2025年3月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
少しづつ春ですねぇ~! そんなわけで
朋友モコ太さんがサイトのバナー写真を変えてくれました!
「カワイイ!!」とハイテンションになっている私めですが、モコ太さんに
いつも支えられてばかりで、何のお返しも出来ておらず……(ヨボ……)
いつかモコさんに、でっけぇお返しが出来ればいいなと思います!
待っててや! モコさん!(私信)うぉぉぉぉおぉぉぉおおおおおお!!(光速シャドウボクシング)
それとアルファポリス様等で更新中だったコチラの作品↓↓↓
『「お前が死ねば良かったのに」と言われた囮役、同僚の最強軍人に溺愛されて困ってます』が
書籍化します~!

ありがとうございます!(涙)ありがとうございます!!(涙)(涙)めっちゃ嬉しいです!(涙)
発売は3月中旬頃ですので、宜しければ是非、お手にとってみてください!
2025年2月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
2025年1月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
【6)後悔しない為に】
(あ! そっか! ニンゲンは、人魚と違って水中で息が出来ないんだった!)
またオレは馬鹿な事を! と歯噛みしつつ、意識を失った伏竜の体を急いで背負い、海面を目指した。
(伏竜……! 死ぬなよ! がんばれ! 伏竜!)
ほんの少し関わっただけのコイツに、何でこんなに必死なんだと頭の片隅で考えながらも、オレは水中を駆け抜けるように進んだ。
きっと、コイツが初めてオレを助けてくれた『他人』だからだと思う。
別に見返りなんて求めてなかったけど、オレが助けた誰一人として、オレを助けてくれることはなかったから。
コイツだけが、自分の人生をかけてオレを救おうとしてくれた。
あの覚悟を決めた伏竜の表情をオレはきっと、ずっと忘れないと思う。
(そんな相手を見捨てたら、姉ちゃんに顔向けできない!)
歯を食いしばって泳ぎ続けた。
オレより大柄な伏竜を背負って泳いだから、いつもみたいに泳げなかったけど、何とかアイツの顔を波間から出す。
「伏竜! ほら! 水面だぞ! 息、吸えてるか?」
「……」
しかし伏竜に反応はなく、オレの肩に顎をのせたまま、がくりとのけぞった。
また海中に沈もうとする伏竜の体を背負い直すも、これからどうすればいいのかわからない。
(ど、どうしよう! 海の王国の、兄ちゃんとか長老ならニンゲンの手当ての仕方とか知ってるかもしれないけど、そこに連れてくまで、伏竜、溺死しちゃうだろうし……)
だが、事態は更に悪化していた。
ガボッ!
ゴボッ!
周囲にあった死体が、急に飛沫を上げて海の中に沈み込んだのだ。
「え?」
何が起こったのかと海中を覗き込んだオレは、息を飲んだ。
(こ、れは……)
脂汗が、じわりと額に浮かぶ。
青一色の海中の中、ゆらりと蠢く黒く巨大な、ぬるついた魚影が幾つも旋回している。
(さ、サメ……!)
ここ神海王島の海域は人食いザメが多く生息しているのを思い出した。
船の爆発で出た大量の死傷者の血の臭いを目当てにサメの群れが現れたのだろう。
(ど、どうし、よう……)
人魚ですらサメと戦って無傷ではいられない。
しかも今のオレは血を流している伏竜を背負っている。
普通に考えるなら、伏竜を捨てて自分だけ逃げるべきだ。
船にいるかもしれない姉ちゃんだって助けたい。
(でも……、そうすれば、確実に伏竜は……)
死骸も残らないくらい、食い尽くされるだろう。
ふと振り返ると、伏竜の冷たい肌が頬に触れた。
キスした時は、あんなに熱かった唇が、今は深海の底の石みたいに冷え切っている。
それが何故か、胸の奥に突き刺さるように辛かった。
(死んだら、こいつのやりたかった事、目指していたもの、それらが全部全部、もう出来なくなっちゃうんだ……)
もしもオレだったら、志半ばで倒れるのは悔しいし、悲しい。
助けてもらえるものなら、助けてもらいたい。
それが出来なかったから、父ちゃんと母ちゃんは、オレの所為で死んだんだ。
そこまで考えて、オレは唇を噛み締める。
(悩んでるヒマなんてあるか! 父ちゃん達の時みたいに後悔したくないから、オレが姉ちゃんや兄ちゃんを守るんだって決めただろ! 後悔しない為に、今、最善と思う事をやるんだ! 墨星!)
