2025/06/16 Mon *ほんのりドラクエ3っぽい世界観。 *元ネタを知らなくてもふわっと読み流せる内容だと思います(多分) *甲洋くんのスケベ度が酷いです。 *スライム×操あり。 それは甲洋が二十歳になる誕生日のことであった。 「起きなさい、起きなさい私の可愛い甲洋や」 早朝、母・諒子に起こされた甲洋は何事かとベッドから飛び起きた。 母がわざわざ起こしにくるなんて珍しい。しかも普段は冷ややかな態度で接してくるはずの彼女が、今日はニコニコ顔の猫なで声で「可愛い甲洋」なんてありえないことを口走っている。 「……おはよう、母さん」 「おはよう甲洋。今日はとっても大切な日よ。早く王様のところへ行って、旅立ちの報告をしていらっしゃい」 「おお! 起きたか甲洋! 調子はどうだ?」 そこに母と同じく上機嫌の父・正浩が部屋に入ってきた。 「父さん、おはよう」 「王様を待たせては失礼だぞ? 今日という日のために、息子のお前を手塩にかけて育ててきたんだからな!」 父と母は楽しげにアハハウフフと笑い合っている。自分に関することで、両親がこれほどの笑顔を見せるのは初めてのことだった。 (分かりやすいな、ふたりとも……) 思わず力ない笑みがこぼれる。 彼らの言う通り、二十歳の誕生日を迎えた今日という日は、甲洋にとって旅立ちの日でもあった。 現在、世界は数百年も昔に封印されたはずの魔王・マレスペロの復活により、邪悪な闇に閉ざされようとしていた。 そしてここ『竜宮の町』は、かつて魔王を封印したとされる伝説の勇者が興したとして知られる町であった。再び魔王が復活した今、竜宮の町では素質を見いだされた子供は成人を迎えたその日に、戦いのための旅に出るというしきりたりになっている。 再び魔王を封印して勇者となったものには、王家より莫大な金銀財宝が与えられる確約がなされていた。父と母はそのためだけに、拾い子である甲洋を手元に置き続けてきたのだ。 塩対応を受けた記憶はあっても、手塩にかけられた覚えはない──が、拾ってもらったという恩はある。なにより、子供の頃から早く町を出たいと思っていた甲洋に、旅立つことへの異存はなかった。 「さぁさぁ! 早く旅支度をなさい!」 パンパンと手を叩く母に急かされ、甲洋は慌ただしく旅の準備をさせられた。 ヘッドバンドにグローブ、アンダーシャツとパンツの上から丈の長いオーバーシャツを着せられ、ブーツを履いて最後に紫のマントを羽織らされると、いかにも『ザ・勇者』なコスプレの完成だ。 まんまやないか……と、黄色いピタピタのインナー上下に真っ青なオーバーシャツを見下ろしながら、甲洋は思った。 「お前は俺たちの自慢の息子だ。しっかりやってくるんだぞ!」 そう言って、父は調子よく高笑いしながら甲洋の背中をバンバン叩いた。 * 急かされるままに城へ行き、王様との謁見を済ませた甲洋の手には、小さな布袋が握られていた。中には50ゴールドが入っている。なかなかしょっぺぇ……いや、貴重な旅の軍資金である。 道中魔物を倒しながら地道に稼いでいこうと考えながら、甲洋は町外れにある酒場へと足を向けた。 そこは各地から旅人が集い、仲間を得るための場所になっている。 ここで戦士や魔法使いなどといった職業につく人材を探し、強力な旅の仲間として同行を要請するのだ。 さっそく登録所になっている受付カウンターに向かうと、そこでは受付嬢の美魔女こと羽佐間容子が優しく微笑みかけてくれた。 「いらっしゃい、甲洋くん」 「こんにちは、羽佐間さん」 「その格好……そう、ついに旅に出るのね」 甲洋のザ・勇者なコスプレを見た容子は、心配そうな顔をした。けれどすぐに表情を引き締めると、 「さぁ、これが現在登録されている仲間のリストよ。きっとあなたの旅を助けてくれるわ」 と言って、カウンターの上に分厚い帳面を開いて見せた。 覗き込めば、そこにはズラリと同行が可能な仲間の一覧が表示されている──はずだったのだが。 「……打ち消し線だらけ?」 いるにはいるが、全員の名前の上に横線が引かれていた。 「ごめんなさいね……いまちょうど人手不足なのよ……でもほら、ここにひとり──」 申し訳なさそうに眉をさげた容子が指差した場所に、一人だけ横線が引かれていない者の名前があった。助かった、と思った甲洋だったが 「来主操……遊び人、か」 職業『遊び人』という記載を見て、ガックリと肩を落とした。 遊び人といえば、数ある中でもっとも使い物にならない職業である。戦闘中の指示には従わず、変顔をしたり踊りだしたりという問題行動ばかりをとる、とんだごく潰しなのだ。遊び人と言い切っている時点で職業ですらないはずなのに、なぜこうも堂々と記載されているのだろうか。 攻守のバランスを考え、無難に戦士、魔法使い、僧侶というパーティ構成を考えていたのだが、さっそく壁にぶち当たってしまった。 「ま、待って甲洋くん。遊び人と一口に言っても、言うことをきかないのは最初のうちだけなのよ。根気よくレベル20まで育てれば、賢者に転職することが可能になるの」 「はぁ……」 「それにね、この子はやればできる子なの。やらないだけで、やろうと思えばできるとってもいい子なのよ! そうよ、やれるわ……やれるはずだわ……!」 必死のフォローが痛々しかった。最後の方は甲洋にというより、自分に言い聞かせているかのようだったのは気のせいだろうか。 見たところ、遊び人として登録されているのはこの来主操だけのようだった。 おそらく他の旅人たちも、職業だけを見て判断したのだろう。強力な回復・補助・攻撃魔法まで、幅広く網羅する賢者という将来性には惹かれるが、そこまでの道のりがいささか遠い。 同じくレベル1でしかない初心者の甲洋にとって、遊び人の面倒を見ながらの旅は極めてハイリスクである。 だがしかし──。 どうやってこの状況を回避しようかと思案していた甲洋の脳裏に、ふとある考えが浮かんだ。 (来主操……みさお……女の子、かな?) 名前から察するに、おそらく女子。 