裏側

⚠️右ミュ全般なんでも叫ぶ

【固定】
ついに我慢できなくなって作ってしまいました。
主カミュ大本命マンですが、モブとかグレとかホメとかその他右ミュ全般大好きです。たぎったときにはここで吐き出しますー。
お話も何か書けたらポイポイしたい🤤

裏側専用 Wavebox👏
へへ…グホミュのお話に反応をいただけてやった~わ~い!ってなってます😂これからもちょこちょこ書いていくぞ~✌️
今回プロットを立てずにぶっつけ本番で書くっていう博打なことをやっているので、自分でもどうなっていくか分からないのですが、ある程度ちゃんとオチまでつけて、いずれまとめて支部にポイするのが目標です😚💪
前回のお話の続きができました。
グホの解像度がまだまだ低すぎるのを痛感…。
あと普段あんまり登場人物の多いお話を書くことがないので、なんだかてんやわんやになってしまった…🫠
でもホメおじに無精ひげ生やせたので概ね満足です✌️



 02

 道中、特に会話はなかった。

 カミュは荷台でくつろいでいる様子だ。
 隣のエリックは終始うつむきがちで、時折チラチラとグレイグの横顔に視線を向けてくる。気になって目をやると、途端に赤面しながらうつむいてしまうのだった。

「……仕事内容は聞いているか?」

 尋ねると、エリックはビクンと肩を跳ねさせた。

「畑仕事と家事手伝いだろ?」

 背後からカミュの声がする。

「その通りだ。農作業の補助と、屋敷の管理を頼みたい。ただな……」
「なんだよ?」
「ああ、いや……」

 刻々と屋敷が近づいていくさなか、グレイグは胃痛を覚えていた。
 紹介者である男を信頼してはいたものの、所詮は酒の席での口約束だ。多少の手違いがあったとしても、彼を責める気にはなれなかった。

(しかし、ヤツは許さんだろうな……)

 グレイグの要望は通ったが、ホメロスが所望していたのはあくまでメイドだったのだ。偏屈で融通のきかないあの男が、大人しく納得するとは思えない。困ったことになったぞと、グレイグは手綱を引きつつ息を漏らした。

 そうこうしているうちに、荷馬車がポプラ並木の中腹にさしかかった。
 太陽が白い雲に覆われ、辺りに薄い翳りをもたらしていた。初夏の風が強まると、流れる雲が過ぎ去っていく。徐々に射し込む陽光に、小麦畑が照らされた。

「わぁ……」

 エリックが、少しだけ身を乗り出して感嘆の声をあげた。

「すごい……まるで金色の海を見ているみたいです!」

 太陽の強い光を受けて、まだ青い若麦が淡い金色に染まって見えた。それらは風に大きくなびき、寄せては返す波のようにざわめいている。
 エリックは感極まった様子で、胸に押し当てた手をぎゅうっと握りしめていた。  

「なんてキレイなんだろう……」

 このとき、グレイグはエリックの横顔に目を奪われていた。
 幼さを残す若者の瞳が、グレイグが愛してやまないバンデルフォンの景色を映して輝いている。その無垢なみずみずしさに、純粋な喜びと感動を覚えたのだ。

 部下の男から届いた便りによると、彼らはデルカダールの下層で貧しい生活を送っていたらしい。
 正直なところ、グレイグの中には下層からやってきた人間を、どこまで信用できるのか、という懸念があったことは否定できない。

 けれどエリックの純粋な反応を見て、身体の内側に新しい風が通り抜けたような感覚を覚えた。それは降って湧いたように芽生えた情であったのかもしれないし、若さへの羨望であったのかもしれない。

