2025/06/14 Sat 駅前にある大型ペットショップ・でるかだ~る。 その店の小動物コーナーには、世にも珍しい青色ハリネズミの兄妹がいる。 兄の名はカミュ。金のフープピアスがバッチリ決まった男前。妹の名はマヤで、真っ赤なリボンのオシャレな女の子だ。 二匹はとても仲が良く、いつも一緒に巣箱のなかで昼寝をしている。 その日もカミュとマヤはくっついて過ごしていたが、何者かの手によって巣箱が持ち上げられたと思ったら、マヤが連れ去られてしまった。 「あっ、兄貴! やだやだっ、助けて兄貴ー!」 「マヤ!? この野郎っ、マヤをどこに連れて行く気だ!?」 「あに……っ、おにいちゃぁんッ!!」 「マヤーッ!!」 ハリネズミがどんなに興奮して叫んだところで、人間の耳にはフシュフシュという不思議な音にしか聞こえない。カミュは小さな手でケージの格子を掴んで揺さぶったが、辺りの人間たちは「あら可愛い」などと言って笑うだけだった。 そうこうしているうちに、すっかりマヤの姿が見えなくなった。 「マヤ……っ」 カミュは心配でたまらず、床材が敷き詰められたケージの中をグルグルと歩き回った。しかし待てど暮らせど、マヤが戻る気配はない。 するとそこに長い金髪を一つにまとめ、『でるかだ~る』と金の刺繍が入った、白いエプロンの男がやってきた。その背後には、同じ刺繍に黒いエプロンの大男も立っている。 「くくっ……妹に先を越され、惨めに売れ残った気分はどうだ? 薄汚いドブネズミよ」 「ホメロス、グレイグ……! お前ら、マヤをどこにやった!?」 針のような毛を逆立てながら、カミュは二人を睨みつけた。ホメロスは腰をかがめ、そんなカミュの様子に不敵な笑みを浮かべている。 「貴様のようなチビの薄ノロは、せいぜいここで大人しくよく食べ、よく寝て、よく遊び、無様に宿命の時を待つことだ。フハハ!」 「ホメロスよ。妹は優しそうな飼い主のもとに行ったから安心しろ、お前も元気に過ごしていれば、必ずいい飼い主に巡りあえるだろう、と普通に言ってやってはどうだ?」 「うるさいぞグレイグ! いちいち翻訳せんでいい!」 仲がいいのか悪いのかよく分からない凸凹コンビは、あーだこーだと言い合いながら去っていった。 残されたカミュは、 「チッ、ホメロスのヤツ……めちゃくちゃ励ましてくれやがって……」 と、態度だけでも反発しといた。 それよりも問題はマヤのことだ。 グレイグ翻訳によると、どうやらマヤはどこぞの誰かに購入されてしまったらしい。いつかはこんな日が訪れるかもとは思っていたが、いざとなるとやはり心配で仕方がなかった。 せめて無事を確認するまでは安心できない。 マヤは生意気だが、本当はとても寂しがりやな甘えん坊だ。今ごろ不安で泣いているかもしれないし、飼い主が善人の皮をかぶった悪人だったら目も当てられない。 そこでカミュは決意した。もしマヤが辛い目にあっているようなら、必ず助けだしてやる、と。そのためには、こんなところからさっさとオサラバしなければ。 そうと決まれば、まずは巣箱に戻って息をひそめた。時おりホメロスが様子を見に来たが、寝たふりをしてやりすごしているうちに彼も安心したらしい。 「フッ。さすがは低能なドブネズミ。妹のことなど、とうに忘れ去ったか」 「少し寂しいが、つらいことは早く忘れるに限る……だな」 「だからうるさいぞグレイグ!」 双頭の店員はやかましくも再び去っていく。 やがて客足も減り、他のスタッフの姿もまばらになった。 (よし、今だ!) カミュは慎重に巣箱から出ると、内側から器用な手つきでケージのスライド式ロックを外した。いつも人間がこうして開けているのを見て、学習していたのだ。 そしてタイミングを見計らい、ケージから抜けだすことに成功した。 すぐさま走って壁際に身を寄せ、他の動物のケージや商品棚によじ登った。天井近くの通気口にたどり着くと、パカッとカバーを外してしまう。