一騎と総士の左右について、特に記載がない限りはお好きな方でご想像いただいて構いません。
🔞マークがついている作品は18歳未満の閲覧を固くお断り致します。
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コウヨウくん
小学校で「コウヨウくん」の噂を聞いた操が、実際に怪異を呼びだす話。ショタ。*元ネタはさとるくん(都市伝説)です。
コウヨウさん
「コウヨウくん」から5年後の話。
桃太郎っぽい話 🔞
鬼退治にやって来た甲洋(15)が、鬼の操操に逆レイプされる話。3P。
チェックメイト・グレーハウンド 🔞
積極的すぎる操に求められすぎて夜も眠れない甲洋の話。
夕涼みにて 🔞
夏のスケベ。縁側でおしりペンペンする話。
箱庭生まれのセルロイド
大きなお屋敷に一人で暮らす操と、住み込みで働くことになった甲洋の話。メリバ。
ユーフォリアの花嫁 🔞
甲洋への独占欲にイラつく操と、操のやきもちが嬉しい甲洋。
結婚しようよ!
幼馴染のショタ甲操。
下剋上デートプラン 🔞
甲洋・社会人。操・大学生。甲洋の弱みにつけこんで好き勝手する操の話。
路地裏☓☓ごっこ遊び 🔞
小学生。鍵っ子の甲洋と赤ランドセルの操の話。
If You Want 🔞
大人のオモチャと放置プレイ。
ラッキー・バスロマン 🔞
羽佐間さんちにお泊り。お風呂場スケベ事件。
森のお弁当
操の手作り弁当。
Oh My kitten! 🔞
自制する甲洋(26)と子供扱いされたくない操(16)の話。
Oh My Sugar! 🔞
Oh My kitten!から二年後。母乳(!)ネタ。
絶対に病ませてくれない来主操24時
隙あらば病みたい甲洋とその隙を与えない操の話。
俺クエスト 🔞
ドラクエパロ。性格:むっつりスケベの勇者・甲洋と性格:世間知らずの遊び人操が旅に出る話。スライム姦有り。
【納涼】珪素チャンネル心霊ナイト
You●uberネタ。動画クリエイター集団『エレメント』のお話。
注:一部ホラー表現が含まれますのでご注意ください。
【納涼】珪素チャンネル『真』心霊ナイト
引き続きホラー表現にご注意ください。
真夜中は別の顔
容子ママに相談され、夜中にコソコソと出かけていく操の動向を探る甲洋の話。
魔女の条件
甲洋に片思い中のモブ女子が操に意地悪する話。学パロ高校生。
春日井甲洋、おっぱいを揉む
タイトルそのままの話。
よいこわるいこ 🔞
お仕置きスパンキングネタ。
甲操ちゃんが穴釣りデートをする話
タイトルそのままのお話。
楽園おままごと
ままごと遊びがしたいと言う操に付き合わされる甲洋と英雄二人。
注:お話の性質上、総一っぽい表現があります。
シンデレラっぽい話
舞踏会に行けない甲洋の元に謎の魔法使いが現れる話。
マッチ売りの少女っぽい話
マッチ売りの操ちゃんがマッチを擦ると...。
青ひげっぽい話
若干のグロ、病み要素を含みます。ひげは生えていません。
鶴の恩返しっぽい話
鶴を助けた甲洋のもとに、恩返しにやってきた少年の正体は…?
子育て幽霊っぽい話
夜な夜なアメを買いに来る不思議な少年の話。
ニワカアメ
雨降りのバス停。
××だから、好き
操のラブレター。
手を繋ぐ理由
冬の日の甘酸っぱい話。
ごめん寝
ケンカのあと。
白くて小さい 🔞
ご奉仕ネタ。イラマチオ描写あり。
隣人と隣人 🔞
甲洋に想いを寄せるモブ♂が壁越しに甲操のエッチを盗み聞く話。
注:モブ→甲要素あり。
果実の気持ち 🔞
ひたすら乳首を責められる操の話。
やさしくされたい。 🔞
風邪をひいてみたくて我儘を言う操。素股。
喫茶『楽園』セクシー事件 🔞
「色っぽい」を理解する操の話。
KISS ME
操に変Tを着せて密かに楽しむ甲洋の話。
おおきな猫のすきなひと 🔞
猫好き大学生の操とケット・シー(猫の妖精)の甲洋の恋物語。
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
にゃんたまωチャレンジ 🔞
2022年こよ誕に寄せて。↑のその後の話。
物ノ怪喫茶子狸譚
化けるのが下手な子だぬきの操と、心を殺してる甲洋の話。
はじめに 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
博士とクロノス
双子の操操が引きこもり魔法使い甲洋に弟子入りしようとする話。
はじめに 01 02 03 04 05
ぼくのかわいいうさぎさん 🔞
うさぎの甲洋を引き取ることになった操の話。
はじめに 01 02 03 04 05
ハニーポットクライシス 🔞
AV女優(not女体化)の操に童貞を食われる甲洋の話。
はじめに 01 02 03 04 05 06
ネバーエンドラブシック 🔞
ハニーポットクライシスの続編。エッチ禁止令を出されてしまう甲洋と、ストーカーに襲われる操の話。
はじめに 01 02 03 04 05 06
繭の鳥籠 🔞
共依存と逆DV。どこかの田舎の片隅でひっそりと暮らす二人。
はじめに 01 02 03 04 05 06
羽化の花籠
繭の鳥籠から一年後くらいのお話。
オマケのIFルートもあります。
種の月喰
羽化の花籠のその後。やってるだけの話。
毛玉の気持ち
捨てネコの操を保護する甲洋の話。
はじめに 01 02 03 04 05 06 07 08
しっぽの気持ち 🔞
毛玉の続編。操の発情期と苦悩する甲洋の話。
01 02 03 04 05 06 07 08
ひとりの気持ち
2021年こよ誕に寄せて。↑のその後の話。
フェルデランスの毒を喰らわば 🔞
我儘で反抗的な操(16)にキレてヤバい方向へ目覚めていく甲洋(24)の話。
はじめに 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
半径1メートル半の恋 🔞
飼い主からネグレクトを受けていた甲洋(イヌ)をしばらく預かることになってしまう操(人間)の話。
はじめに 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
ハリネズミュ3話を更新しましたー。
次回、ハリネズミュくんは不思議パワーで人間になります✨️
そしてシレッとサイトを改装しました。全部てがろぐで構築したので、これからはサイト更新めちゃくちゃ楽になる~~!!もっと早くやってればよかったんですが、地道にコツコツ手打ちでいじるのも好きだったので…(結果的にめんどくなったけど)
URL変わってしまったんですが、一応リダイレクト設定をしたので以前のページにアクセスしても自動で新ページに飛ぶ…はず…?🤔
🌊箱に返信不要でコメントくださった方、ありがとうございました!
次回、ハリネズミュくんは不思議パワーで人間になります✨️
そしてシレッとサイトを改装しました。全部てがろぐで構築したので、これからはサイト更新めちゃくちゃ楽になる~~!!もっと早くやってればよかったんですが、地道にコツコツ手打ちでいじるのも好きだったので…(結果的にめんどくなったけど)
URL変わってしまったんですが、一応リダイレクト設定をしたので以前のページにアクセスしても自動で新ページに飛ぶ…はず…?🤔
🌊箱に返信不要でコメントくださった方、ありがとうございました!
イレブンと暮らしはじめて数日がたった。
毎日こまめに世話をしてもらいながら、学校から帰宅した彼のお喋りに付き合う。イレブンはその日の学校での出来事や、友だちのことなどを楽しそうに話してくれた。
カミュはいつしかそれを聞くのが楽しみになっていた。気づくと彼の帰りを待ちわびているし、少しでも帰りが遅いと心配になる。
針を逆立てることもなくなり、少しくらいなら触らせてやるようにもなった。そんなときの嬉しそうなイレブンの笑顔は、なかなかに悪くない。
それにしても、ここはどうやらとんでもなく高所にあるらしい。空の上、と言ってもよさそうだ。ケージの中からでも、窓から見える建物がまるで豆粒のような小ささだった。
これでは脱出に成功したとしても、まともに地上に降りられるかどうか。また迷子になるのも簡便だしで、どんどん脱走が先延ばしになっていくのだった。
*
「カミュ、おでかけしよう!」
そんなある日のことだった。
今日は学校がないらしいイレブンが、カミュを抱き上げてそう言った。
(おでかけ? どっか行くってことか?)
小首をかしげるカミュを、イレブンが肩掛けカバンの中に入れた。すぐさま隙間からちょこんと顔をだし、辺りをうかがう。
ここに来て以来、部屋の外に出るのは初めてだ。ピカピカに磨かれた廊下があり、キッチンやリビングが地続きになっているのが見えた。
イレブンが玄関から表に出ると、そこには長く無機質な廊下が伸びていた。
そこから地上に降りるまでの間、カミュはひたすら目を白黒させていた。狭い箱状の何か(エレベーター)に乗ったと思ったら、あれよという間に外の世界が広がっていた。
(たいしたもんだな、文明の利器ってのは)
しかしこれはチャンスだ。マヤの居場所は不明なままだが、この機を逃せば次はいつ外に出られるか分からない。隙を見て逃げだしてやろう──と考えていると、目的地はすぐお隣の民家だったため、一瞬で到着してしまった。
(マジかよ、秒でついちまった! それにしても、ここは一体……?)
