2025/06/16 Mon *『真夜中は別の顔』と繋がっています。甲操はすでにデキ上がってます。 「なにからなにまで悪いわね、甲洋くん」 食器を洗う手を止めて、ふと隣に目をやった。流し台の前に立つ甲洋のすぐ傍で、羽佐間容子がコーヒーを淹れている。彼女もまた手を止めて、申し訳なさそうに眉をハの字にしながら微笑んだ。その瞳に、やんわり笑い返して首を振る。 「お風呂掃除までしてもらって……本当に助かったわ」 「いつも世話になっているのはこっちだから。どうか気にしないで」 「いいのよそんなこと。でも、ありがと。甲洋くん」 「こちらこそ」 容子にはショコラを預かってもらったり、普段からなにかと助けられてばかりいる。今日も閉店後にショコラの迎えがてら操を送り届けると、そのまま夕食に誘われた。 ちょうど支度の途中だったらしく、出来上がるまでゆっくりしているようにと言われた甲洋だったが、なんとなく手持ち無沙汰になってしまい、浴室の掃除を買って出た。 ちなみに操はキッチンに立つ容子にベッタリと張りつき、「ぼくもお手伝いする!」と言ってせっせと摘み食いをしていた。それは手伝いとは言わないのだが、本人は役に立っているつもりなのだから、本当に困ったやつである。 「さ、コーヒーにしましょ。座って、甲洋くん」 食器洗いが終わると、促されるままテーブルについた。 操は真っ先に夕飯を平らげたあと、すぐに風呂へ行ってしまったため不在だ。戻ってこないところを見ると、部屋に上がってしまったのだろう。俺のほうがよっぽど息子っぽいことをしてるんじゃ? と思わないこともなかったが、一般的にあのくらいの年頃の少年ならば、家事を母親任せにするのはごく当たり前のことなのかもしれない。 操は一般的な少年の枠には当てはまらないし、甲洋もまた一般的な少年らしい扱いを受けたことがないので、想像でしかないのだが。 「そうだわ」 向かい合ってコーヒーを飲んでいると、容子が両手を軽くポンと胸の前で合わせながら言った。 「掃除までしてもらったんだもの。せっかくだし、甲洋くんもお風呂に入ってちょうだい。操ももう上がった頃だろうし」 「いや、俺は」 「いいじゃない。どうせなら今夜は泊まっていくといいわ」 言いながら、容子はソファの方へ目を向ける。甲洋も釣られて目線をやると、そこには仲良く寄り添って眠るショコラとクーの姿があった。いつもなら帰る頃合いを見て甲洋の足元にいるはずなのに、今夜はショコラもそういう気分なのかもしれない。一緒にご飯をもらい、腹も膨れて完全に熟睡モードに入っている。 「起こすのは可哀想よ。ね?」 小首を傾げるようにして笑った容子に甲洋もつい小さく笑い、今夜ばかりはお言葉に甘えることにした。 * 脱衣所は電気がつけっぱなしになっていた。浴室も曇りガラスの向こうは煌々と明かりがついており、湯気で白く煙っている。風呂蓋が開けっ放しになっているのだろう。 床には脱ぎ散らかした衣類が散乱しており、甲洋はやれやれと息をつきながらそれらを適当に拾い上げると、洗濯機の上に設置されたカゴの中にすべて放り込んだ。 服を脱ぎ、軽く畳むとカゴの横に置かせてもらった。泊まると言っても着替えの用意がないので、上がったらまたこれを着るより他にない。 浴室のドアを開け、真っ白い湯気と石鹸の香りが立ち込めるなか足を踏み入れた、その瞬間── 「わっ、なに!?」 という声がして、甲洋は思わず肩を跳ねさせながら息を呑んだ。 「!?」 そこには全身を泡まみれにした操の姿があった。床に直接ペタンと女の子のように座りこみ、目をまんまるにしてこちらを見上げている。 「なんで君が入ってくるの? ここぼくんちのお風呂だよ?」 まったく気がつかなかったことに、自分で驚く。彼はずいぶん前に風呂に行ったはずで、とっくに上がって自室に戻ったとばかり思いこんでいた。操も操で、甲洋はすでに帰宅したものと思っていたのだろう。不思議そうに首を傾げてキョトンとしている。 (うわ……) その姿に、甲洋は言葉を失くして立ち尽くすことしかできなかった。 操とは幾度となく身体を重ねてきた仲だ。裸くらい見慣れているはずなのに、今の彼が晒す姿態は、あまりにも扇情的で目に毒すぎた。 少年と少女の境目で迷う肢体に、まとわりつく白い泡。胸や身体の中心の大事な場所が絶妙に隠され、見えそうで見えないその危うさに思わず喉を鳴らしてしまう。赤い頬に張りつく濡髪でさえも艶かしくて、みずみずしい色気がそこにはあった。 「ッ、ごめん」 このままでは非常に不味いことになる。変な気を起こす前に回れ右しようとした甲洋だったが、操の「待って!」という声に引き止められて、つい動きを止めてしまった。 「それよりこれ見て! これ! この四角い石鹸! こないだフリーマーケットで交換してきたやつ! すごくない!?」 「ッ、は……?」 「ほら! ほら! すっごい泡立つの! ぼく楽しくなっちゃって! ずっとスポンジであわあわしてたの!」 操は目をキラキラとさせ、固形石鹸とスポンジを両手でこねくり回している。モコモコモコッと真っ白な泡が膨らんで、床にまでモコモコが大量に流れだしていた。 