そして穴に飛び込んだ。 「へへっ、チョロいもんだぜ」 すぐ側の木を伝って着地に成功したカミュは、小さな手でツンと尖った鼻をこすった。 春先の野外は肌寒いが、ハリネズミにしては珍しく寒さに強いカミュにとっては問題じゃない。 「待ってろマヤ! すぐ兄ちゃんが助けにいくからな! うおおおぉーーーーッ!!」 カミュはすぐさま全速力で駆け出した。 しかし外の世界は危険が盛り沢山だった。道路には鉄の塊がビュンビュン行き交い、人の往来も凄まじい。もし見つかりでもすれば、すぐに捕まってしまうだろう。 そうなればよくてショップ戻りか、最悪どんな目にあうかわからない。 (立ち止まるな! オレは、こんな所で終われない!) 自慢の俊足を生かし、コーナーで差をつける勢いで低木や草むらに隠れながら走った。右へ、左へ、また右へ。小さな手足でグングン突き進むうち、カミュの脳裏にふと、しごく当然の疑問が浮かんだ。 ところでマヤは、一体どこにいるんだ? と──。 「マジか! オレはどこに行けばいいんだ!?」 大爆走していたカミュは、適当な草むらの中で急停止した。 ここまで我武者羅に走ってきたため、もはやショップの場所すら分からない。完全に迷子になってしまったことを悟り、途方に暮れる。 しかしここで立ち止まっていても埒が明かない。まずはどこか落ち着ける場所を探し、今後のことをじっくり考えよう。カミュは草むらから出ると再び走りはじめた──が、その道のりは波乱を極めた。 ハトやカラスに連れて行かれそうになったり、野良猫のオモチャにされそうになったり、巨大な鉄の塊(トラック)の風圧に吹き飛ばされたり……とにかく気づいたらボロボロのヨレヨレになっていた。 「外がこれほど過酷とはな……こんな所にいたら、命がいくつあっても足りねえ」 はあはあと息を乱し、這うようにしてたどり着いたのはとある公園だった。 そこには立派な噴水があり、噴きだす水が夕日のオレンジを弾いて輝いている。動物や人間の姿もなく、カミュはひとまずホッとした。 ここまで休みなく走り続けてきたせいで、ひどく喉が乾いている。カミュは噴水に近づき、囲いをよじ登ろうとした。しかしコンクリートの囲いには高さがあり、小さな身体では届かない。疲労と空腹で力も入らず、だんだん意識が朦朧としてくるのを感じた。 「くそ……ここまでか……マヤ……」 ──……ミュ……カ……ミュよ…… (誰だ? オレを呼ぶのは……?) 夢か現かも知れない意識の狭間で、誰かがカミュを呼んでいる。声は徐々に鮮明になっていき、やがて目の前に姿を現した。 それは水色がかった灰色のハリネズミだった。立派な口ひげを生やし、赤い宝石がついた杖をついている。 (だ、誰だ!?) ──わしはおぬしの世界で預言者と呼ばれる者。そなたに予言を与えよう。 (予言だって……?) ──カミュよ。公園で出会うサラサラヘアーと心を通わせ……さすればお前の願いも果たされるだろう……。 老いたハリネズミは、その輪郭をぼんやりと滲ませながら遠のいていく。今にも消えゆこうとする姿に、カミュは手を伸ばそうとした。 (ちょっ、待てよじいさん! なんだよサラサラヘアーって!?) ──よいなカミュ、サラサラじゃ。サラサラヘアーじゃぞ……。 「キミ、喉が渇いてるの? 飲ませてあげようか?」 そのとき、すぐそばでとてもクリアな声がした。さっきの老いたハリネズミのものではない。若い男の声だった。 「──ッ、!?」 気がつけば、カミュは人間の大きな手によって抱き上げられていた。 見上げると、そこにはブレザーの制服に薄紫のマフラーをした少年の顔がある。カミュを抱き上げる両手は、左手の甲に包帯が巻きつけられていた。 (さっきのは夢か? それに、こいつは──!) 少女と見紛うほど端正な顔つきをした少年は、それは見事なサラサラヘアーだった。 カミュは夢のなかでの予言とやらを思いだす。 