 なんにせよ、ここでの暮らしにとってもまた、彼らが新しい風を吹き込んでくれるような、そんなワクワクとした気持ちが込み上げたのだ。

「俺も小麦を育てている。じきにもっと濃く、美しい黄金色になるぞ」

 エリックがグレイグを見て、大きな瞳をしばたたかせた。今度は逸らされることはなかった。呆けたようにも見える表情に、グレイグは目を細めてふっと笑った。

「そうなれば収穫だ。忙しくなるが、手伝ってくれるか?」

 乾いた大地にジワジワと水が染み込むように、エリックの表情に笑みが浮かんだ。

「はい! オレ、がんばります!」

 元気のいい返事に満足し、グレイグは「うむ」と力強くうなずいた。
 すると荷馬車のヘリに背を預け、両手を頭の後ろで組んでいるカミュが言った。

「わざわざ船でここまで来たんだ。与えられた仕事はきっちりやるさ。その代わり、まともな飯と寝床ぐらいは期待しててもいいんだろ?」

 グレイグは「もちろんだ」と言って、再び大きくうなずいた。
 しっかり給金も支払うつもりでいるし、彼らのための部屋だって用意してある。明日からでも、さっそく働いてもらうつもりでいるが──。

「……その前に、厄介な大仕事を片付けねばならんがな」
「?」

 低く漏らされたつぶやきに、エリックが不思議そうに首をかしげた。
 荷馬車はポプラの並木を抜けて、ゆるやかな丘の斜面を走る。ホメロスが待つ巨大な屋敷が、もうすぐそこまで近づいていた。



 *



 背の高い鉄柵の門を開くと、その先には堂々たる石造りの洋館がそびえていた。
 かつてバンデルフォン王家の血筋が住んでいたといわれる、由緒ある館をリノベーションしたものだ。

「たいしたもんだな。次元が違うぜ」

 飛沫をあげる噴水と、その向こうにある純白の東屋。バラのアーチやラベンダーに彩られた庭を横切りながら、さすがのカミュも圧倒されているようだった。
 エリックは場違いだとでもいうように、道具袋を抱きしめて背中を丸めている。

 屋敷の扉を開けると、広い玄関ホールがグレイグたちを迎え入れた。
 中央には赤い絨毯が敷かれた大階段があり、その両脇には将軍時代の鎧と剣が飾られていた。対を成す黒と白の鎧に、カミュとエリックが目を見張っている。

(ホメロスはまだ書斎か)

 階段の先を見上げ、気取られぬ程度にため息を漏らした。出掛けに声はかけてきたものの、その際ホメロスからの応答はなかった。

 文筆業に勤しむ彼は、日々締切に追われる身の上だった。書斎に缶詰になることも多く、グレイグはここ三日ほど、ホメロスとまともに顔を合わせていなかった。

 普段なら放っておくところだが、今日ばかりはそうも言っていられない。どのみち原稿中の彼は不機嫌だ。腹を括る以外にないだろう。

「長旅で疲れただろう。少し休んでいるといい」

 そう言って、ひとまず二人を居間に案内した。
 
 広々とした空間には、大きな暖炉がある。手織りの大判ラグに、落ち着いた色調のソファと重厚なローテーブル。壁にかかる絵画や調度品の数々は、いずれも選び抜かれたような趣があった。そして──

「遅いぞグレイグ。いつまで待たせるつもりだ」

 窓際に置かれた椅子に腰掛ける、一人の男の姿。
 彼はゆったりと足を組み、肘掛けに預けた肘で頬杖をつきながら、グレイグをねめつけている。

 この男こそがもう一人の雇い主である、ホメロスだ。

 三日ぶりに見る彼は、目の下にクマを作っていた。長い金髪は艶を失い、アゴにはうっすらと無精ヒゲすら生やしている。明らかに疲労の滲んだ双眸は、元々の目つきの悪さも相まって、より険しいものになっていた。

「……ホメロス。そこにいたか」

 てっきり書斎に引っ込んだままかと思いきや、居間で待ち構えていた親友の姿に、グレイグはつい口元を引きつらせてしまった。
 ヌッ、と前に出て、とっさに二人を背中に庇う。しかし、時はすでに遅かった。

「なんだその薄汚い虫ケラ共は?」

 ホメロスは鋭い目つきをいっそう細め、眉間のシワを深くした。

「メイドはどうした?」
「む……その、これはだな」
「メイドはどうしたのかと聞いている。俺の目にはどこからどう見ても、ちんちくりんなオスのドブネズミが二匹いるようにしか見えんのだが?」