そこは二階建ての一軒家だった。イレブンがなにやらボタンを押すと、ピンポーンという音がする。ほどなくして、「はーい」という若い女の声がした。
「いらっしゃいイレブン! 早かったのね」
扉から顔を出したのは、頭にオレンジ色のスカーフをした金髪の少女だった。歳はイレブンと同じくらいだろうか。
彼女はイレブンと少し会話をしたあと、カバンから顔をだすカミュに視線を向けた。
「その子が例の?」
「うん。ゴンザレスだよ」
「初めましてゴンザレスくん、私はエマよ」
だからゴンザレスじゃねえって……とゲンナリするカミュをよそに、エマがイレブンを二階の自室に通した。
「おじいちゃん、今ちょうどお出かけしてるから。遠慮しないで」
エマの部屋は花やぬいぐるみなどが飾られていて、なんとも可愛らしい空間だった。
中央には白いローテーブルが置かれている。その上にはピンクで縁取られたアクリル製のケージがあり、なんとその中には──
「まっ、マヤ!?」
回し車を回すでもなくベッド代わりにしたマヤが、めちゃくちゃリラックスした状態で眠りこけ、ぷうぷうと鼻ちょうちんまで出していた。
「ほげ? いま、おにいちゃんの声がしたような?」
寝ぼけたマヤの鼻ちょうちんが、パチンと割れる。
カミュはイレブンのカバンの中から身を乗りだした。
「マヤ! オレだ! カミュだ!」
「カ、ミュ……おにい、ちゃん……? 兄貴!?」
回し車から飛びだしたマヤが、アクリルケージを両手でカリカリしながら叫んだ。カミュはいよいよカバンから飛びだしたが、イレブンの手にキャッチされてしまった。
「おっと、危ないよ」
「離せイレブン! あいつはオレの妹なんだ!」
「やっぱり分かるものなのね。ちょっと待って、いま開けるから」
嬉しそうなエマがアクリルケージの蓋を開ける。イレブンがケージに手を近づけ、カミュはそこから中へダイブした。
カミュとマヤはひしっと抱き合い、再会を喜びあった。
「マヤ! 探したんだぞ!」
「バカ兄貴っ、なんでここにいるんだよ!?」
「兄ちゃんをみくびるなよ。お前のことが心配で、脱走してきたに決まってんだろ」
鼻の下をこすってズビビィすると、マヤが「マジかよすげえな!」と目を輝かせた。
「あのヨーリョウ悪くてビビりな兄貴が脱走なんてさ!」
「その生意気な憎まれ口、懐かしいぜ……ズビ」
「わざわざ追いかけてきちまうなんて、やっぱり兄貴はおれがいないとダメなんだな!」
可愛くないことを言いながら「いしし」と笑うマヤも、その瞳にはたっぷりと涙が浮かんでいた。
「それにしても本当に無事でよかった。どんなひどい目にあってるかって心配したぜ」
「ぜーんぜん。めちゃくちゃ快適だぜ?」
マヤはエマの方に顔を向けた。彼女は少し離れた位置から、イレブンと並んで床に座り、こちらを微笑ましそうに眺めている。
「おれを連れてきたのはあそこにいるエマのじいさん。孫にプレゼントってやつ。そんで選ばれたのがおれってわけ。悪いな、兄貴」
ドヤ顔をするマヤに、カミュは「オレだって」ととっさに反論した。
「今はあいつと一緒だ。空の上に住んでるんだぜ」
「空ぁ!? なんだよそれ、ずりーぞ兄貴!!」
カミュは誇らしげに「へへっ」と笑いながらも、マヤが元気でいたことに心の底から安堵した。
(公園で出会うサラサラヘアーと心を通わせ……さすればお前の願いも果たされるだろう、か)
カミュはあの不思議な預言者の言葉を思いだした。胡散臭いと思って忘れていたが、どうやら予言は本物だったらしい。
イレブンの方を見ると、彼はエマと楽しそうに会話をしていた。お互い通っている高校が違うらしく、それぞれ日々の出来事を報告しあっているようだった。
いいな、とカミュは思った。
ハリネズミは人の言葉を喋れない。だからいつも一方的にイレブンの話を聞いてやるしかできなくて、いつしかそれをもどかしいと思うようになっていた。
楽しそうに会話のキャッチボールをする二人を見ていると、なおさら思う。自分が人の言葉を話せたら、きっともっとイレブンの孤独を埋めてやることができるだろうに、と。
「あいつら、オサナナジミっていうやつらしいぜ」
「オサナナジミ?」
小首をかしげるカミュに、マヤが続けた。
「エマってばあいつの話ばっかするんだ。オージさまみたい、とかなんとか。どんなヤツかと思ってたけど、頼りないお坊ちゃんって感じだな」
「そんなこと」
ない、と言いかけてやっぱりやめた。イレブンは顔にこそ出さないが、本当はまだまだ寂しがりやな子供だ。誰かがそばにいてやらないと。
「あっ、おじいちゃんが帰ってきたみたい」
下の階から聞こえた物音に気づいたエマが言うと、イレブンが「挨拶するよ」と言って立ち上がった。
うなずいたエマがマヤを見て、
「チビちゃん、お友達といい子で待っててね」
と言うので、カミュは思わずブハッとふきだして笑ってしまった。
「マヤお前、チビちゃんって呼ばれてんのか!」
「う、うるせーぞバカ兄貴!」
するとイレブンがカミュを見て、
「ゴンザレス、チビちゃんと仲良くね」
と言って、エマと連れ立って部屋を出ていった。
「ゴンwwwwザwwwwレスwwwwマジでwwww」
マヤが腹を抱えて笑い転げる。絶対に知られたくなかったことを知られてしまったカミュは、力なく「草を生やすな、草を」と言いながら肩を落とすのだった。
*
それからイレブンは夕飯をご馳走になり、カミュはマヤと一緒にフードを食べた。
その帰り道、「少し散歩しようか」とイレブンが言うので、カミュは彼の肩の上に乗って夜風を思い切り吸い込んだ。
「ゴンザレス、友達ができてよかったね」
イレブンが嬉しそうに言った。実際は妹なのだが、それを伝える術がない。
「青い子同士、気が合うのかな。チビちゃんも嬉しそうだったし、また遊びに行こう」
「マジか! また会いに来れるのか?」
問いかけても、イレブンの耳には「プッ、プッ」というかすかな音にしか聞こえていないだろう。にも関わらず、彼はうんとうなずきながら笑った。
偶然に違いないが、まるで会話が成り立ったようで嬉しくなる。
やっぱりイレブンのそばにいるのは心地良い。肩でサラサラと揺れるキレイな髪からは、マフラーからしていたのと同じ柔らかな香りがしていた。
カミュは夜道をゆったりと歩くイレブンの横顔をじっと見上げた。
(どうやら予言によると、オレはこいつと一緒にいる運命にあるらしい)
マヤが思いのほか近くにおり、無事でいることがわかった今、カミュに脱走をはかる理由はなくなった。かと言って、今さらペットショップにも戻れない。
(なにしろこいつは寂しがりやで、頼りねえからな。オレがそばにいてやらねえと)
カミュはすぐそばでサラサラと揺れる髪をひとふさ、両手できゅうっと握りしめた。
「ん、どうかした? 寒い?」
イレブンは肩に手をやり、針に気をつけながらカミュを胸元に抱き寄せた。カミュはイレブンを見上げて「ぴっ!」と鳴いた。
「そういうわけだから、改めてよろしく頼むぜ! 相棒!」
こうしてカミュは、イレブンのもとで暮らすことを決めたのだった。
←戻る ・ 次へ→
毎日こまめに世話をしてもらいながら、学校から帰宅した彼のお喋りに付き合う。イレブンはその日の学校での出来事や、友だちのことなどを楽しそうに話してくれた。
カミュはいつしかそれを聞くのが楽しみになっていた。気づくと彼の帰りを待ちわびているし、少しでも帰りが遅いと心配になる。
針を逆立てることもなくなり、少しくらいなら触らせてやるようにもなった。そんなときの嬉しそうなイレブンの笑顔は、なかなかに悪くない。
それにしても、ここはどうやらとんでもなく高所にあるらしい。空の上、と言ってもよさそうだ。ケージの中からでも、窓から見える建物がまるで豆粒のような小ささだった。
これでは脱出に成功したとしても、まともに地上に降りられるかどうか。また迷子になるのも簡便だしで、どんどん脱走が先延ばしになっていくのだった。
*
「カミュ、おでかけしよう!」
そんなある日のことだった。
今日は学校がないらしいイレブンが、カミュを抱き上げてそう言った。
(おでかけ? どっか行くってことか?)
小首をかしげるカミュを、イレブンが肩掛けカバンの中に入れた。すぐさま隙間からちょこんと顔をだし、辺りをうかがう。
ここに来て以来、部屋の外に出るのは初めてだ。ピカピカに磨かれた廊下があり、キッチンやリビングが地続きになっているのが見えた。
イレブンが玄関から表に出ると、そこには長く無機質な廊下が伸びていた。
そこから地上に降りるまでの間、カミュはひたすら目を白黒させていた。狭い箱状の何か(エレベーター)に乗ったと思ったら、あれよという間に外の世界が広がっていた。
(たいしたもんだな、文明の利器ってのは)
しかしこれはチャンスだ。マヤの居場所は不明なままだが、この機を逃せば次はいつ外に出られるか分からない。隙を見て逃げだしてやろう──と考えていると、目的地はすぐお隣の民家だったため、一瞬で到着してしまった。
(マジかよ、秒でついちまった! それにしても、ここは一体……?)
そこは二階建ての一軒家だった。イレブンがなにやらボタンを押すと、ピンポーンという音がする。ほどなくして、「はーい」という若い女の声がした。
「いらっしゃいイレブン! 早かったのね」
扉から顔を出したのは、頭にオレンジ色のスカーフをした金髪の少女だった。歳はイレブンと同じくらいだろうか。
彼女はイレブンと少し会話をしたあと、カバンから顔をだすカミュに視線を向けた。
「その子が例の?」
「うん。ゴンザレスだよ」
「初めましてゴンザレスくん、私はエマよ」
だからゴンザレスじゃねえって……とゲンナリするカミュをよそに、エマがイレブンを二階の自室に通した。
「おじいちゃん、今ちょうどお出かけしてるから。遠慮しないで」
エマの部屋は花やぬいぐるみなどが飾られていて、なんとも可愛らしい空間だった。
中央には白いローテーブルが置かれている。その上にはピンクで縁取られたアクリル製のケージがあり、なんとその中には──
「まっ、マヤ!?」
回し車を回すでもなくベッド代わりにしたマヤが、めちゃくちゃリラックスした状態で眠りこけ、ぷうぷうと鼻ちょうちんまで出していた。
「ほげ? いま、おにいちゃんの声がしたような?」
寝ぼけたマヤの鼻ちょうちんが、パチンと割れる。
カミュはイレブンのカバンの中から身を乗りだした。
「マヤ! オレだ! カミュだ!」
「カ、ミュ……おにい、ちゃん……? 兄貴!?」
回し車から飛びだしたマヤが、アクリルケージを両手でカリカリしながら叫んだ。カミュはいよいよカバンから飛びだしたが、イレブンの手にキャッチされてしまった。
「おっと、危ないよ」
「離せイレブン! あいつはオレの妹なんだ!」
「やっぱり分かるものなのね。ちょっと待って、いま開けるから」
嬉しそうなエマがアクリルケージの蓋を開ける。イレブンがケージに手を近づけ、カミュはそこから中へダイブした。
カミュとマヤはひしっと抱き合い、再会を喜びあった。
「マヤ! 探したんだぞ!」
「バカ兄貴っ、なんでここにいるんだよ!?」
「兄ちゃんをみくびるなよ。お前のことが心配で、脱走してきたに決まってんだろ」
鼻の下をこすってズビビィすると、マヤが「マジかよすげえな!」と目を輝かせた。
「あのヨーリョウ悪くてビビりな兄貴が脱走なんてさ!」
「その生意気な憎まれ口、懐かしいぜ……ズビ」
「わざわざ追いかけてきちまうなんて、やっぱり兄貴はおれがいないとダメなんだな!」
可愛くないことを言いながら「いしし」と笑うマヤも、その瞳にはたっぷりと涙が浮かんでいた。
「それにしても本当に無事でよかった。どんなひどい目にあってるかって心配したぜ」
「ぜーんぜん。めちゃくちゃ快適だぜ?」
マヤはエマの方に顔を向けた。彼女は少し離れた位置から、イレブンと並んで床に座り、こちらを微笑ましそうに眺めている。
「おれを連れてきたのはあそこにいるエマのじいさん。孫にプレゼントってやつ。そんで選ばれたのがおれってわけ。悪いな、兄貴」
ドヤ顔をするマヤに、カミュは「オレだって」ととっさに反論した。
「今はあいつと一緒だ。空の上に住んでるんだぜ」
「空ぁ!? なんだよそれ、ずりーぞ兄貴!!」
カミュは誇らしげに「へへっ」と笑いながらも、マヤが元気でいたことに心の底から安堵した。
(公園で出会うサラサラヘアーと心を通わせ……さすればお前の願いも果たされるだろう、か)
カミュはあの不思議な預言者の言葉を思いだした。胡散臭いと思って忘れていたが、どうやら予言は本物だったらしい。
イレブンの方を見ると、彼はエマと楽しそうに会話をしていた。お互い通っている高校が違うらしく、それぞれ日々の出来事を報告しあっているようだった。
いいな、とカミュは思った。
ハリネズミは人の言葉を喋れない。だからいつも一方的にイレブンの話を聞いてやるしかできなくて、いつしかそれをもどかしいと思うようになっていた。
楽しそうに会話のキャッチボールをする二人を見ていると、なおさら思う。自分が人の言葉を話せたら、きっともっとイレブンの孤独を埋めてやることができるだろうに、と。
「あいつら、オサナナジミっていうやつらしいぜ」
「オサナナジミ?」
小首をかしげるカミュに、マヤが続けた。
「エマってばあいつの話ばっかするんだ。オージさまみたい、とかなんとか。どんなヤツかと思ってたけど、頼りないお坊ちゃんって感じだな」
「そんなこと」
ない、と言いかけてやっぱりやめた。イレブンは顔にこそ出さないが、本当はまだまだ寂しがりやな子供だ。誰かがそばにいてやらないと。
「あっ、おじいちゃんが帰ってきたみたい」
下の階から聞こえた物音に気づいたエマが言うと、イレブンが「挨拶するよ」と言って立ち上がった。
うなずいたエマがマヤを見て、
「チビちゃん、お友達といい子で待っててね」
と言うので、カミュは思わずブハッとふきだして笑ってしまった。
「マヤお前、チビちゃんって呼ばれてんのか!」
「う、うるせーぞバカ兄貴!」
するとイレブンがカミュを見て、
「ゴンザレス、チビちゃんと仲良くね」
と言って、エマと連れ立って部屋を出ていった。
「ゴンwwwwザwwwwレスwwwwマジでwwww」
マヤが腹を抱えて笑い転げる。絶対に知られたくなかったことを知られてしまったカミュは、力なく「草を生やすな、草を」と言いながら肩を落とすのだった。
*
それからイレブンは夕飯をご馳走になり、カミュはマヤと一緒にフードを食べた。
その帰り道、「少し散歩しようか」とイレブンが言うので、カミュは彼の肩の上に乗って夜風を思い切り吸い込んだ。
「ゴンザレス、友達ができてよかったね」
イレブンが嬉しそうに言った。実際は妹なのだが、それを伝える術がない。
「青い子同士、気が合うのかな。チビちゃんも嬉しそうだったし、また遊びに行こう」
「マジか! また会いに来れるのか?」
問いかけても、イレブンの耳には「プッ、プッ」というかすかな音にしか聞こえていないだろう。にも関わらず、彼はうんとうなずきながら笑った。
偶然に違いないが、まるで会話が成り立ったようで嬉しくなる。
やっぱりイレブンのそばにいるのは心地良い。肩でサラサラと揺れるキレイな髪からは、マフラーからしていたのと同じ柔らかな香りがしていた。
カミュは夜道をゆったりと歩くイレブンの横顔をじっと見上げた。
(どうやら予言によると、オレはこいつと一緒にいる運命にあるらしい)
マヤが思いのほか近くにおり、無事でいることがわかった今、カミュに脱走をはかる理由はなくなった。かと言って、今さらペットショップにも戻れない。
(なにしろこいつは寂しがりやで、頼りねえからな。オレがそばにいてやらねえと)
カミュはすぐそばでサラサラと揺れる髪をひとふさ、両手できゅうっと握りしめた。
「ん、どうかした? 寒い?」
イレブンは肩に手をやり、針に気をつけながらカミュを胸元に抱き寄せた。カミュはイレブンを見上げて「ぴっ!」と鳴いた。
「そういうわけだから、改めてよろしく頼むぜ! 相棒!」
こうしてカミュは、イレブンのもとで暮らすことを決めたのだった。
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こちらは非公式の二次創作小説サイトです。
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サイト内の文章の無断転載、公共の場からのアクセスはご遠慮ください。
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DQ11(主人公×カミュ)
ファフナー(甲洋×操)
ジョジョ(承太郎×花京院)
ツバサ(黒鋼×ファイ)
モコ太です。猫の下僕。
SNS社会の波に乗り切れなかったオタクの末路やってます。
検索避け済みの同人サイトさんに限りフリー。
サイト名/MOCOLOGY
URL/https://locomoco.fool.jp/moco/tegalog.cg...
