小説 2025/04/12 Sat 下の記事で言っていたお話の冒頭が書けたので置いてみる…🤤続きを読むからご覧いただけます。注意書き(予定表)みたいなもの↓・ロトゼタシアだけど本編のロトゼタシアとは異なるパラレルワールド。・カミュが双子。弟は喪失くん、名前はエリック。・グレイグ×エリック(喪失・弟)ホメロス×カミュ(通常・兄)です。・双子の過去に性的な暴行を含む虐待、モブカミュ要素あり。・グホはデルカダールの将軍を辞して現在は農夫と小説家。・グレイグは右足に大怪我をして後遺症が残る身体になっています。続きを読む 01 まだ青みがかった若麦が、初夏の風に吹かれて波打っていた。 青空の下、広大な小麦畑の真ん中を、ポプラの並木道がどこまでも伸びている。 グレイグは荷馬車を走らせ、ゆったりとした気分で道の先を眺めていた。 若麦がそよぐ音と、馬のひづめが土を踏む音、ポプラの葉擦れ。バンデルフォン地方ののどかな景色は、どれだけ見ても飽くことがない。「そろそろ船がつく頃か。無事に到着しているといいのだが」 グレイグが目指しているのは、この先にある船着き場だった。デルカコスタ地方から船でやって来る二人の若者を、雇い主として迎えに行くためだ。 彼らには農作業の補助や、屋敷の管理などを手伝ってほしいと思っている。しかし年若いということ以外、二人がどんな人物かまでは会ってみなければ分からない。 紹介者は信頼に足る人間であるため、グレイグ自身はそう心配していないのだが。 もう一人の雇い主であるホメロスと、馬が合うかどうか。それだけが気がかりなところだった。「ヤツはなかなかに気難しい……というより、ワガママだからな……」 誰に聞かせるでもなく、ぽつりとこぼす。 もしここに本人がいたのなら、矢のように反論を浴びせられていたことだろう。饒舌に毒を吐く親友の姿を想像し、グレイグはつい苦笑してしまった。 共にデルカダールの将軍として王に仕えていた頃、彼に扱かれて音を上げた新兵が、何人もいたことを思いだす。ここでも同じことにならなければいいのだが。 懸念を胸に荷馬車を走らせ、やがて小麦畑は終わりを迎えた。左右にゴツゴツとした岩肌がそびえる小道は、荷馬車がどうにか通れるくらいの幅だった。「船着き場はすぐそこだ。頼むぞ、リタリフォン」 グレイグが操る荷馬車を引いているのは、愛馬リタリフォンだ。太陽の光をいっぱいに受けて、艶のあるたてがみが輝いている。 ブフッと鼻を鳴らしながら、リタリフォンはグレイグに小さく反応を示した。 小道を抜けると、そこには白い砂浜と青い海が広がっていた。 船着き場のそばには小屋があり、グレイグはその裏手に荷馬車を止めた。 御者台から降りると、右脚をわずかに引きずりながら小屋の正面に回り込む。 すると木造の階段に、二人の若者の姿があった。 一人は階段に腰をおろし、道具袋をぎゅっと抱きしめている。もう片方はその足元で腕を組んでたたずみ、海の向こうを見つめていた。 その姿に、グレイグは思わず目を丸くした。 どちらも青髪のツンツン頭で、着ている洋服も同じなら、顔の造形も同じだった。(双子、か。いやしかし、これは……)「あ」 すると座り込んでいた一人がグレイグに気づいた。慌てた様子で立ち上がり、肩をすくめながらもう一人の青年の背に隠れてしまう。「よう、アンタがオレたちの雇い主さん?」 背後の青年を庇うようにしながら、気の強そうな青年が一歩前に出て言った。 グレイグは内心の動揺を押し隠し、彼らに向かって歩みを進めた。「遠路はるばるよく来てくれた。俺が雇い主のグレイグだ」 右手を差しだすと、彼は口角を上げながら握手に応じた。 小さな手だった。痩せっぽちな身体で、顔つきにもまだ幼さが残っている。グレイグが規格外であることを差し引いても、まだほんの子供にしか見えなかった。「知ってるぜ。アンタ、デルカダールの将軍さまだろ?」「……元、な」 苦笑しながら、背後の青年の方に目をやった。彼は頑なにグレイグと目を合わせようとしなかった。どこか不安げな様子で、ただうつむいているだけだった。「ところでお前たちは……」「見ての通り双子だぜ。オレはカミュ。こっちは弟のエリックだ」 エリックは肩をビクつかせ、カミュの背にいっそう隠れるようにして縮こまった。 