2025/06/14 Sat ランタンの火が揺れるテントのなかで、想いを通じ合わせた二人の影が交わっている。 しっとりと色づく素肌に、イレブンは幾つもの痕を散らしながら愛を囁き続けた。 いたぶられたことはあっても、愛情が伴う行為には不慣れな身体を、根気よく時間をかけて開いていった。 「カミュ……、好きだよカミュ…ボクの可愛いカミュ……」 イレブンの上で腰を揺らめかせ、その雄の猛りを受け入れたカミュは、むずがるように首を振った。慣れない言葉に戸惑いながら、それでも好きだと告げられるたび、彼は熱いうねりと共にイレブンを締めつけてくる。 「ふぁっ、ぁ…ゃ…っ、頼む、おかしくなるから……もう、言うな……っ」 「愛してるんだ。何度でも言わせてほしい」 細腰に両手を添えて支えてやりながら、イレブンはゆっくりと腰を上下に揺らす。決して傷つけないよう慎重に、彼のペースに合わせて優しく突いた。 全身をしっとりと色づかせ、カミュの身体がビクビクと大きくわなないた。 「や、あぁっ、ぁ…ッ、ィ…くぅ、ン…──ッ!!」 カミュは子犬のような声をあげ、イレブンの腹の上に白濁を撒き散らした。 それでもなお痙攣の止まらない痩身が、くったりと胸に倒れ込んでくるのを抱きとめる。 イレブンの肉体が精神に追いついたことで、その身体はより小柄に感じられた。ヒクヒクと身を震わせ、か細く声を漏らし続ける姿に、いっそう愛おしさが募っていった。 「カミュ……」 優しくその名を呼びながら、見た目よりずっと柔らかな髪を撫でる。 イレブンはまだ達していなかったが、心は充分に満たされていた。このまま彼が眠ってしまっても構わないと思っていた。 「イレ、ブン……」 少しずつ呼吸が整ってきたカミュが、胸の上で身じろいだ。 「ん、なに」 「続き、しねえの?」 イレブンは笑ってうなずくと、空色の髪に唇を寄せて「もう充分だよ」と言った。自分の欲望を後回しにしてでも、今はこうして彼を甘やかしていたかった。 けれどカミュは納得していない様子で、顔をあげると物言いたげな瞳を向けてきた。 「ちゃんと、最後までしてくれよ。オレだって、お前によくなってほしいんだ」 そう言いながら、カミュはイレブンの鎖骨に赤らんだ顔を埋めてしまう。 「……好きなんだ、イレブンのこと。こんなに好きにさせたんだから、責任、取れよな」 ガン、と後ろ頭を殴られたような気分だった。ぬるま湯に浸ったようにポカポカとした気持ちが、一瞬で激しい劣情に上書きされる。 一体どうしろっていうんだ。いっそ叫びだしたい気持ちが溢れた。 「あぁ、カミュ……これ以上ボクをおかしくさせないでくれ……!」 夜ごとカミュを抱いて眠りながら、イレブンは理性を試されていたのだ。好きな子が腕の中にいて、やましい感情を抱かない男がいるとは思えない。それでも彼の気持ちがこちらを向くまでは、決して手をだすまいと誓いを立てていた。 その念願が叶って、これ以上に望むことはないと思っていたのに。 「ちょ、おい! 急にデカくすんなって…ッ、ぁ、ぅわ……っ!?」 イレブンはカミュの身体を強く抱き込み、そのまま体勢を反転させた。頭部に手をやってしっかりと支え、マットレスに横たえる。 「カミュ、好きだ。愛してる」 切羽詰まった愛の告白に、カミュはイレブンの両頬に触れながら、「もう分かったって」と苦笑した。 イレブンは堪らずその薄い唇にかぶりつく。いっそこのまま、頭から食べてしまいたかった。 「ん、ぅ……、ふ…っ、…っ」 イレブンの首に両腕を回し、痩せた舌がそれに応える。 腰に届くほど伸びた髪に、カミュの指が絡みつく。無意識にきゅっと握ったり、引っ張られたりするうちに、緩く編まれていた髪が解けてサラサラと雪崩をおこした。 