2025/06/16 Mon 08 二人が寮に帰宅したのは、辺りがすっかり暗くなってからだった。その頃にはいよいよ天気が崩れ、チラチラと小雪が舞いはじめていた。初雪だ。 「あー、寒かったぁ。暖房つけたから、すぐあったかくなるよ」 魔法を解いて帽子などの一式を消した甲洋が、ベッドに腰掛けてうなずいた。自由になった耳をぷるっと震わせ、しっぽをシーツの上で波打たせている。 可愛い仕草にクスッと笑って、操は脱いだコートをクローゼットにしまった。その足で机に向かうと、置いてあるカバンの中から小さな紙袋を取りだした。 「これ、さっきのお店で買っちゃった」 甲洋の隣に座り、包みを開ける。中身を取りだすと、チリンという音がした。 「可愛い鈴だね」 甲洋が操の手の平にあるものを覗き込む。それはシンプルなデザインのキーホルダーだった。キーリングにチェーンがついており、その先に肉球マークが彫られた大ぶりな金の鈴がぶら下がっている。 あのあと足を運んだ雑貨屋で、操はこっそりこのキーホルダーを購入していた。 「これ、君に」 「俺に?」 操は甲洋の首輪に手をやり、金具の部分にキーホルダーを取りつけた。 「だってこの首輪、真っ黒でぜんぜん可愛くないんだもん。でも、こうしたら少しはマシになるでしょ?」 「俺には少し可愛すぎない?」 「そんなことないよ。可愛い君にぴったりだ」 肉球マークの鈴に指先で触れながら、彼は少し恥ずかしそうに笑って「ありがとう」と言った。うん、とうなずき、操も笑う。 「ぼくこそありがとう。デートなんて初めてだったけど、すごく楽しかったよ」 「初めて?」 すると甲洋がなぜか驚いた顔をした。思いがけない様子で見てくるので、なにかおかしなことを言ってしまったのかと首をかしげる。 「来主、デートしたことないの?」 「ないよ?」 「誰とも?」 「うん。だってそういう相手いたことないもん」 操は色恋にまったく興味がないまま生きてきた。だから恋人なんていたことがないし、欲しいと思ったこともない。恋を自覚したのだって、つい昨晩のことだ。 よほど意外だったのか、甲洋はしきりにまばたきを繰り返している。 「来主は可愛いから、恋人がいたことくらいあるんだと思ってた」 「いないよぉ。まぁぼくが可愛いのは認めるけどさ!」 冗談めかしてエヘンと鼻の下をこすった操に、彼は無言でうつむいてしまった。 「甲洋? どうかしたの?」 操が表情を覗き込もうとするより先に、顔をあげた甲洋がまっすぐに見つめてくる。その瞳は真剣そのもので、どこか切羽詰まっているようにも見えた。 おのずと一週間前の夜のことが思いだされて、心臓がドキッと跳ねる。あのときの彼も、こんなふうに神妙な──あるいはひどく思いつめた顔をして、なにかを言いかけていた。 「嫌だったら、断ってくれていい。忘れてくれて構わないから」 「う、うん」 あの夜と同じ張りつめた緊張感に、操の背がピシャリと伸びる。 喉を鳴らした甲洋が、震える息を吐きだした。彼は膝に置いた拳を握ったり緩めたりしていたが、やがて後に引けないとばかりにようやく口を開いた。 「……来主を抱きたい」 低い声はぎこちなさを帯びていた。語尾は掠れ、いっそ弱々しいとすら思えるほどに。操の理解が追いつくより先に、彼はなおも言葉を重ねる。 「来主が、まだ誰のものでもないのなら。俺を、最初の男にしてほしい」 言い終えたあと、甲洋はみるみるうちに顔を紅潮させた。首の付け根まで広がる赤に、彼がどれだけの勇気を振り絞ったかが見て取れる。 操もまた、伝染したかのように真っ赤になった。頬も額も、耳も首筋も。茫然とする頭の中まで、ものすごい勢いで血液がめぐるのを感じる。 何か言わなければと思わず開きかけた口を、彼が「ごめん」と言って遮った。 「……なに言ってるんだろうな、俺」 いたたまれなくなったのか、甲洋は片手で顔を押さえてしまう。消え入りそうな声で「忘れて」と言った彼に、操はとっさに「やだ!」と叫んで首を振っていた。 「く、来主?」 「だって、嫌じゃないもん」 「!」 「……だから、いいよ」 驚いてるし、戸惑ってもいる。だけどそれ以上に喜びが勝っていた。だって操は甲洋のことが大好きだ。生まれてはじめて恋をした。心から好きだと思った相手に求められて、嬉しくないはずがない。 甲洋の熱っぽく潤んだ瞳が、言葉よりも雄弁にその気持ちを伝えてくれる。だからようやく理解した。 (そっか、だからデートって言ったんだね) 操もまた同じ想いを乗せた眼差しで、彼をまっすぐ見返した。 「その代わり、ぼくにもちょうだい。君が、誰かのものになる前に」 甲洋にはすでに決めた相手がいるし、操もそれを知っている。だからこれはとても不誠実で、彼の帰りを待つお姫様への裏切りでしかない。 けれど深夜0時には、まだ幾ばくかの猶予がある。だったら今だけは、その気持ちが誰に向けられていようとも自由なはずだ。 