裏側

⚠️右ミュ全般なんでも叫ぶ

下の記事で言っていたお話の冒頭が書けたので置いてみる…🤤
続きを読むからご覧いただけます。

注意書き(予定表)みたいなもの↓
・ロトゼタシアだけど本編のロトゼタシアとは異なるパラレルワールド。
・カミュが双子。弟は喪失くん、名前はエリック。
・グレイグ×エリック(喪失・弟)ホメロス×カミュ(通常・兄)です。
・双子の過去に性的な暴行を含む虐待、モブカミュ要素あり。
・グホはデルカダールの将軍を辞して現在は農夫と小説家。
・グレイグは右足に大怪我をして後遺症が残る身体になっています。

 01

 まだ青みがかった若麦が、初夏の風に吹かれて波打っていた。
 青空の下、広大な小麦畑の真ん中を、ポプラの並木道がどこまでも伸びている。

 グレイグは荷馬車を走らせ、ゆったりとした気分で道の先を眺めていた。
 若麦がそよぐ音と、馬のひづめが土を踏む音、ポプラの葉擦れ。バンデルフォン地方ののどかな景色は、どれだけ見ても飽くことがない。

「そろそろ船がつく頃か。無事に到着しているといいのだが」

 グレイグが目指しているのは、この先にある船着き場だった。デルカコスタ地方から船でやって来る二人の若者を、雇い主として迎えに行くためだ。

 彼らには農作業の補助や、屋敷の管理などを手伝ってほしいと思っている。しかし年若いということ以外、二人がどんな人物かまでは会ってみなければ分からない。

 紹介者は信頼に足る人間であるため、グレイグ自身はそう心配していないのだが。
 もう一人の雇い主であるホメロスと、馬が合うかどうか。それだけが気がかりなところだった。

「ヤツはなかなかに気難しい……というより、ワガママだからな……」

 誰に聞かせるでもなく、ぽつりとこぼす。
 もしここに本人がいたのなら、矢のように反論を浴びせられていたことだろう。饒舌に毒を吐く親友の姿を想像し、グレイグはつい苦笑してしまった。

 共にデルカダールの将軍として王に仕えていた頃、彼に扱かれて音を上げた新兵が、何人もいたことを思いだす。ここでも同じことにならなければいいのだが。

 懸念を胸に荷馬車を走らせ、やがて小麦畑は終わりを迎えた。左右にゴツゴツとした岩肌がそびえる小道は、荷馬車がどうにか通れるくらいの幅だった。

「船着き場はすぐそこだ。頼むぞ、リタリフォン」

 グレイグが操る荷馬車を引いているのは、愛馬リタリフォンだ。太陽の光をいっぱいに受けて、艶のあるたてがみが輝いている。
 ブフッと鼻を鳴らしながら、リタリフォンはグレイグに小さく反応を示した。

 小道を抜けると、そこには白い砂浜と青い海が広がっていた。

 船着き場のそばには小屋があり、グレイグはその裏手に荷馬車を止めた。
 御者台から降りると、右脚をわずかに引きずりながら小屋の正面に回り込む。

 すると木造の階段に、二人の若者の姿があった。
 一人は階段に腰をおろし、道具袋をぎゅっと抱きしめている。もう片方はその足元で腕を組んでたたずみ、海の向こうを見つめていた。

 その姿に、グレイグは思わず目を丸くした。
 どちらも青髪のツンツン頭で、着ている洋服も同じなら、顔の造形も同じだった。

(双子、か。いやしかし、これは……)

「あ」

 すると座り込んでいた一人がグレイグに気づいた。慌てた様子で立ち上がり、肩をすくめながらもう一人の青年の背に隠れてしまう。

「よう、アンタがオレたちの雇い主さん?」

 背後の青年を庇うようにしながら、気の強そうな青年が一歩前に出て言った。
 グレイグは内心の動揺を押し隠し、彼らに向かって歩みを進めた。

「遠路はるばるよく来てくれた。俺が雇い主のグレイグだ」

 右手を差しだすと、彼は口角を上げながら握手に応じた。
 小さな手だった。痩せっぽちな身体で、顔つきにもまだ幼さが残っている。グレイグが規格外であることを差し引いても、まだほんの子供にしか見えなかった。

「知ってるぜ。アンタ、デルカダールの将軍さまだろ?」
「……元、な」

 苦笑しながら、背後の青年の方に目をやった。彼は頑なにグレイグと目を合わせようとしなかった。どこか不安げな様子で、ただうつむいているだけだった。

「ところでお前たちは……」
「見ての通り双子だぜ。オレはカミュ。こっちは弟のエリックだ」

 エリックは肩をビクつかせ、カミュの背にいっそう隠れるようにして縮こまった。
 背筋を伸ばし、意志の強そうな瞳を持つ兄とは異なり、弟の方はまるで怯えきった子亀のように背を丸めている。同じ顔でも、気質はまったく異なっているらしい。