すぐ横にはお湯が張られた風呂桶があり、水分がなくなるとそこにスポンジを突っ込んで、潤いを足すとまたモコモコさせる。 彼は今の今まで、ひたすら無心でこの作業に没頭していたのだろう。甲洋が気配すら察せないほど、それはそれは熱心に。身体はほとんど泡に埋もれているようなものだし、浴槽から上がる湯気もあいまって、外から見ると浴室全体が白く染まって見えたのだ。 これじゃ気づかなくても仕方ない──と、甲洋は心のなかで言い訳をした。 「わあぁ……すごいすごい! ねぇ、君もやりなよ!」 「いい。俺はもう出ていくから」 動揺していることを表に出せば、逆におかしな空気になりそうで嫌だった。平静をフル稼働で装いながら言うと、操が不満そうに唇を尖らせる。 「なんでぇ? 楽しいよ? 一緒にやろうよ」 「いいから。ゆっくり入ってていいから。じゃ、俺はこれで──」 踵を返そうとした、そのときだった。床にこんもりと山になっている泡に足が滑って、甲洋は一気に体勢を崩してしまった。 「──ッ!?」 とっさに後手にドアの取手を掴んだものの、バンッと音を立てて締まっただけで、180の長身は勢いよく前のめりに崩れ落ちる。 「えっ、ちょっと!? うわっ……!」 ペタンと床に座り込んでいた操は、迫ってくる甲洋から逃げようとしてとっさに腰を浮かせた。が、あまりにも一瞬のことで、とても間に合うはずがない。 「ッ──……!?」 操の背に覆いかぶさる形で倒れた身体に、凄まじい衝撃が走る。痛みともつかない電流のような感覚は、主に局部を中心として一気に全身に広がった。 「ぁ、え……?」 ふたり同時に呆然として、頭を白く染め上げる。信じられないことだが、甲洋のブツが操の尻に、それは見事にズップリと突き刺さっていた。 予期せぬラッキースケベに、密かに反応してしまっていた甲洋のイチモツ。あわあわのヌルヌル状態になっていた操の尻孔。ある意味、準備万端だったと言えなくもない(?)──が、こんな超展開、よく広告でありがちなエロ漫画でしかお目にかかったことがない。 「な、な、なに!? なんで!? なんでちんちん挿っちゃってんの!?」 思考が完全に停止している甲洋の下で、操が混乱しはじめる。 「ちょ待っ、く、来主、暴れな……ッ、あ、ぅ……っ」 「はぅッ、ん! ぁッ、ば、バカバカ! 動かないでぇっ!」 なにがなんだか分からないまま合体してしまったが、互いに知り尽くしている身体はあまりにも正直だった。身じろぎひとつで快感を拾いあげてしまう。もういっそのこと、このまま一発いたしてしまうより他にないのでは? と開き直りかけていたそのとき、 「甲洋くん、着替えここに置いておくわね」 と、曇りガラスの向こう側から声がした──。 「ッ!?」 「操の服だけど、少しサイズが大きいみたいなの。甲洋くんなら丁度いいと思うわ」 容子だ。わざわざ扉を開けるとは思えないが、隔たりは曇ったガラス扉一枚である。甲洋は背筋が凍りつくような感覚を味わい、とっさに操の身体を抱き込むと浴槽の中に飛び込んだ。 「ヒッ……~~っ!!」 ザブン、という大きな音が響き渡る。心で直接「ごめん」と謝罪しながら、その振動と衝撃に悲鳴をあげる寸前だった操の口を片手で塞ぐ。 「むぐ、ッ、う、ぅぅ……っ──ッ!」 「あら? もしかして操も一緒なのかしら?」 「す、すみません。ちょっと、はしゃいでしまって……」 「まぁ、そうなの? ふたりとも、遊んでないでちゃんとあったまらなきゃダメよ」 「はい……」 容子は微笑ましげに小さな笑い声をたて、「男の子がふたりいると大変ね」と言いながら去っていった。よもや男の子ふたりが性的に大変なことになっているとは思うまい。 脱衣所のドアが閉まる音を遠くに聞くと、甲洋はホッと深い息を漏らした。まだ心臓がバクバクしている。 「ごめん来主……いま抜くから……」 このまま一発どころの騒ぎではない。容子の声を聞いて正気を取り戻した甲洋は、操の口から手を外して自身を引き抜こうとした。今度こそ、そのまま浴室から出ていくつもりでいたのだが──。 「待っ、て! ダメ……!」 「ッ、く、来主?」 「いま、動いたら……ぁ、ダメ、ぇ……」 操は肩で激しく呼吸して、ブルブルと身を震わせていた。全身を薄紅色に染め上げて、背中を丸めながら浴槽の縁にしがみついている。甲洋は目を見張り、興味本位から操の中心に手を伸ばしてみた。ピンと張りつめ、かすかに脈打っているのが分かる。 甲洋のブツを腹に収めて、操の身体は完全に火がついていた。おそらく浴槽に飛び込む際、先端が彼の泣き所を突き上げてしまったのだろう。 「ばか、ぁ……こよの、ばかぁ……っ」 涙をいっぱいに溜めた瞳で睨まれて、いったん引きかけていた熱がカァッと頭のてっぺんまで駆けのぼる。同時にキュンキュンと締めつけてくる肉の感触に、甲洋は喉を鳴らして呼吸を震わせた。 「くるす……」 「やぁ、ん……ッ」 薄い胸を抱きしめて、耳の裏側に唇を押しつける。操の背が大きくしなり、甘ったるい声が浴室に反響した。 甲洋は片腕を伸ばし、シャワーの蛇口ハンドルを強くひねった。勢いよく噴きだすシャワーの音が大きく響き、浴室がさらに白く煙っていく。