「ぼくの初めてを、全部あげるよ。だから君も、全部ちょうだい」 彼のすべてが、可愛いお姫様のものになってしまう前に。お互いが、誰のものでもないうちに。愛し合ったという記憶を残せるのは、今だけだから。 「来主……」 「最後の思い出を作ろうよ。ねぇ、いいでしょ?」 自分から言いだしたくせに、甲洋は少し震えていた。操の視線をまっすぐ受け止め、感極まったように大きな息を吐きだしている。 「……ありがとう」 泣きだしそうに濡れた瞳で、彼は幸せそうに微笑んだ。 * 身を寄せ合ってベッドの縁に座ったまま、唇同士を重ね合う。ちゅ、ちゅ、と何度もキスをして、その柔らかさを確かめた。 昨日、操がこっそりキスをしたことを彼は知らない。操もあのときはすぐに正気に戻ってしまったから、その感触をまともに覚えてはいなかった。ただひどく痺れていたということしか。 角度を変えながら繰り返すうちに、甲洋の片腕が操の肩に回された。膝の上では互いの指先が絡まりあう。 うっすらと目を開けると、ほとんど同じタイミングで彼も目を開けていた。あまりにも近すぎる距離でバチンと目が合い、二人揃って驚いてしまう。 「ッ、!」 お互いとっさに顔を離すと、酸素を求めてぷはっと大きく息をついた。真っ赤な顔で目をまん丸にして見つめ合うと、思わず噴きだして笑ってしまう。 「ぷふっ、あははっ! なんかカッコ悪い!」 「しょうがないよ。初めてなんだし」 「君、顔が真っ赤だ! 耳もしっぽも膨らんでるし!」 「来主だって……」 ちょっとムキになって眉根を寄せた甲洋は、耳としっぽの毛がすっかり毛羽立っていた。緊張と興奮が分かりやすく伝わってきて、操はますます笑ってしまう。 「甲洋ってば、可愛すぎ!」 操の方は、逆に緊張の糸がほどけてしまった。甲洋はケラケラと笑い続ける様を複雑そうに見ていたが、まるでバカバカしくなったとばかりに息をつき、けっきょく一緒に笑いだした。 ひとしきり笑ったあと、二人は自然と抱き合っていた。甲洋の喉から、ゴロゴロというご機嫌な音が聞こえてくる。そのままライオンがジャレついてくるみたいに押し倒されて、操は「きゃあ」とはしゃいだ声をあげた。 「甲洋、重たい! 食べられちゃいそうで怖いよ!」 「そうだよ。俺は今から来主のことを食べるんだ」 「ぼくだって! 甲洋のこと、まるごとぜんぶ食べちゃうぞ!」 いいよと言って微笑みながら、甲洋が顔中に鼻先を擦りつけて甘えてくる。操はクスクスと笑い声をあげ、その頭を抱きしめると耳や髪の毛を撫でまわした。 彼が鼻や唇を擦りつけてくるたび、チリンチリンと涼やかに鈴が鳴る。 「あはっ、ぁ、ふふっ……んっ、ぁ……ひゃ……っ」 皮膚に舌や歯を立てられて、笑い声が艶めいてくる。くすぐったいだけじゃない感覚と、甘ったるい自分の声に戸惑った。 「こ、よ……待っ、ぁ……声、変なの……でちゃう……」 「変じゃないよ。もっと聞かせて」 「だって、恥ずかしいよぅ……」 吐息で笑った甲洋に、唇を塞がれる。今度は舌が潜り込んできて、歯列や口蓋をくすぐられた。彼の舌を自分も舌で追いかけて、濡れた肉同士を擦り合わせる。甲洋が鼻からくぐもった息を漏らすと、ゾクゾクするような興奮を覚えた。 「ん、ふ……ぁ……」 混ざりあった唾液が、口の端からとろんとこぼれる。ぼぅっとした頭で視線を彷徨わせていると、「ばんざいできる?」と問いかけられた。 こくんとうなずき、両手をあげる。すると服の裾をめくられて、すっかり上を脱がされてしまった。胸元に残されたどんぐりのペンダントに、彼は愛おしそうに目を細める。 「甲洋も……」 「うん」 膝立ちになった甲洋が、シャツを乱暴に脱ぎ捨てた。服を着ていたら気づかないが、その身体は太い骨組みによって構成されていた。ほどよく乗った筋肉によって、キュッと絞られている。綺麗だなと、操は思った。それに比べて自分の身体はまだどこか未発達で、薄く柔らかな肉が乗っているだけだ。 一体どこに興奮する要素があるのか、彼は操を見下ろして熱い息を吐きだした。 「ずっと触ってみたかった。来主の身体に」 覆いかぶさり、手のひらを胸に滑らせながら、感慨深そうに甲洋が言った。ピクンと反応しながら、操はふと思ったことを口にする。 「君が寝るときいつも猫に戻ってたのは、ずっと我慢してたから?」 すると彼は照れくさそうに目元を染めてうなずいた。 「人の姿で一緒に寝たら、手を出さない自信がなかった。俺は来主が思っているよりも、ずっと理性がないケダモノだから」 「そんな言い方しないで。君はぼくと同じ、ただの男の子だよ」 息を呑んだ甲洋が、耳としっぽの毛をさざ波のようにザワザワと膨らませた。よほど胸に迫るものがあったのか、彼は少し喉を詰まらせながら「ありがとう」と声を搾りだす。 「猫の姿でぼくのおっぱい揉んでる君も、すごく可愛かったけどね」 しかしにっこり笑って言った操の言葉に、彼は言葉をなくして硬直した。 