「ま、よろしく頼むぜ。元将軍さま」

 カミュは軽く小首をかしげて、愛嬌のある笑顔を見せた。

「あ、ああ。よろしく頼む」
「馬車はこっちだろ? はやくお屋敷とやらに行こうぜ」

 彼は少しせっかちなのか、さっさと歩きだしてしまった。その後ろを「ま、待って」と言いながら、エリックが小走りで追いかける。

「オレはこっちでいいよ」

 荷馬車を見るや、カミュは荷台に上がってどっかりと腰を落ち着けた。
 取り残されたエリックは立ち尽くし、青ざめた表情で道具袋を抱きしめている。

 その視線の先にいるのはリタリフォンだった。この馬もまた、グレイグと同じく規格外に巨大な馬だった。
 グレイグの視線に気づくと、エリックはいっそう肩をすくめてしまった。

「なあダンナ。あんまり怖い顔して睨まないでやってくれよ。そいつはどうも気が弱くてさ。特にアンタみたいなおっさん相手だと、オロオロビクビクしちまうんだ」

 カミュが荷台のヘリに肘をかけ、皮肉っぽく笑いながら言った。

「む、俺は睨んでなど……」

 いない──と言いかけて、口を噤んだ。
 ホメロスが毒舌で新兵を萎縮させるなら、グレイグはこの威圧感でもって畏怖されていた。臆病な若者ならなおのこと、エリックにとっては脅威でしかないのだろう。

 グレイグはいったん大きく息をつき、努めて表情を和らげながら言った。

「リタリフォンだ」
「っ、ぇ?」

 エリックがとっさに顔をあげてグレイグを見上げた。まん丸に見開かれた青い瞳に、グレイグはふっと笑って目を細めた。そしてリタリフォンの背を、ポンポンと軽く叩いて見せた。

「怖がることはない。リタリフォンは優しく、聡明だ。俺の自慢の愛馬だよ」

 エリックは、リタリフォンの黒く濡れた瞳をじっと見つめた。それからグレイグの目を見返し、少しだけホッとした様子で息を吐いた。
 まだ幾らか不安そうではあるが、すくんでいた肩が下がったのを見て、グレイグもまた安堵した。

「さあ行こう。もう一人の雇い主が待っている」

 エリックを御者台に乗せ、グレイグもその横に腰を下ろすと手綱を握った。



 *



 かつてグレイグとホメロスは、大国デルカダールの将軍として双璧をなしていた。
 剛健で実直な将軍グレイグと、冷静で知略家な軍師ホメロス。二人は幾多の戦いにおいて背を預け合い、王に仕えて国を守り続けてきた。

 だが、それももう過去の話だ。

 数年前、魔物たちとの激しい戦いの中で、グレイグは右脚に重傷を負った。
 それは今なお深刻な後遺症を残すほどで、かつてのように大剣をふるい、戦場を駆けることはできなくなった。

 ホメロスもまた思うところがあったのだろう。それを機に、二人は揃って退役を申しでた。王はその申し出を惜しみつつも受け入れ、二人に屋敷と土地を与えた。
 場所はバンデルフォン地方。グレイグの生まれ故郷だった。

 現在、グレイグはそこで小麦とブドウを育て、ホメロスは文筆業に勤しんでいる。
 将軍だった頃からは想像もできないほど、穏やかでのどかな暮らしには満足しかない。けれど一つだけ問題もあった。

 それは、二人とも破滅的に家事ができない、という点だった。

 近隣住民の手も借りながら、これまでなんとかやってきたつもりだが、それもそろそろ限界だ。王の計らいには深く感謝しているものの、たった二人で管理するには、土地も屋敷も広大すぎた。

 そんなある日のことである。
 グレイグのかつての部下が、酒を手土産に屋敷を訪ねてきた。
 昔話に花を咲かせながら、グレイグは元部下の男に使用人が欲しい旨を相談した。

 グレイグは農作業を手伝ってくれる、男の働き手が欲しいと言った。そしてホメロスは、身の回りの世話をしてくれるメイドが欲しいと言った。

 そう、「メイド」だ。
 知的でよく気が利く、見目麗しい女性のお手伝いを、彼は求めていたのだ。

 元部下の男は、酒に赤らんだ顔で「任せてください」と言った。
 便りが届いたのは、それからわずか一週間後のことだった。条件に合う若者が二人、見つかった──と。

続きができました→02

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