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なにかあれば🌊箱へどうぞ。
なにもなくても話しかけていただけると大喜びします。
旅立ちの朝だった。
カミュは一人、生まれ育った風穴の隠れ家をしみじみと見渡していた。
思いだすのは幼い頃から共に過ごした、マヤとの記憶だった。
小さなパンを分け合って食べたこと、獲物を取り逃がして文句を言われたこと、一緒に星を見上げて、外の世界に夢をはせたこと。可愛いマヤの、幼い笑顔。
恋しさに鼻をすするカミュの耳に、
『泣き虫だなあ兄貴は!』
という、マヤの憎まれ口が聞こえた気がした。
「ハハ……そうだな、ごめんなマヤ。情けない兄ちゃんで」
涙をぬぐったカミュの拳には、真っ赤なリボンが握られていた。それはマヤが幼い頃から、ずっと髪に結んでいたものだった。
マヤが病で命を失ったとき、遺体からの感染を恐れた村人たちは、必死で制止するカミュを殴りつけ、母親共々その亡骸を燃やしてしまった。遺体は骨すら残さず灰になったが、その際に唯一、このリボンだけは奪い返すことができたのだ。
マヤの形見として、カミュはそれをずっと大切に持っていた。
「カミュ、そろそろ出ようか」
そこへイレブンがやってきた。
彼はもともと着ていた赤のサーコートを紫に染め、今の背丈に打ち直したものを着用している。髪は邪魔になるからと、元の長さにバッサリ切ってしまった。
ナイフを使って大雑把に切り捨てたものだから、その思い切りの良さに呆れながらも、細部を整えてやったのはカミュだった。
銀髪のサラサラヘアーもミステリアスで似合っていたが、今のイレブンは柔和なブラウンが健康的で若々しい。見違えるほど大人びたように見えはしたものの、髪を短く揃えた彼はなかなかの童顔だった。
「カミュ? どうかした?」
小首をかしげる丸い瞳に、カミュは「いや」と笑って肩をすくめた。
「やっぱり少しもったいなかった気がしてさ。長い髪も大人っぽくて似合ってたぜ」
「ありがとう。でもほら、どうせすぐに伸びるから」
「確かに、スケベなやつほど伸びが早いらしいからな」
そのとき、ビュウッと冷たい風が吹き抜けた。
「ごめんカミュ。風でよく聞こえなかった。早いのが、なんだって?」
「いいや、なんでもねえさ」
「そう? ところでそれは……?」
イレブンがカミュの手に握られた赤いリボンに目をとめる。カミュは「ああ」と言って、リボンを目線の高さまで持ち上げた。
「マヤの形見さ。これだけ取り返すのがやっとだったんだ」
「そうか……」
イレブンが手を差し出してくるので、カミュは大人しくリボンを渡した。
すると彼はカミュの右の二の腕に、リボンをキュッと結びつけた。それから「うん」とうなずいて、満足そうに微笑んだ。
「これで妹さんも一緒だ」
「ちょっと可愛すぎねえか?」
なんとも目立つ位置に、真っ赤なリボンがちょうちょ結びされている。流石に少し恥ずかしい。マヤも今ごろ、指をさして笑い転げているだろう。
「いいんだよ。カミュはもともと可愛いからね」
「お前なあ……」
そんなことを言う物好きは、世界広しといえどもこの男しかいないと思う。言えば猛反発を食らうだろうから、余計なことは言わないけれど。
「まあいいや。ありがとな、イレブン」
「よし、それじゃあ行こう!」
「おう! 行こうぜ、相棒!」
最低限の荷物を道具袋に詰め込んで、ふたりは手を取り合って旅立っていく。
二度と戻らぬ故郷の扉が、パタンと静かに閉じられた。
*
呪いが解けた王子さまと、瑠璃の瞳の青年は、それから世界中を旅して周りました。
たくさんの景色を見て、珍しい食べ物を食べ、イシの村にも行きました。
王子さまの人助けは、もうほとんどクセになっていました。行く先々で困っている人を見つけては、どんな危険が伴う問題も解決していきました。
王子さまはもう独りではなかったので、その背中はいつだって青年が守ってくれました。
けれどその旅のさなかで、王子さまはとある風の噂を耳にしました。
それは雪国の最果てにある村が、流れの盗賊団に襲われて、壊滅したというものでした。
女子供はどうにか逃げだしたそうですが、その後の行方は分かっていません。
王子さまは、その噂を自分の胸にだけ留めることにしました。噂は噂。事実かどうかも分かりません。けれど心優しい青年は、それを知ればきっと胸を痛めることでしょう。
王子さまは、二度と彼に悲しい思いをさせたくなかったのです。
そうして長い冒険の旅に出て、一年、二年と時が過ぎていきました。
やがてふたりは、滅びたユグノアの地へ足を運びました。
王子さまと青年は、そこに大きな慰霊碑を立てました。旅の途中で手に入れた、様々な花の種も植え、夜には鎮魂の儀式を行いました。
「なあ王子さま、ここをふたりで立て直さないか?」
夜空を飛び交う美しい蝶の群れを見ながら、青年が言いました。
それは独りぼっちで旅をしていた頃からは、想像もつかないようなことでした。
王子さまは驚きましたが、彼とふたりなら叶うような気がしました。
王子さまはうなずいて、大樹へ還っていく魂の群れに、ユグノアの復興を誓いました。
復興作業には、各地で人助けをしていた王子さまのため、多くの人が集まりました。
娘とはぐれ、魔物に捕らえられていた情報屋の男。雪深い森に生息する古の聖獣に、血気盛んな闘士たち。青年が偶然助けた商人の男まで、あらゆる人々が惜しみなく尽力してくれました。
そして長い長い歳月の果て、ユグノアは見事に復興を遂げたのです。
その日は王子さまと青年の結婚を祝うため、町ではお祭りが開かれていました。
音楽と共に人々が歌い、踊り、みなが新しい国の王さまと、王配の青年を祝福しました。町の広場には笑顔と喜びが満ち溢れ、青い空には白い鳩がいっせいに羽ばたきました。
王さまと王配の青年は、その様子をお城のバルコニーから眺めていました。
「ああ、なんて幸せな日なんだろう。なにもかも、キミがそばにいてくれたおかげだよ」
王さまと揃いで仕立てた、エメラルドのケープを羽織った青年は、その手首に真っ赤なリボンを結んでいました。彼は恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑いました。
王さまは青年の肩に触れると抱き寄せました。そして大観衆が見守るなかで、ふたりは厳かな口づけを交わしました。
すると遥か遠くの空にそびえる大樹が、まばゆい光を放ちました。世界が一瞬、真っ白に染まったかと思うと、やがて空から一つの星が流れてきました。
青年がその星を受け止めると、星は玉のような赤ちゃんへと姿を変えました。
赤ちゃんは青年と同じ空色の髪と、勝ち気そうな瑠璃の瞳をもつ女の子でした。
大樹がもたらした奇跡に、青年は涙を溢れさせ、小さな光の御子を抱きしめました。
「初めまして。キミに会えて嬉しいよ」
王さまが可愛い娘の頬に触れると、赤ちゃんは泣きだしてしまいました。
オギャア、オギャアと、それはそれは元気で愛くるしい声でした。困ってしまった王さまに、青年が声をあげて笑っています。
その微笑ましい光景に、人々は「おめでとう」とあたたかな歓声を贈り続けました。
それから心優しく勇敢な王さまと、瑠璃の瞳の美しい青年は、可愛い我が子といつまでも末永く、幸せに暮らしたのでした。
おしまい。
夜明けのラズライト・了
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カミュは一人、生まれ育った風穴の隠れ家をしみじみと見渡していた。
思いだすのは幼い頃から共に過ごした、マヤとの記憶だった。
小さなパンを分け合って食べたこと、獲物を取り逃がして文句を言われたこと、一緒に星を見上げて、外の世界に夢をはせたこと。可愛いマヤの、幼い笑顔。
恋しさに鼻をすするカミュの耳に、
『泣き虫だなあ兄貴は!』
という、マヤの憎まれ口が聞こえた気がした。
「ハハ……そうだな、ごめんなマヤ。情けない兄ちゃんで」
涙をぬぐったカミュの拳には、真っ赤なリボンが握られていた。それはマヤが幼い頃から、ずっと髪に結んでいたものだった。
マヤが病で命を失ったとき、遺体からの感染を恐れた村人たちは、必死で制止するカミュを殴りつけ、母親共々その亡骸を燃やしてしまった。遺体は骨すら残さず灰になったが、その際に唯一、このリボンだけは奪い返すことができたのだ。
マヤの形見として、カミュはそれをずっと大切に持っていた。
「カミュ、そろそろ出ようか」
そこへイレブンがやってきた。
彼はもともと着ていた赤のサーコートを紫に染め、今の背丈に打ち直したものを着用している。髪は邪魔になるからと、元の長さにバッサリ切ってしまった。
ナイフを使って大雑把に切り捨てたものだから、その思い切りの良さに呆れながらも、細部を整えてやったのはカミュだった。
銀髪のサラサラヘアーもミステリアスで似合っていたが、今のイレブンは柔和なブラウンが健康的で若々しい。見違えるほど大人びたように見えはしたものの、髪を短く揃えた彼はなかなかの童顔だった。
「カミュ? どうかした?」
小首をかしげる丸い瞳に、カミュは「いや」と笑って肩をすくめた。
「やっぱり少しもったいなかった気がしてさ。長い髪も大人っぽくて似合ってたぜ」
「ありがとう。でもほら、どうせすぐに伸びるから」
「確かに、スケベなやつほど伸びが早いらしいからな」
そのとき、ビュウッと冷たい風が吹き抜けた。
「ごめんカミュ。風でよく聞こえなかった。早いのが、なんだって?」
「いいや、なんでもねえさ」
「そう? ところでそれは……?」
イレブンがカミュの手に握られた赤いリボンに目をとめる。カミュは「ああ」と言って、リボンを目線の高さまで持ち上げた。
「マヤの形見さ。これだけ取り返すのがやっとだったんだ」
「そうか……」
イレブンが手を差し出してくるので、カミュは大人しくリボンを渡した。
すると彼はカミュの右の二の腕に、リボンをキュッと結びつけた。それから「うん」とうなずいて、満足そうに微笑んだ。
「これで妹さんも一緒だ」
「ちょっと可愛すぎねえか?」
なんとも目立つ位置に、真っ赤なリボンがちょうちょ結びされている。流石に少し恥ずかしい。マヤも今ごろ、指をさして笑い転げているだろう。
「いいんだよ。カミュはもともと可愛いからね」
「お前なあ……」
そんなことを言う物好きは、世界広しといえどもこの男しかいないと思う。言えば猛反発を食らうだろうから、余計なことは言わないけれど。
「まあいいや。ありがとな、イレブン」
「よし、それじゃあ行こう!」
「おう! 行こうぜ、相棒!」
最低限の荷物を道具袋に詰め込んで、ふたりは手を取り合って旅立っていく。
二度と戻らぬ故郷の扉が、パタンと静かに閉じられた。
*
呪いが解けた王子さまと、瑠璃の瞳の青年は、それから世界中を旅して周りました。
たくさんの景色を見て、珍しい食べ物を食べ、イシの村にも行きました。
王子さまの人助けは、もうほとんどクセになっていました。行く先々で困っている人を見つけては、どんな危険が伴う問題も解決していきました。
王子さまはもう独りではなかったので、その背中はいつだって青年が守ってくれました。
けれどその旅のさなかで、王子さまはとある風の噂を耳にしました。
それは雪国の最果てにある村が、流れの盗賊団に襲われて、壊滅したというものでした。
女子供はどうにか逃げだしたそうですが、その後の行方は分かっていません。
王子さまは、その噂を自分の胸にだけ留めることにしました。噂は噂。事実かどうかも分かりません。けれど心優しい青年は、それを知ればきっと胸を痛めることでしょう。
王子さまは、二度と彼に悲しい思いをさせたくなかったのです。
そうして長い冒険の旅に出て、一年、二年と時が過ぎていきました。
やがてふたりは、滅びたユグノアの地へ足を運びました。
王子さまと青年は、そこに大きな慰霊碑を立てました。旅の途中で手に入れた、様々な花の種も植え、夜には鎮魂の儀式を行いました。
