2025年6月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
駅前にある大型ペットショップ・でるかだ~る。
その店の小動物コーナーには、世にも珍しい青色ハリネズミの兄妹がいる。
兄の名はカミュ。金のフープピアスがバッチリ決まった男前。妹の名はマヤで、真っ赤なリボンのオシャレな女の子だ。
二匹はとても仲が良く、いつも一緒に巣箱のなかで昼寝をしている。
その日もカミュとマヤはくっついて過ごしていたが、何者かの手によって巣箱が持ち上げられたと思ったら、マヤが連れ去られてしまった。
「あっ、兄貴! やだやだっ、助けて兄貴ー!」
「マヤ!? この野郎っ、マヤをどこに連れて行く気だ!?」
「あに……っ、おにいちゃぁんッ!!」
「マヤーッ!!」
ハリネズミがどんなに興奮して叫んだところで、人間の耳にはフシュフシュという不思議な音にしか聞こえない。カミュは小さな手でケージの格子を掴んで揺さぶったが、辺りの人間たちは「あら可愛い」などと言って笑うだけだった。
そうこうしているうちに、すっかりマヤの姿が見えなくなった。
「マヤ……っ」
カミュは心配でたまらず、床材が敷き詰められたケージの中をグルグルと歩き回った。しかし待てど暮らせど、マヤが戻る気配はない。
するとそこに長い金髪を一つにまとめ、『でるかだ~る』と金の刺繍が入った、白いエプロンの男がやってきた。その背後には、同じ刺繍に黒いエプロンの大男も立っている。
「くくっ……妹に先を越され、惨めに売れ残った気分はどうだ? 薄汚いドブネズミよ」
「ホメロス、グレイグ……! お前ら、マヤをどこにやった!?」
針のような毛を逆立てながら、カミュは二人を睨みつけた。ホメロスは腰をかがめ、そんなカミュの様子に不敵な笑みを浮かべている。
「貴様のようなチビの薄ノロは、せいぜいここで大人しくよく食べ、よく寝て、よく遊び、無様に宿命の時を待つことだ。フハハ!」
「ホメロスよ。妹は優しそうな飼い主のもとに行ったから安心しろ、お前も元気に過ごしていれば、必ずいい飼い主に巡りあえるだろう、と普通に言ってやってはどうだ?」
「うるさいぞグレイグ! いちいち翻訳せんでいい!」
仲がいいのか悪いのかよく分からない凸凹コンビは、あーだこーだと言い合いながら去っていった。
残されたカミュは、
「チッ、ホメロスのヤツ……めちゃくちゃ励ましてくれやがって……」
と、態度だけでも反発しといた。
それよりも問題はマヤのことだ。
グレイグ翻訳によると、どうやらマヤはどこぞの誰かに購入されてしまったらしい。いつかはこんな日が訪れるかもとは思っていたが、いざとなるとやはり心配で仕方がなかった。
せめて無事を確認するまでは安心できない。
マヤは生意気だが、本当はとても寂しがりやな甘えん坊だ。今ごろ不安で泣いているかもしれないし、飼い主が善人の皮をかぶった悪人だったら目も当てられない。
そこでカミュは決意した。もしマヤが辛い目にあっているようなら、必ず助けだしてやる、と。そのためには、こんなところからさっさとオサラバしなければ。
そうと決まれば、まずは巣箱に戻って息をひそめた。時おりホメロスが様子を見に来たが、寝たふりをしてやりすごしているうちに彼も安心したらしい。
「フッ。さすがは低能なドブネズミ。妹のことなど、とうに忘れ去ったか」
「少し寂しいが、つらいことは早く忘れるに限る……だな」
「だからうるさいぞグレイグ!」
双頭の店員はやかましくも再び去っていく。
やがて客足も減り、他のスタッフの姿もまばらになった。
(よし、今だ!)
