2025/09/17 Wed これは都合のいい現実だと、承太郎は言った。 早く受け入れてしまえ、と。 『おまえが欲しい。 いいか、おれだけだ。おれだけのものに』 あの言葉さえも。 ベッドの上、彼の指先が皮膚の表面を辿る光景を、花京院は信じられない気持ちでただ息を殺し、見つめている。 夢だと思った方がずっと、花京院にとっては現実味を帯びた光景だ。 (承太郎さんが、ぼくを、選んだ……?) 自分という存在は、きっとそこにいるだけで人を不快にするのだと思っていた。母の意志や言葉だけが、幼い頃から花京院の世界を縛りつける鎖、そのものだったからだ。 だけど承太郎は花京院を否定しなかった。 幼い頃に義父と関係を結び、そして何もかもがどうでもよくなって、男たちに身を預けようとした姿を見ても、彼は今こうして自分に触れている。 その指先はくすぐったいほどに優しくて、繊細だった。宝石でも扱うように大切に、慈しむように。そこから承太郎の気持ちが、温もりが、痛いほど伝わってくる。 初めて触れた母の手は、人形のように冷たかった。だけどこの手は、温かい。 「花京院」 低くて甘いバリトンは、震える吐息に乗って仄かに掠れていた。 美しい翡翠が熱っぽく揺らいでいるのが分かる。その瞳には、花京院だけが、映されていた。 (ああ) そうか。そうなんだ。 否定していたのも、拒絶していたのも、自分だった。 誰かに愛される自信がなかった。人と関わって傷つくのが怖かった。本当は欲しくて仕方がないくせに、壁を作って自ら遠ざけていた。 今もまだ怖い。だけど信じてみたい。受け入れてみたい。 この都合のいい、夢のような現実を。 (ぼくは、この人が好きだ。好きでいて、いいんだ) 体重を預けてくる承太郎の肩に、両手で縋りついて指先を震わせた。 肉厚な唇が、花京院の白い首筋に音を立てて吸いつく。するりと脇腹を撫でられて、ゾクゾクとした感覚が背筋を走り抜けた。 耳元に寄せられた唇が、吐息だけで「花京院」と囁く。心臓を直に掴まれたような気がして、ひゅうと喉が鳴った。 皮膚を辿る承太郎の手が、花京院の身体の中心に伸ばされた。僅かに起ち上がる性器に触れられると、なぜか粗相をしてしまったような、居たたまれない気持ちにさせられて、咄嗟に両膝を立てて身を捩った。 「だ、ダメ、さわっちゃ……ッ」 緩く扱かれるだけで、そこは一気に膨らんで完全に勃起した。こんなにも簡単に、承太郎の手の中で育ちきってしまう自身を、はしたないと思う。 けれど密着する承太郎の股間も、同じように硬く張り詰めていた。彼はまだ上を脱いだだけで下は身に着けたままだが、それでも十分に感触が伝わる。 同じくらい求められているのだと、そう思うだけで心が震えた。 膨らむ熱に疼きが増して、先端から蜜が滲みでる。腰から下がどろどろに蕩けてしまいそうで、優しく触れる手の感触をもどかしいとすら感じた。 「んッ……あ、じょ、たろ、さ……そこ」 「もっとか?」 「ん、ぅん、……あ、ぁ」 赤みを増していく性器が、先走りの力を借りて承太郎の掌さえも濡らしていく。鈍い水音を立てながら、長い指に握り込まれたそれを扱かれると、無意識に腰が揺らめいた。 承太郎は性器を扱く手はそのままに、いちど花京院の唇にキスをして、そのまま皮膚を辿り、音をたてながら痕を残していく。 ちゅ、ちゅ、という音が響く度に、花京院の身体は敏感に跳ね上がる。そんな自分の反応がやけに恥ずかしいものに思えて、甲高く鳴いてしまいそうな唇を必死で噛み締めた。 だけどまるでそれを咎めるように、承太郎の舌が片方の乳首を舐め上げ、吸い付きながら緩く歯を立てる。