そして遊び人の女子といえば、金髪ボンッキュッボン♡のハイレグ網タイツなバニーちゃんコス♡と、ファミコン版からSwitch配信版の昨今にいたるまで相場が決まっている。 「……なるほど」 可愛いバニーちゃん♡とのふたり旅。苦難の道のりの中、ちょっとしたロマンスだとか、ぱふぱふイベントだとか、そういったものがあるかもしれない。 いや、決してそんな浮ついた思考で魔王を倒そうだなんて、ナメたことを考えているわけではない。断じてないのだが、旅にTo LOVEるは付き物だから仕方がないと、甲洋は物事を柔軟に考えることにした。何事も頭でっかちはよろしくない。(性格:むっつりスケベ) 「分かりました。じゃあ、この子でお願いします」 「あらそう? よかった。甲洋くんになら安心して任せられるもの」 果たしてそうだろうか……。 「ぼくっ子とおれっ子で選べるけれど、どちらがいいかしら?」 「え? あ、あ~、そういう?」 男言葉属性とは予想外だった。が、そういう趣向もいいかもしれない。 しかし『おれ』となると女傑のイメージが強いような気がする。豪快で男勝りな女性も魅力的だが、どちらかといえば守ってやりたくなるようなタイプが好みだったので、とりあえず『ぼく』を選んでみた。 容子は頷き、さっそくカウンター裏の控室に向かって「操ー! ご指名よー!」と、声をかけた。 「はぁい!」 その元気のいい返事に、女の子にしては少し低め……いや、ハスキーボイスかな? イイネ! と思いつつ、胸をドキドキと高鳴らせた。 しかし控室の扉から飛び出してきて、目の前まで軽やかにやってきた人物を見るやいなや、甲洋の頭に思い描かれていた『ムフフなぱふぱふ旅』への希望は打ち砕かれた。 「ぼくの名前は来主操! よろしくね!」 ボンッキュッボンッでぼくっ子属性のバニーちゃん♡は、そこにはいなかった。目の前にいる人物はどこからどう見ても『ピエロ』の格好をしていて、ハスキーボイスどころかガッツリCV.木村良平の少年だったのだ。 「えぇ……?」 甲洋は戸惑った。 黄色のポンポンがついた三角帽と、白の襞襟がついているツナギのような道化衣装は、ピンクと紫のストライプ柄。かろうじて白塗りメイクはしていないものの、アホみたいな格好であることに代わりはない。まさしくピエロ。バニーちゃん♡とは掠りもしていなかった。 とはいえ顔は可愛い。が、そのぱふぱふ不可能な絶壁の胸を見て、甲洋のテンションは今日イチで盛り下がっていた。 「……チェンジで」 「不可能よ」 バッサリと切り捨てられた。 容子はカウンターから抜け出し、操の隣に立つとその肩を抱いて微笑みを浮かべる。 「操は箱入り息子なの。外の世界のことはなにも知らないから、いろいろと教えてあげてね、甲洋くん」 「ねぇおかーさぁん。クーも一緒に連れてっていい?」 「駄目よ。クーは老猫なんだから。ロイヤルカナン(健康的なカリカリご飯)だって、旅の途中じゃ手に入らないかもしれないでしょう?」 「クーは元気だから大丈夫だよ。草だって食べるもん」 「それだけじゃ栄養が偏ってしまうわ」 「ちぇー」 あ、親子なんだ……と枯れたススキのようなメンタルになっている甲洋は思ったが、操は旅立つことそのものには前向き──猫を連れてこられるのは困るが──な姿勢を見せている。 まったくやる気がないよりはマシかもしれないと、無理やりプラス思考に持っていかないことには、とてもやっていけそうになかった。 むしろやる気がなくなったのは甲洋の方かもしれないが。 * 「あっ、見て! クレープ屋さんがある! 買っていこうよ!」 晴れて(?)仲間をゲットした甲洋は、王様からもらった資金で旅の道具を揃えに向かっていた。しかしその途中、操がグイグイと腕を引っ張ってきて道端のワゴンショップを指差し、しつこくおねだり攻撃をしてくる。 「ダメだ。無駄遣いはできない」 「ねぇほら! タピオカミルクティーもある! 買ってぇ~買ってよぉ~」 「だからダメなんだって」 「なんでぇ!? ぼくお腹すいた! 喉も乾いた!」 「この50ゴールドで、君の装備と薬草を買うだけで精一杯だ」 「ぼく貧乏は嫌いだな……」 お前ふざけんなよと心が荒んだが、容子から頼まれている大事な息子さんなのでぐっと堪えた。操はその後も駄菓子屋に行こうだのCoCo壱でカレーを食べようだのとワガママを言い続けていたが、甲洋はどうにかスルーした。 そして武器屋で『ひのきのぼう』(安い)を買って、操に装備させた。 「なにこの棒きれ? ルガーランス買ってよぉ」 「お前……じゃなくて、君の今のステータスじゃ、そのくらいしか装備することは不可能だ。まともな武器が欲しいなら、目的地へつくまでにレベルを上げればいい。魔物を倒せばお金にもなる」 「えぇ~? なにそれだるーい」 同じレベル1でも、甲洋と操ではステータスの初期値にかなりの開きがある。 操の場合、下手をすればそのへんのモブ男性の方がよっぽど力があるかもしれない。甲洋は初期装備として『どうのつるぎ』を装備しているが、今の彼の腕力では棒きれがせいぜいだった。 その後、道具屋へ行くと残りの所持金を全て薬草に費やした。操はここでも「アップルグミの方が美味しいのに」と不満を漏らしていたが、このお話はドラクエパロなのでグミでは回復しないのである。 「いいから行くよ」 なんやかんやで時刻はもう昼時をわずかに過ぎていた。 最初の目的地である『海神村』には、徒歩でおよそ半日はかかる計算だ。途中で魔物とエンカウントすることを考えれば、到着する頃には夜になっているだろう。 魔王の城がどこにあるかも定かでない今、まずは各地を巡って地道に情報を集めていく必要があった。 町の出入り口には仲のいい友人たちや、よく世話になっていた近所の人たちが見送りに来てくれていた。 声援に手を振って答えながら、その中に両親の姿を探すが見当たらない。 