カミュは慎重に巣箱から出ると、内側から器用な手つきでケージのスライド式ロックを外した。いつも人間がこうして開けているのを見て、学習していたのだ。
そしてタイミングを見計らい、ケージから抜けだすことに成功した。
すぐさま走って壁際に身を寄せ、他の動物のケージや商品棚によじ登った。天井近くの通気口にたどり着くと、パカッとカバーを外してしまう。そして穴に飛び込んだ。
「へへっ、チョロいもんだぜ」
すぐ側の木を伝って着地に成功したカミュは、小さな手でツンと尖った鼻をこすった。
春先の野外は肌寒いが、ハリネズミにしては珍しく寒さに強いカミュにとっては問題じゃない。
「待ってろマヤ! すぐ兄ちゃんが助けにいくからな! うおおおぉーーーーッ!!」
カミュはすぐさま全速力で駆け出した。
しかし外の世界は危険が盛り沢山だった。道路には鉄の塊がビュンビュン行き交い、人の往来も凄まじい。もし見つかりでもすれば、すぐに捕まってしまうだろう。
そうなればよくてショップ戻りか、最悪どんな目にあうかわからない。
(立ち止まるな! オレは、こんな所で終われない!)
自慢の俊足を生かし、コーナーで差をつける勢いで低木や草むらに隠れながら走った。右へ、左へ、また右へ。小さな手足でグングン突き進むうち、カミュの脳裏にふと、しごく当然の疑問が浮かんだ。
ところでマヤは、一体どこにいるんだ? と──。
「マジか! オレはどこに行けばいいんだ!?」
大爆走していたカミュは、適当な草むらの中で急停止した。
ここまで我武者羅に走ってきたため、もはやショップの場所すら分からない。完全に迷子になってしまったことを悟り、途方に暮れる。
しかしここで立ち止まっていても埒が明かない。まずはどこか落ち着ける場所を探し、今後のことをじっくり考えよう。カミュは草むらから出ると再び走りはじめた──が、その道のりは波乱を極めた。
ハトやカラスに連れて行かれそうになったり、野良猫のオモチャにされそうになったり、巨大な鉄の塊(トラック)の風圧に吹き飛ばされたり……とにかく気づいたらボロボロのヨレヨレになっていた。
「外がこれほど過酷とはな……こんな所にいたら、命がいくつあっても足りねえ」
はあはあと息を乱し、這うようにしてたどり着いたのはとある公園だった。
そこには立派な噴水があり、噴きだす水が夕日のオレンジを弾いて輝いている。動物や人間の姿もなく、カミュはひとまずホッとした。
ここまで休みなく走り続けてきたせいで、ひどく喉が乾いている。カミュは噴水に近づき、囲いをよじ登ろうとした。しかしコンクリートの囲いには高さがあり、小さな身体では届かない。疲労と空腹で力も入らず、だんだん意識が朦朧としてくるのを感じた。
「くそ……ここまでか……マヤ……」
──……ミュ……カ……ミュよ……
(誰だ? オレを呼ぶのは……?)
夢か現かも知れない意識の狭間で、誰かがカミュを呼んでいる。声は徐々に鮮明になっていき、やがて目の前に姿を現した。
それは水色がかった灰色のハリネズミだった。立派な口ひげを生やし、赤い宝石がついた杖をついている。
(だ、誰だ!?)
──わしはおぬしの世界で預言者と呼ばれる者。そなたに予言を与えよう。
(予言だって……?)
──カミュよ。公園で出会うサラサラヘアーと心を通わせ……さすればお前の願いも果たされるだろう……。
老いたハリネズミは、その輪郭をぼんやりと滲ませながら遠のいていく。今にも消えゆこうとする姿に、カミュは手を伸ばそうとした。
(ちょっ、待てよじいさん! なんだよサラサラヘアーって!?)
──よいなカミュ、サラサラじゃ。サラサラヘアーじゃぞ……。
「キミ、喉が渇いてるの? 飲ませてあげようか?」
そのとき、すぐそばでとてもクリアな声がした。さっきの老いたハリネズミのものではない。若い男の声だった。
「──ッ、!?」
気がつけば、カミュは人間の大きな手によって抱き上げられていた。
見上げると、そこにはブレザーの制服に薄紫のマフラーをした少年の顔がある。カミュを抱き上げる両手は、左手の甲に包帯が巻きつけられていた。
(さっきのは夢か? それに、こいつは──!)