同時に性器の先端を親指の腹できつく擦られた。 「ひっ、ん、アッ、あぁッ……!」 堪らず悲鳴をあげながら喉を反らし、両手でシーツを掻き毟る。立てた両膝がガクガクと踊って、内腿の痙攣が止まらない。 全てを曝け出せと言われているようで、その支配に歓喜する自分を自覚した。きっと酷い顔をしていると思うのに、羞恥が膨らむほど身体は熱を上げる。 聞くに堪えない水音を響かせながら、承太郎は先端を集中的に扱く速度を速めた。飛び散る粒が下腹に降り注ぎ、シーツにすらシミを作る。容赦ない追い上げに、花京院は嫌々と首を振りながら身をしならせ、快感の涙で頬を濡らした。 「花京院」 承太郎の唇が、再び吐息だけで花京院の名を紡いだ。 なんて甘い声だろうか。大きく身体を跳ねさせながら、もうダメだと感じたときには、その手の中で白濁を散らしていた。 「イッ、ぅ、――ッ!!」 ぐん、とシーツから腰を浮かせ、張り詰めた身体から徐々に力が抜けていく。どろりと溶けた思考と余韻に震えながら、花京院は忙しなく胸を上下させて、はかはかと浅い呼吸を繰り返す。 承太郎が、ふっと満足げな息を漏らして身を乗り出し、濡れた目元に小さなキスを落とした。それから幾度も花京院の前髪を優しく掻き乱し、赤い顔にキスの雨を降らせる。 その行為はとても緩慢で、幼い子供をあやすような余裕さえ感じさせるのに、けれど次の瞬間には白濁に濡れた指先が、身体の奥まった場所に潜り込んできた。 「アッ、まっ……!」 咄嗟に身を起こそうとして、太い指が強引に捻じ込まれる痛みに全身が強張った。優しく触れていたはずの腕は花京院の両足を大きく割り開き、何かを確かめるような動きで硬い窄まりを探りはじめる。 「ぃ、痛い……ッ、承太郎さん……!」 「……たか?」 「な、に……?」 承太郎はひどく険しい顔をして、射抜くような視線を向けてきた。少し前の花京院なら、この鋭い視線にただ怯えるばかりだったに違いない。 だけど今は、不思議と恐怖心が湧いてこなかった。なぜか承太郎の表情が、宝物に傷をつけられた子供のように見えてしまったからだ。 「誰か、挿れたか? ここに」 言葉よりも先に、首を左右に振った。承太郎はそれでもしばらく唇を引き結んで眉間に皺を寄せていたが、すぐに息を吐いて「そうか」と言った。 承太郎の表情の険しさが解れていく様子を見ながら、指がゆっくりと引き抜かれていく。ほうっと細長く震えた息を漏らしながら、花京院は自然と笑顔を浮かべた。 「誰も挿れてません。だって、そのまえに、あなたが」 助けに来てくれたから。今にも貫かれそうにはなっていたけれど、花京院は心を閉ざして、身を投げ出そうとしてはいたけれど、承太郎が、来てくれた。 あのときの花京院は、感じることや考えることを全て放棄していて、ほとんど夢を見ているような状態ではあったけれど、ちゃんと覚えている。 多分あれがビデオのシナリオならば、とてもありがちで、安っぽい展開だと鼻で笑っていたと思う。現に今までがそうだった。 だけど今は違う。承太郎の言った通りだと思った。ここにある現実はとても都合がよくて、決して花京院を拒まないし、傷つけない。 薄っぺらい台本すら存在しない世界では、台詞だって用意されていなかった。 だから今、花京院は、花京院自身の言葉で。 (やっと) 承太郎に。 「ぼくは、承太郎さんがいい。他の人では、駄目なんです」 本当は言いたくて堪らなかった、閉じ込めておくつもりだった気持ちを。 「ずっと、初めて会ったときから、あなたのことが」 大丈夫。もう怖くない。 「……大好きです」 (言えた) 自分でも、上手く笑えているのかどうか分からなかった。