 喉の奥でヒュッと悲鳴をあげたエリックが、カミュの背中に隠れてしまう。
 室内の温度がグンと下がったのを感じながら、グレイグはひとつ咳払いをした。

「聞け、ホメロス。見ての通り、やって来たのはこの二人だ。どうやら手違いがあったらしくてな」

 現状を手短に伝えてはみたものの、実際、他に説明のしようがなかった。

「手違いだと?」

 するとホメロスは表情に侮蔑の意をたっぷりと含ませ、鼻を鳴らして笑った。

「呆れて怒る気にもならんな! 人集めすらまともにできんとは……実に貴様の部下らしいではないか。上司と同様、脳ミソまで筋肉で出来ていると見える!」
「……元部下だ」
「黙れグレイグ!!」

 ダンッ、とホメロスの拳が肘掛けを叩いた。背後からエリックの、「ヒッ」という悲鳴が聞こえる。グレイグは言われた通り、つい押し黙ってしまった。
 するとカミュがやれやれといった様子で息をつき、グレイグの横に並んだ。

「おいおい、こっちのダンナは、なんだってこんなピリピリしてんだ?」

 その気安い物言いに、ホメロスの眉がピクリと動く。
 カミュは腕を組むと、こてん、と軽く小首をかしげる。

「心配しなくても、仕事だったらきっちりやるぜ。それじゃダメなのか?」
「ドブネズミ風情が……利いた風な口をきくではないか」

 ホメロスはカミュの問いには答えず、グレイグに鋭い視線を向けた。

「いいかグレイグ。俺は女の働き手を連れてこいと言ったのだ。美しく知的で、よく気の利く、若い女の使用人だ」
「……おい、なんだよその話。聞いてねえけど?」

 カミュが組んだ腕の肘で、グレイグを軽くつついた。

「むぅ……すまん」

 こちら側の手違いなど、彼らには関係のない話だと思ったのだ。
 言ったところで来てしまったものはどうにもならないし、遠路はるばる訪れた若者たちを、わざわざ追い返す気にもなれなかった。

 肩を落とすグレイグに、カミュは呆れた様子で「人がいいな、アンタ」と漏らし、小さなため息をつく。
 そんなやり取りをよそに、ホメロスの嫌味は留まるところを知らなかった。

「それがどうだ? 蓋を開けてみれば、貧相で下品でむさ苦しい、オスのドブネズミが二匹ときた。見てみろ、知性の一欠片も見当たらんではないか。グレイグ、貴様は王から賜ったこの屋敷を、下水道にでもするつもりか?」
「……黙って聞いてりゃ好き放題ぬかしやがって」

 ここまで言われては、さすがにカミュも頭にきたらしい。
 彼は握った拳を震わせながら、釣り上げた眉でキツくホメロスを睨みつけた。

「上等じゃねえか! こっちだってアンタみたいな口の悪いおっさんの世話なんか、頼まれたってごめんだぜ!!」
「に、兄さん、落ち着いて……」

 後方に引っ込んだままだったエリックが、泣きそうな表情でカミュに身を寄せた。
 しかしカミュは今にも掴みかかっていきそうな勢いを崩さない。

 ホメロスはしてやったりといった様子で口角の片方を上げ、緩慢な動作で椅子から立ち上がる。そしてわざとらしく胸の下に右手を添え、左手を扉の方へ差しだしながら恭しく頭を垂れた。

「ならばどうぞお引き取りを。グレイグ、ドブネズミがお帰りだ」
「この野郎、一発ぶん殴らなきゃ気がすまねえ!」
「やっ、やめてってば!」

 殴りかかろうとするカミュに、エリックが必死でしがみつく。その拍子に、彼が持っていた道具袋が派手な音を立てて床に落下した。
 予想通りの状況に、グレイグは頭痛を覚えながらも彼らの間に割って入った。

「落ち着け、お前たち。ホメロス、いくらなんでも口が過ぎるぞ」
「なんだと?」

 毒の猛威をふるったことで、多少は溜飲を下げていたかに見えたホメロスだったが、グレイグの言葉に再び眉間のシワを深くした。

「誰のせいでこうなったと思っている!? 大体、貴様の要望が通って、なぜ俺の要望が通らんのだ!!」

 この二人がどうこうというよりは、結局ホメロスにとっての大問題はそこなのだ。
 彼は自分が蔑ろにされることに、人一倍敏感な性質を持っている。聡明で繊細だが、そのぶん極端にプライドが高い。つまるところ、ナリだけ大きな子供なのである。

