい。
だったらもっと優しく接してくれてもいいと思うし、ちょっとくらい甘やかしてくれてもいいのではないかと、操は思う。
「甲洋はいちいち厳しすぎるんだ。嫌味ばっかりぐちゃぐちゃ言ってさ。それに──」
操の不満がこんなにも爆発しているのは、なにも今日あった出来事だけが原因ではなかった。その他にも要因があり、積もり積もって膨らみきってしまったのだ。
クッションから顔をあげ、ふくれっ面の操は壁にかかっているカレンダーに目線をやった。
「もうずっとエッチしてないじゃんか」
最後に甲洋とセックスをしてから、ずいぶん日にちが経っている。
あの男は基本的に、店が休みの日にしか手を出してこようとしない。その他はどんなにねだっても、「ダメだ」の一点張りでそっけなくされてしまう。
楽園は定休日というものを設けておらず、休みは不定期という自由なスタイルで運営されている。ここ最近は店を貸し切りたいという予約客がやけに多かったこともあり、休みがない状態が続いていた。おかげでめっきりご無沙汰だ。
せめてちょっとした隙を見てすり寄ってみても、仕事中にすることではないと冷たくあしらわれるばかり。閉店後はさっさと家に帰されるし、まったくそれらしいことをする暇がない。そのことに操は不満を募らせる一方だった。
「もっといっぱいしたいのに……」
操は甲洋に甘えるのが好きだ。特にセックスをするときの彼は、まるで操のことを宝物のように優しく扱ってくれる。普段は飴より鞭の方が多いだけに、あの瞬間が好きで好きで仕方なかった。心も身体も気持ちがよくて、嬉しいという感情でいっぱいになる。
だから毎日だってしたいのに、甲洋はちっとも好きにさせてくれない。そのくせ嫌味や小言は尽きなくて、厳しく接するばかりだった。
その点、一騎はいつだって優しくしてくれる。今日だって真っ先に来てくれたし、操を責めるようなことは一言も言わなかった。甲洋とは大違いだ。
「いいなぁ総士は。一騎といつも一緒でさ」
ぶぅと唇を膨らませ、クッションを抱いたままベッドに転がった。
一騎だったら、なんでも言うことを聞いてくれるのだろうか。なにをしたって許してくれて、どんなときも優しくて、キスもセックスも、したいときはいつだってしてくれるのだろうか。
「甲洋が一騎みたいだったらよかったのに……」
好きなときにくっつけないし、エッチもできない。二人っきりのときにしか甘やかしてくれなくて、他はダメだダメだと言うばかり。だんだんと、また腹が立ってくる。どうして自分ばかり、いつも我慢しなくちゃいけないのだろう。
だけど言葉でなにを言ったって敵わない。どうにかして甲洋を意のままにする手はないものかと考えて──
「そうだ! いいこと思いついちゃった!」
ふと名案を思いつき、ベッドから飛び起きるとクッションを投げだした。思い立ったら居ても立っても居られない。操は意気揚々と、ワープで家を飛び出した。
*
数日後──。
「やったー! お仕事終わり! 今日はお皿割らなかった!」
営業時間が終わり、全ての仕事を終わらせた操がバンザイをする。厨房を片していた一騎に「偉かったな」と褒められて、得意げに胸を張った。
「ぼくだってやればできるもんね!」
「それが当たり前だ」
が、カウンターで皿を磨いていた甲洋がすかさず水をさしてくる。操は思わずムッとしかけたが、すぐにニコリと笑うとそばに駆け寄り、背後からその腰に腕を回した。
「っ、危ないだろ」
危うく皿を落としそうになった甲洋が、眉間に深くシワを刻む。それでも振り払う素振りは見せない。営業時間外でもあるし、操は自分の仕事をしっかりと終わらせている。だからそれ以上の文句を言われることはなかった。
「明日は久しぶりにお休みだよね!」
「そうだけど?」
皿を磨きはじめる甲洋の耳元に、背伸びをして唇を近づける。
「じゃあ、今日はお泊りしてもいいでしょ?」
小声で問えば、甲洋はほんの少しの間のあとに「いいよ」と短く返事をした。普段は滅多に心を悟らせない甲洋だが、その瞬間だけはふっと緩みが生じたのが分かる。一騎もいる手前すぐに引き締められたが、操はそれだけで充分に嬉しさを感じた。
明日は久々の休日だ。一騎は総士を連れて、真矢と美羽も一緒に海へピクニックに行くらしい。操と甲洋も声をかけられたが、さりげなく断ったのは甲洋だった。それは甲洋も久々の休みをふたりで過ごすことを望んでいるからで、その意図に気づかないほど操だって鈍くない。だからこれ以上ないほど気分がよかった。今なら多少の嫌味くらい、余裕でスルーできそうなほど。
しかし、心に蓋をして悟らせたくないのは操も同じだった。気を抜くと思い切り開放してしまいそうなほど浮かれているが、そのせいで計画が漏れては台無しだ。操は今夜、甲洋にちょっとした悪戯を仕掛けるつもりでいるのだから。
「むふふふふ」
「……気持ち悪いよ、来主」
怪しい含み笑いに容赦なくジト目を食らったが、そんなことすらへっちゃらだった。
*
帰っていく一騎を見送ると、ふたりは二階にある甲洋の部屋へと向かった。
操の手にはサイズが大きめの、猫柄の巾着袋がぶら下がっている。扉を閉めるなり甲洋がチラリと不思議そうな目を向けてきたが、操は誤魔化すようにその首に抱きついた。
背伸びをしながら引き寄せて、ぶつけるみたいなキスをする。その性急さに、甲洋はふっと笑みを漏らした。
「あせらなくても時間はあるよ」
ふたりきりのときにしか見られない、甘ったるくて優しい笑顔。ひどく久しぶりに見た気がして嬉しくなる。
けれど操はツンと唇を尖らせて、上目遣いに甲洋を軽く睨んでやった。
「だってずっと我慢してたんだもん。ほんとはもっとしたいのに」
「それどころじゃなかったろ。仕事に支障が出れば大変だ」
「君は真面目すぎるんだ。少しくらいなら別にいいじゃん」
「ダメだ。仕事とプライベートはちゃんと分けろ。それができないなら、」
「もう! そういうのいいから、早くしようよ!」