「ぁ、ぁ…、髪……」 「いい、気にしないで」 ぼうっとけぶるように潤んだ瞳で、カミュはいとけなくうなずいた。イレブンの髪をひとふさ握り、口元へ運ぶと唇に押しつける。その愛らしい仕草にまた情欲を煽られた。 「カミュ……っ」 自身の髪ごと彼を抱きすくめ、イレブンは自らの欲を追いはじめた。 腕のなかで喘ぐ身体が、懸命にしがみついてくる。腰に両足が絡みつき、繋がりがいっそう深まった。 カミュの中は蕩けそうなほどに気持ちがよかった。狭い肉路を擦り上げるたび、ぐぷぐぷと淫らな音が響いてくる。ずっとこうしていたいと思うのに、思考は彼の臓腑に自分という雄の種を吐きだすことでいっぱいになっていた。 「カミュ…ッ、カミュ、…ぁ、もう……ッ」 カミュはうなずき、イレブンの頭を抱き込んだ。手櫛で髪を梳かすようにして、彼の指先が頭皮をなぞる。いつもより高く上ずったトーンで、カミュが耳元に「出して、イレブン」と甘く囁いた。それだけで、頭が真っ白になった。 「あぁっ、ぁ…ッ、イレブン…、イレブン……っ!」 「カミュ……ッ!」 積もり積もった想いの丈を、背筋を震わせながら中に吐きだす。 初めて恋をした相手を前に、イレブンは所詮16歳の若造と変わらぬ猛りをぶつけることしかできなかった。 射精時の無防備な状態でいるあいだ、カミュは変わらずイレブンの頭を撫で続けていた。 わずか19歳の青年が見せる、どこか母親めいた仕草に鼻の先がツンと痛んだ。ああ、情けないなと、イレブンは思う。射精後特有の感情が、そう思わせるのだろうか。 イレブンがわずかに顔をあげ、充血した瞳を向けると、カミュは「なんて顔だよ」と言って笑った。うるんだ瑠璃色の瞳があまりにも綺麗で、なにも言えなくなる。ただただ愛おしかった。そんなイレブンに、カミュは嬉しそうに言った。 「好きなやつが、オレで気持ちよくなってくれるのって、こんなに嬉しいことだったんだな。知らなかったよ」 「カミュ……」 「教えてくれてありがとな、イレブン」 イレブンは「あぁ」と深い息をつき、カミュの耳の脇に顔を埋めた。歓喜に沸き立つ心とは裏腹に、押し殺した声で「もう黙って」としか言えなかった。これ以上愛しくさせられたら、どうにかなってしまいそうだった。 カミュはそんなイレブンの機微を察して、「さっきのお返しだぜ」と愉快そうに言った。そうか、こんな気持ちだったのか。なら、おあいこだ。 けれどそれを言ったら、今回はカミュが達していなかった。二人の身体の間で、カミュの陰茎は半勃ちのまま放置されている。 「カミュ」 身じろいだイレブンに、意図を察したカミュは頬を赤らめて目をそらし、「おう」と照れ臭そうに返事した。それからイレブンの頭をいっそう引き寄せ、その耳元で内緒話をするような小声で言った。 「次は、もっと奥まで……来てくれよ」 イレブンはドキリとしながら息をのんだ。 最初の夜は薬の影響と、カミュに出会えたことへの感動で、歯止めがきかない状態だった。経験もなく、加減すら分からず、無遠慮に奥まで貫いてしまった。 そのことは今でも悔やんでいるが、まさかカミュの方から許しが出るとは思わなかった。 「あれ、怖かったけど……スゲェよかった、から……」 「ッ、……か、カミュ」 どうしろってんだ! と、いよいよ叫ばなかったのは、本気で奇跡だったと思う。 いかがわしい薬を使うより、カミュはよっぽどイレブンを舞い上がらせ、興奮させるのが上手いらしい。末恐ろしさを感じつつ、イレブンは理性を総動員させると言った。 「優しくする。絶対に、怖くはしないよ」 「……ん」 よほど恥ずかしかったのか、彼は全身を茹だったように赤くしながら、イレブンの首元に目元を埋めてうなずいた。 * 気づけばランタンの火は消えていた。 夜明け間近の薄青が、テント越しに闇を淡く照らしている。 じっくりと時間をかけて愛し合ったあと、ふたりは寄り添って毛布に包まりながら、ぽつりぽつりと取り止めのない会話をした。 その流れで、イレブンは改めて自身の生い立ちと旅の経緯を話して聞かせた。 ユグノアの悲劇と、誰も救えずに独り生き残ってしまったこと。自責の念から不死の呪いを招き、自死したくともできなかったこと。そこで預言者と出会い、予言に従ってここまでやって来たことを。 カミュはイレブンの腕を枕に、黙って話を聞いていた。 「気を悪くしたかい?」 イレブンの問いかけに、カミュは身体を反転させてうつ伏せになると、両肘を立てて首をかしげた。意図を掴めないでいる視線に、イレブンはふっと苦笑する。 「キミにひと目で惹かれたのは事実だ。だけど、キミはボクの呪いを解くための鍵でもあった。利用したと思われても仕方ない」 カミュは「別にいいさ」と、なんでもないことのように言って微笑んだ。 「オレだって、本当はどこかで待っていたのかもしれねえ。オレを引っ張り上げてくれる光をさ。それがお前でよかったって、心からそう思うよ」 「カミュ……ありがとう……」 カミュはへへっと笑うと「それにさ」と言って、イレブンの瞳をじっと見つめた。 「お前はオレに罪はないと言ったが、そっくりそのままお返しするぜ。ユグノアが滅んだのは魔物のせいだ。お前が背負うべき罪はないってな」 イレブンはアーモンド型の瞳をわずかに見開いた。 カミュは自分の左手の平に視線を落とす。 「生き残ったことには、必ず何か意味がある。オレはイレブン、お前と旅に出て、それを探したい。お前となら、見つけられる気がするんだ」 そう言って左手をぐっと握りしめ、カミュはイレブンを見て力強く笑った。 テントの向こう側で、薄青がぐっと明るさを増すのが分かった。夜明けに咲く花のように、彼の持つ瑠璃色はイレブンの胸を強く掴んで離さない。 この美しい宝玉を探し、焦がれて、10年もの孤独な旅をした。すべてはこの子に出会うための旅だった。 彼こそが人として生き、やがて死ぬことを赦してくれる、唯一の導き手なのだと、イレブンは改めて強く確信することができた。 (父上、母上……そして、大好きなユグノアの民) 愛していた。心から。そして今もなお。みなの未来が奪われて、自分だけが生き残った。 イレブンは、それを決して赦されない罪だと思っていた。こんな自分には、生きる意味も資格もない。だけど死ぬこともできず、たった独りで背負っていくものだと。 「多分さ」 ずっとそう、思っていた。 「生きるってのは、罪滅ぼしなんだよ。オレたちはきっと、生まれたときから罪人なんだ」 カミュが眠たげにまばたきをして、イレブンの肩にもたれかかってくる。 「飯を食うとき、いただきますって言うだろ? オレたちは、命をもらって生きてるんだろ? 魚だって肉だって、植物だってそうさ。もし半端なところで死を選んじまったら、そいつらの命をもらった意味がなくなっちまう。だからオレたちは、命数尽きるまで生きなきゃならねえんだよ」 カミュの身体から、くったりと力が抜けていく。 「たとえそれが、どんなに苦しくたってさ。一緒なら、平気だろ」 寝息すらも愛くるしい青年の肩を抱き、イレブンはその柔らかな髪に口元を埋めた。なぜだか不思議と泣けてきて、頬を一筋の涙が伝い落ちた。 思えば最後に泣いたのはいつだろう。あの悲劇の渦中にあってすら、イレブンは泣くことができなかった。 「──ありがとう」 この身を生かしてくれた、すべての愛しき人たちに。 イレブンはようやく、感謝を述べることができたのだった。 ←戻る ・ 次へ→