「なあ王子さま、ここをふたりで立て直さないか?」
夜空を飛び交う美しい蝶の群れを見ながら、青年が言いました。
それは独りぼっちで旅をしていた頃からは、想像もつかないようなことでした。
王子さまは驚きましたが、彼とふたりなら叶うような気がしました。
王子さまはうなずいて、大樹へ還っていく魂の群れに、ユグノアの復興を誓いました。
復興作業には、各地で人助けをしていた王子さまのため、多くの人が集まりました。
娘とはぐれ、魔物に捕らえられていた情報屋の男。雪深い森に生息する古の聖獣に、血気盛んな闘士たち。青年が偶然助けた商人の男まで、あらゆる人々が惜しみなく尽力してくれました。
そして長い長い歳月の果て、ユグノアは見事に復興を遂げたのです。
その日は王子さまと青年の結婚を祝うため、町ではお祭りが開かれていました。
音楽と共に人々が歌い、踊り、みなが新しい国の王さまと、王配の青年を祝福しました。町の広場には笑顔と喜びが満ち溢れ、青い空には白い鳩がいっせいに羽ばたきました。
王さまと王配の青年は、その様子をお城のバルコニーから眺めていました。
「ああ、なんて幸せな日なんだろう。なにもかも、キミがそばにいてくれたおかげだよ」
王さまと揃いで仕立てた、エメラルドのケープを羽織った青年は、その手首に真っ赤なリボンを結んでいました。彼は恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑いました。
王さまは青年の肩に触れると抱き寄せました。そして大観衆が見守るなかで、ふたりは厳かな口づけを交わしました。
すると遥か遠くの空にそびえる大樹が、まばゆい光を放ちました。世界が一瞬、真っ白に染まったかと思うと、やがて空から一つの星が流れてきました。
青年がその星を受け止めると、星は玉のような赤ちゃんへと姿を変えました。
赤ちゃんは青年と同じ空色の髪と、勝ち気そうな瑠璃の瞳をもつ女の子でした。
大樹がもたらした奇跡に、青年は涙を溢れさせ、小さな光の御子を抱きしめました。
「初めまして。キミに会えて嬉しいよ」
王さまが可愛い娘の頬に触れると、赤ちゃんは泣きだしてしまいました。
オギャア、オギャアと、それはそれは元気で愛くるしい声でした。困ってしまった王さまに、青年が声をあげて笑っています。
その微笑ましい光景に、人々は「おめでとう」とあたたかな歓声を贈り続けました。
それから心優しく勇敢な王さまと、瑠璃の瞳の美しい青年は、可愛い我が子といつまでも末永く、幸せに暮らしたのでした。
おしまい。
夜明けのラズライト・了
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ランタンの火が揺れるテントのなかで、想いを通じ合わせた二人の影が交わっている。
しっとりと色づく素肌に、イレブンは幾つもの痕を散らしながら愛を囁き続けた。
いたぶられたことはあっても、愛情が伴う行為には不慣れな身体を、根気よく時間をかけて開いていった。
「カミュ……、好きだよカミュ…ボクの可愛いカミュ……」
イレブンの上で腰を揺らめかせ、その雄の猛りを受け入れたカミュは、むずがるように首を振った。慣れない言葉に戸惑いながら、それでも好きだと告げられるたび、彼は熱いうねりと共にイレブンを締めつけてくる。
「ふぁっ、ぁ…ゃ…っ、頼む、おかしくなるから……もう、言うな……っ」
「愛してるんだ。何度でも言わせてほしい」
細腰に両手を添えて支えてやりながら、イレブンはゆっくりと腰を上下に揺らす。決して傷つけないよう慎重に、彼のペースに合わせて優しく突いた。
全身をしっとりと色づかせ、カミュの身体がビクビクと大きくわなないた。
「や、あぁっ、ぁ…ッ、ィ…くぅ、ン…──ッ!!」
カミュは子犬のような声をあげ、イレブンの腹の上に白濁を撒き散らした。
それでもなお痙攣の止まらない痩身が、くったりと胸に倒れ込んでくるのを抱きとめる。
イレブンの肉体が精神に追いついたことで、その身体はより小柄に感じられた。ヒクヒクと身を震わせ、か細く声を漏らし続ける姿に、いっそう愛おしさが募っていった。
「カミュ……」
優しくその名を呼びながら、見た目よりずっと柔らかな髪を撫でる。
イレブンはまだ達していなかったが、心は充分に満たされていた。このまま彼が眠ってしまっても構わないと思っていた。
「イレ、ブン……」
少しずつ呼吸が整ってきたカミュが、胸の上で身じろいだ。
「ん、なに」
「続き、しねえの?」
イレブンは笑ってうなずくと、空色の髪に唇を寄せて「もう充分だよ」と言った。自分の欲望を後回しにしてでも、今はこうして彼を甘やかしていたかった。
けれどカミュは納得していない様子で、顔をあげると物言いたげな瞳を向けてきた。
「ちゃんと、最後までしてくれよ。オレだって、お前によくなってほしいんだ」
そう言いながら、カミュはイレブンの鎖骨に赤らんだ顔を埋めてしまう。
「……好きなんだ、イレブンのこと。こんなに好きにさせたんだから、責任、取れよな」
ガン、と後ろ頭を殴られたような気分だった。ぬるま湯に浸ったようにポカポカとした気持ちが、一瞬で激しい劣情に上書きされる。
一体どうしろっていうんだ。いっそ叫びだしたい気持ちが溢れた。
「あぁ、カミュ……これ以上ボクをおかしくさせないでくれ……!」
夜ごとカミュを抱いて眠りながら、イレブンは理性を試されていたのだ。好きな子が腕の中にいて、やましい感情を抱かない男がいるとは思えない。それでも彼の気持ちがこちらを向くまでは、決して手をだすまいと誓いを立てていた。
その念願が叶って、これ以上に望むことはないと思っていたのに。
「ちょ、おい! 急にデカくすんなって…ッ、ぁ、ぅわ……っ!?」
イレブンはカミュの身体を強く抱き込み、そのまま体勢を反転させた。頭部に手をやってしっかりと支え、マットレスに横たえる。
「カミュ、好きだ。愛してる」
切羽詰まった愛の告白に、カミュはイレブンの両頬に触れながら、「もう分かったって」と苦笑した。
イレブンは堪らずその薄い唇にかぶりつく。いっそこのまま、頭から食べてしまいたかった。
「ん、ぅ……、ふ…っ、…っ」
イレブンの首に両腕を回し、痩せた舌がそれに応える。
腰に届くほど伸びた髪に、カミュの指が絡みつく。無意識にきゅっと握ったり、引っ張られたりするうちに、緩く編まれていた髪が解けてサラサラと雪崩をおこした。
「ぁ、ぁ…、髪……」
「いい、気にしないで」
ぼうっとけぶるように潤んだ瞳で、カミュはいとけなくうなずいた。イレブンの髪をひとふさ握り、口元へ運ぶと唇に押しつける。その愛らしい仕草にまた情欲を煽られた。
「カミュ……っ」
自身の髪ごと彼を抱きすくめ、イレブンは自らの欲を追いはじめた。
腕のなかで喘ぐ身体が、懸命にしがみついてくる。腰に両足が絡みつき、繋がりがいっそう深まった。
カミュの中は蕩けそうなほどに気持ちがよかった。狭い肉路を擦り上げるたび、ぐぷぐぷと淫らな音が響いてくる。ずっとこうしていたいと思うのに、思考は彼の臓腑に自分という雄の種を吐きだすことでいっぱいになっていた。
「カミュ…ッ、カミュ、…ぁ、もう……ッ」
カミュはうなずき、イレブンの頭を抱き込んだ。手櫛で髪を梳かすようにして、彼の指先が頭皮をなぞる。いつもより高く上ずったトーンで、カミュが耳元に「出して、イレブン」と甘く囁いた。それだけで、頭が真っ白になった。
「あぁっ、ぁ…ッ、イレブン…、イレブン……っ!」
「カミュ……ッ!」
積もり積もった想いの丈を、背筋を震わせながら中に吐きだす。
初めて恋をした相手を前に、イレブンは所詮16歳の若造と変わらぬ猛りをぶつけることしかできなかった。
射精時の無防備な状態でいるあいだ、カミュは変わらずイレブンの頭を撫で続けていた。
わずか19歳の青年が見せる、どこか母親めいた仕草に鼻の先がツンと痛んだ。ああ、情けないなと、イレブンは思う。射精後特有の感情が、そう思わせるのだろうか。
イレブンがわずかに顔をあげ、充血した瞳を向けると、カミュは「なんて顔だよ」と言って笑った。うるんだ瑠璃色の瞳があまりにも綺麗で、なにも言えなくなる。ただただ愛おしかった。そんなイレブンに、カミュは嬉しそうに言った。
「好きなやつが、オレで気持ちよくなってくれるのって、こんなに嬉しいことだったんだな。知らなかったよ」
「カミュ……」
「教えてくれてありがとな、イレブン」
イレブンは「あぁ」と深い息をつき、カミュの耳の脇に顔を埋めた。歓喜に沸き立つ心とは裏腹に、押し殺した声で「もう黙って」としか言えなかった。これ以上愛しくさせられたら、どうにかなってしまいそうだった。
カミュはそんなイレブンの機微を察して、「さっきのお返しだぜ」と愉快そうに言った。そうか、こんな気持ちだったのか。なら、おあいこだ。
けれどそれを言ったら、今回はカミュが達していなかった。二人の身体の間で、カミュの陰茎は半勃ちのまま放置されている。
「カミュ」
身じろいだイレブンに、意図を察したカミュは頬を赤らめて目をそらし、「おう」と照れ臭そうに返事した。それからイレブンの頭をいっそう引き寄せ、その耳元で内緒話をするような小声で言った。
「次は、もっと奥まで……来てくれよ」
イレブンはドキリとしながら息をのんだ。
最初の夜は薬の影響と、カミュに出会えたことへの感動で、歯止めがきかない状態だった。経験もなく、加減すら分からず、無遠慮に奥まで貫いてしまった。
そのことは今でも悔やんでいるが、まさかカミュの方から許しが出るとは思わなかった。
「あれ、怖かったけど……スゲェよかった、から……」
「ッ、……か、カミュ」
どうしろってんだ! と、いよいよ叫ばなかったのは、本気で奇跡だったと思う。
いかがわしい薬を使うより、カミュはよっぽどイレブンを舞い上がらせ、興奮させるのが上手いらしい。末恐ろしさを感じつつ、イレブンは理性を総動員させると言った。
「優しくする。絶対に、怖くはしないよ」
「……ん」
よほど恥ずかしかったのか、彼は全身を茹だったように赤くしながら、イレブンの首元に目元を埋めてうなずいた。
*
気づけばランタンの火は消えていた。
夜明け間近の薄青が、テント越しに闇を淡く照らしている。
じっくりと時間をかけて愛し合ったあと、ふたりは寄り添って毛布に包まりながら、ぽつりぽつりと取り止めのない会話をした。
その流れで、イレブンは改めて自身の生い立ちと旅の経緯を話して聞かせた。
ユグノアの悲劇と、誰も救えずに独り生き残ってしまったこと。自責の念から不死の呪いを招き、自死したくともできなかったこと。そこで預言者と出会い、予言に従ってここまでやって来たことを。
カミュはイレブンの腕を枕に、黙って話を聞いていた。
「気を悪くしたかい?」
イレブンの問いかけに、カミュは身体を反転させてうつ伏せになると、両肘を立てて首をかしげた。意図を掴めないでいる視線に、イレブンはふっと苦笑する。
「キミにひと目で惹かれたのは事実だ。だけど、キミはボクの呪いを解くための鍵でもあった。利用したと思われても仕方ない」
カミュは「別にいいさ」と、なんでもないことのように言って微笑んだ。
「オレだって、本当はどこかで待っていたのかもしれねえ。オレを引っ張り上げてくれる光をさ。それがお前でよかったって、心からそう思うよ」
「カミュ……ありがとう……」
カミュはへへっと笑うと「それにさ」と言って、イレブンの瞳をじっと見つめた。
「お前はオレに罪はないと言ったが、そっくりそのままお返しするぜ。ユグノアが滅んだのは魔物のせいだ。お前が背負うべき罪はないってな」
イレブンはアーモンド型の瞳をわずかに見開いた。
カミュは自分の左手の平に視線を落とす。
「生き残ったことには、必ず何か意味がある。オレはイレブン、お前と旅に出て、それを探したい。お前となら、見つけられる気がするんだ」
