2025/09/19 Fri 白猫、自己嫌悪とタイ焼きとムキムキの巻 思いっきり鬱な気分だった。 ファイは一人きりで部屋の中央にコロリと横になりながら、畳の目を爪の先でガリガリしつつ、溜息を零した。 「もうしないって……決めたのに……」 とんでもなく惨めな気持ちになりつつ時計を見やっても、深夜0時を少し過ぎた辺りから、針はなかなか動かない。 黒鋼の帰宅時間はまだまだ先だった。 そもそもなぜ留守番中のファイがここまでの落ち込みを見せているかと言うと……。 本日、黒鋼は昼も夜もバイトだった。対してファイはなんとなく臀部が痺れてだるかったため、今日は一日ひたすら横になっていた。 眠って起きると黒鋼が帰宅して、軽く食事とシャワーを済ませた後に、また夜の仕事へと慌ただしく出かけて行った。 鍛え方に雲泥の差があるファイは、彼のタフさに心底驚いた。 自分もちょっとは鍛えてみようか……なんて思いながら、考えることと言えば昨夜の黒鋼の言葉ばかりだった。 『抱きてぇよ。おまえを』 思いだすだけで全身から火を噴きそうなくらい恥ずかしかった。 叫びだしそうなくらい照れまくって、部屋の隅から隅まで転げまわるほど嬉しかった。実際、ファイは転がりながら一人悶えた。 交尾が具体的にどういったものか、いくらそれを避けて通って来たファイだって、ちゃんと知っている。 だがそれが男性同士の性交でも可能だなんて、想像もしなかった。(場所は違うようだが) 確かにどうして黒鋼がやたら後ろを弄るのか、それはずっと疑問に思っていたのだ。 指だけであんなに気持ちがいいのなら、黒鋼のアレを入れたらどうなるのだろう。そもそも、あれだけ大きなものが入るのだろうか。 そんな不安は多少あれども、ファイの中では期待感の方が大きかった。 何より、今よりもっと黒鋼が気持ちよくなってくれるなら、ファイとしてはこれほど喜ばしいことはない。 今ではもうすっかり、長きに渡って抱え続けていた交尾へのトラウマが露と消えているから不思議だった。 ちなみに数日前、黒鋼にも後ろで気持ち良くなって欲しくて同じことをしてやろうとした。が、そのときはなぜか凄く怒られた……。 このままでは熱を出して死んでしまいそうだと思ったファイは、自主的にシャワーを浴びることにした。 することもないし、ちょっと温めのお湯でも浴びて、今夜はテレビでも見ながら眠ってしまおう。 そう思ったものの、風呂場でシャワーを浴びていてもファイの頭の中は黒鋼だらけだった。 本当に入るのかなぁ……。 気づけばやっぱりそれしか考えられなくて、ファイは思いっきりムラムラしてしまったのである。 黒鋼のあの大きなブツは、その形まですっかり覚えてしまった。 怖かったのは最初のうちだけで、今では手で触れるのも舐めるのも大好きになった。 純真無垢だった一週間前のオレ、お元気ですか……と多少の哀愁を胸に、ファイは堪らず二度としないと決めた自慰に耽ってしまった。 しかも、ご丁寧に自分で指を舐めて濡らして、後ろの穴までいじって。 自分の指だと普段とは感覚が違っていて、はっきり言って物足りなかった。 やっぱり黒鋼の指がいい。黒鋼じゃないと足りない。 彼のごつごつして男らしい指をぎゅっと締め付けると、それだけで泣きそうなくらい切なくて幸せだった。 自慰に耽る間は彼のことばかり考えていられたけれど、いざ出すものを出し切ってしまうと、そこには深い後悔と自己嫌悪だけが残った。 黒鋼は別に悪いことではないと言ってくれたけれど、やっぱり虚しくて気持ちが落ち込んでしまったのである。 +++ 深夜2時ころ、黒鋼が帰宅した。 浅い眠りと覚醒を幾度となく繰り返していたファイは、その音に飛び起きて彼を少し驚かせた。 「なんだおまえ、起きてたのか」 「寝てたけど起きたー! おかえりー!」 ファイは電気をつける黒鋼に、思いっきり抱きつく。 「寝起きにしちゃ俊敏だな」 苦笑する彼はそれでもファイを抱き返して、もうすっかり当たり前の習慣になっている口づけを交わす。 なぜかそれを照れ臭く感じて、ファイは頬を染めながらはにかんだ。 「なんか、変だよね」 「なんだよ」 「裸じゃない黒たんとぎゅってするの、久しぶりな気がする」 あれほど落ち込んでいたのが、彼が傍にいると思うだけでどうでもよくなった。 ただひたすら胸が熱くて、顔も熱くて、ドキドキする。