これなら少しくらい声をだしても、うまい具合に紛れるだろう。 「このまま、いい?」 一応は確認を入れると、操は潤んだ瞳を甲洋に向けながらこくんと頷いた。それを合図に唇を重ね、互いに舌を絡ませる。小さな舌を吸い上げながら軽く腰を揺らしただけで、操の喉からくぐもった可愛い悲鳴が漏れだした。 「ひゃぅ、んッ! ぁふ……ッ、ぁんっ、んっ、んっ……!」 はじめは小さく、ゆっくりと腰を揺らすと、操の腰も揺れだした。動きに合わせてお湯がタプンタプンと波打って、浴槽の外に溢れだす。 甲洋は操の身体が浮いてしまわないように両手で腰を掴むと、抽挿を深く大胆なものにしていった。穿てば穿つほど操が鳴いて、立ち上る熱気に脳が煮えていくようだった。 「はんッ、あ、ぁ! ん、きもち、ぃ……っ、ぁッ、お湯が、ナカにぃ……っ」 『 そんなに大きな声を出したら、容子さんに気づかれるよ 』 口には出さずに心の中で意地悪く囁くと、操はハッと息を呑んで首を左右に振った。 「やっ、やっ、ダメッ、おかぁさん、ダメなの……っ、お風呂で、こんなこと……悪い子って、思われちゃうよぉ……ッ」 『 なら、我慢しなきゃね 』 注意を促す言葉とは裏腹に、わざと弱い場所を狙って突き上げた。ビクン、と大きく身悶えた操が、背を反らして「きゃぅんっ」と甲高い悲鳴をあげる。 突きだされた胸に片手をやると、赤く尖った乳首のひとつを乳輪ごときゅっと摘み上げた。甲洋の肩に預けられた操の頭が、また嫌々と水滴を振りまきながら左右に振られる。 「はぅッ、ぁ! ァッ、そこダメ、いじめないで、引っ張っちゃ、やぁ……っ」 「まだ石鹸でヌルヌルしてる。逃げないで来主、うまく摘めない」 「ゃんッ、ァ……っ、きも、ち、ッ、ぁ、おかしく、なっちゃ……ッ」 粒だけを摘もうとしても、指先が滑ってうまくいかない。弾かれるたび、勃起した乳首がぷるんと跳ねる。もどかしい刺激に、甲洋を食いしめる孔が切なげに収縮していた。絡みつく肉襞のうねりに、漏れそうになった低い呻きをどうにか噛み殺す。 本当はもっとじっくりと味わいたいのに、限界はすぐそこまで近づいていた。いつまた容子が来るとも限らない状況で、お互いバカみたいに興奮している。 「やら、ぁッ、ぼく……ぼく、もぉ、とけちゃうぅ……っ」 操の下腹に片手の平を押しつけると、出たり挿ったりを繰り返す肉棒の感触が、薄い肉越しに生々しく伝わってくる。さらにぐっと押し当てて圧迫すれば、操が口の端から唾液を漏らしながら瞳を濁らせ、ガクガクと激しく痙攣しはじめた。 「ふぁ、ぁ、それッ、ぇ……あ゛ッ、お腹、お腹のなか、甲洋のが……っ」 「来主……」 「ゴリゴリするの……ッ、あづい、ぁう……ぁ、んあぁ……ッ」 止めどなく立ち込める湯気と熱気に、視界がチカチカと点滅をはじめる。湯船から溢れ出すほど浴槽に満ちていたお湯が、絶え間ない抽挿によって随分と減ってしまっていた。 甲洋は操の身体を抱きしめると、小さな屹立を右手にきゅっと閉じ込める。強く穿つのと同じ速度で扱きあげると、操が両手で自らの唇を強く塞いだ。 「くうぅッ、んぐっ、んッ、うぅぅぅ──……ッ!」 「ッ、──ぅ……っ、ぁ……ッ」 奥の深い場所を叩くのと同時に、手の中で操の幼い肉茎がピク、ピク、と痙攣した。放たれたささやかな白濁が、石鹸混じりのお湯の中で小刻みに吐きだされる。震える身体を掻き抱いて、甲洋も獣のように呻きながらすべてをナカに注ぎ込んだ。 * その後、甲洋はすっかりのぼせてヘロヘロに伸びている操の身体を清めると、自分もシャワーを浴びて浴室を出た。 操は脱衣所の壁に背中を預け、床に両足を投げだしている。服を着せなければと思ったのだが、どこを探しても見当たらない。洗濯機の上には容子が用意してくれた甲洋の部屋着があるだけだ。 「来主、着替えは? どこ?」 「んぅ~……ない……」 「ない?」 「だぁってぼく、お風呂上がりは服着ないもん~」 「えぇ……?」 いくら彼が人の常識が通じない存在で、容子とは親子関係を築いているとはいえだ。女性と暮らす家で風呂上がりに裸でウロウロするなんて、甲洋には考えられない話だった。 だが、そうは言っても無いものは無いんだからしょうがない。甲洋は先にシャツとスウェットを着用すると、棚の中から適当に大判のタオルを引っ張りだした。操の全身をすっぽり包み込み、ぐにゃりと軟体生物のようになっている身体を抱き上げる。そしてそのまま、2階にある操の部屋までワープした。 「ほら来主、しゃんとして」 部屋の中はちょうど街灯の光が窓からさして、うっすら明るく照らされていた。甲洋はタオルでグルグル巻になっている操をベッドに横たえさせたが、にゅうっと出てきた両腕によって首を抱き込まれ、なかなか離してもらえない。 「ん~、ぼくもう無理……眠いの……」 「わかったから、その前に服を」 「ねぇ~、抱っこしてぇ……いっしょに寝……よ……」 散々グズったあと、操はそのまま寝息を立てはじめてしまった。こてん、と頭は枕に落ちたが、両腕は未だしっかりと首をホールドしている。甲洋は中腰のまま動けなくなってしまった。 「俺はまだやることがあるんだよ……」 できることなら自分も一緒に眠りにつきたいところだが、石鹸まみれの浴室をあのままにしておくことはできない。