しっとりと色づく素肌に、イレブンは幾つもの痕を散らしながら愛を囁き続けた。
いたぶられたことはあっても、愛情が伴う行為には不慣れな身体を、根気よく時間をかけて開いていった。
「カミュ……、好きだよカミュ…ボクの可愛いカミュ……」
イレブンの上で腰を揺らめかせ、その雄の猛りを受け入れたカミュは、むずがるように首を振った。慣れない言葉に戸惑いながら、それでも好きだと告げられるたび、彼は熱いうねりと共にイレブンを締めつけてくる。
「ふぁっ、ぁ…ゃ…っ、頼む、おかしくなるから……もう、言うな……っ」
「愛してるんだ。何度でも言わせてほしい」
細腰に両手を添えて支えてやりながら、イレブンはゆっくりと腰を上下に揺らす。決して傷つけないよう慎重に、彼のペースに合わせて優しく突いた。
全身をしっとりと色づかせ、カミュの身体がビクビクと大きくわなないた。
「や、あぁっ、ぁ…ッ、ィ…くぅ、ン…──ッ!!」
カミュは子犬のような声をあげ、イレブンの腹の上に白濁を撒き散らした。
それでもなお痙攣の止まらない痩身が、くったりと胸に倒れ込んでくるのを抱きとめる。
イレブンの肉体が精神に追いついたことで、その身体はより小柄に感じられた。ヒクヒクと身を震わせ、か細く声を漏らし続ける姿に、いっそう愛おしさが募っていった。
「カミュ……」
優しくその名を呼びながら、見た目よりずっと柔らかな髪を撫でる。
イレブンはまだ達していなかったが、心は充分に満たされていた。このまま彼が眠ってしまっても構わないと思っていた。
「イレ、ブン……」
少しずつ呼吸が整ってきたカミュが、胸の上で身じろいだ。
「ん、なに」
「続き、しねえの?」
イレブンは笑ってうなずくと、空色の髪に唇を寄せて「もう充分だよ」と言った。自分の欲望を後回しにしてでも、今はこうして彼を甘やかしていたかった。
けれどカミュは納得していない様子で、顔をあげると物言いたげな瞳を向けてきた。
「ちゃんと、最後までしてくれよ。オレだって、お前によくなってほしいんだ」
そう言いながら、カミュはイレブンの鎖骨に赤らんだ顔を埋めてしまう。
「……好きなんだ、イレブンのこと。こんなに好きにさせたんだから、責任、取れよな」
ガン、と後ろ頭を殴られたような気分だった。ぬるま湯に浸ったようにポカポカとした気持ちが、一瞬で激しい劣情に上書きされる。
一体どうしろっていうんだ。いっそ叫びだしたい気持ちが溢れた。
「あぁ、カミュ……これ以上ボクをおかしくさせないでくれ……!」
夜ごとカミュを抱いて眠りながら、イレブンは理性を試されていたのだ。好きな子が腕の中にいて、やましい感情を抱かない男がいるとは思えない。それでも彼の気持ちがこちらを向くまでは、決して手をだすまいと誓いを立てていた。
その念願が叶って、これ以上に望むことはないと思っていたのに。
「ちょ、おい! 急にデカくすんなって…ッ、ぁ、ぅわ……っ!?」
イレブンはカミュの身体を強く抱き込み、そのまま体勢を反転させた。頭部に手をやってしっかりと支え、マットレスに横たえる。
「カミュ、好きだ。愛してる」
切羽詰まった愛の告白に、カミュはイレブンの両頬に触れながら、「もう分かったって」と苦笑した。
イレブンは堪らずその薄い唇にかぶりつく。いっそこのまま、頭から食べてしまいたかった。
「ん、ぅ……、ふ…っ、…っ」
イレブンの首に両腕を回し、痩せた舌がそれに応える。
腰に届くほど伸びた髪に、カミュの指が絡みつく。無意識にきゅっと握ったり、引っ張られたりするうちに、緩く編まれていた髪が解けてサラサラと雪崩をおこした。
「ぁ、ぁ…、髪……」
「いい、気にしないで」