ただ、涙が止まらなかった。 承太郎は僅かに見開いた瞳を、すっと細めて微笑んだ。この笑顔を、花京院はずっと前から知っている。彼の部屋で食事を共にした朝、あのときも承太郎は安堵したように、こうして優しい笑顔を見せていた。 (あのときからずっと、この人はぼくを大切に思ってくれていたんだ。ぼくは知っていたはずなのに。この人が、優しいくせにとても不器用な人だってこと) どちらから腕を伸ばしたのか、あるいは同時だったのか、身を起こした花京院は承太郎の腕に強く抱きしめられていた。 この大きな人の前では、自分の身体はひどくちっぽけで、小さなものになってしまうけれど、精いっぱいその背に腕を回して、抱きしめた。 * それから承太郎は衣服を全て脱ぎ捨てた。 花京院は胡坐をかく彼を跨ぎ、僅かに見下ろす姿勢になりながら、何度も口付けを交わす。まだ不器用な舌使いで、肉厚な舌の動きを追いかける。 それだけで砕けそうになる腰は、承太郎が片腕でしっかりと抱いていた。そして、もう片方の手は花京院の尻の谷間をじくじくと解している。 「ふ、ぅ、んん……っ」 二本にまで増やされている指だが、決して奥深くまでは届かない。承太郎はいちど強引に捻じ込んだことを謝罪するかのように、嫌というほど慎重に時間をかけて溶かすつもりでいるようだった。 いちど達しただけの性器は膨れ上がり、今や腹につくほど反り返っている。幾度か自分の手を伸ばしかけて、その度に「まだだ」と囁かれながら中のいい場所を引っ掻かれた。 花京院はすっかり赤くなった目で大粒の涙を零し、鼻をすすりながら幾度もしゃくりあげる。身体が熱くて、痛いくらい甘く痺れて、どうにかなりそうだった。 承太郎のものだって、痛々しいほどに張り詰めて脈打っているというのに。いっそこのまま、彼の手を遠ざけて腰を落としてしまいたかった。 「も、やだ、ぁ……ッ、たり、ないっ」 糸を引きながら離れた唇から、情けなく掠れた懇願の声を漏らす。承太郎の首にしがみついて、無意識に腰を揺らしながら首を振った。 「だめ、です……っ、そこ、もう、いいです、から……!」 「まだ二本だ。もう少し我慢しな」 「だって、だって、アッ! やだ、あ……ッ!」 承太郎の長い指が肉の壁をぐるりと撫でる。それから緩く折り曲げ、卑猥な音をたてながら抜き差しされた。彼はほんの数回の行為で、花京院の弱い場所を全て知り尽くしている。だけどそれだけではない。承太郎に触れられると、本当に何もかもがどうでもいいと思えるほど、感じてしまう。 「あぁ、んッ、や、ぁ、ほしい……じょうたろさん、ほしい、お願い、いれて、くださ、い……ッ!」 焼き切れそうだと、そう思ったときには頭の中でなにかがプツンと音を立てていた。 優しくされたい。愛されたい。だけど、それ以上に今は早く承太郎を感じたい。我儘だろうかと、まだほんの少しだけ抜けきらない臆病な自分が顔を覗かせる。 「ね、ダメ、ですか? じょうたろさん、んっ、ぁ、ぼく、わがまま、ですか? 嫌いに、なりますか?」 「ッ!」 手を伸ばし、天を仰ぐ承太郎の屹立に指先で触れた。大きくて、太くて、熱い。掌をかぶせるような動きで縦に緩く扱くと、その塊は激しく脈打った。 「承太郎さん、承太郎、さん……ッ、ねぇ……?」 承太郎が忌々しげに大きな溜息を漏らし、乱暴な舌打ちをした。ビクンと身を震わせ、目尻に涙を溜める花京院の中から指を引き抜くと、性器に触れていた手首を掴む。 「じょっ、わ、ぅッ!?」 次の瞬間さらに強く腰を抱かれて、見下ろしていたはずの承太郎に見下ろされていた。彼は心底苛立ったように「くそ」と吐き捨て、花京院の両足を割り開く。 