恋しちゃってるんだな、と思うと際限もなくときめいてしまう自分がくすぐったくて、恥ずかしかった。 「そういや、そうだな」 黒鋼も少し照れ臭くなったのか、ゴホンと咳払いをした。 それから、誤魔化すように「ほれ」と言ってファイにビニール袋を手渡してきた。 「なぁにー?」 受け取りながらテーブルの側にペタンと腰を下ろす。 「土産。貰いもんだが」 「なになにー? あ! タイ焼きだー!」 ビニールの中には白い箱が入っていて、中にはどっしりとしたタイ焼きが幾つか詰まっている。 「美味しそうー!」 「食え」 「うわぁい! いっただきまー……」 だがそこで、ファイはピタリと動きを止めた。 「どうした?」 「ねぇねぇ、こんな時間に食べちゃっていいのかなぁ?」 「ん?」 「こないだテレビでねー、ダイエットのことやってたの見たんだー。ご飯のとき以外にお菓子食べたりするのって、間食っていって太るんだよねー?」 「またテレビか。好きだなおまえ」 「太ると大変なんだよー。色んな病気になっちゃうし、お洋服だって着られなくなるんだよー。今着てる黒たんのジャージも、パツパツになっちゃったらどうしよー?」 「アホ。タイ焼き一個二個食った程度でそんな一気に太るわけねぇだろ」 そっかぁ、と納得しつつ、それでも食べようかどうしようか迷っているファイを、黒鋼が無言でじっと見つめる。 あまりにも真っすぐに見つめられて、流石のファイも不思議に思った。 「どしたの?」 小首を傾げて胡坐をかいている黒鋼を見返すと、彼は腕を組んでしみじみ言った。 「てめぇはもう少し肉つけろ」 「えー? どうしてー?」 小さく傾げていた首を大きく傾げた。 頭の天辺に『?』というマーク浮かべたファイだったが、次の瞬間ハッとした。 「ま、まさか……!?」 そういえば猫の国にいた頃、ごく稀にユゥイが「最近ちょっと甘いもの食べすぎちゃったかな」なんて言いながら、自分の二の腕をツンツンしていた。 見た目にはそれほど変化は見られなかったものの、実はファイはそんな時のユゥイの腕の感触が好きだった。 ほんのりぷにっとしていて、そんなユゥイの二の腕をモミモミして寝るのが好きだったのだ。(腕が痺れたユゥイはよくうなされていた) もっとぷにぷにでもいいのに……と不満を漏らしたら、ユゥイにジロッと睨まれた。 そんなぷに腕もあっという間に解消されてしまって、少し残念だった記憶がある。 「黒たんは……痩せてるより太ってる方が好きなんだ……」 「あ?」 ファイは下唇を噛みながら項垂れた。 そういえば夕べの猫派か犬派かという話も、なんだかんだで流されたような気がする。 「オレが細くて抱き心地がよくないから、ぷにぷにしてないから、黒たんは犬の方が好きなんだ……」 「よし待て。だいたい流れは把握したから、ちょっと待て」 黒鋼が左手で『待て』をする。 落ち込みかけていたファイは耳をぺったりと下向きに倒しながら、そんな黒鋼を睨みつけた。 「確かに前まではどっちかっつうと犬派だったかもしれねぇが……今は別にどっち派でもねぇよ。つまんねぇこと気にすんな」 「……うん」 「あと、体系だけで相手を選んだこともねぇ」 「でも太れって言ったー……」 「太りすぎもよくねぇが、痩せすぎもよくねぇだろって話だ。あくまで健康面の話をしてんだよ、俺は」 「黒たん……」 なるほど、黒鋼は見るからに体力のなさそうな華奢な自分を案じてくれていたのか……。 それなのにつまらない嫉妬をして不安になって、ファイは自分で自分を少し恥ずかしいと感じた。 「わかった! オレ、もっとたくさん食べて黒たんみたいにムキムキになる!」 「は? あ、いや、別にムキムキになれとは……あと、食うだけじゃ筋肉はつかねぇぞ……」 ヤル気を出したファイは、箱の中からタイ焼きを取り出して思いっきりパクついた。甘くて美味しい。頭から尻尾まで、みっちり餡が詰まっている。 幸せだなぁ、と感じた。 「オレ知ってるよ! そういうの、愛されボディって言うんだよね!」 「違うんじゃねぇか……?」 一生懸命タイ焼きを貪るファイのリスのように膨らんだ頬を見ながら、まさか『力いっぱい抱きしめると、バキバキに折ってしまいそうで怖い』なんてこっ恥ずかしいことは、口が裂けても言えないと、密かに思う黒鋼だった。 ←戻る ・ 次へ→