「駄々っ子かよ」

 なかば呆れた様子のカミュが、毒気を抜かれたように吐き捨てた。

「おいドブネズミ! 今なんと言った!?」
「とにかく!!」

 グレイグはパンッ、と大きな音を立てて両手を鳴らした。
 このままでは堂々巡りで日が暮れる。エリックはすっかり疲れ切った様子で顔色を失っているし、カミュの表情にもあらゆる意味で疲労が見えた。

「まずは働きぶりを見ようではないか。それから判断しても遅くはあるまい」

 ホメロスは腕を組むと、バカにした様子で「はっ」と笑った。

「お優しいことだ。迎えに行って帰ってくるまでの間に、すっかり絆されたと見える」
「……すぐにでも働き手がほしいのは事実だろう」

 また一から探し直すとなれば、それなりの手間や時間がかかる。ならば人を選ぶことよりも、育てることに時と労力を割くべきだ。
 実際問題、生活能力に欠ける壮年の男二人では、飯を作るにも掃除をするにも、もはや立ち行かない状況にあることは事実だった。

 それはホメロスも身にしみて感じていることだろう。彼は大仰なため息を漏らし、それから小さく舌打ちをした。

「そこまで言うならいいだろう。だだし──」

 ホメロスが鋭く視線を走らせる。彼は腰に手をやり、頭をガリガリと掻いているカミュをキツく睨みつけた。

「使えないと分かれば、すぐにでも叩き出す。それだけは肝に銘じておくことだ」

 吐き捨てるように言い放つと、ホメロスは部屋を出ていった。
 バンっと扉の閉まる音がする。

 嵐が過ぎ去ったかのように静まり返った室内で、エリックが安堵の色を浮かべた。カミュは面白くなさそうに、「けっ」と息を吐いている。
 そんな彼らを横目に、グレイグはようやく肩の力を抜いたのだった。

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下の記事で言っていたお話の冒頭が書けたので置いてみる…🤤
続きを読むからご覧いただけます。

注意書き(予定表)みたいなもの↓
・ロトゼタシアだけど本編のロトゼタシアとは異なるパラレルワールド。
・カミュが双子。弟は喪失くん、名前はエリック。
・グレイグ×エリック(喪失・弟)ホメロス×カミュ(通常・兄)です。
・双子の過去に性的な暴行を含む虐待、モブカミュ要素あり。
・グホはデルカダールの将軍を辞して現在は農夫と小説家。
・グレイグは右足に大怪我をして後遺症が残る身体になっています。

 01

 まだ青みがかった若麦が、初夏の風に吹かれて波打っていた。
 青空の下、広大な小麦畑の真ん中を、ポプラの並木道がどこまでも伸びている。

 グレイグは荷馬車を走らせ、ゆったりとした気分で道の先を眺めていた。
 若麦がそよぐ音と、馬のひづめが土を踏む音、ポプラの葉擦れ。バンデルフォン地方ののどかな景色は、どれだけ見ても飽くことがない。

「そろそろ船がつく頃か。無事に到着しているといいのだが」

 グレイグが目指しているのは、この先にある船着き場だった。デルカコスタ地方から船でやって来る二人の若者を、雇い主として迎えに行くためだ。

 彼らには農作業の補助や、屋敷の管理などを手伝ってほしいと思っている。しかし年若いということ以外、二人がどんな人物かまでは会ってみなければ分からない。

 紹介者は信頼に足る人間であるため、グレイグ自身はそう心配していないのだが。
 もう一人の雇い主であるホメロスと、馬が合うかどうか。それだけが気がかりなところだった。

「ヤツはなかなかに気難しい……というより、ワガママだからな……」

 誰に聞かせるでもなく、ぽつりとこぼす。
 もしここに本人がいたのなら、矢のように反論を浴びせられていたことだろう。饒舌に毒を吐く親友の姿を想像し、グレイグはつい苦笑してしまった。