そう決めてから、オレはサメをキッと睨みつける。
それから周囲にウヨウヨいるサメたちの隙を作るように、傍にあった遺体の一部を掴んだ。
震える手で掴んだ遺体の一部は、冷たくて、重くて、吐き気を催しそうだった。
でも、迷っている暇はない。伏竜の命を見捨てる訳にはいかないんだ。
そう懺悔しながら、オレは水面で派手な音をたてるよう、誰かの命の欠片を出来るだけ遠くへと投げる。
(誰の体かわかんないけど……、ごめんなさい!)
謝罪しながら投げた体が着水し、血を盛大に撒き散らす。
それに気づいたサメたちが一斉に遺骸に向けて突進し始めた。
青黒い海中が血で赤く染まり、サメたちは狂ったように暴れ回る。
バシャバシャと水面を叩くようにして獲物を奪い合って食い千切る、おぞましい姿に背筋が凍ってしまう。
オレは泣き出したくなる気持ちを抑えて、伏竜を担いだまま陸地へと向かった。
(伏竜……!)
陸地なら、もしかしたら伏竜の仲間がいるかもしれない。
それだけを頼りに、オレは海中を進み続けた。
(早く……! もっと早く!)
暗い海中で、流れ着いた板や破片に衝突する度に体が揺れた。肌が切れても、血が溢れても、それでも痛みも感じないほど必死だった。
ただ、伏竜の熱を失った体が頼りなく肩に乗っている感触だけが、オレに前へと進む力をくれたのだ。
◆◆◆
「……ッ、はぁ、はぁ……」
あれからオレは、意識が戻らない伏竜を抱えて、近くの浜辺まで泳ぎ着いていた。
サメの群れからは逃げ切れたものの、安心なんてしていられない。
すぐにオレは傍らの伏竜の顔を覗き込んだ。
「伏竜!」
「……」
「おい! 伏竜ってば! 起きろ伏竜!」
「……」
何度呼びかけても、伏竜は目を固く閉じたままだ。
胸に耳を当ててみると、かすかに鼓動は聞こえる。けれど、胸元からは血が、止めどなく流れ出していた。
それに比例するように伏竜の顔は青白く、体もどんどん冷たくなってゆく。
(ど、どうしよう! どうしたら……!)
パニックに陥ったオレは、伏竜の胸の傷を手で抑えた。
けれど、その手に伝わるヌルつく感触――血の感触に、思わず顔が歪む。
「こ、このままじゃ、伏竜……、死んじゃうんじゃ……」
夜風が無情に頬を叩く。背後から波の音が聞こえる中、伏竜の冷え切った体が、オレの細い腕の中で、酷く頼りなく感じられた。
このまま、引いていく波に伏竜も攫われて戻ってこないような錯覚に陥り、オレは伏竜を強く抱きしめていた。
絶望に飲み込まれそうな暗闇の中、姉ちゃんの言葉が閃光のように脳裏をよぎった。
『墨星、泣かないで。貴方の所為じゃない』
父ちゃんと母ちゃんが、オレを庇ってサメに喰われた時、泣いてばかりのオレを姉ちゃんは、幾度も慰めてくれていた。
(オレが助けられなかったから。オレがもっと――オレが、オレが……)
後悔を繰り返す姿に、姉ちゃんは根気強く寄り添ってくれた。
あの日々がなかったら、オレはきっと今ここにいなかっただろう。
『墨星、哀しみは次の哀しみに備える為の卵よ。死が無駄にならないように、学び、成長しましょう』
姉ちゃんはそう言って、オレにたくさんのことを教えてくれた。
その中には、こんなことも――。
『人魚は他の命を救える可能性があるのよ』
『人魚同士では出来ないけれど……』
『けど、もし貴方が人間を助けたいと思ったなら……』
『その時は……』
その時は……。
オレは血を滴らせている自分の手首を見つめた。
「人魚は、一生に一人だけ、生き血を与えたニンゲンに、自身の生命力を分け与えられる……」
ぽたり、と赤い雫が白い砂浜に落ち、吸い込まれていく。
その光景を見つめるうちに、姉ちゃんの言葉が胸の奥で木霊する。
「……人魚の血を、ニンゲンに与えれば……」
伏竜の冷たくなってゆく体を見つめながら、オレは迷いを振り払うように顔を上げた。
いつか、大好きなニンゲンができた時、この選択を後悔するかもしれない。
でも――。
少なくとも、今、この瞬間、最善を尽くした己を後悔し続けなくて済む。
何よりも、こうして悩んでいる暇など無い。
伏竜の呼吸は、見る見るか細く、頼りなくなっているのだ。
「……よし!」
オレは意を決し、右手首の傷に歯をあてる。
そして、一気に肌を引き裂いた。
「……いッッ!」