背筋を伸ばし、意志の強そうな瞳を持つ兄とは異なり、弟の方はまるで怯えきった子亀のように背を丸めている。同じ顔でも、気質はまったく異なっているらしい。「ま、よろしく頼むぜ。元将軍さま」 カミュは軽く小首をかしげて、愛嬌のある笑顔を見せた。「あ、ああ。よろしく頼む」「馬車はこっちだろ? はやくお屋敷とやらに行こうぜ」 彼は少しせっかちなのか、さっさと歩きだしてしまった。その後ろを「ま、待って」と言いながら、エリックが小走りで追いかける。「オレはこっちでいいよ」 荷馬車を見るや、カミュは荷台に上がってどっかりと腰を落ち着けた。 取り残されたエリックは立ち尽くし、青ざめた表情で道具袋を抱きしめている。 その視線の先にいるのはリタリフォンだった。この馬もまた、グレイグと同じく規格外に巨大な馬だった。 グレイグの視線に気づくと、エリックはいっそう肩をすくめてしまった。「なあダンナ。あんまり怖い顔して睨まないでやってくれよ。そいつはどうも気が弱くてさ。特にアンタみたいなおっさん相手だと、オロオロビクビクしちまうんだ」 カミュが荷台のヘリに肘をかけ、皮肉っぽく笑いながら言った。「む、俺は睨んでなど……」 いない──と言いかけて、口を噤んだ。 ホメロスが毒舌で新兵を萎縮させるなら、グレイグはこの威圧感でもって畏怖されていた。臆病な若者ならなおのこと、エリックにとっては脅威でしかないのだろう。 グレイグはいったん大きく息をつき、努めて表情を和らげながら言った。「リタリフォンだ」「っ、ぇ?」 エリックがとっさに顔をあげてグレイグを見上げた。まん丸に見開かれた青い瞳に、グレイグはふっと笑って目を細めた。そしてリタリフォンの背を、ポンポンと軽く叩いて見せた。「怖がることはない。リタリフォンは優しく、聡明だ。俺の自慢の愛馬だよ」 エリックは、リタリフォンの黒く濡れた瞳をじっと見つめた。それからグレイグの目を見返し、少しだけホッとした様子で息を吐いた。 まだ幾らか不安そうではあるが、すくんでいた肩が下がったのを見て、グレイグもまた安堵した。「さあ行こう。もう一人の雇い主が待っている」 エリックを御者台に乗せ、グレイグもその横に腰を下ろすと手綱を握った。 * かつてグレイグとホメロスは、大国デルカダールの将軍として双璧をなしていた。 剛健で実直な将軍グレイグと、冷静で知略家な軍師ホメロス。二人は幾多の戦いにおいて背を預け合い、王に仕えて国を守り続けてきた。 だが、それももう過去の話だ。 数年前、魔物たちとの激しい戦いの中で、グレイグは右脚に重傷を負った。 それは今なお深刻な後遺症を残すほどで、かつてのように大剣をふるい、戦場を駆けることはできなくなった。 ホメロスもまた思うところがあったのだろう。それを機に、二人は揃って退役を申しでた。王はその申し出を惜しみつつも受け入れ、二人に屋敷と土地を与えた。 場所はバンデルフォン地方。グレイグの生まれ故郷だった。 現在、グレイグはそこで小麦とブドウを育て、ホメロスは文筆業に勤しんでいる。 将軍だった頃からは想像もできないほど、穏やかでのどかな暮らしには満足しかない。けれど一つだけ問題もあった。 それは、二人とも破滅的に家事ができない、という点だった。 近隣住民の手も借りながら、これまでなんとかやってきたつもりだが、それもそろそろ限界だ。王の計らいには深く感謝しているものの、たった二人で管理するには、土地も屋敷も広大すぎた。 そんなある日のことである。 グレイグのかつての部下が、酒を手土産に屋敷を訪ねてきた。 昔話に花を咲かせながら、グレイグは元部下の男に使用人が欲しい旨を相談した。 グレイグは農作業を手伝ってくれる、男の働き手が欲しいと言った。そしてホメロスは、身の回りの世話をしてくれるメイドが欲しいと言った。 そう、「メイド」だ。 知的でよく気が利く、見目麗しい女性のお手伝いを、彼は求めていたのだ。 元部下の男は、酒に赤らんだ顔で「任せてください」と言った。 便りが届いたのは、それからわずか一週間後のことだった。条件に合う若者が二人、見つかった──と。 続きができました→02 畳む