 共にデルカダールの将軍として王に仕えていた頃、彼に扱かれて音を上げた新兵が、何人もいたことを思いだす。ここでも同じことにならなければいいのだが。

 懸念を胸に荷馬車を走らせ、やがて小麦畑は終わりを迎えた。左右にゴツゴツとした岩肌がそびえる小道は、荷馬車がどうにか通れるくらいの幅だった。

「船着き場はすぐそこだ。頼むぞ、リタリフォン」

 グレイグが操る荷馬車を引いているのは、愛馬リタリフォンだ。太陽の光をいっぱいに受けて、艶のあるたてがみが輝いている。
 ブフッと鼻を鳴らしながら、リタリフォンはグレイグに小さく反応を示した。

 小道を抜けると、そこには白い砂浜と青い海が広がっていた。

 船着き場のそばには小屋があり、グレイグはその裏手に荷馬車を止めた。
 御者台から降りると、右脚をわずかに引きずりながら小屋の正面に回り込む。

 すると木造の階段に、二人の若者の姿があった。
 一人は階段に腰をおろし、道具袋をぎゅっと抱きしめている。もう片方はその足元で腕を組んでたたずみ、海の向こうを見つめていた。

 その姿に、グレイグは思わず目を丸くした。
 どちらも青髪のツンツン頭で、着ている洋服も同じなら、顔の造形も同じだった。

(双子、か。いやしかし、これは……)

「あ」

 すると座り込んでいた一人がグレイグに気づいた。慌てた様子で立ち上がり、肩をすくめながらもう一人の青年の背に隠れてしまう。

「よう、アンタがオレたちの雇い主さん?」

 背後の青年を庇うようにしながら、気の強そうな青年が一歩前に出て言った。
 グレイグは内心の動揺を押し隠し、彼らに向かって歩みを進めた。

「遠路はるばるよく来てくれた。俺が雇い主のグレイグだ」

 右手を差しだすと、彼は口角を上げながら握手に応じた。
 小さな手だった。痩せっぽちな身体で、顔つきにもまだ幼さが残っている。グレイグが規格外であることを差し引いても、まだほんの子供にしか見えなかった。

「知ってるぜ。アンタ、デルカダールの将軍さまだろ?」
「……元、な」

 苦笑しながら、背後の青年の方に目をやった。彼は頑なにグレイグと目を合わせようとしなかった。どこか不安げな様子で、ただうつむいているだけだった。

「ところでお前たちは……」
「見ての通り双子だぜ。オレはカミュ。こっちは弟のエリックだ」

 エリックは肩をビクつかせ、カミュの背にいっそう隠れるようにして縮こまった。
 背筋を伸ばし、意志の強そうな瞳を持つ兄とは異なり、弟の方はまるで怯えきった子亀のように背を丸めている。同じ顔でも、気質はまったく異なっているらしい。

「ま、よろしく頼むぜ。元将軍さま」

 カミュは軽く小首をかしげて、愛嬌のある笑顔を見せた。

「あ、ああ。よろしく頼む」
「馬車はこっちだろ? はやくお屋敷とやらに行こうぜ」

 彼は少しせっかちなのか、さっさと歩きだしてしまった。その後ろを「ま、待って」と言いながら、エリックが小走りで追いかける。

「オレはこっちでいいよ」

 荷馬車を見るや、カミュは荷台に上がってどっかりと腰を落ち着けた。
 取り残されたエリックは立ち尽くし、青ざめた表情で道具袋を抱きしめている。

 その視線の先にいるのはリタリフォンだった。この馬もまた、グレイグと同じく規格外に巨大な馬だった。
 グレイグの視線に気づくと、エリックはいっそう肩をすくめてしまった。

「なあダンナ。あんまり怖い顔して睨まないでやってくれよ。そいつはどうも気が弱くてさ。特にアンタみたいなおっさん相手だと、オロオロビクビクしちまうんだ」

 カミュが荷台のヘリに肘をかけ、皮肉っぽく笑いながら言った。

「む、俺は睨んでなど……」

 いない──と言いかけて、口を噤んだ。
 ホメロスが毒舌で新兵を萎縮させるなら、グレイグはこの威圧感でもって畏怖されていた。臆病な若者ならなおのこと、エリックにとっては脅威でしかないのだろう。