「花京院、てめー……」 「承太郎、さん?」 「おれはもう、知らんぞ……」 「ぇ、あ……ッ」 燃えるように熱い塊の切っ先が、物欲しげにヒクつく花京院の穴に触れる。ぐっと圧を加えられるだけで、脳ミソごと蕩けそうな期待に身体が打ち震える。 「嫌いになんかなりようがねえし、我儘は……もっと言え」 「ヒッ、ぅ、ん……ッ!」 狭い場所が、無理やり抉じ開けられる感覚は確かに痛いし、苦しい。 だけどそれ以上に嬉しくて、身体はどうしようもなく悦んでいた。表情を歪め、額に汗を滲ませる承太郎からは、余裕の欠片も見られない。 初めて好きになった人が、こうして自分を求めてくれている。それでも彼は一気に貫こうとはしないのだ。もう知らん、なんて言ったくせに、じわじわと懸命にブレーキをかけて、傷つけないようにと歯を食いしばっている。 その優しさが、追い詰められたような顔が切ない。だけど、堪らなく愛おしかった。 「はぁ、あッ、じょ、たろ、さ……、も、っと、奥……ッ」 自分からも強く承太郎を引き寄せて、より奥深くへと誘うように両足をその腰に絡めた。承太郎の形がわかる。熱い肉が脈打っている。ゴムをつけずに彼を受け入れるのは初めてだと、それに気づいてより一層、悦びが増した。 全てを収めきってしまうと、承太郎は唇を花京院の耳に押し付けて、吐息だけで「痛いか」と問うてきた。花京院は彼の首に強くしがみつき、思い切り首を振る。 「うれ、しい……嬉しい、です……ッ、ん、ぁ」 「ッ、おい……あんまり煽るようなことを、言うんじゃあねえ」 すぐにイッちまう、なんて、なんだか少し情けないことを言いながら、腰を揺り動かす承太郎に合わせて、花京院も腰を揺らした。 もうこれ以上は広がりようがないほど狭い場所が、ごりごりと擦り上げられる。その熱量に息も絶え絶えになりながら、花京院は咽び泣いた。 徐々に動きが遠慮のないものになっていくと、摩擦に蕩けきった粘膜がいやらしい音を大きく響かせる。凄い、と思う。重なる呼吸も、隙間なく埋め込まれる感覚も、全てが彼のもので、この自分のもの、だなんて。 「イッ、きもち、い、アッ、ああぁ! じょ、たろ、さッ、じょう、たろ!」 承太郎は花京院をきつく抱きしめ、荒く湿った呼吸の合間に「いいぜ」と漏らした。 そのまま名前を呼べ、と。 わけもわからず、花京院は彼の望む通り泣き濡れた声で、承太郎の名を呼んだ。 「好き、じょうたろ、承太郎……ッ!」 「は、ッ……花京院……っ」 「ッ、ヒ、ぁッ――!!」 もう駄目だった。承太郎の背中に爪を立て、ぐんと身体を強張らせて、達してしまう。 身体の奥が弾けて、甘く鋭く溢れていく感覚は、いつも感じるよりずっと長く尾を引いた。声もなく目を見開いて絶頂の最中にいる花京院の中を、激しく突き上げていた承太郎も、やがて奥で弾けた。腹の底に叩きつけられたそれはじわりと広がり、その熱さにひっ、ひっ、と引き攣った息が漏れる。 承太郎のものは花京院の中で、未だに硬く張り詰めたままだった。きっと、このまま続けたら死んでしまう。だけどもういっそ、それでいいような気もして、気がたった獣のように荒々しく呼吸する承太郎の頭を、ぎゅうと抱きしめた。 「大好きです、承太郎」 だからもっと、ぼくを愛して。 ←戻る ・ 次へ→
早く受け入れてしまえ、と。
『おまえが欲しい。
いいか、おれだけだ。おれだけのものに』
あの言葉さえも。
ベッドの上、彼の指先が皮膚の表面を辿る光景を、花京院は信じられない気持ちでただ息を殺し、見つめている。
夢だと思った方がずっと、花京院にとっては現実味を帯びた光景だ。
(承太郎さんが、ぼくを、選んだ……?)
