2025/06/16 Mon むかしむかし山奥の小さな村に、甲洋という名のイケメンで心優しい青年が住んでいました。 ある寒い冬の日、甲洋は町に薪を売りに出かけました。 するとその途中の田んぼで、一羽の鶴が罠にかかって苦しんでいるのを見つけました。 「可哀想に……いま助けてやるからな」 甲洋はそう言って罠を外すと、鶴を逃してやりました。 幸い鶴は弱っている様子もなく元気に羽ばたくと、甲洋の真上を嬉しそうに飛び回ったあと山の方へと消えていきました。 * その夜のことです。 甲洋が囲炉裏でお粥を炊いていると、トントンと戸を叩く音がしました。 「ごめんくださーい! 寒いよー! 助けてー!」 戸の向こうからは必死に助けを求める声がします。 こんな夜更けに、しかも外は日暮れから降りだした雪が積もりはじめています。 甲洋が急いで戸を開けると、そこには亜麻色の髪に粉雪を積もらせた少年の姿がありました。 粗末な着物を着た少年は、ぷるぷると震えながら甲洋を見上げます。 「どうしたの? こんな雪の中……とにかく入って」 どこの子かは分かりませんでしたが、凍えている少年をほうっておくことはできません。 甲洋は少年を家に入れると、囲炉裏のそばに座らせました。 「ありがと……こんなに雪がひどくなるなんて思ってなくて」 「このあたりになにか用事でも?」 「うん。人を訪ねて来たんだけど、雪はひどくなるしどんどん暗くなるしで、道が分からなくなっちゃって……ねぇ、よければ泊めてもらえない?」 少年が少し泣きそうな顔で言うので、甲洋は快く頷きました。 「もちろんいいよ。こんなボロ家でよければ、今夜は泊まっておいき」 「やったー! ありがとう! おれの名前は来主操! よろしくね!」 少年は大喜びで、その夜は一緒にお粥を食べると布団を並べて眠りにつきました。 * 次の日も、そしてその次の日も、雪は酷くなるばかりで止む気配がありませんでした。 戸を開けることもできず、操は甲洋の家からなかなか出ることができずにいました。 「雪、やまないね。おれずっといるけどいいの?」 少年はあぐらをかく甲洋の後ろに膝立ちになり、その肩を両手の拳でトントンと叩きながら言いました。 「いいよ別に。どうせ俺ひとりだし、遠慮しなくても。あ、そこもうちょっと右」 「右? こう? このへん?」 「そうそうそこ」 「ねぇ君、家族はいないの?」 「いないよ。昔はいたけど」 甲洋はもともと町の方で暮らしていましたが、両親との折り合いが悪く、数年前に家を出て以来この山奥の小さな村に一人で暮らしていました。 「ここは山だし、夜は暗いし、ひとりだと寂しいねぇ」 「そうだね」 「君が寂しくないように、おれがずっとここにいようか?」 操の提案に、甲洋は目を丸くしました。 「お前、家族は?」 「ひとりだよ。甲洋と同じ」 「……そっか」 甲洋は囲炉裏に灯る火を見つめました。ずっとここで独りで暮らしていくつもりでいましたが、彼にも身寄りがないのなら、それもいいかもしれません。 コツコツと木こりの真似事をしながらの生活には決してゆとりがあるわけではありませんが、一人くらい食い扶持が増えたところで、そのぶん働けばいいだけです。 「好きなだけいればいいよ」 そう言って笑うと、操は「うん」と嬉しそうな笑顔を浮かべました。 こうしてふたりは一緒に暮らすことになったのです。 * さて、ある日のことです。 操が機(はた)を織りたいので、糸を買ってほしいと頼んできました。 甲洋が望み通り町で糸を買って与えると、操は「織り終わるまで絶対に部屋を覗かないでね!」と言って、部屋で機を織りはじめました。すると── 「うわぁ!」 甲洋が夕飯のお粥を炊いていると、隣の部屋から操の悲鳴が聞こえてきました。 驚いて部屋の方を見ると、ピッタリと閉じられた障子の向こうで、わたわたと影がうごめいています。 「来主? どうかした?」 「なっ、なんてもない! なんでもないよ! あっ、あっ、うわ~っ!」 「明らかになんでもなくないんじゃない!? なにがあったの!?」 甲洋が慌てて障子を開けようとすると、操が焦ってそれを止めます。 「待って! 開けちゃダメだって! ああぁどうしよこれ! 大変だー!」 