すっかりセレブ気分で、今ごろ酒でも飲んでダジャレのひとつでも言っているんだろうなぁ……と少し虚しい気持ちになっていると、見送りの中に羽佐間容子の姿があることに気がついた。 「あ、お母さんだ!」 「ふたりとも、ちょっと待ってちょうだい」 容子はそう言ってふたりのもとへ駆け寄ってくると、甲洋と操にそれぞれ綺麗な風呂敷包みを手渡した。 「羽佐間さん、これは?」 「お弁当よ。急いで作ったから大したものじゃないけれど……」 「お母さんのお弁当!? やったー! 嬉しい! ありがとう!」 「羽佐間さん……ありがとう」 風呂敷包みはズッシリと重く、そしてまだあたたかい。 両親が見送りに来ていないことに一抹の寂しさを覚えていた甲洋だったが、そのぬくもりに笑みがこぼれた。 「いってらっしゃい。ふたりとも、必ず無事に帰ってくるのよ」 町の人たちと容子の優しい瞳に見送られ、甲洋と操の旅がはじまった。 * 竜宮の町を出てしばらく歩くと、いよいよ腹を減らした操が騒ぎだした。 仕方なく、甲洋は小高い丘の大木の根元を休憩地として座り込むと、操と一緒に容子が持たせてくれた弁当を食べることにした。 風呂敷包みの中には大きなおむすびがそれぞれ3つも入っており、とても一度では食べきれそうにないボリュームだった。が、操はニコニコ顔でそれらを全てぺろりと平らげ、水筒の中身まで飲み干す勢いだった。 (よく食うなこいつ) いつ魔物が襲ってくるか分からない状況で、緊張感もクソもない呑気な食べっぷりには呆れてしまう。同時に、食べざかりの遊び人の面倒を見ながら旅をしていくことに、改めて不安を覚えた。 「ごちそうさまでした! お腹いっぱい。おやすみ」 「昼寝してる暇はないよ、来主」 操は道具袋を枕にして、完全に昼寝の体勢に入っていた。 巨大おむすびをひとつ平らげただけで満腹の甲洋は、憂い顔で溜息をつく。 (先が思いやられるよ……) とはいえ食後すぐに動くのもよくないかと、少しだけ妥協して景色を眺める。 どこまでも続く広大な草原には風と共に雲の影がゆるゆると流れ、この世界が魔王に支配されようとしているなんて信じられないくらい、のどかな時間が過ぎていく。 しかし、そんなひとときは長くは続かなかった。 スライムがあらわれた! 「!?」 草むらから3体のスライムが、突如として姿を現したのだ。 青い半透明の身体をぷるぷるとさせながら、こちらの様子をうかがっている。 「来主! スライムだ!」 「むにゃ~? なに? もう食べられないよ~」 操はごろ寝したまま、赤ん坊のように両目をこすっている。 ダメだこいつと早々に見切りをつけ、甲洋は立ち上がると剣を構えた。 こうようの こうげき! スライムAに 12のダメージ! スライムAを たおした! (よし! いける!) 1匹目のスライムを倒したことにより活路を見出した甲洋だったが、一瞬の隙をついて残りのスライムが同時に攻撃をしかけてきた。 スライムBの こうげき! こうようは 7のダメージをうけた! スライムCの こうげき! こうようは 8のダメージをうけた! 「くっ……!」 地味に痛い。腹部と頭部にスライムアタックを食らった甲洋は、その衝撃で地面に尻もちをついてしまう。さすがはレベル1だ。まともな仲間さえ揃っていれば、初陣とはいえこれほど苦戦することもなかったろうに。 スライムBCはそんな甲洋を嘲笑うかのように、楽しげにビヨンビヨンと跳ねて様子をうかがっている。 「来主! 袋の中から薬草を……!」 どうにか膝をついて体勢を整えた甲洋が、寝転がっている操に視線を走らせた──が、そこに操の姿はなかった。 彼は今いる場所から少し離れた場所にしゃがみ込み、買ったばかりの『ひのきのぼう』の先っちょで 「つんつん、つんつん」 と、う◯ちを突いて遊んでいた……。 「お前はアラレちゃんか!!」 操は職業:遊び人の本領を発揮している。ずっと気を使って『君』呼びだったが、バカバカしくなったので『お前』呼びを解禁した。すっかりキレた甲洋は、こみ上げる怒りをスライム2匹にぶつけるべく斬りかかっていく。 こうようの こうげき! スライムBに 100のダメージ! スライムBを たおした! スライムCの こうげき! こうようは すばやく みをかわした! こうようの こうげき! スライムCに 150のダメージ! スライムCを たおした! スライムたちを やっつけた! 現在のステータス値ではありえないダメージ数を叩き出し、甲洋は無事にスライムの群れを倒すことに成功した。しかもレベルが2に上がり、スライムたちがいた場所にチャリーンと6ゴールドが落ちてきた。 「なんとかなったか……」 ふっと息をついた甲洋だったが、安堵したのも束の間「うわー!」という悲鳴が聞こえて息をのむ。 素早く視線を走らせれば、う◯ちを突いて遊んでいたはずの操が、他のスライムの群れに襲われている姿が目に飛び込んできた。 「やだやだ! なにこれ!? 助けて甲洋ー!」 「来主!!」 スライムの群れは先ほどよりも数が多く、AからFまで6匹もいた。あれに一斉にタックルでもキメられれば、一発で教会行きになってしまう。まだ旅立って間もないというのに、棺桶を引きずって町に引き返すのは御免である。 慌てて駆け寄ろうとした甲洋の前に、6匹のうち2匹のスライムがビヨンビヨンと飛び跳ねながら立ちふさがった。 「どけ!」 即座に斬りかかったが、俊敏な動作で避けられてしまう。 そうしている間にも、残りのスライムが操に襲いかかっている。しかし、その攻撃方法はさきほどのスライムたちとは違っているようだった。 「やだやだー! 助けてぇ!」 「く、来主!?」 スライムたちはぐにゃりと蕩けたようにその形を変え、操の身体に張りついていた。みるみるうちにピエロの衣装が溶かされて、あどけない少年の肌が露わになっていく。 「!?」 三角帽がポロリと地面に落ちている。もがくことに夢中の操は、ひのきのぼうすら手放していた。衣装はかろうじて腕や両足首に絡みつき、そして身体の中心の大事な場所だけを残して、あとは無残に溶かされている。 (ピンクだ……) と、呆然と立ち尽くしながら甲洋は思った。 ぱふぱふ不可能な絶壁の胸。だがそのいただきにある2つの点が、ツンと尖って桃色に染まっている。男にしては少しばかり乳輪が大きめで、正視しがたいほどに扇情的だ。胸が薄いからこそ、主張が激しい。 甲洋はぽっかりと口を開け、その光景から目が離せなくなっていた。 「やっ、ぁ、やだぁ……ッ、きもちわる、あっ、うぅ……っ!」 ゲル状になったスライムたちが、白い皮膚の表面を蠢いている。タコのような形状で幾本もの触手を伸ばし、太もも、腰、首筋、そして胸の上を這っていた。 操は必死でそれを引き剥がそうとしているが、恐怖とそのおぞましい感覚にひどく身を震わせ、大きな瞳から涙をぽろぽろと零している。 「ヒッ、ぁ、ダメ! おっぱい、ぼくのおっぱい、いじめないでぇ……!」 胸の上で、半透明のスライムが乳首をそれぞれきゅうっと引っ張って伸ばしているのが分かる。操は腰をビクビクと跳ねさせ、ついに地面に尻をついてしまった。内ももに巻き付いているスライムが、両足をMの字に開かせる。 そしてついに、身体の中心へとその触手を伸ばしていった。かろうじてまとわりついている布がどんどん溶かされ、まともに毛も生え揃っていない恥部を今にも露わにしようとしていた。 「そこやだ、やだぁ! 助けて甲洋、助けてぇ……っ」 「ッ!!」 そこでようやく、甲洋は我に返った。 (み、見入ってる場合か!!) 甲洋はデレ~ッとした顔で操の痴態を見つめていた2匹のスライムを、一瞬で撃破した。そして操に駆け寄ると、全身に張りついているスライムたちを一心不乱に毟り取る。バラバラに千切れたスライムは動かなくなったが、徐々に寄り集まって元のツルリとした形状に戻り、容赦なく甲洋に襲いかかってきた。 それを斬ったり蹴ったりボコボコにしてやると、またレベルが上がった。(ついでに12ゴールド手に入れた) 「大丈夫か!? 来主!」 操はすっかり身体を丸めて泣いていた。すぐそばで膝をついた甲洋の顔を潤んだ瞳で見上げ、思い切り首に抱きついてくる。 「怖かったよぉ! おっぱい千切れるかと思った!」 胸にすがりついてピーピー泣いている操の身体に、甲洋は脱いだマントを巻きつけてやった。そしてその背中をポンポンと叩き、深く安堵の息をつく。 だいぶショックは受けたようだが、怪我がないようで安心した。が、どちらかといえば甲洋の方が身動きが取れない状態になっていた。 「来主、悪いけど……ちょっと離れて」 「ぐすんっ……ん、なんでぇ?」 「あの、ほんとに今ちょっと……愚息が……」 「?」 首を傾げる操の両肩を軽く掴んで引き剥がした。そして地面にドカリと尻を落ち着けると、両膝を緩く立てて猫背になる。膝頭にそれぞれ両肘を置き、深く溜息を漏らした。 「はぁ~……」 「甲洋?」 身体に紫色のマントを巻きつけた操が、心配そうに目を瞬かせていた。 彼には分かるまい。旅の扉をくぐる前に、新しい性癖の扉を開けてしまった甲洋の気持ちなど。股間の息子はそりゃあもう大変なことになっていて、しばらくは動けそうになかった。 (嘘だろ……来主は男だぞ……) ボンッキュッボンッなバニーちゃん♡ならいざ知らず。 スライムに陵辱される姿に興奮してしまいましたなんて、甲洋を信じて預けてくれた羽佐間容子に、なんと詫びればいいのだろうか。 それもこれも、こいつのピンクなちっぱいが悪い。胸では不可能でも、太ももならぱふぱふ可能と思えるほど、柔らかそうな尻から腿にかけてのラインが悪い……。 自らの節操なしなドスケベを棚にあげ、甲洋は横目で操を睨んだ。すると操はまだほんの少しだけ涙を浮かべた瞳で、にっこりと笑みを浮かべる。 「ッ!」 その笑顔を見て、甲洋はぐっと喉を詰まらせた。 可愛い顔をしているとは思っていた。思ってはいたのだが── (こんなに、可愛かったっけ……) 胸がドキドキしてきて、顔に血液が集中していくのを感じた。 おかしい。こんなのはおかしい。あんな光景を目の当たりにしたからって、急に意識してしまうなんてどうかしている。 けれど胸の高鳴りは増すばかりで、気のせいでは片付けられないほど大きくなっていた。 「甲洋!」 落ち着かなければと脳内で念仏を唱えはじめる甲洋の腕に、操がぎゅっと抱きついてくる。 「ッ、ちょ……な、なに」 押しつけられる真っ平らな胸ですら、今はそうやすやすと触れてはいけないもののような気がしている。上ずりそうになる声を抑え、あえてそっけなく返す甲洋の肩に、操は猫のような動作で頬を擦り寄せた。 「助けてくれてありがとう。カッコよかったよ、すごく」 「そ、そう」 「これからも守ってね、ぼくのこと」 いやお前も戦えよ──とは、言えなかった。 多分、ついさっきまでなら平然と言えたはずなのだ。面倒を見るつもりで諦めてはいたが、別に甘やかそうなんてこれっぽっちも思っていなかった。 さっさとレベル上げをして、賢者に転職させるまでの辛抱なのだと。 だけどすっかり顔を赤らめている甲洋は、ついつい素直に「うん」と言って頷いていた。 スライムを倒してレベルが上がったのは甲洋だけではない。 戦いに参加していなくても、経験値は同じパーティにいる操にもしっかりと振り分けられていた。つまり甲洋が敵を倒せば、そのぶん操もレベルが上がるのだ。 (しょうがないよな、また変な襲われ方しても困るし) どこか言い訳めいたことを心の中で呟きながら、甲洋は潤んだ操の瞳にふっと小さく微笑み返した。 二十歳の誕生日と、生きて戻れるかすら分からない旅立ちと。 なんて日だと思っていた気持ちが、ほんのちょっぴり薄らいでいる。 少なくとも今まで生きてきたなかでは、最も悪くない誕生日になったかもしれない。不思議と、そんな気さえしはじめていた。 甲洋と操の旅は、まだ始まったばかりだ。 その後、宿屋に泊まった翌朝には必ず「ゆうべはお楽しみでしたね」などと言われてしまうまでにふたりの関係は発展していくのだが、そんなラブラブでぱふぱふな未来が訪れるのは、まだほんの少しだけ先のことである。 ←戻る ・ Wavebox👏