浴槽のお湯は抜いて軽く流してはきたものの、容子が入浴できる状態にまで戻しておく必要がある。つまり、一から掃除のやり直しだ。 甲洋は操の腕を慎重に外していくと、ぐしゃぐしゃのタオルを取り去ってから上掛けをそっとかぶせてやった。まだ少し赤いままの頬にふっと微笑み、前髪を優しく払うと額に小さなキスをする。 「おやすみ来主。抱っこしに戻ってくるから、いい子で待ってて」 好きな子が母親と暮らす家で、好きな子の母親に隠れて、好きな子とセックスをした。その業の深さを腹の底にずっしりと据え、甲洋は再び浴室に戻っていった。 * 朝。小鳥のさえずりを遠くに聞きながら、甲洋はふと目を覚ました。腕の中では操がまだ眠っている。軽く握りしめた手を唇に押しつけ、すぅすぅと寝息を立てていた。 そのあどけない寝顔に小さく笑い、起こしてしまわないようにゆっくりと身を起こす。 (そういえば、けっきょく裸のままだったな……) 操が服も着ずに力尽きてしまったのは、甲洋が無理をさせた結果でもある。 甲洋はベッドから抜けだすと、適当に操の服を見繕うことにした。起きたらすぐに着られるようにと気を回したつもりだったのだが、洋服タンスの一段目を引き出した瞬間、我が目を疑った。 「な、なんだ? これ……」 そこにはぎっしりと、女性物の下着が収まっていた。柄やフリルのついた可愛いものから、布面積が極めて小さいセクシーなものまで、それは見事に揃い踏みだった。 (な、なんでこんな……これ、まさかぜんぶ来主のなのか……!?) 完全に動揺している甲洋は、隠しきれない興味も手伝って、つい下着を手に取ってしまった。右手に白いフリルのTバック、左手には総レースの黒い紐パン。くしゃくしゃの状態で入っていたものだから、取り出す際に絡まった何着かがパサパサと床に散乱する。 あまりにも小さくて薄い布としか言い表せないそれらを見下ろし、愕然としながらもふと過去の出来事を思いだす。 確か以前、操はクマちゃんプリントのお子様パンツを嫌がって、容子にもっとセクシーな下着がいいとワガママを言っていた。あれから時が経ち、まさか本当にゲットしていたなんて。しかもこれほど大量に。 (こんなの、一体いつはく気だよ……?) 少なくとも、甲洋はまだ一度もお目にかかったことがない。事に及ぶ際には、無難な男性用下着を着用している姿しか見たことがなかった。 果たして彼はいつ、どのタイミングで、こんなセクシー下着をつける気でいるのだろうか。あるいは甲洋が知らないだけで、普段からちょいちょい身につけているのか。よく分からないが、なんにせよ── (今度……見せてもらおう……) そう心に決めたら、途端にソワソワと落ち着かない気持ちになってしまう。ついつい素人は黙っとれ顔で想像を巡らせていると、ふいにコンコンと扉をノックする音がしてギョッとした。 「ッ──!?」 「操、甲洋くん? 朝ご飯の用意ができたわ……よ……?」 ガチャリと開かれた扉から、容子がひょっこり顔を出した。両手にパンティを持って絶句する甲洋を見て、彼女もまた凍りついたように絶句する。 (う……嘘だろ……?) なんとも形容しがたいムード。サーッと血の気が引いていく。もっとも見られてはいけない姿を見られてしまった。夢なら早く醒めてくれと願いながら硬直していると、「ふぁ~」という間抜けな声を漏らして操が起き上がった。 「よく寝たぁ。あ、おかぁさん、おはよー」 甲洋の全身に、ドッと嫌な汗が噴きだした。これはさらに不味いことになったような気がする。 容子の目からしたら、可愛い息子の部屋でパンティを両手に持った男が立ち尽くし、当の息子はベッドで素っ裸なのだ。あげく、床にまでパンティが散らばっている。どう控えめに見たって事案が発生しているようにしか見えない……というか、実際に発生しているのだからもはや釈明のしようがない。 (あ、終わった……) 天井を仰ぎ見て、深く息を吐きだした。すると異様な空気に首を傾げていた操が、甲洋が手にしているものを指差して「あー!」と眉を吊り上げる。 「なにしてんの君! それぼくの大事な秘密コレクションだよ! もしかして君もそれはきたいの!? 絶対ムリだよハミ出しちゃうもん!!」 「もっとややこしいことになるだろ! そんなわけあるか! っていうか、秘密にしとく気があるなら引き出しの一番上に入れとくな!」 珍しく声を荒げた甲洋は、顔面蒼白で震えながら恐る恐る容子を見た。ちなみにパンティは未だ両手にしっかり握りしめたままだ。すると彼女は、 「話はゆっくり聞かせてもらうわ。ちゃんと説明してくれるのよね? 甲洋くん」 と言って、にっこり笑った。 有無を言わさぬその圧に、甲洋はただ項垂れるようにして首を縦に振ることしかできなかった。 その後──。 甲洋は秘めていた操との関係を、すべてカミングアウトすることになった。 操は終始キョトンとしていたが、容子は「そんな気はしてたのよ」と言いながら、イタズラっぽく肩を揺らして笑っていた。 こうして二人は晴れて母親公認のもと、正式にお付き合いをすることになったのである。 ←戻る ・ Wavebox👏