そう言って左手をぐっと握りしめ、カミュはイレブンを見て力強く笑った。
テントの向こう側で、薄青がぐっと明るさを増すのが分かった。夜明けに咲く花のように、彼の持つ瑠璃色はイレブンの胸を強く掴んで離さない。
この美しい宝玉を探し、焦がれて、10年もの孤独な旅をした。すべてはこの子に出会うための旅だった。
彼こそが人として生き、やがて死ぬことを赦してくれる、唯一の導き手なのだと、イレブンは改めて強く確信することができた。
(父上、母上……そして、大好きなユグノアの民)
愛していた。心から。そして今もなお。みなの未来が奪われて、自分だけが生き残った。
イレブンは、それを決して赦されない罪だと思っていた。こんな自分には、生きる意味も資格もない。だけど死ぬこともできず、たった独りで背負っていくものだと。
「多分さ」
ずっとそう、思っていた。
「生きるってのは、罪滅ぼしなんだよ。オレたちはきっと、生まれたときから罪人なんだ」
カミュが眠たげにまばたきをして、イレブンの肩にもたれかかってくる。
「飯を食うとき、いただきますって言うだろ? オレたちは、命をもらって生きてるんだろ? 魚だって肉だって、植物だってそうさ。もし半端なところで死を選んじまったら、そいつらの命をもらった意味がなくなっちまう。だからオレたちは、命数尽きるまで生きなきゃならねえんだよ」
カミュの身体から、くったりと力が抜けていく。
「たとえそれが、どんなに苦しくたってさ。一緒なら、平気だろ」
寝息すらも愛くるしい青年の肩を抱き、イレブンはその柔らかな髪に口元を埋めた。なぜだか不思議と泣けてきて、頬を一筋の涙が伝い落ちた。
思えば最後に泣いたのはいつだろう。あの悲劇の渦中にあってすら、イレブンは泣くことができなかった。
「──ありがとう」
この身を生かしてくれた、すべての愛しき人たちに。
イレブンはようやく、感謝を述べることができたのだった。
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しっとりと色づく素肌に、イレブンは幾つもの痕を散らしながら愛を囁き続けた。
いたぶられたことはあっても、愛情が伴う行為には不慣れな身体を、根気よく時間をかけて開いていった。
「カミュ……、好きだよカミュ…ボクの可愛いカミュ……」
イレブンの上で腰を揺らめかせ、その雄の猛りを受け入れたカミュは、むずがるように首を振った。慣れない言葉に戸惑いながら、それでも好きだと告げられるたび、彼は熱いうねりと共にイレブンを締めつけてくる。
「ふぁっ、ぁ…ゃ…っ、頼む、おかしくなるから……もう、言うな……っ」
「愛してるんだ。何度でも言わせてほしい」
細腰に両手を添えて支えてやりながら、イレブンはゆっくりと腰を上下に揺らす。決して傷つけないよう慎重に、彼のペースに合わせて優しく突いた。
全身をしっとりと色づかせ、カミュの身体がビクビクと大きくわなないた。
「や、あぁっ、ぁ…ッ、ィ…くぅ、ン…──ッ!!」
カミュは子犬のような声をあげ、イレブンの腹の上に白濁を撒き散らした。
それでもなお痙攣の止まらない痩身が、くったりと胸に倒れ込んでくるのを抱きとめる。
イレブンの肉体が精神に追いついたことで、その身体はより小柄に感じられた。ヒクヒクと身を震わせ、か細く声を漏らし続ける姿に、いっそう愛おしさが募っていった。
「カミュ……」
優しくその名を呼びながら、見た目よりずっと柔らかな髪を撫でる。
イレブンはまだ達していなかったが、心は充分に満たされていた。このまま彼が眠ってしまっても構わないと思っていた。
「イレ、ブン……」
少しずつ呼吸が整ってきたカミュが、胸の上で身じろいだ。
「ん、なに」
「続き、しねえの?」
イレブンは笑ってうなずくと、空色の髪に唇を寄せて「もう充分だよ」と言った。自分の欲望を後回しにしてでも、今はこうして彼を甘やかしていたかった。
けれどカミュは納得していない様子で、顔をあげると物言いたげな瞳を向けてきた。
「ちゃんと、最後までしてくれよ。オレだって、お前によくなってほしいんだ」
そう言いながら、カミュはイレブンの鎖骨に赤らんだ顔を埋めてしまう。
「……好きなんだ、イレブンのこと。こんなに好きにさせたんだから、責任、取れよな」
ガン、と後ろ頭を殴られたような気分だった。ぬるま湯に浸ったようにポカポカとした気持ちが、一瞬で激しい劣情に上書きされる。
一体どうしろっていうんだ。いっそ叫びだしたい気持ちが溢れた。
「あぁ、カミュ……これ以上ボクをおかしくさせないでくれ……!」
夜ごとカミュを抱いて眠りながら、イレブンは理性を試されていたのだ。好きな子が腕の中にいて、やましい感情を抱かない男がいるとは思えない。それでも彼の気持ちがこちらを向くまでは、決して手をだすまいと誓いを立てていた。
その念願が叶って、これ以上に望むことはないと思っていたのに。
「ちょ、おい! 急にデカくすんなって…ッ、ぁ、ぅわ……っ!?」
イレブンはカミュの身体を強く抱き込み、そのまま体勢を反転させた。頭部に手をやってしっかりと支え、マットレスに横たえる。
「カミュ、好きだ。愛してる」
切羽詰まった愛の告白に、カミュはイレブンの両頬に触れながら、「もう分かったって」と苦笑した。
イレブンは堪らずその薄い唇にかぶりつく。いっそこのまま、頭から食べてしまいたかった。
「ん、ぅ……、ふ…っ、…っ」
イレブンの首に両腕を回し、痩せた舌がそれに応える。
腰に届くほど伸びた髪に、カミュの指が絡みつく。無意識にきゅっと握ったり、引っ張られたりするうちに、緩く編まれていた髪が解けてサラサラと雪崩をおこした。
「ぁ、ぁ…、髪……」
「いい、気にしないで」
ぼうっとけぶるように潤んだ瞳で、カミュはいとけなくうなずいた。イレブンの髪をひとふさ握り、口元へ運ぶと唇に押しつける。その愛らしい仕草にまた情欲を煽られた。
「カミュ……っ」
自身の髪ごと彼を抱きすくめ、イレブンは自らの欲を追いはじめた。
腕のなかで喘ぐ身体が、懸命にしがみついてくる。腰に両足が絡みつき、繋がりがいっそう深まった。
カミュの中は蕩けそうなほどに気持ちがよかった。狭い肉路を擦り上げるたび、ぐぷぐぷと淫らな音が響いてくる。ずっとこうしていたいと思うのに、思考は彼の臓腑に自分という雄の種を吐きだすことでいっぱいになっていた。
「カミュ…ッ、カミュ、…ぁ、もう……ッ」
カミュはうなずき、イレブンの頭を抱き込んだ。手櫛で髪を梳かすようにして、彼の指先が頭皮をなぞる。いつもより高く上ずったトーンで、カミュが耳元に「出して、イレブン」と甘く囁いた。それだけで、頭が真っ白になった。
「あぁっ、ぁ…ッ、イレブン…、イレブン……っ!」
「カミュ……ッ!」
積もり積もった想いの丈を、背筋を震わせながら中に吐きだす。
初めて恋をした相手を前に、イレブンは所詮16歳の若造と変わらぬ猛りをぶつけることしかできなかった。
射精時の無防備な状態でいるあいだ、カミュは変わらずイレブンの頭を撫で続けていた。
わずか19歳の青年が見せる、どこか母親めいた仕草に鼻の先がツンと痛んだ。ああ、情けないなと、イレブンは思う。射精後特有の感情が、そう思わせるのだろうか。
イレブンがわずかに顔をあげ、充血した瞳を向けると、カミュは「なんて顔だよ」と言って笑った。うるんだ瑠璃色の瞳があまりにも綺麗で、なにも言えなくなる。ただただ愛おしかった。そんなイレブンに、カミュは嬉しそうに言った。
「好きなやつが、オレで気持ちよくなってくれるのって、こんなに嬉しいことだったんだな。知らなかったよ」
「カミュ……」
「教えてくれてありがとな、イレブン」
イレブンは「あぁ」と深い息をつき、カミュの耳の脇に顔を埋めた。歓喜に沸き立つ心とは裏腹に、押し殺した声で「もう黙って」としか言えなかった。これ以上愛しくさせられたら、どうにかなってしまいそうだった。
カミュはそんなイレブンの機微を察して、「さっきのお返しだぜ」と愉快そうに言った。そうか、こんな気持ちだったのか。なら、おあいこだ。
けれどそれを言ったら、今回はカミュが達していなかった。二人の身体の間で、カミュの陰茎は半勃ちのまま放置されている。
「カミュ」
身じろいだイレブンに、意図を察したカミュは頬を赤らめて目をそらし、「おう」と照れ臭そうに返事した。それからイレブンの頭をいっそう引き寄せ、その耳元で内緒話をするような小声で言った。
「次は、もっと奥まで……来てくれよ」
イレブンはドキリとしながら息をのんだ。
最初の夜は薬の影響と、カミュに出会えたことへの感動で、歯止めがきかない状態だった。経験もなく、加減すら分からず、無遠慮に奥まで貫いてしまった。
そのことは今でも悔やんでいるが、まさかカミュの方から許しが出るとは思わなかった。
「あれ、怖かったけど……スゲェよかった、から……」
「ッ、……か、カミュ」
どうしろってんだ! と、いよいよ叫ばなかったのは、本気で奇跡だったと思う。
いかがわしい薬を使うより、カミュはよっぽどイレブンを舞い上がらせ、興奮させるのが上手いらしい。末恐ろしさを感じつつ、イレブンは理性を総動員させると言った。
「優しくする。絶対に、怖くはしないよ」
「……ん」
よほど恥ずかしかったのか、彼は全身を茹だったように赤くしながら、イレブンの首元に目元を埋めてうなずいた。
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気づけばランタンの火は消えていた。
夜明け間近の薄青が、テント越しに闇を淡く照らしている。
じっくりと時間をかけて愛し合ったあと、ふたりは寄り添って毛布に包まりながら、ぽつりぽつりと取り止めのない会話をした。
その流れで、イレブンは改めて自身の生い立ちと旅の経緯を話して聞かせた。
ユグノアの悲劇と、誰も救えずに独り生き残ってしまったこと。自責の念から不死の呪いを招き、自死したくともできなかったこと。そこで預言者と出会い、予言に従ってここまでやって来たことを。
カミュはイレブンの腕を枕に、黙って話を聞いていた。
「気を悪くしたかい?」
イレブンの問いかけに、カミュは身体を反転させてうつ伏せになると、両肘を立てて首をかしげた。意図を掴めないでいる視線に、イレブンはふっと苦笑する。
「キミにひと目で惹かれたのは事実だ。だけど、キミはボクの呪いを解くための鍵でもあった。利用したと思われても仕方ない」
カミュは「別にいいさ」と、なんでもないことのように言って微笑んだ。
「オレだって、本当はどこかで待っていたのかもしれねえ。オレを引っ張り上げてくれる光をさ。それがお前でよかったって、心からそう思うよ」
「カミュ……ありがとう……」
カミュはへへっと笑うと「それにさ」と言って、イレブンの瞳をじっと見つめた。
「お前はオレに罪はないと言ったが、そっくりそのままお返しするぜ。ユグノアが滅んだのは魔物のせいだ。お前が背負うべき罪はないってな」
イレブンはアーモンド型の瞳をわずかに見開いた。
カミュは自分の左手の平に視線を落とす。
「生き残ったことには、必ず何か意味がある。オレはイレブン、お前と旅に出て、それを探したい。お前となら、見つけられる気がするんだ」
そう言って左手をぐっと握りしめ、カミュはイレブンを見て力強く笑った。
テントの向こう側で、薄青がぐっと明るさを増すのが分かった。夜明けに咲く花のように、彼の持つ瑠璃色はイレブンの胸を強く掴んで離さない。
この美しい宝玉を探し、焦がれて、10年もの孤独な旅をした。すべてはこの子に出会うための旅だった。
彼こそが人として生き、やがて死ぬことを赦してくれる、唯一の導き手なのだと、イレブンは改めて強く確信することができた。
(父上、母上……そして、大好きなユグノアの民)
愛していた。心から。そして今もなお。みなの未来が奪われて、自分だけが生き残った。
イレブンは、それを決して赦されない罪だと思っていた。こんな自分には、生きる意味も資格もない。だけど死ぬこともできず、たった独りで背負っていくものだと。