自分という存在は、きっとそこにいるだけで人を不快にするのだと思っていた。母の意志や言葉だけが、幼い頃から花京院の世界を縛りつける鎖、そのものだったからだ。
だけど承太郎は花京院を否定しなかった。
幼い頃に義父と関係を結び、そして何もかもがどうでもよくなって、男たちに身を預けようとした姿を見ても、彼は今こうして自分に触れている。
その指先はくすぐったいほどに優しくて、繊細だった。宝石でも扱うように大切に、慈しむように。そこから承太郎の気持ちが、温もりが、痛いほど伝わってくる。
初めて触れた母の手は、人形のように冷たかった。だけどこの手は、温かい。
「花京院」
低くて甘いバリトンは、震える吐息に乗って仄かに掠れていた。
美しい翡翠が熱っぽく揺らいでいるのが分かる。その瞳には、花京院だけが、映されていた。
(ああ)
そうか。そうなんだ。
否定していたのも、拒絶していたのも、自分だった。
誰かに愛される自信がなかった。人と関わって傷つくのが怖かった。本当は欲しくて仕方がないくせに、壁を作って自ら遠ざけていた。
今もまだ怖い。だけど信じてみたい。受け入れてみたい。
この都合のいい、夢のような現実を。
(ぼくは、この人が好きだ。好きでいて、いいんだ)
体重を預けてくる承太郎の肩に、両手で縋りついて指先を震わせた。
肉厚な唇が、花京院の白い首筋に音を立てて吸いつく。するりと脇腹を撫でられて、ゾクゾクとした感覚が背筋を走り抜けた。
耳元に寄せられた唇が、吐息だけで「花京院」と囁く。心臓を直に掴まれたような気がして、ひゅうと喉が鳴った。
皮膚を辿る承太郎の手が、花京院の身体の中心に伸ばされた。僅かに起ち上がる性器に触れられると、なぜか粗相をしてしまったような、居たたまれない気持ちにさせられて、咄嗟に両膝を立てて身を捩った。
「だ、ダメ、さわっちゃ……ッ」
緩く扱かれるだけで、そこは一気に膨らんで完全に勃起した。こんなにも簡単に、承太郎の手の中で育ちきってしまう自身を、はしたないと思う。
けれど密着する承太郎の股間も、同じように硬く張り詰めていた。彼はまだ上を脱いだだけで下は身に着けたままだが、それでも十分に感触が伝わる。
同じくらい求められているのだと、そう思うだけで心が震えた。
膨らむ熱に疼きが増して、先端から蜜が滲みでる。腰から下がどろどろに蕩けてしまいそうで、優しく触れる手の感触をもどかしいとすら感じた。
「んッ……あ、じょ、たろ、さ……そこ」
「もっとか?」
「ん、ぅん、……あ、ぁ」
赤みを増していく性器が、先走りの力を借りて承太郎の掌さえも濡らしていく。鈍い水音を立てながら、長い指に握り込まれたそれを扱かれると、無意識に腰が揺らめいた。
承太郎は性器を扱く手はそのままに、いちど花京院の唇にキスをして、そのまま皮膚を辿り、音をたてながら痕を残していく。
ちゅ、ちゅ、という音が響く度に、花京院の身体は敏感に跳ね上がる。そんな自分の反応がやけに恥ずかしいものに思えて、甲高く鳴いてしまいそうな唇を必死で噛み締めた。
だけどまるでそれを咎めるように、承太郎の舌が片方の乳首を舐め上げ、吸い付きながら緩く歯を立てる。同時に性器の先端を親指の腹できつく擦られた。
「ひっ、ん、アッ、あぁッ……!」
堪らず悲鳴をあげながら喉を反らし、両手でシーツを掻き毟る。立てた両膝がガクガクと踊って、内腿の痙攣が止まらない。