*元ネタを知らなくてもふわっと読み流せる内容だと思います(多分)
*甲洋くんのスケベ度が酷いです。
*スライム×操あり。
それは甲洋が二十歳になる誕生日のことであった。
「起きなさい、起きなさい私の可愛い甲洋や」
早朝、母・諒子に起こされた甲洋は何事かとベッドから飛び起きた。
母がわざわざ起こしにくるなんて珍しい。しかも普段は冷ややかな態度で接してくるはずの彼女が、今日はニコニコ顔の猫なで声で「可愛い甲洋」なんてありえないことを口走っている。
「……おはよう、母さん」
「おはよう甲洋。今日はとっても大切な日よ。早く王様のところへ行って、旅立ちの報告をしていらっしゃい」
「おお! 起きたか甲洋! 調子はどうだ?」
そこに母と同じく上機嫌の父・正浩が部屋に入ってきた。
「父さん、おはよう」
「王様を待たせては失礼だぞ? 今日という日のために、息子のお前を手塩にかけて育ててきたんだからな!」
父と母は楽しげにアハハウフフと笑い合っている。自分に関することで、両親がこれほどの笑顔を見せるのは初めてのことだった。
(分かりやすいな、ふたりとも……)
思わず力ない笑みがこぼれる。
彼らの言う通り、二十歳の誕生日を迎えた今日という日は、甲洋にとって旅立ちの日でもあった。
現在、世界は数百年も昔に封印されたはずの魔王・マレスペロの復活により、邪悪な闇に閉ざされようとしていた。
そしてここ『竜宮の町』は、かつて魔王を封印したとされる伝説の勇者が興したとして知られる町であった。再び魔王が復活した今、竜宮の町では素質を見いだされた子供は成人を迎えたその日に、戦いのための旅に出るというしきりたりになっている。
再び魔王を封印して勇者となったものには、王家より莫大な金銀財宝が与えられる確約がなされていた。父と母はそのためだけに、拾い子である甲洋を手元に置き続けてきたのだ。
塩対応を受けた記憶はあっても、手塩にかけられた覚えはない──が、拾ってもらったという恩はある。なにより、子供の頃から早く町を出たいと思っていた甲洋に、旅立つことへの異存はなかった。
「さぁさぁ! 早く旅支度をなさい!」
パンパンと手を叩く母に急かされ、甲洋は慌ただしく旅の準備をさせられた。
ヘッドバンドにグローブ、アンダーシャツとパンツの上から丈の長いオーバーシャツを着せられ、ブーツを履いて最後に紫のマントを羽織らされると、いかにも『ザ・勇者』なコスプレの完成だ。
まんまやないか……と、黄色いピタピタのインナー上下に真っ青なオーバーシャツを見下ろしながら、甲洋は思った。
「お前は俺たちの自慢の息子だ。しっかりやってくるんだぞ!」
そう言って、父は調子よく高笑いしながら甲洋の背中をバンバン叩いた。
*
急かされるままに城へ行き、王様との謁見を済ませた甲洋の手には、小さな布袋が握られていた。中には50ゴールドが入っている。なかなかしょっぺぇ……いや、貴重な旅の軍資金である。
道中魔物を倒しながら地道に稼いでいこうと考えながら、甲洋は町外れにある酒場へと足を向けた。
そこは各地から旅人が集い、仲間を得るための場所になっている。
ここで戦士や魔法使いなどといった職業につく人材を探し、強力な旅の仲間として同行を要請するのだ。
さっそく登録所になっている受付カウンターに向かうと、そこでは受付嬢の美魔女こと羽佐間容子が優しく微笑みかけてくれた。
「いらっしゃい、甲洋くん」
「こんにちは、羽佐間さん」
「その格好……そう、ついに旅に出るのね」
甲洋のザ・勇者なコスプレを見た容子は、心配そうな顔をした。けれどすぐに表情を引き締めると、
「さぁ、これが現在登録されている仲間のリストよ。きっとあなたの旅を助けてくれるわ」
と言って、カウンターの上に分厚い帳面を開いて見せた。
覗き込めば、そこにはズラリと同行が可能な仲間の一覧が表示されている──はずだったのだが。
「……打ち消し線だらけ?」
いるにはいるが、全員の名前の上に横線が引かれていた。
「ごめんなさいね……いまちょうど人手不足なのよ……でもほら、ここにひとり──」
申し訳なさそうに眉をさげた容子が指差した場所に、一人だけ横線が引かれていない者の名前があった。助かった、と思った甲洋だったが
「来主操……遊び人、か」
職業『遊び人』という記載を見て、ガックリと肩を落とした。
遊び人といえば、数ある中でもっとも使い物にならない職業である。戦闘中の指示には従わず、変顔をしたり踊りだしたりという問題行動ばかりをとる、とんだごく潰しなのだ。遊び人と言い切っている時点で職業ですらないはずなのに、なぜこうも堂々と記載されているのだろうか。
攻守のバランスを考え、無難に戦士、魔法使い、僧侶というパーティ構成を考えていたのだが、さっそく壁にぶち当たってしまった。
「ま、待って甲洋くん。遊び人と一口に言っても、言うことをきかないのは最初のうちだけなのよ。根気よくレベル20まで育てれば、賢者に転職することが可能になるの」
「はぁ……」
「それにね、この子はやればできる子なの。やらないだけで、やろうと思えばできるとってもいい子なのよ! そうよ、やれるわ……やれるはずだわ……!」
必死のフォローが痛々しかった。最後の方は甲洋にというより、自分に言い聞かせているかのようだったのは気のせいだろうか。
見たところ、遊び人として登録されているのはこの来主操だけのようだった。
おそらく他の旅人たちも、職業だけを見て判断したのだろう。強力な回復・補助・攻撃魔法まで、幅広く網羅する賢者という将来性には惹かれるが、そこまでの道のりがいささか遠い。
同じくレベル1でしかない初心者の甲洋にとって、遊び人の面倒を見ながらの旅は極めてハイリスクである。
だがしかし──。
どうやってこの状況を回避しようかと思案していた甲洋の脳裏に、ふとある考えが浮かんだ。
(来主操……みさお……女の子、かな?)