思いっきり鬱な気分だった。
ファイは一人きりで部屋の中央にコロリと横になりながら、畳の目を爪の先でガリガリしつつ、溜息を零した。
「もうしないって……決めたのに……」
とんでもなく惨めな気持ちになりつつ時計を見やっても、深夜0時を少し過ぎた辺りから、針はなかなか動かない。
黒鋼の帰宅時間はまだまだ先だった。
そもそもなぜ留守番中のファイがここまでの落ち込みを見せているかと言うと……。
本日、黒鋼は昼も夜もバイトだった。対してファイはなんとなく臀部が痺れてだるかったため、今日は一日ひたすら横になっていた。
眠って起きると黒鋼が帰宅して、軽く食事とシャワーを済ませた後に、また夜の仕事へと慌ただしく出かけて行った。
鍛え方に雲泥の差があるファイは、彼のタフさに心底驚いた。
自分もちょっとは鍛えてみようか……なんて思いながら、考えることと言えば昨夜の黒鋼の言葉ばかりだった。
『抱きてぇよ。おまえを』
思いだすだけで全身から火を噴きそうなくらい恥ずかしかった。
叫びだしそうなくらい照れまくって、部屋の隅から隅まで転げまわるほど嬉しかった。実際、ファイは転がりながら一人悶えた。
交尾が具体的にどういったものか、いくらそれを避けて通って来たファイだって、ちゃんと知っている。
だがそれが男性同士の性交でも可能だなんて、想像もしなかった。(場所は違うようだが)
確かにどうして黒鋼がやたら後ろを弄るのか、それはずっと疑問に思っていたのだ。
指だけであんなに気持ちがいいのなら、黒鋼のアレを入れたらどうなるのだろう。そもそも、あれだけ大きなものが入るのだろうか。
そんな不安は多少あれども、ファイの中では期待感の方が大きかった。
何より、今よりもっと黒鋼が気持ちよくなってくれるなら、ファイとしてはこれほど喜ばしいことはない。
今ではもうすっかり、長きに渡って抱え続けていた交尾へのトラウマが露と消えているから不思議だった。
ちなみに数日前、黒鋼にも後ろで気持ち良くなって欲しくて同じことをしてやろうとした。が、そのときはなぜか凄く怒られた……。
このままでは熱を出して死んでしまいそうだと思ったファイは、自主的にシャワーを浴びることにした。
することもないし、ちょっと温めのお湯でも浴びて、今夜はテレビでも見ながら眠ってしまおう。
そう思ったものの、風呂場でシャワーを浴びていてもファイの頭の中は黒鋼だらけだった。
本当に入るのかなぁ……。
気づけばやっぱりそれしか考えられなくて、ファイは思いっきりムラムラしてしまったのである。
黒鋼のあの大きなブツは、その形まですっかり覚えてしまった。
怖かったのは最初のうちだけで、今では手で触れるのも舐めるのも大好きになった。
純真無垢だった一週間前のオレ、お元気ですか……と多少の哀愁を胸に、ファイは堪らず二度としないと決めた自慰に耽ってしまった。
しかも、ご丁寧に自分で指を舐めて濡らして、後ろの穴までいじって。
自分の指だと普段とは感覚が違っていて、はっきり言って物足りなかった。
やっぱり黒鋼の指がいい。黒鋼じゃないと足りない。
彼のごつごつして男らしい指をぎゅっと締め付けると、それだけで泣きそうなくらい切なくて幸せだった。
自慰に耽る間は彼のことばかり考えていられたけれど、いざ出すものを出し切ってしまうと、そこには深い後悔と自己嫌悪だけが残った。
黒鋼は別に悪いことではないと言ってくれたけれど、やっぱり虚しくて気持ちが落ち込んでしまったのである。
+++
深夜2時ころ、黒鋼が帰宅した。
浅い眠りと覚醒を幾度となく繰り返していたファイは、その音に飛び起きて彼を少し驚かせた。
「なんだおまえ、起きてたのか」
「寝てたけど起きたー! おかえりー!」
ファイは電気をつける黒鋼に、思いっきり抱きつく。
「寝起きにしちゃ俊敏だな」
苦笑する彼はそれでもファイを抱き返して、もうすっかり当たり前の習慣になっている口づけを交わす。
なぜかそれを照れ臭く感じて、ファイは頬を染めながらはにかんだ。
「なんか、変だよね」
「なんだよ」
「裸じゃない黒たんとぎゅってするの、久しぶりな気がする」
あれほど落ち込んでいたのが、彼が傍にいると思うだけでどうでもよくなった。
ただひたすら胸が熱くて、顔も熱くて、ドキドキする。恋しちゃってるんだな、と思うと際限もなくときめいてしまう自分がくすぐったくて、恥ずかしかった。