全てを曝け出せと言われているようで、その支配に歓喜する自分を自覚した。きっと酷い顔をしていると思うのに、羞恥が膨らむほど身体は熱を上げる。
聞くに堪えない水音を響かせながら、承太郎は先端を集中的に扱く速度を速めた。飛び散る粒が下腹に降り注ぎ、シーツにすらシミを作る。容赦ない追い上げに、花京院は嫌々と首を振りながら身をしならせ、快感の涙で頬を濡らした。
「花京院」
承太郎の唇が、再び吐息だけで花京院の名を紡いだ。
なんて甘い声だろうか。大きく身体を跳ねさせながら、もうダメだと感じたときには、その手の中で白濁を散らしていた。
「イッ、ぅ、――ッ!!」
ぐん、とシーツから腰を浮かせ、張り詰めた身体から徐々に力が抜けていく。どろりと溶けた思考と余韻に震えながら、花京院は忙しなく胸を上下させて、はかはかと浅い呼吸を繰り返す。
承太郎が、ふっと満足げな息を漏らして身を乗り出し、濡れた目元に小さなキスを落とした。それから幾度も花京院の前髪を優しく掻き乱し、赤い顔にキスの雨を降らせる。
その行為はとても緩慢で、幼い子供をあやすような余裕さえ感じさせるのに、けれど次の瞬間には白濁に濡れた指先が、身体の奥まった場所に潜り込んできた。
「アッ、まっ……!」
咄嗟に身を起こそうとして、太い指が強引に捻じ込まれる痛みに全身が強張った。優しく触れていたはずの腕は花京院の両足を大きく割り開き、何かを確かめるような動きで硬い窄まりを探りはじめる。
「ぃ、痛い……ッ、承太郎さん……!」
「……たか?」
「な、に……?」
承太郎はひどく険しい顔をして、射抜くような視線を向けてきた。少し前の花京院なら、この鋭い視線にただ怯えるばかりだったに違いない。
だけど今は、不思議と恐怖心が湧いてこなかった。なぜか承太郎の表情が、宝物に傷をつけられた子供のように見えてしまったからだ。
「誰か、挿れたか? ここに」
言葉よりも先に、首を左右に振った。承太郎はそれでもしばらく唇を引き結んで眉間に皺を寄せていたが、すぐに息を吐いて「そうか」と言った。
承太郎の表情の険しさが解れていく様子を見ながら、指がゆっくりと引き抜かれていく。ほうっと細長く震えた息を漏らしながら、花京院は自然と笑顔を浮かべた。
「誰も挿れてません。だって、そのまえに、あなたが」
助けに来てくれたから。今にも貫かれそうにはなっていたけれど、花京院は心を閉ざして、身を投げ出そうとしてはいたけれど、承太郎が、来てくれた。
あのときの花京院は、感じることや考えることを全て放棄していて、ほとんど夢を見ているような状態ではあったけれど、ちゃんと覚えている。
多分あれがビデオのシナリオならば、とてもありがちで、安っぽい展開だと鼻で笑っていたと思う。現に今までがそうだった。
だけど今は違う。承太郎の言った通りだと思った。ここにある現実はとても都合がよくて、決して花京院を拒まないし、傷つけない。
薄っぺらい台本すら存在しない世界では、台詞だって用意されていなかった。
だから今、花京院は、花京院自身の言葉で。
(やっと)
承太郎に。
「ぼくは、承太郎さんがいい。他の人では、駄目なんです」
本当は言いたくて堪らなかった、閉じ込めておくつもりだった気持ちを。
「ずっと、初めて会ったときから、あなたのことが」
大丈夫。もう怖くない。
「……大好きです」
(言えた)
自分でも、上手く笑えているのかどうか分からなかった。ただ、涙が止まらなかった。