焼けつくような鋭い痛みが走り、傷口から鮮血がジワリと滲み出る。
ぷつぷつと滲んでいただけの血は、やがて滴り落ちるようになり、砂浜へと零れ落ち始める。
オレは震える手で流れる血をすくい、伏竜の口元に注ぎ込んだ。
「伏竜! オレの血だぞ! ほら! 飲め!」
「……」
だが、伏竜の唇は貝のように固く閉じて動かず、注がれた血は頬や顎を伝って、無情に流れ落ちてゆく。
「伏竜! 口開けろ! 飲めってば! 死にたいのか! バカ!」
叫びながらも、オレは彼の冷えた唇をこじ開けようと必死になる。
それでも応じない伏竜の唇に、焦りと絶望を感じていた中、オレは思い出した。
「あ! そ! そうだ! あの時みたいにすれば……!」
オレは自分の傷口に舌を這わせ、血を啜り取った。
口内に溜めた血の量を確かめると、伏竜に顔を近づける。
彼の冷たくなった唇を舌で押し開け、歯列から強引に血を流し入れた。
「ん……んん……」
舌や口内、喉を使って、なんとか伏竜の体内にオレの血を注ぎ込んだ。
口内の全ての体液を伏竜に飲ませ終え、オレは唇を離す。
「こ、これで……どうだーッ!」
期待と祈りを込めた声が、静まり返った夜の砂浜に吸い込まれる。
だが、目の前の伏竜の顔色は、土気色へと変わっていた。
「ふ、伏竜……?」
震える声で名前を呼んでも、応えはない。
胸に置いていた伏竜の手が、ずるり、と砂浜に滑り落ちる。
乾いた砂が小さな砂塵を舞わせ、その音が止んだ瞬間、まるで伏竜の命の終焉を告げる鐘の音みたいに思えた。
「そ、んな……」
間に合わなかった……?
「そんな……そんなぁ……! 伏竜ッッ!」
オレは彼の動かなくなった胸に顔を伏せ、堪えきれずに泣き出していた。
「うわぁあああん! うわぁあぁぁああん! あぁあああん!」
泣き声が人気のない海辺にこだまする中、後悔の波が押し寄せる。
もっと早く、血を分ける事を思い出していれば……。
海に落ちたあの時に、すぐ行動していれば……。
躊躇していなければ……。
オレが躊躇ったから、伏竜は……。
「うわぁあああああぁあああん! 伏竜っ、ごめん! ごめんな!」
命がけでオレを助けてくれた恩人に、命で返せなかった。
伏竜の遺骸に縋りつき、嗚咽を漏らしながら詫び続ける。
そんな時、耳に微かな音が届いた。
とくん――と、力強くも安定した、鼓動の音が。
「え……?」
一瞬、自分の音かと思ったが、それは違った。
オレの心臓は先程から早鐘のように打ち続けている。
その音は、伏竜の胸から聞こえてきたのだ。
「伏竜……?」
名前を呼び、彼の顔を覗き込む。
頬には血色が戻り、冷たかった体は、ほんのりと温もりを帯びていた。
か細かった心音も、今はドクンドクンと力強く脈打っている。
そして――伏竜が、ゆっくりと身を起こした。
開かれた片目は、まるで長い夢から覚めたように朧げだったが、オレの姿を捉えた途端、強い光を宿した。
気づけばオレは伏竜の首に抱きついていた。
「ふ、伏竜……! 本当に生き返ったんだな!」
「……」
伏竜は何も言わない。ただ、熱を宿した瞳でオレを見ていた。
「オ、オレ、オマエが死んじゃったかもって思って……」
涙が溢れて止まらなくて、でもオレは泣きながら笑っていた。
「ヒック、だから、その、よ、良かったって思……、グスッ! そ、それにしても、生き返ったなら、早く起きろよもう! けど、良かった、良かったよぉ! うえぇええええん!」
再び泣き崩れるオレの背中に、伏竜の手が触れる。
優しくて温かな指先が背中から後頭部、そしてオレの頬に触れ、くすぐったさにオレは片目を閉じる。
その間中、伏竜は何も言わない。ただ、ずっとオレを見つめている。
その瞳には熱病に浮かされたような温度があって――。
「伏竜……?」
小首を傾げて問いかけると、伏竜の唇が動いた。
低く熱く、囁くように告げる。
「……我愛你」と。
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(あ! そっか! ニンゲンは、人魚と違って水中で息が出来ないんだった!)
またオレは馬鹿な事を! と歯噛みしつつ、意識を失った伏竜の体を急いで背負い、海面を目指した。
(伏竜……! 死ぬなよ! がんばれ! 伏竜!)