「そう言われてほっとけるわけないだろ! いい!? 開けるよ!」 「ダメだってば! ほんとにダメなの! いまはダメー!」 「もういいって! 鶴だろ!? どうせ鶴なんだろ!? 俺的には問題ないから!」 驚異のメタ発言をブチかましながら、甲洋は障子を思い切り開け放ちました。 するとそこには美しい鶴が──いません。 「……えっ」 そこにいたのは金ピカに光り輝くのっぺらぼうでした。 ヒト……のような形に見えなくもないそれは、機の前でわたわたと焦った様子で両腕をバタつかせながらこちらを見て……いるような気がしますが、なにぶんのっぺらぼうなので分かりません。そしてその生物の周りには、真っ白い羽根が大量にふわふわと漂っていました。 「なんで開けたの!? ダメって言ったじゃん!!」 「え、おま……来主、なのか?」 魑魅魍魎の類でしょうか。それとも新種のUMAでしょうか。耳からというよりは直接心の中に響いてくる声は確かに操のものでしたが、甲洋にはまるで状況が理解できません。ただ分かるのは、部屋中におびただしい量の白い羽根が舞っているということだけです。 「そうだよおれだよ……鶴じゃなくてごめん……」 「鶴、じゃないとかもうそういう次元を超えてるっていうか……」 「おれの正体は……まぁざっくり言うと宇宙人だよ」 「うちゅ、え、なんだって?」 金ピカののっぺらぼうは、心なしか悲しげに俯きました。 「君のために、これで綺麗な布を織ってプレゼントしようと思ったんだけど……うっかりクシャミしたら羽根が舞い上がっちゃって……」 「クシャミなんかするのかお前……? いや、多分なにを聞いても理解できないだろうから、そのへんはもういいよ。それより、鶴でもないのにこの大量の羽根はどこから?」 「これはね、君がこないだ助けた鶴からむしり取ってきたものだよ」 「えぇ……」 「あ、大丈夫! あの子はおれの友達なんだ! 君に恩返しがしたいけど、よくある昔話みたいに女の人に変身するなんて非現実的な力はないからって。だからおれが代わりに羽根をもらって、恩返しを引き受けたんだよ。羽根はすぐ生えるから平気って言ってたよ」 「非現実的な力……宇宙人がそれを言うのか……」 つまり、彼はあのとき助けた鶴の代理だったのです。 羽根は操がテンパって暴れたせいでずっとふわふわと空中を漂っていましたが、話しているうちに全て床に落ちていました。そして機の上には綺麗な布……ではなく、バレーボールくらいのサイズの毛玉が出来上がっていました。不器用か……。 「話は分かった。とりあえず、お前その姿はもう固定なの? ヒトの姿には戻れないの?」 「戻れるけど……」 「ピカピカしすぎてそろそろ目が痛いから、戻ってもらえるとありがたいかな」 神々しくて美しいとは思いますが、ビジュアル的には人間の操の方が好みです。この姿は流石に甲洋の守備範囲外でしたし、地味に上半身がムキムキでいい身体をしていることも気になります。これでは近々大人の関係に発展した際、抱くというより抱かれかねません。 操は全身からカッと光を放つと、元の姿に戻りました。よかった。目に優しくて可愛い姿が戻ってきた……と、甲洋は心底安堵しました。ですが操は浮かない顔をしています。 「甲洋……おれ、正体を見られたからにはもうここにはいられないよ……」 「なぜ?」 「なぜ? えーと……うーん、なぜだろう?」 「特に理由がないならいいんじゃない? ここにいても」 本家は正体を知られた鶴と老夫婦が別れるシーンで終わりますが、このお話はどこまでいってもパロディなのです。これといって問題もないことですし、お別れする意味はありません。 宇宙人がどうとか言っていた気がしますが、もともと甲洋は彼が鶴だろうがなんだろうが構わないと思っていたのです。それが地球外生命体であろうと、恋の障害にはなりえませんでした。 すると操は憑き物が落ちたように、ぱぁっと明るい表情を取り戻して言いました。 「そっか! じゃあ、おれずっとここにいるね!」 「もちろん。ずっとここにいな」 「やったー! 甲洋大好き!」 こうして操の代理恩返しは無事に成功(?)し、甲洋は可愛い宇宙人の少年とずっとふたりで、末永く幸せに暮らしたそうです。 ←戻る ・ Wavebox👏