「あ、そっか。君は無意識だったんだっけ」 「そんなこと……してた……?」 「してたよ。ぼくのおっぱい、子猫みたいに」 甲洋は「あぁ」とか「うぅ」とか、よく分からない声で唸った。すっかりうなだれ、首筋や肩まで赤くしている。操はその頭をよしよしと撫でてやった。 「いいじゃん。ぼくもお母さんになったみたいで嬉しかったし」 「……今からするのは、そういうのじゃないから」 「え? あっ、ふぁ……ッ!?」 ひと睨みされたかと思ったら、次の瞬間まっ平らな胸にキスをされた。 彼は羞恥を押し隠すように黙り込み、愛撫する動きに専念しだす。薄い肉を寄せ集めて揉みしだき、もう片方にはしつこいくらい吸いついた。 操は肌を粟立たせながら身を捩った。さんざん吸ったり舐めたり、時おり歯を立てたりされているうちに、両方の乳首が赤く膨らんで勃起する。思わず顔を両手で隠し、指の隙間から甲洋を見て嫌々と首を振った。 「やっ、いゃ、アッ……! はずかし……、ぁッ、ん、ふあぁ……っ!」 じゅう、と音が鳴るほど乳首を吸われて、あられもない嬌声があがる。生まれて初めての性感は、怖いくらい鋭いくせに蕩けそうなほど甘かった。じわじわと蒸し焼きにされたみたいに、頭がぼぅっとしてなにも考えられなくなる。 甲洋は操の皮膚にうっすら痕を残しながら、片手を下肢へと伸ばしていった。器用に前を解かれて、下着ごと皮を剥ぐように脱がされてしまう。ヒクヒクと震えながら姿を現した性器は、赤く色づきながら反応していた。 「よかった……来主がちゃんと気持ちよくなってくれて」 しっぽをリズミカルに大きく左右に振りながら、甲洋が嬉しそうに息をつく。 「恥ずかしいから、あんま見ないでよぉ……」 「ごめん。だけど、すごく可愛い」 触るよという宣言のあと、甲洋の手が性器に触れた。くにくにと揉むような動きで刺激され、先端がじわりと濡れる。鈴口をせき止めるように親指の腹で擦られると、痺れるような熱が腹の底から込み上げた。 「ひゃ、ッ……! ぁっ、や、あぁ……ッ、ん……っ!」 あまりにも興味がなさすぎて、自慰すらおろそかにしてきた身体は、明確に与えられる刺激に敏感すぎた。泣きべそをかくように先走りが溢れだし、その滑りを借りながら扱かれると、身体が勝手にビクビクと激しく波打つ。 「こよ、待っ、ッ、ぃ……ッ、あっ、ぅ、あぁぁッ……~~ッ!」 目の前が一瞬、白く染まった。身体がグッと硬直し、爪先をぎゅっと丸めながら果ててしまう。息を長く吐きだしながら、徐々に身体が弛緩していく。 初めての絶頂に、頭の中がガンガンしていた。浅く呼吸を繰り返し、抜けない余韻にか細く震える。焦点が定まらない視線をさまよわせると、操は甲洋の手がひどく汚れていることに気がついた。 「っ、ぁ……、こよ、ごめ……」 手のひらに滴るほどの量に羞恥を煽られ、じわりと涙が浮かんでしまう。甲洋は身を乗りだすと、慰めるように笑って操の目尻にキスをした。 「泣かないで。来主が気持ちいいと、俺も嬉しい」 「ん……」 「来主の大事なところ、もっと触っていい?」 まだ整わない息で小さくしゃくりを上げながら、それでも操はうなずいた。恥ずかしいし、身体がうまくついて行けているのかも分からない。だけど甲洋になら何をされてもいいと思った。 イッたあとで萎れた性器のさらに奥へと、濡れた手が潜り込もうとする動きに合わせて、操は自然と立てた両足を広げていた。 「んっ……!」 固く閉ざされた器官に触れられ、思わずぎゅっと目を閉じる。窄まった場所に体液を馴染ませるようにくるくると刺激されると、強ばる身体とは裏腹に、そこだけふやかされていくようだった。 圧をかけられ、人差し指の先端が潜り込んでくると、「ひぅッ!」という引きつった声が漏れてしまった。とっさに向けられた気遣わしげな視線に、操は大丈夫という意味を込めて首を振る。 「音、聞こえる?」 ホッとした顔を見せながらも、甲洋がチクチクと音をさせて指を動かす。操が放ったものと、腸壁を守るために分泌される生理的な体液とで、そこは卑猥な水音を立てていた。 「聞こ、える……エッチな音、してる……」 「痛かったら言って。来主のここは、すごく小さいから」 「ふぁっ、ぁ……っ、やっ、指……指が……っ」 長い指は男性らしく節くれだっている。飲み込まされては引き抜かれ、それを繰り返されているうちに、異物感に別の何かが混ざりだす。とても悪いことをしている気がするのに、腰から這い上がる感覚が甘く皮膚をざわつかせる。 指を増やされると苦しかったが、時間をかけられるほどに切なくなった。 「こよ……もう、いいから……」 つい急かしてしまった操に、甲洋が喉を鳴らしてこくんとうなずく。 彼は慎重に指を引き抜くと、ジーンズの前をくつろげて張りつめた自身をとりだした。血管が浮きあがり、ピクピクと脈打っている。 初めて見る勃起した大人の性器に、操はドキドキと胸を跳ねさせた。