 グレイグはいったん大きく息をつき、努めて表情を和らげながら言った。

「リタリフォンだ」
「っ、ぇ?」

 エリックがとっさに顔をあげてグレイグを見上げた。まん丸に見開かれた青い瞳に、グレイグはふっと笑って目を細めた。そしてリタリフォンの背を、ポンポンと軽く叩いて見せた。

「怖がることはない。リタリフォンは優しく、聡明だ。俺の自慢の愛馬だよ」

 エリックは、リタリフォンの黒く濡れた瞳をじっと見つめた。それからグレイグの目を見返し、少しだけホッとした様子で息を吐いた。
 まだ幾らか不安そうではあるが、すくんでいた肩が下がったのを見て、グレイグもまた安堵した。

「さあ行こう。もう一人の雇い主が待っている」

 エリックを御者台に乗せ、グレイグもその横に腰を下ろすと手綱を握った。



 *



 かつてグレイグとホメロスは、大国デルカダールの将軍として双璧をなしていた。
 剛健で実直な将軍グレイグと、冷静で知略家な軍師ホメロス。二人は幾多の戦いにおいて背を預け合い、王に仕えて国を守り続けてきた。

 だが、それももう過去の話だ。

 数年前、魔物たちとの激しい戦いの中で、グレイグは右脚に重傷を負った。
 それは今なお深刻な後遺症を残すほどで、かつてのように大剣をふるい、戦場を駆けることはできなくなった。

 ホメロスもまた思うところがあったのだろう。それを機に、二人は揃って退役を申しでた。王はその申し出を惜しみつつも受け入れ、二人に屋敷と土地を与えた。
 場所はバンデルフォン地方。グレイグの生まれ故郷だった。

 現在、グレイグはそこで小麦とブドウを育て、ホメロスは文筆業に勤しんでいる。
 将軍だった頃からは想像もできないほど、穏やかでのどかな暮らしには満足しかない。けれど一つだけ問題もあった。

 それは、二人とも破滅的に家事ができない、という点だった。

 近隣住民の手も借りながら、これまでなんとかやってきたつもりだが、それもそろそろ限界だ。王の計らいには深く感謝しているものの、たった二人で管理するには、土地も屋敷も広大すぎた。

 そんなある日のことである。
 グレイグのかつての部下が、酒を手土産に屋敷を訪ねてきた。
 昔話に花を咲かせながら、グレイグは元部下の男に使用人が欲しい旨を相談した。

 グレイグは農作業を手伝ってくれる、男の働き手が欲しいと言った。そしてホメロスは、身の回りの世話をしてくれるメイドが欲しいと言った。

 そう、「メイド」だ。
 知的でよく気が利く、見目麗しい女性のお手伝いを、彼は求めていたのだ。

 元部下の男は、酒に赤らんだ顔で「任せてください」と言った。
 便りが届いたのは、それからわずか一週間後のことだった。条件に合う若者が二人、見つかった──と。

続きができました→02

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グレイグ(農夫)とホメロス(小説家)が暮らすお屋敷に、使用人としてやってくる双子のカミュ(通常)とエリック(喪失)。
使い物にならなければすぐに叩き出すと言うホメロスと、何かと衝突が絶えないカミュ。心優しく穏やかで、まるで父親のように接してくれるグレイグに惹かれていくエリック。
ひとつ屋根の下で2つのカップルが成立するまでの話──

的な感じの妄想をしています。
グレミュ書こう!って思うとホメカミュが気になってくるし、気持ちがあっちゃこっちゃ行ってしまうので、だったら一粒で二度楽しんでしまえばいいのでは?という結論に至りました。
で、最近ずっとdアニで世界名作劇場をいろいろ見ていたんですが、冒頭のシーンを想像していた際に赤毛のアンを思いだしてしまった…。
リタリフォン馬車に乗ってグレイグおじさんが二人を迎えに来てくれるんですよ。だけど微妙に手違いがあり、二人のことが気に入らないホメロスは双子を追い返そうとするが……みたいな感じで…。
この妄想を形にできたらいいなぁと思いつつ、主カミュも書きたいしで自分が足りない(結局あっちゃこっちゃ行ってしまう気持ち)