承太郎は僅かに見開いた瞳を、すっと細めて微笑んだ。この笑顔を、花京院はずっと前から知っている。彼の部屋で食事を共にした朝、あのときも承太郎は安堵したように、こうして優しい笑顔を見せていた。
(あのときからずっと、この人はぼくを大切に思ってくれていたんだ。ぼくは知っていたはずなのに。この人が、優しいくせにとても不器用な人だってこと)
どちらから腕を伸ばしたのか、あるいは同時だったのか、身を起こした花京院は承太郎の腕に強く抱きしめられていた。
この大きな人の前では、自分の身体はひどくちっぽけで、小さなものになってしまうけれど、精いっぱいその背に腕を回して、抱きしめた。
*
それから承太郎は衣服を全て脱ぎ捨てた。
花京院は胡坐をかく彼を跨ぎ、僅かに見下ろす姿勢になりながら、何度も口付けを交わす。まだ不器用な舌使いで、肉厚な舌の動きを追いかける。
それだけで砕けそうになる腰は、承太郎が片腕でしっかりと抱いていた。そして、もう片方の手は花京院の尻の谷間をじくじくと解している。
「ふ、ぅ、んん……っ」
二本にまで増やされている指だが、決して奥深くまでは届かない。承太郎はいちど強引に捻じ込んだことを謝罪するかのように、嫌というほど慎重に時間をかけて溶かすつもりでいるようだった。
いちど達しただけの性器は膨れ上がり、今や腹につくほど反り返っている。幾度か自分の手を伸ばしかけて、その度に「まだだ」と囁かれながら中のいい場所を引っ掻かれた。
花京院はすっかり赤くなった目で大粒の涙を零し、鼻をすすりながら幾度もしゃくりあげる。身体が熱くて、痛いくらい甘く痺れて、どうにかなりそうだった。
承太郎のものだって、痛々しいほどに張り詰めて脈打っているというのに。いっそこのまま、彼の手を遠ざけて腰を落としてしまいたかった。
「も、やだ、ぁ……ッ、たり、ないっ」
糸を引きながら離れた唇から、情けなく掠れた懇願の声を漏らす。承太郎の首にしがみついて、無意識に腰を揺らしながら首を振った。
「だめ、です……っ、そこ、もう、いいです、から……!」
「まだ二本だ。もう少し我慢しな」
「だって、だって、アッ! やだ、あ……ッ!」
承太郎の長い指が肉の壁をぐるりと撫でる。それから緩く折り曲げ、卑猥な音をたてながら抜き差しされた。彼はほんの数回の行為で、花京院の弱い場所を全て知り尽くしている。だけどそれだけではない。承太郎に触れられると、本当に何もかもがどうでもいいと思えるほど、感じてしまう。
「あぁ、んッ、や、ぁ、ほしい……じょうたろさん、ほしい、お願い、いれて、くださ、い……ッ!」
焼き切れそうだと、そう思ったときには頭の中でなにかがプツンと音を立てていた。
優しくされたい。愛されたい。だけど、それ以上に今は早く承太郎を感じたい。我儘だろうかと、まだほんの少しだけ抜けきらない臆病な自分が顔を覗かせる。
「ね、ダメ、ですか? じょうたろさん、んっ、ぁ、ぼく、わがまま、ですか? 嫌いに、なりますか?」
「ッ!」
手を伸ばし、天を仰ぐ承太郎の屹立に指先で触れた。大きくて、太くて、熱い。掌をかぶせるような動きで縦に緩く扱くと、その塊は激しく脈打った。
「承太郎さん、承太郎、さん……ッ、ねぇ……?」
承太郎が忌々しげに大きな溜息を漏らし、乱暴な舌打ちをした。ビクンと身を震わせ、目尻に涙を溜める花京院の中から指を引き抜くと、性器に触れていた手首を掴む。
「じょっ、わ、ぅッ!?」