「多分さ」
ずっとそう、思っていた。
「生きるってのは、罪滅ぼしなんだよ。オレたちはきっと、生まれたときから罪人なんだ」
カミュが眠たげにまばたきをして、イレブンの肩にもたれかかってくる。
「飯を食うとき、いただきますって言うだろ? オレたちは、命をもらって生きてるんだろ? 魚だって肉だって、植物だってそうさ。もし半端なところで死を選んじまったら、そいつらの命をもらった意味がなくなっちまう。だからオレたちは、命数尽きるまで生きなきゃならねえんだよ」
カミュの身体から、くったりと力が抜けていく。
「たとえそれが、どんなに苦しくたってさ。一緒なら、平気だろ」
寝息すらも愛くるしい青年の肩を抱き、イレブンはその柔らかな髪に口元を埋めた。なぜだか不思議と泣けてきて、頬を一筋の涙が伝い落ちた。
思えば最後に泣いたのはいつだろう。あの悲劇の渦中にあってすら、イレブンは泣くことができなかった。
「──ありがとう」
この身を生かしてくれた、すべての愛しき人たちに。
イレブンはようやく、感謝を述べることができたのだった。
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操がその噂を耳にしたのは、夏休みを目前に控えた7月中旬の夕方だった。学校帰りに立ち寄ったファストフード店でのことだ。
「ねぇ、コウヨウさんって知ってる?」
中学までは二つ結いだった髪をおろして、ほんの少しだけ背伸びをするようになった美羽が、同じテーブルにつく操と総士に問いかけた。
「さぁ? 知らないな」
総士がポテトにかじりつく。彼は長かった髪をさらに伸ばして、頭の高い位置でざっくりと結っている。顔立ちも相まって、ぱっと見は女の子のようだった。
「最近ね、クラスの子たちの間で噂なの。都市伝説なんだけどね」
きっちりポテトを飲み込んでから、総士がため息をつく。
「お前、まだそういうの信じてるのか?」
「なによぉ。信じてちゃダメなわけ? 総士の怖がり」
「こ、怖くないし、ただ興味がないだけだ。その手の話はマリスの方が得意だろ」
美羽は残念そうに唇を尖らせ、制服のネクタイの結び目を指でなぞった。
「だぁってマリス、別の学校に行っちゃったんだもん」
操、美羽、総士の三人が着用する制服はお揃いだ。半袖の白いワイシャツに、ネクタイはえんじ色。スラックスとスカートは青を基調としたグラフチェックで、シャツの左袖には地球儀を模したような形の校章がついている。
てっきり四人で揃いの制服を着るものとばかり思っていたが、マリスは少し離れた私立の名門校に進学してしまった。そのため会う機会はすっかり減った。ごくまれに、道でバッタリ出くわすくらいなものだ。
「でね、続きなんだけど」
苦い顔の総士をよそに、気を取り直した美羽が『コウヨウさん』の呼びだし方を語りはじめる。
「まずは公衆電話から自分のスマホに電話をかけて、【コウヨウさん、コウヨウさん、教えてください。よろしければお返事ください】って呼びかけるの。そうするとコウヨウさんからスマホに電話がかかってきて、少しずつ現在地を知らせてくれるの。指示されたとおりにその場所へ行くと──運命の人に会えるんだって!」
美羽は瞳を輝かせ、胸の前で両手をぎゅっと握りしめた。ほんのりと頬を染める彼女に、総士が呆れた様子で「うさんくさい」と吐き捨てる。
「んもう! 総士ってほんっと夢がないんだからぁ!」
「夢もなにも、実際に試したやつなんかいるのか?」
それは──と、美羽が途端に口ごもる。
「試した子はね、何人かいるの。でも、電話はかかってこなかったって」
「ほら見ろ。あるわけないのさ、そんなこと」
「総士の意地悪! すぐそういう反応するんだから。ねぇ操?」
同意を求められ、操はかすかに肩を跳ねさせた。
二人の会話を聞きながら、実は内心ずっとそれどころではなかったのだ。胸がザワつき、問いかけにうまく反応できない。
コウヨウさん──敬称は違えど、5年前の夏に出会った怪異と同じ名前。再びその名を耳にする日が来るとは思わなかった。差異はあれども、おおまかな部分では変わらない。無関係とは思えなかった。
(甲洋、君のことなの……?)
操の胸には、今もずっと彼の笑顔が焼きついている。たった一日の出来事だが、決して忘れることのできない、あまりにも鮮やかな思い出が。
だからこそ、あの喪失感がいつまでたっても胸にとどまり続けていた。
「操? ねぇ、どしたの?」
黙りこくっていると、美羽がキョトンとしながら顔を覗き込んでくる。操は慌てて首を振り、「なんでもないよ」と言って笑った。
「それよりあのさ、二人とも……その、コウヨウって名前を聞いて、なにか思いだすことはない?」
「「思いだすこと?」」
美羽と総士が顔を見合わせ、首をかしげる。
「小5の夏に、マリスがしてくれた話だよ。終業式の日に、放課後さ」
「マリスがしてたってことは、都市伝説とかそっち系だろ? いろいろありすぎて、逆にピンと来るものはないな」
「美羽も。ねぇ、それがどうかした?」
「……うぅん、いいんだ。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
やっぱりか、と操は思った。
あの件から数日後、操は空地に集まった美羽たちに甲洋のことを話した。故障しているはずの公衆電話から電話をかけて、コウヨウくんから返事があったこと。実際に会って、弟が欲しいという願いを叶えてもらったことを。
しかし美羽と総士はキョトンとするばかりで、『コウヨウくんの噂』など知らないと言った。聞いたこともないと。それは母・容子が見せた反応と同類のものだった。
ほんの数日前の話を、綺麗さっぱり忘れてしまうなんてありえない。けれど操はそれ以上、二人を追及する気にはなれなかった。
物思いにふける操をよそに、オレンジジュースしか注文していなかった美羽が、「一本ちょうだい」と言って総士のポテトに手を伸ばす。総士は「太るぞ」なんて意地悪を言いながら、チーズバーガーの包装を解いていた。
「総士こそ、夜ご飯の前にそんなに食べて、ブタになっても知らないんだから……、あっ、そうだ、肝心なこと忘れてた!」
話の途中で美羽が思いだしたようにポンと両手を叩いた。その瞳には、さっきまでのキラキラとした憧れと好奇心の光が舞い戻っていた。
「あのね、コウヨウさんのお話には、実はまだ続きがあるの。知りたい?」
*
二人と別れてひとり帰路につきながら、美羽の話が頭から離れなかった。
あれから5年が経ち、操は16歳になった。伸びた背は母を越し、少女のようだった声は柔らかさを残しながらも、男子のそれになっていた。
甲洋はどうだろう。お化けや妖怪は年を取るんだろうか。想像がつかない。彼は痩せっぽちの少年のまま、今もどこかをさまよっている気がした。
(試してみようか。そうしたら、またあの子に会えるかもしれない)
例えばトイレの太郎くんのように、単に花子さんから派生したにすぎない類似の怪異という可能性は大いにある。あの夏のように、呼びかけに応じてくれるとも限らない。それでもやるだけやってみる価値はある気がした。
「ここの公衆電話、今もあったらよかったのに──あ、」
例の公園のそばには、電話ボックスが撤去されたまま空きスペースになっている一角がある。ちょうどそこを、生後二ヶ月ほどの二匹の子猫を連れた母猫が歩く姿があった。母子そろって綺麗な黒い毛並みをしている。
「わあっ、可愛い!」
操はとっさに足を止め、ついはしゃいだ声をあげてしまった。
すると警戒態勢に入った母猫が、緑色の目を光らせながらそそくさと茂みに逃げ込んだ。中から声をあげ、呼び寄せられた子猫たちもいっせいに姿を消していく。
「あっ、行っちゃった……」
悪いことをしたなと思っていると、遠くからもう一匹、黒い子猫がヨタヨタと歩いてくる姿が見えた。ここに来るまでにもずいぶん鳴いたのか、ミー、ミー、という声がひどく枯れていた。不安な様子で、しきりに鼻をあげるような動作を繰り返している。
「君、はぐれちゃったの? ほらおいで、お母さんたちはこっちだよ」
操は茂みのそばにしゃがみこみ、子猫に向かって手招きをした。しかし子猫は緊張した様子で足を止めただけで、近寄ってこようとはしなかった。幼いながらに、野良としての警戒心がしっかりとその身に染みついている。
よく見れば、その子は先に行ってしまった二匹よりも一回り身体が小さく、痩せていた。毛艶も悪く、目ヤニも浮きでて腹もぺしゃんこだ。もし母猫とうまく合流できなければ、この子はどうなってしまうだろう。そう考えるとたまらない気持ちになり、操はとっさに手を伸ばそうとした。
「ねぇ、いい子だからさ。こっちにおいでよ。ぼくが一緒にお母さんを探してあげる。まだ近くにいるはずだから──あっ、!」
しかしそれより先に、子猫は茂みの中に潜り込んでいった。すぐに覗き込んだが、その姿はもうどこにもない。下手に追い回しても怖がらせてしまうだけだろうし、悩ましい思いで嘆息を漏らしていると、頭上から涼しげな声が降ってきた。
「振られちゃったみたいだね」
見上げると、そこには見知った顔がある。白い半袖のワイシャツに紺のスラックス姿で、学生鞄を脇に抱えたマリスが爽やかな笑顔を浮かべていた。
*
色濃くなった夕焼けが、湿気をまといながら公園の遊具を染めている。
鍋で蒸されたような熱気から逃れ、操とマリスは東屋の下に移動した。
「コウヨウさん、か」
マリスは木製のテーブルに腰を預け、思案顔で指先をあごに滑らせた。ベンチに腰掛けた操は、うん、と軽くうなずいた。
「さっき美羽から聞いたんだ。マリス、なにか知ってる?」
「いや、知らないな。そんな噂は初めて聞いたよ」
「そっかぁ」
操の身の回りにおいて、まともにこんな相談ができるのはマリスだけだ。
5年前の夏、不思議なことに彼だけは記憶を失っていなかった。マリスは特に変わった様子のない操に「珍しいケースもあるんだね」とずいぶん驚いていた。
そのときに『コウヨウくん』の正体を聞かされた。親から愛されることがなかった、孤独で可哀想な子供たちの思念体であること。本来なら、願いを叶えてもらった子供は身体を乗っ取られてしまうということを。
甲洋がなぜ自分のことを「俺たち」などと呼んでいたのか、天井を見上げるあの寂しそうな視線の意味に、操はそこで初めて気づいた。なぜ彼が操の魂を奪うことなく消え去ったのかは、分からずじまいだったが。
「美羽も総士も、やっぱり忘れちゃってるみたい。不思議だよね、君とぼくだけが覚えてるなんて」
「そんなもんさ。簡単に説明がついてしまったら、それはもう怪異とは呼べないよ」
「あは、それもそっか」
操はどこかホッとしている自分がいることに気がついた。
自分以外、誰も『コウヨウくん』を覚えていないことに、まるで取り残されたような寂寥感を覚えていた。だからこうして共有できる相手がいてくれるのはありがたい。
(──そういえば)
ふと思いだし、操は公園内をぐるりと見渡した。さっきの子猫はどうしただろう。無事に家族と合流できただろうか。
「子猫のこと?」
「うん……なんだか少し弱ってるみたいだったし、気になるよ。お母さん猫に見つけてもらえてたらいいんだけど……」
そう言ってうつむく操を、マリスはどこか複雑そうな瞳で見つめる。
「……野生動物は、弱い子供をあえて見捨てることがあるんだよ。より生存率が高い子供だけを、優先して育てるために」
「え……?」
「猫に限らずさ。体力の補給や、危機回避のために食い殺してしまうこともある。それは種として生き残るための、正しい本能なんだ」
だからその子が母猫の元に戻れたところで、果たして生き残れるかどうか──マリスの言葉に、操は大きなショックを受けた。
母猫は健康そうな二匹の子猫を連れて、先に茂みの中へ消えていった。あの子猫は、ただはぐれたというだけでなく、あのときすでに見捨てられていたのではないか?