「なにからなにまで悪いわね、甲洋くん」
食器を洗う手を止めて、ふと隣に目をやった。流し台の前に立つ甲洋のすぐ傍で、羽佐間容子がコーヒーを淹れている。彼女もまた手を止めて、申し訳なさそうに眉をハの字にしながら微笑んだ。その瞳に、やんわり笑い返して首を振る。
「お風呂掃除までしてもらって……本当に助かったわ」
「いつも世話になっているのはこっちだから。どうか気にしないで」
「いいのよそんなこと。でも、ありがと。甲洋くん」
「こちらこそ」
容子にはショコラを預かってもらったり、普段からなにかと助けられてばかりいる。今日も閉店後にショコラの迎えがてら操を送り届けると、そのまま夕食に誘われた。
ちょうど支度の途中だったらしく、出来上がるまでゆっくりしているようにと言われた甲洋だったが、なんとなく手持ち無沙汰になってしまい、浴室の掃除を買って出た。
ちなみに操はキッチンに立つ容子にベッタリと張りつき、「ぼくもお手伝いする!」と言ってせっせと摘み食いをしていた。それは手伝いとは言わないのだが、本人は役に立っているつもりなのだから、本当に困ったやつである。
「さ、コーヒーにしましょ。座って、甲洋くん」
食器洗いが終わると、促されるままテーブルについた。
操は真っ先に夕飯を平らげたあと、すぐに風呂へ行ってしまったため不在だ。戻ってこないところを見ると、部屋に上がってしまったのだろう。俺のほうがよっぽど息子っぽいことをしてるんじゃ? と思わないこともなかったが、一般的にあのくらいの年頃の少年ならば、家事を母親任せにするのはごく当たり前のことなのかもしれない。
操は一般的な少年の枠には当てはまらないし、甲洋もまた一般的な少年らしい扱いを受けたことがないので、想像でしかないのだが。
「そうだわ」
向かい合ってコーヒーを飲んでいると、容子が両手を軽くポンと胸の前で合わせながら言った。
「掃除までしてもらったんだもの。せっかくだし、甲洋くんもお風呂に入ってちょうだい。操ももう上がった頃だろうし」
「いや、俺は」
「いいじゃない。どうせなら今夜は泊まっていくといいわ」
言いながら、容子はソファの方へ目を向ける。甲洋も釣られて目線をやると、そこには仲良く寄り添って眠るショコラとクーの姿があった。いつもなら帰る頃合いを見て甲洋の足元にいるはずなのに、今夜はショコラもそういう気分なのかもしれない。一緒にご飯をもらい、腹も膨れて完全に熟睡モードに入っている。
「起こすのは可哀想よ。ね?」
小首を傾げるようにして笑った容子に甲洋もつい小さく笑い、今夜ばかりはお言葉に甘えることにした。
*
脱衣所は電気がつけっぱなしになっていた。浴室も曇りガラスの向こうは煌々と明かりがついており、湯気で白く煙っている。風呂蓋が開けっ放しになっているのだろう。
床には脱ぎ散らかした衣類が散乱しており、甲洋はやれやれと息をつきながらそれらを適当に拾い上げると、洗濯機の上に設置されたカゴの中にすべて放り込んだ。
服を脱ぎ、軽く畳むとカゴの横に置かせてもらった。泊まると言っても着替えの用意がないので、上がったらまたこれを着るより他にない。
浴室のドアを開け、真っ白い湯気と石鹸の香りが立ち込めるなか足を踏み入れた、その瞬間──
「わっ、なに!?」
という声がして、甲洋は思わず肩を跳ねさせながら息を呑んだ。
「!?」
そこには全身を泡まみれにした操の姿があった。床に直接ペタンと女の子のように座りこみ、目をまんまるにしてこちらを見上げている。
「なんで君が入ってくるの? ここぼくんちのお風呂だよ?」
まったく気がつかなかったことに、自分で驚く。彼はずいぶん前に風呂に行ったはずで、とっくに上がって自室に戻ったとばかり思いこんでいた。操も操で、甲洋はすでに帰宅したものと思っていたのだろう。不思議そうに首を傾げてキョトンとしている。
(うわ……)
その姿に、甲洋は言葉を失くして立ち尽くすことしかできなかった。
操とは幾度となく身体を重ねてきた仲だ。裸くらい見慣れているはずなのに、今の彼が晒す姿態は、あまりにも扇情的で目に毒すぎた。
少年と少女の境目で迷う肢体に、まとわりつく白い泡。胸や身体の中心の大事な場所が絶妙に隠され、見えそうで見えないその危うさに思わず喉を鳴らしてしまう。赤い頬に張りつく濡髪でさえも艶かしくて、みずみずしい色気がそこにはあった。
「ッ、ごめん」
このままでは非常に不味いことになる。変な気を起こす前に回れ右しようとした甲洋だったが、操の「待って!」という声に引き止められて、つい動きを止めてしまった。
「それよりこれ見て! これ! この四角い石鹸! こないだフリーマーケットで交換してきたやつ! すごくない!?」
「ッ、は……?」
「ほら! ほら! すっごい泡立つの! ぼく楽しくなっちゃって! ずっとスポンジであわあわしてたの!」
操は目をキラキラとさせ、固形石鹸とスポンジを両手でこねくり回している。モコモコモコッと真っ白な泡が膨らんで、床にまでモコモコが大量に流れだしていた。
すぐ横にはお湯が張られた風呂桶があり、水分がなくなるとそこにスポンジを突っ込んで、潤いを足すとまたモコモコさせる。