ほんの少し関わっただけのコイツに、何でこんなに必死なんだと頭の片隅で考えながらも、オレは水中を駆け抜けるように進んだ。
きっと、コイツが初めてオレを助けてくれた『他人』だからだと思う。
別に見返りなんて求めてなかったけど、オレが助けた誰一人として、オレを助けてくれることはなかったから。
コイツだけが、自分の人生をかけてオレを救おうとしてくれた。
あの覚悟を決めた伏竜の表情をオレはきっと、ずっと忘れないと思う。
(そんな相手を見捨てたら、姉ちゃんに顔向けできない!)
歯を食いしばって泳ぎ続けた。
オレより大柄な伏竜を背負って泳いだから、いつもみたいに泳げなかったけど、何とかアイツの顔を波間から出す。
「伏竜! ほら! 水面だぞ! 息、吸えてるか?」
「……」
しかし伏竜に反応はなく、オレの肩に顎をのせたまま、がくりとのけぞった。
また海中に沈もうとする伏竜の体を背負い直すも、これからどうすればいいのかわからない。
(ど、どうしよう! 海の王国の、兄ちゃんとか長老ならニンゲンの手当ての仕方とか知ってるかもしれないけど、そこに連れてくまで、伏竜、溺死しちゃうだろうし……)
だが、事態は更に悪化していた。
ガボッ!
ゴボッ!
周囲にあった死体が、急に飛沫を上げて海の中に沈み込んだのだ。
「え?」
何が起こったのかと海中を覗き込んだオレは、息を飲んだ。
(こ、れは……)
脂汗が、じわりと額に浮かぶ。
青一色の海中の中、ゆらりと蠢く黒く巨大な、ぬるついた魚影が幾つも旋回している。
(さ、サメ……!)
ここ神海王島の海域は人食いザメが多く生息しているのを思い出した。
船の爆発で出た大量の死傷者の血の臭いを目当てにサメの群れが現れたのだろう。
(ど、どうし、よう……)
人魚ですらサメと戦って無傷ではいられない。
しかも今のオレは血を流している伏竜を背負っている。
普通に考えるなら、伏竜を捨てて自分だけ逃げるべきだ。
船にいるかもしれない姉ちゃんだって助けたい。
(でも……、そうすれば、確実に伏竜は……)
死骸も残らないくらい、食い尽くされるだろう。
ふと振り返ると、伏竜の冷たい肌が頬に触れた。
キスした時は、あんなに熱かった唇が、今は深海の底の石みたいに冷え切っている。
それが何故か、胸の奥に突き刺さるように辛かった。
(死んだら、こいつのやりたかった事、目指していたもの、それらが全部全部、もう出来なくなっちゃうんだ……)
もしもオレだったら、志半ばで倒れるのは悔しいし、悲しい。
助けてもらえるものなら、助けてもらいたい。
それが出来なかったから、父ちゃんと母ちゃんは、オレの所為で死んだんだ。
そこまで考えて、オレは唇を噛み締める。
(悩んでるヒマなんてあるか! 父ちゃん達の時みたいに後悔したくないから、オレが姉ちゃんや兄ちゃんを守るんだって決めただろ! 後悔しない為に、今、最善と思う事をやるんだ! 墨星!)
そう決めてから、オレはサメをキッと睨みつける。
それから周囲にウヨウヨいるサメたちの隙を作るように、傍にあった遺体の一部を掴んだ。
震える手で掴んだ遺体の一部は、冷たくて、重くて、吐き気を催しそうだった。
でも、迷っている暇はない。伏竜の命を見捨てる訳にはいかないんだ。
そう懺悔しながら、オレは水面で派手な音をたてるよう、誰かの命の欠片を出来るだけ遠くへと投げる。
(誰の体かわかんないけど……、ごめんなさい!)
謝罪しながら投げた体が着水し、血を盛大に撒き散らす。
それに気づいたサメたちが一斉に遺骸に向けて突進し始めた。
青黒い海中が血で赤く染まり、サメたちは狂ったように暴れ回る。
バシャバシャと水面を叩くようにして獲物を奪い合って食い千切る、おぞましい姿に背筋が凍ってしまう。
オレは泣き出したくなる気持ちを抑えて、伏竜を担いだまま陸地へと向かった。
(伏竜……!)
陸地なら、もしかしたら伏竜の仲間がいるかもしれない。
それだけを頼りに、オレは海中を進み続けた。
(早く……! もっと早く!)