少女と見紛うほど端正な顔つきをした少年は、それは見事なサラサラヘアーだった。
カミュは夢のなかでの予言とやらを思いだす。
公園で出会うサラサラヘアーと心を通わせ。さすればお前の願いも果たされる──。
(じょ、冗談じゃねえ! そんなうさんくせーこと信じられるか!)
カミュは少年の手のなかで手足をバタつかせた。フシューフシューと威嚇して、身体を丸めながら全身の毛を逆立てる。
「イタッ、イタタっ、針が痛い……あ、そうだ」
少年は首のマフラーを外すと、カミュの全身をグルグル巻きにして包みこんだ。
「くそっ、離せ! 離しやがれ! なんだこれあったけえ! しかもいい匂いまでしやがるぜ!」
少年の温もりが残るマフラーに全身を包まれ、カミュはなおも暴れた。
しかし適度な暗さとあたたかさのせいで、徐々に睡魔が押し寄せる。柔らかな香りには、まるで鎮静効果があるかのようだった。
疲れもあって、カミュはすぅっと眠りに落ちていた。
「すぴ……すぴ……」
「あれ、寝ちゃった? 疲れてたのかな」
少年は軽くマフラーをめくって中の様子を確かめた。すっかり脱力した状態で、青いハリネズミが眠り込んでいる。
「あはは、可愛い寝顔。ピアスもオシャレだね」
起こさないように、再びマフラーで包み込む。
野生のハリネズミなんてことはないだろうし、どこかのお宅から脱走してきたのだろう。
しかし飼い主探しは後にするとして、まずは落ち着いた場所でゆっくり休ませてやったほうがよさそうだ。
少年はマフラーを胸に抱き、小さなハリネズミを家に連れ帰ることにした。
←戻る ・ 次へ →
息をするように捏造まみれ。
主は『イレブン』一人称は『ボク』です。
※年齢制限のある作品はその年齢に達していない方の閲覧は禁止です。
Wavebox👏
空色ハリネズミ、街をゆく
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
現パロ。世にも珍しい青色ハリネズミのカミュが連れ去られたマヤを探してペットショップから脱走し、金持ち高校生イレブンに保護される話。
しじまのユーリー
01 02 03 04 05
ナギムナー村を訪れた主カミュとマヤちゃんが怪異と遭遇する話。(※若干のグロ、ホラー表現あり。このお話の中では時渡り後、ロミアは生存していません。名前のあるモブキャラが登場します)
ビースト・オン・ザ・ロリポップ
↓の話の続編。チョコのお返しにいかがわしいキャンディーをカミュにプレゼントするイレブンの話。裸エプロン。R18ですが未遂です。(※イレブンがかなり痛い目を見てしまいます)
チョコ・オン・ザ・ルーミナリオ
イレブンにバレンタインチョコを渡すカミュ。だけどイレブンはなぜかガッカリした様子で…?というお話。
その窓を見るな
カミュの子供時代と盗賊時代と、今現在のクリスマスの話。前半は子カミュ、中~後半はデク視点での過去と主カミュです。(※子カミュ曇らせ・モブカミュ要素なし)
夜明けのラズライト
はじめに 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
自らにかかった呪いを解くために旅をするイレブンが、辺境の村で迫害を受けながら生きるカミュと出会う話。
朝までミーコを独り占め
ミーコの可憐な姿が忘れられず、デートを申し込むファーリス王子の話。(※ちゃんと主カミュです)
よろしく頼むぜ、おにいちゃん
兄妹二人旅の途中で初潮を迎えるマヤちゃんと取り乱すカミュと健気に待ち続けていたイレブンの話。(※経血の描写有り&カミュがよく泣く)
アリアドネは手を伸ばす
某星の一族の男にちなんでユグノア王家の血を引く人間は生涯ただ一人しか愛さない、みたいな特性があったらいいなという話。(※元ネタを知らなくても問題ありません)
カミュは勇者のカエルじゃない
とあるコンプレックスからなかなかイレブンとのセックスに踏み切れないでいるカミュの話。(※過去に性描写および暴力描写を含むモブカミュあり)
足元はペットシーツに覆われており、隅の方には水が入った小皿が置かれている。
(……何がどうなった? オレは、まだ生きているのか?)