名前から察するに、おそらく女子。
そして遊び人の女子といえば、金髪ボンッキュッボン♡のハイレグ網タイツなバニーちゃんコス♡と、ファミコン版からSwitch配信版の昨今にいたるまで相場が決まっている。
「……なるほど」
可愛いバニーちゃん♡とのふたり旅。苦難の道のりの中、ちょっとしたロマンスだとか、ぱふぱふイベントだとか、そういったものがあるかもしれない。
いや、決してそんな浮ついた思考で魔王を倒そうだなんて、ナメたことを考えているわけではない。断じてないのだが、旅にTo LOVEるは付き物だから仕方がないと、甲洋は物事を柔軟に考えることにした。何事も頭でっかちはよろしくない。(性格:むっつりスケベ)
「分かりました。じゃあ、この子でお願いします」
「あらそう? よかった。甲洋くんになら安心して任せられるもの」
果たしてそうだろうか……。
「ぼくっ子とおれっ子で選べるけれど、どちらがいいかしら?」
「え? あ、あ~、そういう?」
男言葉属性とは予想外だった。が、そういう趣向もいいかもしれない。
しかし『おれ』となると女傑のイメージが強いような気がする。豪快で男勝りな女性も魅力的だが、どちらかといえば守ってやりたくなるようなタイプが好みだったので、とりあえず『ぼく』を選んでみた。
容子は頷き、さっそくカウンター裏の控室に向かって「操ー! ご指名よー!」と、声をかけた。
「はぁい!」
その元気のいい返事に、女の子にしては少し低め……いや、ハスキーボイスかな? イイネ! と思いつつ、胸をドキドキと高鳴らせた。
しかし控室の扉から飛び出してきて、目の前まで軽やかにやってきた人物を見るやいなや、甲洋の頭に思い描かれていた『ムフフなぱふぱふ旅』への希望は打ち砕かれた。
「ぼくの名前は来主操! よろしくね!」
ボンッキュッボンッでぼくっ子属性のバニーちゃん♡は、そこにはいなかった。目の前にいる人物はどこからどう見ても『ピエロ』の格好をしていて、ハスキーボイスどころかガッツリCV.木村良平の少年だったのだ。
「えぇ……?」
甲洋は戸惑った。
黄色のポンポンがついた三角帽と、白の襞襟がついているツナギのような道化衣装は、ピンクと紫のストライプ柄。かろうじて白塗りメイクはしていないものの、アホみたいな格好であることに代わりはない。まさしくピエロ。バニーちゃん♡とは掠りもしていなかった。
とはいえ顔は可愛い。が、そのぱふぱふ不可能な絶壁の胸を見て、甲洋のテンションは今日イチで盛り下がっていた。
「……チェンジで」
「不可能よ」
バッサリと切り捨てられた。
容子はカウンターから抜け出し、操の隣に立つとその肩を抱いて微笑みを浮かべる。
「操は箱入り息子なの。外の世界のことはなにも知らないから、いろいろと教えてあげてね、甲洋くん」
「ねぇおかーさぁん。クーも一緒に連れてっていい?」
「駄目よ。クーは老猫なんだから。ロイヤルカナン(健康的なカリカリご飯)だって、旅の途中じゃ手に入らないかもしれないでしょう?」
「クーは元気だから大丈夫だよ。草だって食べるもん」
「それだけじゃ栄養が偏ってしまうわ」
「ちぇー」
あ、親子なんだ……と枯れたススキのようなメンタルになっている甲洋は思ったが、操は旅立つことそのものには前向き──猫を連れてこられるのは困るが──な姿勢を見せている。
まったくやる気がないよりはマシかもしれないと、無理やりプラス思考に持っていかないことには、とてもやっていけそうになかった。
むしろやる気がなくなったのは甲洋の方かもしれないが。
*
「あっ、見て! クレープ屋さんがある! 買っていこうよ!」
晴れて(?)仲間をゲットした甲洋は、王様からもらった資金で旅の道具を揃えに向かっていた。しかしその途中、操がグイグイと腕を引っ張ってきて道端のワゴンショップを指差し、しつこくおねだり攻撃をしてくる。
「ダメだ。無駄遣いはできない」
「ねぇほら! タピオカミルクティーもある! 買ってぇ~買ってよぉ~」
「だからダメなんだって」
「なんでぇ!? ぼくお腹すいた! 喉も乾いた!」
「この50ゴールドで、君の装備と薬草を買うだけで精一杯だ」
「ぼく貧乏は嫌いだな……」
お前ふざけんなよと心が荒んだが、容子から頼まれている大事な息子さんなのでぐっと堪えた。操はその後も駄菓子屋に行こうだのCoCo壱でカレーを食べようだのとワガママを言い続けていたが、甲洋はどうにかスルーした。
そして武器屋で『ひのきのぼう』(安い)を買って、操に装備させた。
「なにこの棒きれ? ルガーランス買ってよぉ」
「お前……じゃなくて、君の今のステータスじゃ、そのくらいしか装備することは不可能だ。まともな武器が欲しいなら、目的地へつくまでにレベルを上げればいい。魔物を倒せばお金にもなる」
「えぇ~? なにそれだるーい」
同じレベル1でも、甲洋と操ではステータスの初期値にかなりの開きがある。
操の場合、下手をすればそのへんのモブ男性の方がよっぽど力があるかもしれない。甲洋は初期装備として『どうのつるぎ』を装備しているが、今の彼の腕力では棒きれがせいぜいだった。
その後、道具屋へ行くと残りの所持金を全て薬草に費やした。操はここでも「アップルグミの方が美味しいのに」と不満を漏らしていたが、このお話はドラクエパロなのでグミでは回復しないのである。
「いいから行くよ」
なんやかんやで時刻はもう昼時をわずかに過ぎていた。
最初の目的地である『海神村』には、徒歩でおよそ半日はかかる計算だ。途中で魔物とエンカウントすることを考えれば、到着する頃には夜になっているだろう。
魔王の城がどこにあるかも定かでない今、まずは各地を巡って地道に情報を集めていく必要があった。
町の出入り口には仲のいい友人たちや、よく世話になっていた近所の人たちが見送りに来てくれていた。
声援に手を振って答えながら、その中に両親の姿を探すが見当たらない。
すっかりセレブ気分で、今ごろ酒でも飲んでダジャレのひとつでも言っているんだろうなぁ……と少し虚しい気持ちになっていると、見送りの中に羽佐間容子の姿があることに気がついた。
「あ、お母さんだ!」
「ふたりとも、ちょっと待ってちょうだい」
容子はそう言ってふたりのもとへ駆け寄ってくると、甲洋と操にそれぞれ綺麗な風呂敷包みを手渡した。
「羽佐間さん、これは?」
「お弁当よ。急いで作ったから大したものじゃないけれど……」
「お母さんのお弁当!? やったー! 嬉しい! ありがとう!」
「羽佐間さん……ありがとう」
風呂敷包みはズッシリと重く、そしてまだあたたかい。
両親が見送りに来ていないことに一抹の寂しさを覚えていた甲洋だったが、そのぬくもりに笑みがこぼれた。