暗い海中で、流れ着いた板や破片に衝突する度に体が揺れた。肌が切れても、血が溢れても、それでも痛みも感じないほど必死だった。
ただ、伏竜の熱を失った体が頼りなく肩に乗っている感触だけが、オレに前へと進む力をくれたのだ。
◆◆◆
「……ッ、はぁ、はぁ……」
あれからオレは、意識が戻らない伏竜を抱えて、近くの浜辺まで泳ぎ着いていた。
サメの群れからは逃げ切れたものの、安心なんてしていられない。
すぐにオレは傍らの伏竜の顔を覗き込んだ。
「伏竜!」
「……」
「おい! 伏竜ってば! 起きろ伏竜!」
「……」
何度呼びかけても、伏竜は目を固く閉じたままだ。
胸に耳を当ててみると、かすかに鼓動は聞こえる。けれど、胸元からは血が、止めどなく流れ出していた。
それに比例するように伏竜の顔は青白く、体もどんどん冷たくなってゆく。
(ど、どうしよう! どうしたら……!)
パニックに陥ったオレは、伏竜の胸の傷を手で抑えた。
けれど、その手に伝わるヌルつく感触――血の感触に、思わず顔が歪む。
「こ、このままじゃ、伏竜……、死んじゃうんじゃ……」
夜風が無情に頬を叩く。背後から波の音が聞こえる中、伏竜の冷え切った体が、オレの細い腕の中で、酷く頼りなく感じられた。
このまま、引いていく波に伏竜も攫われて戻ってこないような錯覚に陥り、オレは伏竜を強く抱きしめていた。
絶望に飲み込まれそうな暗闇の中、姉ちゃんの言葉が閃光のように脳裏をよぎった。
『墨星、泣かないで。貴方の所為じゃない』
父ちゃんと母ちゃんが、オレを庇ってサメに喰われた時、泣いてばかりのオレを姉ちゃんは、幾度も慰めてくれていた。
(オレが助けられなかったから。オレがもっと――オレが、オレが……)
後悔を繰り返す姿に、姉ちゃんは根気強く寄り添ってくれた。
あの日々がなかったら、オレはきっと今ここにいなかっただろう。
『墨星、哀しみは次の哀しみに備える為の卵よ。死が無駄にならないように、学び、成長しましょう』
姉ちゃんはそう言って、オレにたくさんのことを教えてくれた。
その中には、こんなことも――。
『人魚は他の命を救える可能性があるのよ』
『人魚同士では出来ないけれど……』
『けど、もし貴方が人間を助けたいと思ったなら……』
『その時は……』
その時は……。
オレは血を滴らせている自分の手首を見つめた。
「人魚は、一生に一人だけ、生き血を与えたニンゲンに、自身の生命力を分け与えられる……」
ぽたり、と赤い雫が白い砂浜に落ち、吸い込まれていく。
その光景を見つめるうちに、姉ちゃんの言葉が胸の奥で木霊する。
「……人魚の血を、ニンゲンに与えれば……」
伏竜の冷たくなってゆく体を見つめながら、オレは迷いを振り払うように顔を上げた。
いつか、大好きなニンゲンができた時、この選択を後悔するかもしれない。
でも――。
少なくとも、今、この瞬間、最善を尽くした己を後悔し続けなくて済む。
何よりも、こうして悩んでいる暇など無い。
伏竜の呼吸は、見る見るか細く、頼りなくなっているのだ。
「……よし!」
オレは意を決し、右手首の傷に歯をあてる。
そして、一気に肌を引き裂いた。
「……いッッ!」
焼けつくような鋭い痛みが走り、傷口から鮮血がジワリと滲み出る。
ぷつぷつと滲んでいただけの血は、やがて滴り落ちるようになり、砂浜へと零れ落ち始める。
オレは震える手で流れる血をすくい、伏竜の口元に注ぎ込んだ。
「伏竜! オレの血だぞ! ほら! 飲め!」
「……」
だが、伏竜の唇は貝のように固く閉じて動かず、注がれた血は頬や顎を伝って、無情に流れ落ちてゆく。
「伏竜! 口開けろ! 飲めってば! 死にたいのか! バカ!」
叫びながらも、オレは彼の冷えた唇をこじ開けようと必死になる。
それでも応じない伏竜の唇に、焦りと絶望を感じていた中、オレは思い出した。
「あ! そ! そうだ! あの時みたいにすれば……!」
オレは自分の傷口に舌を這わせ、血を啜り取った。
口内に溜めた血の量を確かめると、伏竜に顔を近づける。
彼の冷たくなった唇を舌で押し開け、歯列から強引に血を流し入れた。
「ん……んん……」
舌や口内、喉を使って、なんとか伏竜の体内にオレの血を注ぎ込んだ。
口内の全ての体液を伏竜に飲ませ終え、オレは唇を離す。
「こ、これで……どうだーッ!」
期待と祈りを込めた声が、静まり返った夜の砂浜に吸い込まれる。
だが、目の前の伏竜の顔色は、土気色へと変わっていた。
「ふ、伏竜……?」
震える声で名前を呼んでも、応えはない。
胸に置いていた伏竜の手が、ずるり、と砂浜に滑り落ちる。
乾いた砂が小さな砂塵を舞わせ、その音が止んだ瞬間、まるで伏竜の命の終焉を告げる鐘の音みたいに思えた。
「そ、んな……」
間に合わなかった……?