祈るようにどんぐりを両手で握りしめ、彼が幾度か自身を扱く光景を見守る。 「おっきいね、甲洋の」 「……あまり見ないで」 ついさっき自分も経験したから分かる。「恥ずかしいよね」と言って笑った操に、ペタリと耳を寝かせた彼が苦笑した。 甲洋は操の両足を割り開き、腰がわずかに浮くほど折り曲げると、何か思い立った様子でクッションに手を伸ばした。引き寄せたそれを腰の下に差し込まれると、位置が固定されて楽になる。 操がホッと息をついていると、濡れた孔に先端があてがわれた。 「来主……」 「うん。いいよ、甲洋」 操が微笑んだのを合図に、ゆっくりと腰が進められていく。太くて硬い熱の塊に、小さな孔がこじ開けられる。めくれ上がるような痛みと圧迫感に、操は喉を反らして呻きをあげた。 「あうぅ……ッ、ぃ、あ……おっき、ぃ……っ」 「くる、す……っ」 半分ほど埋めたところで、汗だくの甲洋がいったん動きを止めた。操の身体の両脇に両手をつき、うなだれながら呼吸を荒げている。彼も痛いのかもしれない。どんぐりを握りしめていた両手を伸ばし、震えている耳をそっと撫でた。 顔をあげた甲洋は、少し泣きそうな目をしていて可愛かった。思わずふっと笑ったら、少し緊張が解けた気がした。 「ゆっくりで、いいよ……」 チリン、と鈴の音が鳴り響く。安心させるように頬を撫でると、彼はもっと泣きそうにくしゃりと顔を歪めたが、すぐに唇を引き結んで腰を進めはじめた。 「くるす……くるす……っ」 「はあっ、ぁ……ああぁ……っ、ぁ、──……っ!」 きつく目を閉じ、覆いかぶさってきた身体を受け止めた。互いに荒い呼吸を繰返し、そのまま声もなく抱きしめ合う。 隙間なく穿たれた肉棒が、ドクドクと脈打っている。嬉しかった。自分の中にある彼の性に、命を握らされたような背徳感すら覚える。やっぱり食べられるのは甲洋の方だったのだと。 「もう、動いていいよ」 呼吸が整ってきたところで、肉厚な耳にキスをしながら囁いた。甲洋は少し子供っぽく「うん」と頷き、顔をあげると操の唇に軽く口づける。 半分ほど引き抜かれ、ズンと奥まで穿たれた。ふたり同時にくぐもった声を漏らす。そのままゆっくりと抽挿が繰り返され、やがて規則的なリズムが生まれた。チリン、チリン、と鈴が鳴る。 「あっ! ふぁっ、あ、ぁッ、……っ、こ、よ……こう、よう……ッ!」 肉路と竿が馴染んで、鈍い音を立てながら互いを擦り上げている。腹の奥を突かれるたびに、痛みより熱さの方が増していく。振り落とされないように、操は両足を甲洋の腰にきつく絡めてしがみついた。 甲洋がわずかに角度を変えて突き上げたとき、切っ先がある一点に触れた。ジワリと熱湯が湧き出したような感覚に、操はひときわ大きく身を震わせる。 「やぁっ、ア……! だめ、そこっ、いや……ッ!」 「ここ?」 「ひぅ、ん……ッ! や、やっ……、あうぅ、ぁ、そこぉ……っ」 「……わかった」 心得たとばかりに、重点的にこすられた。操は髪を振り乱し、生まれて初めての強すぎる快楽に涙を流す。だけど自然と、腰は甲洋の動きに合わせて揺れていた。 萎れていた性器もすっかり力を取り戻し、白濁とした液体を滲ませている。 「くる、す……ッ、は……っ、ぅ……っ」 甲洋は獣じみた吐息を漏らし、自身も快楽を貪りながらしっぽを鞭のように波打たせていた。バチ、バチ、と荒々しくシーツを叩き、喉をゴロゴロと鳴らしている。動きに合わせて、鈴の音もまた激しくなった。 愛しさが募るほどに、最果てがすぐ目の前まで迫ってくる。 「ああぁ……ッ、アッ、だめっぇ、ヒッ、ぃ、もう、だめぇぇ……っ!」 「来主……ッ、俺も、いく……──っ」 ナカで甲洋が大きく脈打った。ほとんど同時に熱が弾けて、真っ白になる。 彼はピンと立てたしっぽを、ブルブルと激しく震わせて射精した。腹の奥へと注がれる熱に、心も身体も満たされる。 操の性器からも白濁が散り、脇腹を伝い落ちてクッションを汚した。 「来主……」 小さく呼ぶ声に、操は「うん」と鼻をすすってうなずいた。慰め合うようにきつく抱き合い、余韻に身を震わせる。 満ち足りた波が過ぎ去ってもなお、ふたりはそのまま動けなかった。離れたくない。離したくない。逆さまにした砂時計のように、切なさばかりが降り積もる。 このままでいたいと願うほど、涙が溢れて止まらなかった。 「お願い、甲洋」 行かないで──という言葉を、優しくキスで塞がれる。なにも言わないでとばかりに、その口づけは深かった。 (……ズルいよ、君は) 一緒に逃げてもくれないくせに。好きという言葉すら言わせてくれない。ただずっと傍にいたいだけなのに。たったそれだけのことが、どうして難しいんだろう。 (分かってたのに) 身体を繋げてしまったら、ますます離れがたくなることだって。ぜんぶぜんぶ、ちゃんと分かっていたはずなのに。 ←戻る ・ 次へ→