続きを読むからご覧いただけます。
注意書き(予定表)みたいなもの↓
・ロトゼタシアだけど本編のロトゼタシアとは異なるパラレルワールド。
・カミュが双子。弟は喪失くん、名前はエリック。
・グレイグ×エリック(喪失・弟)ホメロス×カミュ(通常・兄)です。
・双子の過去に性的な暴行を含む虐待、モブカミュ要素あり。
・グホはデルカダールの将軍を辞して現在は農夫と小説家。
・グレイグは右足に大怪我をして後遺症が残る身体になっています。
01
まだ青みがかった若麦が、初夏の風に吹かれて波打っていた。
青空の下、広大な小麦畑の真ん中を、ポプラの並木道がどこまでも伸びている。
グレイグは荷馬車を走らせ、ゆったりとした気分で道の先を眺めていた。
若麦がそよぐ音と、馬のひづめが土を踏む音、ポプラの葉擦れ。バンデルフォン地方ののどかな景色は、どれだけ見ても飽くことがない。
「そろそろ船がつく頃か。無事に到着しているといいのだが」
グレイグが目指しているのは、この先にある船着き場だった。デルカコスタ地方から船でやって来る二人の若者を、雇い主として迎えに行くためだ。
彼らには農作業の補助や、屋敷の管理などを手伝ってほしいと思っている。しかし年若いということ以外、二人がどんな人物かまでは会ってみなければ分からない。
紹介者は信頼に足る人間であるため、グレイグ自身はそう心配していないのだが。
もう一人の雇い主であるホメロスと、馬が合うかどうか。それだけが気がかりなところだった。
「ヤツはなかなかに気難しい……というより、ワガママだからな……」
誰に聞かせるでもなく、ぽつりとこぼす。
もしここに本人がいたのなら、矢のように反論を浴びせられていたことだろう。饒舌に毒を吐く親友の姿を想像し、グレイグはつい苦笑してしまった。
共にデルカダールの将軍として王に仕えていた頃、彼に扱かれて音を上げた新兵が、何人もいたことを思いだす。ここでも同じことにならなければいいのだが。
懸念を胸に荷馬車を走らせ、やがて小麦畑は終わりを迎えた。左右にゴツゴツとした岩肌がそびえる小道は、荷馬車がどうにか通れるくらいの幅だった。
「船着き場はすぐそこだ。頼むぞ、リタリフォン」
グレイグが操る荷馬車を引いているのは、愛馬リタリフォンだ。太陽の光をいっぱいに受けて、艶のあるたてがみが輝いている。
ブフッと鼻を鳴らしながら、リタリフォンはグレイグに小さく反応を示した。
小道を抜けると、そこには白い砂浜と青い海が広がっていた。
船着き場のそばには小屋があり、グレイグはその裏手に荷馬車を止めた。
御者台から降りると、右脚をわずかに引きずりながら小屋の正面に回り込む。
すると木造の階段に、二人の若者の姿があった。
一人は階段に腰をおろし、道具袋をぎゅっと抱きしめている。もう片方はその足元で腕を組んでたたずみ、海の向こうを見つめていた。
その姿に、グレイグは思わず目を丸くした。
どちらも青髪のツンツン頭で、着ている洋服も同じなら、顔の造形も同じだった。
(双子、か。いやしかし、これは……)
「あ」
すると座り込んでいた一人がグレイグに気づいた。慌てた様子で立ち上がり、肩をすくめながらもう一人の青年の背に隠れてしまう。
「よう、アンタがオレたちの雇い主さん?」
背後の青年を庇うようにしながら、気の強そうな青年が一歩前に出て言った。
グレイグは内心の動揺を押し隠し、彼らに向かって歩みを進めた。
「遠路はるばるよく来てくれた。俺が雇い主のグレイグだ」
右手を差しだすと、彼は口角を上げながら握手に応じた。
小さな手だった。痩せっぽちな身体で、顔つきにもまだ幼さが残っている。グレイグが規格外であることを差し引いても、まだほんの子供にしか見えなかった。
「知ってるぜ。アンタ、デルカダールの将軍さまだろ?」
「……元、な」
苦笑しながら、背後の青年の方に目をやった。彼は頑なにグレイグと目を合わせようとしなかった。どこか不安げな様子で、ただうつむいているだけだった。
「ところでお前たちは……」
「見ての通り双子だぜ。オレはカミュ。こっちは弟のエリックだ」
エリックは肩をビクつかせ、カミュの背にいっそう隠れるようにして縮こまった。