放っておくとまた小言が始まりそうだ。こんなときまでご免だと、操は少し焦りながら甲洋をベッドに引っ張っていく。
「風呂は?」
「そんなのいい! ねぇ早く」
急かす操に苦笑して、甲洋がようやく手を伸ばす。両肩に大きな手がかぶさり、唇を重ねながら並んでベッドに腰掛けた。巾着袋の紐が、操の手首からすり抜ける。
「んんっ、ふ……っ」
忍び込んできた舌を受け入れ、鼻から抜けるような声を漏らした。水音を立てながら競うように舌を絡ませ、互いに服の上から身体をまさぐる。胸や脇腹に大きな手のひらを滑らされ、操の身体がピクンと跳ねた。
「はぁ、ん……!」
芯から込み上げた熱に息が上がり、頬が紅潮する。頭がぼうっと霧がかるのを感じて、操は内心ハッとした。これじゃマズい。夢中になりかけて、うっかり計画を忘れるところだった。互いに無防備になっている今は、仕掛けるのに絶好のチャンスでもある。
操はすぐ脇にある巾着袋にさりげなく片手をやりながら、顔の角度を変えると甲洋の下唇に吸いついた。
「んっ……!」
甲洋の肩がわずかに震えた。その隙をつき、操は巾着袋から抜き取ったものを素早く甲洋の手首の片方に引っ掛ける。
──カシャン
「ッ!」
響き渡った無機質な音に、甲洋が息を呑む。唇が離れ、目と目が合うと操はニンマリ微笑んだ。
「これは? どういうつもり?」
短く息を漏らし、甲洋がじっとりとした眼差しを向けてくる。操がその手首の片方にハメたのは、安っぽいオモチャの手錠だ。オモチャとはいえそれなりに頑丈で、よくできた代物だった。
「甲洋が悪いんだよ。ダメダメばっかで、ぼくの言うことぜんぜん聞いてくれないから」
操はしたり顔で言うと、手錠のもう片方を格子パネルになっているベッドの背もたれに引っ掛け、固定した。
「だから今日は、ぼくが君を好きに食べちゃう日。いいでしょ?」
手錠に繋がれた甲洋の白い手首に、ゾクゾクとしたものが込み上げる。普段の生活だけじゃない。思えばセックスをするときだって、まともに主導権を握らされたことはなかった。だから今夜は思う存分、甲洋を翻弄してやりたい。
ワープで逃げられてしまえばそれまでだが、そんな気を起こす前に気持ちいいことをたくさん仕掛けて、余裕をなくしてやればいいだけだ。操だって、彼のイイところくらい知っている。
「ッ、ん……」
指先を耳たぶに滑らせて、裏側を軽く引っ掻いた。甲洋がかすかに震え、目を閉じながら顔を背ける。耐えるようにぐっと上下した喉仏に、異様なほど興奮した。
「それが嫌なら、一騎みたいにもっとぼくに優しくしてよ」
わざと意地悪く煽るような言い方をすると、うっすらと赤らんだ目元で軽く睨まれた。
「一騎みたいに? お前のことを?」
押し殺したような低い声。その瞳がスッと細められたのを見て、なぜだか背筋が冷たくなった。たったそれだけで気圧されたような気分になって、操は思わず肩をすくませる。けれど優位に立っているのはこっちなのだからと、気を取り直して鼻を鳴らした。
「そうだよ。だって一騎は小言も嫌味も言わないし。お皿割っても優しいもん。君とはぜんぜん大違い。甲洋が一騎だったらよかったのに」
ツンとそっぽを向きながら、今のは少し言い過ぎたかなぁなんて思いはしたが、そのときにはもう空気が凍りついていた。操はギクリとしながら甲洋を見る。
深く溜息をつき、彼は心底あきれ果てたという顔をしていた。不愉快だという感情を、今の甲洋は隠しもしない。彼がこれほど明確に心を悟らせるのは珍しかった。
「……少しくらいなら、好きに遊ばせてやろうかと思ってたけど」
「え?」
「気が変わったよ」
甲洋は手錠で繋がれていない方の手を、スッと操の目の前に持ち上げた。その指先には、小さな鍵が摘まれている。
「な、なんで!? なんで君がそれを持ってるの!?」
操はとっさに両手で自分の胸をまさぐった。無い。どこにも無い。シャツの胸ポケットに、こっそり隠し持っていたはずの手錠の鍵が。
「様子がおかしいと思ったら。なかなか面白いことを考えたな」
甲洋が長い足を組み、手のひらで鍵を弄ぶ。
「あっ、もしかしてさっき……!」
軽く混乱しながらも、操はさっきのキスを思いだした。彼は口づけを深くしながら、操の胸や脇腹をまさぐっていた。あくまで偶然だったのだろうが、そこで胸ポケットにある鍵の存在に気づき、知らぬ間に抜き取っていたのだ。
操はキスに溺れかけていて、そのことにまったく気がついていなかった。
「詰めが甘いよ、来主」
「か、返して!」
取り返そうと手を伸ばしたが、甲洋は鍵を握りしめると遠ざけてしまう。
「返してよぉ! それはぼくのなんだからぁ!」
「いいよ。これを外した後でね」
余裕の笑みが腹立たしかった。今にも飛びかかってやろうとしたけれど、その寸前で手早く解錠されてしまう。自由になった片手を軽く振りながら、甲洋は感心したように「けっこう頑丈だな」と呟いた。
終わった、と操は思う。優位に立っていたつもりが、最初から手のひらで遊ばれていたのは自分の方だった。ここからまた形勢を立て直すのは難しいだろう。きっと今からこってり絞られるに違いない。最悪、朝まで説教コースになる可能性だってある。
「もぉー! なんでぇ!? なんでうまくいかないのぉ!?」
悔しすぎて泣きそうになる。操は癇癪を起こした子供のように声を張り上げ、頭を抱えるとぐしゃぐしゃと髪を乱した。
甲洋は辟易とした様子で嘆息を漏らし、ベッドの端に置き去りにされていた猫柄の巾着袋を引き寄せた。
「それで? いかにも怪しいこれはなに?」
「あっ! それダメ!」
サァッと青褪めた操を尻目に、甲洋は中身を全てベッドの中央にぶちまける。
「うわ……」
出てきた品々を見て、甲洋が珍しく顔を引き攣らせる。操はいよいよ両手で顔を覆い、無駄に終わってしまったアイテムたちへの虚しさを嘆いた。
「あぁ~……お母さんからもらったお小遣い、残ってたのぜんぶ使い果たしたのにぃ……」