二人が寮に帰宅したのは、辺りがすっかり暗くなってからだった。その頃にはいよいよ天気が崩れ、チラチラと小雪が舞いはじめていた。初雪だ。
「あー、寒かったぁ。暖房つけたから、すぐあったかくなるよ」
魔法を解いて帽子などの一式を消した甲洋が、ベッドに腰掛けてうなずいた。自由になった耳をぷるっと震わせ、しっぽをシーツの上で波打たせている。
可愛い仕草にクスッと笑って、操は脱いだコートをクローゼットにしまった。その足で机に向かうと、置いてあるカバンの中から小さな紙袋を取りだした。
「これ、さっきのお店で買っちゃった」
甲洋の隣に座り、包みを開ける。中身を取りだすと、チリンという音がした。
「可愛い鈴だね」
甲洋が操の手の平にあるものを覗き込む。それはシンプルなデザインのキーホルダーだった。キーリングにチェーンがついており、その先に肉球マークが彫られた大ぶりな金の鈴がぶら下がっている。
あのあと足を運んだ雑貨屋で、操はこっそりこのキーホルダーを購入していた。
「これ、君に」
「俺に?」
操は甲洋の首輪に手をやり、金具の部分にキーホルダーを取りつけた。
「だってこの首輪、真っ黒でぜんぜん可愛くないんだもん。でも、こうしたら少しはマシになるでしょ?」
「俺には少し可愛すぎない?」
「そんなことないよ。可愛い君にぴったりだ」
肉球マークの鈴に指先で触れながら、彼は少し恥ずかしそうに笑って「ありがとう」と言った。うん、とうなずき、操も笑う。
「ぼくこそありがとう。デートなんて初めてだったけど、すごく楽しかったよ」
「初めて?」
すると甲洋がなぜか驚いた顔をした。思いがけない様子で見てくるので、なにかおかしなことを言ってしまったのかと首をかしげる。
「来主、デートしたことないの?」
「ないよ?」
「誰とも?」
「うん。だってそういう相手いたことないもん」
操は色恋にまったく興味がないまま生きてきた。だから恋人なんていたことがないし、欲しいと思ったこともない。恋を自覚したのだって、つい昨晩のことだ。
よほど意外だったのか、甲洋はしきりにまばたきを繰り返している。
「来主は可愛いから、恋人がいたことくらいあるんだと思ってた」
「いないよぉ。まぁぼくが可愛いのは認めるけどさ!」
冗談めかしてエヘンと鼻の下をこすった操に、彼は無言でうつむいてしまった。
「甲洋? どうかしたの?」
操が表情を覗き込もうとするより先に、顔をあげた甲洋がまっすぐに見つめてくる。その瞳は真剣そのもので、どこか切羽詰まっているようにも見えた。
おのずと一週間前の夜のことが思いだされて、心臓がドキッと跳ねる。あのときの彼も、こんなふうに神妙な──あるいはひどく思いつめた顔をして、なにかを言いかけていた。
「嫌だったら、断ってくれていい。忘れてくれて構わないから」
「う、うん」
あの夜と同じ張りつめた緊張感に、操の背がピシャリと伸びる。
喉を鳴らした甲洋が、震える息を吐きだした。彼は膝に置いた拳を握ったり緩めたりしていたが、やがて後に引けないとばかりにようやく口を開いた。
「……来主を抱きたい」
低い声はぎこちなさを帯びていた。語尾は掠れ、いっそ弱々しいとすら思えるほどに。操の理解が追いつくより先に、彼はなおも言葉を重ねる。
「来主が、まだ誰のものでもないのなら。俺を、最初の男にしてほしい」
言い終えたあと、甲洋はみるみるうちに顔を紅潮させた。首の付け根まで広がる赤に、彼がどれだけの勇気を振り絞ったかが見て取れる。
操もまた、伝染したかのように真っ赤になった。頬も額も、耳も首筋も。茫然とする頭の中まで、ものすごい勢いで血液がめぐるのを感じる。
何か言わなければと思わず開きかけた口を、彼が「ごめん」と言って遮った。
「……なに言ってるんだろうな、俺」
いたたまれなくなったのか、甲洋は片手で顔を押さえてしまう。消え入りそうな声で「忘れて」と言った彼に、操はとっさに「やだ!」と叫んで首を振っていた。
「く、来主?」
「だって、嫌じゃないもん」
「!」
「……だから、いいよ」
驚いてるし、戸惑ってもいる。だけどそれ以上に喜びが勝っていた。だって操は甲洋のことが大好きだ。生まれてはじめて恋をした。心から好きだと思った相手に求められて、嬉しくないはずがない。
甲洋の熱っぽく潤んだ瞳が、言葉よりも雄弁にその気持ちを伝えてくれる。だからようやく理解した。
(そっか、だからデートって言ったんだね)
操もまた同じ想いを乗せた眼差しで、彼をまっすぐ見返した。
「その代わり、ぼくにもちょうだい。君が、誰かのものになる前に」
甲洋にはすでに決めた相手がいるし、操もそれを知っている。だからこれはとても不誠実で、彼の帰りを待つお姫様への裏切りでしかない。
けれど深夜0時には、まだ幾ばくかの猶予がある。だったら今だけは、その気持ちが誰に向けられていようとも自由なはずだ。
「ぼくの初めてを、全部あげるよ。だから君も、全部ちょうだい」