ふと、自分の身体が薄紫のマフラーに包まれていることに気がついた。そして公園での記憶がよみがえる。
「そうだ、オレはあのサラサラヘアーに……」
「あ、起きた?」
「!?」
天井に、ヌッとサラサラヘアーが現れた。
ダンボールを覗き込むサラサラ少年は、凛々しい眉をわずかに下げて微笑んだ。
「ごめんよ。どこの子か分からなかったから、勝手に連れて帰って来ちゃった」
「急に現れやがって……なにもんだお前は……?」
警戒心から身体を丸め、フシュッフシュッと威嚇する。
「ダンボール、狭くないかい? ペットシーツはさっきスーパーで買ってきたんだけど……あ、そうだ。ご飯は食べられそう?」
そう言って、少年は水が入った小皿の隣にもう一枚小皿を置いた。匂いから察するに、細かく切ったリンゴとバナナだ。
「遠慮しないで。イヤじゃなければ食べてほしいな」
正直ハラは減っているものの、持ち前の警戒心の強さから口をつける気にならない。こいつは一体、なんのつもりで自分を連れてきたのだろうか。
相変わらずフシュフシュ言うばかりのカミュに、少年は「そういえば自己紹介がまだだったね」とのんきに言った。
「ボクはイレブン。飼い主が見つかるまでだけど、よろしくね」
優しげに笑った少年の、サラサラヘアーがふわりと揺れた。
その柔和な雰囲気からは、純粋な善意が見て取れる。悪いヤツではないのかもしれないが──カミュはそれでもなお、針を逆立てることをやめられなかった。
*
翌朝。
「おはようゴンザレス。よく眠れた?」
マフラーに顔を埋めてウトウトしていたカミュは、少年の声でハッと目を覚ました。
(ゴンザレス……? まさかそれ、オレのことじゃねえよな?)
フシューフシューと威嚇するカミュに、イレブンはキョトンとしながら首をかしげる。
「あれ? イヤなのかな? カッコいい名前だと思うんだけど……」
「冗談じゃねえ。オレにはカミュって名前があるんだ」
「あ、ご飯食べてる。よかった。ゴンザレスはいい子だね」
「だからオレはゴンザレスなんて名前じゃねえって!」
朝から元気に威嚇しまくりのカミュだったが、イレブンはどこ吹く風で嬉しそうだ。たかが食事をしたくらいで、なにをそんなに喜ぶことがあるのだろう。
あのあとカミュはなんとか脱走しようと夜通し試みていた。
しかしダンボールをよじ登ることができず、体力ばかりが消費されてしまった。こんな所で終われない、の精神で、仕方なくリンゴとバナナを口に詰め込んだのだ。
結果的に、それが彼を喜ばせることになってしまった。
そういえばあのホメロスも、カミュとマヤがフードを完食すると「いやしいドブネズミめ」とか口ではダルいことを言いながら、フンフン鼻歌を歌っていたっけ。奴が特殊なのかと思っていたが、人間という生き物は基本的にお人好しばかりなのだろうか。
「ボクは学校に行くけど、ご飯は新しく入れておくから。ちゃんと食べてね」
イレブンは二枚の小皿を回収すると、新しく水と果物を入れてダンボールに置いた。そして「行ってきます」とカミュに笑いかけ、姿を消してしまった。
「変なヤツだぜ……」
それからどのくらいの時間が経っただろう。ハリネズミは夜行性のため、カミュは昼間のほとんどをマフラーに潜り込んで過ごした。
すぴ、すぴ、と寝息を立てているところに、扉が開く音が聞こえて目を覚ます。どうやらイレブンが帰ってきたらしい。
「ただいまゴンザレス。あれ、ご飯食べてない?」
イレブンは心配そうにしているが、カミュはもう大人のハリネズミなので、食事は一日一回で十分なのだ。
わかってねえなと思いながらあくびをしていると、イレブンは「あ、そうだ」と言ってなにやらゴソゴソしはじめた。