「そんな……そんなぁ……! 伏竜ッッ!」
オレは彼の動かなくなった胸に顔を伏せ、堪えきれずに泣き出していた。
「うわぁあああん! うわぁあぁぁああん! あぁあああん!」
泣き声が人気のない海辺にこだまする中、後悔の波が押し寄せる。
もっと早く、血を分ける事を思い出していれば……。
海に落ちたあの時に、すぐ行動していれば……。
躊躇していなければ……。
オレが躊躇ったから、伏竜は……。
「うわぁあああああぁあああん! 伏竜っ、ごめん! ごめんな!」
命がけでオレを助けてくれた恩人に、命で返せなかった。
伏竜の遺骸に縋りつき、嗚咽を漏らしながら詫び続ける。
そんな時、耳に微かな音が届いた。
とくん――と、力強くも安定した、鼓動の音が。
「え……?」
一瞬、自分の音かと思ったが、それは違った。
オレの心臓は先程から早鐘のように打ち続けている。
その音は、伏竜の胸から聞こえてきたのだ。
「伏竜……?」
名前を呼び、彼の顔を覗き込む。
頬には血色が戻り、冷たかった体は、ほんのりと温もりを帯びていた。
か細かった心音も、今はドクンドクンと力強く脈打っている。
そして――伏竜が、ゆっくりと身を起こした。
開かれた片目は、まるで長い夢から覚めたように朧げだったが、オレの姿を捉えた途端、強い光を宿した。
気づけばオレは伏竜の首に抱きついていた。
「ふ、伏竜……! 本当に生き返ったんだな!」
「……」
伏竜は何も言わない。ただ、熱を宿した瞳でオレを見ていた。
「オ、オレ、オマエが死んじゃったかもって思って……」
涙が溢れて止まらなくて、でもオレは泣きながら笑っていた。
「ヒック、だから、その、よ、良かったって思……、グスッ! そ、それにしても、生き返ったなら、早く起きろよもう! けど、良かった、良かったよぉ! うえぇええええん!」
再び泣き崩れるオレの背中に、伏竜の手が触れる。
優しくて温かな指先が背中から後頭部、そしてオレの頬に触れ、くすぐったさにオレは片目を閉じる。
その間中、伏竜は何も言わない。ただ、ずっとオレを見つめている。
その瞳には熱病に浮かされたような温度があって――。
「伏竜……?」
小首を傾げて問いかけると、伏竜の唇が動いた。
低く熱く、囁くように告げる。
「……我愛你」と。
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伏竜の突然の告白に、オレは涙も嗚咽も一瞬で引っ込んでしまった。
まるで喉の奥に全部詰まったみたいに、声も出ない。
「……は?」
馬鹿みたいに瞬きを繰り返しながら、伏竜の顔を見つめる。
いや、なんでここで?
確かに、船で別れるときに「惚れさせる」とかなんとか言ってた気がするけど……。
だからって、死にかけて生き返ったその第一声が、それなのか?
混乱しすぎて頭がぐるぐるしてきた!
そもそも、オレも伏竜も男だし!
男同士は結婚できないって、姉ちゃんが言ってたし!
一旦、深呼吸をして落ち着こうとするが、心臓のドキドキは止まらない。
いやいや! これはさっきまでの緊張のせいだ……たぶん!
オレは混乱を吹っ飛ばすように首をブンブン振りながら、伏竜に向き直った。
「な、なんだよ伏竜! オマエ、本当に頭でも打ったのか?」
そう言いながら、オレは伏竜から距離を取った。
だが、離れようとするオレの腕を伏竜が掴む。
「ちょ!」
ぎょっとして声をかけるも、伏竜は上気した頬に蕩けた表情を浮かべ、熱っぽい瞳でオレを見つめていた。
「伏、竜……?」
呼びかけに応えたのは伏竜の声ではなく、柔らかな砂浜にオレを押し倒す、アイツの熱い体だった。
◆◆◆
伏竜の長い髪が零れ落ち、オレの頬にひやりと触れる。
海水で濡れたそれは、火照ったオレの頬に心地よいくらい冷たくて……。
なのにオレの両腕を押さえつける伏竜の肌から伝わる体温は、熱い程だった。
「……ちょ、伏竜? オマエ何してんだよ! これどういう状況だよ?」
オレが、わあわあ騒ぐも、伏竜はオレに馬乗りになったまま妖艶に微笑む。
そして吐息混じりに名を呼んだ。
「……墨星」
あまりの色香に、背筋がゾクゾクする。
名前を呼ばれただけで、こんな気持ちになることなんてあるのだろうか?