「そういや、そうだな」
黒鋼も少し照れ臭くなったのか、ゴホンと咳払いをした。
それから、誤魔化すように「ほれ」と言ってファイにビニール袋を手渡してきた。
「なぁにー?」
受け取りながらテーブルの側にペタンと腰を下ろす。
「土産。貰いもんだが」
「なになにー? あ! タイ焼きだー!」
ビニールの中には白い箱が入っていて、中にはどっしりとしたタイ焼きが幾つか詰まっている。
「美味しそうー!」
「食え」
「うわぁい! いっただきまー……」
だがそこで、ファイはピタリと動きを止めた。
「どうした?」
「ねぇねぇ、こんな時間に食べちゃっていいのかなぁ?」
「ん?」
「こないだテレビでねー、ダイエットのことやってたの見たんだー。ご飯のとき以外にお菓子食べたりするのって、間食っていって太るんだよねー?」
「またテレビか。好きだなおまえ」
「太ると大変なんだよー。色んな病気になっちゃうし、お洋服だって着られなくなるんだよー。今着てる黒たんのジャージも、パツパツになっちゃったらどうしよー?」
「アホ。タイ焼き一個二個食った程度でそんな一気に太るわけねぇだろ」
そっかぁ、と納得しつつ、それでも食べようかどうしようか迷っているファイを、黒鋼が無言でじっと見つめる。
あまりにも真っすぐに見つめられて、流石のファイも不思議に思った。
「どしたの?」
小首を傾げて胡坐をかいている黒鋼を見返すと、彼は腕を組んでしみじみ言った。
「てめぇはもう少し肉つけろ」
「えー? どうしてー?」
小さく傾げていた首を大きく傾げた。
頭の天辺に『?』というマーク浮かべたファイだったが、次の瞬間ハッとした。
「ま、まさか……!?」
そういえば猫の国にいた頃、ごく稀にユゥイが「最近ちょっと甘いもの食べすぎちゃったかな」なんて言いながら、自分の二の腕をツンツンしていた。
見た目にはそれほど変化は見られなかったものの、実はファイはそんな時のユゥイの腕の感触が好きだった。
ほんのりぷにっとしていて、そんなユゥイの二の腕をモミモミして寝るのが好きだったのだ。(腕が痺れたユゥイはよくうなされていた)
もっとぷにぷにでもいいのに……と不満を漏らしたら、ユゥイにジロッと睨まれた。
そんなぷに腕もあっという間に解消されてしまって、少し残念だった記憶がある。
「黒たんは……痩せてるより太ってる方が好きなんだ……」
「あ?」
ファイは下唇を噛みながら項垂れた。
そういえば夕べの猫派か犬派かという話も、なんだかんだで流されたような気がする。
「オレが細くて抱き心地がよくないから、ぷにぷにしてないから、黒たんは犬の方が好きなんだ……」
「よし待て。だいたい流れは把握したから、ちょっと待て」
黒鋼が左手で『待て』をする。
落ち込みかけていたファイは耳をぺったりと下向きに倒しながら、そんな黒鋼を睨みつけた。
「確かに前まではどっちかっつうと犬派だったかもしれねぇが……今は別にどっち派でもねぇよ。つまんねぇこと気にすんな」
「……うん」
「あと、体系だけで相手を選んだこともねぇ」
「でも太れって言ったー……」
「太りすぎもよくねぇが、痩せすぎもよくねぇだろって話だ。あくまで健康面の話をしてんだよ、俺は」
「黒たん……」
なるほど、黒鋼は見るからに体力のなさそうな華奢な自分を案じてくれていたのか……。
それなのにつまらない嫉妬をして不安になって、ファイは自分で自分を少し恥ずかしいと感じた。
「わかった! オレ、もっとたくさん食べて黒たんみたいにムキムキになる!」
「は? あ、いや、別にムキムキになれとは……あと、食うだけじゃ筋肉はつかねぇぞ……」
ヤル気を出したファイは、箱の中からタイ焼きを取り出して思いっきりパクついた。甘くて美味しい。頭から尻尾まで、みっちり餡が詰まっている。
幸せだなぁ、と感じた。
「オレ知ってるよ! そういうの、愛されボディって言うんだよね!」
「違うんじゃねぇか……?」
一生懸命タイ焼きを貪るファイのリスのように膨らんだ頬を見ながら、まさか『力いっぱい抱きしめると、バキバキに折ってしまいそうで怖い』なんてこっ恥ずかしいことは、口が裂けても言えないと、密かに思う黒鋼だった。
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