彼は今の今まで、ひたすら無心でこの作業に没頭していたのだろう。甲洋が気配すら察せないほど、それはそれは熱心に。身体はほとんど泡に埋もれているようなものだし、浴槽から上がる湯気もあいまって、外から見ると浴室全体が白く染まって見えたのだ。
これじゃ気づかなくても仕方ない──と、甲洋は心のなかで言い訳をした。
「わあぁ……すごいすごい! ねぇ、君もやりなよ!」
「いい。俺はもう出ていくから」
動揺していることを表に出せば、逆におかしな空気になりそうで嫌だった。平静をフル稼働で装いながら言うと、操が不満そうに唇を尖らせる。
「なんでぇ? 楽しいよ? 一緒にやろうよ」
「いいから。ゆっくり入ってていいから。じゃ、俺はこれで──」
踵を返そうとした、そのときだった。床にこんもりと山になっている泡に足が滑って、甲洋は一気に体勢を崩してしまった。
「──ッ!?」
とっさに後手にドアの取手を掴んだものの、バンッと音を立てて締まっただけで、180の長身は勢いよく前のめりに崩れ落ちる。
「えっ、ちょっと!? うわっ……!」
ペタンと床に座り込んでいた操は、迫ってくる甲洋から逃げようとしてとっさに腰を浮かせた。が、あまりにも一瞬のことで、とても間に合うはずがない。
「ッ──……!?」
操の背に覆いかぶさる形で倒れた身体に、凄まじい衝撃が走る。痛みともつかない電流のような感覚は、主に局部を中心として一気に全身に広がった。
「ぁ、え……?」
ふたり同時に呆然として、頭を白く染め上げる。信じられないことだが、甲洋のブツが操の尻に、それは見事にズップリと突き刺さっていた。
予期せぬラッキースケベに、密かに反応してしまっていた甲洋のイチモツ。あわあわのヌルヌル状態になっていた操の尻孔。ある意味、準備万端だったと言えなくもない(?)──が、こんな超展開、よく広告でありがちなエロ漫画でしかお目にかかったことがない。
「な、な、なに!? なんで!? なんでちんちん挿っちゃってんの!?」
思考が完全に停止している甲洋の下で、操が混乱しはじめる。
「ちょ待っ、く、来主、暴れな……ッ、あ、ぅ……っ」
「はぅッ、ん! ぁッ、ば、バカバカ! 動かないでぇっ!」
なにがなんだか分からないまま合体してしまったが、互いに知り尽くしている身体はあまりにも正直だった。身じろぎひとつで快感を拾いあげてしまう。もういっそのこと、このまま一発いたしてしまうより他にないのでは? と開き直りかけていたそのとき、
「甲洋くん、着替えここに置いておくわね」
と、曇りガラスの向こう側から声がした──。
「ッ!?」
「操の服だけど、少しサイズが大きいみたいなの。甲洋くんなら丁度いいと思うわ」
容子だ。わざわざ扉を開けるとは思えないが、隔たりは曇ったガラス扉一枚である。甲洋は背筋が凍りつくような感覚を味わい、とっさに操の身体を抱き込むと浴槽の中に飛び込んだ。
「ヒッ……~~っ!!」
ザブン、という大きな音が響き渡る。心で直接「ごめん」と謝罪しながら、その振動と衝撃に悲鳴をあげる寸前だった操の口を片手で塞ぐ。
「むぐ、ッ、う、ぅぅ……っ──ッ!」
「あら? もしかして操も一緒なのかしら?」
「す、すみません。ちょっと、はしゃいでしまって……」
「まぁ、そうなの? ふたりとも、遊んでないでちゃんとあったまらなきゃダメよ」
「はい……」
容子は微笑ましげに小さな笑い声をたて、「男の子がふたりいると大変ね」と言いながら去っていった。よもや男の子ふたりが性的に大変なことになっているとは思うまい。
脱衣所のドアが閉まる音を遠くに聞くと、甲洋はホッと深い息を漏らした。まだ心臓がバクバクしている。
「ごめん来主……いま抜くから……」
このまま一発どころの騒ぎではない。容子の声を聞いて正気を取り戻した甲洋は、操の口から手を外して自身を引き抜こうとした。今度こそ、そのまま浴室から出ていくつもりでいたのだが──。
「待っ、て! ダメ……!」
「ッ、く、来主?」
「いま、動いたら……ぁ、ダメ、ぇ……」
操は肩で激しく呼吸して、ブルブルと身を震わせていた。全身を薄紅色に染め上げて、背中を丸めながら浴槽の縁にしがみついている。甲洋は目を見張り、興味本位から操の中心に手を伸ばしてみた。ピンと張りつめ、かすかに脈打っているのが分かる。
甲洋のブツを腹に収めて、操の身体は完全に火がついていた。おそらく浴槽に飛び込む際、先端が彼の泣き所を突き上げてしまったのだろう。
「ばか、ぁ……こよの、ばかぁ……っ」
涙をいっぱいに溜めた瞳で睨まれて、いったん引きかけていた熱がカァッと頭のてっぺんまで駆けのぼる。同時にキュンキュンと締めつけてくる肉の感触に、甲洋は喉を鳴らして呼吸を震わせた。
「くるす……」
「やぁ、ん……ッ」
薄い胸を抱きしめて、耳の裏側に唇を押しつける。操の背が大きくしなり、甘ったるい声が浴室に反響した。
甲洋は片腕を伸ばし、シャワーの蛇口ハンドルを強くひねった。勢いよく噴きだすシャワーの音が大きく響き、浴室がさらに白く煙っていく。これなら少しくらい声をだしても、うまい具合に紛れるだろう。
「このまま、いい?」