袋から出てきたのは、ピンクローターが5つと綿素材のSM用ロープ、黒い目隠しと白いギャグボール、そしてシリコン製のコックリング。挙句の果てにはバイブ機能がついた黒いブジーと、チューブ付きのシリンジが潤滑剤とセットになっているものまであった。
「まさかお前……これを全て俺に使おうとしてたのか……?」
そのえげつないラインナップに、さすがの甲洋も顔色をなくしていた。呆れさせたことはあっても、ここまでドン引きさせたことはない。こうなるとさすがに恥ずかしくなってきた操は、顔を真っ赤にしながら逆に開き直ってしまった。
「そうだよ! これで君のことヒンヒン言わせようと思ってたのに! 台無しだよ!」
「頭どうかしてるぞ……これ全部、わざわざ闇市で買ってきたのか……?」
大きく鼻をすすりながら、こくんと頷く。
数日前の夜、ふと閃いた操が向かった先は、鈴村神社からほど近い商店街の路地裏だった。昼間でも薄暗いその場所には、真夜中になると小さなライトが灯される。そこで密かに開かれているのが、大人たちのあいだで闇市と呼ばれている店だった。
海神島では鈴村神社で開催されるフリーマーケットとは別に、昼間の時間帯には扱えない商品を売る店が、ひっそりと存在していた。それが闇市だ。そこではこういったアダルトグッズの類──もちろん新品──や、エロ本などの性的嗜好品が数多く売られている。
ささやかなライトの下にはレジャーシートが敷かれ、所狭しと怪しげな品々が並べられていた。店には帽子を目深にかぶった男がアウトドアチェアに腰掛けているだけで、他に客はいなかった。操はその中から直感で幾つかアイテムを選び、購入したのだ。
使い方を知っていたわけではないが、そこは甲洋の身体を使って試してみればいっか、くらいの軽いノリだった。
「そんなところに一人で行くな」
「だぁって君、行きたいって言っても連れてってくれないじゃん」
「当たり前だ。必要があるとは思えない」
その冷めた口調に、操は唇を尖らせた。出だしの甘い雰囲気はどこへやら、甲洋には普段の手厳しさが戻ってしまっている。
面白くない。せっかく買い揃えたものも無駄になってしまい、操は「あーぁ」と言って肩を落とした。
「つまんない。これでめちゃくちゃにしてやろうと思ってたのに。ぜーんぶ無駄になっちゃった」
「……そうでもないさ」
「えぇ~? なに、ぁ、わっ」
手首を掴まれると引き寄せられて、しっかりと肩を抱き込まれる。ポカンとしながら見上げる操に、甲洋は目を細めて微笑んだ。
「これでめちゃくちゃにされたかったのは、来主のほうだろ?」
「ッ、は? なに言ってんの? そんなわけないじゃん」
「本当に?」
「……なんで? なんでそんなこと……だって、これはぜんぶ君に……」
どうしてか、最後まで言えずに言葉を詰まらせてしまう。操は計画が失敗したときのことを、まるで考えていなかったのだ。甲洋を拘束して、いつも自分がされているみたいにいっぱい気持ちよくして、焦らして焦らして追い詰めてやろうと思っていた。
その頭しかなかったはずなのに、なぜか強く否定することができない。そんな自分への戸惑いに目をそらせば、ベッドの上には大人のオモチャが散乱している。無意識にこくんと喉が鳴った。
(これ、どんなふうに使うんだろ。使ったらどうなるのかな? 気持ちよく、なるのかな……?)
急に心臓がうるさく騒ぎだす。
「試せばいいさ」
操の心を読み取った甲洋が、耳元で吐息混じりに囁きかける。ビクンと肩を跳ねさせて、潤んだ瞳をおずおずと向けた。戸惑いと不安と、期待と恐れ。様々なものが入り混じって揺れる瞳を覗き込み、甲洋が妖しく笑みを浮かべた。
「俺は一騎みたいに優しくないから。だからあいつが、お前相手には絶対にしないようなことを、してあげる」
*
裸に剥かれた操は目隠しをされ、ベッドの背もたれに手錠のチェーンを引っ掛ける形で両手首を拘束されていた。
両足は太ももの裏にふくらはぎがぴったりくっつくように折りたたまれて、膝横と足首辺りを縄で縛りつけられている。巻きつけた部分を束ねて閂状に固定すると、そこからさらにロープを通して背もたれの格子にそれぞれ括りつけられた。M字に開脚する臀部から腰の下には何枚ものタオルが重ねて敷かれ、クッション代わりになっている。
「縄が綿素材でよかった。痕も残りにくいし、痛くないだろ?」
「ね、ねぇ甲洋……ぼく今どうなってるの?」
操はすっかり目隠しをされているため、視覚情報の一切を遮断されている。甲洋の心を読もうにも厚い壁が張り巡らされ、自分がどんな状態でいるのかさえよく分からない。
「なかなか似合ってるよ、来主。いい眺め」
「やっぱやめようよ……なんか嫌だ。もうやめたい」
目も見えず、心も読めないとなると不安だけが増すばかりだ。ここまでおとなしくはしていたものの、今さら後悔が押し寄せてくる。
「やめるもなにも」
音と気配だけで、甲洋がすぐ脇に腰を下ろしたことだけはかろうじて伝わった。それだけで、身体がビクンと跳ねてしまう。
「まだ始まってすらいないよ」
甲洋がそう言ったと同時に、ローターの低いモーター音が唸りをあげはじめた。ドキリとして身を強張らせる操の耳元まで近づいて、耳の穴に触れるか触れないかのところで耳たぶをくすぐりはじめる。
「やっ、やだ! くすぐったい……っ!」
振動と一緒に、頭の中にまで直にモーター音が響き渡るようだった。逃れようとして身をよじると、両腕を拘束している手錠がガチャガチャと音を立てる。それらの無機質な音にまぎれて、甲洋が小さく笑った気がした。
「どんな感じ?」
耳の穴をつついていたローターの先端が、頬の輪郭なぞって首筋を伝っていく。鎖骨をたどり、やがて乳首に触れると乳輪をなぞるようにクルクルと動いた。
「やぁっ、ぁ! んっ……わかんない、よ……っ」
左右の乳首をゆるゆると交互に刺激する振動に、操は皮膚をざわざわと粟立てた。その動きは決して一定のものではなくて、片方をやけにしつこくいじっていたかと思えば、もう片方はかすめる程度につつくだけと、まるで予測がつかない。