背筋を伸ばし、意志の強そうな瞳を持つ兄とは異なり、弟の方はまるで怯えきった子亀のように背を丸めている。同じ顔でも、気質はまったく異なっているらしい。
「ま、よろしく頼むぜ。元将軍さま」
カミュは軽く小首をかしげて、愛嬌のある笑顔を見せた。
「あ、ああ。よろしく頼む」
「馬車はこっちだろ? はやくお屋敷とやらに行こうぜ」
彼は少しせっかちなのか、さっさと歩きだしてしまった。その後ろを「ま、待って」と言いながら、エリックが小走りで追いかける。
「オレはこっちでいいよ」
荷馬車を見るや、カミュは荷台に上がってどっかりと腰を落ち着けた。
取り残されたエリックは立ち尽くし、青ざめた表情で道具袋を抱きしめている。
その視線の先にいるのはリタリフォンだった。この馬もまた、グレイグと同じく規格外に巨大な馬だった。
グレイグの視線に気づくと、エリックはいっそう肩をすくめてしまった。
「なあダンナ。あんまり怖い顔して睨まないでやってくれよ。そいつはどうも気が弱くてさ。特にアンタみたいなおっさん相手だと、オロオロビクビクしちまうんだ」
カミュが荷台のヘリに肘をかけ、皮肉っぽく笑いながら言った。
「む、俺は睨んでなど……」
いない──と言いかけて、口を噤んだ。
ホメロスが毒舌で新兵を萎縮させるなら、グレイグはこの威圧感でもって畏怖されていた。臆病な若者ならなおのこと、エリックにとっては脅威でしかないのだろう。
グレイグはいったん大きく息をつき、努めて表情を和らげながら言った。
「リタリフォンだ」
「っ、ぇ?」
エリックがとっさに顔をあげてグレイグを見上げた。まん丸に見開かれた青い瞳に、グレイグはふっと笑って目を細めた。そしてリタリフォンの背を、ポンポンと軽く叩いて見せた。
「怖がることはない。リタリフォンは優しく、聡明だ。俺の自慢の愛馬だよ」
エリックは、リタリフォンの黒く濡れた瞳をじっと見つめた。それからグレイグの目を見返し、少しだけホッとした様子で息を吐いた。
まだ幾らか不安そうではあるが、すくんでいた肩が下がったのを見て、グレイグもまた安堵した。
「さあ行こう。もう一人の雇い主が待っている」
エリックを御者台に乗せ、グレイグもその横に腰を下ろすと手綱を握った。
*
かつてグレイグとホメロスは、大国デルカダールの将軍として双璧をなしていた。
剛健で実直な将軍グレイグと、冷静で知略家な軍師ホメロス。二人は幾多の戦いにおいて背を預け合い、王に仕えて国を守り続けてきた。
だが、それももう過去の話だ。
数年前、魔物たちとの激しい戦いの中で、グレイグは右脚に重傷を負った。
それは今なお深刻な後遺症を残すほどで、かつてのように大剣をふるい、戦場を駆けることはできなくなった。
ホメロスもまた思うところがあったのだろう。それを機に、二人は揃って退役を申しでた。王はその申し出を惜しみつつも受け入れ、二人に屋敷と土地を与えた。
場所はバンデルフォン地方。グレイグの生まれ故郷だった。
現在、グレイグはそこで小麦とブドウを育て、ホメロスは文筆業に勤しんでいる。
将軍だった頃からは想像もできないほど、穏やかでのどかな暮らしには満足しかない。けれど一つだけ問題もあった。
それは、二人とも破滅的に家事ができない、という点だった。
近隣住民の手も借りながら、これまでなんとかやってきたつもりだが、それもそろそろ限界だ。王の計らいには深く感謝しているものの、たった二人で管理するには、土地も屋敷も広大すぎた。
そんなある日のことである。
グレイグのかつての部下が、酒を手土産に屋敷を訪ねてきた。
昔話に花を咲かせながら、グレイグは元部下の男に使用人が欲しい旨を相談した。
グレイグは農作業を手伝ってくれる、男の働き手が欲しいと言った。そしてホメロスは、身の回りの世話をしてくれるメイドが欲しいと言った。
そう、「メイド」だ。
知的でよく気が利く、見目麗しい女性のお手伝いを、彼は求めていたのだ。
元部下の男は、酒に赤らんだ顔で「任せてください」と言った。
便りが届いたのは、それからわずか一週間後のことだった。条件に合う若者が二人、見つかった──と。
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