一応は確認を入れると、操は潤んだ瞳を甲洋に向けながらこくんと頷いた。それを合図に唇を重ね、互いに舌を絡ませる。小さな舌を吸い上げながら軽く腰を揺らしただけで、操の喉からくぐもった可愛い悲鳴が漏れだした。
「ひゃぅ、んッ! ぁふ……ッ、ぁんっ、んっ、んっ……!」
はじめは小さく、ゆっくりと腰を揺らすと、操の腰も揺れだした。動きに合わせてお湯がタプンタプンと波打って、浴槽の外に溢れだす。
甲洋は操の身体が浮いてしまわないように両手で腰を掴むと、抽挿を深く大胆なものにしていった。穿てば穿つほど操が鳴いて、立ち上る熱気に脳が煮えていくようだった。
「はんッ、あ、ぁ! ん、きもち、ぃ……っ、ぁッ、お湯が、ナカにぃ……っ」
『 そんなに大きな声を出したら、容子さんに気づかれるよ 』
口には出さずに心の中で意地悪く囁くと、操はハッと息を呑んで首を左右に振った。
「やっ、やっ、ダメッ、おかぁさん、ダメなの……っ、お風呂で、こんなこと……悪い子って、思われちゃうよぉ……ッ」
『 なら、我慢しなきゃね 』
注意を促す言葉とは裏腹に、わざと弱い場所を狙って突き上げた。ビクン、と大きく身悶えた操が、背を反らして「きゃぅんっ」と甲高い悲鳴をあげる。
突きだされた胸に片手をやると、赤く尖った乳首のひとつを乳輪ごときゅっと摘み上げた。甲洋の肩に預けられた操の頭が、また嫌々と水滴を振りまきながら左右に振られる。
「はぅッ、ぁ! ァッ、そこダメ、いじめないで、引っ張っちゃ、やぁ……っ」
「まだ石鹸でヌルヌルしてる。逃げないで来主、うまく摘めない」
「ゃんッ、ァ……っ、きも、ち、ッ、ぁ、おかしく、なっちゃ……ッ」
粒だけを摘もうとしても、指先が滑ってうまくいかない。弾かれるたび、勃起した乳首がぷるんと跳ねる。もどかしい刺激に、甲洋を食いしめる孔が切なげに収縮していた。絡みつく肉襞のうねりに、漏れそうになった低い呻きをどうにか噛み殺す。
本当はもっとじっくりと味わいたいのに、限界はすぐそこまで近づいていた。いつまた容子が来るとも限らない状況で、お互いバカみたいに興奮している。
「やら、ぁッ、ぼく……ぼく、もぉ、とけちゃうぅ……っ」
操の下腹に片手の平を押しつけると、出たり挿ったりを繰り返す肉棒の感触が、薄い肉越しに生々しく伝わってくる。さらにぐっと押し当てて圧迫すれば、操が口の端から唾液を漏らしながら瞳を濁らせ、ガクガクと激しく痙攣しはじめた。
「ふぁ、ぁ、それッ、ぇ……あ゛ッ、お腹、お腹のなか、甲洋のが……っ」
「来主……」
「ゴリゴリするの……ッ、あづい、ぁう……ぁ、んあぁ……ッ」
止めどなく立ち込める湯気と熱気に、視界がチカチカと点滅をはじめる。湯船から溢れ出すほど浴槽に満ちていたお湯が、絶え間ない抽挿によって随分と減ってしまっていた。
甲洋は操の身体を抱きしめると、小さな屹立を右手にきゅっと閉じ込める。強く穿つのと同じ速度で扱きあげると、操が両手で自らの唇を強く塞いだ。
「くうぅッ、んぐっ、んッ、うぅぅぅ──……ッ!」
「ッ、──ぅ……っ、ぁ……ッ」
奥の深い場所を叩くのと同時に、手の中で操の幼い肉茎がピク、ピク、と痙攣した。放たれたささやかな白濁が、石鹸混じりのお湯の中で小刻みに吐きだされる。震える身体を掻き抱いて、甲洋も獣のように呻きながらすべてをナカに注ぎ込んだ。
*
その後、甲洋はすっかりのぼせてヘロヘロに伸びている操の身体を清めると、自分もシャワーを浴びて浴室を出た。
操は脱衣所の壁に背中を預け、床に両足を投げだしている。服を着せなければと思ったのだが、どこを探しても見当たらない。洗濯機の上には容子が用意してくれた甲洋の部屋着があるだけだ。
「来主、着替えは? どこ?」
「んぅ~……ない……」
「ない?」
「だぁってぼく、お風呂上がりは服着ないもん~」
「えぇ……?」
いくら彼が人の常識が通じない存在で、容子とは親子関係を築いているとはいえだ。女性と暮らす家で風呂上がりに裸でウロウロするなんて、甲洋には考えられない話だった。
だが、そうは言っても無いものは無いんだからしょうがない。甲洋は先にシャツとスウェットを着用すると、棚の中から適当に大判のタオルを引っ張りだした。操の全身をすっぽり包み込み、ぐにゃりと軟体生物のようになっている身体を抱き上げる。そしてそのまま、2階にある操の部屋までワープした。
「ほら来主、しゃんとして」
部屋の中はちょうど街灯の光が窓からさして、うっすら明るく照らされていた。甲洋はタオルでグルグル巻になっている操をベッドに横たえさせたが、にゅうっと出てきた両腕によって首を抱き込まれ、なかなか離してもらえない。
「ん~、ぼくもう無理……眠いの……」
「わかったから、その前に服を」
「ねぇ~、抱っこしてぇ……いっしょに寝……よ……」
散々グズったあと、操はそのまま寝息を立てはじめてしまった。こてん、と頭は枕に落ちたが、両腕は未だしっかりと首をホールドしている。甲洋は中腰のまま動けなくなってしまった。
「俺はまだやることがあるんだよ……」
できることなら自分も一緒に眠りにつきたいところだが、石鹸まみれの浴室をあのままにしておくことはできない。浴槽のお湯は抜いて軽く流してはきたものの、容子が入浴できる状態にまで戻しておく必要がある。つまり、一から掃除のやり直しだ。