視界を遮られているからこそ神経が余計に研ぎ澄まされて、振動になぶられる肌が敏感になっていく。
「乳首が勃ってる。ずいぶん気に入ったように見えるけど?」
「んっ、んっ、ぁッ、ち、ちが、ぅ……変な、感じ……あっ、ジンジン、してきちゃ……っ」
「もう腰が揺れてるよ。そんなにこれが好き?」
「ち、ちがうもん! ……っ、ぁ、こんなのぼく、好きじゃな……ぁ、んんっ」
不思議なことに、甲洋の言葉ひとつひとつがいつもの何倍も意地悪く聞こえてしまう。けれどもっと不思議なのは、そのことに異常なまでに興奮を覚えていることだった。
「嘘が下手だな、来主は。こんなに乳首をパンパンにしてるくせに──ああ、そうだ」
こころなしか、甲洋の言葉選びもいつもよりわざとらしく、あからさまに聞こえる。彼はいったんそこを離れたかと思うと、カタカタと音をさせながら何かを探る気配を見せた。
モーター音が止まり、ローター責めから開放された操は少しだけ安堵して息をつく。けれどすぐにまたローターが乳首に押し当てられて、そのままピタリと固定された。
「なっ、なに!? なにしてるの!?」
「気に入ったみたいだからさ。ほら、これをテープでこうすれば……」
「や、やだやだ! あっ、ね、ねぇ! ねぇってば!」
もう片方の乳首にも同様にローターが押し当てられ、ぴったりとテープで貼り付けられるのが分かる。なにをされるのか予想がついて、操は拘束された両足で必死にもがくが、ただ悪戯に格子パネルが軋んだ音を立てるだけだった。
「これならずっと遊べるだろ?」
「や……っ!?」
甲洋が二つになったローターのスイッチを同時に入れた。あの独特なモーター音と振動が、それぞれの乳首で唸りだす。
「んんっ、ぁ、ぁ、やだ……っ、や、これ、とって、とってぇ……っ」
薄い胸の上で、張りついたローターが『弱』のまま延々と振動を繰り返す。そのもどかしさに操は悶え、悩ましく身をよじった。弱い振動はじれったく神経を苛むばかりで、決定的な快感には至らない。それがより一層、ジワジワと炙るように性感を高めていく。
「はぁっ、ぅ、んッ……こ、よ、おねが……ッ、も、や……っ」
「あせるなよ。時間はあるって言っただろ?」
両腕を乱暴に動かして、手錠を鳴らした。けれど甲洋はそれらの訴えをまるで無視して、別のアイテムに手を伸ばす。包装を解く音だけを聞きながら、次に彼がなにをするつもりでいるのか、操にはまったく想像がつかなかった。
「尿道ブジー、ね。知らずに買ったんだろうけど……これは玄人向けのアイテムだよ」
「うぅー、もうやだぁ! ねぇ甲洋、こんなのやめて普通にしてよぉ!」
「これは躾だよ、来主。普通にしたんじゃ意味がない」
身から出た錆だしねと、そう付け加えた甲洋の声は楽しげだ。
「ローションかと思ったけど、これは滅菌用のジェルなのか。これをこの50mlのシリンジに入れて、尿道に注入するわけだ」
「んッ、ぁ……ねぇ、なにする、の……?」
「痛みを感じなくするためのジェルだよ。これをオシッコをするための穴に入れるんだってさ。ローションよりだいぶ固めだな……待って、今シリンジに移すから」
甲洋は説明書に目を通しながら作業にあたっているようだ。独り言も織り交ぜながら、まるで実況するかのように事細かに、今なにをしているのかを説明していく。けれど操はそれどころではなかった。とにかく早くローターを止めてほしい。こうしている間にも、小さな火に炙られているようだった。
暴れようとしたせいで両足を縛る縄がより肌に食い込み、そのかすかな痛みにすら身体が疼く。
「来主、あまり勃起させないで。勃った状態だと、ブジーの挿入時に痛むらしいから」
「そん、なっ、こと! 言われたってぇ!」
「……あぁ、ちょっと遅かったかな。少し勃ってる。でもまだ柔らかいね」
「アッ、待っ! 今ちんちん触ったら感じちゃうぅ!」
「我慢」
「~~っ!!」
無茶な話だ。操の身体はすっかり興奮しているし、やめてほしいと思いながらも早く気持ちよくなりたくてウズウズしている。我慢なんてできるわけがない。
甲洋は操の半勃ちの幹に手を添えると、もはや先走りで湿った鈴口に手早くなにかを押し当てた。そしてそれを、なんの一言もなしにぐっと穴に押し込んだ。
「ヒッ、ぃ……ッ、──!?」
まともに声も上げられないまま、操の身体がビクンと跳ねる。ささやかな穴に通されたのは、太さが4ミリ程度の細い管だ。痛みはなかったが、初めての感覚にショックが大きい。
その異物感の凄まじさが急に恐ろしくなってきて、操は歯の根をカチカチと鳴らした。
「これ自体は医療用だよ。痛くなかったろ?」
「や、だ……抜い、て、抜いて、お願い……」
「ジェルを入れたらね」
甲洋がシリンジの押し子に力を込めるのが、性器を通して伝わってくる。次の瞬間、尿道を逆流して冷たいジェルが注入された。
「うあぁッ、ぁ、ヒッ!? やめ、アッ、つめ、た、冷たいぃ……ッ!」
「まだ半分も入ってないよ。全部イケそう?」
「むっ、むり! むり! ぜったい無理ぃ!」
固めのジェルは、狭すぎる道を無理やりこじ開けるようにして逆流していく。ジワジワと内部を満たし、深い場所にまで溜まっていくような感覚に、操は髪を振り乱した。
冷えた感触は徐々に焼けるような熱に変わっていく。甲洋が押し子に力をかければかけるほど、注入されたジェルは膀胱を満たし、ぐるぐると暴れまわった。
「ぁぐ、ぅッ、うぅ……ッ、やだっ、これやだ……っ、やら、ぁ……もう、やめ……ッ」
「……ぜんぶ入った。気分はどう?」
「あぁ、う、ぅ……! あつ、い……奥が、熱くて、膨らんで……苦し、い」
「その割には気持ちよさそうに勃起してるよ。我慢しろって言ったのに」
甲洋がフッと笑って、ギリギリまで押し込んだシリンジの押し子をぐんと引きはじめた。その瞬間、操の口から絶叫じみた悲鳴が漏れる。
「はぎッ、ィ、ぁッ──!? や、やッ、あああぁぁ……──ッ!?」