ある寒い冬の日、甲洋は町に薪を売りに出かけました。
するとその途中の田んぼで、一羽の鶴が罠にかかって苦しんでいるのを見つけました。
「可哀想に……いま助けてやるからな」
甲洋はそう言って罠を外すと、鶴を逃してやりました。
幸い鶴は弱っている様子もなく元気に羽ばたくと、甲洋の真上を嬉しそうに飛び回ったあと山の方へと消えていきました。
*
その夜のことです。
甲洋が囲炉裏でお粥を炊いていると、トントンと戸を叩く音がしました。
「ごめんくださーい! 寒いよー! 助けてー!」
戸の向こうからは必死に助けを求める声がします。
こんな夜更けに、しかも外は日暮れから降りだした雪が積もりはじめています。
甲洋が急いで戸を開けると、そこには亜麻色の髪に粉雪を積もらせた少年の姿がありました。
粗末な着物を着た少年は、ぷるぷると震えながら甲洋を見上げます。
「どうしたの? こんな雪の中……とにかく入って」
どこの子かは分かりませんでしたが、凍えている少年をほうっておくことはできません。
甲洋は少年を家に入れると、囲炉裏のそばに座らせました。
「ありがと……こんなに雪がひどくなるなんて思ってなくて」
「このあたりになにか用事でも?」
「うん。人を訪ねて来たんだけど、雪はひどくなるしどんどん暗くなるしで、道が分からなくなっちゃって……ねぇ、よければ泊めてもらえない?」
少年が少し泣きそうな顔で言うので、甲洋は快く頷きました。
「もちろんいいよ。こんなボロ家でよければ、今夜は泊まっておいき」
「やったー! ありがとう! おれの名前は来主操! よろしくね!」
少年は大喜びで、その夜は一緒にお粥を食べると布団を並べて眠りにつきました。
*
次の日も、そしてその次の日も、雪は酷くなるばかりで止む気配がありませんでした。
戸を開けることもできず、操は甲洋の家からなかなか出ることができずにいました。
「雪、やまないね。おれずっといるけどいいの?」
少年はあぐらをかく甲洋の後ろに膝立ちになり、その肩を両手の拳でトントンと叩きながら言いました。
「いいよ別に。どうせ俺ひとりだし、遠慮しなくても。あ、そこもうちょっと右」
「右? こう? このへん?」
「そうそうそこ」
「ねぇ君、家族はいないの?」
「いないよ。昔はいたけど」
甲洋はもともと町の方で暮らしていましたが、両親との折り合いが悪く、数年前に家を出て以来この山奥の小さな村に一人で暮らしていました。
「ここは山だし、夜は暗いし、ひとりだと寂しいねぇ」
「そうだね」
「君が寂しくないように、おれがずっとここにいようか?」
操の提案に、甲洋は目を丸くしました。
「お前、家族は?」
「ひとりだよ。甲洋と同じ」
「……そっか」
甲洋は囲炉裏に灯る火を見つめました。ずっとここで独りで暮らしていくつもりでいましたが、彼にも身寄りがないのなら、それもいいかもしれません。
コツコツと木こりの真似事をしながらの生活には決してゆとりがあるわけではありませんが、一人くらい食い扶持が増えたところで、そのぶん働けばいいだけです。
「好きなだけいればいいよ」
そう言って笑うと、操は「うん」と嬉しそうな笑顔を浮かべました。
こうしてふたりは一緒に暮らすことになったのです。
*
さて、ある日のことです。
操が機(はた)を織りたいので、糸を買ってほしいと頼んできました。
甲洋が望み通り町で糸を買って与えると、操は「織り終わるまで絶対に部屋を覗かないでね!」と言って、部屋で機を織りはじめました。すると──
「うわぁ!」
甲洋が夕飯のお粥を炊いていると、隣の部屋から操の悲鳴が聞こえてきました。
驚いて部屋の方を見ると、ピッタリと閉じられた障子の向こうで、わたわたと影がうごめいています。
「来主? どうかした?」
「なっ、なんてもない! なんでもないよ! あっ、あっ、うわ~っ!」
「明らかになんでもなくないんじゃない!? なにがあったの!?」
甲洋が慌てて障子を開けようとすると、操が焦ってそれを止めます。
「待って! 開けちゃダメだって! ああぁどうしよこれ! 大変だー!」
「そう言われてほっとけるわけないだろ! いい!? 開けるよ!」
「ダメだってば! ほんとにダメなの! いまはダメー!」