公園で出会うサラサラヘアーと心を通わせ。さすればお前の願いも果たされる──。 (じょ、冗談じゃねえ! そんなうさんくせーこと信じられるか!) カミュは少年の手のなかで手足をバタつかせた。フシューフシューと威嚇して、身体を丸めながら全身の毛を逆立てる。 「イタッ、イタタっ、針が痛い……あ、そうだ」 少年は首のマフラーを外すと、カミュの全身をグルグル巻きにして包みこんだ。 「くそっ、離せ! 離しやがれ! なんだこれあったけえ! しかもいい匂いまでしやがるぜ!」 少年の温もりが残るマフラーに全身を包まれ、カミュはなおも暴れた。 しかし適度な暗さとあたたかさのせいで、徐々に睡魔が押し寄せる。柔らかな香りには、まるで鎮静効果があるかのようだった。 疲れもあって、カミュはすぅっと眠りに落ちていた。 「すぴ……すぴ……」 「あれ、寝ちゃった? 疲れてたのかな」 少年は軽くマフラーをめくって中の様子を確かめた。すっかり脱力した状態で、青いハリネズミが眠り込んでいる。 「あはは、可愛い寝顔。ピアスもオシャレだね」 起こさないように、再びマフラーで包み込む。 野生のハリネズミなんてことはないだろうし、どこかのお宅から脱走してきたのだろう。 しかし飼い主探しは後にするとして、まずは落ち着いた場所でゆっくり休ませてやったほうがよさそうだ。 少年はマフラーを胸に抱き、小さなハリネズミを家に連れ帰ることにした。 ←戻る ・ 次へ →
駅前にある大型ペットショップ・でるかだ~る。
その店の小動物コーナーには、世にも珍しい青色ハリネズミの兄妹がいる。
兄の名はカミュ。金のフープピアスがバッチリ決まった男前。妹の名はマヤで、真っ赤なリボンのオシャレな女の子だ。
二匹はとても仲が良く、いつも一緒に巣箱のなかで昼寝をしている。
その日もカミュとマヤはくっついて過ごしていたが、何者かの手によって巣箱が持ち上げられたと思ったら、マヤが連れ去られてしまった。
「あっ、兄貴! やだやだっ、助けて兄貴ー!」
「マヤ!? この野郎っ、マヤをどこに連れて行く気だ!?」
「あに……っ、おにいちゃぁんッ!!」
「マヤーッ!!」
ハリネズミがどんなに興奮して叫んだところで、人間の耳にはフシュフシュという不思議な音にしか聞こえない。カミュは小さな手でケージの格子を掴んで揺さぶったが、辺りの人間たちは「あら可愛い」などと言って笑うだけだった。
そうこうしているうちに、すっかりマヤの姿が見えなくなった。
「マヤ……っ」
カミュは心配でたまらず、床材が敷き詰められたケージの中をグルグルと歩き回った。しかし待てど暮らせど、マヤが戻る気配はない。
するとそこに長い金髪を一つにまとめ、『でるかだ~る』と金の刺繍が入った、白いエプロンの男がやってきた。その背後には、同じ刺繍に黒いエプロンの大男も立っている。
「くくっ……妹に先を越され、惨めに売れ残った気分はどうだ? 薄汚いドブネズミよ」
「ホメロス、グレイグ……! お前ら、マヤをどこにやった!?」
針のような毛を逆立てながら、カミュは二人を睨みつけた。ホメロスは腰をかがめ、そんなカミュの様子に不敵な笑みを浮かべている。
「貴様のようなチビの薄ノロは、せいぜいここで大人しくよく食べ、よく寝て、よく遊び、無様に宿命の時を待つことだ。フハハ!」
「ホメロスよ。妹は優しそうな飼い主のもとに行ったから安心しろ、お前も元気に過ごしていれば、必ずいい飼い主に巡りあえるだろう、と普通に言ってやってはどうだ?」
「うるさいぞグレイグ! いちいち翻訳せんでいい!」
仲がいいのか悪いのかよく分からない凸凹コンビは、あーだこーだと言い合いながら去っていった。
残されたカミュは、
「チッ、ホメロスのヤツ……めちゃくちゃ励ましてくれやがって……」
と、態度だけでも反発しといた。
それよりも問題はマヤのことだ。