細い尿道からジェルが吸い出される感覚は、まるで強制的に射精させられているようだった。しかも普通の射精じゃない。狭い通り道に固めのジェルがプツプツとダマになりながら排出されて、通常の射精では決して得られない過ぎた快感を味わわされる。
「あ゛ぁぁーッ、ぁ゛っ、あ゛ぁッ、なにごれッ、イグッ、イグぅ──~~ッ!!」
成す術もなく絶頂を迎えた操の白濁が、透明なジェルと混ざって吸い上げられる。ドクン、という大きな衝撃が身体全体に走り、噴きだす精液の勢いに押されてチューブが抜けた。ちゅぽん、という間抜けな音が響き渡る。
「うあぁっ、あ゛ッ! あぁーっ! ぁっ、いやあぁ……! ぁ゛ッ、とまっ、な……っ、しゃせぇ、とまんないぃ……っ!!」
ようやくまともに開放を許された性器からは、絶え間なくジェルと混ざりあった白濁が撒き散らされた。拘束された不自由な身体をビクビクと跳ねさせながら、どこからどこまでが絶頂なのか、あるいは余韻なのかが分からなくなる。
「凄いイキ方。そんなによかった?」
「ッ、ぁ……あぁー……ッ、ぁ、ぁ、ぁー……っ」
意識が白く弾けたまま、どこか遠くに飛んでいくのを感じた。すべてを吐きだしきったあとも、断続的な痙攣が止まらない。
甲洋は操の髪をサラリと撫でて、また笑った。
「来主、しっかりして。ここからだよ」
「っ、ぁ……? う、そ……まだ、するの……?」
「お前のここはまだ足りないって言ってるよ」
大量の射精を終えた操の肉茎は、萎れかけてはいたがまだ幾らかの弾力を帯びていた。甲洋はそれを軽く握り、糸を引く鈴口を親指の腹でクリクリと撫で擦る。
「あっ、やッ、やあぁ……っ」
「パクパクして、中が見えそうになってる。恥ずかしいな」
「見ちゃいや、見ないで……ッ、おちんちんの中、見たらダメぇ……!」
「なら栓をしないとね」
甲洋がまた動き出す気配がした。過ぎた快感から戻りきれないでいる操は、それでもなお終わりが見えないことに絶望感を味わう。
「甲洋、いや……っ」
「暴れると怪我するよ。痛い思いをするのが嫌なら、おとなしくしてて」
「ッ……!」
優しげに聞こえて、その声には圧がある。操はヒュウと息を呑み、抜けきらない余韻と恐怖に、身体を震えさせた。
「アッ、っ……!」
鈴口に、細長くしなるブジーの先端があてがわれた。容赦なく穴に差し込まれ、チューブのときと同様に操の身体がビクンと跳ねる。けれどさっきと違うのは、それがチューブよりもほんの僅かに太いということ。そして、ブツブツとまるでビーズが連なっているかのような形状をしているということだった。
「あ、あ、アッ、やだ、やだぁ……ッ、ぁ、痛いよっ、もういれちゃダメぇ……ッ!」
「だから勃起させるなってば。せっかく少し萎れてたのに」
「あぁーっ、あ、あぁぁ……っ、ぁ、ふか、い、ッ、深いの、こわいよぉ……っ!」
ブジーはチューブが差し込まれていた位置をとうに過ぎ、穴の奥へと侵入していく。中に残っているジェルの力を借りて、ズルズルと最奥へ到達した。その瞬間、腹の奥底でじわりと広がるような熱が灯った。
「ぁ、ヒッ……!? やだ、なに……!?」
「この長さがぜんぶ入った。奥が熱い?」
声も出せずに、操はただこくこくと何度も頷く。
「なら、少しノックしてみようか?」
「ッ、?」
鈴口から飛び出しているブジーの先端には、小さな楕円形のスイッチがついている。甲洋はその頭を指先でコツコツと叩いた。すると内部にあるブジーの先端によって、尿道側から前立腺をノックされ、操の腰がビクビクと跳ね上がる。
「あぅッ、あっ、あ゛ぁッ……! やめ、やだ、奥だめっ、コンコンしないれぇッ!」
甲洋は小さな幹をしっかり掴み、ブジーを幾度か抜き差しした。そこはもはやジェルで味わわされた快感に味をしめていて、内壁を擦られながら前立腺を押しつぶされる感覚に、射精したい欲が押し寄せる。けれど尿道はブジーによって塞がれており、出すことは叶わない。それでも極致の波は容赦なく襲いかかってきた。
「ひィッ、ぁ゛ッ、イぐッ、イ゙ぐッ! イッ……──ッ!」
「待ぁて」
「ッ゛~~っ……!!」
犬や猫をたしなめるような声音で命じ、甲洋がイク寸前で刺激する手を止めてしまう。
「やっ、なん、で? やだ……イキたい、イキたいよぉっ!!」
「ダメだ。お前、今メスイキしようとしただろ?」
「ッ、? メス、い……?」
「俺がいいって言うまで、絶対イクな。しばらくこのままじっとして」
「そっ、そんなの無理! 無理だよぉっ!」
操の身体は絶頂する寸前の強張りが解けないままだ。プツ、プツ、とブジーが勝手に押し出され、その感覚だけで果ててしまいそうになっている。
「もう緩くなった? 随分だらしない穴だな」
甲洋はわざとらしい溜息をつき、ブジーをぐっと押し込んだ。
「ひあぁッ、ぁぐぅっ……!」
「イ、ク、な。何度も言わせるなよ」
「ぃぎ……ッ、ぃ、ひ……っ」
全身をガチガチと震わせて、歯を食いしばる。甲洋はブジーが抜けてしまわぬよう、オウトツが浅い亀頭部分にコックリングをハメて固定してしまった。あと一歩で手が届きそうなのに、せき止められた血流が絶頂を掴ませてくれない。
「ぁ、ぐ……っ、ぁ゛……も、む、り……」
「まだだよ来主。ローターだって余ってる。こっちだってそろそろ寂しいだろ?」
甲洋の指先が、ジェルと体液でぐちゃぐちゃになった尻の孔に這わされる。指を押し込まれ、ねっとりと浅い部分を掻き回された。
「やぁあっ! こうよ、っ、や、あうぅ……っ!!」
不格好に尻を振り、逃れようとする動きを見せる操の耳に、クスリと笑う甲洋の声が聞こえる。彼はあっさり指を引き抜いてしまうと、余っているローターの一つをヒクつく孔に宛てがい、ぐっとナカに押し込んだ。
「ヒィッ、ぁ!? やぁ……っ、い、いれないでぇッ!」
「簡単に入っていくよ。あと二つ」
「やだッ、いやぁ……っ!」
残り二つを、立て続けに入れられた。それだけで、操の狭いナカはいっぱいになってしまう。けれどそこに甲洋の長い指も一緒に潜り込んできて、また中をかき回された。バラバラに動く異物が、濡れた肉の壁を不規則に擦る。