「いってらっしゃい。ふたりとも、必ず無事に帰ってくるのよ」
町の人たちと容子の優しい瞳に見送られ、甲洋と操の旅がはじまった。
*
竜宮の町を出てしばらく歩くと、いよいよ腹を減らした操が騒ぎだした。
仕方なく、甲洋は小高い丘の大木の根元を休憩地として座り込むと、操と一緒に容子が持たせてくれた弁当を食べることにした。
風呂敷包みの中には大きなおむすびがそれぞれ3つも入っており、とても一度では食べきれそうにないボリュームだった。が、操はニコニコ顔でそれらを全てぺろりと平らげ、水筒の中身まで飲み干す勢いだった。
(よく食うなこいつ)
いつ魔物が襲ってくるか分からない状況で、緊張感もクソもない呑気な食べっぷりには呆れてしまう。同時に、食べざかりの遊び人の面倒を見ながら旅をしていくことに、改めて不安を覚えた。
「ごちそうさまでした! お腹いっぱい。おやすみ」
「昼寝してる暇はないよ、来主」
操は道具袋を枕にして、完全に昼寝の体勢に入っていた。
巨大おむすびをひとつ平らげただけで満腹の甲洋は、憂い顔で溜息をつく。
(先が思いやられるよ……)
とはいえ食後すぐに動くのもよくないかと、少しだけ妥協して景色を眺める。
どこまでも続く広大な草原には風と共に雲の影がゆるゆると流れ、この世界が魔王に支配されようとしているなんて信じられないくらい、のどかな時間が過ぎていく。
しかし、そんなひとときは長くは続かなかった。
スライムがあらわれた!
「!?」
草むらから3体のスライムが、突如として姿を現したのだ。
青い半透明の身体をぷるぷるとさせながら、こちらの様子をうかがっている。
「来主! スライムだ!」
「むにゃ~? なに? もう食べられないよ~」
操はごろ寝したまま、赤ん坊のように両目をこすっている。
ダメだこいつと早々に見切りをつけ、甲洋は立ち上がると剣を構えた。
こうようの こうげき!
スライムAに 12のダメージ!
スライムAを たおした!
(よし! いける!)
1匹目のスライムを倒したことにより活路を見出した甲洋だったが、一瞬の隙をついて残りのスライムが同時に攻撃をしかけてきた。
スライムBの こうげき!
こうようは 7のダメージをうけた!
スライムCの こうげき!
こうようは 8のダメージをうけた!
「くっ……!」
地味に痛い。腹部と頭部にスライムアタックを食らった甲洋は、その衝撃で地面に尻もちをついてしまう。さすがはレベル1だ。まともな仲間さえ揃っていれば、初陣とはいえこれほど苦戦することもなかったろうに。
スライムBCはそんな甲洋を嘲笑うかのように、楽しげにビヨンビヨンと跳ねて様子をうかがっている。
「来主! 袋の中から薬草を……!」
どうにか膝をついて体勢を整えた甲洋が、寝転がっている操に視線を走らせた──が、そこに操の姿はなかった。
彼は今いる場所から少し離れた場所にしゃがみ込み、買ったばかりの『ひのきのぼう』の先っちょで
「つんつん、つんつん」
と、う◯ちを突いて遊んでいた……。
「お前はアラレちゃんか!!」
操は職業:遊び人の本領を発揮している。ずっと気を使って『君』呼びだったが、バカバカしくなったので『お前』呼びを解禁した。すっかりキレた甲洋は、こみ上げる怒りをスライム2匹にぶつけるべく斬りかかっていく。
こうようの こうげき!
スライムBに 100のダメージ!
スライムBを たおした!
スライムCの こうげき!
こうようは すばやく みをかわした!
こうようの こうげき!
スライムCに 150のダメージ!
スライムCを たおした!
スライムたちを やっつけた!
現在のステータス値ではありえないダメージ数を叩き出し、甲洋は無事にスライムの群れを倒すことに成功した。しかもレベルが2に上がり、スライムたちがいた場所にチャリーンと6ゴールドが落ちてきた。
「なんとかなったか……」
ふっと息をついた甲洋だったが、安堵したのも束の間「うわー!」という悲鳴が聞こえて息をのむ。
素早く視線を走らせれば、う◯ちを突いて遊んでいたはずの操が、他のスライムの群れに襲われている姿が目に飛び込んできた。
「やだやだ! なにこれ!? 助けて甲洋ー!」
「来主!!」
スライムの群れは先ほどよりも数が多く、AからFまで6匹もいた。あれに一斉にタックルでもキメられれば、一発で教会行きになってしまう。まだ旅立って間もないというのに、棺桶を引きずって町に引き返すのは御免である。
慌てて駆け寄ろうとした甲洋の前に、6匹のうち2匹のスライムがビヨンビヨンと飛び跳ねながら立ちふさがった。
「どけ!」
即座に斬りかかったが、俊敏な動作で避けられてしまう。
そうしている間にも、残りのスライムが操に襲いかかっている。しかし、その攻撃方法はさきほどのスライムたちとは違っているようだった。
「やだやだー! 助けてぇ!」
「く、来主!?」
スライムたちはぐにゃりと蕩けたようにその形を変え、操の身体に張りついていた。みるみるうちにピエロの衣装が溶かされて、あどけない少年の肌が露わになっていく。
「!?」
三角帽がポロリと地面に落ちている。もがくことに夢中の操は、ひのきのぼうすら手放していた。衣装はかろうじて腕や両足首に絡みつき、そして身体の中心の大事な場所だけを残して、あとは無残に溶かされている。
(ピンクだ……)
と、呆然と立ち尽くしながら甲洋は思った。
ぱふぱふ不可能な絶壁の胸。だがそのいただきにある2つの点が、ツンと尖って桃色に染まっている。男にしては少しばかり乳輪が大きめで、正視しがたいほどに扇情的だ。胸が薄いからこそ、主張が激しい。
甲洋はぽっかりと口を開け、その光景から目が離せなくなっていた。
「やっ、ぁ、やだぁ……ッ、きもちわる、あっ、うぅ……っ!」
ゲル状になったスライムたちが、白い皮膚の表面を蠢いている。タコのような形状で幾本もの触手を伸ばし、太もも、腰、首筋、そして胸の上を這っていた。
操は必死でそれを引き剥がそうとしているが、恐怖とそのおぞましい感覚にひどく身を震わせ、大きな瞳から涙をぽろぽろと零している。
「ヒッ、ぁ、ダメ! おっぱい、ぼくのおっぱい、いじめないでぇ……!」
胸の上で、半透明のスライムが乳首をそれぞれきゅうっと引っ張って伸ばしているのが分かる。操は腰をビクビクと跳ねさせ、ついに地面に尻をついてしまった。内ももに巻き付いているスライムが、両足をMの字に開かせる。
そしてついに、身体の中心へとその触手を伸ばしていった。かろうじてまとわりついている布がどんどん溶かされ、まともに毛も生え揃っていない恥部を今にも露わにしようとしていた。
「そこやだ、やだぁ! 助けて甲洋、助けてぇ……っ」
「ッ!!」
そこでようやく、甲洋は我に返った。
(み、見入ってる場合か!!)