「残酷だけどね。人間に比べたら、よほど理にかなっているよ。人間はただ無責任に子供を産んでは、不幸にしてしまうことがあるんだから」
操の中で、嫌でもか弱い子猫と痩せっぽちな甲洋の姿が重なる。いてもたってもいられず、とっさに勢いよく立ち上がった。
「来主?」
「お願い、マリスも探して! ぼく、あの子を連れて帰りたい!」
「待ちなよ」
東屋から飛びだそうとする操の右肩を、マリスが掴んで引き止めた。
「もうじき日が暮れる。子猫とはいえ野良は野良だ。闇雲に探したところで、捕まえるのは簡単じゃないと思うけど」
「でもっ……」
彼が言う通り、辺りは少しずつ薄闇に飲まれようとしていた。
操は思わず下唇を噛み締める。こんなことなら、あの場で捕まえておくべきだった。成猫ならまだしも、弱った子猫を保護するくらい、やってやれないことはなかったはずだ。それをみすみす行かせてしまった。
操の中に、母親が子を見捨てるなんて可能性は微塵もなかったのだ。生まれたときから今の今まで、母の愛情に守られてきた。そのある種特有の傲慢さが、思考の妨げになっていた。
だけど操は知っている。孤独な怪異を知っている。それなのに。
「……クラスメイトに、親が保護猫活動をしてるやつがいる」
「!」
「帰ったらすぐに連絡してみるよ。それでどう?」
「ホントに!? ありがとう、マリス……!」
操の表情が明るくなった。気がかりなことに変わりはないが、自分が下手に手をだすよりは、その方がずっと安心できる。それに上手く子猫を保護できたとして、操の家には老猫のクーがいるのだ。連れ帰ったところでなんの用意もなく、適切な環境とは言いがたい。
「それで、来主はコウヨウさんに会うつもりなの?」
肩からマリスの手が離れていった。話が本題に戻り、操はうなずきながら再びベンチに腰掛けた。
「無関係とは思えないんだ。もしかしたら、また甲洋に会えるかもしれない。だから確かめてみようと思ってる」
マリスがうなずき、「僕も興味があるよ」と言った。
「コウヨウくんはね、こうしている今も絶えず生まれ続けて、大きな群れを作っているんだ。悲しいけど、それはきっと止められない──だけど来主と出会ったコウヨウくんは、なにかが少し違ったみたいだ」
「違うって、なにが?」
さぁねと曖昧に微笑んだマリスが、学生鞄を脇に抱え直した。
「群れから離れた小さな欠片が、犠牲もなしにどんな結末を迎えるのか。次に会ったら教えてよ」
ヒラヒラと片手を振って、マリスは一足先に東屋の外に出ていった。
*
翌日。
授業の合間にスマホを見ると、マリスからメッセージが届いていた。例の子猫が無事に保護されたという報告だった。しかも幾つか設置した捕獲器の一つに、母猫と二匹の子猫たちも入っていたらしい。みな無事だそうだ。その知らせに、操はホッと胸を撫で下ろした。
心配事が落ち着いたところで、操は自身も行動を起こすことにした。
学校終わりに美和たちと別れたあと、向かった先は駅前の高架下にある公衆電話だ。ボックス式ではなかったが、褪せた色合いの古びた電話を前にすると、まるで5年前に戻ったような緊張が走った。
あの日と同じように受話器をとって、百円玉を投入する。自分のスマホの番号を入力すると、スラックスのポケットから電子音が鳴り響いた。取りだして、通話状態にしておく。それからひとつ深呼吸をして、受話器に向かって呼びかけた。
「コウヨウさん、コウヨウさん、教えてください。よろしければお返事ください!」
もちろん応答はない。操は受話器を戻し、スマホの通話を切ると息を漏らした。あとは待つだけだ。かかってくるのか、こないのか。あまり期待しすぎない方がいいと思いつつ、どうにも気分が落ち着かない。
(まだ早いし、服でも見て帰ろっかな)
なにかで気を紛らわそうと考えていた矢先。スマホが鳴った。
「っ!」
心臓がドクンと高鳴り、全身が一気に粟立った。即座に目をやれば、画面には『通知不可』の表示。手からスマホを取り落としそうになりながら、操はこわばった指先を画面に走らせて通話に応じた。
「……もしもし?」
『今、海神駅にいるよ。はやくおいで』
操が反応する前に、通話はプツリと切れてしまった。スマホを耳に押し当てながら、しばし呆然として動けなくなる。
男だ。波が静かに凪ぐような、そんな優しげな声だった。操が記憶している幼子の声とは違う。けれどほのかに感じる、残り香のような懐かしさ。
「海神町の、駅」
指定されたのはここから電車で3つ先にある駅だ。家とは真逆の方向だが、操は考えるより先に走りだしていた。駅で切符を買うと、ちょうどよくホームに滑り込んできた電車に飛び乗る。
やがて指定の駅で下車すると、すぐさまスマホが鳴りだした。
「もしもし!?」
『今、西尾商店街にいるよ。はやくおいで』
「まっ、待って! ねぇ……!」
制止もむなしく、通話が途切れる。半ば確信めいたものを抱きつつ、曖昧な根拠に不安も募る。だからすぐにでも相手のことを確かめたかった。けれど向こうにはそのつもりがないらしい。
(ねぇ、君なの? それとも、まったく別の誰かなの……?)
待ち受けているのが誰であれ、操の中にここで引き返すという選択肢はなかった。ただ導かれるまま、足を進めることしかできない。
西尾商店街は駅裏にある少し寂れたアーケード街だった。アーチ状の屋根に覆われた通路には、もはやそこがなんの店であったのか分からないほど、シャッターが多く連なっている。
薄暗い通りは、人の気配がまるで感じられなかった。スマホを握った手を胸に押しつけ、操は勇気をだして足を踏み入れる。
静けさのなかで、キンと耳鳴りがした。この場所のどこかに、彼がいるというのだろうか。なにか恐ろしい、得体の知れないものが大きく口を開けて待ち構えていそうな雰囲気に、喉がごくんと大きく鳴った。
狭く長い通路を半分ほど進んだところで、またスマホが鳴る。
「もっ、もしもし!」
『今、楽園にいるよ。待っているから、はやくおいで』
「……らくえん?」
なんのことを言っているのだろうか。容赦なく切られた通話に、操はコテンと首をかしげた。とっさに辺りを見回すが、寂れたシャッター街に該当しそうなものは見当たらない。
そのときふと、斜め前方に脇道があることに気がついた。人ひとりが通れるくらいの、ごくごく細い道だった。
両サイドには紫陽花の葉が茂っている。古い民家に挟まれるようにして伸びる小道に、吸い寄せられるかのごとく足を踏み入れていた。
そのままどのくらい進んだだろう。やがてわずかに開けた場所に出た。道端にイーゼルのカフェ看板が佇んでいる。黒板には【喫茶楽園】という文字がチョークで記されていた。
「ここ……?」
そこにはこじんまりとした、昔ながらの喫茶店があった。大きなガラス張りの向こう側は、夕陽に翳ってよく見えない。
戸惑いがちに扉を開けば、カラン、と小気味よくドアベルが鳴った。コーヒーの香りが鼻腔に広がる。
「いらっしゃい。はやかったね」
店の奥にあるカウンターから声がした。それはスマホの向こうから聞こえてきたものと同じだった。
見ればそこには若い男の姿がある。ドリップポットを傾けていた手を止めて、やんわりと微笑んでいた。
操はその姿に目を見張った。
男は簡素なシャツの上からネイビーのカーディガンを羽織り、黒いエプロンを着用していた。毛先が鎖骨に届くほど伸びた焦げ茶は、ゆるゆると波うっている。縁のあるメガネの奥で、色素の薄い瞳が細められていた。
「甲洋、なの……?」
彼が持つ色彩に、幼い怪異の面影がある。けれど明らかに自分より成熟したその姿に、戸惑いを隠すことができない。
彼はクスッと肩を揺らすだけで、そんな操の問いには答えなかった。
「とりあえず座って。少し遠かったかな。疲れたろ」
それほど遠くもなかったし、別に疲れてもいない。そう言いたくても喉からうまく出てこなかった。ただぎこちなくうなずいて、カウンターに近づいた。カバンを足元に置き、席に腰かける。
「アイスカフェオレでいい?」
「う、うん」
操は手持ちぶさたを誤魔化すように店内を見渡してみた。真っ先に船の模型や釣り竿など、海にちなんだアイテムが目についた。海中を泳ぐクジラの絵と、その横にはプラ板で作られた昆虫標本も飾られている。キアゲハやオニヤンマなどに混ざって、クワガタやカブトムシといった甲虫の姿もあった。
言葉以上に、この空間はすべてを物語っているようだった。
図鑑を片手に漢字を当てはめたあの夏の思い出が、ここには大切に仕舞われている。すっかり大人の姿をしていたって、彼は確かに甲洋なのだ。
「はい、どうぞ」
回り込んできた甲洋が、操の前にアイスカフェオレのグラスを置いた。そのまま隣の席に腰かける。彼はカウンターに片肘をつき、ストローに口をつける操に優しい眼差しを向けていた。
(会えて嬉しい、はずなんだけど……)
やけに心臓が騒がしくて、操はモジモジと顔をうつむけた。
触れれば折れてしまいそうな線の細さを残しながらも、男性として匂い立つような何かを感じる。それを意識してしまうのが嫌で、まともに顔が見られない。話したいことも聞きたいことも、たくさんあったはずなのに。
「来主を忘れない日はなかった。ずっと会いたかったよ」
なにも切りだせない操に代わり、甲洋が先に口を開いた。
「来主は、俺のことちゃんと覚えていてくれた?」
「も、もちろんだよ!」
じゃなきゃここには来ていない。とっさに顔をあげた操は、真正面から甲洋の顔を見てカァッと頬を赤らめた。思わず目を泳がせて、結局またうつむいてしまう。
「でも、甲洋じゃないみたい。大人っぽくて、背も高くなってて……これじゃぼくの方が弟みたいだ」
いちど口を開くと、せきを切ったように言葉が溢れた。
「それに……なんであのとき何も言わずに消えちゃったの? ぼくがどんな気持ちだったかわかる? 悲しくて、すごくいっぱい泣いたんだから」
ちがう。別に責めたいわけじゃない。恨み言を並べるためにここまで来たわけでもない。ただ会いたかった。会えると思った。なのにどうしてか、あの取り残されたような寂しさが増しただけだった。
(だってちがうもん。ぼくが会いたかった甲洋は、もっとぜんぜんちがくって……)
そんなふうに思ってしまう自分が嫌だ。ただちょっと驚いただけ。まったく想像していなかったから。思い描いていた再会とは違ったから。
それをなじるような言葉でしか示せない自分が、子供っぽくて心底嫌だ。
腿の上に置いていた手を、ぎゅっと握りしめた。すると甲洋が静かな声で「来主」と呼んで、操の手に大きな手をかぶせてきた。
「ッ……!」
その瞬間、正面から強い風が吹き抜けた。世界が一瞬でモノクロに染まる。
(ここは、どこ?)