「い、ぁ゛……やめ、お腹、苦しいっ、甲洋……っ!」
「普段もっと太いのを挿れてるだろ? 来主ならすぐに慣れるよ」
操の訴えを袖にして、彼は指を引き抜くと容赦なく三つのローターのスイッチを入れていった。
「ッ~~!? ぁ゛ッ、……ッ、んくっ、ぁ! やあぁ……ッ!」
胸とは違い、それは最初から『強』に設定されているようだった。三つのローターはナカで激しく振動し、互いに擦れ合い、より振動を強くする。モーター音が腹の奥で低く唸りをあげて、ナカを激しく暴れまわった。
「さて、じゃあ次はこっちだ」
次に甲洋がしたのは、ブジーについているバイブのスイッチを入れることだった。カチッという音が無情にも鳴り響き、ナカのブジーが振動をはじめる。その瞬間、操はバチバチと視界が白く弾けるのを見た。
「ッ、!? ィ゛、……ッ、──!?」
ブジーは繊細な尿道で激しく震え、その震えは先端から前立腺を刺激する。さらに裏側からはローターが圧迫しており、二つの刺激によって前後から同時に前立腺を責め苛む。
「ぁ゛ッ、あ゛あァ──ッ! ぁ゛んぐッ、あ、ぁ──!! もッ、ごわれる!! ごわれるぅ゛ッ、! 抜いで、抜い、ッ! ん゛んぅ、ア゛ぁ…──ッ!!」
内ももは激しく痙攣し、頭上では手錠が酷い金属音を奏でていた。閉じることができない口から唾液を漏らし、それだけでは足りずに舌まで突き出すようにしながら、延々と繰り返される快楽に身を焼かれる。
雁首でせき止められ、パンパンに赤く膨れ上がった性器はぴったりと腹にくっついて、小魚のように跳ねていた。
「凄い反応。逆に気の毒になってくるよ」
「やべでッ、もうやべでぇッ……! こうよ、ヒぎッ、ぃ゛……っ、ぁ゛ぐうぅぅっ!!」
「ひどい声だな。もっと聞いていたいけど」
甲洋が一つだけ残ったギャグボールを手に取った。
「どうせだから、これも使おうか」
唾液と共に絶叫を撒き散らす操の口に、丸い球体が噛まされる。ベルト部分を首の後ろで固定され、まともに喘ぐことすらできなくなった。
「んぶぅッ、んぉッ、お゛ぉア゛ァッ、ん、ぶッ……ふ、ぅ゛──……っ!!」
よりいっそう品のない悲鳴があがり、甲洋が満足そうに笑う吐息が聞こえる。すぐ脇でベッドの縁が軋み、目の前で顔を覗き込まれているのが、突き刺さる視線で察することができた。操は呻きを上げながら、激しく首を左右に振った。
「ごあえぅッ、ごあぇひゃうぅ! ほぉア゛ぇへえッ……!!」
「なに言ってるか分からないよ」
甲洋がまた笑った。操は心の中で、何度もやめてと叫びをあげた。このままでは壊れてしまう。気が狂って、戻れなくなる。一分でも一秒でも、この快楽責めには耐えられない。
全て聞き取っているはずなのに、甲洋はその訴えに答えようとはしなかった。代わりに、囁くような声で「三枚だよ」と、言った。
「~~ッ、!?」
「今月、来主が割った皿の数。ドングリ三個分だ」
振動と共にビクビクと跳ねている腫れた屹立を、指先がつうっと撫であげる。
「その分を引かれるのが不満なら、代わりにこのまま堪えてごらん」
「うぶぅぅッ! ぅぐうぅぅぅーッ!!」
また少しベッドが軋んだ。甲洋の気配が離れるのを感じて、操は半狂乱になりながら髪を振り乱した。
「俺は下にいるから。三時間したら戻ってくるよ」
(待って! 待って甲洋! 嘘でしょ!? やだ……ッ、ぼくを置いて行かないで!!)
「飛ぶなよ、来主」
その言葉には、二つの意味が込められている。決してワープで逃げようなんて考えは起こすなということ、そして意識を保ったままでいろということ。
言葉だけで絶対的な圧をかけ、甲洋の声はその後いっさい聞こえなくなった。扉を開け締めする音は聞こえなかったから、ワープで部屋を出ていったのかもしれない。けれど視界を遮られている以上、本当にいなくなったのかどうかすら操には判断がつかなかった。
どちらにせよ、この地獄のような責めから開放されるのは、まだずっと先なのだ。三時間と、甲洋は言っていた。割った皿、三枚分。突き落とされるような絶望感に、操はただ泣いて呻くことしかできない。
「ううぅーッ、ぉ゛ッ、……ッ、ぉ゛あッ、ア゛ッ、おぁぁッ……ッ!!」
胸と、ナカと、性器に差し込まれたバイブは延々と唸りを上げている。足をガクガクと動かし、ロープを引き千切ろうとしてもビクともしない。荒れ狂う快感の激流が、操の神経を焼き切ろうとしている。
(壊れる、壊れる……! 助けて、怖い、助けて甲洋ぉ……っ!!)
目隠しは操の涙でぐしゃぐしゃになっていた。点々と空いたギャグボールの空気穴からは、絶えず唾液が溢れ出る。身をよじればよじるほど、ナカでローターが暴れまわった。前立腺を激しい振動がこねくり回し、張り詰めた性器が弾けそうになっている。
けれど尿道は塞がれて、射精はできない。イクことができない、はずなのに。
「ぁ゛っ、ぇ……ッ、~~ぉ゛、ッ゛……ッ!!」
操の中で、なにかが決壊した。呼吸すら忘れて、大きな波に飲み込まれる。性器がグン、と大きくしなった。そのままビクビクと痙攣を繰り返し、爆ぜるような快感が噴き出した。
(ダメ、ダメぇ! もうイク! イクイクッ、イクぅぅ……ッ)
「あおぁッ、うぅぅッ、んぐぅぅぅッ……!!」
白い光が、頭の中で一気に弾けた。射精もしないまま、痺れるほどの絶頂感に襲われる。
「〜〜〜っ、ッ! ぉ゛、……アッ、──!!」
ガチャ、ガチャ、と手錠が鳴る。背もたれの格子パネルは軋み、拘束されている足の爪先が、攣りそうなほど丸まった。
(ぼく、メスイキしたんだ……甲洋に、また怒られる……)
我慢しろと言われていたのに、操はメスイキしてしまった。彼が戻ってきてこれを知ったら、これよりもっと酷いことをされるかもしれない。けれどそれを思うとゾクゾクしたものが込み上げて、いっそう快感が膨れ上がった。何度も何度も、射精を伴わない絶頂が快楽の上限を塗り替えて、際限もなくイキ狂う。
(ぎもぢい、ぎもぢい、ぎもぢいぃぃ……っ!!)