「学校の友だちがね、昔ハリネズミを飼っていたことがあるんだって。キミのことを話したら、今は使ってないケージを譲ってくれたんだ。あと、床材や巣箱もあったほうがいいっていうから、ホームセンターで買ってきた。それと、専用のフードも──」
ダンボール越しに聞こえていた楽しげな声が、一瞬ふっと途切れた。
「……ロウおじいちゃんのカードで、こんなに買い物をしたのは初めてだ。好きに使っていいとは言われてるけど……あとでちゃんと謝らなきゃな」
その声はどこか淋しげだった。なんとなく気になってしまい、ダンボールの壁を見上げていると、イレブンの両手がヌッと伸びてきた。
「うわっ!?」
マフラーごと抱き上げられて、ぎゅっと目を閉じる。
次に目を開けたとき、カミュは小綺麗なケージの中にいた。床材も敷き詰められており、巣箱や回し車もある。
「へえ、なかなかいいじゃないか」
格子状のケージはショップにいた頃のものによく似ていた。そのためロックもなんとか開けられそうだった。これなら難なく脱走できるだろう。
一通りぐるりと見渡し、無意識に「ぴぴっ」と小鳥のように鳴いていた。ハリネズミが満足感を得ているときに出す声だ。カミュはすぐにハッとして、両手で口を押さえた。
(あぶねえあぶねえ、あやうく絆されるところだったぜ)
気を引き締めてフシュッと鳴いて、マフラーにしがみつきながら毛を逆立てた。
「そのマフラー、気に入ってるみたいだから、キミにあげるよ」
「……マジか。いいのかよ」
チラッとイレブンの顔を見る。元々これは彼が首に巻いていたものだ。
カミュはこのふわふわとした手触りが気に入っていた。包まって寝ると心地がいいし、とてもいい匂いがして安心するのだ。
「ダンボールじゃ外が見えないし、退屈だったろ。ごめんね」
ケージは机の上にあるらしい。イレブンは椅子に座ると、頬杖をついて目線を合わせてくる。
「友だちや近所の人に聞いてみたけど、キミを知ってる人はいなかった。青いハリネズミなんて珍しいから、すぐに飼い主が見つかると思ったんだけどな」
そりゃあそうだとカミュは思う。なにしろ自分には飼い主など存在しない。ペットショップから抜けだし、迷子になったにすぎないのだから。
イレブンは両腕を組んで机に乗せた。そこに頬を預けながら、カミュを見つめる。
「キミさえよければ、ずっとここにいてくれて構わないんだけど……」
彼は包帯が巻かれた左手の人差し指で、ケージの縁をそっとなぞった。
「ボク、親がいないんだ。ボクがまだ赤ちゃんだったころ、事故で死んでしまったんだって。ロウおじいちゃんはよくしてくれるけど……仕事で海外を飛び回っていて、滅多に会えない。だから家に帰ってきて、こんなふうに話し相手がいるのは嬉しいんだ」
なんてね──と言いながら、イレブンが目を閉じる。
「ワガママ言っちゃいけないね。きっと今ごろキミの家族が、キミの帰りを待ってるだろうし……」
彼はケージの縁に指をかけたまま、すぅっと寝息をたてはじめた。
カミュは逆立てていた毛をシュンと寝かせて、イレブンの寝顔を見つめた。よく見れば、まだずいぶんとあどけない。ゆっくり近づき、指先にちょこんと手で触れた。
(こいつ、寂しいんだろうな……)
本当はすぐにでも脱走するつもりでいたが、こんな話を聞いてしまったあとでは気持ちが揺らぐ。一応はよくしてもらっている恩もあるし、少しくらいなら一緒にいてやってもいいかもしれない。
それに脱走したところで、マヤは依然として行方知れずだ。
(マヤ……あいつは無事だろうか。今頃どこに……)
イレブンの指先に触れながら、カミュはひたすら可愛い妹の無事を祈るのだった。
←戻る ・ 次へ→