甲洋はデレ~ッとした顔で操の痴態を見つめていた2匹のスライムを、一瞬で撃破した。そして操に駆け寄ると、全身に張りついているスライムたちを一心不乱に毟り取る。バラバラに千切れたスライムは動かなくなったが、徐々に寄り集まって元のツルリとした形状に戻り、容赦なく甲洋に襲いかかってきた。
それを斬ったり蹴ったりボコボコにしてやると、またレベルが上がった。(ついでに12ゴールド手に入れた)
「大丈夫か!? 来主!」
操はすっかり身体を丸めて泣いていた。すぐそばで膝をついた甲洋の顔を潤んだ瞳で見上げ、思い切り首に抱きついてくる。
「怖かったよぉ! おっぱい千切れるかと思った!」
胸にすがりついてピーピー泣いている操の身体に、甲洋は脱いだマントを巻きつけてやった。そしてその背中をポンポンと叩き、深く安堵の息をつく。
だいぶショックは受けたようだが、怪我がないようで安心した。が、どちらかといえば甲洋の方が身動きが取れない状態になっていた。
「来主、悪いけど……ちょっと離れて」
「ぐすんっ……ん、なんでぇ?」
「あの、ほんとに今ちょっと……愚息が……」
「?」
首を傾げる操の両肩を軽く掴んで引き剥がした。そして地面にドカリと尻を落ち着けると、両膝を緩く立てて猫背になる。膝頭にそれぞれ両肘を置き、深く溜息を漏らした。
「はぁ~……」
「甲洋?」
身体に紫色のマントを巻きつけた操が、心配そうに目を瞬かせていた。
彼には分かるまい。旅の扉をくぐる前に、新しい性癖の扉を開けてしまった甲洋の気持ちなど。股間の息子はそりゃあもう大変なことになっていて、しばらくは動けそうになかった。
(嘘だろ……来主は男だぞ……)
ボンッキュッボンッなバニーちゃん♡ならいざ知らず。
スライムに陵辱される姿に興奮してしまいましたなんて、甲洋を信じて預けてくれた羽佐間容子に、なんと詫びればいいのだろうか。
それもこれも、こいつのピンクなちっぱいが悪い。胸では不可能でも、太ももならぱふぱふ可能と思えるほど、柔らかそうな尻から腿にかけてのラインが悪い……。
自らの節操なしなドスケベを棚にあげ、甲洋は横目で操を睨んだ。すると操はまだほんの少しだけ涙を浮かべた瞳で、にっこりと笑みを浮かべる。
「ッ!」
その笑顔を見て、甲洋はぐっと喉を詰まらせた。
可愛い顔をしているとは思っていた。思ってはいたのだが──
(こんなに、可愛かったっけ……)
胸がドキドキしてきて、顔に血液が集中していくのを感じた。
おかしい。こんなのはおかしい。あんな光景を目の当たりにしたからって、急に意識してしまうなんてどうかしている。
けれど胸の高鳴りは増すばかりで、気のせいでは片付けられないほど大きくなっていた。
「甲洋!」
落ち着かなければと脳内で念仏を唱えはじめる甲洋の腕に、操がぎゅっと抱きついてくる。
「ッ、ちょ……な、なに」
押しつけられる真っ平らな胸ですら、今はそうやすやすと触れてはいけないもののような気がしている。上ずりそうになる声を抑え、あえてそっけなく返す甲洋の肩に、操は猫のような動作で頬を擦り寄せた。
「助けてくれてありがとう。カッコよかったよ、すごく」
「そ、そう」
「これからも守ってね、ぼくのこと」
いやお前も戦えよ──とは、言えなかった。
多分、ついさっきまでなら平然と言えたはずなのだ。面倒を見るつもりで諦めてはいたが、別に甘やかそうなんてこれっぽっちも思っていなかった。
さっさとレベル上げをして、賢者に転職させるまでの辛抱なのだと。
だけどすっかり顔を赤らめている甲洋は、ついつい素直に「うん」と言って頷いていた。
スライムを倒してレベルが上がったのは甲洋だけではない。
戦いに参加していなくても、経験値は同じパーティにいる操にもしっかりと振り分けられていた。つまり甲洋が敵を倒せば、そのぶん操もレベルが上がるのだ。
(しょうがないよな、また変な襲われ方しても困るし)
どこか言い訳めいたことを心の中で呟きながら、甲洋は潤んだ操の瞳にふっと小さく微笑み返した。
二十歳の誕生日と、生きて戻れるかすら分からない旅立ちと。
なんて日だと思っていた気持ちが、ほんのちょっぴり薄らいでいる。
少なくとも今まで生きてきたなかでは、最も悪くない誕生日になったかもしれない。不思議と、そんな気さえしはじめていた。
甲洋と操の旅は、まだ始まったばかりだ。
その後、宿屋に泊まった翌朝には必ず「ゆうべはお楽しみでしたね」などと言われてしまうまでにふたりの関係は発展していくのだが、そんなラブラブでぱふぱふな未来が訪れるのは、まだほんの少しだけ先のことである。
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