ローターとバイブは止まらない。目隠しの下で白目を剥く操の、地獄のような快楽の時間はまだ始まったばかりだった。
*
「まったく声が聞こえなくなったから、様子を見に戻ってみれば……」
ずっと遠くで、甲洋の声が聞こえた気がした。思考に厚い膜が張っているような感覚に、虚ろな意識を彷徨わせる。操はただ小刻みに痙攣しながら、時折ビクンと弾かれたように身を跳ねさせるだけになっていた。
ギャグボールの空気穴から泡を噴き、半ば失神しかけている。
「まだ一時間しか経ってないよ」
甲洋が苦笑しながら、ギャグボールと目隠しを外した。操は白目を剥いていて、自由になった口からはか細く短い呻きしか漏れない。
「ぁ……ぁ゛……ァー……、ぉ、ぁぁ、ァー……」
「ほら、しっかりして」
ベッドに乗り上げた甲洋が、操の頬を軽く叩く。上を向いたままだった眼球が、左右に揺れながらゆっくりと焦点を合わせていく。涙は枯れていたが、甲洋の存在を認識した途端、ポロポロとまた溢れだした。
「あと二時間、がんばれそう?」
「ッ、ぅ……こ、よ……こうよ……な、さ……ごめ、なさ……ごめ、ん……っ」
甲洋が優しく微笑み、「何回イッたの?」と問いかける。操は嫌々と首を振り、くしゃりと顔を歪めた。
「ごめん、なさい、ぁう、ぅ……ッ、ごめんなさい……っ」
「悪い子だな。これじゃ躾にならないよ」
「ッ、ごべんなざいっ! ごべんなざい! ごべんなじゃいぃ!」
ローターとバイブは未だに唸りを上げていた。けれど一時間ものあいだ絶え間なく絶頂を繰り返した操の身体は、ただジクジクと熱く痺れるだけで麻痺しはじめていた。何度イッたかなんて分からないし、まだイキ続けているような気もする。
「しょうがないな」
泣きじゃくるばかりの操に、甲洋は小さく息を漏らすと、真っ赤に腫れた性器からリングを取り去った。せき止められていたマグマのような熱が、一気にぐっと競り上がる感覚を覚え、操は大きく息を呑む。
「ヒッ、ィ、ぁ……っ」
そこで初めて、操は自分の身体を見下ろした。パンパンに膨らんだ性器から、黒いブジーの頭が突き出ている。小さな卵型のスイッチだ。甲洋はそのスイッチを止め、ジワジワと引き抜いていく。
「ぁぐッ、ぅ……っ、ああ゛ぁ、ぁ、ぁ゛……っ!」
ビーズ状のブジーが、柔らかくしなりながら鈴口から飛び出してくる。その感覚にブルリと震えていると、残りのブジーが一気に引き抜かれた。
「ヒギッ……!? ィ、ぃああぁぁ──ッ!!」
その途端、溜まるにいいだけ溜まった精液がドッと噴きだした。長く続いた射精のあと、プシャッと音を立てて透明な潮まで吹いてしまう。腰回りはぐしゃぐしゃで、なぜ甲洋があらかじめタオルを敷いていたのかが、やっと分かった。
「はあぁッ、ぁ、ぁ、ぁ……あぁーっ、ア゛ーっ……」
また半分ほど白目を剥きながら、操はピクピクと痙攣した。ブジーを抜かれた鈴口が、真っ赤に染まりながら閉じたり開いたりを繰り返し、ぷくん、ぷくんと残滓を吐きだしている。
その痴態に甲洋はごくりと喉を鳴らし、震える息を漏らしながら、今度は尻の孔からローターを一つ、引き抜こうとした。けれどしっかりと食い締めて、なかなか上手く出てこない。
「これがそんなに気に入った?」
「ち、が……ちが……」
「俺のを挿れてるときよりも、ずいぶんしっかり咥え込んでるようだけど?」
「ひぅっ、アッ、くうぅぅんッ……!」
ローターがズルンと強引に引き抜かれた。尻の孔から卵を産まされたような感覚に、また軽くイッてしまう。操の身体は完全に大事な糸が切れていて、少しの刺激でも簡単に達してしまうようになっていた。頭も心も身体でさえも、すっかりバカになっている。
「もういやぁッ! イギだくないっ! イギだくないよぉ……っ」
「さっきはイカせてってうるさかったのに?」
「もうやらっ! やらぁっ!」
涙と鼻水でひどい有様の顔を見て、甲洋はまたひとつ震える息を吐きだした。その目つきは飢えた獣のようで、操が耐えていた分だけ彼もまた堪えていたことが伺い知れる。
「……ごめん、来主」
甲洋は低く吐き捨て、息を荒げながら自身の前をくつろげた。下着から引きずり出されたそれは、見たことがないくらいギンギンと脈を浮かせて反り返っている。見慣れているはずの肉棒が、今の操には凶器に見えた。
「や……やだ……いや……」
こんなものを挿れられたら、また死ぬほどイカされる。操はこれがどれほど気持ちいいものかを知っていた。ナカに挿れて、肉の壁をいっぱいに広げられ、痛いくらい擦られて、腹の奥を突かれると、よだれを垂らしながら悦んでしまう自分の淫らさを知っている。
だから怖い。これ以上は本当に壊れてしまいそうなのに。甲洋の男根から目が離せずに、喉を鳴らしてしまう自分が信じられない。
「やだ、やだ……っ、今したら、ぼく死んじゃう……っ」
ゆるゆると首を振って怯える操に、甲洋は余裕のない低い声でもう一度「ごめん」と言った。そして、縄が食い込む内ももに手をかける。二本のコードが伸びている濡れた孔に、熱い筒先を宛てがわれ、操は血の気が引くのを感じた。
「ダメ、ダメぇ! まだ入ってるの! ブルブルが、まだナカに……ッ!」
「来主……っ」
「いァ゛……や、!? 〜〜っぁ゛、やめ、ぁ゛っ、ァ──ッ!!」
ローターが残されたままの肉壷に、甲洋の肉柱が突き立てられる。比較的浅い場所に留まっていた二つのローターが、その切っ先によって奥へ押し込まれた。肉棒と一緒に壁を擦り、ブルブルと暴れながら届いてはいけない場所まで届いてしまう。
「イ゛ッ、んぃいぃ゛ッ! ……っ! や、め゛っ、壊れ、あ゛──! ァ゛……!? んぉ゛ッ、も、イグ、イグぅ゛──……ッ!!」
目を見開いていてすら、視界に火花が飛び散った。枯れた喉で絶叫し、また派手に絶頂を迎える。
甲洋はそれぞれ掴み上げた操の膝頭に爪を立て、食い締める肉の感触にブルリと背筋を震わせた。喘ぎ混じりに荒く呼吸を繰り返し、熟れただれた媚肛を激しく突き上げる。
何度も何度も、繰り返される律動のたびに潮を噴き上げ、操はイキ続けたまま戻れなくなった。
「や゛、ぁああ゛! ごわれるッ、ごあれるぅ……っ、ア゛ッ、ぉ゛……っ、ごべ、なざ、ごべんなざいッ、もう悪い子しないッ! 悪い子じないがらぁ……ッ!」
獣のように腰を穿ち続ける甲洋が、操の泣き顔を見下ろしながら口元を笑みに歪めた。
「来主は、いい子だよ」