「もういいって! 鶴だろ!? どうせ鶴なんだろ!? 俺的には問題ないから!」
驚異のメタ発言をブチかましながら、甲洋は障子を思い切り開け放ちました。
するとそこには美しい鶴が──いません。
「……えっ」
そこにいたのは金ピカに光り輝くのっぺらぼうでした。
ヒト……のような形に見えなくもないそれは、機の前でわたわたと焦った様子で両腕をバタつかせながらこちらを見て……いるような気がしますが、なにぶんのっぺらぼうなので分かりません。そしてその生物の周りには、真っ白い羽根が大量にふわふわと漂っていました。
「なんで開けたの!? ダメって言ったじゃん!!」
「え、おま……来主、なのか?」
魑魅魍魎の類でしょうか。それとも新種のUMAでしょうか。耳からというよりは直接心の中に響いてくる声は確かに操のものでしたが、甲洋にはまるで状況が理解できません。ただ分かるのは、部屋中におびただしい量の白い羽根が舞っているということだけです。
「そうだよおれだよ……鶴じゃなくてごめん……」
「鶴、じゃないとかもうそういう次元を超えてるっていうか……」
「おれの正体は……まぁざっくり言うと宇宙人だよ」
「うちゅ、え、なんだって?」
金ピカののっぺらぼうは、心なしか悲しげに俯きました。
「君のために、これで綺麗な布を織ってプレゼントしようと思ったんだけど……うっかりクシャミしたら羽根が舞い上がっちゃって……」
「クシャミなんかするのかお前……? いや、多分なにを聞いても理解できないだろうから、そのへんはもういいよ。それより、鶴でもないのにこの大量の羽根はどこから?」
「これはね、君がこないだ助けた鶴からむしり取ってきたものだよ」
「えぇ……」
「あ、大丈夫! あの子はおれの友達なんだ! 君に恩返しがしたいけど、よくある昔話みたいに女の人に変身するなんて非現実的な力はないからって。だからおれが代わりに羽根をもらって、恩返しを引き受けたんだよ。羽根はすぐ生えるから平気って言ってたよ」
「非現実的な力……宇宙人がそれを言うのか……」
つまり、彼はあのとき助けた鶴の代理だったのです。
羽根は操がテンパって暴れたせいでずっとふわふわと空中を漂っていましたが、話しているうちに全て床に落ちていました。そして機の上には綺麗な布……ではなく、バレーボールくらいのサイズの毛玉が出来上がっていました。不器用か……。
「話は分かった。とりあえず、お前その姿はもう固定なの? ヒトの姿には戻れないの?」
「戻れるけど……」
「ピカピカしすぎてそろそろ目が痛いから、戻ってもらえるとありがたいかな」
神々しくて美しいとは思いますが、ビジュアル的には人間の操の方が好みです。この姿は流石に甲洋の守備範囲外でしたし、地味に上半身がムキムキでいい身体をしていることも気になります。これでは近々大人の関係に発展した際、抱くというより抱かれかねません。
操は全身からカッと光を放つと、元の姿に戻りました。よかった。目に優しくて可愛い姿が戻ってきた……と、甲洋は心底安堵しました。ですが操は浮かない顔をしています。
「甲洋……おれ、正体を見られたからにはもうここにはいられないよ……」
「なぜ?」
「なぜ? えーと……うーん、なぜだろう?」
「特に理由がないならいいんじゃない? ここにいても」
本家は正体を知られた鶴と老夫婦が別れるシーンで終わりますが、このお話はどこまでいってもパロディなのです。これといって問題もないことですし、お別れする意味はありません。
宇宙人がどうとか言っていた気がしますが、もともと甲洋は彼が鶴だろうがなんだろうが構わないと思っていたのです。それが地球外生命体であろうと、恋の障害にはなりえませんでした。
すると操は憑き物が落ちたように、ぱぁっと明るい表情を取り戻して言いました。
「そっか! じゃあ、おれずっとここにいるね!」
「もちろん。ずっとここにいな」
「やったー! 甲洋大好き!」
こうして操の代理恩返しは無事に成功(?)し、甲洋は可愛い宇宙人の少年とずっとふたりで、末永く幸せに暮らしたそうです。
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