次の瞬間さらに強く腰を抱かれて、見下ろしていたはずの承太郎に見下ろされていた。彼は心底苛立ったように「くそ」と吐き捨て、花京院の両足を割り開く。
「花京院、てめー……」
「承太郎、さん?」
「おれはもう、知らんぞ……」
「ぇ、あ……ッ」
燃えるように熱い塊の切っ先が、物欲しげにヒクつく花京院の穴に触れる。ぐっと圧を加えられるだけで、脳ミソごと蕩けそうな期待に身体が打ち震える。
「嫌いになんかなりようがねえし、我儘は……もっと言え」
「ヒッ、ぅ、ん……ッ!」
狭い場所が、無理やり抉じ開けられる感覚は確かに痛いし、苦しい。
だけどそれ以上に嬉しくて、身体はどうしようもなく悦んでいた。表情を歪め、額に汗を滲ませる承太郎からは、余裕の欠片も見られない。
初めて好きになった人が、こうして自分を求めてくれている。それでも彼は一気に貫こうとはしないのだ。もう知らん、なんて言ったくせに、じわじわと懸命にブレーキをかけて、傷つけないようにと歯を食いしばっている。
その優しさが、追い詰められたような顔が切ない。だけど、堪らなく愛おしかった。
「はぁ、あッ、じょ、たろ、さ……、も、っと、奥……ッ」
自分からも強く承太郎を引き寄せて、より奥深くへと誘うように両足をその腰に絡めた。承太郎の形がわかる。熱い肉が脈打っている。ゴムをつけずに彼を受け入れるのは初めてだと、それに気づいてより一層、悦びが増した。
全てを収めきってしまうと、承太郎は唇を花京院の耳に押し付けて、吐息だけで「痛いか」と問うてきた。花京院は彼の首に強くしがみつき、思い切り首を振る。
「うれ、しい……嬉しい、です……ッ、ん、ぁ」
「ッ、おい……あんまり煽るようなことを、言うんじゃあねえ」
すぐにイッちまう、なんて、なんだか少し情けないことを言いながら、腰を揺り動かす承太郎に合わせて、花京院も腰を揺らした。
もうこれ以上は広がりようがないほど狭い場所が、ごりごりと擦り上げられる。その熱量に息も絶え絶えになりながら、花京院は咽び泣いた。
徐々に動きが遠慮のないものになっていくと、摩擦に蕩けきった粘膜がいやらしい音を大きく響かせる。凄い、と思う。重なる呼吸も、隙間なく埋め込まれる感覚も、全てが彼のもので、この自分のもの、だなんて。
「イッ、きもち、い、アッ、ああぁ! じょ、たろ、さッ、じょう、たろ!」
承太郎は花京院をきつく抱きしめ、荒く湿った呼吸の合間に「いいぜ」と漏らした。
そのまま名前を呼べ、と。
わけもわからず、花京院は彼の望む通り泣き濡れた声で、承太郎の名を呼んだ。
「好き、じょうたろ、承太郎……ッ!」
「は、ッ……花京院……っ」
「ッ、ヒ、ぁッ――!!」
もう駄目だった。承太郎の背中に爪を立て、ぐんと身体を強張らせて、達してしまう。
身体の奥が弾けて、甘く鋭く溢れていく感覚は、いつも感じるよりずっと長く尾を引いた。声もなく目を見開いて絶頂の最中にいる花京院の中を、激しく突き上げていた承太郎も、やがて奥で弾けた。腹の底に叩きつけられたそれはじわりと広がり、その熱さにひっ、ひっ、と引き攣った息が漏れる。
承太郎のものは花京院の中で、未だに硬く張り詰めたままだった。きっと、このまま続けたら死んでしまう。だけどもういっそ、それでいいような気もして、気がたった獣のように荒々しく呼吸する承太郎の頭を、ぎゅうと抱きしめた。
「大好きです、承太郎」
だからもっと、ぼくを愛して。
←戻る ・ 次へ→