彼のすべてが、可愛いお姫様のものになってしまう前に。お互いが、誰のものでもないうちに。愛し合ったという記憶を残せるのは、今だけだから。
「来主……」
「最後の思い出を作ろうよ。ねぇ、いいでしょ?」
自分から言いだしたくせに、甲洋は少し震えていた。操の視線をまっすぐ受け止め、感極まったように大きな息を吐きだしている。
「……ありがとう」
泣きだしそうに濡れた瞳で、彼は幸せそうに微笑んだ。
*
身を寄せ合ってベッドの縁に座ったまま、唇同士を重ね合う。ちゅ、ちゅ、と何度もキスをして、その柔らかさを確かめた。
昨日、操がこっそりキスをしたことを彼は知らない。操もあのときはすぐに正気に戻ってしまったから、その感触をまともに覚えてはいなかった。ただひどく痺れていたということしか。
角度を変えながら繰り返すうちに、甲洋の片腕が操の肩に回された。膝の上では互いの指先が絡まりあう。
うっすらと目を開けると、ほとんど同じタイミングで彼も目を開けていた。あまりにも近すぎる距離でバチンと目が合い、二人揃って驚いてしまう。
「ッ、!」
お互いとっさに顔を離すと、酸素を求めてぷはっと大きく息をついた。真っ赤な顔で目をまん丸にして見つめ合うと、思わず噴きだして笑ってしまう。
「ぷふっ、あははっ! なんかカッコ悪い!」
「しょうがないよ。初めてなんだし」
「君、顔が真っ赤だ! 耳もしっぽも膨らんでるし!」
「来主だって……」
ちょっとムキになって眉根を寄せた甲洋は、耳としっぽの毛がすっかり毛羽立っていた。緊張と興奮が分かりやすく伝わってきて、操はますます笑ってしまう。
「甲洋ってば、可愛すぎ!」
操の方は、逆に緊張の糸がほどけてしまった。甲洋はケラケラと笑い続ける様を複雑そうに見ていたが、まるでバカバカしくなったとばかりに息をつき、けっきょく一緒に笑いだした。
ひとしきり笑ったあと、二人は自然と抱き合っていた。甲洋の喉から、ゴロゴロというご機嫌な音が聞こえてくる。そのままライオンがジャレついてくるみたいに押し倒されて、操は「きゃあ」とはしゃいだ声をあげた。
「甲洋、重たい! 食べられちゃいそうで怖いよ!」
「そうだよ。俺は今から来主のことを食べるんだ」
「ぼくだって! 甲洋のこと、まるごとぜんぶ食べちゃうぞ!」
いいよと言って微笑みながら、甲洋が顔中に鼻先を擦りつけて甘えてくる。操はクスクスと笑い声をあげ、その頭を抱きしめると耳や髪の毛を撫でまわした。
彼が鼻や唇を擦りつけてくるたび、チリンチリンと涼やかに鈴が鳴る。
「あはっ、ぁ、ふふっ……んっ、ぁ……ひゃ……っ」
皮膚に舌や歯を立てられて、笑い声が艶めいてくる。くすぐったいだけじゃない感覚と、甘ったるい自分の声に戸惑った。
「こ、よ……待っ、ぁ……声、変なの……でちゃう……」
「変じゃないよ。もっと聞かせて」
「だって、恥ずかしいよぅ……」
吐息で笑った甲洋に、唇を塞がれる。今度は舌が潜り込んできて、歯列や口蓋をくすぐられた。彼の舌を自分も舌で追いかけて、濡れた肉同士を擦り合わせる。甲洋が鼻からくぐもった息を漏らすと、ゾクゾクするような興奮を覚えた。
「ん、ふ……ぁ……」
混ざりあった唾液が、口の端からとろんとこぼれる。ぼぅっとした頭で視線を彷徨わせていると、「ばんざいできる?」と問いかけられた。
こくんとうなずき、両手をあげる。すると服の裾をめくられて、すっかり上を脱がされてしまった。胸元に残されたどんぐりのペンダントに、彼は愛おしそうに目を細める。
「甲洋も……」
「うん」
膝立ちになった甲洋が、シャツを乱暴に脱ぎ捨てた。服を着ていたら気づかないが、その身体は太い骨組みによって構成されていた。ほどよく乗った筋肉によって、キュッと絞られている。綺麗だなと、操は思った。それに比べて自分の身体はまだどこか未発達で、薄く柔らかな肉が乗っているだけだ。
一体どこに興奮する要素があるのか、彼は操を見下ろして熱い息を吐きだした。
「ずっと触ってみたかった。来主の身体に」
覆いかぶさり、手のひらを胸に滑らせながら、感慨深そうに甲洋が言った。ピクンと反応しながら、操はふと思ったことを口にする。
「君が寝るときいつも猫に戻ってたのは、ずっと我慢してたから?」
すると彼は照れくさそうに目元を染めてうなずいた。
「人の姿で一緒に寝たら、手を出さない自信がなかった。俺は来主が思っているよりも、ずっと理性がないケダモノだから」
「そんな言い方しないで。君はぼくと同じ、ただの男の子だよ」
息を呑んだ甲洋が、耳としっぽの毛をさざ波のようにザワザワと膨らませた。よほど胸に迫るものがあったのか、彼は少し喉を詰まらせながら「ありがとう」と声を搾りだす。
「猫の姿でぼくのおっぱい揉んでる君も、すごく可愛かったけどね」
しかしにっこり笑って言った操の言葉に、彼は言葉をなくして硬直した。
「あ、そっか。君は無意識だったんだっけ」