ぼうっとけぶるように潤んだ瞳で、カミュはいとけなくうなずいた。イレブンの髪をひとふさ握り、口元へ運ぶと唇に押しつける。その愛らしい仕草にまた情欲を煽られた。
「カミュ……っ」
自身の髪ごと彼を抱きすくめ、イレブンは自らの欲を追いはじめた。
腕のなかで喘ぐ身体が、懸命にしがみついてくる。腰に両足が絡みつき、繋がりがいっそう深まった。
カミュの中は蕩けそうなほどに気持ちがよかった。狭い肉路を擦り上げるたび、ぐぷぐぷと淫らな音が響いてくる。ずっとこうしていたいと思うのに、思考は彼の臓腑に自分という雄の種を吐きだすことでいっぱいになっていた。
「カミュ…ッ、カミュ、…ぁ、もう……ッ」
カミュはうなずき、イレブンの頭を抱き込んだ。手櫛で髪を梳かすようにして、彼の指先が頭皮をなぞる。いつもより高く上ずったトーンで、カミュが耳元に「出して、イレブン」と甘く囁いた。それだけで、頭が真っ白になった。
「あぁっ、ぁ…ッ、イレブン…、イレブン……っ!」
「カミュ……ッ!」
積もり積もった想いの丈を、背筋を震わせながら中に吐きだす。
初めて恋をした相手を前に、イレブンは所詮16歳の若造と変わらぬ猛りをぶつけることしかできなかった。
射精時の無防備な状態でいるあいだ、カミュは変わらずイレブンの頭を撫で続けていた。
わずか19歳の青年が見せる、どこか母親めいた仕草に鼻の先がツンと痛んだ。ああ、情けないなと、イレブンは思う。射精後特有の感情が、そう思わせるのだろうか。
イレブンがわずかに顔をあげ、充血した瞳を向けると、カミュは「なんて顔だよ」と言って笑った。うるんだ瑠璃色の瞳があまりにも綺麗で、なにも言えなくなる。ただただ愛おしかった。そんなイレブンに、カミュは嬉しそうに言った。
「好きなやつが、オレで気持ちよくなってくれるのって、こんなに嬉しいことだったんだな。知らなかったよ」
「カミュ……」
「教えてくれてありがとな、イレブン」
イレブンは「あぁ」と深い息をつき、カミュの耳の脇に顔を埋めた。歓喜に沸き立つ心とは裏腹に、押し殺した声で「もう黙って」としか言えなかった。これ以上愛しくさせられたら、どうにかなってしまいそうだった。
カミュはそんなイレブンの機微を察して、「さっきのお返しだぜ」と愉快そうに言った。そうか、こんな気持ちだったのか。なら、おあいこだ。
けれどそれを言ったら、今回はカミュが達していなかった。二人の身体の間で、カミュの陰茎は半勃ちのまま放置されている。
「カミュ」
身じろいだイレブンに、意図を察したカミュは頬を赤らめて目をそらし、「おう」と照れ臭そうに返事した。それからイレブンの頭をいっそう引き寄せ、その耳元で内緒話をするような小声で言った。
「次は、もっと奥まで……来てくれよ」
イレブンはドキリとしながら息をのんだ。
最初の夜は薬の影響と、カミュに出会えたことへの感動で、歯止めがきかない状態だった。経験もなく、加減すら分からず、無遠慮に奥まで貫いてしまった。
そのことは今でも悔やんでいるが、まさかカミュの方から許しが出るとは思わなかった。
「あれ、怖かったけど……スゲェよかった、から……」
「ッ、……か、カミュ」
どうしろってんだ! と、いよいよ叫ばなかったのは、本気で奇跡だったと思う。
いかがわしい薬を使うより、カミュはよっぽどイレブンを舞い上がらせ、興奮させるのが上手いらしい。末恐ろしさを感じつつ、イレブンは理性を総動員させると言った。
「優しくする。絶対に、怖くはしないよ」
「……ん」
よほど恥ずかしかったのか、彼は全身を茹だったように赤くしながら、イレブンの首元に目元を埋めてうなずいた。
*
気づけばランタンの火は消えていた。
夜明け間近の薄青が、テント越しに闇を淡く照らしている。