オレが抵抗しなくなったのを確認したのか、伏竜は両手の戒めを外す。
そうして伏竜は濡れたスーツを肩からゆっくりと滑らせ、それを砂浜に無造作に放り投げた。
次に、鍛え抜かれた肌に張りつくシャツを取り去る姿に、オレは何故かボーッと見惚れていた。
伏竜の顔も声も肉体も、全てがオレを誘惑する前戯のようだ。
その圧倒的な雄の魅力を前に、抗う術を持ち合わせていなかった。
そんな伏竜から煽情的に手招きされ、オレは喉の奥から吐息混じりの声が漏れた。
「伏、竜……」
月明りの中、上半身を晒す伏竜を前に、オレはうっとりと名を呼んでしまってから、我に返る。
(だっ、ダメだ! 流されちゃいけない! こんな事してる場合じゃないんだ! オレは、姉ちゃんを……姉ちゃんを捜さないと!)
後ろ髪を引かれるような想いを抱えながら海に戻ろうとしたオレだったが、浅瀬で、べしゃりと無様に倒れ込んだ。
「……え?」
たった少しの水さえあれば、人魚は泳げるはずだった。
なのに、今、体は水を吸った砂みたいに重くて、オレは海に戻ろうとしても戻れなかった。
それ所か、尾びれがいつもみたいに動かない。
壊れた貝のように、ぱかぱかと奇妙な感覚が続いている。
だから不思議に思ったオレは自分の下半身を見て、絶句した。
「な……」
見慣れた尾びれが、見覚えのないニンゲンの足になっていたのだ。
「……は? はぁああああぁぁぁぁあああああああぁ?」
しかも一糸纏わぬ姿のまま、伏竜の前で――大開脚している!
かろうじて張りついていた、水色の鱗が剥がれ落ち、砂の上で転がる。
その感触に、尾びれが消え去り、代わりにニンゲンの足が現れたことを悟ったオレは、完全にパニックに陥っていた。
(どうして!? なんでだよ? オレの下半身が、なんでニンゲンになってんだ!)
しかし、その混乱は更なる刺激で上書きされる。
伏竜がオレの無防備な足首を掴み、そのまま赤い舌を肌に滑らせたのだ。
「~~ッッ!」
甘い電でも走ったみたいに、背筋が弓なりに反り、脳髄が痺れる。
(な、んだ……これ……?)
伏竜の目が細められ、楽しげに口角を上げる。
それから、舌先はさらに執拗に足の甲、足首、そして太ももの内側を愛撫し続けた。
「アッ……! アァっ!」
その度にオレの体は水面を跳ねる魚みたいに悶える。
体の中を熱が駆け巡り、呼吸を求めるように舌をつきだして、ひたすら伏竜から与えられる快楽の海に沈められていた。
(こんな……ニンゲンの足って、こんなに敏感なんだ……?)
尾びれの時とは違う感覚。全身が灼けるように熱くなる。伏竜の動きに応じて、自分の腰が勝手に揺れ動くのがわかる。
無様だ。
それなのに、伏竜は更に指を這わせ、手の平を使って、オレの足だけじゃなく、尻や腰まで絶妙な力加減で撫でさすってきた。
「や、あ、あ、ぁ……ッ」
尻の肉づきを確かめるような動き。押し広げられ、揉まれるたびに、夜気が肌を撫で、露わになった秘所がヒクヒクと反応する。
恥ずかしい。それなのに、気持ちよさに抗えなくて……頭がぼうっとしてくる。
まるで自分が自分じゃなくなるみたいな感覚が怖くて、オレは涙を滲ませて懇願していた。
「フー、……ロン……やめ……て」
オレは砂浜で身悶えながら、涙目で伏竜を見上げた。
なのに、伏竜はそんなオレを愛おしそうに見つめ、耳元で囁く。
「……墨星、愛してる」
低く、愛欲に染まった声。
まるでオレ以外は世界に存在していないとでもいうような目。
そんな風に囁かれて抗えるほど、オレは強くなかった。
心を掴まれた瞬間、伏竜がオレの唇を奪う。
「ふッ……うぅン……!」
熱い舌が絡みつき、どんどん深くもつれるように絡み合ってゆく。
混ざり合う唾液、貪るような接吻。息をする間もないほどの熱量に、飲み込まれてゆく。
口の端から飲み込めなかった唾液が伝い落ちたが、それでもオレも伏竜も止まらない。
止めたくない。
この瞬間以外のことなんて、どうでもよくなる。そんな甘美で狂おしい感覚に、オレは完全に溺れていた。
まるで強烈な快楽の呪詛にでもかかったみたいだった。