「そんなこと……してた……?」
「してたよ。ぼくのおっぱい、子猫みたいに」
甲洋は「あぁ」とか「うぅ」とか、よく分からない声で唸った。すっかりうなだれ、首筋や肩まで赤くしている。操はその頭をよしよしと撫でてやった。
「いいじゃん。ぼくもお母さんになったみたいで嬉しかったし」
「……今からするのは、そういうのじゃないから」
「え? あっ、ふぁ……ッ!?」
ひと睨みされたかと思ったら、次の瞬間まっ平らな胸にキスをされた。
彼は羞恥を押し隠すように黙り込み、愛撫する動きに専念しだす。薄い肉を寄せ集めて揉みしだき、もう片方にはしつこいくらい吸いついた。
操は肌を粟立たせながら身を捩った。さんざん吸ったり舐めたり、時おり歯を立てたりされているうちに、両方の乳首が赤く膨らんで勃起する。思わず顔を両手で隠し、指の隙間から甲洋を見て嫌々と首を振った。
「やっ、いゃ、アッ……! はずかし……、ぁッ、ん、ふあぁ……っ!」
じゅう、と音が鳴るほど乳首を吸われて、あられもない嬌声があがる。生まれて初めての性感は、怖いくらい鋭いくせに蕩けそうなほど甘かった。じわじわと蒸し焼きにされたみたいに、頭がぼぅっとしてなにも考えられなくなる。
甲洋は操の皮膚にうっすら痕を残しながら、片手を下肢へと伸ばしていった。器用に前を解かれて、下着ごと皮を剥ぐように脱がされてしまう。ヒクヒクと震えながら姿を現した性器は、赤く色づきながら反応していた。
「よかった……来主がちゃんと気持ちよくなってくれて」
しっぽをリズミカルに大きく左右に振りながら、甲洋が嬉しそうに息をつく。
「恥ずかしいから、あんま見ないでよぉ……」
「ごめん。だけど、すごく可愛い」
触るよという宣言のあと、甲洋の手が性器に触れた。くにくにと揉むような動きで刺激され、先端がじわりと濡れる。鈴口をせき止めるように親指の腹で擦られると、痺れるような熱が腹の底から込み上げた。
「ひゃ、ッ……! ぁっ、や、あぁ……ッ、ん……っ!」
あまりにも興味がなさすぎて、自慰すらおろそかにしてきた身体は、明確に与えられる刺激に敏感すぎた。泣きべそをかくように先走りが溢れだし、その滑りを借りながら扱かれると、身体が勝手にビクビクと激しく波打つ。
「こよ、待っ、ッ、ぃ……ッ、あっ、ぅ、あぁぁッ……~~ッ!」
目の前が一瞬、白く染まった。身体がグッと硬直し、爪先をぎゅっと丸めながら果ててしまう。息を長く吐きだしながら、徐々に身体が弛緩していく。
初めての絶頂に、頭の中がガンガンしていた。浅く呼吸を繰り返し、抜けない余韻にか細く震える。焦点が定まらない視線をさまよわせると、操は甲洋の手がひどく汚れていることに気がついた。
「っ、ぁ……、こよ、ごめ……」
手のひらに滴るほどの量に羞恥を煽られ、じわりと涙が浮かんでしまう。甲洋は身を乗りだすと、慰めるように笑って操の目尻にキスをした。
「泣かないで。来主が気持ちいいと、俺も嬉しい」
「ん……」
「来主の大事なところ、もっと触っていい?」
まだ整わない息で小さくしゃくりを上げながら、それでも操はうなずいた。恥ずかしいし、身体がうまくついて行けているのかも分からない。だけど甲洋になら何をされてもいいと思った。
イッたあとで萎れた性器のさらに奥へと、濡れた手が潜り込もうとする動きに合わせて、操は自然と立てた両足を広げていた。
「んっ……!」
固く閉ざされた器官に触れられ、思わずぎゅっと目を閉じる。窄まった場所に体液を馴染ませるようにくるくると刺激されると、強ばる身体とは裏腹に、そこだけふやかされていくようだった。
圧をかけられ、人差し指の先端が潜り込んでくると、「ひぅッ!」という引きつった声が漏れてしまった。とっさに向けられた気遣わしげな視線に、操は大丈夫という意味を込めて首を振る。
「音、聞こえる?」
ホッとした顔を見せながらも、甲洋がチクチクと音をさせて指を動かす。操が放ったものと、腸壁を守るために分泌される生理的な体液とで、そこは卑猥な水音を立てていた。
「聞こ、える……エッチな音、してる……」
「痛かったら言って。来主のここは、すごく小さいから」
「ふぁっ、ぁ……っ、やっ、指……指が……っ」
長い指は男性らしく節くれだっている。飲み込まされては引き抜かれ、それを繰り返されているうちに、異物感に別の何かが混ざりだす。とても悪いことをしている気がするのに、腰から這い上がる感覚が甘く皮膚をざわつかせる。
指を増やされると苦しかったが、時間をかけられるほどに切なくなった。
「こよ……もう、いいから……」
つい急かしてしまった操に、甲洋が喉を鳴らしてこくんとうなずく。
彼は慎重に指を引き抜くと、ジーンズの前をくつろげて張りつめた自身をとりだした。血管が浮きあがり、ピクピクと脈打っている。
初めて見る勃起した大人の性器に、操はドキドキと胸を跳ねさせた。祈るようにどんぐりを両手で握りしめ、彼が幾度か自身を扱く光景を見守る。