じっくりと時間をかけて愛し合ったあと、ふたりは寄り添って毛布に包まりながら、ぽつりぽつりと取り止めのない会話をした。
その流れで、イレブンは改めて自身の生い立ちと旅の経緯を話して聞かせた。
ユグノアの悲劇と、誰も救えずに独り生き残ってしまったこと。自責の念から不死の呪いを招き、自死したくともできなかったこと。そこで預言者と出会い、予言に従ってここまでやって来たことを。
カミュはイレブンの腕を枕に、黙って話を聞いていた。
「気を悪くしたかい?」
イレブンの問いかけに、カミュは身体を反転させてうつ伏せになると、両肘を立てて首をかしげた。意図を掴めないでいる視線に、イレブンはふっと苦笑する。
「キミにひと目で惹かれたのは事実だ。だけど、キミはボクの呪いを解くための鍵でもあった。利用したと思われても仕方ない」
カミュは「別にいいさ」と、なんでもないことのように言って微笑んだ。
「オレだって、本当はどこかで待っていたのかもしれねえ。オレを引っ張り上げてくれる光をさ。それがお前でよかったって、心からそう思うよ」
「カミュ……ありがとう……」
カミュはへへっと笑うと「それにさ」と言って、イレブンの瞳をじっと見つめた。
「お前はオレに罪はないと言ったが、そっくりそのままお返しするぜ。ユグノアが滅んだのは魔物のせいだ。お前が背負うべき罪はないってな」
イレブンはアーモンド型の瞳をわずかに見開いた。
カミュは自分の左手の平に視線を落とす。
「生き残ったことには、必ず何か意味がある。オレはイレブン、お前と旅に出て、それを探したい。お前となら、見つけられる気がするんだ」
そう言って左手をぐっと握りしめ、カミュはイレブンを見て力強く笑った。
テントの向こう側で、薄青がぐっと明るさを増すのが分かった。夜明けに咲く花のように、彼の持つ瑠璃色はイレブンの胸を強く掴んで離さない。
この美しい宝玉を探し、焦がれて、10年もの孤独な旅をした。すべてはこの子に出会うための旅だった。
彼こそが人として生き、やがて死ぬことを赦してくれる、唯一の導き手なのだと、イレブンは改めて強く確信することができた。
(父上、母上……そして、大好きなユグノアの民)
愛していた。心から。そして今もなお。みなの未来が奪われて、自分だけが生き残った。
イレブンは、それを決して赦されない罪だと思っていた。こんな自分には、生きる意味も資格もない。だけど死ぬこともできず、たった独りで背負っていくものだと。
「多分さ」
ずっとそう、思っていた。
「生きるってのは、罪滅ぼしなんだよ。オレたちはきっと、生まれたときから罪人なんだ」
カミュが眠たげにまばたきをして、イレブンの肩にもたれかかってくる。
「飯を食うとき、いただきますって言うだろ? オレたちは、命をもらって生きてるんだろ? 魚だって肉だって、植物だってそうさ。もし半端なところで死を選んじまったら、そいつらの命をもらった意味がなくなっちまう。だからオレたちは、命数尽きるまで生きなきゃならねえんだよ」
カミュの身体から、くったりと力が抜けていく。
「たとえそれが、どんなに苦しくたってさ。一緒なら、平気だろ」
寝息すらも愛くるしい青年の肩を抱き、イレブンはその柔らかな髪に口元を埋めた。なぜだか不思議と泣けてきて、頬を一筋の涙が伝い落ちた。
思えば最後に泣いたのはいつだろう。あの悲劇の渦中にあってすら、イレブンは泣くことができなかった。
「──ありがとう」
この身を生かしてくれた、すべての愛しき人たちに。
イレブンはようやく、感謝を述べることができたのだった。
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