グレイグ翻訳によると、どうやらマヤはどこぞの誰かに購入されてしまったらしい。いつかはこんな日が訪れるかもとは思っていたが、いざとなるとやはり心配で仕方がなかった。
せめて無事を確認するまでは安心できない。
マヤは生意気だが、本当はとても寂しがりやな甘えん坊だ。今ごろ不安で泣いているかもしれないし、飼い主が善人の皮をかぶった悪人だったら目も当てられない。
そこでカミュは決意した。もしマヤが辛い目にあっているようなら、必ず助けだしてやる、と。そのためには、こんなところからさっさとオサラバしなければ。
そうと決まれば、まずは巣箱に戻って息をひそめた。時おりホメロスが様子を見に来たが、寝たふりをしてやりすごしているうちに彼も安心したらしい。
「フッ。さすがは低能なドブネズミ。妹のことなど、とうに忘れ去ったか」
「少し寂しいが、つらいことは早く忘れるに限る……だな」
「だからうるさいぞグレイグ!」
双頭の店員はやかましくも再び去っていく。
やがて客足も減り、他のスタッフの姿もまばらになった。
(よし、今だ!)
カミュは慎重に巣箱から出ると、内側から器用な手つきでケージのスライド式ロックを外した。いつも人間がこうして開けているのを見て、学習していたのだ。
そしてタイミングを見計らい、ケージから抜けだすことに成功した。
すぐさま走って壁際に身を寄せ、他の動物のケージや商品棚によじ登った。天井近くの通気口にたどり着くと、パカッとカバーを外してしまう。そして穴に飛び込んだ。
「へへっ、チョロいもんだぜ」
すぐ側の木を伝って着地に成功したカミュは、小さな手でツンと尖った鼻をこすった。
春先の野外は肌寒いが、ハリネズミにしては珍しく寒さに強いカミュにとっては問題じゃない。
「待ってろマヤ! すぐ兄ちゃんが助けにいくからな! うおおおぉーーーーッ!!」
カミュはすぐさま全速力で駆け出した。
しかし外の世界は危険が盛り沢山だった。道路には鉄の塊がビュンビュン行き交い、人の往来も凄まじい。もし見つかりでもすれば、すぐに捕まってしまうだろう。
そうなればよくてショップ戻りか、最悪どんな目にあうかわからない。
(立ち止まるな! オレは、こんな所で終われない!)
自慢の俊足を生かし、コーナーで差をつける勢いで低木や草むらに隠れながら走った。右へ、左へ、また右へ。小さな手足でグングン突き進むうち、カミュの脳裏にふと、しごく当然の疑問が浮かんだ。
ところでマヤは、一体どこにいるんだ? と──。
「マジか! オレはどこに行けばいいんだ!?」
大爆走していたカミュは、適当な草むらの中で急停止した。
ここまで我武者羅に走ってきたため、もはやショップの場所すら分からない。完全に迷子になってしまったことを悟り、途方に暮れる。
しかしここで立ち止まっていても埒が明かない。まずはどこか落ち着ける場所を探し、今後のことをじっくり考えよう。カミュは草むらから出ると再び走りはじめた──が、その道のりは波乱を極めた。
ハトやカラスに連れて行かれそうになったり、野良猫のオモチャにされそうになったり、巨大な鉄の塊(トラック)の風圧に吹き飛ばされたり……とにかく気づいたらボロボロのヨレヨレになっていた。
「外がこれほど過酷とはな……こんな所にいたら、命がいくつあっても足りねえ」
はあはあと息を乱し、這うようにしてたどり着いたのはとある公園だった。
そこには立派な噴水があり、噴きだす水が夕日のオレンジを弾いて輝いている。動物や人間の姿もなく、カミュはひとまずホッとした。
ここまで休みなく走り続けてきたせいで、ひどく喉が乾いている。カミュは噴水に近づき、囲いをよじ登ろうとした。しかしコンクリートの囲いには高さがあり、小さな身体では届かない。疲労と空腹で力も入らず、だんだん意識が朦朧としてくるのを感じた。
「くそ……ここまでか……マヤ……」
──……ミュ……カ……ミュよ……
(誰だ? オレを呼ぶのは……?)