「おっきいね、甲洋の」
「……あまり見ないで」
ついさっき自分も経験したから分かる。「恥ずかしいよね」と言って笑った操に、ペタリと耳を寝かせた彼が苦笑した。
甲洋は操の両足を割り開き、腰がわずかに浮くほど折り曲げると、何か思い立った様子でクッションに手を伸ばした。引き寄せたそれを腰の下に差し込まれると、位置が固定されて楽になる。
操がホッと息をついていると、濡れた孔に先端があてがわれた。
「来主……」
「うん。いいよ、甲洋」
操が微笑んだのを合図に、ゆっくりと腰が進められていく。太くて硬い熱の塊に、小さな孔がこじ開けられる。めくれ上がるような痛みと圧迫感に、操は喉を反らして呻きをあげた。
「あうぅ……ッ、ぃ、あ……おっき、ぃ……っ」
「くる、す……っ」
半分ほど埋めたところで、汗だくの甲洋がいったん動きを止めた。操の身体の両脇に両手をつき、うなだれながら呼吸を荒げている。彼も痛いのかもしれない。どんぐりを握りしめていた両手を伸ばし、震えている耳をそっと撫でた。
顔をあげた甲洋は、少し泣きそうな目をしていて可愛かった。思わずふっと笑ったら、少し緊張が解けた気がした。
「ゆっくりで、いいよ……」
チリン、と鈴の音が鳴り響く。安心させるように頬を撫でると、彼はもっと泣きそうにくしゃりと顔を歪めたが、すぐに唇を引き結んで腰を進めはじめた。
「くるす……くるす……っ」
「はあっ、ぁ……ああぁ……っ、ぁ、──……っ!」
きつく目を閉じ、覆いかぶさってきた身体を受け止めた。互いに荒い呼吸を繰返し、そのまま声もなく抱きしめ合う。
隙間なく穿たれた肉棒が、ドクドクと脈打っている。嬉しかった。自分の中にある彼の性に、命を握らされたような背徳感すら覚える。やっぱり食べられるのは甲洋の方だったのだと。
「もう、動いていいよ」
呼吸が整ってきたところで、肉厚な耳にキスをしながら囁いた。甲洋は少し子供っぽく「うん」と頷き、顔をあげると操の唇に軽く口づける。
半分ほど引き抜かれ、ズンと奥まで穿たれた。ふたり同時にくぐもった声を漏らす。そのままゆっくりと抽挿が繰り返され、やがて規則的なリズムが生まれた。チリン、チリン、と鈴が鳴る。
「あっ! ふぁっ、あ、ぁッ、……っ、こ、よ……こう、よう……ッ!」
肉路と竿が馴染んで、鈍い音を立てながら互いを擦り上げている。腹の奥を突かれるたびに、痛みより熱さの方が増していく。振り落とされないように、操は両足を甲洋の腰にきつく絡めてしがみついた。
甲洋がわずかに角度を変えて突き上げたとき、切っ先がある一点に触れた。ジワリと熱湯が湧き出したような感覚に、操はひときわ大きく身を震わせる。
「やぁっ、ア……! だめ、そこっ、いや……ッ!」
「ここ?」
「ひぅ、ん……ッ! や、やっ……、あうぅ、ぁ、そこぉ……っ」
「……わかった」
心得たとばかりに、重点的にこすられた。操は髪を振り乱し、生まれて初めての強すぎる快楽に涙を流す。だけど自然と、腰は甲洋の動きに合わせて揺れていた。
萎れていた性器もすっかり力を取り戻し、白濁とした液体を滲ませている。
「くる、す……ッ、は……っ、ぅ……っ」
甲洋は獣じみた吐息を漏らし、自身も快楽を貪りながらしっぽを鞭のように波打たせていた。バチ、バチ、と荒々しくシーツを叩き、喉をゴロゴロと鳴らしている。動きに合わせて、鈴の音もまた激しくなった。
愛しさが募るほどに、最果てがすぐ目の前まで迫ってくる。
「ああぁ……ッ、アッ、だめっぇ、ヒッ、ぃ、もう、だめぇぇ……っ!」
「来主……ッ、俺も、いく……──っ」
ナカで甲洋が大きく脈打った。ほとんど同時に熱が弾けて、真っ白になる。
彼はピンと立てたしっぽを、ブルブルと激しく震わせて射精した。腹の奥へと注がれる熱に、心も身体も満たされる。
操の性器からも白濁が散り、脇腹を伝い落ちてクッションを汚した。
「来主……」
小さく呼ぶ声に、操は「うん」と鼻をすすってうなずいた。慰め合うようにきつく抱き合い、余韻に身を震わせる。
満ち足りた波が過ぎ去ってもなお、ふたりはそのまま動けなかった。離れたくない。離したくない。逆さまにした砂時計のように、切なさばかりが降り積もる。
このままでいたいと願うほど、涙が溢れて止まらなかった。
「お願い、甲洋」
行かないで──という言葉を、優しくキスで塞がれる。なにも言わないでとばかりに、その口づけは深かった。
(……ズルいよ、君は)
一緒に逃げてもくれないくせに。好きという言葉すら言わせてくれない。ただずっと傍にいたいだけなのに。たったそれだけのことが、どうして難しいんだろう。
(分かってたのに)
身体を繋げてしまったら、ますます離れがたくなることだって。ぜんぶぜんぶ、ちゃんと分かっていたはずなのに。
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