彼はズボンのポケットから鍵を取り出し、手錠を外した。それをどこかに放り投げ、操の身体を抱きしめる。感覚をなくして痺れる両腕で、その首にぎゅうと抱きついた。耳元に擦りつけられた甲洋の唇が、「好きだよ」と甘く囁いて耳朶を食む。
「ッ、ぅ……うぅ、ぁ……っ、ひっ、く」
心がどろどろに蕩けだすのを感じて、操はどうしようもなくしゃくりを上げて泣きじゃくった。好きというたった一言を、こんなに嬉しく感じたことがあっただろうか。言葉でも、そして心でも、甲洋はその甘ったるい声で操に何度も好きだと言った。
「来主は……? お前の一番は、誰?」
切なく掠れる甲洋の吐息に、操は迷わずその名を呼んだ。
「ぁ゛……ッ、はっ、こう、よ……ッ、あぁッ、ぁ……っ、甲洋が、好き、いちばん、好きぃ……っ!!」
ドスン、とまた勢いよく奥を穿たれる。操はもう何度目になるか分からない絶頂を味わった。痙攣する肉の締めつけに甲洋もまた甘く呻いて、白い熱液を迸らせる。
ぶちまけられた灼熱の粘液に下腹を震わせながら、溺れたようにその背を掻き抱く。休みなく続行される抽挿に、操はそのあとも狂ったようにイカされ続けた。
*
目が覚めたのは、すっかり昼になる頃だった。
シーツは綺麗に取り替えられて、簡素なシャツとハーフパンツを着せられた身体も、ある程度は清められている。拘束も完全に解かれているが、起き上がるどころかまともに声を出すことさえままならなかった。
「来主、起きた?」
そこへ白いカップを手にした甲洋がやってくる。彼はカップをいったん机に置くと、操側に身体を向けてベッドの縁に腰掛けた。
「ぅ゛、ん……ケホッ、ケホッ!」
さんざん喚いたせいで、喉にヒリヒリと痛みが走った。軽く咳き込みながらも身を起こそうとする操の肩に腕を差し入れ、甲洋が眉をひそめながら介助する。
「これ飲んで」
甲洋は机に手を伸ばし、白いカップを操に差し出す。ほのかに立ち込める湯気と一緒に、蜂蜜と生姜のあたたかな香りがした。
カップを両手に持ち、ちびちびと口をつける。ほどよく冷ましてはあるようで、操はそれを最後まで飲み干してしまった。
「おいしぃ」
ホッと息をつき、甲洋を見るとへにゃっと笑う。甲洋もふっと笑った。操の手から空のカップを受け取り、机に戻す。
操はそんな甲洋をおずおずと見上げ、目が合うと視線をわずかにうつむけた。
「どうかした?」
「ん? んー……。あのさ」
「うん」
「……お皿割ってごめんなさい。次からは本当に、がんばって気をつけるから」
膝の上で、両手の指をモジモジとさせる。あれだけミスをしておいて、まともに謝ったのはこれが初めてかもしれない。操は甲洋に対して多くの不満を持っていたけれど、こうして素直に謝ってみると、今までの棘がスッと抜け落ちたような清々しさがあった。
息をついた操の髪を、大きな手がくしゃくしゃと乱す。見上げれば優しい笑みがあって、その笑顔が今朝はとびきり甘く見える。
「俺こそ悪かった」
「なんで君まで謝るの?」
「お前のワガママは可愛いよ。生意気なところもさ。可愛いから、困ってしまう」
キョトンとしながら首を傾げた操に、甲洋は苦笑を浮かべた。
「来主を甘やかすってことは、俺まで一緒にダメになるってことだ。本当は店もなにも放りだして、四六時中お前とベタベタしていたいよ」
「えっ、それほんと!? ほんとにそんなこと思ってたの!?」
「ほんとだよ」
自嘲気味に肩をすくめた甲洋に、操は瞳を輝かせながらグンと伸び上がるような嬉しさを感じた。
「俺が厳しく接するぶん、一騎がフォローしてくれる。そこに甘えすぎてたよ」
ふたりきりでいるときの甲洋と、仕事をしているときの甲洋とではあまりにも態度が違いすぎて、操はそのギャップを受け入れられずにずっと腹を立てていた。けれど彼が仕事中やたらと厳しかったのは、操を律するのと同時に自分をも厳しく律していたからだったのだ。
変なの、と思ったけれど、そこが甲洋らしくもある。そう思える自分に、操は喜びを感じた。そんな彼らしさが腑に落ちるくらいには、自分たちはもうずいぶんと長く一緒に過ごした。これはその証でもあったから。
「なぁんだ、そっか! そうだったんだ……えへへ、嬉しい!」
広がる喜色を満面の笑顔に乗せて、操は甲洋に抱きついた。いつもクーがしてくるみたいに、甲洋の頬やあごの下にスリスリと自分の頬を擦りつける。しっかりと抱き返しながら受け止める甲洋の心が、くすぐったそうに震えていた。だから操までくすぐったい気持ちになって、ころころと声をあげて笑ってしまう。
「あ、そういえば」
ずっとそうしていたかったけれど、ふと気になって顔を上げた。
「あのオモチャどうしたの? もう捨てた?」
「まさか。勝手に捨てたりなんかしないよ」
甲洋が窓際のチェストに目線をやるので、操もそれを追いかけた。チェストの上には昨夜使ったアイテムたちが、普段使用しているローションだとか、ゴムの箱と一緒に行儀よくカゴに収まっている。
「とりあえず洗って消毒はしたけど」
どうするの? と目だけで問われて、操は少しドキリとした。捨てるも捨てないも、それは持ち主である操次第だ。
つい昨夜のことを思いだして、身体の奥がジンとする。ひどい目にあったとは思うけど──。
(やっぱり、自分のために買ったのかも……)
甲洋が言っていた通り、めちゃくちゃにされたかったのは自分の方だったのかもしれない。思わず漏れた熱い吐息が、それを証明しているようだった。
「……ときどき使おうよ。ダメ?」
死にそうな思いをしたし、前も後ろもなんだかまだ違和感がある。
甲洋はいつもより怖くて意地悪で、そのくせぜんぜん余裕がなかった。こうしてずっと一緒にいたとしても、まだまだ知らない顔がある。それをもっと知りたいと思った。だからたまになら、またしてみたい。優しくされるのもいいけれど、あんなふうにイジメられるのが嫌いじゃない自分を、操は知ってしまったから。
きっとそのときになれば、またひどく泣いて後悔するに違いないのに。
「いいよ」
そんな感情を隠しもせずに漏らす操に、甲洋は少しだけ困ったような顔をして笑った。彼もまた、昨夜の異様な高ぶりを思いだしている。
癖になってしまったのは、甲洋も同じだ。
「俺に使わないならね」
しっかりと刺された釘に、操はわざと「どうしようかな?」と悪戯っぽく言いながら、可笑しくてつい笑ってしまった。
了
To a friend born in November. Happy Birthday!
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