そこにはこことよく似た雰囲気の、喫茶店内の光景が広がっている。
操はその片隅の席にポツンと座っていた。目の前には空の紙皿がそっけなく置かれている。カウンター席には二つの黒い影。それはどうやら中年の男女のようで、楽しそうに談笑しながら食事をしている。
(おなか、すいた……)
なぜだか急激に空腹感が襲ってきた。いっそ吐き気すら覚えるほど、胃の辺りがぎゅうっと引き絞られている。
「とおさん、かあさん……ごはん、おれも……」
見知らぬ二つの影に向かって、操は声を絞りだしていた。
それに気づいた男性と思しき影が、舌打ちをしながら振り向いた。女の影もウンザリとため息をついている。
ゴロン、と、小さな骨付きチキンが目の前に転がってきた。男の方が投げて寄こしたものだった。チキンは紙皿の上でバウンドし、床に落ちた。
操は衣が剥がれてホコリにまみれたチキンを見下ろした。汚い。こんなもの、食べたらきっとお腹を壊してしまうに違いない。だけど食べなきゃ。こんなものでも、食べなきゃ死ぬ。だから手を伸ばした。
「──ッ、?」
そこで場面が変わった。
操は立ち尽くしている。正面に二つの影が立ちはだかっていた。真っ黒で顔は見えない。だけど目がつり上がっていることだけは分かった。
『教師がグチグチと偉そうにイチャモンつけてきやがって……同じ服を毎日着ることの、なにが悪いっていうんだ!』
『どうせすぐに大きくなって着られなくなるじゃない。あぁ勿体ない勿体ない! 金食い虫の疫病神!』
今どんな状況にあって、彼らがなにを言っているのか、操は混乱するばかりで飲み込むことができなかった。ただ罵倒されていることだけは分かる。
なにかとても悪いことをしてしまった。そんな気になってくる。ぼくが──おれが悪い子だったから。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
うまれてきて、ごめんなさい。
いい子にするから。もっともっといい子にするから──
それから何度も場面が変わった。時代や場所すらコロコロ変わる。
あるとき、操は病室で寝たきりだった。他の子は毎日両親が訪ねてくるのに、自分だけいつも忘れ去られていた。一人ぼっちで死ぬのは嫌だ。お母さん、ねぇお母さん。手を握って。最後だけ。最後だけでいいから。
それらは絶え間なく、何度でも形を変えて降りかかる。
性的に搾取される子。口減らしのため山に捨てられる子。生まれてくることすら許されなかった子。愛されることのなかった、可哀想な子供たち。
あまりにも多くの記憶が、混ざりすぎたからだと思う──
あらゆる場所、時代、出来事が順番に、けれど一瞬にして操の中に流れ込んできて、気づくと甲洋の腕に支えられていた。その胸に縋りつき、操は大粒の涙を流しながら嗚咽を漏らした。
「ぁう……う、うぅッ、う……っ」
「……ごめんね」
優しい手が、操の頭を幾度も撫でる。彼が伝えようとしていることは理解できた。あの光景のどこかに彼がいたのだろう。だけどもう、どれが自分の記憶か分からなくなっているのだ。
「俺たちのことを来主に知ってほしかった。俺がいた、あの大きな群れのことを」
うんうん、と、操は何度もうなずいた。それだけで精一杯だった。
「だけどあの日、来主に名前をもらったことで、俺は個としての存在を得た。来主が俺を俺にしてくれたから、俺は群れから離れることができた」
あの瞬間、甲洋は可哀想な子でいることをやめた。【コウヨウくん】と【甲洋】の願いは、ハッキリと分かたれたのだ。
「コウヨウは、誰でもいいから愛してくれる家族を欲していた。愛される子供になりたかった。だけど俺の中に芽生えた願いは……来主だった」
「ぼく……?」
甲洋の長い指が、やっとのことで顔をあげた操の頬をそっとなぞった。涙の筋を消すように、何度も何度も繰り返し。
「うん、だから」
だからもし、いつかまた会える日が来たら。そのときは、どうか俺の──
「俺のものに、なってほしい」
そう言って、甲洋は操をきつく抱きしめた。
「来主が欲しい。多分、この気持ちは初恋だ。来主に初めて会ったときから、俺は恋に落ちていた。だから弟が欲しいっていう来主の願いを、叶えることはできなかった」
「ッ! だから、ぼくの魂は無事だった? 願いが叶わなかったから……」
甲洋が小さく笑う。
「俺の意思だよ」
「でっ、でも……だけど……っ」
全身が一気にのぼせ上がるのを感じた。耳たぶまで真っ赤に染まり、いっそ痛いほどだった。操は両手を突っ張って、甲洋の胸を遠ざける。
「恋、だなんて。ぼく、ちゃんと叶えてもらったよ。だって、本当に弟だと思ってたもん。ちゃんとお兄ちゃんの気分、味わったもん……っ」
普通は兄弟同士で恋なんかしない。まったくベクトルが違うから。だからどんなに恋しくても、そんなこと一度だって考えたことがなかった。
それなのに、どうしてか今は胸が高鳴ってしかたない。脳が焼けたようになっている。身体の反応に、操の意思が追いつかない。
「うん。だから、時間がかかった」
再び、甲洋の手が操の真っ赤な頬に触れた。
「来主に意識してもらえるように、大人の男になったよ」
群れから離れた甲洋は、ほんの小さな欠片でしかなかった。そこから少しずつ、身体や精神を構築していった。海底で深い眠りにつくように、長い長い時間をかけて。
やがて機は熟し、甲洋の意思は再び怪異という形で操に届けられた。
「俺は来主の弟じゃない。ならなんだと思う? 今の俺は、来主にとって」
唖然とする操は、甲洋のひたむきな視線から目が離せなかった。
先に大人になってしまった彼とは裏腹に、未熟な心はあと少しというところで、うまく感情の輪郭が掴めない。けれど甲洋の告白に、その言葉のすべてに、震えるほどの喜びを感じている。それだけは確かだった。
『あのね、コウヨウさんのお話には、実はまだ続きがあるの』
「君は、ぼくの──」
『運命の人は、そこである質問をしてくるの』
『なんだよ、質問って』
『わかんない。だけどちゃんと正直に答えないと、運命の人が消えちゃうの。そしてもう二度と会えなくなっちゃうんだって』
再会してから初めて、操は自ら甲洋に手を伸ばした。
両手で彼の頬に触れ、その輪郭を確かめる。幼さが削ぎ落とされてなお、薄墨の瞳は夢中で図鑑を眺めていた頃と変わらない。ずいぶんと伸びた髪は癖毛のままで、ヒヨコみたいにくすぐったくてあたたかかった。
(甲洋なんだな、ちゃんと)
心の奥の大切な場所。甲洋の笑顔を初めて見た、あの夏の夜。トン、と指先でつつくように、彼はその存在を操の胸に刻みつけていた。まるで一粒の種をまくように。そして今、それは初々しく芽をだした。
「ぼくだけの、特別な人。運命の人だ」
恋というには、まだ照れくさい。だけど恋と呼ぶより、ずっと重たい言い方をしてしまったかもしれない。カァッとのぼせあがる操に、甲洋が今にも泣きだしそうな笑顔を見せる。
強い力で抱きしめられて、息が止まりそうになった。ドキドキする。胸が切なくて、きゅうっと締めつけられていた。それでもおずおずと両手をその背に回すと、どちらともなく額と額をくっつけた。
「こんなのズルいよ。あんなに可愛かったのに……勝手にいなくなったと思ったら、先に大人になっててさ。こんなにカッコよくなっててさ、そんなの」
「来主」
一瞬だけ、甲洋の人差し指が唇をなぞって離れていった。
「少し、黙って」
なんだよ、ちょっとくらい言わせてよ。子供っぽくたって構うもんか。ぼくは今、とっても照れてるんだから。こんなの初めてなんだから。そんな文句を封じるように、今度は彼の唇が押しつけられた。
その熱に、自分の方が先に泣いてしまいそうになる。抱き返す腕に、自然と力が込められた。
やがて唇同士が離れたとき、間近に見つめ合った互いの頬は面白いくらい赤かった。急におかしさとくすぐったさがこみ上げて、二人は綻ぶように笑いあう。それからまた抱き合った。
「ねぇ甲洋、約束して」
「ん」
「二度といなくならないで。勝手に消えたりしたら、次は許さないから」
「わかった。約束するよ」
神妙な顔をしてうなずいた甲洋の唇を、今度は操の方から奪ってやった。
*
カラン、とドアベルを鳴らす。
扉からひょっこり顔を覗かせれば、カウンター席で本を読んでいた甲洋が振り返って笑みを浮かべた。
「こんにちは来主。いらっしゃい」
「えへへー、今日も来ちゃった」
再会から一ヶ月ほどが経過した。
その間、操はしょっちゅうこの店に顔を出していた。夏休みに入ってからは特に入り浸りで、いっそ泊まり込んでしまいたいと思うのだが、なぜだか甲洋が首を縦に振ってくれない。まだ早いとか、理性がもたないとか、よく分からないことを述べながら。
「コーヒーとジュース、どっちがいい?」
「ジュース!」
元気よく答えながら、カウンターから少し離れたテーブル席につく。
甲洋はオレンジジュースを注いだグラスを持ってきて、すぐ隣に腰かけた。操はそんな甲洋にくっつくと、「これ見て」と言ってスマホを見せる。
画面には、白猫が小さな黒猫の頭を毛づくろいしている動画が再生されている。二匹は寄り添い、まるで親子のようだった。
「この子、もしかして前に来主が言ってた?」
「そう、今うちにいるの。トライアル中なんだ。クーともすぐ仲良くなったし、きっとうまくいくと思うよ」
「よかったね」
操は「うん!」とニッコリ笑ってうなずいた。
「ねぇ、もうちょっと涼しくなったら、この子をここに連れてきていい? 君にちゃんと紹介したいんだ。コウヨウのこと」
「俺?」
目をまん丸にした甲洋に、操はイタズラを企む子供のように瞳をニンマリとさせた。
「君じゃないよ。この子はぼくの弟のコウヨウなの。これからめいっぱい甘やかして、可愛がってあげるんだぁ。いいでしょ!」
そう言ってスマホの画面に頬ずりをする操に、甲洋はちょっぴり複雑そうな顔をした。
「ふぅん。じゃあ俺は?」
「だぁって甲洋は弟じゃないもん。でっかくて、ちーっとも可愛くないもんね。甘やかしてなんかあげないよーだ」
「……来主ってさ、クソガキだよね」
「おっ、言うじゃん君。ケンカする?」
しないよ、と言って甲洋がクスクスと笑いだした。操も堪えきれずに笑ってしまった。
「ごめん。ちょっと妬いただけ」
「ぼくもごめん。意地悪したくなっちゃった」
ちゅ、と恥ずかしい音を立てて、二人の唇が軽く触れ合った。
「じゃあ、俺は来主のなに?」
「またその質問~? いっつもするじゃん」
「そりゃね。いっつもはぐらかされるから」
操は一瞬だけムッと唇を尖らせた。そして甲洋の首に両腕を回すと引き寄せて、さっきより長めのキスをした。
「弟には、こんなことしないもん」
顔を赤らめ、上目使いでぶっきらぼうに言った。
多感なオトシゴロ、というやつは、操自身ままならない。もう少し大人になったら、もっと素直に言えるようになるんだろうか。君はぼくの恋人だ、なんて。そんな恥ずかしいこと。
「俺は充分、甘やかされてる気がするよ」
そんな操の複雑で甘酸っぱい心境をよそに、甲洋は満足している様子だった。幸せのハードルが低いなと、操は思う。
「はやく大人になるからさ……それまで、待ってて」
照れ隠しにぎゅうっとしがみついた操の背を、あやすように抱き返して、「ゆっくりでいいよ」と甲洋は言った。だって彼はもう消えないし、ここに来ればいつでもこうして触れ合える。
だけど甲洋には、これからもっと多くの楽しいことが待っている。
またキャッチボールをして遊んでみたいし、母のカレーを食べに来てほしいと思う。今度こそ美羽たちにも紹介したい。マリスは、なんとなく甲洋とウマが合う気がした。
「いっぱい作っていこうね。ぼくと君の、大切な思い出をさ」
怪異という檻の中から飛びだして。この店の装飾が、もっとたくさん増えますように。彼だけの特別な記憶を、いつでも鮮明に思いだせるように。
グラスのなかを泳ぐ氷が、オレンジジュースに溶けていく。飽きずに重なる唇の、その熱気にあてられたように。
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