夢か現かも知れない意識の狭間で、誰かがカミュを呼んでいる。声は徐々に鮮明になっていき、やがて目の前に姿を現した。
それは水色がかった灰色のハリネズミだった。立派な口ひげを生やし、赤い宝石がついた杖をついている。
(だ、誰だ!?)
──わしはおぬしの世界で預言者と呼ばれる者。そなたに予言を与えよう。
(予言だって……?)
──カミュよ。公園で出会うサラサラヘアーと心を通わせ……さすればお前の願いも果たされるだろう……。
老いたハリネズミは、その輪郭をぼんやりと滲ませながら遠のいていく。今にも消えゆこうとする姿に、カミュは手を伸ばそうとした。
(ちょっ、待てよじいさん! なんだよサラサラヘアーって!?)
──よいなカミュ、サラサラじゃ。サラサラヘアーじゃぞ……。
「キミ、喉が渇いてるの? 飲ませてあげようか?」
そのとき、すぐそばでとてもクリアな声がした。さっきの老いたハリネズミのものではない。若い男の声だった。
「──ッ、!?」
気がつけば、カミュは人間の大きな手によって抱き上げられていた。
見上げると、そこにはブレザーの制服に薄紫のマフラーをした少年の顔がある。カミュを抱き上げる両手は、左手の甲に包帯が巻きつけられていた。
(さっきのは夢か? それに、こいつは──!)
少女と見紛うほど端正な顔つきをした少年は、それは見事なサラサラヘアーだった。
カミュは夢のなかでの予言とやらを思いだす。
公園で出会うサラサラヘアーと心を通わせ。さすればお前の願いも果たされる──。
(じょ、冗談じゃねえ! そんなうさんくせーこと信じられるか!)
カミュは少年の手のなかで手足をバタつかせた。フシューフシューと威嚇して、身体を丸めながら全身の毛を逆立てる。
「イタッ、イタタっ、針が痛い……あ、そうだ」
少年は首のマフラーを外すと、カミュの全身をグルグル巻きにして包みこんだ。
「くそっ、離せ! 離しやがれ! なんだこれあったけえ! しかもいい匂いまでしやがるぜ!」
少年の温もりが残るマフラーに全身を包まれ、カミュはなおも暴れた。
しかし適度な暗さとあたたかさのせいで、徐々に睡魔が押し寄せる。柔らかな香りには、まるで鎮静効果があるかのようだった。
疲れもあって、カミュはすぅっと眠りに落ちていた。
「すぴ……すぴ……」
「あれ、寝ちゃった? 疲れてたのかな」
少年は軽くマフラーをめくって中の様子を確かめた。すっかり脱力した状態で、青いハリネズミが眠り込んでいる。
「あはは、可愛い寝顔。ピアスもオシャレだね」
起こさないように、再びマフラーで包み込む。
野生のハリネズミなんてことはないだろうし、どこかのお宅から脱走してきたのだろう。
しかし飼い主探しは後にするとして、まずは落ち着いた場所でゆっくり休ませてやったほうがよさそうだ。
少年はマフラーを胸に抱き、小さなハリネズミを家に連れ帰ることにした。
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