「あ、あぁ、伏、竜……」
「墨星……」
互いに名前だけを呼び合いながら、何もかもが伏竜の手で制圧されていく。
指も、舌も、唇も。
気がつけば、オレの体には伏竜が知らない場所なんてなくなっていた。
伏竜の指も舌もオレの体をオレより知り尽くそうとしていた。
「ア……」
それまでに、オレは何度も果てていた。
砂浜に顔を伏せ、せめてこのだらしない顔だけは見られたくないと願うので精一杯だ。
「墨星」
伏竜の声がひときわ熱を帯びた。オレは、ゆっくりと振り返る。
伏竜も同じように劣情に蕩けていて、その瞳にはオレの姿だけが映っていた。
次に何をされるのか、わからない。
でも直感的に、それがもっと気持ちいいものだと察していた。
だから、オレは自分でも驚く事に――笑っていたのだ。
「伏竜……」
名を呼んだ瞬間、下肢の窄まりに熱く硬いものが押し当てられる。
「あ……っ」
びくりと身体が震える。そんな俺を安心させるように、伏竜の長い指が腰を優しく撫でた。
その仕草がなぜか嬉しくて、俺は彼に身を預けるように力を抜く。
すると次の瞬間、指とは比べものにならないほどの熱を孕んだ肉の塊が、俺の内側を押し広げながら侵入してきたのだ。
「ッ……!」
狭い内壁を容赦なく押し開かれ、思わず背がのけ反る。
なのに、痛みはわずかに走るだけで、それよりも――俺の身体は悦びに震えていた。
むしろ、この微かな痛みさえも心地よく感じてしまうほどに。
伏竜が律動を刻むたび、俺の肉壁は奥深くまで押し込まれた彼の熱に絡みつくように締め上げてしまう。
その証拠に、伏竜の吐息は熱く、荒く、そして獣のように飢えていた。
伏竜の腰が打ちつけられる度に、彼の動きはどんどん激しさを増していく。
その貪るような欲望が俺を更に昂らせ、身体の奥が熱く疼いた。
「ふ、伏、竜……伏竜……」
オレが蕩けた声で名前を呼ぶと、伏竜もオレの名前を繰り返した。
「墨星……、墨星……」
名を呼ばれながら深く抉られるような甘美な責め苦に、脳髄が痺れてくる。
オレは羞恥も理性も捨て去ったみたいに、はしたない喘ぎ声を止められなかった。
「あ、アァッ、あぁあ!」
伏竜が打ちつける腰の動きに合わせるように自身の脚をすり寄せ、更に彼のモノを奥深くまで咥え込もうとしてしまう。
抗えない衝動に溺れるオレを伏竜は易々と抱え上げた。
「あ……」
振り返って口を開きかけるた瞬間、伏竜の唇が塞いできた。
くちゅくちゅと淫靡な音が伏竜との口づけの中で掻きたてられる。
波音すら聞こえなくなるような、彼の吐息と行為の音だけに支配された世界。
(き、きもち、いい……きもちいい……、こんなに……)
こんなに気持ちの良い事が、この世にあるのかと思った。
もうオレには伏竜との交わりの事しか頭になかった。
ずっとこうしていたい。
お互いを貪り合う蛇みたいに快楽で繋がって、ぐちゃぐちゃになりたい。
恐怖も不安も苦痛もない、この満たされた世界に居続けたい。
そんな風に考えているうちに、伏竜は体位を変え、更に抽挿を深めてゆく。
オレは伏竜の体の一部になったかのように、彼の求める動きを察して足を開き、奥深くまで昂りを受け入れようとする。
そんな行為をどれほど繰り返しただろうか。
体液と海水にまみれた淫らな二匹の獣の交尾の終焉を告げるように、伏竜の動きが激しさを増す。
オレも高まりの極致を感じ、伏竜の体にしがみついていた。
「伏竜ッ……!」
彼の首元のタトゥーに触れても、背中に爪を立てても、アイツは笑ってくれていた。
それが悦楽の笑みなのか、それとも別の何かなのか……、オレにはわからなかった。
でも、伏竜を求めるオレの体の最奥に、アイツは熱く迸る劣情を吐き出した。
それと同時に、オレも何度目かわからないほどの絶頂を迎え、意識を手放す。
目を閉じる間際、伏竜に抱きかかえられた。
そうして、額に、目蓋に、唇に……まるで恋人同士がするみたいにキスをされたのだ。
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