甲洋は操の腕を慎重に外していくと、ぐしゃぐしゃのタオルを取り去ってから上掛けをそっとかぶせてやった。まだ少し赤いままの頬にふっと微笑み、前髪を優しく払うと額に小さなキスをする。
「おやすみ来主。抱っこしに戻ってくるから、いい子で待ってて」
好きな子が母親と暮らす家で、好きな子の母親に隠れて、好きな子とセックスをした。その業の深さを腹の底にずっしりと据え、甲洋は再び浴室に戻っていった。
*
朝。小鳥のさえずりを遠くに聞きながら、甲洋はふと目を覚ました。腕の中では操がまだ眠っている。軽く握りしめた手を唇に押しつけ、すぅすぅと寝息を立てていた。
そのあどけない寝顔に小さく笑い、起こしてしまわないようにゆっくりと身を起こす。
(そういえば、けっきょく裸のままだったな……)
操が服も着ずに力尽きてしまったのは、甲洋が無理をさせた結果でもある。
甲洋はベッドから抜けだすと、適当に操の服を見繕うことにした。起きたらすぐに着られるようにと気を回したつもりだったのだが、洋服タンスの一段目を引き出した瞬間、我が目を疑った。
「な、なんだ? これ……」
そこにはぎっしりと、女性物の下着が収まっていた。柄やフリルのついた可愛いものから、布面積が極めて小さいセクシーなものまで、それは見事に揃い踏みだった。
(な、なんでこんな……これ、まさかぜんぶ来主のなのか……!?)
完全に動揺している甲洋は、隠しきれない興味も手伝って、つい下着を手に取ってしまった。右手に白いフリルのTバック、左手には総レースの黒い紐パン。くしゃくしゃの状態で入っていたものだから、取り出す際に絡まった何着かがパサパサと床に散乱する。
あまりにも小さくて薄い布としか言い表せないそれらを見下ろし、愕然としながらもふと過去の出来事を思いだす。
確か以前、操はクマちゃんプリントのお子様パンツを嫌がって、容子にもっとセクシーな下着がいいとワガママを言っていた。あれから時が経ち、まさか本当にゲットしていたなんて。しかもこれほど大量に。
(こんなの、一体いつはく気だよ……?)
少なくとも、甲洋はまだ一度もお目にかかったことがない。事に及ぶ際には、無難な男性用下着を着用している姿しか見たことがなかった。
果たして彼はいつ、どのタイミングで、こんなセクシー下着をつける気でいるのだろうか。あるいは甲洋が知らないだけで、普段からちょいちょい身につけているのか。よく分からないが、なんにせよ──
(今度……見せてもらおう……)
そう心に決めたら、途端にソワソワと落ち着かない気持ちになってしまう。ついつい素人は黙っとれ顔で想像を巡らせていると、ふいにコンコンと扉をノックする音がしてギョッとした。
「ッ──!?」
「操、甲洋くん? 朝ご飯の用意ができたわ……よ……?」
ガチャリと開かれた扉から、容子がひょっこり顔を出した。両手にパンティを持って絶句する甲洋を見て、彼女もまた凍りついたように絶句する。
(う……嘘だろ……?)
なんとも形容しがたいムード。サーッと血の気が引いていく。もっとも見られてはいけない姿を見られてしまった。夢なら早く醒めてくれと願いながら硬直していると、「ふぁ~」という間抜けな声を漏らして操が起き上がった。
「よく寝たぁ。あ、おかぁさん、おはよー」
甲洋の全身に、ドッと嫌な汗が噴きだした。これはさらに不味いことになったような気がする。
容子の目からしたら、可愛い息子の部屋でパンティを両手に持った男が立ち尽くし、当の息子はベッドで素っ裸なのだ。あげく、床にまでパンティが散らばっている。どう控えめに見たって事案が発生しているようにしか見えない……というか、実際に発生しているのだからもはや釈明のしようがない。
(あ、終わった……)
天井を仰ぎ見て、深く息を吐きだした。すると異様な空気に首を傾げていた操が、甲洋が手にしているものを指差して「あー!」と眉を吊り上げる。
「なにしてんの君! それぼくの大事な秘密コレクションだよ! もしかして君もそれはきたいの!? 絶対ムリだよハミ出しちゃうもん!!」
「もっとややこしいことになるだろ! そんなわけあるか! っていうか、秘密にしとく気があるなら引き出しの一番上に入れとくな!」
珍しく声を荒げた甲洋は、顔面蒼白で震えながら恐る恐る容子を見た。ちなみにパンティは未だ両手にしっかり握りしめたままだ。すると彼女は、
「話はゆっくり聞かせてもらうわ。ちゃんと説明してくれるのよね? 甲洋くん」
と言って、にっこり笑った。
有無を言わさぬその圧に、甲洋はただ項垂れるようにして首を縦に振ることしかできなかった。
その後──。
甲洋は秘めていた操との関係を、すべてカミングアウトすることになった。
操は終始キョトンとしていたが、容子は「そんな気はしてたのよ」と言いながら、イタズラっぽく肩を揺らして笑っていた。
こうして二人は晴れて母親公認のもと、正式にお付き合いをすることになったのである。
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